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■日本株への影響 日本への影響は、アメリカの株価の下落を通じた日本株への下押し圧力と共に、為替レートによるものが大きい。現状では、上場企業の収益全体の中で輸出企業の収益が占める割合が大きく、円高は、投資家にとって心理的にも、かなり大きなマイナス要因だ。 サブプライム問題による悪影響がアメリカの株価よりも日本の株価に大きく出ていることを訝る論調が時に見られるが、両国の景気の連動と、国際分散投資を通じた連動の他に、日本株固有の要因として、円高の悪影響と、日本では中央銀行による利下げや減税など、ショックを緩和するための対策が取られる見込みの非常に薄いこと(つい最近まで次の利上げの時期が話題だったし、増税が公然と語られている)が挙げられる。今のところ、日本株の方が下げていることに不思議はない。 ■公的資金は投入されるか サブプライム問題を解決する決定打として、アメリカ政府による公的資金投入が有効だという議論がある。 日本で行われたように、金融機関の自己資本になるような形でアメリカ政府の資金が投入されれば、自己資本の制約による貸し渋りは止まるし、対策に本腰が入ったという心理的な効果からも、事態は急速に改善するかも知れない。アメリカの当局者は、日本のケースをかなり深く研究している様子なので、こうした対策が取られる可能性も排除できない。 しかし、ことサブプライム問題について考えると、現在サブプライム問題で苦しんでいる金融機関は、これまでにサブプライム・ローンとその関連ビジネスでさんざん儲けて、問題を拡大してきた張本人でもある。 仮に公的資金を入れるとしても、末端の住宅ローンの借り手をサポートするようなものは、社会的には、比較的容易に受け入れられるだろう。ただし、技術的には、どのようなケースに対して、幾ら、どのような形でサポートするかは難しいし、仮に何らかの資金投入が行われても、金融機関の自己資本回復に結びつくまでには、時間がかかりそうだ。 一方、金融機関の自己資本に直接公的資金を注入するような、「ウォールストリートの連中」を助ける公的資金投入には、相当の抵抗があるのではなかろうか。彼らの金満ぶりは、かつて日本で指摘された「銀行員の高給」のさらに一桁上のレベルだ。公的資金を注入する一方で、かつてのS&L(貯蓄金融機関)破綻の際のように不正に関わった者をどんどん刑事摘発すればいいという議論はあるが、サブプライム・ローン及び証券化のビジネスにはあまりに多くの人々が関わっており、彼らは利益(によるボーナスなど)をすでに食べてしまっている。彼らを公平に裁くことは、アメリカといえども簡単ではない。 株式市場が満足するような形での公的資金投入は、将来あるとしても、もう少し先のことになるのではなかろうか。 日本の例の類推などから、アメリカ政府による公的資金投入(たとえば金融機関が保有する証券化商品を一定条件で買い取るなど、金融機関の資本に直接効く対策)が必ずあるはずだと決めつけることはできないが、今後、公的資金投入が相場の転換点になる可能性はあるので、注目しておきたい。 ■日本株の株価水準 投資行動を決めるに当たっては、マクロ経済のあれこれを考えるよりも、大掴みに株価水準を考える方が有効な場合が多い。 3月19日の時点で、日経平均は12260円44銭で、今期予想利益ベースのPERは13.72倍だ。このPERは、益利回りに直すと約7.29%に相当し、当日の長期金利が1.265%だから、これは利益成長がゼロとしても、長期金利に対するリスクプレミアムが6%になる。 ここで、株価を将来利益の割引現在価値として、(1)利益成長率を一定として、これが、(2)名目GDP成長率と等しい、と考えて、名目GDP成長率数通りと、リスクプレミアム「5%(割高のケース)」「6%(標準のケース)」「7%(割安のケース)」の各種の組み合わせについて、日経平均を計算してみた。