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2021年04月02日
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テーマ: エッセイ(94)
カテゴリ: 過去のエッセイ
「挫折」

 悲しみ、怒り、切なさ、悔しさ、自己嫌悪…。どんな言葉も、その時私の心に充満し爆発した思いを表現することはできない。
 瞼から噴き出す涙や、しゃっくりのようにこみ上げてくる嗚咽を止めようとすることも忘れ、私は田舎道を歩いていた。二十五年前の、秋の夕暮れ時だった。
 わずか一か月半の研修だけで、肢体不自由児や知恵遅れ、自閉症などの障害を持つ子ども達の中に、ただ一人の指導員として放り込まれた私には、知識も技術も経験も何もなかった。私にあるのはただ一つ、「何かの力になれたら」という、未熟な情熱だけだった。
 ひろ子ちゃんは三歳で、筋弛緩性の重度の脳性まひだった。体のどこに触れても、手ごたえがなくクタクタしていて、お腹がすいた時だけ力なく泣くだけだった。
 大抵の子は、しつこくアプローチをしていれば心身の発達に多少の変化がみられるのだが、ひろ子ちゃんにはそれもまだ見られなかった。
 私は悩みつつ、医師や当時は道内にも少なかった理学療法士に電話などで相談しながら、試行錯誤を重ねていた。
 ところが、最初は真面目に通っていたお母さんが、ぱったりと顔を見せなくなった。噂によると、ある新興宗教に入ったという。
 障害児を抱えた家庭には、必ず宗教が入り込む。それも、「お金を出せば治る」など、藁にもすがりたい親心に付け込んで…。心配になった私は、家庭訪問に向かった。
 玄関先でお母さんは言った。
「先生、ごめんね。先生は一所懸命してくれたけど、ひろ子はちっとも良くならない。でも、今の神様に祈れば絶対に良くなるって。私、せめてひろ子には笑ってほしいんだ」。
 何も言えなかった。必死にすがろうとしている母親に、そんな神様嘘っぱちだとは言えなかった。ましてや、「私が笑わせて見せる」なんて言えるはずもなかった。
 語りかけるたった一つの言葉も持たない自分の無力さが、ただただ情けなかった。
 胸の奥に突き上げる思いをやっと耐え、玄関を背にした瞬間悲しみが爆発した。心が木っ端みじんになった瞬間だった。



あれほどの爆発するような感情は、多分その後は経験していないような気がする。
「挫折」というテーマで書いたもので、題名と内容があっているかどうかわからないが、自分の無力さを痛感するという意味では挫折だったのだろう。
季節についてはまったく覚えていないので、ひょっとするとこのエッセイに書いた「秋の夕暮れ」も、イメージ的なものだったかもしれない。
ひろ子ちゃんは、確かその数年後に亡くなっている。
新聞のお悔やみ欄でその名を見つけた時、何とも言えない気持ちになった。
(お母さんは、ひろ子ちゃんの笑い顔を見れただろうか)と思った。
どんなに障害が重くても、その子なりの成長をすることはわかっているので、あの宗教のおかげで笑ったとは思えないが、決して裕福ではなさそうだったお母さんがせめてたった一つの願いだけでも叶えられていたらいいと心底思った。
あちらの世界で、ひろ子ちゃんが笑いながら駆け回っていたらいいなと、今でも思う。


左のフリーページに載せていた。
「あの子の笑った顔を見たいんです」
字数制限のあるエッセイとは違い、もう少し詳しく書いていた。





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最終更新日  2021年04月02日 09時57分29秒
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