全48件 (48件中 1-48件目)
1
やっぱり飲み会の連荘と、雨の中での仕事はつらいんですね・・・・昨日は身にしみてわかりました。それと、県議会議員の選挙が始まってしまいましてね・・・・ ノックの返事も待たず、「西の魔法使い」はノブの部屋のドアを開け、勝手に入り込んできました。「おや?・・・・お前は寝なかったのかね?」朝方までの宴会で、きっとノブは疲れて寝入っているだろうと思い、どうやら起こしに来たようです。「はい・・・1回寝ちゃうと、そのまま起きられないような気がしたんで、そのまま起きていました。・・・遅刻したくないし・・・・」「そりゃあ、いい心がけだ・・・それじゃ朝食の時間だ。準備が終わったら、わしの部屋においで・・・・」「西の魔法使い」は、そういうとさっさと自分の部屋に戻ってしまいました。「フーッ・・・・また西の魔法使いか・・・来るたんびに人形にされるけど、急にこないで欲しいよな・・・・話をしてても中途半端になる。」モルトスはまた猿の姿に戻っています。「僕、これから着替えて、顔を洗うから、それまでに朝ごはん済ませておいてくれないかな?」ノブはモルトスにそう言って頼むと、洗面所に入り、顔を洗い始めました。真新しいタオルと、歯ブラシがおいてあります。歯磨き粉を着け歯を磨いていると、モルトスが静かなような気がしました。「ア、僕が一緒の部屋にいないとまた人形になっちまうのか?」あわててモルトスに様子を覗いて見ると、モルトスは、もくもくとリンゴを食べていました。「洗面所も同じ部屋だということになってるんだな・・・・きっと」ノブは落ち着いて顔を洗うことができました。部屋に戻ると、モルトスはリンゴを食べ終えています。「じゃあ、僕は出かけるからね」「おいおい、あの魔法使いは、着替えもしろっていってるんだぞ」「だって僕、着替えなんか持ってないもん。」「きっと授業を受けるための洋服が入っているはずだ・・・たんすの中を見てごらんよ」ノブがたんすの引き出しを開けて見ると、そこには真新しい「体操着」のような服が入っていました。ノブは急いで着替えました。「じゃあ、行って来るからね」ドアを開けてモルトスに声をかけると、モルトスはベッドの上にいました。「アア、がんばって来るんだよ・・・俺様はこのベッドで休んでいるから・・・どうも人形になるのはいいんだが、どうせ人形で待っているなら、柔らかなベッドの上のほうがいいような気がする。」部屋を出たノブは、真正面の「赤いドア」の部屋をノックしました。「西の魔法使い」の部屋です。「おはいり」返事があったので、ドアを開け・・・部屋の中を見てみると、意外にもそこは壁紙がベージュになっていました。実は、ノブの部屋はドアが真っ白で、壁紙も真っ白だったから、「赤いドアの部屋は壁も真っ赤だと思い込んでいたのです。「ようやく来たか・・・・」「西の魔法使い」は既に朝食を食べ始めていました。トーストにコーヒー、ハムエッグに野菜サラダの朝食でしたが、ノブの座る席には、コーヒーの代りに、オレンジジュースと牛乳がおいてありました。「座って食べなさい」ノブは最初にトーストを食べ始めました。正面がカリっとして少し焦げ目があり・・・・でも、中身はふんわりと柔らかな・・・とっても美味しいトースト・・・・ノブはその美味しさに、そのトーストを一気に食べてしまいました。「これこれ、そうあわてずとも、お代わりはいくらでもある」そういうと「西の魔法使い」は、指をくるりと回し、バターのたっぷり塗られたトーストを、魔法で出してくれました。「あのう・・・・食べ物を少し調理するんでも、呪文が必要じゃないんですか?」「アア、お前、あの猿に聞いたな?・・・・いい質問だ・・・・しかし、わしのような偉い魔法使いには、この程度の魔法なら呪文はいらないんじゃ」「西の魔法使い」はコーヒーをすすりながら答えます。「魔法というのはどんな小さな魔法でもきっかけが必要なんじゃ・・・そういう意味ではあの猿がバナナを出すときでも、バナナの形を想像したはず・・・・・そして芳醇な香りと味わいのバナナの味も想像したはず・・・・そのイメージがまとまっているものなら、なんの呪文も唱える必要はないんじゃが、少し手のこんだ料理だと、そのイメージが複雑すぎて一気にまとまらない・・・・そんな時、自分で呪文を考え唱えるんじゃ・・・・最初その呪文でうまくいったなら、2回目からはその呪文を唱えるだけで同じ味の料理になる・・・そういうわけじゃ」ノブには少し難しかったのですが、なんとなく意味がわかったような気がしました。「さあさあ・・・・もうまもなく授業だ・・・・充分に食べたか?」「はい、おなかはいっぱいになりました。」「しかし、目が真っ赤だな・・・・最初の授業で習うのだが、眠くならない魔法・・・・でも、最初だからわしがもっと良い魔法をかけてやろう・・・ちょっと目をつぶりなさい」ノブが目をつぶると、、「西の魔法使い」はノブのそばに来て呪文を唱え始めました。「コリローネコローフジャッブサルホー・・・・・・」とたんに眠くなってきます。ハッと気づくと、西の魔法使いはこう言いました。「今、時間を夕べの10時まで戻し、それから朝の6時まで眠らせてやった・・・これでお前の睡眠時間は充分なはず・・・・・・」「え?時間を戻すこともできるんですか?」「もちろん・・・・魔法使いにできないことはない・・・・ただし、昔の自分に会いたい・・・と言うのはだめだぞ・・・・会ったとたんにどちらか一方が・・・・いまの自分か昔の自分か・・・どちらかが消えてしまうことになる。・・・・それだけは絶対してはならんぞ」これだけは厳重に注意しておく・・・「西の魔法使い」は強く言いました。「さあ、それでは授業に行ってきなさい・・・教室はあの金のドアの部屋だ」そう言ってノブを送り出したのです。ノブは赤いドアの部屋を出て、金のドアに向かいました。昨日は西の魔法使いが一緒だったので、ドアは自動ドアのように開いたのですが、今日はうんともすんともいいません。「おかしいなあ・・・昨日は開いたのに」その時、聞きなれない声が頭の中に響きました。「あなたはまだ初心者です。・・・・・ドアを押しなさい」そっとドアを押して見ると、昨日は横に自動ドアのように開いたドアが、今日はふつうのドアのように開きました。中には「緑の魔法使い」が待っていました。「ノブ君・・・少し失礼じゃありませんか?・・・・あなたは部屋に入るとき、ノックをしないのですか?・・・・もう一度やり直しなさい」「ごめんなさい・・・やりなおします。」ノブはいったん部屋の外に出て、ドアをノックしなおしました。「どうぞ」中から、「緑の魔法使い」の声がしました。ノブは改めて部屋に入り、「緑の魔法使い」のちょこんとお辞儀をしました。「あなたは今、素直にごめんなさいと言いましたね。・・・そんな素直な気持ちが魔法を早く覚えるこつですよ・・・・教えられたことを素直に覚える・・・それが大切です。それと、・・・ドアには押し戸も引き戸もあります・・・・自動ドアもあればシャッターのように上に開くものもあります。・・・・固定概念は捨てましょう・・・・それも魔法使いになる早道です。」ノブの頭の中を読まれているようです。「あなたは祝宴が明け方まで続いたのに、眠くなさそうですね・・・・・そうか、師匠に魔法をかけてもらいましたね・・・・でも、明日からは自分できちんとしましょう・・・眠らなくても体力を温存できる法から・・・・始めましょうか・・・・」魔法の授業については、一般の魔法を知らない人が覚えると危険ですので詳しくは紹介しませんが、午前中で、ノブはその法を覚えたようです。「午後からは、外へ出てみましょうか・・・・・今日は、とってもいい天気です。・・・外でピクニック気分の授業も良いでしょ?」ノブは「緑の魔法使い」と一緒に、「金のドア」から外へ出ました。昨日も「魔法の木」から、「魔法のステック」を貰うために、このドアから直接外へ出ていたので、もう驚きはしませんでした。「さあ、先にお昼を食べましょうか・・・・朝はトーストとコーヒーだったんでしょ?・・・じゃあお昼はパンを辞めましょう。・・・えっと何が好きかな?」「エーット・・・おばあちゃんのカレーライス」「なるほど・・・・あなたはおばあちゃんが好きなんですね・・・よろしい・・・少し難しいけれどおばあちゃんのカレーライスを作りましょうか・・・・」「緑の魔法使い」は、ノブの頭に手を置いて「おばあちゃんのカレーライス」がどのようなものだったのか読み取ろうとしているようです。「はい、わかりました」一分ほどのわずかな時間で、「緑の魔法使い」は、「おばあちゃんのカレーライス」のレシピを読み取りました。広場の芝生に魔法によってシートが敷かれました。そこに腰掛けると、目の前にカレーライスが置かれています。 つづく
2007.03.31
コメント(19)
昨日はけっきょく一行も書く暇がありませんでした。今日も、昨日同様忙しくって・・・さすが年度末ですよね・・・って、他人事のように言ってみる・・・・・・ワア。。。今日もかけないのかな! 明け方まで続いた祝宴でしたが、「主役」であるはずのノブは、空腹のまま部屋へ戻って来ました。モルトスのバナナを一本だけ貰って、おなかに入れると、今度は猛烈な眠気が襲ってきます。無理もありません・・・・昨日は道に迷って森の中を歩き、ようやくこの広場に出ると「魔法使い」にならないかという誘い・・・・なんとなく「いいよ」って返事をしたら、さっそく儀式の準備が始まりました。白いドアの部屋で待っていると、今度は言葉をしゃべる「猿のモルトス」が現れ、それを「西の魔法使いに見つけられると、モルトスは人形に変えられ・・・・・まあ、何とかノブの弟子っていうことにして、ノブとこの部屋で2人っきりのときだけ元の姿にしてもらうことにしました。それから続いた、明け方までの祝宴・・・・・・・・・ノブはすっかり疲れていました。しかし、ここで眠ってしまうわけにはいきません。あと3時間もすれば最初の授業が始まるのですから。このまま、眠らないほうがいいかな・・・・・幸いモルトスは、人形になっている間は眠っているような状態らしく、活発に動き回っています。「ねえ・・・僕とおしゃべりしないか?」「え?お前眠らなくていいのか?」「今寝たら、起きられないよ」「それなら話でもしよう」そういうことになって、2人は話を始めました。「さっき、集まった魔法使い・・・・100人以上いたんだよ」「アア、まだまだたくさんの魔法使いはいるさ・・」「全部で何人ぐらいいるの?」「1000人以上はいるだろうなあ・・・今日集まったのはきっと、お前の授業を受け持つ講師とか、ほんとに偉い魔法使いだと思うんだ」「へえ・・・モルトスは何でも知ってるんだね」「ヘヘヘ・・・俺様に知らないことはない・・・って言いたいところだが、ピンクの魔法使いって言うのがいるんだよ・・・そいつがここの広場の当番だったとき、いろいろ教えてくれてね・・・・」「アア、その先生なら”水中呼吸術”の先生っていうことで紹介されたなあ・・・そんなに親しいなら、その魔法使いが当番のとき弟子にしてもらえばよかったのに・・・・」「ところがあいつ、”あんたを弟子にするわけにはいかない”って言いやがった・・・・”あたしのようなか弱く美しい女性にあんたは危ない”って言いやがってよう・・・・美人だって自分で言うけど、あいつなんだかんだで150歳は越えてるんだぜ」「そうは見えなかったけどなあ」「相手は魔法使いだ・・・・なんとでもなるさ・・・」「それとね・・・朝一番に会う先生のことなんだけど・・・・緑の魔法使いってどんな先生なの?」「アア。あいつはけっこう優しいよ・・・・俺には冷たいけどな・・・」ノブは、モルトスにいろいろな魔法使いの噂を聞いて行きました。8時少し前になって、ちょうど春の魔法使いの話を聞いていたとき、ドアをノックする音が聞こえます。「ア、8時だ・・・朝食の時間だ」ドアを開けてはいってきたのは、もちろん「西の魔法使い」でした。モルトスはまた人形になってしまいました。 続く・・・すまん時間がない
2007.03.30
コメント(16)
明日は「工事の竣工検査」があり、午後はお客様のアポが数件・・・そして夜は「自衛隊協力会」の事業があって書けません。したがって、今日の2本目を書きたいと思います。まだの方は、「7.魔法使い」を先に読んでね。 宴会場に戻ると、「西の魔法使い」はノブを席に座らせました。その椅子の背もたれには、いつの間に作ったのか「NOBU」と書かれたプレートがはめ込んでありました。席の順番で言えば一番新米の魔法使いなので一番後ろのテーブルの一番はじっこの席です。「それではここでみんなで乾杯しましょう・・・乾杯の発声は秋の魔法使いにお願いします。」そこへ登場したのはスラリとして茶色のマントを上手に着こなしている、少し憂いを秘めているような紳士の魔法使いでした。「ご紹介ありがとう・・・・それでは紳士淑女のウィザード諸君・・・・・・新しき時代を切り開く魔法界のプリンス、ウィザード・ノブが一日も早く、りっぱな魔法使いになるようお祈りして乾杯をいたしましょう・・・・杯を掲げてください・・・・・」え?テーブルにはグラスが何も置かれてないのに・・・・・ノブがどうすればいいのか迷っていると・・・・となりに座っていた「西の魔法使い」が、何も持っていない右手だけを高々と掲げたのです。その右手が肩の上に上がったと思ったとたん、いつの間にかその手には赤いワインで満たされた「グラス」が握られていました。ノブも真似をしてやって見ます。そうすると、ノブの手にもグラスが握られていました。しかし、その中身はオレンジジュースです。「お前はまだ子供だからな」「西の魔法使い」はノブにウインクしながら言いました。「それでは皆様の準備も整ったようで・・・・・それでは輝かしい魔法界の未来を担うウィザード・ノブに・・・そして本日お集まりの紳士淑女の皆様の健康のために・・・乾杯を致しましょう・・・ア・ボートル・サンテ!」「秋の魔法使い」の合図とともに、その場に居合わせた全員が「ア・ボートル・サンテ」と唱和しました。ノブに意味がわかりませんでしたので・・・・「西の魔法使い」にそっと聞きます。「ア・ボートル・サンテってなんですか?」「ああ、お前はフランス語を知らんのか・・・・コレはフランスでの正式な乾杯じゃ・・・・意味は”あなたの健康のために”と言う意味じゃが、魔法界では乾杯のときこうしてするのじゃ」乾杯が終わり、みんながめいめいテーブルに着き、おいしそうな料理を食べ始めました。ノブも早速食べ始めようとしたとき、「西の魔法使い」が立ち上がり、ノブにも立つように命じました。「今日はお前のお披露目の儀式だ・・・・お前がこれからお世話になる皆さんに、ワインを注いで歩かねばならない」そう言うと、「西の魔法使い」はさっさと歩き始めました。ノブもあとをついて行きます。最初向かったテーブルに着くと、「西の魔法使い」は大きな声を出しました。「太陽のウィザード、月のウィザード・・・・・ご紹介いたします。我が弟子、ノブでございます。」しかし実は、そのテーブルには誰も座っていなかったのです。テーブルの上には豪華な料理と空のワイングラスだけが置いてありました。「さあ、ノブ・・・・ワインをお注ぎしなさい」ノブは手に何も持っていませんでしたので、まごついていると、いつの間にかノブの手にワインのボトルがありました。ノブはそのボトルから、その空にグラスになみなみとワインを注ぎます。するとどうでしょう・・・・・そのグラスに注いだワインが、どんどん減っていくのです。「お前にはまだお2人の姿が見えないかもしれない・・・しかし、お前はさっき自分の部屋で本を読んだであろう・・・・その本の中に”この地球は神という名の偉大なる魔法使いのご先祖様がおつくりになられた”と書いてあった事と思う・・・・その神お2人が今ここにいらっしゃるのだよ」ノブの目には見えていないのですが、ここに座っていらっしゃる「太陽のウィザード」、そして「月のウィザード」が、この地球を作ったというのです。ノブには信じられないのですが、でも確かに注いだワインは減っていくのです。2人はお辞儀をしてそのテーブルを下がりました。「実はわしにも見えてないのだがね・・・」歩きながら「西の魔法使い」はこっそり教えてくれました。続いてのテーブルは、最初に挨拶した「春の魔法使い」と乾杯をした「秋の魔法使い」・・・そして後二人の魔法使いが座っていました。「季節のウィザードの皆様・・・・ノブでございます」「西の魔法使い」は4人にノブを紹介しました。春と秋の魔法使いは男性でしたが、おそらく夏と冬の魔法使いであろう2人は女性でした。ノブは4人のワインを注ぎ、お辞儀をして下がりました。「次は本来、わしも座るべきテーブルだ・・・・方角のウィザードよ・・・・わしの弟子、ノブを紹介しよう」そこには4人の魔法使いが座っていました。燕尾服を着たちょっと太目の魔法使いは南の魔法使い、白い毛皮の魔法使いは北の魔法使いでした。そして、チャイナ服を着た魔法使いが東の魔法使いと聞いたのですが、もう一人いることに不思議さを覚えました。だって、西の魔法使いは今、ノブと一緒に各テーブルを回ってくれています。「方角でいうとこのテーブルは4人なのじゃがなあ・・・・ここに北と南の境のウィザードも同席しておるんじゃ」西の魔法使いが紹介したのは「赤道の魔法使い」でした。裸に腰みのといういでたちの魔法使いでしたから、ノブはここが暑いのか寒いのかわからなくなりました。だって、白い毛皮の「北の魔法使い」と裸の「赤道の魔法使い」が一緒のテーブルに座ってるんですもの・・・・・「さて、ここにはわしの席もある・・・・後の魔法使いはわしより格下の魔法使いばかりじゃ・・・お前一人で挨拶に回りなさい」そう言うと「西の魔法使い」は、ひとつ空いていた席に座りました。一人で知らない席を回るのは恥ずかしかったのですが、これからお世話になる魔法使いばかりです。ノブは一生懸命ワインを注いで回りました。ワインは無くならないのかですって?もちろん注げば無くなりますが、次のテーブルに移動する間に、またいっぱいになるのです。さっき優しく微笑んでくれた「ピンクの魔法使い」のテーブルを回ったときです。このテーブルは明るい色の魔法使いのテーブルのようです。白と黄色と赤とオレンジ、それに薄紫とピンクの魔法使いが座っていました。「ノブです・・・よろしくお願いします。」お酒を注ごうとした時、ピンクの魔法使いがノブに声をかけました。「残念ねえ・・・・昨日ならあたしがこの広場の当番だったからあなたもあたしの弟子になれたのに・・・・・あの西の魔法使いってけっこう口うるさいおじさんだからね・・・・あたしのほうが良かったでしょ?」そう言って、ノブのあごの下をなでたのです。ノブは少し恥ずかしくなって後ずさりましたが、赤の魔法使いが・・・・「これこれピンク・・・・まだ可愛らしい新人の坊やをからかうもんじゃないよ」そう言って「ハハハハハ・・・」と大声で笑いました。ノブがようやく全員の席を回り、自分の席に戻ってくると・・・・「そろそろ、夜明けだ・・・・・今日の儀式はコレでお開き」「西の魔法使い」が叫ぶと、それまでざわついていたこの部屋が、急に静かになりました。周りを見ると、それぞれの魔法使いの姿が次々と消えて行きます。そして料理も・・・・・・・ノブはまだ一口も食べていません。消えかかったテーブルから、ノブはあわててチキンレッグを一本だけ手に取りました。全てが消え・・・・残ったのは「西の魔法使い」とノブ・・・そしてノブの手にした一本のチキンレッグだけでした。「これこれ・・・いつまでもはしたない・・・・食べ物から手を離しなさい」「西の魔法使い」が言うと、たちまち手にしたチキンレッグも消えてしまいました。金の扉から出るとそこは最初はいった廊下でした。「明日は8時に朝食・・・それはわしの赤い部屋でとることにしよう」「西の魔法使い」の指差す方向には「赤いドア」の部屋が・・・・・ちょうどノブの「白いドア」の部屋の真正面にありました。「9時からは授業開始・・・・最初は緑の魔法使いの”魔法学概論”じゃったな」そう言うと、ノブを取り残し、「西の魔法使いは」一人で勝手に「赤いドア」の部屋に入っていきました。ノブが口にしたのは、最初の乾杯の「オレンジジュース」一口だけ・・・・部屋に戻ると、モルトスが元の姿に戻って、バナナを食べようとしていました。「モルトス。。。。僕にもそのバナナをくれないかなあ」ノブが頼むと、モルトスはちょっとだけにらんで、バナナを一本放り投げてよこしました。 つづく
