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(1)ファンドの規模(2)バイアス・リターンの内訳と傾向性(3)ETFの場合に注意すべきこと(4)インデックス自体の評価 前二回では、インデックス・ファンドの運用結果に関する評価をどのようにしたらいいかという問題を考えた。詳しくは前二回の拙稿を読んでみて頂きたいが、「インデックス・ファンドはトラッキング・エラーの大きさだけ見ていればいいのだから、評価は簡単だ」(時々聞く俗論だが、驚くべきことに、かつてある年金コンサルタントの口からも聞いたことがある)というようなものではない。 さて、これから投資すべきインデックス・ファンドを選ぶという立場に立って、気を つけておくべきポイントを考えてみたい。(1)ファンドの規模 運用成績以外のファンドの特質で第一に見ておくべきは、ファンドの規模だろう。ターゲットとするベンチマークにもよるが、資金規模が十分にないと、ベンチマークのリターンを再現する上で制約になることがある。たとえば、配当の再投資という状況はほとんどのインデックス・ファンドで生じるが、やっとベンチマークを模するポートフォリオができたという程度の資産規模では、配当を再投資することによって、ベンチマークからのズレができてしまう。もちろん、正確なトラッキングのためには、配当も含めて、現金の手持ちはできるだけ小さくする必要がある。キャッシュ・ポジションが極限まで小さく保たれているという点は、パフォーマンス上、インデックス・ファンドがアクティブ・ファンドに対して優位に立つことが多い原因の一つだ。 規模については、資金の流出入との関係も見ておきたい。資金の流出入に対してファンドの資産規模が小さいとポートフォリオが不安定になる。資金流入とファンドの規模を較べる指標及び、これらをファンド規模と総合評価する指標は、直ちには思いつかないが、共に重要なポイントだ。「資金の安定性」という概念を導入すべきかも知れない。 ファンドの規模が十分大きくて、資金の流出入に関しては、安定的に増加傾向といった状態が理想的だろう。 通常の公募の投資信託であってもETFであっても、資金規模が小さい場合、ファンドが償還される心配をしなければならない場合がある。ファンドが償還されると、また新たにコストや手間を掛けなければならない。(2)バイアス・リターンの内訳と傾向性 「バイアス・リターン」とはインデックス・ファンドのリターンとベンチマークのリターンの差で定義されるリターンのことを指す(筆者がとりあえず名付けたもので一般に通用する用語や学術用語ではない)。インデックス・ファンドの場合、バイアス・リターンは0が理想で、ブレが少なく、且つマイナスへの偏りが小さいものの方がインデックス・ファンドの運用としては優秀だ。 前回、前々回と、バイアス・リターンの数量的な評価方法について考えたが、バイアス・リターンの現れ方を子細に観察すると、総合的な数量評価以上の情報が得られる場合がある。 たとえば、ファンドの運用開始初期に大きな絶対値のバイアス・リターン(通常はマイナス)が生じた場合、これは、ポートフォリオを作る時期に掛かったコストやポートフォリオの一時的な歪みの影響であることが分かるので、資産規模が大きくなって資金の流出入が安定してきた後では、あまり気にする必要がないだろう。また、バイアス・リターンの変化が、大きな資金の流出入に対応している場合など、ファンドの事情との関連が理解できる場合もある。 一方、バイアス・リターンにある程度続く傾向性がある場合、その背景が問題になる場合がある。たとえば、ファンドの規模が小さくてベンチマークの全銘柄を組み入れずに時価総額の大きなものに運用が偏っている場合、株式市場での大型株の相対パフォーマンスにインデックス・ファンドのリターンが影響される場合がある。ベンチマーク・リターンとのプラス・マイナスを見た場合に、「勝ち、勝ち、勝ち、勝ち、・・・。