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(1)成功報酬のリスク拡大効果 (2)サブプライム問題と成功報酬 (3)成功報酬と「期間のミスマッチ」 (4)時価評価は正確な評価か 主にファンドの成功報酬についてだが、成功報酬という仕組みについては、本連載の第二十八回目「成功報酬について考える」で一度検討した。 この時の主な結論は、(1)成功報酬はファンドの価値(或いは本人の稼ぎ)を原資産としたコールオプションのようなものであり、オプション価格理論を使ってフラットなフィー(たとえば年率何%といった手数料)に換算できる、(2)このフィー水準は概して高い、(3)フラットなフィーのベースを計算できない投資家は成功報酬のファンドを買うべきでない、(4)成功報酬の運用側にとっての有利さは独立系の運用会社の経営が軌道に乗るきっかけになった点で運用業界としては一定の意義があった、というようなものだった。 その後、時間が経過して、考えるべき事例が増えたこともあるので、前回レポートの補足を書いてみたい。 (1)成功報酬のリスク拡大効果 「成功報酬はコール・オプションである」という前回レポートの結論から明らかなのだが、成功報酬という仕組みには、大きなリスク拡大効果がある。 直感的に明らかだと思うが、たとえば、ヘッジファンドのファンドマネジャーは、ファンドのリターンが大きなマイナスでも小さなマイナスでも貰える報酬は変わらないが、プラスの場合は大きなプラスの方が、当然報酬が多い。それならば、より大きなリスクを取る方が得であり、合理的だと考えるのが当然だろう。 ただし、多くのヘッジファンドは固定的なマネジメント・フィー(運用手数料)と成功報酬の両建ての形になっている。こうした契約の場合、運用成績が悪いと、顧客に解約されるリスクが高まるので、固定的なマネジメント・フィーの存在が過剰なリスクテイクの歯止めとして作用する可能性がある。つまり、成功報酬の効果が相対的に小さい場合は、成功報酬のリスク拡大効果が発生しないということだろう。 ファンドなどの投資家としては、成功報酬のインパクトがどの程度のものなのかを評価して投資する必要がある。そのためには、運用者がどの程度までリスクを取ることができるかという見通し(あるいは有効な制限)が必要だ。もちろん、それがボラティリティに換算していくらで、成功報酬をフラットなフィーとしてみるといくらなのかということを正確に理解せずにファンドに投資してはいけない。 なお、ヘッジファンド業界側の言い訳でよくあるのは「ファンドマネジャーが自分の資産でもファンドに投資しているので、運用にはベストを尽くすはずだし、過剰なリスクを取ることはないはずだ」というものがあるが、これは信用できない。 オプションのトレーディングをしたことがあると誰でも分かるだろうが、自分が投資したファンドのポジションと逆のポジションを取ってリスクをヘッジすることができれば、超合理的なファンドマネジャーは、ファンドの外で自分の投資リスクをヘッジして、コールオプションとしての成功報酬の価値の最大化に集中することができる。 実際には、人間はおめでたくできているので、自分の運用のリスクを他方でヘッジするようなファンドマネジャーは珍しいかもしれないが、そもそも生活に大きく影響するほどの資金をファンドに投じていなければ、成功報酬の価値最大化に特化することが、やはりファンドマネジャー本人の利益の最大化になる。 (2)サブプライム問題と成功報酬 成功報酬のリスク拡大効果は、サブプライム問題を発生させるに当たって、その威力を大いに発揮した。 たとえば、日経平均の適正価格の試算を2008年10月31日の終値のデータでやってみよう。用意するものは11月1日の「日本経済新聞」の朝刊と電卓だけだ。 成功報酬を抱えてサブプライム証券に投資したヘッジファンドもその一部だが、もっと分かりやすくて影響が大きかったのは、投資銀行マンが持つ成功報酬型のボーナスだったろう。彼らは、サブプライム商品の組成、販売、自己資金で投資した場合の利回りなどから大いに稼ぎを上げて、高額のボーナスを受け取ると共に、サブプライムの世界を大いに普及させ、結果的には将来の問題の種を蒔いた。