2007.03.28
コメント(14)
昨日はお疲れモードで、パソコンの前で居眠りしてしまいました。風呂上りだったので、気持ちよかったのもあるんでしょう。 「ウィザード」という言葉に、ノブは引っかかりました。「魔法使い」という意味だということはわかるのですが、「行いの正しさは、まさにウィザード」という言葉に引っかかったのです。魔法には「白魔術」と「黒魔術」があるということは、先に読んだ「魔法使い入門」という本に書かれてありました。簡単に言うと、「白魔術」は魔法を使ってよい行いをいする魔術、・・・「黒魔術」とは人を呪い殺したりする魔術・・・魔法使いはどちらもできるということなのですが、特にその魔力と知識で「良い魔法」を使うものを「ウィザード」と呼ぶようなのです。「姿勢の悪い猫背のウィザードか・・・・」興味を持ったノブは、次のページをめくりました。しかし、次のページから数ページ・・・落丁して抜けているのです。古い本ですから破けてしまったのでしょうか。「なんだ・・・どんな魔法使いなのか調べたかったのに・・・・・」ノブはちょっとガッカリしましたが、伝説になるような立派な魔法使いです。またほかの本にでも乗っているかもしれないと思い・・・「魔法の歴史」を読み進めました。夕方まで、ノブとモルトスは本を読み続けました。「腹が減ってきたなあ・・・・・」モルトスが言いました。「もう少しで、夕飯の迎えが来るよ・・・ほかの魔法使いの人たちが集まれば夕飯を食べて、儀式を行うって言ってたから」ノブが答えると、それにモルトスが言い返しました。「お前・・・ほんとにバカだなあ・・・さっきも言ってただろ・・・・俺はこの部屋でお前と二人っきりのときだけこの姿でいられるんだ。・・・ドアの外にも出られなければ・・・お前がこの部屋を出て行ったとたん、また人形になっちまうんだから」「アアそうか・・・・じゃあ君はご飯を食べに行けないんだね・・・・どうしようか・・・」「心配するな・・・・俺は難しい名前の料理なんていらない・・・・バナナやサツマイモを生でかじってればいいんだから・・・大丈夫だ」そういうとモルトスは指をクルッとまわし、またバナナを出したのです。そして、バナナの房から一本抜き取り食べようと思った瞬間・・・・そのバナナが床にポトッと落ちました。どうしたんでしょう・・・・・そうなんです・・・・「西の魔法使い」がこの部屋に入ってきたのです。人形になったモルトスは、恨めしそうに床に落ちているバナナを見つめているような気がしました。「さあ、魔法使いの先生達が今日は早目に集まった。・・・何しろ150年ぶりの魔法使い誕生だ。・・・・儀式をはじめるぞ・・・わしのあとについてきなさい。」「西の魔法使い」は少し興奮しながら部屋を出て行きました。このとき、元に戻ったモルトスは床に落ちたバナナを拾い、一口だけほお張りましたが、すぐに、ノブへ「早くいったほうがいい」と目で合図をしました。ノブは、モルトスの口の中のバナナがのどを通っていくのを待ちましたが、のどを通った瞬間・・・少し離れた場所から、「西の魔法使い」が叫んでいる声が聞こえました。「じゃあ、行ってくるからね」ノブがにっこり微笑んで部屋を出て行こうとすると、モルトスもにっこりと微笑をかえし・・・・また人形に戻ったのです。ノブが廊下に出ると、「西の魔法使い」は、少し怒りながら待っていました。「偉い先生方を待たせるんじゃない」そう言って、「西の魔法使い」は自分の服装を直し、中央の「金のドア」を目指して歩き始めました。きっとあのドアの向こう側に、たくさんの魔法使い達が集まっているのでしょう。「儀式」といったって、何一つ教えられていません。「自己紹介でもさせられるのかなあ・・・・人の前でお話しをするのは苦手だなあ・・・・名前だけでいいのかなあ・・・・・」そんなことを考えながら、ノブは「西の魔法使い」の後をついていきました。いよいよドアの前に到着しました。「金色のドア」は、ほかのどのドアよりも立派で、一回り大きなドアのように感じられましたが、そのドアが「自動ドア」のようにさっと開き、中には大きな野球場のように階段状になった土台の上に100席ほどの椅子が並べられていたのです。しかしそこには誰も座っていません。「魔法使いの人たちがたくさん待っているんじゃないのか・・・・・」ノブは少し拍子抜けしましたが、「西の魔法使い」はそんなノブをその部屋の中央に立たせました。その時、どこからともなくファンファーレが響き、ファンファーレが鳴り終わると同時に、「西の魔法使い」が大きな声で叫びました。「全ての魔法使いを召喚する!」その声が言い終わるや否や、辺りがざわつき、いつの間にかさっきまで空席だった椅子の全てに、「魔法使い」たちが現れ、座っていたのです。「西の魔法使い」は続けます。「これより、新ウィザード・ノブの認証式を行う・・・・なお、儀式の進行は新人の師匠であるものが勤めるという”儀式次第第2条第3項の規定”の定めにより、このわしが勤めるものとする。」魔法の世界にも様々な法律があるらしい。「初めに、最長老・・・・春の魔法使いより挨拶がある」「西の魔法使い」でさえ、もう数百年前からの魔法使い・・・・最長老っていったいいくつなんだろう?ノブは緊張して、その最長老の挨拶を待ちました。しかし、最長老というわりには「西の魔法使い」とそんなに年の違わないくらいの小柄なおじさんが現れます。「わしが春の魔法使いじゃ・・・・・お前さんがノブか・・・・ちいちゃいのう・・・・よろしくな・・・・・ウヒョヒョヒョヒョ・・・・」おかしな笑い声を残し、席に戻ります。「これで挨拶が終わったのかな?」ノブは自分より小さな「春の魔法使い」から「ちいちゃい」といわれて少し腹が立ちました。「続いて講師陣を紹介する。・・・魔法学概論・・・緑の魔法使い・・・空中浮遊術・・・ムラサキの魔法使い・・・・・・・・」次々と先生達が紹介され、ノブは一人一人にお辞儀をしました。「次に、新ウィザード・ノブによる挨拶・・・・・・」あ、ここで自己紹介をしなくっちゃ・・・・ノブはもう一段上の緊張をしました。「あ・・あの・・・僕はノブです。・・・・今度魔法使いになるための勉強をします。」さっき、水中呼吸術の講師と紹介された、何人もいない女性の魔法使い「ピンクの魔法使い」が、優しそうにうなずいてくれたのを見て、ノブは少し落ち着きました。「僕はどうせ魔法使いになるなら、さっき本で読んだ猫背で姿勢の悪い伝説の魔法使いのように真に正しいウィザードと呼ばれるようになるよう、がんばります。」その時です。最初は数人の魔法使いがクスクスと笑い出し・・・それがたちまちのうちに全ての魔法使いに伝染したように、いつの間にか全員が大声で笑っていました。(え?なぜ笑うんだ?・・・・・)なぜ笑われたのかわからないノブは、思わず「西の魔法使い」を見ました。しかし、師匠であるはずの「西の魔法使い」も大声で笑っています。しかも、腹を抱えて・・・・・・ノブはすっかり落ち込んでしまいました。「それでは儀式も滞りなく終わり、これから宴会に入ります」ひとしきり笑い終えた「西の魔法使い」が、手に持った「スティック」を振ると、6人掛けのテーブルが20個ほど現れ・・・・その上には盛りだくさんの料理が現れました。「これこれ・・・西の・・・・その前にまだすることがあるぞ」そう言ったのは、「変化術」の講師である「北の魔法使い」でした。「そうそう・・・・忘れておったわい・・・ノブ・・・私の後をついてきなさい」そういうと「西の魔法使い」は最初入ってきた「金のドア」へ向かいました。「金のドア」はまた「自動ドア」のようにさっと開き、・・・しかしそこは最初入ってきた廊下ではなく、「魔法の木」の外に出てきたのです。「さあ、お前にスティックを与えよう・・・・」そう言うと、「西の魔法使い」は自分のスティックをくるりと回し、「エアラショウルーゴ・・・・」と呪文を唱えました。何が起こるのかじっと見ていると、「魔法の木」の枝が一本折れ・・・それがシュルシュルッと皮がむけて一本の魔法のスティックとなって、ノブの手の中に落ちてきたのです。「さあ、それがお前の”魔法の杖”だ・・・・大事にするように・・・・まあだけど、それは消耗品だから、折れたらここに来て新しいスティックを自分で作ればいい・・・作り方は最初の授業・・・魔法学概論で教えるはずだから・・・・」ノブは考えました。「どうせ一緒に練習するんだから、作り方を教えてもらったら、モルトスの分も作ってあげよう・・」それから、ノブと「西の魔法使い」はもと来た宴会場へと戻っていったのです。 つづく
2007.03.28
コメント(16)
今月はいろいろな会合が多くって・・・・少しセーブをしなくちゃ身体が持ちませんて・・・・ ノブはまだ、「魔法の歴史」という本を読んでいました。「中国や日本では魔法使いの事を仙人と呼ぶ。コレは”仙骨”という骨が重要な鍵を握っていて、この仙骨は骨盤に囲まれた骨である。脊髄神経に繋がっているこの骨は人間の身体や健康に重要な役割を担い、この仙骨のゆがみが、さまざまな病気を引き起こす。仙術とは、この仙骨のゆがみを矯正する術であり、仙人とはこの仙骨にゆがみのない人間といっても過言ではない。欧米においての魔法使いもこの仙骨のゆがみのあるものは真の魔法使いとはいわず、したがって姿勢の悪い魔法使いは存在しないのである。もし、姿勢の悪い魔法使いというものが存在するならば、それは悪魔に魂を売ったものである可能性が非常に高い」その部分を読んで、ノブはそっとモルトスをうかがいました。どう見てもモルトスは、猿なのに「猫背」で・・・・姿勢がいいとは言いがたい者でした。まだ続きがあります。「しかし、この魔法の歴史を著すにあたり、ただ一人の例外的な伝説の魔法使いを紹介しよう。この魔法使いは猫背で姿勢が悪く、いっけん悪魔に魂を売り渡したような風貌ではあるが、行いの正しさはまさに”ウィザード”と呼ぶにふさわしい魔法使いである。」ヘエ・・・ウィザードねえ・・・どんな意味があるんだろう・・・ノブは考えましたが、どうせ魔法使いになるなら、正しい行いのできる魔法使いになりたいと思いました。 あ・・・ダメだ・・・眠い寝ます。
2007.03.27
コメント(12)
昨日は「学校職員の退職・転勤送別会」に行ってきました。校長先生の送別会は、前にしたんですけど、改めてご挨拶させていただきました。「今年60周年を迎え、式典の準備やら計画で大変なのに、教職員4役・・・校長・教頭・教務主任・事務長・・・・この4人のうち校長は退職で、教務主任と事務長が転勤・・・教頭先生だけが残る形になるんですが、教頭の負担が大きすぎる」って挨拶したんですよ。そしたら、「大丈夫だよ・・・私より優秀な校長だから・・」って校長が・・・でも、あなたほど優秀な校長先生・・・他に見た事ないんですけど! 「西の魔法使い」が部屋を出て行くとすぐに・・・「アア苦しかった!」モルトスが元の姿に戻っていました。「なんだって?・・・・俺がお前の弟子になるってか?・・・冗談じゃない・・・魔法使いの弟子ならいいけど・・・お前はまだ見習いじゃないか・・・見習いの弟子になんかなるもんか!」モルトスはぷんぷん怒りながら、部屋の外に出ようと一歩踏み出しました。しかし、たちまち人形の姿に・・・・・・・「アア、さっきあのおじさん・・・いや・・・師匠がこの部屋だけ元の姿に戻れるっていってたじゃないか・・・外へ出ちゃだめだよ」ドアの外に転がったモルトスの人形を拾い上げ・・・元の部屋に連れ戻しますとモルトスはまた元に戻ります。「ちきしょう・・・俺の自由は奪われてしまった・・・」モルトスは悔しがりましたが、呪文が解けない限りはどうしようもありません。「僕の弟子なんかじゃないよ・・・・さっきは、このままじゃ大変だと思ったからそう言ったけど、君は僕の友達さ」ノブは慰めるつもりでそういいました。「それに、君は魔法使いになりたいんだろ?・・・だったら、僕の弟子って言うことになれば、そのチャンスもあるじゃないか・・・・」「そんなこと言ったって、お前はまだ見習いじゃないか・・・あまりできも良くなさそうだし・・・お前が魔法使いになれるころには俺だって老いぼれてしまう・・・それから、魔法使いの見習いが始まったら・・・・俺が魔法使いになるにはあと何年かかることやら・・・・」「だけどさあ・・・君は僕とここで一緒に暮らすわけだから、僕が外で習ってきたことを君にここで教えれば・・・その見習いの期間を短くできるだろ?」ノブの学校の成績はあまり良いほうではありませんでしたが、モルトスのためにも早く魔法使いにならなければなりません。だから、外での修行が終わったら、この部屋で復習しようと思いました。「ここで復習するときに、君にも同じことを教えるよ・・・・それなら君のように頭のいい猿だったら、簡単に覚えられるだろうし・・・」「アア、俺様が先に覚えちゃうかもしれないなあ」「その時は、逆に僕に教えてくれよ」少し機嫌の良くなったモルトスは、ウンウンとうなずきました。「そうと決まったら、さっきおじさ・・・いや師匠が言ってたように本を読もうか」「おいおい、俺様は本を読むのが苦手だなあ」「だってここにある本は、本を開くだけで、勝手に頭の中に内容が飛び込んで来るんだよ・・・簡単じゃないか」ノブはそういうとさっきはじめに読んだ「魔法使い入門」と言う本をモルトスに渡し、自分は「魔法の歴史」という本を手にしました。「魔法というのは、この地球が誕生したときからあった。神が何もない空間に、この地球を誕生させたこと自体魔法のひとつである。神は偉大な魔法使いの先祖である。・・・・・・・」最初の章にはこのようなことが書かれてありました。そのほかいろいろなことが書かれてありましたが、ドレもこれもノブにとっては興味深いことばかりでした。「大英帝国を作ったのも、魔法使いだった。イギリスの魔法使いマーリンは、”石に突き刺さった剣を抜いたものこそ、真の王である”という伝説を勝手にこしらえ、自分で剣を石に突き刺しその剣が抜けないように呪文をかけた。そしてアーサーというひ弱な少年がその剣の前に立ったとき、気まぐれにこの少年が剣を引き抜こうとしたときに呪文を解いたのだ。こうして、アーサー少年は王様になり、イギリスの王国が成立した。つまりイギリスを作ったのも魔法使いなのだ・・・・・」へえ・・・そんなこともあったんだ・・・・ノブは次々とページをめくっていきました。 ア、ごめん、今日は忙しくて・・・つづく
2007.03.27
コメント(12)
「魔法の木」のマスターが、異常にこのタイトルに反応しています。そんなに期待されても、私、まったくの素人ですからいいものなんて書けませんよ・・・「魔法の木開店3周年」をお祝いして書き始めたんですけど、ここまで期待されると、終わるのは「5周年記念」のときぐらいかな? 迷い込んできた一匹の猿が、言葉を発したのでノブは驚きました。「お前・・・言葉がいえるのか?」「アア、俺様だって魔法使いになれるだけの器量を持ってるんだ・・・人間の言葉ぐらい・・・・でも、お前なんにも知らなくてここに来ちまったんだなあ?」「え?」「ここは魔法使いの支配する”広場”・・・・魔法使いはどんな国の言葉も聞けるし話せるし・・・どんな文字だって読めるようになるんだ。・・・それにどんな動物の言葉だって・・・・・・」「でも、僕は一度も動物の言葉なんて勉強したことはないよ・・・・」「だから、この広場ならできるんだってば・・・・・外の世界で魔法を使うにはそれ相当の修行が要るけどね・・・ここではまだ修行前でも使えるんだって」そういうと、猿はどこからか一本の枝を取り出してクルリとまわしました。そうするとどうでしょう・・・・真っ白なテーブルの上に黄色いものが現れました。「バナナだ!」ノブはまたまた驚きました。「このバナナもね・・・・食べたいなあって頭の中で思えば、この魔法の木の枝を振るだけで出せるんだ。・・・ちゃんと呪文も覚えられれば、もっといろんなものが出せるんだけど・・・」「なんでも出せるんじゃないのかい?」「そうは行かないよ・・・・手のこんだ料理なんていうのはそれなりの呪文を使わなくっちゃ・・呪文がなくていいのは、こんな材料だけとか・・・・必要最小限のものしか出せないよ・・・・」「じゃあカレーライスが食べたいと思ったら?」「そりゃあ大変だ・・・先ず、肉とにんじん、たまねぎ、ジャガイモ、カレー粉・・・その他もろもろの材料を出して、使う道具も出さなくちゃならないし・・・・鍋にコンロ,切るための包丁・・・・そうそう食べるときに使う皿やスプーンも・・・一度に出すことはできないんだ。」「じゃあ料理は自分でしなくちゃならないんだね」「アアそうさ・・・楽なのはお店にいって買ってきたり、畑で盗んでこなくてもいいっていう程度・・・・でも呪文さえ覚えたら、その呪文だけで、どこにも負けない美味しいカレーが一気に出せる・・・・」「僕ね・・・死んだおばあちゃんが作ってくれたカレー・・・・もう一度食べたいんだ。」ノブは少ししんみりしました。「それはいろんな方法がある・・・・でもいちばん簡単なのはそのバアさんが生きている時代に行って作らせることだな・・・」猿の「モルトス」は、自分で出したバナナを食べながら教えてくれました。「え?時間も越えられるの?」「アアそうだよ・・・でもな・・・お前はまだ行けない・・・なぜなら、修行前のお前には。ここからその時代に行けたとしても、ここに戻ってくる方法を知らないからだ。」「だって修行前でも簡単な魔法なら使えるんでしょ?」「お前は俺の話をよく聞いてなかったな?・・・修行前でもこの広場でなら簡単な魔法は使える・・・・でも、その婆さんのところへ行って帰りはどうする?・・・その婆さんのところは広場じゃないんだぞ」「それでもいい・・・おばあちゃんに会えるなら・・・・またそこで暮らすから」「モルトス」が話しを言い終わらないうちに、ノブは息せき切って答えました。「でもナあ・・・俺には難しいことはわからないんだが、”パラドックス”といって・・・・同じ時代に同じものが2つ存在しちゃいけないんだ・・・・その時代にもお前がいるんだろ?・・・そうすると、2人が出会ったとたん、どちらか一方が消えちまうんだ。・・・・確率的に言うと・・・今のお前のほうが消える確率が高い」「じゃあ魔法使いになっても、おばあちゃんには会えないの?」「いや、お前がスピードと魔力をしっかり身につければできるようになるよ。・・・そのためには修行するしかないけどな」猿は最後の一本のバナナまで食べ終え、手をはたきながら教えてくれました。「ところで猿君・・・・君はさっき匿ってくれっていってたね?・・・何から匿えばいいんだい?」「猿サルって呼ぶなよ・・・モルトスという立派な名前があるんだから・・・実はね・・・・西の魔法使いが意地悪で・・・・・・・」モルトスは「魔法使い」になれる能力のある自分を「西の魔法使い」が無視して弟子にしてくれようとしないことを延々とノブに語りました。「だからさあ・・・・この魔法の木の中にこっそり隠れて住んで、自分でひとりで魔法使いになろうと思ってさ・・・なあに・・・俺様のような能力を持っていれば一人でだってきっと魔法使いになれるさ・・・・お前より能力はあるんだからな・・・・お前が修行してるのを見て、こっそり覚えてやる。」ここにずっと隠れていることを覚悟しているようでした。