(以下の表参照)(表)日経平均の理論値の試算名目成長率高(Rp=5%)中(Rp=6%)低(Rp=7%)3.00%27,37020,95216,9732.00%20,95216,97314,2641.50%18,75415,50113,2091.00%16,97314,26412,3000.50%15,50113,20911,5080%14,26412,30010,812-1%12,30010,8129,645(EPSは日本経済新聞3/20による。長期国債利回りは3/19終値から)EPS(今期予想)893.62長期債利回り1.265%※3/19の日経平均は12,260.44円 あくまでも上記の仮定の下でだが、1万2千円台前半の日経平均は、日本の成長率を0%程度と見ているか、1%くらいはあると見ていてもリスクに対して相当に警戒的(リスクプレミアムが大きい)な状態であるか、いずれかだと解釈できる。 今のところ、シンクタンク各社の今年の成長率見通しは下方修正気味ながらも1%台後半のものが多い。もちろん、今後のアメリカの経済動向の影響を強く受けるが、現状の株価は、経済状況に対して、やや悲観に傾き過ぎているかも知れない。 大きな経済の流れを考えると、サブプライム問題は、景気循環の中の典型的な一局面だ。好景気の末期に不動産への過剰投資が起こって、これが不良債権化することは珍しくない。通常、金融が緩和された状況下で、不良債権の整理が進み、経済は徐々に回復するはずだ。今回は、世界に影響の大きなアメリカが震源地であることや、「証券化バブル」が事態を増幅していることなどの特徴があるが、これらが一般論からの逸脱の決定的要因になるとは思えない。そう考えると、株式のポジションを持っている人にとって、現在は「我慢のしどころ」だろうし、キャッシュを持っている人にとっては、これからが「買いのチャンス」だ、と考えることができるのではなかろうか。幾つもある仮説の一つにすぎないが、たとえばこのような仮説を立てながら、筆者は、サブプライム問題の現状を見ている。
2008年03月21日
■二方向に拡がるサブプライム問題 ■ドル・原油・金 ■日本株への影響 ■公的資金は投入されるか ■日本株の株価水準 このコラムでは、これまで当面の相場状況とは関係の薄い、なるべく一般的なテーマを取り上げてきた。だが、たまには、相場の現状を考えてみよう。現在のマーケットを大きく揺るがせているアメリカのサブプライム問題には、ある種の「バブル」の一般論が当てはまるので、将来も振り返る価値があると思う。 ■二方向に拡がるサブプライム問題 昨年の暮れぐらいから、筆者は、サブプライム問題は第二ステージに入ったと考えてきた。具体的には、雇用統計に見るアメリカ経済の減速、低調だったクリスマス商戦などから、アメリカの不動産価格の下落が、景気の減速に結びつき、景気悪化を悪材料として株式が売り込まれる段階に入ったと考えた。 ちなみに、第一段階は、サブプライムローンの証券化商品による金融機関の損失がもたらす流動性の収縮と心理的悪化がアメリカの株価と米ドルを下押しするプロセスだ。この段階も、マーケットには相当のインパクトがあったが、不動産価格の下落は、サブプライム層が購入する物件だけに起こるわけではないし、特にアメリカでは住宅価格の上昇を消費の原資にするメカニズムが広く利用されているから、不動産市況の不調が景気に影響する段階が必ずあるはずだと考えた。 日本のバブル崩壊の時期にあっても、やっと住宅を手に入れた給与所得層も苦しかったが、バブルに浮かれて大きなポジションを持って後に大損した高所得層あるいは資産家の一群が存在した。余裕のある人でも、多くは、その人なりに無理をする。アメリカでも、不動産の価格下落が景気に影響しないはずがない。 その後、今年の3月までの印象は、第一段階が意外に長く尾を引いていることと、第二段階の事実の表れが案外遅いことだ。 