負け、負け、負け、負け、・・・」といった具合に、勝ち・負けのパターンがランダムでない場合、背景にある事情を想像してみるべきだろう。もっとも、ランダムなパターンの中にも、連勝・連敗は確率的に十分起こりうるので、この点の判断は簡単ではない。ファンドの評価者は、一本一本丁寧に見てみるべきだろう。 投資家の立場から見て、バイアス・リターンは、「運用に起因するもの」と「ファンドの手数料」に分解できる。また、前者はさらに、「ある程度固定的なバイアス・リターンの傾向性」(たとえばファンド内で掛かる売買手数料のようなもの)と「バイアス・リターンのランダムなブレ」に分解できるだろう。 投資家から見るといずれもマイナスの要素だが、ファンドの手数料は「絶対的かつ安定的なマイナス要因」、固定的なバイアス・リターンは「改善の可能性はあるが、手数料並みにマイナス評価すべき要因」、ランダムなブレは「好ましくないが、実害はあまり大きくないもの」と言えるだろう。前回論じた効用関数型の評価尺度のリスク拒否度は、前二者とランダムなブレとの間のマイナス評価のちがいを調節するものだといえる。 ファンドを選択するに当たっての問題は、手数料(主に信託報酬)とバイアス・リターン(取りあえず、平均で見ることにする)の評価だ。 「どのくらい?」という問題は難しいが、手数料の方が若干重く見るべきマイナス要因ではあろう。(3)ETFの場合に注意すべきこと インデックス・ファンドに投資する場合、現在、ETFは有力な選択肢だ。ETFを評価する際に注意すべきポイントを挙げておこう。 ETFは上場株式と同様に取引所で売買されるが、売買が活発なものとそうでないものがあり、また、株式と同様に上場廃止のリスクがある。ETFが本格的に導入されてからまだ日が浅いが、傾向として、ETFの資金流入と売買は、人気のあるものに集中する傾向があり、不人気で資産額が小さいETFには将来の上場廃止の心配が常につきまとう。上場廃止の場合、大雑把にいうと純資産額で強制的に買い取られることになるので、運用が適正に行われていれば投資家が大きな損を被るわけではないが、余計な手間と、再投資のコストが必要になるし、償還から再投資まで時間が空くと機会損失が生じる点も問題だ。 ETFの場合、一般の公募の投信以上にファンドの資産規模に注意を払う必要があるし、市場での出来高・売買代金についてもよく見ておく必要があるだろう。 また、一口当たり純資産(通常Net Asset Valueを略して「NAV」と呼ばれる)と市場でつく取引価格の乖離とその安定性についても注意が必要だろう。たとえば、一定期間の平均的な乖離率の大きさと、最大の乖離率の大きさは見ておく方がいいだろう。 内外共にETFの数は多く、且つ増えつつあるが、全てのETFが安心して投資できる対象だと言い切れる訳ではない。運用状態と共に、ファンドとしての継続性や換金性に関わる特性もよく見て投資対象を選ぶべきだろう。(4)インデックス自体の評価 年金基金のような機関投資家の場合は、運用のベンチマークに何を選ぶかという問題は比較的はっきりしていることが多いし、検討にも時間が掛けられている。一方、個人投資家の場合は、たとえば日本株に投資する場合であっても、TOPIXに連動するファンドがいいのか、日経平均に連動するファンドがいいのか、といった、ベンチマーク選択の問題が重要だ。 将来のパフォーマンスはどの株価指数がいいかを当てることは極めて難しいが、投資対象ポートフォリオとして考えた場合のベンチマークの優劣は確かに存在する。 この問題を包括的に論じることは、本稿の目的範囲を超えるので別の機会にしたいと思うが、たとえば、TOPIXと日経平均を較べると、TOPIXが必ずしも理想的とは思えないが、日経平均には株価の高い銘柄のウェイトが過剰に大きく、ポートフォリオとしての安定性を欠く面があり、投資対象ポートフォリオとしては、TOPIXの方が明らかに優れている。他方、日経平均の長所は、高い知名度とリターンの複製と裁定が容易なことだが、後者の性質は、銘柄入れ替えの際にインデックス自体が下ブレしたり、少なくとも不安定になったりする要因にもなっている。TOPIXに対する連動ファンドの運用は技術的に十分成熟しており、総合的に見て、投資対象にするならTOPIX型の連動ファンドの方が日経平均連動ファンドよりも明らかにいいというのが、筆者の個人的な見解だ。 もちろん、インデックス・ファンドを選択する際には、ベンチマークとする株価指数の優劣と、ファンドの運用と商品性の優劣を総合的に評価する必要がある。