2人がそんな話をしているとき、ドアの外に足音がしました。そしてドアをノックする音が・・・・・・・いち早く気づいたモルトスは白いベッドの下のもぐりこみました。モルトスが隠れたことを確認してから、ノブは「はあい」と返事をします。入ってきたのは西の魔法使いでした。「おお、これはこれは・・・・・お前・・・一人で勝手にそこにある本を読んだようだな?」さっき手にして読んだ本は、自分で勝手に書棚に戻っていて、取り出した形跡はどこにもありません。でも、ノブは正直に・・「勝手に読んでごめんなさい」謝ったのです。「もうひとつ・・・・お前・・・ここでバナナを食べたのか?」それについては、かすかにバナナの匂いがしました。「アア・・・あの・・・ポケットに一本だけバナナが入っていたから・・・」「ほう・・・・その小さなズボンのポケットにか?・・・・それになぜだか猿の匂いがする。」そういうと西の魔法使いはツカツカッとベッドのそばまでやって来て、ベッドの下に手を入れました。手を出したとき、魔法使いの手にはモルトスが首根っこをつかまれて、引きずり出されたのです。「お前はこの魔法の木の中に、勝手に入ってきて・・・・ノブにあることないこと吹き込んだな・・・・」首根っこをつかまれて、締め付けられたような声を出しながらモルトスは言訳しました。「嘘なんかついてねえ・・・・俺はほんとのことしか言ってない」「それでも勝手にここへ入り込んだものには罰を与えなければなあ」そういうと西の魔法使いはモルトスの首を捕まえたまま呪文を唱え始めます。「チャドスマリフナケカトタペス・・・・・」これも3度唱えると、そこには一体の小さな人形がモルトスの代りに現れました。「どこに行っちゃったんですか?」「この人形がモルトスだよ・・・・勝手にここへ侵入してきたのだから罰を与えなければ」「でも、このモルトスは魔法使いの能力があるんでしょ?・・・魔法使いにもなれるんでしょ?」「アア、確かに魔法使いの弟子になる資格がある・・・じゃが、こいつは猿じゃ・・・誰もこいつを弟子にはしない」「じゃあ僕は?」「お前はもうわしの弟子になると決まった」「じゃあ僕も魔法使いなんですか?」「魔法使いの弟子じゃな?」「じゃあ、僕が魔法使いになったら、この猿を弟子にします。・・・だからこいつを助けてやってください・・・おじさんお願いします」「しかし、おまえは魔法使いといってもまだ見習いじゃからのう・・・・」「西の魔法使い」はしばらく考えました。「それじゃあこうしよう・・・・お前がふだんの修行をしてこの部屋に戻り・・・・この人形と2人っきりになったときだけ、元の姿に戻ることを許可しよう・・・・ほかの人間がいたりしたらだめじゃぞ・・・・それと、許可できるのはこの部屋だけじゃ・・・ドアの外へ出たらたちまち人形に戻る」そういうと、また口の中でモゴモゴと呪文を唱え始めました。このときはなんと唱えたのかよく聞き取れませんでしたが、呪文を3度唱え終わっても何の変化も現れませんでした。「何にも起こらないよ?」「わしはさっき言ったぞ・・・お前とモルトスと2人きりのときに元の姿に戻ると・・・・・だから、わしのいるときは人形のままじゃ・・・・・・アア、それでな・・・お前に伝えておく・・・ほかの魔法使い達に連絡したらな・・・今日の夕飯の時に魔法使いの儀式を行う・・・・その時はわしがまた来るからその時まで、ここにある本を読んで待っていなさい・・・」こういうと「西の魔法使い」は出て行こうとし・・・いったん立ち止まって振り向きました。「それとな・・・・・・わしのことをおじさんと呼ぶのはよしなさい・・・わしのことはお前の先生なのだから、師匠とでも呼んでもらおうか・・・それとほかの魔法使いのことも先生と呼んでもらおう・・・・いろいろな授業を教えてくれるんでな・・・」それだけいうとドアを出て行ってしまいました。 つづく
2007.03.26
コメント(32)
今日で今シーズンのスキー大会、全て終了しました。最後は残念ながら、コースアウト転倒で「記録無し」に終わりましたんで、来シーズンの最初のスタート順は遅くなりますけど、マア・・・「お疲れさん」っていうことで・・・・明日は、先生たちの「離任式」・・・・転勤される先生たちへの挨拶を考えなくっちゃ!! 「魔法の木」の中に入った「ノブ」は、中の広さに驚きました。直径は確か、ドア一枚よりちょっと広い幅ぐらいでしたから、1メートル・・・あっても1メートル20センチぐらい・・・・その中に、こんなに広い部屋があるなんて信じられません。あちこちに赤や緑やピンクのドアがついていて、ここがエントランス・ロビーである事は間違いありませんから、その奥にも部屋があり、・・・ということはこの一本の幹の中には、きっと体育館並みのスペースがあるのです。「まだ、みんなが集まる時間には間がある。・・・お前はこの部屋の中に入って一歩も外に出るんじゃないぞ。」「西の魔法使い」は、そう言って「白いドア」の部屋を指差しました。ノブはあちこちの部屋を覗いてみたいように思いましたが、とりあえずは言われた通りに白いドアを開きました。ドアの内側も、やっぱり白で統一された部屋でしたが、部屋といっても、ノブが今まで暮らしていた「おばあちゃんの家」よりも、もっと広い部屋で、ベッドがあり、テーブルがあり、ソファーがあり・・・・そして大きな書棚があって・・・・ぎっしりと本がつまっていました。「わあ・・・いっぱい本があるなあ・・・この部屋は魔法使いのおじさんの勉強部屋なのかな?」ノブはその書棚の中から、一番薄そうな本を一冊取り出してみました。それはなぜだかわかりますか?その本の背表紙には、ノブが今まで見た事もないような文字でタイトルが書かれてあったのですが・・・・・その文字がまったく読めないノブにでも「魔法使い入門」と書かれてあるように感じられたからなのです。「僕の知らない文字なのに・・・なんでこの本が魔法使いの入門書だって感じるんだろう?」ノブは1ページ目を開いてみました。するとどうでしょう・・・・そのページに書かれてあった文字が一瞬空中に浮かび、それが急にノブの、目から鼻から耳から口から・・・・ありとあらゆるところから身体の中に飛び込んできたような気がしたのです。そして・・・その瞬間にそのページに書かれてあったことが全て、ノブには理解できたと感じられました。「え?読めないはずの文字なのに、なんで僕にわかるんだ?」気持ちが悪かったので、ノブはその本を放り出しました。そうすると今度はその本がひとりでに、すごい勢いでページをめくり始め、そのたびにまた文字が空中に浮かび上がってノブの身体めがけて突進してくるのです。その本がページをめくるのをやめるまで、ものの10秒とはかかっていないでしょう。その間に、ノブはこの本一冊の内容を全て理解したように思いました。「なんだ・・・気持ち悪いなあ」そのとき、ノブが入ってきたドアがひとりでにギーッと開きました。振り返るとそこには、一匹の猿がいました。もちろん賢明な読者の皆さんは、その猿が「モルトス」であるという事はおわかりのことでしょうが・・・・ノブは初めて会ったのです。「オイ、俺を匿ってくれよ」猿が口を利いたので、ノブはびっくりしたのです。 つづく
2007.03.25
コメント(14)
「魔法の木」っていうタイトル、なかなかいいでしょ?実はね・・・・先日、「シンデレラ」で仙波と聡子が会う約束をしたスナックが実在のお店だったんですよ。そしたら、それをばらしちゃった人がいてね・・・・叱られるかと思ったら、「ママ」も従業員の「さっちゃん」も喜んでくれて・・・・・だから、きっと「魔法の木」のマスターも喜んでくれるかな? 森の中の広場で、今日も「西の魔法使い」が来るか来ないかわからない新人の「魔法使い候補生」を待っていました。「どうせ今日も来やしないだろうなあ・・・・・」そのときです。ガサガサ・・・・・茂みの中から音がしました。「え?誰か広場に入ってこれたの?」しかし、そこに見えたものは猿の「モルトス」でした。この広場は別に人間でなくても、「魔法使い」になれる器量さえあれば入ってこれるのです。しかし、猿は「魔法使い」になれるかというと・・・それはそんなには簡単にいかないのです。当番の魔法使いは、入ってきたものに必ず、「魔法使いになりたいか?」と聞く義務がありまして、もし「なりたい」と言えば、そのものを弟子にして育てなければならなくなるのです。そして「モルトス」は「魔法使い」になる気満々でした。「西の魔法使い」は、前にも「モルトス」に「広場」に入ってこられ、付きまとわれて「魔法使いになりたい」って言われてたのですが、わざと見えないフリ、聞こえないフリをしていました。「なあ、俺を魔法使いの弟子にしてくれよ・・・なあ・・・なあってばあ!!」「西の魔法使い」の逃げる方向に追いかけて行き、何度も何度も頼むのですが「西の魔法使い」はぜったいに「モルトス」のほうを向こうとしませんでした。なぜなら、もし動物を弟子にすると、仲間の魔法使いからバカにされるからです。それに、動物が魔法使いになっていい事をした例が少ないのです。狸や狐を魔法使いにしたことはあるのですが、あいつらは人間に悪戯するためだけに魔法を使い、役立つ事をしないし・・・・できれば人間だけを魔法使いにしたかったのです。しばらく付きまとっていた「モルトス」ですが、「西の魔法使い」が知らん振りをするので30分ほどであきらめて立ち去りました。「あいつは諦めが早すぎる・・・・つらい修行には絶対ついてこられんな」「西の魔法使い」は自分が無視したにもかかわらずそんなような事をいいました。ガサガサ・・・・また茂みで音がしました。「またやってきたのか・・・しつこいなあ」しかし今度現れたのは、全く違う者でした。「人間?」そうなんです・・・・次に現れたのは人間でした。それも、年のころなら15~6歳の少年でした。「おじさんここ何処?」その少年は自分の身体についた草や木の葉を払いながら「西の魔法使い」のそばにやってきました。「お前にはわしが見えるのか?」「あったり前じゃないか・・・・変な上着を着た変なおじさんがよく見える」実は最近飛行機やヘリコプターがよく飛んでくるので、姿を見えなくしてこの広場で当番を続けることが多くなったのです。テレビの撮影のとき、誰も乗っていないブランコが揺れていたのは、「西の魔法使い」が暇に任せてブランコを、姿を消したまま乗っていたからでした。猿の「モルトス」は。動物ですから嗅覚が優れていて、気配を感じるって言うやつで・・・・後を追いかけたりすることもできるのですが、純粋に人間の場合、姿が見えるということは「魔法使い」としての素質が「モルトス」より遥かに上ということなのです。「お前名前は?」「僕は・・ノブだよ」「ノブ・・・・お前魔法使いになりたいか?」「おじさん・・・・魔法使いってほんとに信じてるのか?」おじさんと呼ばれて、ましてや「魔法使い」に向かって「魔法使いを信じてるのか?」と聞かれ、少しむっとしましたが、考えて見ると自分も「ただの人間」だったとき、魔法なんて信じていませんでした。「そりゃあ・・・・魔法使いになれたら何でもできるし、・・・・腹をすかすこともなくなるだろう・・・・・いいと思うけど」「お前、親がいないのか?」「ああ、僕が小さいころ、2人とも死んでしまって・・・・ついこの間までばあちゃんと一緒に暮らしてたんだけど、病気で病院に入っちゃったんだよ・・・・この前から親戚のおじさんに預けられてるんだけど・・・・いづらくてさあ・・・・それで今も散歩だっていって飛び出してきたんだけど・・・森に入り込んだら道に迷っちゃって」「西の魔法使い」は、ちょうどいい弟子候補が来たと喜びました。「ノブ・・・お前魔法使いになりたくないか?・・・・もしなりたいなら弟子にしてやる」「おじさん・・・・魔法使いなの?」「ああ。そうだ・・・・・西の魔法使いというんだが・・・」「夢だとしても面白いなあ・・・・やってみようかな?」「よしそれでは、早速じゃが弟子の儀式をしよう・・・あの大きな木のところまで来なさい」「西の魔法使い」はノブが後からついてくるのを確かめながら、先にたって歩き出しました。木の幹の前に立つと今度は右ひざをつき、お祈りするような格好で呪文を唱えだします。「カルベライヤケルベス・・・・・・ルナホジュレイフォス・・・・・」同じ呪文を三度唱えると・・・・不思議なことに木の幹にドアが急に現れ、「西の魔法使い」はそのドアを開けてノブにも入るように合図しました。ノブは最初驚いていましたが、魔法使いに促されるままドアの中に入りました。しかし、そのとき、それを影からしっかり見ていたものがいました。猿の「モルトス」でした。そして「モルトス」もまたこっそり・・・そのドアの中に入ったのです。 つづく
2007.03.24
コメント(12)
「魔法の木」のマスターから、開店三周年のお話しが出たのは、2週間ほど前でしょうか?その話を聞いているうちに、「魔法の木」というお話しが書けないものかと、考えていたのです。マジックだと、「その種はどうなってるんだい?」なんて聞かれることもあるでしょうけど、「魔法」なら何が起こっても不思議はありません。どういうお話になるかは・・・・いつものように書いている自分にもわかりません・・・・まあそれでも良ければ・・・・読んでみてくださいな・・・・ 深い森のほぼ中央に、小さな広場がありました。うっそうとした森に囲まれていて、そこだけぽつんと広場になっているのです。小さな小学校の校庭ほどの広さですが、真ん中に小高い丘がありその頂上には一本だけ大きな木が生えていました。どんな種類の木なのかまだよくわかっていません。この広場が発見されたのは、飛行機が発明され、ようやく上空からこの森の全体が見渡せるようになってからです。「あんなところに、一本だけしか木が生えず、あとは芝生のようになっているのは不思議だ?」何組かの探検隊が結成され、何度もここへ行こうとしたのですが、まだ1人としてこの広場に足を踏み入れた者はないのです。正確な航空写真を撮影し、地図を作り、方位磁石も特別値段の高いものを使うのですが、まだ誰もこの広場に到達した者はいないのです。ある者はスカイダイビングやパラグライダーを使いましたが、急に風が吹き、ながされてしまったり、またある者はヘリコプターで着陸しようとしたのですが、これも気流が突然変わったりしてうまくいきませんでした。あるときはおうぜいの探検隊が横一列に並び、森の中央だと思われる部分を声を掛け合いながら進んでみたのですが、いつの間にか森の反対側に出てしまい・・・どうしてもたどり着けません。たどり着けはしないものの、写真やテレビカメラなどで、撮影することはできるのです。もちろん、飛行機やヘリコプターに乗って、上空からの撮影しかできませんけど・・・・・あるときテレビの「夏の特番」で「怪奇!!!神秘の森、謎の広場」という番組が企画されました。その時撮影されたフィルムの中に、大きな木の一番下の枝に、ブランコがぶら下がっているのが映し出されていたのです。その時の中継のアナウンサーの声が、興奮して叫んでいました。「不思議です・・・まったく不思議です。・・・誰も乗っていないブランコが大きく揺れています!・・・・この広場には何があるのでしょうか?・・・人間の侵入を拒み続ける異空間、4次元スポット!・・・そこに明らかに人間の手によって作られたようなブランコ状のものが、誰も乗っていないのに大きく揺れています。」この番組はけっきょくお蔵入りになってしまいました。広場が映し出され、ブランコが揺れている絵だけ・・・・これではとても二時間の番組は作れなかったらしいのです。しかし・・・しかしですよ・・・・この広場に誰も足を踏み入れたことはない・・・って言うのは、本当ではありません。今まで何人かの人間が足を踏み入れているのです。それじゃあ、それはどんな人間たちなのでしょうか?実は、この広場に入れる人間・・・・・魔法使いになれる器量を持った人間なのです。それは、何十万人に一人、いや何百万人に一人かもしれません。そして、その人間が世界に数箇所ある、このような「広場」に偶然にでも足を踏み入れ、その時自分の意志を持って「魔法使い」になると決めたものだけが「魔法使い」になるのです。その器量があっても、この「広場」の存在に気がつかないもの、ここに来られても「魔法使い」になりたくないと決めたものは「魔法使い」になることはできません。でも誰がそれを、その迷い込んできた者たちに教えるのでしょうか・・・・・それはその時当番になった「魔法使い」が交代で教えるのです。今日の当番は「西の魔法使い」この「西の魔法使い」はいつもぶつぶつ文句を言っています。「北や南の魔法使いは、自分の拠点を持っている・・・・北の魔法使いは北極点、南の魔法使いは南極点・・・・そこへいくと、わしと東の魔法使いは、その拠点になるところがない・・・・わしが西へ西へと回っていう区と、またこの同じところに戻ってくる・・・それは東の魔法使いも同じじゃが、わしらにテリトリーはないからのう」一度北の魔法使いに文句を言ったのだが、「お前らは地球全部がテリトリーじゃろうが・・・わしなんぞ地球の北半分だけ・・・・お前らのほうが羨ましいわ」とごまかされてしまった。「それにしても今日も誰もこんのう」西の魔法使いが当番になったとき、まだ誰も迷い込んできた者はいなかった。「そりゃそうだ・・・・ここ数百年・・・この魔法の森の広場で、魔法の木に触れた者はいないのだからなあ」そう言って、一本だけ生えている大きな木を見上げました。 つづく
2007.03.24
コメント(12)