しかし、後から会社が大損をしても、過去に貰ったボーナスは返還しなくてもいいから、多くの投資銀行マンが、個人の経済としては「逃げ切り」しているはずだ。 また、リスクを評価するにあたって、金融工学が、十分に複雑であるけれども、不十分であることが(多くは理論そのものよりも応用の仕方が不十分なのだが)、リスクを会社に対して小さく見せかけてサブプライム商品の在庫を大きく積み増すことを可能にした。 G20の会合で採択された声明を読むと、金融機関の報酬制度が検討事項に上がっている。具体的に何をしようとしているのか、現段階では不明だが、あるいは金融機関の報酬制度がサブプライム問題を起こしたことに対する反省があったのかも知れない。 サブプライム問題に関連しては、証券化商品、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)といったデリバティブ(金融派生商品)のリスクが強調されて報じられたが、世の中にとって一番リスキーなデリバティブは「金融マンのボーナス(ストック・オプションなども含めて)」だと思う。 (3)成功報酬と「期間のミスマッチ」 金融マンの成功報酬が大きな害をなすにあたっては、成功報酬の評価期間と成果の測定方法の二点に大きな問題があったようだ。 たとえば、サブプライム・ローンの多くは当初の3年間程度の返済額が小さくて、翌年から返済額がアップする形に作られている。ローンを証券化する際にこのキャッシュフローを変えて当初から利回りが出る形にしておくと、投資家は初年度から高い利回りを享受でき、しかも最初の3年間はもとのローンの返済が楽なのだからデフォルト率は上がらない。特に、最初の1、2年はデフォルトが起こりにくいわけだから、ヘッジファンドにしても、投資銀行の自己勘定での保有にしても、この間の利回りを稼ぎとカウントしてボーナスを貰うと非常に有利だ。投資した証券化商品は、満期までの期間に元のローンのデフォルト率の上昇で大いに値下がりするかも知れないが、ヘッジファンドや投資銀行マンは、最初の1、2年で多額の成功報酬やボーナスを貰っていて、これは後から返さなくていい。 本来であれば、商品の満期後に評価するか、将来のリスクを踏まえた適切な現在価値で1年間の評価を行うか、どちらかでなければならないが、評価される側から見ると、商品の複雑性がこれを好都合に阻んでいるといえる。また、金融マンにとってこんなに都合のいい商品なのだから、そのもとになったサブプライム・ローンが普及した訳が分かる。 また、多くのヘッジファンドがCDSの買い手になった意味も分かる。保証対象会社がしばらくの間もってくれるなら、先に貰った保証料をリターンに加えて成功報酬を取ってしまえばいい。 なお、近年の行動経済学の研究によると、投資家が要求し予想するリスク・プレミアムは、直近の経験の影響を強く受けるという。サブプライム問題で株価が大幅に下落したことが、世界の投資家にリスク・プレミアム拡大的に働く可能性が大きい。 意思決定の影響が及ぶ期間がもっと長いのに、意思決定の影響を1年、1年で評価すると、正確な成果の評価を行うことが極めて難しい。成果の評価に関する「期間のミスマッチ」の問題は深刻だ。 (4)時価評価は正確な評価か 成果の評価に関しては、これも期間のミスマッチに関連して発生するが、時価評価が正確な評価だったのかという問題もあった。 複雑な証券化商品の時価評価は、市場での取引が少ないと、恣意的に選ばれた取引事例で時価が決められたり、少数の専門家にしか分からない理論価格になったりすることは、大いにあり得る。 また、もっと単純なケースでは、たとえば大きな資金を持っていて小型株に投資しているヘッジファンドであれば、評価日に向けて、自分の買いで、自分の投資銘柄の時価を上げることはある程度可能だ。こうした価格は長期的には維持できないかも知れないが、ヘッジファンドの運用者にとっては、1年目の成功報酬をたっぷり取ることができればそれでいい、という場合があるだろう。 「時価」は時にある程度操作可能だ。人事制度としての成果主義でも同様の問題があるが、成果の測定が難しい場合がある。 「成功報酬」について考えるだけでも、金融の世界には、騙されやすい落とし穴がたくさんあることが分かる。
2008年11月21日