2008年07月18日
(1)リスク拒否度の推定(2)アクティブ・リスクとシステマティック・リスク 前回は、インデックス・ファンドを評価する上で見ておきたいポイントとして、ファンドのリターンのベンチマーク・リターンからのブレを表す「実績トラッキングエラー」、それからそのブレの傾向性(通常はマイナス側にバイアスを持つ)を年率のリターンとして観測する「バイアス・リターン」の二点は少なくとも見ておきたい、と申し上げた。 次に、バイアス・リターンと実績トラッキングエラーを合わせて総合的な評価を行いたいが、アクティブ・ファンドの評価でよく使われるインフォメーション・レシオ(両者の比だ)は、バイアス・リターンがマイナスに傾きやすく、加えて、プラスにすることを求めていないインデックス・ファンド評価には不適当だという点を指摘した(注:実は、アクティブ・ファンドの評価にもインフォメーション・レシオでは不十分だ)。そこで、効用関数型の評価を行いたいが、リターンとリスクの評価を媒介する「リスク拒否度」をどう決めたらいいかが、今回取り上げる問題となる。(1)リスク拒否度の推定 効用関数型の関数形は一通りではないが、最も単純でよく使われるのは、U=r-λσ2(Uは効用、rはリターン、λはリスク拒否度、σは標準偏差で測ったリスク)という形だ。 ポートフォリオの最適化計算をするオプティマイザーなども、大体この形の効用関数を持っている事が多い。 インデックス・ファンドの運用を評価する場合に、ベンチマークそのもののリターンは運用者のスキルに無関係なので、rはバイアス・リターンであっていいだろうし、σは明らかに実績トラッキングエラーであってよい。結果的に同じくらいの下ブレを持っているインデックス・ファンドであっても、ベンチマーク・リターンからのブレが小さい方が好ましいと評価することになる。 問題はλ(ラムダ)だ。これは、リスクに対して評価上のペナルティーを与える重要なパラメーターだが、これをどう決めるか。 原理的には、λは投資家の主観的な評価だから、投資家が勝手に決めていい。しかし、インデックス・ファンドの評価サービスを他人に向けて行う場合には、λの決め方に何らかの根拠と説明が必要だ。筆者の思うに、その方法は複数ある。 まず、多くの投資家のインデックス・ファンドのリターンのベンチマーク・リターンからのブレに関するリスク拒否度(λ)を直接調査できれば、平均を求めてある種の「コンセンサスλ」とすることが可能だろうが、残念ながら、この意味でのλに対して意識的な投資家は少ないだろうし、アセット・アロケーションのように間接的な形でλを推定させてくれるような意思決定をサンプル採取できるわけでもなさそうだ。方法としては分かりやすいが、今一つ現実的でない。 もう一つ考えられる方法は、投資家がマーケット・ポートフォリオに対して抱いている期待リターンと推定リスクからλを逆算するやり方だ。 例えば、投資家は最適なポートフォリオ選択にあってリスクに対してどれだけの超過リターンを取りうるか既知であるとして、r=I・σ(Iは正の定数)としよう。この場合rはリスクフリー資産のリターンに追加される超過リターンとする。この関係に基づいて、投資家はU= Iσ-λσ2を最大化するようにσの大きさを選択していると考える。最適点においては、σで微分して、一階の条件から、U’=I-2λσ=0であり、λ= I/2σとなる。ここで、左の式に、I=r/σという関係を代入すると、λ=r/2σ2と求めることが出来る。 