サブプライム問題による金融機関の損失は、昨年7月の時点ではバーナンキFRB議長が最大1000億ドル程度だと議会で発言した。しかし、現在、既に2000億ドル以上の損失が発表されているし、最終的に1兆ドルに近いのではないかと推計する声があちこちから出ている。金融機関のサブプライム関連の損失額は、対象の範囲と、時期などによって大きく変動しうるが、当局の当初発表の数倍という日本の不良債権問題のような推移になっている。この問題の全貌がまだ見えきった感じがしないのは、いささか不気味だ。 相場の問題として考えると、第一段階の問題の悪影響は、金融当局が市場に潤沢に流動性を供給すると、ある程度は、損をした金融機関だけの問題に限定でき、広い範囲の信用収縮に至るような性質の問題ではない。 だが、第二段階の「景気への悪影響」は、それが起こってしまうと、即効性のある政策対応が難しい。この点は、資産価格の下落とその「負の資産効果」が表れるまでの間にタイムラグがあることと共に、この問題の扱いを難しくしている。現在、日本の株価は非常に景気に敏感で、特に、アメリカの景気と株価に敏感に反応している。今しばらくの間、アメリカの景気指標からは目が離せない状況が続きそうだ。 ここまでは、サブプライム問題が発生した段階である程度考えることができたが、新たに考えなければならなくなった要因がある。それは、サブプライム・ローンの証券化商品にとどまらず、証券化商品全般に対する疑心の拡大だ。消費者ローンや、自動車ローンなどを証券化した証券化商品でも格付けと価格が下がっているし、新たな商品の組成が難しくなってきている。 証券化の段階では、通常さまざまな債権のキャッシュフローを束ねて分散投資効果を狙っている。主として個別の要因でデフォルトが起こるような場合には、分散効果が効きやすいのだが、景気の悪化や不動産価格全般の下落のような国中に広く起こるような要因で起こるデフォルトに関しては、リスクの分散効果は働きにくいはずだ。 サブプライム関連の証券化商品が典型的だが、証券化商品に関する当初のリスク評価は、前者のような状況でのデータを前提に行われていて、後者のような状況をカバーしていなかったのではないかと思われる。そうなると、前者の状況を前提に評価された信用リスクが仮にAAA(トリプル・エー)だったとしても、これを信用してはいけないのではないか、と疑われて当然だ。 サブプライム問題は、サブプライム以外の住宅ローン証券化商品と共に、住宅ローン以外の証券化商品に対する疑問まで波及してしまったようだ。そして、この疑問は、取り越し苦労ではなく、当然の疑問である。リスクの誤認と共に高価格(高格付け)が流通していたという意味で「証券化バブル」と呼べる状況があったと考えてもいいだろう。景気に対する懸念と共に、「証券化バブルの崩壊」が表面化したのが、現在の状況だ。 証券化商品全般の信用リスクがより実体に近く評価されるということは、証券化によるファイナンスの縮小を意味する。この信用収縮に対して、FRBの利下げは、投資する側の資金コストを通じてプラスの影響があるから全く無関係ではないが、直接的には十分な効果を持ちにくいだろう。 また、証券化商品の広範な値下がりは、金融機関の資本の実質的な毀損を意味する。自己資本が制約となって、貸し渋り・貸しはがしなど融資の縮小が起こることは、日本のバブル崩壊後の十数年で経験済みの事態だが、アメリカの金融がこのコースに嵌る可能性が出てきた。FRBによる流動性の供給は、金融機関相互の資金融通市場を通じた、あくまでも資金繰りの支援でしかなく、「損」を取り除いて資本を立て直すものではないから、「アメリカ版貸し渋り」に対して決定的な効果を持ちにくい。 サブプライム問題は第二段階に入ったが、この第二段階は、景気への悪影響と、証券化バブルの崩壊による信用供与の縮小という共に厄介な二方向に拡がっているようだ。 ■ドル・原油・金 株価が下がる一方で、原油先物は100ドルを、金は1000ドルを超え、日本円は1ドル100円を突破した。