(1)株価の「レベル」は大まかになら判断できる (2)計算方法 (3)リスク・プレミアムに関する補足 (4)応用を考えるとすれば (1)株価の「レベル」は大まかになら判断できる 株価が次に上がるか下がるか。また、仮に上がる(下がる)として、それは「いつ」なのか。これらの判断は、筆者が改めていうまでもなく、極めて難しい。しかし、正確とは言えないが、株価の場合「いくら」なら「高いか・安いか」については、大まかに判断できるはずだと筆者は考えている。 もっとも適正の範囲内と思える株価の上下の差は、場合によっては2倍近くになるが、ここから外れるような割安・割高のケースでは、投資家として、ある程度投資行動に強弱を付けてもいいのではないかと考えている。 今回は、筆者がしばしば使っている株式市場の平均的な株価の割安・割高の簡単な判断方法をご紹介しよう。これがベストの方法だと積極的に主張する訳ではないが、まあまあ使えるのではないかと思っている計算方法だ。計算は電卓だけで(もちろん筆算でも)できるので、読者も試してみて欲しいし、読者独自の工夫を加えていただいてもいいだろう。 特に、最近のように、平均株価が1日で数パーセントも動くような状況では、そのときそのときの材料についていく方法よりも、売買で狙う株価水準を決めて投資行動を考えるのがやりやすいかも知れない。 (2)計算方法 株価の高安を判定する方法で利用されているものは幾つかあるが、筆者が日頃使っているのは次のような方法だ。「利益に対する株価」(→PER:株価収益率)、「長期金利」、利益成長の代理変数としての「名目GDP成長率」のバランスで株価の高低を見るものだ。 たとえば、日経平均の適正価格の試算を2008年10月31日の終値のデータでやってみよう。用意するものは11月1日の「日本経済新聞」の朝刊と電卓だけだ。 10月31日の日経平均の終値は8,576.98円だった。日経新聞のマーケット総合面の「主要指標」の欄で「株価収益率(PER、倍)」とある欄の「(1)225種」(日経平均のこと)の「予想」(今期の予想利益をベースにしていることを示す)の欄から、日経平均のPER(株価収益率)を拾おう。新聞によると12.24倍だ。 まず、日経平均の8,576.98円を12.24倍で割って日経平均の1株あたり利益を求めよう。電卓で割り算すると700.73円だ。 次に、長期金利を見る。日経新聞の、隣のページの「債券市場」の「新発10年国債」の欄で利回りを見ると1.48%だ。この利回りは、日経新聞の第1面にも「長期金利」として載っている。 次に、少々面倒だが、この「長期金利」から「名目GDP成長率」を引いた数字を求め、これに5%、6%、7%を足した数字を求める。この時点での政府の経済見通しで2008年度の名目GDP成長率は0.3%だった(よく報道されるのは「実質GDP成長率」なので要注意。この時は1.3%)。これにそれぞれの数字を足した値を求めると、6.18%、7.18%、8.18%だ。 続いて、先ほど求めた1株あたり利益の700.73をそれぞれの数字で割ってみる。6.18%は0.0618だから、700.73÷0.0618= 11338.67、以下同様に700.73÷0.0718=9759.47、700.73÷0.0818=8566.38という数字が得られる。それぞれ、日経平均の試算値として、「上限」、「標準」、「下限」を示す。 これは次のような考え方によって計算したものだ。まず、利益は配当されてもされなくても株主のものだから、株価に対する1年間の1株の利益を株主にとっての収益と考える。今回の場合、700.73円を8,576.98円で割り算すると1年当たり約8.17%という利回りになる。これは利益を利回りのように考えたものなので「益利回り」と呼ばれる数値だ。 これに利益の成長(あるいは減少)を勘案しなければならないが、ここで名目GDPの成長率で利益が将来ずっと成長する(マイナス成長なら減少する)と考えて、投資家の「期待収益率」は「益利回り」+「名目GDP成長率」だと考えることにする。ここでは、名目GDP成長率を、長期的な企業の利益成長率を投資家にイメージさせる変数だと考えている。 詳しい計算過程は省くが、株価を将来の利益の割引現在価値だと考えて利益成長率が名目GDP成長率で一定だと考えると、この期待収益率は、現在の株価に対して投資家が無理なく期待できる投資収益率だという計算になる。