今日から復活しますよ!!卒業式やらなんやらで、なかなか時間が取れなかったんですけど、今日から、「シンデレラ」・・・また、しっかり書いていこうと思ってます。まだ送別会なんかがけっこうありますけど・・・「挨拶」がない分気楽にいけますから。ところで、卒業祝賀会でね・・・わたし酔っ払った勢いで、またよけいなことを言っちゃったらしいんです。今年は、うちの学校も60周年を迎えると言う話しはしましたよね。でね・・・「デス・ノート」の松山ケンイチ君が卒業生だっていう話しもしました。実はもう1人、有名人がいるんですよ。「亜蘭知子」さん・・・・皆さんご存知ですかねえ・・・・・作詞家の先生なんです。もともと女優さんなんですけど、作詞の才能を伸ばしまして、TUBEの「シーズン・イン・ザ・サン」とかの作詞をした人なんですけどね。その人に記念講演をしていただこうか・・・っていう話を、酔っ払った勢いで祝賀会の挨拶でしちゃったんですよね。もちろん面識もありませんし、「アポ」もとっていません。当時担任だった先生が、よく電話でお話をされてるそうで・・・・その伝で頼もうと思ってるんですけど、さてどうなりますことやら・・・・・・・・・・ 静子の送別会は型どおりに始まった。支店長の挨拶に始まり、担当課長の乾杯・・・・・それから静子の挨拶があって、一緒に来た婚約者、仙波の弟の紹介があって・・・・・・・それからは、あとは済崩し的に祝宴になったのだった。静子と仙波の弟は2人セットでお酌をして回り、静子の前までやってきた。「澤田さん・・・本当にお世話になりました。」「ご結婚おめでとう・・・・・あたし達みたいなパートまで呼んでもらって、今日は本当にうれしかったわ」「いえいえ、ほんとに澤田さんたちにはお世話になりましたから。」聡子は二人を眺めながら、自分が、前の銀行を退職するときの送別会を思い出していた。聡子も寿退社だったので、送別会は祝宴ムードだったが、俊夫は忙しく、当日の参加はできなかった。結婚式のご案内を出せなかった同僚もいたから、聡子は俊夫に「なんとか出席して欲しい」と頼んだのだが、俊夫は「忙しい」と言う一点張りでとうとう出てくれなかった。「ところで、久美子さんと兄貴は、どうなってるんですかね?」弟が聞いた。「さあ・・・あたしはよく知らないんだけど・・」実際・・・・同級生で小さいころからいっしょに遊んでいたということぐらいしか知らなかった。「いちど、あたし達がデートしてるときに、偶然あるお店で一緒になったことがあったんですけど・・・ほんと恋人同士みたいでしたよ?」静子がいった。「そういえばこの前ねえ・・・兄貴が困ってるんですよ・・・・久美子さんから、あなたが結婚するって言う噂を聞いたって言われたらしいんですよ・・・・でもおかしいですよね・・・・僕と静子のことはそのお店であったときに、ちゃんと婚約者ですって紹介したのに・・・・・今度の結婚は僕たちの話だって思わなかったんですかね?」久美子とこの前逢ったときには、「同じ銀行に勤める女性」と結婚すると聞いた・・・って話したのだが、静子の話では、その偶然であったときにも「自分は聡子と同じ職場にいる」と話したそうだ。久美子は「アア、あの人・・・」とは思わなかったのだろうか?その時、聡子の隣にいた久代が口を挟んだ。「ねえねえ・・・それって久美子ちゃん・・・お兄さんにカマをかけたんじゃない?」「カマって?」「自分達ももうかなり長い付き合いになるんだから、もうそろそろ、結婚しましょうよって」「それってありかもしれませんね・・・・兄貴鈍感だから気づくかどうか?」「そんなことないわよ・・・・ちゃんと考えて仕事してるし・・・銀行で貸付担当と話をしてるときなんか見てるけど、一生懸命よ?」「恋愛には鈍感なんですよ・・・だって小学校のときから一緒にいて、久美子さんがそばにいて当たり前・・・って思ってるでしょ?・・・・兄貴なら」「澤田さんが、お姉さんとしてアシストしてくれなくちゃ・・・あの人たち、ずっとこのまま年取っちゃいますよ」そこまで言うと、静子と仙波の弟は、隣の席にお酌をしに移動していった。「ねえ・・・・きっとそうだと思うわ・・・・久美子ちゃんって、けっこう気が強いから、自分から結婚してくださいっていうタイプじゃないし・・・・きっとかまかけたのよ」小さい頃から、二人姉妹で育ち、「自分が男のこの役割」と勝手に決めて、男のこのように育ったので自分から、「弱み」を他人に見せる久美子ではなかった。そんなことを考えているうちに、「送別会」はお開きになった。明日は、土曜日で銀行はお休みだから、みんなは二次会に出かける。しかし、聡子はこれから実家に行って泊まる事にしていて・・・・それも実家の母に説明をして泊まらなければならない。「俊夫とけんかした」・・・それだけの説明でよければ簡単なのだが、あの心配性の母親のこと、根掘り葉掘り聞くに違いない。二次会にも参加しようかと思ったが、同じパートの久代が「帰る」といっているので一緒に帰る事にした。先に久代が家に電話をして、旦那様が迎えに来てくれるという。「アア、聡子は・・・実家のお父さんの看病に行くんだったよね・・・・送っていこうか?」「ああ、妹がもうこっちに向かってると思うから。。。。大丈夫・・・先に帰って」実家の久美子に電話をした。「アア、お姉ちゃん・・・・・じゃあこれから迎えに行くけど・・・・ちょっと・・・・あんた・・・家の鍵・・・・もってる?」そういえば、昨日仙波とスナックであって、帰りはタクシーで送ってもらったのだが、バッグの中をいくら探しても、「家の鍵」は見つからなかった。探しているうちに、怖い顔をしてにらんでいた夫と話がこじれ・・・・そのままになっていた。「あんたの鍵ね・・・・仙波君が届けに来てくれたわよ・・・お姉さんの家に、自分で鍵を届ければいいんだけど誤解されると困るから、あたしのところに持って来てくれたの・・・・今日ね・・・昨日お姉ちゃんと一緒に行ったスナックに行ったんだって・・・そしたら、ママさんが預かっておいてくれて・・・・」仙波は久美子にそこまで話したのか?「お姉ちゃんの合鍵って・・・・アクリル製のガラスの靴のようなキーホルダーについてる奴でしょ?・・・・育美に聞いたから間違いないと思うけど」間違いなく自分のキーホルダーだった。昨日スナックで帰りしな・・・・仙波とスナックの料金のことでやり取りがあり、バッグのファスナーを開けたまま、財布を持って「自分が支払う支払わせない」と押し問答をしたとき、もしかして鍵を落としていたのだろう。「でね・・・・仙波君が・・・・さっきその鍵を持ちながら・・・・あたしにプロポーズしてくれたの・・・だから、お姉ちゃんへの相談はなくなっちゃった。・・・・俊夫さんにも一度相談したんだけど、”女同士のほうがいい・・・聡子と相談しなさい”って言われちゃって・・・・だから今日相談しようと思ったんだけど・・・・だってあの時、お姉ちゃんは育美をボーリングにつれてったことで起こってるんだもの・・・・」全てボタンの掛け違い・・・・・俊夫も、聡子も・・・それぞれが久美子と仙波の相談を内緒で乗ってしまったことからの誤解だった。「これから、迎えに行くから待ってて」久美子が電話を切った。聡子はしばらくの間受話器を持ったまま、呆然としていた。「ああ、どうしよう・・・・・」俊夫に言い訳なんてできない・・・・・そんなことを考えてるうちに、久美子の車が迎えに来た。そして、車から降りてきたのは・・・・・・・・俊夫だった。運転席の窓が開き、久美子の顔が見え、助手席には仙波の顔が見えた。「おねえちゃん・・・全て誤解だったのよ・・・その誤解を解くため育美は今日、おばあちゃんの家に泊めるわ・・・おねえちゃんは俊夫さんと一緒に飲みに行ってよく話し合って・・・・・あたし達は、ちょっとドライブしてくるから」久美子は、俊夫と聡子を残し車を出した。残された、俊夫と聡子・・・・・・・・最初に言葉を発したのは俊夫だった。「久美子ちゃんの相談され・・・・最初はお前に内緒にしてくれってことだったから・・・・内緒にしてたんだけど・・・・昨日のお前と同じことしてたんだよな・・・」「そうみたいね・・・・あの子達に振り回されちゃって・・・・」2人は肩を並べて歩き始めた。彼らが家に帰ったのはその夜、12時少し前だった。2人で落ち着いたバーで飲み、いろいろな話をした。育美の話、仕事の話し・・・そのほかいろいろな話を・・・・・そしていま、自宅に戻ってきたのだ。今朝出て行ったときにはそれほどの感じはしなかったのだが、いまこうやって見ると、自分のお城である。そしてすごくなつかしく思えた。聡子は、ガラスの靴のキーホルダーで玄関のドアを開けたのだった。
2007.03.23
コメント(12)
卒業式、無事終わりました。ただね・・・校長先生の「式辞」あと、教育委員の祝辞があって、そのあとだったんですよ。でね・・・・私の「祝辞」は「校歌のお話」中心だったでしょ・・・校長先生がそのお話を少しして、教育委員のお医者さんも、私のお話しと「かぶる」話しをしだしたんですよ。あせりましたねえ・・・・でね・・・「式辞用紙」を取り出して・・・そのままじゃ同じ話しをすることになるんで・・・・開いたはいいけど、その場で話をこしらえましてね・・・まるで読むことはできなかったんです。「今日のご挨拶、少し早くお話されましたね?」学年主任の先生の感想です。「でも、涙がほろりとさせるようなお話しで・・・お母さん方、皆さん泣いておられました。」すごい!あの場で作った話なのに、女性を泣かせちゃった。!!!いつも女性には泣かされてばかりなのに・・・・・・ 翌朝・・・・聡子は起きる気がしなかった。ソファーには俊夫が寝ている。説明をすればいいのだが・・・・俊夫も聡子に内緒で何かをしていると思うと、腹が立ってそんな気にならなかった。それでも育美の朝ごはんを作ってやらなければ・・・それだけで渋々起きた。ソファーには俊夫が寝ているのだが、気配には気づいていたようだった・・・狸寝入りをしているのである。聡子もそれと気づいたがそ知らぬふりをした。台所に行って朝食の準備をした。ごそごそと動く音がして、玄関のドアがバタンと閉まる。俊夫が出て行ったようだった。「いいわ・・・別に食べなくったって・・・・」聡子は追いかけるわけでもなくただポツリと独り言を言った。育美が起きてきた。育美にも俊夫が出て行った音は聞こえたようだが、そのことに関してはなにも言わず、こちらもただ一言、「この前までは何にもなかったのに・・・・」とつぶやいた。「今晩、お母さんは出かけるからね・・・・前からの約束だし・・・それから、そのまま、あたし、何日かおばあちゃんの家に行ってくるから」実は実家に戻るつもりはなかった。戻っても、久美子がいる・・・・妹とも話しはしたくなかったから、ホテルに泊まるつもりだった。銀行に出勤して仕事をしていると、仙波が昼近くになってやって来た。窓口で送金の手続きをしながら、久美子と連絡が取れたかどうか気にしている。「あとで連絡はしますから・・・・」そう言ってごまかしているが、久美子ともきちんと話しをしなければならない。夕方になり、窓口業務は終わり、そのほかの仕事をしているときだった。「澤田さん・・・・妹さんから電話よ」ほかの女性行員から電話の取次ぎがあった。「もしもし・・・・」「ア、お姉ちゃん・・・・さっき、育美から電話があったのよ・・・どうしたの?」「別に・・・・あの人が勝手に勘違いしてるだけよ」「今日うちに泊まるんだって?・・・・それでいいの?」育美がよけいなことまで久美子に話したようだった。「ええ・・・泊めてもらうけど・・・今日は銀行の人の送別会があるのよ。それが終わったら行くわ・・・・早々、その辞める人なんだけどね・・・・この前あなたに話したけど、仙波モータースの息子さん・・・・あなたの同級生じゃなくて弟さんのほうだったわ」ついでに話したが、これで仙波との約束も果たしたような気がした。「その送別会・・・どこでやるの?・・・もし時間があるなら、その後ちょっと相談があるんだけど」「家の泊まるんだからそれからじゃいけないの?」「うん・・・できたら外のほうがいいんだけど」「送別会は”甲子苑”っていう焼肉屋さんだけど・・・・」「じゃあ、終わったら電話ちょうだい?・・・迎えに行くから・・・その車の中で話し聞いてよ」二次会も予定されているようだったが、今日は二次会っていう気分じゃなかったので、タクシー代のことも含み、迎えに来てもらうのは助かる。仕事が終わり、今日の送別会に参加する人たちは乗り合いでタクシーに乗った。聡子は久代たち4人で乗ったのだが、久代は聡子のボストンバックに興味をそそられてようだった。「ねえ・・そのボストンバッグどうしたのよ・・・どっかに旅行?」「ア、ちょっと父が病気になったようで・・・・交代で面倒見ることにしたのよ」「ええ?入院したの?」「いえ、自宅療養なんだけどね・・・母と妹だけじゃ疲れるから・・・・明日は土曜日でお休みだし・・・・2日間だけ・・・親孝行よ」ボストンバッグを見られてこんな質問をされるということは想定の範囲だったから、あらかじめ答えは準備してて、すらすらと出てきた。「甲子苑」につくと、静子がみんなをお出迎えして待っていてくれた。隣に仙波とよく似た男が立っている。「ねえねえ・・・あの仙波モータースの息子、いつも銀行に来る人と違うわよね・・・似てるけど・・」「ああ、妹に聞いたけど、弟さんなんだって・・・」妹ではなく、仙波本人から聞いた話なのだが、久代に話すわけにはいかなかった。「アア、あなた、この方が、あなたのお兄さんの恋人・・・久美子さんのお姉さんよ・・・ほんとにお世話になったんだから」静子が如才なく、聡子を紹介した。「ああ、兄からうかがってます・・・・・僕は兄貴のほうから先に結婚して欲しかったんですけどね・・・」 あ、ここまで書いたらお出かけの時間続く
2007.03.22
コメント(12)
明日は、卒業式・・・・ということは明日も、「シンデレラ」を書く暇が無いんです。だから、今少しでも書いておこうと思います。でも、皆さん、ほんとに楽しみにしてくれてるのかなあ? 仙波と一緒にスナックで過ごした時間は30分ほどだろうか・・・・「お話しはそれだけなら・・・あたしそろそろ失礼しないと・・・」「あ、すみません・・・・ほんとにお忙しいところを来て頂きまして。・・そうですね・・・育美ちゃんが待ってますもんね」聡子が今日出てきたのは、浮気しようと思って出てきたのではない・・・・それは確かに、仙波が子供のころ聡子に憧れていた・・・と聞かされて悪い気はしなかったが、それでどうのこうのという話しではないのだ。妻である事、母である事を少しだけでも忘れてみたかった部分もあるのだ。結婚してから今まで・・・・「澤田さんの奥さん」とか「育美ちゃんのお母さん」と呼ばれることはあっても、「聡子さん」とファーストネームで呼ばれることはあまり無い。「一個の人間」として扱われることは少なく、「夫の妻」であり「子供の母」であり・・・ほとんど付属品扱いされているような気がして、寂しかったのだ。今日仙波と会えば、「一人の女性」・・・いや「一人の人間」として扱ってもらえるのではないかという期待があったのだ。それなのに、今の発言でもわかるように、ここでも「久美子の姉」であり「育美の母」・・・付属品扱いなのだ。「私はひとりの女よ」・・・・聡子は大きな声で叫びたい気分だった。「あたし帰るからね・・・おいくら?」「あ、ここは俺がお呼びしたんですから俺が払います。・・・あ、ママ、タクシー呼んでくれないかな?」タクシーも暇なのか、すぐに来た。「あ、俺が送って行きますよ」聡子は断ったのだが「どうしても」といわれ、送ってもらうことにした。タクシーの中では2人とも無言だった。特に話す気にもなれなかった。家のすぐそばでタクシーは停まり、聡子は車の中に「ありがとう」といいながら降りた。タクシーを見送り、家に入ろうとバッグの中の鍵を探したが見つからない・・・・「あら?何処にいったのかしら・・・・」バッグの中をかき回しながら玄関の前まで行くと・・・・大きな影があった。ふと見上げると、そこには俊夫が立っていた。「おい、今のは誰だ・・・・?」かなり険しい顔だ・・・・・「お前は、東京から帰省している友達に会うっていってたよな?・・・今の男がその東京の友達なのか?」見られた!聡子はまずいところを見られたと感じた。「そんなんじゃないよ・・・」「男の友達じゃないとはいわなかったけどな・・・・」「そんなんじゃないってば!・・友達と会ったあと帰ろうとしたら、銀行のお客様とばったり会って、方向が同じだから乗せてもらったのよ」そのとき玄関の戸が開き、育美が顔を出した。「2人とも外でなに話してるのよ・・・・早く家に入ったら?」2人は家に入ったが、険悪な状況は変わらない。俊夫は完全に誤解している。聡子はそれでもちゃんとした説明はしなかった。(あなただって久美子と会ったとき、役所で打ち合わせとか・・言ってたじゃない)聡子の意地であった。「出て行け・・・・今すぐ出て行け・・・・」小さな声だったが、それだけに俊夫の怒りの大きさを感じた。「出て行くわよ」売り言葉に買い言葉・・・・聡子にしてもたまりにたまった鬱憤が爆発したような感じだった。ボストンバックに着替えを詰め込んで、聡子は家を飛び出そうとした。「やめてよ!・・・お父さんもお母さんもどうしたの?」育美に押しとどめられて聡子はソファーに押し付けられた。「ちゃんと話し合ってよ・・・なにがあったの?」「育美、お母さんを寝室に連れて行け・・・俺はソファーで寝る。」「そうね・・・それがいいかも・・・明日落ち着いて話しましょう。。。ネお母さんいいでしょ?」そのまま今度は寝室に連れて行かれた。聡子は家族が壊れていくような気がした。 つづく
2007.03.20
コメント(24)
卒業式の「祝辞」の原稿・・・ようやくあがりました。これから「社内ラン」で総務に送り、そこで「式辞用紙」に縦書き・筆文字のフォントで印刷します。「終わったんなら、シンデレラの続きを書けよ!」そんな声が聞こえてきそうなんですけど、今日はちょっと無理だなあ・・・・なんも考えたくないんです。そこで、「祝辞」の骨子を、明日の式に先がけまして、発表することと致しました。そのまんまじゃないけどね・・・・「いつもならまだ雪の残っているこの季節に、今年は皆さんの明るい未来を予感させるような明るい太陽に満ち溢れています。皆さんがこの第2田名部小学校に入学されたとき、まだ小さくて、顔もあどけなかったものでしたが、それが今では、身体もすっかり成長して大きくなったし、話す言葉もすっかり大人びています。「まきのこ」としてどこに出しても恥ずかしくない、立派な中学生になってくれるものと信じています。皆さんは今日、この小学校を卒業し、これから中学校に進みますが、どうぞこの第2田名部小学校で学んだことを忘れないでください。第2田名部小学校は今年60周年という節目の年を迎えます。校長先生と同じ年です。その時の6年生で1年間だけこの二田小で学んだ子供達は、計算して見ると、皆さんの年に60歳を足すことになりますから72歳になられています。当時はこの場所ではなく、代官山にありました。私も第2田名部小学校の卒業生として、その代官山で学びました。今でもなつかしく思い出されます。代官所があった山だから代官山なのですが、校歌の中にもそのことが出てまいります。「古館のあとをここにして・・・」古い建物があったところという意味で、これは代官所のことをさしているんですよね。校歌というのは、ニ田小の姿をすっかりそのまま描いているのです。さて、昨年も私は校歌のお話を致しました。「ムラサキ匂う」というで出しの歌詞は「緑が匂う」の間違いじゃないか・・・皆さんにも去年は5年生の在校生代表として聞いてもらいましたが、そのあと校長先生から調べていただき、「ムラサキ」とは染め物の原料となる、小さな白い花だということがわかりました。皆さんにも同じ話しを致します。皆さんが校歌を歌う機会はもうないかもしれません。中学や高校などの校歌は同窓会という会で歌う事があるかもしれませんが、小学校の校歌は、将来皆さんが先生になってこの学校に赴任してくるか、子供を二田小に入れてPTAとして学校行事に参加すること以外ないのです。時々思い出して口ずさんでいただきたいものだと思います。今日は校歌を6年生全員で歌う最後のチャンスです。どうぞしっかりかみ締めながら、この6年間、お世話になった先生、友達、そして家族の皆さんにありがとうと言う思いを込めて大きな声で歌ってください。先生方に申し上げます。今日この卒業式を迎えることができましたのも、センセイがたの熱心なご指導の賜物ときょうご出席の6年生保護者の皆様に代わり深く御礼申し上げます。後々、子供達が先生のところに相談に伺うかもしれません、その時はどうぞ話を聞いて相談にのっていただきたいものだと思います。よろしくお願い申し上げます。最後になりましたが、保護者の皆様にもお礼を申し述べたいと思います。皆様のご協力なしではPTA活動は順調に運んでこられなかったと思います。歴代の会長さんも、きっと私同様皆様にお礼の言葉を添えたかったものと思います。特に先ほど子供達に申し上げました、校歌の「ムラサキ」の話がきっかけとなり60周年の記念事業の半纏を製作した折には、皆様のご協力なくしてはできなかったことだと思っております。せっかく作った半纏でしたが、6年生の皆さんには着ていただくことはできませんでした。それが私のとっては大変残念なことではありましたが、せっかく作っていただいた半纏、大切に使わせていただきたいと思っております。これからこの第2田名部小学校がよき伝統を引き継ぎ、守っていくことを願っているのは保護者の皆さん、諸先生方も同じだと思います。そしてその願いを叶えてくれるのは今日ここで卒業する111名の卒業生です。どうぞ皆さんがんばってください。そして、今日で最後の校歌を、卒業生も在校生も保護者の皆さん、諸先生方も、大きな声で歌っていただきますよう、お願い申し上げまして、簡単ではございますが「はなむけ」の言葉とさせていただきます。 平成19年3月21日 むつ市立第2田名部小学校 父母と教師の会 会長 内藤嵯針 こんなもんでいかがでしょうか?