それぞれが近い時期に大台替わりしたことに特別の必然性はないが、印象的な推移だ。 為替レートの先行きを見通すことはいつの時代でも難しいが、アメリカの金利が現実にこれだけ低下し、さらに金融緩和に向かうしかないと思われることや、アメリカの金融が混乱して、国際金融の決済通貨及び準備通貨としての米ドルの使い勝手が損なわれつつあることを考えると、米ドルの趨勢的な下落に歯止めがかかるとは思えない。 また、円は、米ドル以外の通貨に対しては歴史的にも安値圏にあり、日本の景気だけが突出して悪いわけではない以上、円安に誘導する為替介入は正当化されにくいだろう。また、日本政府単独の介入で、ドルの下落が止められるとは想像しにくく、本格的な協調介入も想定しにくい。 一層の円高を積極的に「予想」しないまでも、そのリスクを「覚悟」する必要はありそうだ。 原油や金など、商品市況については、個々の商品の需給を洗い直す必要があり、現時点で、筆者には確たる意見があるわけではない。ただ、商品先物市場に米国の年金などの長期の運用資金が流入している(彼らはインフレヘッジが名目なので、一方的に「買い」のサイドから入りやすいはずだ)ことと、こうした一次産品の高騰が不景気と両立しにくいはずであることを考えると、現在の価格が商品それ自体に対する需要の実態に対する以上の価格となっている(つまり、「商品バブル」の)可能性がないとはいえない。特に前者の要因による価格上昇は、資金の流入が止まると剥げ落ちる性質のものなので、要注意だ。 ただし、不景気と商品高騰は長期的に両立しにくいとはいえ、個々の商品の需給や、相場の綾で、両方が進行する時間がないとはいえない。この場合、商品に起因するインフレが、追加的な金融緩和を難しくすると共に、同時に企業収益や消費の圧迫要因にもなる。最悪のケースとして、そういった局面もあり得ることは、念のため頭に入れておこう。 商品や為替レートと株式を比較すると、株価に対する利益、あるいは資産といった投資価値のアンカーになるものが存在する分だけ、株式の価値は考えやすい。個人の資産運用の立場で考えると、商品はあくまでも「投機の対象として面白いもの」であり(筆者は人が投機を楽しむことに反対ではない)、長期の運用対象としては考えにくい。
2008年03月21日
■全体のリスクと全体のコスト ■スタイル区分が出てきた背景 ■複数の情報の総合 年金運用の世界でよく聞く言葉に、「マネージャー・ストラクチャー」という言葉がある。運用者の選択から資金配分、管理の仕組みなどを総称する概念で、運用のプロが外部の複数プロを使う方法を指す。 この考え方を簡単に振り返ると共に、考え方の中に、個人の運用に応用できる点はないかを検討してみよう。 ■全体のリスクと全体のコスト マネージャー・ストラクチャーで大事なポイントを一つだけ挙げるとすると、「全体をコントロールする」ということになるだろう。たとえば、10社の運用会社を使って運用する場合、資金の委託者にとって問題なのは、当たり前だが、10社を合計したポートフォリオがどうなっているかだ。このリスクの大きさと、リスクの方向性が管理できないとすると大きな問題だ。特に年金基金のような主体は、第三者から預かったお金を運用するので、運用の内容に関する説明責任を負うから、この点が決定的に重要だ。 欧米でも、日本でもそうだったが、企業年金や公的年金の運用では、当初バランス型の運用が多く採用され、その後、バランス型の採用が減って、個々の資産分類毎に運用内容を指定して運用を任せる「特化型」と呼ばれる運用委託形態が主流になった。 複数のバランス運用を抱えていると、たとえば日本株への資産配分が幾らあるか、という状況の把握が容易でないし、個々の運用会社が資産配分を動かすと、日本株なら日本株といった資産への配分が、多くなりすぎたり、少なくなりすぎたりする。 また、採用した運用機関のA社が日本株を買い増しして、B社が逆に配分を減らしたというような場合、同一資産の買いと売りが委託資産の中で発生する。