(注:高校の教科書に出てくる等比級数の和の公式を使うと簡単だ) 次に、この株式投資の「期待収益率」(A)を「長期金利」(B)と較べる。両者の差(A-B)は、株式投資のリスクを負うことによって投資家が得ることができる追加的な利回りで「リスク・プレミアム」と呼ばれるものだ。このリスク・プレミアムが「5%なら少なめなので株価は高く、6%が標準、7%ならたっぷりあるので株価は安い」と考えることにしたのが、先ほどの日経平均の上限・標準・下限の一応の根拠だ。 名目成長率の見通しにどの数字を使うかによって数値は変わるが(当然だろう)、ここでは、政府見通しを使った。この見通しが的確だとすれば、実際の株価、8,576.98円は、適正範囲のほぼ下限だという判断になる。成長率見通しは、政府のもの以外にシンクタンクなどの予測を使ってもいいし(あえていうと、複数の予測の平均を取るのがお勧めだ)、もちろん自分で考えてもいい。 (3)リスク・プレミアムに関する補足 株式投資のリスク・プレミアムの大きさについては、学者の間でも論争があって確定した定説はないが、海外のある論文によると学者にアンケートを採ったところ「きっと、これくらいだろう」というレベルの平均値が約5%、「学生にはこれくらいを求めることを勧めたい」というレベルで6%という水準だった。「6%が標準」という基準の決め方は、株価に対してやや厳しい保守的な基準だといってよい。 個人投資家の場合、現実に投資を行う際には金融商品の手数料や税金がかかるので、幾らか厳しく見積もっておくことが適当だろう。 時々の株価が企業の利益にたいして高いか・安いかを判断するもっと手軽な方法としては、日経新聞の先ほどのページにある「株式益利回り(%)」を見て、これを長期金利と較べる方法がある。11月1日の朝刊で「予想」利益ベースのこの数字を見ると7.76%だった。これは、日経平均ではなくて、東証1 部上場銘柄全体の平均だ。これと長期金利の1.48%とを較べると、その差は6.28%だ。これに名目GDP成長率としてイメージされる数字を加えると、それがリスク・プレミアムの数字になる。名目成長率が0.3%だとすると6.58%となるから、株価は「標準よりも安いが、下限よりは高い」というくらいだと考えられる。 仮に長期金利が0%だとして、益利回り5%と7%をそれぞれ株価収益率に置き換えると20倍と14.29倍だ。この方法では、「まあまあ適正」と考える株価には随分幅があることになるが、株価というものは割合いい加減なものだ。はっきり言って、利益予想も曖昧だし、環境による変化も大きい。計算のインプット自体が曖昧なので、アウトプットを厳密に計算しようとすること自体が無理だ。 なお、近年の行動経済学の研究によると、投資家が要求し予想するリスク・プレミアムは、直近の経験の影響を強く受けるという。サブプライム問題で株価が大幅に下落したことが、世界の投資家にリスク・プレミアム拡大的に働く可能性が大きい。 (4)応用を考えるとすれば 具体的な応用方法としては、この方法で、株価の上限(リスク・プレミアムが5%)を超えたら株式への投資を減らすことを考えてもいいし、下限(リスク・プレミアムが7%)を下回るようなら株式投資額を増やすことを考えてもいいかな、というヒントだというくらいに考えておくのがいいだろう。 「判断が難しい」ということと「判断が全く有効でない」ということとは、完全に同一ではない。また、市場に参加する投資家として、株価に対するある程度の判断基準を持つことは「望ましい」ことだし、「自分にとって有益」でもある。また、市場の変動についても、これを「忘れておく」のではなく、「よく見ていながら冷静である」という状態が望ましい。 株価の高安に関する評価尺度には「PBR(株価純資産倍率)」や「配当利回り」など、他にもポピュラーなものがあるし、分析者によって様々な方法がある。これらも、補助的に判断に使えるだろう。 株価判断の尺度については凝り出すときりがないが、今回ご紹介した、利益と株価の関係を中心に見て、「益利回り」、「長期金利」、そして「名目GDP成長率」の関係を見る方法は、大雑把だが、それなりに参考になる方法かと思う。
2008年11月07日
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