2007.03.20
コメント(16)
あ、明日とあさってね・・・・PTA会長としての「卒業式の祝辞」作成しないといけないからシンデレラ・・・・ちょっと休憩させてね時間があれば書くからね
2007.03.18
コメント(24)
ジュニアがまだ完治してないので、今日もスキーにいけません。でも21日、ジュニアのデビュー戦があるんですよね。練習しないと・・・・あ、小学校4年生から「ポイント」がつくんです。で、21日の鯵ヶ沢の大会からは4年生という事になるんで見に行きたいんですけど・・・でも・・・・その日は卒業式・・・・PTA会長挨拶・・・副会長、代理でやってくれないかなあ。 「俺、今まで結婚の事なんか考えた事ないんですよ・・・弟が結婚するって聞いても、よかったなあ・・・って思うだけで・・・・でも、日曜日に久美子に噛み付かれて・・・・別に久美子から”結婚してくれ”って言われたわけじゃないし、彼女も独身貴族のままのほうが気楽だっていうし・・・・」久美子は聡子にも、ずっと結婚なんかする気はないと言っていた。「デモね・・・あの時、俺、自分の気持ちの中に、”久美子と結婚したい”って言う気持ちがあったってコトに気づいちゃったんです。」「それを久美子に言ったの?」「言おうと思ったんだけど・・・・久美子の奴、むちゃくちゃ怒ってて人の話なんか聞くような状況じゃなかったし・・・それで、お姉さんに応援してもらおうかと思って・・・」久美子にプロポーズしたいからお膳立てしてくれ・・・・どうやら、仙波の相談はそのことらしい。しかし、仙波は俊夫と久美子のことを知っているのだろうか・・・・・知らないなら教えてやろう・・・いや・・・・ここで、わざわざ家族の恥になる話をする必要はない・・・・・「で、あたしになにをしろと?」「久美子に、この前の件は勘違いだったからって話して欲しいんです。」「それくらいなら・・・ホントに勘違いなんだからなんとデモするけど・・・・」しかし、まだ俊夫とのことも解決してないまま久美子と会うのはいやだった。「ほんとに、あのあと・・・何度も電話しても俺だってわかると電話切っちゃうんです。」その辺は、姉妹だから気性も似ていて・・・・いやだと思ったらてこでも動かないのだ。自分が間違っていても、絶対に非を認めない・・・・そうやって何度も失敗してきた姉妹なのだ。もしかしたら久美子も、仙波君に結婚相手がいるのに何で教えなかったんだと責めた後、それが姉の勘違いだとすぐに気付いたのに・・・・そのことを誤れば負けになるとでも思ったのだろう・・・・謝ればすむものを・・・・突っ張ってしまったの違いない。そういう妹なのだ・・・・え?待って?・・・・・って言う事は、この前俊夫と会っていたのも、そのことを相談するため・・・・・?????でも、俊夫だって、役所との打ち合わせ・・・と嘘をついている。やっぱり怪しいことには変わりなかった。「仙波君・・・・でも、もし・・・もしよ・・・久美子がそう怒ったとしても、実は好きな人が他にいたとしたら・・・どうする?」「そんなこと・・・」あるはずがないと、仙波は続けたかったのだが、実際のところ、そんな話を久美子とした事もなかった。「じゃあとにかく、、あなたの結婚話は、私の勘違いだと伝えておくわ・・・あとはあなたたちにお任せするしかないと思うし・・・」「それでいいです」仙波は緊張した面持ちでうなずいた。 つづく
2007.03.18
コメント(6)
今日は土曜日で、どこからも電話が来ない・・・時間があるときは書き進めなくちゃね。 夕方になって銀行を出るとき、男の行員から「オオーッ」と言う感嘆の声が漏れた。聡子の「ショッキング・ピンクの洋服」が言わせたのだろう・・・・しかし、聡子は気にしないような素振りで「ご苦労様」と声をかけ表に出た。「今のは似合ってるっていうことなのかな?・・・それともおばちゃんが今日は派手だなっていうことかしら?」いまさら、家に着替えにも戻れないし・・・そのままの格好で「オデオン座」の前までやってきた。「確かこの辺に美味しいラーメン屋さんがあるはずなんだけど・・・・」この情報は俊夫からのものであった。子供が小さいときはほとんど外食なんかしなかった。PTAの会合なんかでは、よそのお母さん達から美味しいお店を教えてもらったりしたのだが、なかなか行く機会もなかった。「酒を飲んだ帰りのラーメンのスープがいいんだよなあ・・・特にあそこのスープ、絶品だよ」俊夫から教えられたラーメン店だった。ようやく探し当て、窓越しに中を覗くと、男の客だけしかいない・・・「1人じゃ入りにくいな」あきらめた聡子は、近くの小さな喫茶店で「スパゲッティ・カルボナーラ」を食べた。喫茶店の目の前に「オデオン座」がある。今上映中の映画は「恋愛もの」だから、カップルが多い。数組のカップルが、食事をしながら見ていた聡子の目の前で映画館に吸い込まれていった。さっき上映時間を確認したら、もう少し時間がある。「カフェオレ・・・ください」通りかかったウェィトレスに注文した。すぐにそれは運ばれ、聡子はそのカップに両手をつけて温かさを感じていた。聡子の奥のテーブルに座っていたカップルが立ち上がる。このカップルも映画を見に来たのだろう・・・その2人のすぐあとを聡子は「カフェオレ」を半分残し、一緒に立ち上がってレジに向かった。カップルは女性のほうが食事代を支払っている。「お父さんは、絶対あたしに払わせなかったなあ」昔の「デート」したときの思い出がよみがえってきた。映画館に入ると、7割がた席が埋まっていたのだが、ほとんどがカップルで自分達の周りには誰も来ないように、二人並んだ両側の席は空席になっていた。だから、聡子は真ん中で見ようと思っていたのにどうしても壁際の席しか確保できなかった。映画が始まり、予告編が入った。最近話題の「宮崎アニメ」の予告編である。「そういえば、映画館なんて、育美と一緒にアニメ見ることしかなかったなあ」小学校の6年間・・・映画館といえばほとんどアニメだった。中学に入ると、育美は友達と映画を見るようになり、聡子と一緒には映画館に行かなくなっている。自分の見たい映画を見るのは久しぶりなのだ。しかし、その映画は前評判どおり・・・とはいかなかった。テレビのCMではいっている場面が本当のいちばんメインのシーンで、これなら、テレビCMだけでたくさんだと・・・・聡子は思った。映画館を出たのが7時40分、・・・・・・仙波と約束したスナックはすぐに見つかったのだが、知らないお店に一人ではいるのは気が引けた。「居酒屋さんにしてもらえばよかったなあ」それでも、勇気を出してそのスナックのドアを開けた。「いらっしゃいませ・・・」気だるい雰囲気のママさんと、ポッチャリとした可愛い従業員が聡子を迎えた。客は誰もいない・・・・「お1人ですか?」「待ち合わせなんですけど・・・・」「アア、仙波ちゃんのお客様ですね・・・伺ってました・・・そちらのボックス席のほうにどうぞ」「ア、待ってるあいだ・・・カウンターの席に座っててもいいですか?」ママは少し不思議そうにしながら、カウンターの席を勧めた。ボックス席に一人いると、ママや従業員に横目で監視されてるような気がするのだが、カウンターの席なら目と目を合わせながら話をして飲むことができる。「なんになさいますか?」「ビールください」お酒の種類はほとんど知らなかった。俊夫は家では飲まない・・・・もともと弱いのもあるが育美に酔った姿を見せることを極端に嫌った。そのくせ、外で飲んで帰ると、寝ている育美を抱き上げて頬ずりすることが何度もあった。「さあ・・・どうぞ・・・」ママにビールを注いでもらった。「仙波ちゃんのご親戚の方なんですってね・・・お客様・・・」「ええ・・・」仙波は聡子のことをなんて話したのだろうか?「結婚式の打ち合わせかなんかなんでしょ?」「なんの話しかよくわからないんですけど・・・相談があるって・・・」「仙波ちゃん・・・けっこうここに来るんですけど、いつもひとり・・・・婚約者がどんな人なのかさっぱりわからなくって・・・今日女の人を連れてくるって言ったからてっきり婚約者だと思ったら、親戚の人っていうでしょ?・・・ちょっとガッカリしちゃった・・・あ、ごめんなさい・・・変な意味じゃなくてよ?」婚約者も連れてこない店を、今日の待ち合わせ場所を指定する・・・これはやはり、婚約者には内緒の話なのだろうか・・・・でも、ママさんとはかなりの顔なじみのようだ・・・・聡子は仙波の真意がわからなくなっていた。約束の時間を5分ほど過ぎたころ、仙波が店に飛び込んできた。「スミマセン・・・遅くなって」息を切らせながら入ってきたところを見ると、かなり急いだのだろう。「仙波ちゃん・・・何してたのよ・・・ずっと待ってたんだから・・・ハイ、お水」ママが叱るようにいいながらコップに入った水道水を渡した。「ママ、ボックス席に移るからね」席を移り、腰掛けるとすぐに仙波は話を切り出した。「お姉さん・・・・実は日曜日に、俺、久美子に変なこと言われたんです。・・・・婚約者がいるのに・・・って」「え?」「お姉さんが言ったそうですね?・・・・俺に結婚相手がいるって」「だって、静子さんが・・・・・」「静子ちゃんは、俺の弟の婚約者なんです・・・・きっとお姉さんが勘違いしたんだからって言っても久美子の奴、信じちゃくれないんです」弟の・・・婚約者・・・・「弟が結婚するのに、なんで内緒にしとくのよって・・・」本人の結婚でなければ、友人に報告する必要はない・・・・なんで、久美子が怒るの?聡子は混乱していた。 つづく
2007.03.17
コメント(14)
今日は土曜日ですけど、「出勤日」です。当社は、海の工事が多く、いったん「シケ」になると船が一週間遊びになるのです。ア、素人の人はわからないでしょうけど、海って今日「シケ」るでしょ?・・・そうするとその波が穏やかになるまで一週間続くんですよ。その間、もし船をよそから借りてきた場合、1日「100万」以上の費用がかかっちゃうんです。一週間続けば「700万」・・・これをただ捨てることになるんですよね。だから、土・日連休なんて無理なんです。 眠れないまま夜明けを迎え、聡子は白々とあけたころベッドから起き出した。「大丈夫なのか・・・寝ててもいいぞ?」気配に気づいた俊夫が、聡子に向かって声をかけた。返事もしないで部屋を出ようと思ったのだが、離婚したら、育美と2人で生活していけるだろうか?もし、このままの暮らしを続けていれば、俊夫が自分の元に帰ってきてくれるのだろうか?そんな不安から、思わず返事をしてしまった。「朝ごはんの準備をするのよ」朝ごはんの準備ならもう少しあとからでも充分なのに、俊夫と同じ部屋にいるのも耐えられなかった。朝食の準備ができ、いつもなら二人を呼ぶのだが、今日は俊夫に声もかけたくなかった。「育美・・・ゴハンできたわよ・・・起きなさい」一人を呼んだにもかかわらず、俊夫も起き出して来た。「今日は銀行休んで、病院へ行ってきたら?」「今日は忙しいのよ・・・休んでなんかいられないわ」俊夫が優しく声をかけても、わざとらしく感じてつっけんどんに答えてしまった。二人を送り出し、聡子も出勤の準備をして外へ出た。2月の風が肌に痛く感じる。いつもなら20分ぐらいの距離を今日はブラブラと歩いて見たりして・・・銀行についたのはぎりぎりの時間だった。久代が「顔色悪いわよ・・・具合でも悪いの?」と心配してくれたが、いくら友人でも、これは話すことができなかった。「なんともないってば・・・だいじょうぶ、ありがとう」「外回り、行って来ます」元気な静子の声が響く。自転車で出かける静子が、正面玄関の前で、誰かと立ち話をしているのが聡子の窓口からはっきり見えた。立ち話を終え、銀行のロビーに足を踏み入れたのは、仙波モータースの専務、・・・つまり静子の婚約者だ。まだ開店まもなくの時間だったから、行内はすいている。仙波はまっすぐに聡子の窓口にやってきて、メーカーへの送金を依頼した。「このたびはおめでとうございます」聡子はさりげなく仙波にお祝いを言った。仙波は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに気づいたのか「ありがとうございます」と綺麗な歯並びを見せて微笑んだ。書類を確認し、仙波は出て行ったのだが、玄関口で立ち止まり、何かを考えたのか、すぐに窓口に引き返してきて、聡子に話し掛けた。「川村久美子さんのお姉さんですよね?・・・・実は久美子のことで相談があるんですが・・・・今日明日は都合が悪いんで、あさって木曜日の夕方でも、お時間作っていただけませんか?」最初は「敬称」をつけて呼んでいるのに、あとで「呼び捨て」にしている。「久美子のことなの?」「ええ・・・まあ・・・ちょっとここではなんなんで・・・木曜日、また銀行に来ますから、その時待ち合わせの時間と場所をお知らせします・・・よろしくお願いします」仙波はぴょこんとお辞儀をすると、そのまま外へ早足で出て行った。何の用事かわからなかったが、家に戻りたくない聡子にとっては渡りに船だった。金曜日は送別会に行くと言ってある。木曜日も、東京に行ってた同級生が実家に戻ってきていてそこへ行ってくるからとでも言えばいいのだ。俊夫が勝手なことをしているのだから、自分だって好きにさせてもらう・・・・聡子はそうすることに決めた。それからの2日間は、瞬く間に・・・いや・・・・葛藤の連続の日々だったのだがその2日間・・・俊夫とは一言の会話もないままに過ぎた。俊夫も、聡子が「何かに怒っている」と感じているらしく・・・初めはその原因を聞きだそうとしたのだが、最後には「勝手にしろ」と捨て台詞を残し、さっさと寝てしまうのだった。水曜日には仕事中に久美子から「相談がある」と言う電話が入ったが、「今週は忙しいから来週にして」・・・と電話を切った。木曜の朝・・・・いつものように朝ごはんを作って、育美を起こす。俊夫も起きだしてくる。聡子に会話をする気もないのだから挨拶もせずに、俊夫はパジャマのまま新聞を読み出した。しかし、今日は聡子が「でかける」ことを話さなければならない。「今日、あたし、東京にいってる同級生が帰ってきてるから、その人と会いに行ってくるから。」会話のきっかけができたと思ったのか俊夫がすぐに反応した。「明日も出かけるんだろ?・・・今日は辞めておけよ」「用事が重なる事だってあるわよ・・・その人明日の朝は東京に戻っちゃうんだから。。。今日しかないのよ」聡子は俊夫に言訳する必要はないと思い、すぐに育美に向かって声をかけた。「いいでしょ、育美・・・・明日の夜は魚が冷蔵庫にあるからそれを焼いて食べてて・・・あさっては塾があるから終わったあと、・・・そうね・・・お父さんと一緒にあそこのファミレスに行って食べてちょうだい・・・お金は置いとくから」近所に24時間営業のファミレスがあった。俊夫と2人だけにさせたくはなかったが、それもしょうがないことだった。二人を送り出し、聡子はいつもより念入りに化粧を始めた。そして、明日のために買っておいた「ショッキングピンクのアンサンブル」をだして、それを着ていくことにする。銀行に着くとあんのじょう、久代が「ヒュー、今日はドハデ!」とからかったが、「なにいってんのよ、これくらい着れなくちゃ・・・あたし達、まだ若いのよ」そう答えた。仙波が銀行にやってきたのは、11時過ぎだった。「すみません・・・・急ぎの仕事もあって、今日出かけられるのは8時ぐらいになるんですが・・・」「大丈夫よ・・・それまでご飯食べたりしてるから」「じゃあ、”オデオン座」って言う映画館の脇を入ったところに、”スナック・イブ”ってありますから・・・・そこで8時に待ってますから」それだけいうと、仙波は出て行った。そういえば、聡子には見たい映画があって、それが今、「オデオン座」のかかっている。夕食はラーメンでいい・・・・映画でも見ようかな?・・・・そう思い始めていた。聡子は今まで、映画館にひとりで入ったことはない。聡子は「冒険」が始まる予感がしていた。 つづく
2007.03.17
コメント(14)
次回策を「魔法の木」というタイトルにしようと思い、今のところ、「シンデレラ」を書きながらいろいろ構想を練ってます。最初のシーンは、「ギロチンで頭部切断のマジック」をしていたとき、アシスタントを勤めていた主人公「桝田虎雄」の妻、「松江」の首が本当に切断されるところからはじめます。そして、次に警察の取調室で「桝田」がティファニーの指輪を眺めながら自供を始め・・・それから回想シーンに入るのです。とここまで考えて・・・「お祝いに奥さん殺して、マスターを警察で自供に追い込むのはまずいだろう」と思い、コレは没にしました。やっぱりメルヘンがいいなあ・・・・・・・ 聡子はどうやって家に帰ったのか覚えていなかった。まさか夫と妹の「密会」の場に立ち会うことになろうとは・・・・・家の鍵を開けるとき、手がぶるぶると震えて、うまく鍵穴に差し込むことができない。ようやくドアを開け、家の中に一歩踏み込むと後ろ手でドアを閉めた。そのとたん、聡子の両目からぼろぼろと涙があふれ出て、それを抑えることができなかった。ひとしきり泣きはらすと、聡子は靴を脱ぎ、居間へ入って電灯をつけた。「育美が帰ってきても、さとられないように・・・・・」そんな配慮が働いたのかもしれない。テーブルの上に「酢豚を温めて食べてください。あたしは頭が痛いので寝ています。」というメモを残し、寝室に行って布団をかぶり、また声を押し殺して泣いた。それからどれくらいたったのだろうか・・・・・寝室の外から育美の声がした。「お母さん・・・大丈夫?」「ああ、・・・うん」「風邪かなあ・・・薬飲んだの?」「大丈夫よ・・・だいぶ良くなったから・・・・ご飯食べた?」「ううん・・・今帰ったばっかりだから」「早くご飯を食べて・・・お風呂に入りなさい」そのとき玄関のドアが開く音がした。「ああ、お父さん・・・おかえり」俊夫が帰ってきた音であった。「どうしたんだ?」「お母さんが、頭が痛いって寝ているのよ」寝室のドアが開き、俊夫が入ってきた。「だいじょうぶか・・・・」そう言って聡子の頭に手をやり、熱を計ろうとした。聡子はその手をよけるように寝返りをうった。「熱はないのよ・・・ただ頭がいたいだけ・・・明日になればよくなるわ」「それならいいけど・・・・病院に行かなくていいのか?」「大丈夫・・・もう休ませてくれない?」「ああ・・・」俊夫は、心配そうにドアを閉めて出て行った。(こういう時って、ふつうなら、実家に帰るんだろうけどなあ)でも、実家には久美子がいる。自分の居場所がないって思うと聡子はひどく情けなく感じ、寝つけないまま布団を転がっていた。しばらくして、パジャマに着替えた俊夫が入ってくる。「大丈夫か?」しかし、聡子は返事をしなかった。俊夫はそのまま隣のベッドに入行って、向うを向いたまま寝てしまった。(俊夫に問い質した方がいいのだろうか・・・・・それとも、このまま知らないフリをして生活しているほうがいいのだろうか・・・・)まんじりともしないで夜は更けていった。 つづく
2007.03.16
コメント(10)