この場合、運用の委託者にとっての効果はゼロであるが、コストは確実にかかっている。この「相殺的売買」の問題も、バランス型の運用の委託を避ける理由になった。 加えて、バランス型の運用者が強調するマーケット・タイミングの能力(素人向けの商品だと「難しい資産配分はプロにお任せ下さい」というようなセールストークになる)が継続的に発揮されることが稀で、ほとんど信用を失ったことも、バランス運用離れの要因となった。 投資信託業界を見ると、一昨年くらいから、「資産分散型」などと言い換えて、バランス型のファンドを売っている。銀行や郵便局など投信の販売チャネルが多様化して、運用に不慣れな顧客が増えたことや、こうした販売チャネルで特定の資産に集中投資して大きく負ける可能性がある商品よりも、大負けが少ないバランス型の商品が好まれたというような事情があるようだ。 しかし、個人の資産運用の場合、一つのファンドに資産を集中することは稀だろうから、初期の年金基金がバランスファンドに投資して起こったような問題が、同様に起こることになる。また、たとえば株式50%、債券50%のファンドに投資することを考える場合、株式のファンドを50%買い、債券ないし債券ファンドを50%買うといった、実質的に同じポートフォリオを個別に投資して作る方が、コスト(信託報酬など)が明らかに安いといったアービトラージ(裁定)が可能な場合がほとんどだ。 もちろん、バランスファンドを複数持つと、自分の運用資産内で相殺的な売買が起こる可能性もある。 加えて、確定拠出年金の場合、バランスファンドに投資すると、運用益への課税を繰り越すことができるメリットが十分に使えないという問題もある。ライフサイクル・ファンドなどと称して、確定拠出年金の運用選択肢にバランスファンドをラインナップする確定拠出年金の運営管理機関があるが、こうした会社の商品企画担当者は、目新しい商品(といっても海外の真似で、名前の響きがいいだけだが)を出すことに気を取られていて、確定拠出年金の趣旨を分かっていないのだといえる。 マネージャー・ストラクチャーの常識から個人の資産運用に応用できる教訓の第一は、「バランスファンドは買うな」だ。 ■スタイル区分が出てきた背景 ところで、リスクに偏りが生じたり、相殺的な売買が生じたりという問題は、アセットアロケーション(資産配分)の次元でだけで生じる訳ではない。 国内株式や外国株式など個々の資産クラスの中でもアクティブ運用を行う運用者を複数使う場合には、ポートフォリオのアクティブ・リスク(ベンチマークからずれるリスク)の大きさや内容が思うようにコントロールできない場合が出てくるし、同一銘柄を一方で買い、他方で売る、といった相殺的売買は頻繁に起こる問題だ。 そもそもアクティブ運用を採用しないか、採用するとしても一社しか採用しないなら、こうした問題は明らかに避けられる。しかし、大規模な基金の場合、複数のアクティブ運用会社を採用することが一般的だ。 やや脇道に逸れるが、世の中のアクティブ運用を見ると平均的にそれほど上手く行っている訳ではないし、事前にどの運用者が優秀であるかを見分けることはできない。こうした状況なのに、年金基金のような機関投資家は、どうしてパッシブ運用よりもマネジメント・フィー(運用手数料)が高いアクティブ運用の運用機関を、しかも複数採用したがるのだろうか。理由は複数あるだろう。一つには複数の運用会社と接触することで情報が欲しい(単なる話し相手かも知れないが)ということだろうし、多少はアクティブ運用に夢を持っているということでもあろうし、アクティブ運用を使わない場合に仕事が単純になり自分達の存在意義が乏しくなるということもあるだろう。年金加入者から見ると、年金基金と運用機関(加えて、年金コンサルタント)はグルになって自分達の仕事を作っているといえなくもない。逆に、多少余裕を持って眺めるとすると、アクティブ運用を使わないとなると、年金基金の仕事は今よりもずっとツマラナイかも知れない。