ここで、リスク資産の最適ポートフォリオとしての「マーケット・ポートフォリオ」に何を採用し、その期待超過リターンと推定リスクに何を持ってくるかという問題があるが、例えば、理論上のマーケット・ポートフォリオにはTOPIXやS&P500よりもMSCI-Worldのような指数の方が近いだろうから、こうしたものの、リターンとリスクを計測する方法が考えられる。 ただし、経験的に言って、過去のリスクを将来の推定リスクに代用することについてはあまり大きな反対はないが、過去の一定時期のリターンをそのまま投資家の期待超過リターンとすることには大きな問題がある。こちらは、機関投資家のアセット・アロケーションから推定するなり、何らかのコンセンサス調査を参照して、与える方がいいだろう。 λの具体的な値を確定することまで本稿で目指している訳ではないので、概略の数字のイメージを掴むとすると、例えば、超過リターンの数字が6%で、標準偏差が20%なら、λの値は6÷(20×20×2)=0.0075となる。 ただし、これはMSCIに代表されるようなリスク資産を100%持つ人の推定λということになる。計算過程は省略するが、アセット・アロケーションとしてリスク資産をa(0<a<1)だけ持つ人のλは先ほど求めた数字をaで割った大きさになるで、たとえば、典型的なアセット・アロケーションを「リスク資産=50%」と決めると、インデックス・ファンドのベンチマーク乖離リスクを評価する際のリスク拒否度は0.015ということになる。「リスク資産=25%」なら、0.03だ。 λ=0.03なら、年率リターンに換算すると、たとえばトラッキングエラーが1%のファンドは3ベイシスポイント、2%のファンドは12ベイシスポイント減点される。ファンド評価上は、信託報酬が上がるのと同じだ。リスクに対するペナルティーとして、これが大きいかどうかを考えることになる。(2)アクティブ・リスクとシステマティック・リスク ところで、先のリスクに関する評価では、CAPM(資本資産価格モデル)でいうところの、システマティック・リスクと単なる残差リスクであるところのアクティブ・リスクが区別されていない。 CAPM的には、完璧な分散投資を行っても消すことのできないシステマティック・リスクは追加的な期待リターンで補償されうる本来の投資リスクであり、残差のリスクは追加的なリターンが期待できない純粋に余計なリスクだ。 CAPMの結論をどれだけ尊重するかという問題はあるが(注:筆者は、ほとんど信用していない)、ベンチマークのリスクと、ベンチマークからの乖離のリスクに対する投資家の主観的評価が異なる、ということがあってもおかしくない。 例えば、クオンツ運用を行う場合に、アクティブ・リスクに対するペナルティーをどの程度に設定してポートフォリオの最適化計算を行うかというと、その効果は前提条件により変化するが、たとえばλ=0.05くらいの数字でポートフォリオを作ってバックテストを行う場合が経験的には多い。 インデックス・ファンドのトラッキングエラーを評価するに当たって、ベンチマークのリスク及びアセット・アロケーションとの関係が解釈できるように関連づけて置くことが望ましいと思うが、たとえば、トラッキングエラーに関しては、ベンチマーク・リスクの2倍(「2」という数字に特別な根拠はない)くらいで評価するという考え方もあっていいだろう。 具体的なλの数字については、「たとえば、こうしたらどうか」という個人的な考えは筆者にもあるが、今回は、考える枠組みをご説明するにとどめる。ご興味のある方は、ご自身で考えてみていただきたい。 今回は、インデックス・ファンドの総合的な評価に関する尺度の考え方のフレームワークを説明した。次回は、インデックス・ファンドの評価に関する、その他の検討ポイントをETF(上場型投資信託)の場合も含めてご説明しよう。
2008年07月04日
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