祝 「魔法の木」開店三周年!!!「魔法の木」開店3周年ということでおめでとうございます。ということで、「シンデレラ」を書き上げたら、今度は「魔法の木」というタイトルで、何か書きたいと思います。「ムーミン」のようなメルヘンチックなものになるか、それとも、「マスターと奥様」の愛憎劇になるか・・・・それは今まだ考えてませんけど、タイトルだけは決めました。しかし、ここのづく社の皆さんをモデルにするだけで、どんなものでも書けそうな気がするから不思議ですよね。 土・日の休みが終わり、また新たな一週間が始まった。いつもなら憂鬱な一週間の始まりだったが、今週は少し違っていた。金曜日には静子の送別会がある・・・久しぶりに家庭を忘れて外に出れる・・・そう思うだけでウキウキしていた。銀行の更衣室で静子とあった。「澤田さん、金曜日はお誘いしちゃってすみません・・・でもどうしても出ていただきたくて・・・」「静子ちゃん・・・結婚なんだって・・・おめでとう・・・ぜひ出席させていただくわよ・・でも、旦那様になられる方・・・こんな綺麗な人と結婚できるんだもの、ほんとに幸せな人ね」どこか、若かりしころの自分に似ているような静子を見て、「綺麗な人」といってしまい、くすぐったい思いがした。「金曜日には、あの人も連れてきますけど・・・あまりからかわないで下さいね。」「あの人」・・・つまり、仙波もその会に出席することになっているのだ。(もしかして、仙波は、あたしの代用品として静子を選んだのかもしれない・・・・)そういう思いがあり、もし、その会に仙波が来るならば、自分が出席するのはちょっと悪いような気もしたのだが、少し意地悪をしたいような気持ちも少しあった。「新しい洋服でも買って着て行こうかしら」経済的には余裕がないのだが、ここ数年・・・新しい服なんか買ってない・・・少しならへそくりもあるし・・・思い切って買おうかな?そんなことを考えていた・・・ちょうどその時、聡子の携帯がなった。「アア、今日は工事の完成検査のことで役所と打ち合わせがある。・・・ちょっと遅くなるから、晩飯はいらない」夫の俊夫だった。今日は育美も、友達の家で宿題を済ませ、まっすぐ塾へ行くと言っていたから、晩御飯は九時までにでかせばいい・・・「洋服は買えないかも知れないけど、ウィンドーショッピングでもしようかな?」聡子は、「地球が自分の周りを回っている」・・・そんな気持ちになっていた。その日の夕方、聡子はデパートまで出かけた。3時に窓口業務が終わり、聡子は課長に私用があるからと断って職場をあとにしたのだから、デパートをユックリ見て廻ることができる。ショッキング・ピンクのアンサンブルで、上着の裾のほうに、大きな花柄のプリントされてるものが聡子の好みにぴったりであった。試着室で、いちおう袖を通してみたのだが、鏡に写る自分の姿を見て・・・・「まだまだいけるじゃない」・・・・そう思った。似合っているのだから問題はないのだが、聡子は主婦であった。「どうしようかな・・・・似合うと思うんだけど、ショッキング・ピンクだしな・・・・」もうすぐ40代だと思うと、もうひとつの淡いピンクのものがいいように思うし、まだまだ30代だと思うと、「これくらい着れなくちゃ」と思った。「もし着れなくなっても、育美にあげればいいんだし・・・あの子は私に似てるから、この洋服だってきっと似合うわ」聡子は「まだまだ30代の自分」を選んだのだった。値段もへそくりを全額はたかなくても買える金額だったし、聡子は満足していた。「帰ってお料理するの面倒だな・・・・せっかくデパートに来たんだから、デパ地下でお弁当でも買っていこうかな?」しかし、炊飯器の中には今朝炊いたご飯がある。けっきょくはデパートのお惣菜コーナーで「酢豚」を買いそれで済ませることにした。「そうだ・・・帰りは、あのお店でケーキとコーヒーでも飲んでいこうかしら」独身時代、よく俊夫とデートした喫茶店がこのデパートの近所にあった。少し歩いてそのお店の前まで行くと、大きな窓があり、中の混雑が覗ける。今日もかなりの客が入っていた。ふと、ある客に目が留まる。・・・・・・久美子だ・・・・・・久美子なら、このお店のことも知っていて当たり前だった。聡子に俊夫を紹介したのは、実は久美子だった。インテリア関係の仕事をしている久美子はよく、建設会社に出入りしている。もちろん、建築関係の仕事で行くのだが、あるとき俊夫の会社に行って俊夫と知り合ったのだ。俊夫は土木の技術者だがしょっちゅう出入りしていて、会話するようになったらしい。「誰かを待っているのかしら?」店に入り話し掛けようかとも思ったが、もしかしてデートかもしれない・・・こっそり覗いてやろう・・・・・そう思った聡子は、大きな喫茶店の、奥のほうに席をとった。「ここなら気づかれないわ」コーヒーを注文して、しばらく待つと、久美子の席に一人の男が立った。聡子に衝撃が走った!俊夫だ!遠い席だから何を話しているのか聞こえなかったが、立ったままの俊夫がテーブルの上の伝票を持って組みこを外へ出るよう促しているようだった。久美子も俊夫も、いつになく真剣な顔をしている。「まさか・・・・・」聡子は立ち上がれなくなり・・・・外へ出て行く二人を見送った。 つづく
2007.03.16
コメント(8)
この物語のモデル・・・「ほびさん」だとか、「苺みかんさん」だとか、いろいろ取りざたされていますが、この「お2人」とも「危険なことには絶対に手を染めない」人だと思ってます。だから、モデルじゃないですよ。あたしだったら、「いつでも受付してますけど・・・」ア、「とっこ先生」が、かみさんかも知れないんだった!嘘、! うそうそウソウソ・・・・・・私はそんな受付してないからね ! 久美子と昼食後、聡子は機嫌よく家に戻ってきた。「お母さん・・・なんか、今日は綺麗じゃない?」「え?・・・アア美容院に行ってきたからね」「そうじゃなくて、・・・・ルンルンしてて、女子高生みたいよ」久美子がほかの女性と結婚間近の仙波と、割りない仲になっているんじゃないかという心配が杞憂に終わったことでほっとし、その仙波が、子供のころから自分に「憧れ」を持っていてくれたという話で、聡子はなんとなく上機嫌になっていた。久美子の話を全部鵜呑みにしたわけではないが、あの子もそんなバカじゃない・・・結婚の決まった男と「おかしな事になる」なんて、あの子の性格上、考えられないことだった。また、仙波が自分に憧れを持っていたという話だって・・・・子供のころはお姉さんが欲しいと思う時期があって当然だと思ってるし・・・・自分だって、「兄」が欲しいと思う時期があったのだから・・・・・・その程度だろうなあと思っていた。しかし、仙波が、銀行の窓口に来るときは、ほかの窓口があいていても、少し待って自分のところにやってきているように思えた。そう考えると。聡子は気持ちが華やいでいるように感じていたのだった。「そういえば、ボーリングに行ったとき、久美子の友達と一緒だったって行ってたよね・・・・誰だった?」「おばちゃんの友達?・・・ああ、仙波さんっていう人だよ」「どんな感じだった?」「恋人かどうかってこと?」聡子は、育美から駄目押しの確認をしようと思っていた。「あの人、おばちゃんのこと”川村”って呼んでたし、おばちゃんも”仙波”って呼んでたから、違うんじゃない?」「川村」とは、聡子の旧姓である・・・今は「澤田」という姓に代わっているのだが・・・・「そう・・・ねね、あなただったら自分の好きな人のこと呼び捨てにする?」「あたし、好きな子いないもん・・・・」「もし、いたとしてよ・・・その時は呼ぶ?」「好きだからいじめたい・・・って時があるからねえ・・・その時はそうするかもしれない・・・でも、ほんとに、あたしはいないよ・・・・あたしはまじめな受験生・・・そんな余裕ないんだから」育美は4月から中学3年生・・・いよいよ受験生になるわけだ。「それにあの人、お母さんのこともよく知ってるみたいでね・・・あたしのことお母さんにそっくりだっていうのよ・・・お母さん知ってる人?」「うん、だって、久美子のところによく遊びに来てたもん・・・それに、今は銀行のお客様だし・・・・」ごまかしてるつもりはないのだが、後半は声が小さくなった。それからまもなくして、夫の俊夫が帰宅した。土曜日なので休日なのだが、先日の舗装工事の完成書類を月曜日の朝までに提出しなければならず、休日出勤していたのだが、「ようやく終わった、終わった・・・」といいながら帰宅してきたのである。ドアを開けて入ってきた瞬間、聡子は一瞬顔を赤らめた。もちろん俊夫も育美も気がついてはいないだろう・・・しかし、聡子本人は気がついていた。なんとなく、夫に内緒で「不倫」しているような・・・・・・それが悪いことだと知っていても、「仙波」の若やいだ顔を思い浮かべ、ウキウキする気持ちを抑えきれないでいたのだ。(浮ついた気持ちになるから浮気なのね・・・・)気がつかれないように、聡子は夕食の支度をするために立ち上がった。 つづく
2007.03.16
コメント(10)
今日は円通寺というお寺に行って、「涅槃会」に参加してきました。このお寺は「恐山」の本寺で、「円通寺」の方丈様が、「恐山」の山主という事になります。「涅槃」とは、すなわち、「お釈迦様がなくなった」日ということで、おつとめの終わった後、精進料理をご馳走になってきました。いつもは昼食抜きにしてるんだけど、精進料理だから、今日は食べましたよ。 12時少し前に、聡子は「レストラン飛鳥」に着いた。小さなオフィス街の一角にあるこのお店は、いつもはコーヒーつきのランチメニューがあるのだが、今日は土曜日という事でア・ラ・カルトのメニューになる。「それならば、鮭のムニエルがいいなあ」聡子は二人前の注文をあらかじめすることにした。「ごめんごめん。。。。急いできたんだけど・・・・」久美子は息を切らしながら飛び込んできたのだが、まだ約束の時間までは間がある。「ちっとも遅くないよ・・・・でも注文はしといたから・・・・」「なに頼んだの?」「鮭のムニエル」「ワーッ、今日はそれが食べたかったんだ!」姉妹だから嗜好が似ているのだろうか・・・聡子はそう思った。「ところで話しって何よ?」料理ができるまでの間に聞いておきたいと思っていた聡子は、早速口を開いた。「仙波さんって同級生よね?」「ああ、仙波モータース・・・・そうだよ・・・それがなにか?」「今、その彼、結婚が決まったって知ってる?」「へえ・・・そうなんだ」本当に知らないのか、あっけらかんとしていた。「この前のボーリング・・・一緒だったんでしょ?」はぐらかすつもりなのか・・・久美子は窓の外を見た。「ねえ・・・・その結婚相手が、あたしと同じ銀行にいる子なのよ・・・だからちょっと気になるんだけど」「ただの同級生よ・・・・」「あなたと恋人同士に見えた・・・っていってる人がいるんだけど」「エル美容室の先生でしょ?・・・ボーリング場で見かけたからヤバイと思ってたんだ・・・・・でも、あいつ、あたしのことなんか女と思っちゃいないんだから・・・関係ないってば」「それがはっきりしてるならいいんだけど・・・」「でもね・・お姉ちゃん・・・あいつ、あたしのことなんかなんとも思ってなかったんだけど・・・子供のころからお姉ちゃんが大好きだったんだよ」「なにバカなこといってるのよ・・・・」「家に遊びに来たときだってね・・・・お姉ちゃんに会いたくて来てたんだから」仙波の子供のころのことが目に浮かんだ。そんなそぶりなんか一度もしたこともない・・・・・「なにいってんのよ」「ほんとだってば・・・・この前は育美を連れてったでしょ?・・ヘエこの子が聡子さんの子か・・・って・・・ずっと育美に話しかけてたんだから・・・・」育美の性格は父親のそれを受け継いでいて、外面のいい子なのだが、容貌は若いころの聡子にソックリだった。「とにかく、あなたが仙波さんの結婚の障害にならないっていうならいいわ」2人はそれから、久しぶりで姉妹の会話を楽しんだ。 すまん・・・最近眠くってしょうがない・・・・つづく
2007.03.15
コメント(10)
昨日は早めに寝てしまいました。ほんと疲れてたんですかねえ・・・・・・・・パソコンの前で居眠りしちゃって・・・・コリャだめだと思って寝ちゃいましたよ。今日は「涅槃」・・・・お釈迦様の命日っていうんですかねえ。だから、お寺に行ってきます。 俊夫からの電話が入ったのは、帰宅を待ちくたびれて、そろそろ入浴しようかと考えていたころでした。「ア、俺だ・・・・今日は現場のご苦労さん会ってことで、社長がみんなを招待してくれたんだよ・・・連絡するのが遅れたけど、早めに帰るから」それだけいうと、電話は勝手に切れてしまった。みんなを招待といっても、俊夫と、俊夫の部下2名だと思う。あの社長のパターンとして、こういう場合は居酒屋でいっぱい飲ませ、俊夫たちをおいて先に帰るという人だから、二次会はけっきょく俊夫持ち・・・・一次会だって、会社の経費で落とすんだから社長の懐は痛まないのだろうけれど、二次会は個人で支払う・・・・だから、ほとんど俊夫の「おごり」になってしまうのだ。「ふん・・・社長にいいように使われちゃってさ・・・・」聡子は、人のよすぎる俊夫に腹を立てた。それでも、いつもなら電話連絡もよこさない・・・・昨日の育美のことがあったから、・・・・そして、今朝、けんかしたまま出てきたことへの反省もあったのだろう。「あいつのことだから、きっと寿司折りなんかもってご機嫌で帰宅する・・・でも実は、あたしの文句を聞きたくないもんだから酔っ払った振りして、そのまま寝るんだろうな・・・」俊夫のパターンも読めていた。あいつになんかかまってられない・・・聡子は風呂に入ることにした。浴室に入り、真正面にある鏡に、聡子の体型が映る。独身時代は、細身とはいわないけれど少しポッチャリしている程度で、スタイルもいいほうだったと思う。それが今は、下半身ががっしりして大きく、おなかもポコンと出ている。「これじゃ、すっかり達磨さんだなあ」今度は顔を映してみた。頬がたるんできているように思えた。仕事をするようになって、それなりに外へ出ても恥ずかしくないような化粧はしているつもりなのだけれど、それまでは育美の子育てに没頭していて、手入れを怠っていたつけが今廻って来たように思えた。額に見えるしわが、少し深くなってきたような気がする。鏡を見ながら、ほっぺたを膨らませて見る。「これで、ヒゲをつけたら本物の達磨さんだ・・・」それから、おもむろに肩からお湯をかけ・・・浴槽に身体を沈めた。少しぬるめのお湯に浸かりながら、なぜか涙がこぼれてきた。俊夫が帰宅したのは12時を少し回ったころだった。あんのじょう、手には二人前の寿司の折りを持って・・・・それでも、すぐには寝なかった。「おい、育美・・・お父さん、寿司を買ってきたぞ、食べないか?」「は~い」という返事とともに、パジャマ姿の育美が居間に入ってくる。「お茶いれるわね」聡子は電気ポットの前に行き、お茶の支度を始める。「マグロ、一個だけ貰うぞ」俊夫が一個の寿司をつまんだ・・・・「居酒屋で食べてきたんじゃないの?・・・食べてないならご飯のしたくはしてあるけど」「男4人だからなあ・・・食べるより飲むのが先で、あまり食べてないんだよ・・・」「せっかく社長さんがおごってくれるって言うんだから、いっぱい食べてくればいいのに」「いいから飯のしたくしてくれよ・・・・お茶漬けでいいから」俊夫はあまりお酒の強いほうではなかった。家でも、よほど疲れたときに缶ビール一本空ける程度で、普段の晩酌はしない。「どうせ飲めないんだから、食べればいいのに」「みんなが飲んでるのに、一人だけ料理にぱくつくのはみっともないじゃないか」この人も固定概念の塊なんだなあ・・・・・・「土木の技術屋」は「酒を飲むもの」と思い込んでいるようだ。そのくせ、強くもないのに・・・・・俊夫と聡子が付き合い始めた当時、デートで居酒屋に行ったことがあった。しかし、コップいっぱいのビールで真っ赤になり、「俺、あまり酒は強くないんだ」と照れながら話した俊夫を見て、毎晩のように酒を飲む父親と比較していた。「結婚するならお酒を飲まない人」・・・・聡子はそう決めていた節がある。確かに俊夫はあまり飲む人ではなかったが、付き合いがけっこう多かった。週に必ず一回は「午前様」・・・・それが育美が生まれるまで続いていた。「ねえ・・・あたし、来週の金曜日、同じ銀行の人が結婚退社するんで、送別会があるんだけどでていい?」もう出席は決めてきていたのだが、いちおう、夫と娘の許可を取っておこうと思った。「パートなのに、出なきゃならんのか?」「だって、お世話になった子の結婚祝いの会だもの・・・でたっていいでしょ?」俊夫は基本的に、「主婦は家にいて欲しい」というタイプだった。「なんのためにパートに出てるのかわからんな」俊夫の嫌みに、聡子はもう反撃した。「あなただって、こうやってお金を使ってきてるじゃないの・・・・気晴らしかなんか知らないけど、あたしが出かけるのは年に一度か二度よ・・・あたしだって気晴らしは必要なのよ!」「アア。わかったわかった・・・・言ってくればいいじゃないか」俊夫はうるさそうにそういった。育美は?・・・・・何も言わずにもくもくとお寿司を食べていた。その週の土曜日・・・珍しく聡子は美容院に行った。この美容院の「先生」は聡子の同級生で、彼女がここに開店してから、通い続けている。「聡子・・・この前来たのいつだった?・・・今回はいつもより早いような気がするんだけど」「来週、パーティがあるのよ・・・・でも美容院って今日しか来れないし・・・」アア、なるほど・・・といって同級生は作業に取り掛かった。「そういえば、久美子ちゃん・・・・昨日来たわよ・・・あの子も結婚しないわねえ」久美子はインテリア関係の会社に勤務している。金曜日は仕事があるはずで、美容院に来る暇なんてないはずなのだが・・・・「アア、そうじゃなくて、久美子ちゃんの会社に内装をいじってもらおうと思って電話したら、彼女が担当者で来たのよ」仕事だったのかあ・・・・・「でも、あたしが男だったら、ほって置かないのにねえ・・・なんで結婚しないのかねえ・・・あたし達より4つ下だから、34歳でしょ?」「あの子、もてるから結婚しなくっても楽しいのよ」「でも、あたし見ちゃったのよ・・・・この前ね・・・仙波モータースの若社長とね・・・ボーリング場に一緒にいたわよ。・・・・同級生だと思ったけど、けっこう仲良くて、恋人同士みたいだった。」え?だって彼は・・・・静子と結婚間近なはずじゃ?聡子はあわてたのだったが、同級生に気取られないように努力した。美容院を出て、聡子は実家に電話をした。「おばあちゃん・・・・久美子いる?」「ア、久美子は今日も仕事だって出かけたよ・・・・土曜日も日曜日もないくらい忙しいんだって」聡子は、久美子の携帯を呼び出した。「ア、久美子?・・・・ちょっと出かけてきたんだけど、あなたとちょっと話しがあるの・・・・お昼でも一緒に食べるってことで出て来れない?」先日、育美を連れ出したことをまたぶり返されるのかと思った久美子は、あまり気乗りしないようだった。「育美の話じゃないのよ・・・ちょっと聞きたいことがあって」「お姉ちゃんのおごりならね・・・じゃあ、12時になったら、うちの会社の前の”レストラン飛鳥”にいて・・・」仙波モータースの息子と久美子・・・・小学校からの同級生であって、美容院で聞いてきた話は、彼女の勘違いであって欲しい・・・・聡子はそう思っていた。 つづく
2007.03.15
コメント(14)
困ったことになりました。いつも、私のお話に出てくる「水工実験室」の教授が、今年3月を持って退職になります。それで、実験室のOB会が企画して・・・「退職祝いの会」が東京で開催されるんですが、その日にちが、「5月26日」・・・・・・「劇団無=魂」の公演の翌週なんですよ・・・・・私が実験室に行ってたころは、まだ30代の「講師」だったんだけど、若かったから、私達の兄貴分みたいな先生でね・・・・実験するより、他の学科とか他の実験室と野球の試合してるほうが多かったなあ・・・・という事で、困ってます・・・・・2週続けて個人的なお出かけはできそうもありません。 夕飯を済ませ、育美は入浴し、聡子は後片付けをしていた。夫の俊夫からは何の連絡もなく、夫の茶碗だけがテーブルの上に伏せられている。「昨日で舗装工事は終わるって言ってたのに」2人ぶんの食器を洗いながら、聡子はまたいらいらし始めていた。パジャマを着て、髪をタオルで拭きながら育美が居間に入ってきた。「お父さんまだなの?」「まだ仕事が終わらないんでしょ?・・・・この前雨が降ったから、そのぶん深夜のお仕事も1日延びたのかもしれないし・・・」(そうかもしれない・・・・今朝は話をする前に怒って出て行っちゃったから・・・・説明もできないままだったかも)聡子はそう考える事にした。