どのみち人間のやることには無駄がつきものだから、無駄があまりに大きくならない範囲であれば許してもいいような気もする。 しかし、特に株式運用の世界では、リスクの偏りが問題になる場合が多い。そこで開発されたのが「スタイル(運用)」という概念だ。典型的には、一定の条件付けを行って(たとえば投資銘柄の候補群を分けて)、バリュー(割安株投資)とグロース(成長株投資)、さらにスモール(小型株)といった「運用スタイル」のカテゴリーを作り、スタイル毎に資金を配分して、その中で運用会社を選ぶという方法だ。 こうすると確かに、大きなアクティブリスクは取りにくくなるが、大きなアクティブリターンを取ることも難しくなるので、こうまでしてアクティブ運用の運用者を使う必要があるのか、という感じがしなくもない。 個人の運用に関する教訓をまとめるとすれば、「アクティブ運用は使わないか、使っても一社だけ」ということになるだろうか。個人的には、アクティブ運用は自分でやる、というのが一番楽しいように思うが、結果的にそれがいいとは限らないので、強くはお勧めしない(ネット証券にとって都合のいい話なので、気分的にお勧めしにくいということもある)。「楽しい」と思う人が、リスクの大きさを知った上で(単に概念的にではなく、数量的に、ということだが)自分でアクティブ運用を行うのであれば、それが理想的だ。 ■複数の情報の総合 以上は、マネージャー・ストラクチャーにあって初歩的に解決しなければならない問題だ。より積極的な意味では、(1)複数の運用会社の持つ情報を有効に使いたいし、(2)運用会社の組み合わせを適切に行うことで余計な(意図しない)リスクを抑えたい。 このためには、どうしたらいいのだろうか。 一つの考え方は、アクティブ運用に関して信頼度のより高い運用者により大きな金額の資金の運用を任せるというものだが、この場合、他の運用会社がどのように選ばれるかによって、個々に選ばれる運用会社がポートフォリオ全体に対してもたらすリスクの効果が変わってしまう。 理論的な正解は、個々の銘柄の期待リターンに関して信頼度の重みを付けて加重平均を計算して、情報を期待リターンの形に総合して、ポートフォリオ全体を最適化計算して構築するというものだ。 この観点から言うと、かつて野村アセットマネジメントが1兆円以上の資金を集めて話題になった「日本株戦略ファンド」のように、一社の中なのに資金をスタイル別に区切るような運用は、明らかに「最適」ではない、ということだ。 しかし、現実に運用者が運用の際に使っている期待リターンのデータをくれる訳ではない。実際には、個々の銘柄の期待リターンを明瞭に意識していない運用者が多いかも知れない。一つの工夫としては、運用者にある程度の金額の運用を任せて、彼(彼女)が作ったポートフォリオから個々の銘柄の期待リターンを逆算して、これを計算に使用するという方法がある。 たとえば、運用会社A社、B社、C社、D社を使う場合、これらにある程度の金額を運用させて、委託者自らが調整ファンドEを持って、このポートフォリオEが、期待リターンを逆算して作ったポートフォリオT(運用金額全体)から、A+B+C+Dを差し引いたポートフォリオに等しくなるように全体を構成するというようなことが理屈上は可能だ。 ただ、ここまでできる委託者は、既に個々の運用会社の能力を超えているのではないか、それでも個々の運用会社を使う意味はあるのだろうか、という素朴な疑問が湧いてくる。 この問題を敢えて個人の資産運用に適用するとするなら、運用アイデア別に資金を分けるのではなくて、複数のアイデアを期待リターンの形で総合して、全体を最適化したポートフォリオを作るべきだということになる。「アクティブ運用の資金は区分するな」が教訓ということになる。
2008年03月07日
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