2007.03.14
コメント(14)
マタマタ、ジュニアが大変なことに!「溶連菌感染症」!!!!今年二回目なんですよ・・・あ、あれは12月だったかな?だから、17日のスキー大会も出場停止になっちゃいました。 銀行に出勤した聡子だったが、気持ちは暗く沈んでいた。「なんで、あんなにしつこく言っちゃったんだろう・・・・・」けっきょく俊夫は怒ったまま出かけてしまったし、育美も冷蔵庫から牛乳を出して飲んだだけで学校へ行ってしまった。更衣室で着替えをしながら、ため息をついていると、元の銀行でも一緒に働いていた、久代が聡子に声をかけた。「なに、暗くなってるのよ」「いえ、なにも・・・・」「旦那様とケンカでもしたの?」「そんなんじゃないったら・・・・・」「正直に白状しちゃえば楽になるのに・・・・・そそ、そういえば外回りしている静子ちゃん・・・今度、寿退社するんだって・・・・それで来週の金曜日、駅前の”甲子苑”っていう焼肉屋さんで送別会するのよ・・・で、できたら久代さんも聡子さんも出てくれないかって・・・そう言われたんだけど、どうする?」久代も聡子も、「パート」の職員である。この銀行では正社員とパートの職員の扱い方が徹底していて、久代も聡子も「飲み会」に誘われるのは、忘年会のときだけであった。しかし、静子は人なつっこい性格で、聡子もずいぶんと可愛がった行員である。今回は本人の希望もあって、聡子たちも招待されたようであった。「どうしようかな・・・・」考えたふりをしたが、今朝のことがあっての今である。家族達から解放されて、ぱっと飲みに出かけたい気持ちがあった。「久代が出るなら、あたしも出ようかな?」「そう・・・じゃあ出席にしとくね・・・あたしは出るつもりでいたから」2人はその話を続けながら更衣室を出た。「ところで、静子ちゃんは誰と結婚するの?・・・あたしの知ってる人?」「あのね・・・仙波モータースの息子さん・・・・ほら、時々つなぎの服を着て来る人、いるでしょ?・・・ちょっとイケメンの専務さん」「ええ・・・・うちの妹と同級生よ・・たしか34歳・・・・」仙波は久美子と同じ小学校、中学校、そして高校まで一緒だったと記憶している。「へえ・・・あの子と結婚するんだ・・・・」34歳・・・・男だったとしても、結婚するには決して若いというほうではないはずだ。そういう意味では久美子がまだ結婚していないのが気になった。その日の夕方・・・・聡子は早めに家に帰ることができた。少し、機嫌の悪い聡子を、課長が見て「早く帰したほうがよさそうだ」と判断したのかもしれない。途中、スーパーで買い物をし、家に帰るともう既に育美は帰っていた。「ただいま」「おかえり」いつものありふれた光景のように思えた。居間のコタツの上に教科書を並べて宿題をしているようだった。(これだけ、まじめに勉強もする子なのに、なんで私にだけ逆らうんだろう)実際は父兄参観日に行っても、クラス面談で、「クラスのリーダーであり、信望も厚い」と先生から言われており、「手のかからない子の代表」とも評されているのだ。「宿題が終わったら、すぐにご飯にするからね・・・・」「お父さんは今日も遅いの?」「昨日で舗装は終わるって言ってたから、今日は早く帰ってくるでしょ?」娘に言われて、今度は夫のことも考えてみた。俊夫も、作業員の人たちに慕われ、社長からの信望も厚い人だった。冷たい2人とも、まわりからは「模範」のレッテルを貼られていて、その反動で、あたしにはこうなのかしら・・・・聡子はそう思っていた。 ア、ごめん本当に短いんだけど・・・今日はこれしか書けなかった。 つづく
2007.03.14
コメント(12)
昼休み、一生懸命「2.シンデレラ」を書いてました。ようやく書き終わり、登録しようとしたら、「10,724文字」限度オーバーという事で、消せるとこを探してたんですよ。そしたら・・・・どこを押したのかわからないけど、画面が消えちゃって・・・・・「10,724文字」が、あっという間に「文字数0」ショックが大きすぎました・・・・・・・・ 翌朝、聡子を起こしたのは夫の俊夫だった。何か物音がするな・・・と思ってふと目を覚ますと、寝室においてある洋服ダンスの引き出しから、俊夫が下着や着替えの作業服を出しているところだった。俊夫も聡子の視線に気がついたのか、「ああ、起こしちゃったか・・・・寝かせておこうと思ったんだがな・・・・」と殊勝な事を言う。「これから風呂に入って朝飯食ったら、すぐに会社に行かなくちゃいかん」そこまで言うと寝室を出て行った。聡子は、もう少し寝ていようと思った。夕べ、12時近くに帰ってきた育美を叱らなくてはと思い、育美の部屋に向かったのだが、もう既にベッドの中に入り部屋を真っ暗にしていて、何度呼びかけても返事もしない。聡子は食堂に戻り、苛立ち紛れに冷蔵庫から缶ビールを一本取り出して、一気に飲み干してから寝たのだった。しかし、いったん目を覚ますとなかなか寝ようと思っても寝られるものではない・・・・そのうち、俊夫が風呂のお湯を入れ始め、ガスバーナーの「ゴォーッ」という音で寝ていられなくなった。のそのそと起き出し、俊夫の朝食の準備を始めようと思ったのだが、テーブルの上には、昨日育美と一緒に食べようと思っていた「お惣菜」が、袋のまま置いてあった。「あなた・・・・朝御飯はアリモノでいいでしょ?・・・コロッケなんだけど」「ああ、それでいいよ・・・ところで、育美は何時に帰ってきたんだ?」「昨日、あなたから電話があって、すぐ・・・・やっぱり犯人は久美子だったわ・・・前のことでもあんなに叱ったのに・・・全然反省の色がないの・・・・連絡ぐらい入れればいいのに」聡子の怒りは一晩寝てもまったく治まる気配がなく、かえって大きくなったようだった。「だいたい中学生を、12時近くまで引っ張りまわすだなんて・・・それもボーリング場に連れてったみたいで・・・あたし、おばあちゃんに言って厳重注意してもらわなくちゃ」久美子はまだ独身で、実家の両親と一緒に住んでいた。「たった一人の妹なんだから、あまりきつく言うなよ」「「そんなこといったって、前科もあるんだからね・・・中学生を12時まで連れ歩くだなんて非常識よ」「とにかく俺・・・先に風呂に入ってくる・・・・話しは後だ」俊夫は浴室に向かった。ひとりになった聡子は袋からコロッケを取り出し、電子レンジで「チン」をする。ご飯と味噌汁は夕べのうちに作ってあった。準備はすぐ終わり・・・・聡子は居間のこたつに潜りこんだ。そこへ、育美が起き出して来たのである。「おはよう」育美は何事もなかったかのように、目をこすりこすり自室から出てきた。「育美・・・あなた、夕べ何時に戻ってきたか知ってるの?」「え?・・・うん・・・・」「中学生が、あんな時間まで遊びまわっていていいの?」「だって、家族が一緒ならいいじゃん」「あなたの家族は、お父さんとあたしと、あなたしかいないの・・・久美子は叔母だって言うだけでしょ?」「・・・・・・・・・・・・・・・」「遅くなるなら、携帯だって持ってるんだから電話の一本でも入れればいいじゃない」「だって、叔母ちゃんの車に乗ったときには叔母ちゃんの友達も一緒だったから」大人ぶって見せたい年頃であった。他人の前で、親から許可を貰う姿を見せたくなかったのであろう。「ボーリング場で、電話をいれる時間もなかったの?」「わかったよ・・・・もうしないから」この年頃の中学生にしては素直に謝ったほうだろう・・・・・しかし、聡子の攻撃の手は緩まなかった。「しばらくの間は、久美子の車に乗る事は禁止ね」「何でよ!・・・・叔母ちゃんは叔母ちゃんなんだもの・・・・いいじゃない」言い争いをしているところに、俊夫が風呂から上がり、下着姿のまま現れた。「朝からケンカはやめて、みんなで朝御飯を食おうか?」居間においてあった作業服を着ながら、問いかけるように聞いた。「今、大事な話をしてるの・・・・だいたい、あなたが育美のこと構ってくれないから・・・・」「おいおい、今度はこっちか?」「茶化さないでよ!・・・・・育美のこと心配じゃないの?・・・・育美は女の子よ・・・佐藤さんとこのご主人は毎日塾の送り迎えしてるのよ!」「そんなこといったって・・・・ここんところ忙しかったからなあ」「ここ何日かの話をしてるんじゃないの・・・あなたの考え方に問題があるって言ってるの!」「育美の教育の事に関しては俺だって心配してるさ・・・でも仕事が忙しいんだからしょうがないじゃないか・・・」「あたしだって仕事してるんですからね・・・あなただけ忙しいわけじゃないわ・・・あの塾の費用だってバカにならないし・・・」「あの塾の評判がいいからってあそこに決めたのは君じゃないか・・・一緒に通う友達もいるから行き帰りの心配もないって」「香苗ちゃんはもうあの塾をやめたの・・・前にあなたにも話したじゃない!・・・部活が忙しくって違う塾に変えたのよ・・・・今は育美ひとりで通ってるの」「じゃあ、育美もそっちの塾にすればいいじゃないか・・・勉強なんて本人さえしっかりしていれば・・・」「あなた、いつもそうなのよ・・・・・いつも行き当たりばったりで。。。計画性もないし・・・だから育美もこんな風に親に逆らうのよ」「おい。そこまでいうか!」仲裁に入ったつもりの俊夫が今は聡子に攻撃されている。おたがい声を荒げ、このままではますますエスカレートする一方だった。俊夫もそう感じたのだろう・・・・「俺会社に行く」俊夫はケンカの途中で立ち上がった。「朝御飯は?」「いらない」そう言うと後は無言のまま、俊夫は玄関を出て行った。「お母さん・・・しつこいよ・・・・わかったって言ってるんだから、もうやめてよ」「だいたい、あなたが12時過ぎに帰ってくるからこうなってるんでしょ!」「12時過ぎてないわよ・・・・12時前に帰ってきたのに!」そう言うと、育美も自室に戻って行った。聡子も自分で言いすぎたのは充分にわかっていた。「更年期なのかもしれない・・・・」反省はしているのだが、俊夫と育美に謝る気にはなれなかった。 つづく
2007.03.13
コメント(17)
せっかく書いたの消しちゃった!もうだめ・・・・夜までかけない・・・・
2007.03.13
コメント(10)
青森は土曜日から雪が降り続いています。今晩も降り続け、30センチほど積もる模様・・・明日の朝も早起きして除雪しなくっちゃ! 12時近くなっても帰ってこない育美を、聡子は怒りをこらえながら待っていた。塾に電話をしても、もう誰もいなのか、呼び出し音が続くばかりだった。「何のために携帯を持たせてんのよ・・」いつもなら9時に塾が終わり、9時半には帰ってくるはずなのに・・・・今日に限って帰ってこない・・・・育美の携帯を鳴らしても「電源が入っていないか電波の届かない範囲に・・・」という返事が返ってくるだけ・・・・聡子も仕事をしているので塾に出かける育美が何か用事があっても直接連絡の取りようがない。「どこかに出かけるなら、メモでも残して行けばいいじゃない!」メモを残して行けばいいという問題じゃない・・・育美は中学生なのだ。電話のベルが鳴った。「あんた何時だと思ってるの?」「オイ、なに怒ってるんだ?・・・・育美がまだなのか?」「ああ、あなただったの・・・・」電話の相手は夫の俊夫だった。「塾からまだ帰ってないのか?」「そうなのよ・・・・9時には終わってるはずなのに・・・・」俊夫は、建設会社の技術者なのだが、ここ数日は深夜の作業が続き自宅に戻っていなかった。「そういえば、9時過ぎに俺の舗装してるとこを、久美子ちゃんが車で通って行ったな・・・また・・じゃないのか?」久美子というのは、聡子の妹である。そして、「また・・」というのは、久美子に前科があるということだった。去年の事だったが、久美子は育美を勝手にドライブに誘い出し、深夜に帰宅させたことがあるのだ。そのときも、聡子は久美子を叱ったのだが、「両親とも仕事していて、あの子もひとりっきりだもの・・・ドライブぐらいいいじゃない!」と反省の色も無かった。「そっか・・・じゃあ、久美子に電話いれてみる・・・あ、ところで何のよう?」俊夫の用事は、明日の朝いったん家に戻るから朝7時に風呂に入れるようにしておいてくれというものだった。風呂ぐらい自分で入れれば!・・・と言いそうになったのだが、ここで俊夫とケンカしている暇はない・・・・もう12時を回ろうとしているのだ。電話を切ると、今度は久美子の携帯に電話をした。ところが呼び出し音がなるとまもなく外で、久美子の携帯の着メロがなっていて・・・・「ハイハイ・・・帰ってきたわよ」とドアが開き、そこには久美子と育美が立っていた。「また、あんただったのね!」「姉上・・・ごめん・・・途中で電話しようと思ったんだけど、ボーリングに夢中になっててさ・・・・電話するの忘れちまった」久美子は悪びれもせずそう言って、靴を脱ぎ育美と一緒に部屋に入ってきた。「あんた、去年も勝手に育美を連れ出して、あたしに叱られたんじゃなかった?」「だってお姉ちゃん・・・さっき電話したんだけど出なかったしさ・・・・俊夫さんは舗装工事の現場にいて・・・・この分じゃ育美もまたひとりだなと思ってたら、塾の前を一人で歩いてるじゃない?・・・ちょうど友達とボーリングをしにいこうと思ってたところだから、育美も連れてっちゃったんだよ」確かに今日はイレギュラーな仕事になっていつもの帰宅時間よりかなり遅くなっていた。聡子は去年から、ある銀行にパートで働きに出ていた。独身のときは違う銀行に就職していたのだが、結婚とともに退職・・・今はその銀行と違う銀行にパートとして採用されていたのだ。結婚した当初は、俊夫の勤める建設会社も景気は良かったので、毎年の昇給も保障されていたし、ボーナスもかなり出ていたのだが、ここ数年は公共工事を減らそうという政府の方針で、あらゆる業種の中でも一番の不況業種とされている。したがって、昇給もストップされ、ボーナスもスズメの涙ほどになってきていたのだった。育美は夫婦にとってたった一人の子供だった。「この子だけなんだから、何とかがんばって大学に進学させてやろう」これは俊夫と聡子の、「一大目標」となった。育美が中学に進学するとともに、聡子は仕事を探し始めたのだが、なかなかいい仕事は見つからなかった。去年ようやく、昔の銀行員仲間が、今の銀行にパートで働いていて、その仲間が仕事を紹介してくれたのだった。いまや、銀行も「正社員」を減らし、パートの行員を採用している。銀行業務に精通していれば、元よその行員だったとしてもパートに採用してくれるのだ。俊夫の仕事は天気しだいなところもあるから、帰宅の時間はまちまちである。しかし、銀行なら帰宅時間は決まっているからいいだろうということで俊夫も賛成してくれたのだが、いざ働いてみると一般行員となんら違うところはなかった。残業を命ぜられれば残業をしなければならない・・・断れば、「クビ」にされるだけだった。今日も残業を命ぜられ、すぐに育美の携帯の留守電に入れておいたのだが連絡が取れたのか取れなかったのか・・・・育美は夕食も取らずに塾に出かけたのである。聡子が帰宅したのは8時半・・・・育美が冷蔵庫の残り物でも食べて夕飯を済ませておいてくれれば・・・とも思ったが、万が一と思って24時間営業のスーパーで「お惣菜」を買ってきた。案の定、育美が夕飯を食べた痕跡がないので9時半に帰ってきたら、一緒に食べようと準備していて・・・・だから聡子はまだ夕食をとっていないのだった。「育美、あなたお母さんの留守電は聞いたの?」育美は、無言のまま、自分の部屋に入っていく。「お姉ちゃん・・・・育美をひとりにしといちゃまずいよ・・仕事が忙しいからって、それじゃ教育にならないよ」久美子の言われるまでもなく、最近聡子は、仕事をやめて家庭に戻ろうかと真剣に悩んでいた。銀行業務だから、日ごろの業務は残業が多いのだけれど、土日の休みは間違いなく取れる。でも、土日は育美と話をしようと思っても、溜まった家事をこなすだけで精一杯であった。それに、若いころと違って、疲れも残るのである。「あんたが、余計なことしなければ・・・・」聡子は、久美子に目いっぱいのいやみを言ったのだが、育美が最近自分に何の報告もしなくなっていることは気になっていたのだった。「この分じゃ、ほんと親子の会話なんかできなくなるからね」久美子は捨て台詞を残して帰っていった。「独身貴族の、あんたに何がわかるの・・・・」帰って行った久美子の姿が見えなくなったのに・・・・聡子は妹の背中に文句をつけていた。 つづく
2007.03.12
コメント(16)
2日間にわたり、雪道での長距離ドライブをしたせいか、今朝は起きることができなかった。あわてて、飛び起きコーヒーだけを飲んで出てきたのだが、家の庭には20センチ以上の雪が積もっていた。長男が起きて、除雪してもらえればいいのだが・・・やらないだろうなあ・・・・ 「嘘発見器」の汗を感知するセンサーは、10本の指にセットすることになっていた。左手の5本を、幸子は自分で取り付けたのだが、右手は自分で取り付けることができない。河本が取り付けることになるのだが、女性の手なんか握ったことのない河本にとっては若干の照れもあり、セットしながらどうでもいいようなことを質問していた。「警察の嘘発見器なんて、指のない人だっているだろうから、これって使えないよね?」「さあ、どうなんだろう?・・・でも、この機械は調整できるから指一本でもできるんだけど・・・」それなら、左手にセンサーをセットする必要もないじゃないか・・・と思った。「そうよね・・・・大学祭だからそういうお客さんも来るかもね・・・・じゃあ、明日にでも指一本でできるように調整しなおそうかな」幸子は今、自分の左手を河本に預けている意識がなかったのだろうか・・・しかし、河本は自分自身の両手が汗をかいていることに気づいていた。「後は電源を入れればいいんだね」「そう・・・それから、あなたもやったけど、10枚の数字カードを使って微調整をするの・・・・でも・・・さっき自分自身で微調整をしてもらったから、今はいらないわ・・・・」さっき仲間が幸子を嘘発見器に座らせて微調整までの過程を済ませていたのだという・・・・「すぐに質問していいわよ」これだけ落ち着いている幸子に、この装置を使ってもうそが発見できるような気がしなかった。「じゃあ、君は白と黒とでは黒の方が好きですか?」「いいえ」反応がなかった。・・・つまり白が好きということか・・・・そんな単純な質問をいくつか繰り返した。「河本君・・・そんな質問じゃあまり反応が出ないわよ・・・ドキッとするような質問でもしてみて?」「あなたには恋人がいますか?」「いいえ」かすかに反応があったような気がする。・・・・つまり恋人がいるということ・・・・「次の質問は?」ガッカリしたので少し間が空いてしまったようだった。「アア、その恋人はこの大学にいますか?」「いいえ」少し反応が大きくなったような気がした。幸子は可愛いもんなあ・・・・・この学校にいるのか・・・・・「その彼とは一週間に一回以上は逢ってる?」その時彼女は少し考えてから答えた。「いいえ」反応がない・・・・逢ってない・・・同じ学校なのに・・・・「一ヶ月に1回?」「いいえ」今度は即答した。河本は考えた。「そもそも俺だって、同じ構内にいるんだから幸子とすれ違うことがある・・・それも一週間に一度や二度はあるのだ・・・・これは逢うという質問がまずいのか?・・逢うっていうことはふたりっきりで、どちらかの家に行って逢うってことなのか?」河本は質問を変えてみた。「この彼と会うときはいつも二人っきりだ」「いいえ」反応がない・・・・・二人っきりで逢うということはない・・・ということだ。河本は少し混乱した。恋人なのに二人っきりで逢った事はない・・・しかも一ヶ月に一度も逢ってない・・・河本は想像してはいけない事を想像し始めていた。この研究室の主、後藤教授は後期の授業を持っていない。今現在は外国で開催中の学会に出席中であるが、そのほかにも、毎週のテレビ番組に、コメンテーターとして参加していて、大学には顔を出していない状況なのだ。ゼミの集まりは、中川女史が代行していて、もし、幸子の恋人が後藤教授であるならば。。。この条件に合致しているような気がした。新年度になったとき、もし、後藤が幸子を口説いていたとしたら、そしてもし、・・・そんな関係になっていたとしたら・・・・・・恋人ではあるが月に一度も逢ってない・・・会うとしてもゼミの時間に、ほかの学生達と一緒に会うだけであるから、・・・・そう思うとこの条件に合致しているように思えた。「あのヒヒじじぃめ・・・」後藤はたしか40代半ばであるから、「ヒヒじじぃ」という言葉は当てはまらないかもしれないが、河本は心の中で怒っていた。「どうしたのよ?・・・・質問の続きは?」「あなたは、その彼とどうしたいんだ?」「え?どうしたの・・・そんな質問じゃ嘘発見器の実験にはならないよ」「あ、ごめん」河本は少し興奮していたようだったが、「あのヒヒじじぃに、この子を渡したくない・・・」、そんな感情がわきあがっていた。「あなたはその男のチャラチャラしたところが嫌いだ」「いいえ・・・・どうしたの?・・・チャラチャラしてるって・・・誰のことかわかってんの?」返事をしながら、幸子は逆に河本に聞き返した。・・・それも不思議そうに・・・「嘘発見器」の反応は出ていた・・・・チャラチャラしたところが嫌いではない・・・と言うことか・・・「言っときますけどねえ・・・あたしの好きな人はチャラチャラしている人じゃないわ・・・・誰のことを考えてるのか知らないけど・・・あたしの好きな人は、朴訥な感じの人よ」本気で怒りながら幸子は河本に抗議をした。「恋は盲目というが、好きになるとあんなにチャラチャラしていても、まじめな男に見えるんだろうなあ・・・」しかし、どう考えても後藤教授が「朴訥」には思えなかった。河本は質問を続けた。「その男は女性にもてるからヤキモチを妬くことがある」「いいえ・・・・ねえ、誰のこと想像してるのよ?」この質問には反応がないからヤキモチを妬くことはあるのだ。この時、幸子がぶちぎれた。「あなた、誰のことを考えてるのか知らないけど、もう少し、この状況を考えなさいよ!・・・2人っきりで、あたしがあなたに嘘発見器に掛けられても良いって言ってるのよ!・・・・バカ!」そういうと幸子が立ち上がり、部屋を出て行こうとした。私は「嘘発見器」の電源も切らずに、あわてて幸子のあとを追いかけたのだった。幸子が何を怒ったのかもわからないままに・・・・このあとどうなったのか・・・・・数年後の様子を報告しよう。河本は、子供の誕生日のプレゼントをおもちゃ屋で探していた。河本は現在、あるあの時内定していた就職先に就職し、横浜港の工事現場に在職していた。この商売は、遠くの工事現場に行かされることもあり、単身赴任になるのが常識だったが、横浜なので自宅から通うことができた。今日は「子供の満一歳の誕生日」ということで、現場の所長も早く帰ることを許してくれた。妻から頼まれた「子供のプレゼント」は大きなぬいぐるみだったが、河本はその時、あるおもちゃが目に付いてそれも購入した。「ただいま」自宅のアパートのドアを開けると、可愛らしいつぶらな瞳が河本を見てにっこりと微笑んだ。食堂のテーブルの上には大きな誕生日ケーキが置いてある。河本より2つ年下の妻は、二年間の付き合いの後、妊娠したことがわかって結婚した。「できちゃった結婚」であったが、彼女は大学院進学が決まっていて、将来は新進気鋭の心理学者になるつもりだった。しかし、以外にもすんなりと心理学者の道をあきらめて、河本の妻の座に納まった。そう・・・・幸子である。あれから、いろいろな出来事があったが、河本の行動は全て幸子に読まれていた。「二股をかけよう」とした河本に、心理的な圧力をかけて、自分のほうをもう一度振り向かせたり、本当にいろいろなことがあったが・・・今は3人で幸せな家庭を気づきあげている。「ねえ・・・ぬいぐるみ・・買ってきてくれた?」「アア、もちろん買ってきたさ・・・・それと・・・面白いものを見つけてきたんだよ」洋服を着替えながら、河本を幸子に、おもちゃ屋の袋を開けてみるように合図した。「ラブ・テスター 恋人達の嘘発見器」中から出てきたのは、おもちゃの嘘発見器だった。「あら、面白いもの見つけてきたわねえ・・・・」そういうと幸子は、二本のセンサーを一本ずつ一歳の誕生日を迎えるわが子の両手に持たせた。それからおもむろにスイッチを入れ・・・・・「あなたは、パパとママが大好きでシュか?」赤ちゃん言葉で問いかけると、その子はニコッと2人に笑いかけたのであった。
2007.03.12
コメント(20)
久しぶりの土・日の休日でしたが、地元のスキー場に雪がないので雪を求めて、県内のあちこちのスキー場をさまよって歩きました。今日は青森市の雲谷ヒルズスキー場に行ってきたんですけど、足の悪い人たちにスキーを楽しんでもらおうと、ボランティアの人たちが一生懸命がんばっていました。 後藤教授の研究室に、今は幸子と河本の2人っきり・・・・学内ですれ違ったりずっと離れたところで見かけたりすることはあったのだが、お互い声をかけるところまでいくことはなかった。「元気だった?」「ああ・・・この機械の件があって以来・・・ここには来なかったからね」河本は「嘘発見器」の背もたれのあたりをなでた。「あのときのことは、みんな反省してるわ・・・・でも、河本君が来たくなくなるのもわかるわね」「いや、そんな・・・そんな理由じゃなくて、俺も就職やら卒研で忙しくなったからね・・・それで来れなくなっただけだから」「ありがとう・・・そんな優しい嘘をついてくれるのね」「嘘じゃないよ・・・ほんとに忙しかったんだよ」「あたしも心理学の勉強をしてるのよ・・・嘘か本当かわかるわよ」幸子は悪戯っぽく怒って見せた。「でも、就職が決まったのね・・・おめでとう」「ああ、海の工事専門の建設会社だけどね・・・何とか内定を貰ったよ」「ねえ・・・時間あるんでしょ?・・・少し話していかない?」「でも・・・・」河本は他の女子学生たちが帰って来やしないかと心配していた。「みんなはね・・・、もう明日の準備も終わったから帰った子もいるし、他の部屋を覗きにいった子もいるから・・・ここにはもう誰も来ないわよ。」「じゃあ、座ろうか・・・・・」そこには普通の腰掛が1個と、嘘発見器の椅子があった。河本が先に、腰掛に座ったので、幸子は必然的に「嘘発見器」に座る。「あなたが先にそちらの腰掛に座ったのは、頭の片隅に嘘発見器には座りたくないっていう気持ちの現われかしら。」「いや・・・でも確かにその椅子に座る気にはなれないな」「じゃあ、あのときのお詫びに・・・あたしを嘘発見器にかけてみない?」 突然の申し出に、河本は驚いた。「だって、その機械やセンサー・・・精密なんだろ?・・俺なんかに触らせて平気なのかよ」「精密っていうほどのものじゃないわ・・・・それにあたしたちより、工学部なんだからこんな機械には慣れてるんでしょ?」なるほどそれほど複雑な機械じゃない・・・・これなら「水の粘性実験」に使われる測定器と同じ様なものだった。 おっと、今日も早めに寝るねつづく・・・・・
2007.03.11
コメント(16)
今日もスキーのできる「スキー場」を求めて彷徨って参りました。何とかリフト営業してるところを探して言ったんだけど、あちこちに土が見えてて、中級者以上じゃなきゃ無理かも・・・・ってことは、うちのジュニアも中級者以上?うまく滑るようになったもんだ! 女子大生たちと河本のにらみ合いが続いた。ここで引き下がれば、学内中に河本と、担当教授の姪である「英語科の鈴木さん」とのあらぬ噂が広がる危険性もある。それに気付いたのか、このゼミの助手である「中川女史」が仲裁に入った。「皆さん、勘違いしてますよ・・・・ほらほら・・・講義のときに説明したでしょ?・・・本人が興奮状態になったときは、汗の分泌量が異常に増えるから、嘘発見器の性能は落ちるって・・・・」「でも、性能は落ちても、簡単な嘘は見抜けるって後藤教授が言ってました。」「あなたがたの質問は、簡単な質問じゃなかったわ・・・精神的に追い詰めてしまった状態になってしまったんだから・・・強迫性の強いものになってしまって・・」中川女史の説明があったので、河本の興奮状態もいくぶんおさまってきた。「だから、嘘発見器は裁判の証拠として認められないのよ」ここまで説明したとき、時計がちょうど講義終了の時間を示した。「さて、時間が来たから今日はこれで終了しますけど、まだ来週もこの機械の実験をしますからね・・・・もっと精巧な嘘発見器を作るための実験なんだから。。。。来週はまじめにやってくださいよ」後片付けをしながら、女子学生たちは「ハーイ」と返事をした。ひとりだけ、河本の脳波測定器やら、指につけた汗のセンサーをはずしに来てくれた女子学生がいる。「河本君・・・・ごめんね・・・変な質問ばかりしちゃって」河本は気がついていた。(この子だけは一度も質問をしなかったなあ)小山内幸子・・・・4月から、心理学の実験台のバイトをしていて、河本が一人だけ気になっていた子だった。理由は・・・・・この幸子だけが、後藤教授の部屋に来ていながら、後藤教授の周りに群がっていなかったのである。それは今日だけでなく、新年度が始まって、河本がこの「実験台」のアルバイトを始めた当初からであった。他の女子学生は、先に話したとおり、テレビタレントとしての後藤教授の下に集まり群がっているだけであり、心理学の勉強なんぞ知ったことかというような按配だったが、この幸子だけはそういうことはなかった。他の女の子が「ワアーワアーキャーキャー」と騒いでいるときでも、中川女史の所に行き、参考書を呼んだり、質問をしていたり・・・・まじめに心理学の勉強に取り組んでいる姿勢を見せていた。「いやあ・・・気にしてねえよ」「それならいいんだけど・・・・・」その日はそのまま、「水工実験室」に戻り、午前中の作業の続きをしたのだが、後藤教授の部屋であった出来事がいつまでも脳裏から離れない河本であった。その後、後藤教授のゼミから、何度か実験台をしてくれという要請はあったが河本は、他の心理学実験のゼミには行くことはあっても、後藤教授のゼミには顔を出すことはなかった。それから3ヶ月たった。大学はちょうど、「大学祭」の準備を始めていた。河本は卒研のデータ集めも順調に推移していて、データ解析も、結構な数値を出していたし、就職も担当教授のコネもあって大手マリコン(海洋工事専門の建設会社)の内定も貰っていた。河川実験をやらされて腐っていたのだが、会社は海の工事が専門・・・・将来実家に帰っても役に立つ企業であった。そういうわけで・・・河本は機嫌もよく、大学祭の準備をしていた。今年の「水工実験室」の「出し物」は大きな水槽を使ってのラジコンボートレースだったかなり大きな水槽なので、ラジコンボートの製作者たちも喜んで参加してくれた。ふだん川などでしか、こんなにスピードを出して走らせることもないのだろう。もちろんレースなのだから賞品も出る。その賞品も、いつもこの実験室に実験を依頼してくる「消波ブロック」のメーカーからいただいたので、特に準備も要らない・・・・・河本は他の実験室の「出し物」を観察しがてら、あちこち歩くことができた。14号館・・・ここに入るとき、河本はあのいやな出来事を思い出していた。その後、担当教授の姪である、英語科の鈴木さんには恋人がいることがわかり、変な噂も飛ぶことはなかったが、それにしても、この建物にはあの後一度も足を踏み入れていなかった。もし、河本が一人で歩いていたのなら、決して入ることはなかったと思うのだが、今日は「水工実験室」の仲間も一緒だったので、断ることもできない。河本以外の仲間は、この建物が文系の学部しか入っていないので、女子学生が多く、それが目当てで入ってみたかったようだ。一階から順に見て行き、いよいよ例の後藤教授の部屋の前まで行った時である。河本はその部屋の前でぴたっと足が止まった。大きな大学祭用のたて看板が出ていた。「あなたの恋人は嘘をついていませんか?・・・嘘発見器診断」ドアが開け放されていて、中の様子がよく見えた。「占いの館」風の飾り付けがされていて、真ん中に嘘発見器の機械がデンとすえられていた。それだけで準備は良かったのだろう・・・・中には誰もいなかった。仲間の一人が「入ってみようぜ?」と言った。大学祭は明日からで、まだ誰も入ってはいけないはずなのだが、大学祭と言う、浮かれた雰囲気からなのか、勝手によその部屋に入ることに誰も躊躇いを感じていなかった。みんなで入ってみると、アラビア風の衣装が数着置いてあったが、きっとあの女子学生たちが着て占い師の真似をするのだろう。「なんだ・・・誰もいないんだなあ・・・河本はここにきたことはあるのか?」仲間は、河本が心理学科の実験台のアルバイトをしていることは承知していた。「ああ、何度か来た事はある。」「この嘘発見器っていうのに掛けられたことはあるのか?」河本は「いや・・・」と小さな声で答えた。「でも、誰もいないとつまらねえな・・・次にいくか」仲間は次の階へ向かった。しかし、河本だけはあのときのことが思い出されて、なぜか、そこへ留まってしまった。足がしびれたように動かないのである。「先に行ってるぞ」「ああ」少し、休んで・・・河本が仲間の後を追いかけようとしたとき・・・ひとりの女子学生が部屋に入ってきた。小山内幸子だった。「あっ」彼女は一瞬声をつまらせた。そして落ち着いて、「河本君・・・・しばらく」と声をかけたのである。 つづく
2007.03.10
コメント(12)
今日、わが社でアルバイトしていた息子の給料日だった。バイト最終日なので、私が直接渡したのだが・・・・いつも「お小遣い」のときは無言なのに、今日だけは私に向かって・・・・「ありがとうございました。」と言った。小泉元総理ではないが・・・・・「感動した!」 「さて、これからが嘘発見器の本番よ・・・・・これからまたいろいろな質問するけど、これも”いいえ”って答えるのよ」中川女史が、白衣の袖を「腕まくり」しながらそういった。「じゃあ、いくわよ・・・最初は簡単な質問からね・・・・えっと、あなたの好きな色は・・・・青と赤では赤が好きだ。」「いいえ」グラフを見ていた女子大生のひとりが首を横に振る。「河本君は青が好きなようね」「赤が好き?」ときかれて「いいえ」と答え、それに反応がなかったから、本当に「いいえ」なんだろうということで・・・青が好きとなるのである。「じゃあ次は・・・・お肉と魚では、お肉が好き?」「いいえ」さっきの女子大生の口から「オオーッ」と言う感嘆の声がもれる。反応が出たのだろう。「いいえ」と答えて反応が出たと言う事は「いいえ」と言うのが嘘だと言う事・・・・つまり「肉」が好きということなのだ。「さあ、今度は誰か質問してみる?」最初に手を上げたのは、この女子大生の中でも一番でしゃばりの女の子であった。「じゃああたしが先に行きま~す・・・・えっと・・リンゴは好きですか?」「ああ、今の質問はだめよ・・・・・好き嫌いを尋ねる場合は何かと比較するものがないと答えられないでしょ?・・・だから今の質問なら・・・リンゴとみかん、好きなのはリンゴ?・・・みたいな質問をしなきゃ」「ああそうか・・・じゃあリンゴとみかんではリンゴが好きですか?」「いいえ」「反応がないからみかんのほうが好きなようね・・・じゃあつぎのひと」二人目はちょっと太目の女の子だった。「えっと・・・あたしの質問は、あなたはちょっと太目の女の子とスレンダーな女の子を比べると・・・スレンダーな子が好きですか?」「いいえ」「あ、針が大きくふれた!・・・・細目が好きなんだ!」質問した子が「エエーッ!」と不満の声を上げた。「あら、良子・・・河本君が好きなの?」「好きっていうんじゃなくて・・・・どうせならあたしのような体型ががいいって言われたほうがいいでしょ?」左手を腰に、右手を後頭部に当て・・・・ポーズをとって、みんなの笑いを取った。「じゃあ今度はあたしね」3人目の女の子が前に出てきた。「顔がきれいな子と、スタイルのいい子と・・・スタイルのいいほうが好き?」「いいえ」グラフを見ていた女子学生が「ワーッ、この人いやらしい!」と叫んだ。「この人、女の子の身体にしか興味がないようよ!」女子学生たちが騒ぎ出した。このあとは誰と言うこともなく質問が続出した。「あたしと、良子とではあたしのほうが好き」「あら・・・それは質問がおかしくない?・・・だってこの人、細身の子が好きって言ってるのよ・・・あたしと細身の雅子となら、雅子のほうが好きに決まってるじゃない!・・・だってこの人、女は身体でしか見てないんだもの!」いつの間にか、嘘発見器の実験というより、河本をみんなで寄ってたかって弄ぶ会のようになってきた。「みんなあ!!・・・ちょっと静かにして!・・・・ちょっと・・・これは嘘発見器の実験なのよ・・・はい!・・静かに!!」収拾がつかなくなってきたので中川女史が、みんなを押さえつけようとした。「じゃあ、ちょっと違う質問に変えましょう・・・・・・好きとか嫌いと言う問題ではなく、事実の確認をして見ましょうか」「事実の確認って言うと?」「例えば夕べの食事のこととか・・・・そうね・・・昨日の河本君の食事の確認をしましょう」中川女子は、みんなの顔を満遍なくみまわし、河本のほうへ振り返った。「じゃあ聞くわよ・・・夕べの食事を聞きます。・・・・あなたは夕べカレーライスを食べましたね?・・・・ああ、この答えも”イイエ”だけで答えてね」「いいえ」「どう反応は?」「反応ありません」「昨日はカレーライスじゃなかったようね・・・・じゃあ、ラーメンでしたか?」「いいえ」「これもだめです」「じゃあ・・・・・」中川女史はそれからも数種類の料理の名前を続けましたが、どれも反応しませんでした。「河本君・・・・夕べはなにを食べたの?」あきらめた中川女史は、河本に食べたものを聞いた。「夕べは、実験室に泊り込みだったんでみんなで菓子パンを食べました・・・・アンパンとクリームパンに牛乳ですけど」「ああなるほど・・・・普通の生活してない人にこんな質問してもだめだわねえ」「中川先生・・・・今度はあたしが質問していいですか?」中川女史は無言で自分の質問していた場所をその子に譲った。「河本君・・・・あなた女のこの経験ありますね」河本もこの質問には答えなかったのだが・・・・・・「あ、反応があるから経験あるようよ!」測定器の針を見ていた女の子がすっとんきょーな声を上げたが、実際は河本に女性経験はなかった。しかし、この質問には、若い女性の質問だからこそ、照れというか汗が出て当然だと思うのだが・・・・・・河本は「イイエ」以外の発言を初めてしたのだった。「俺、女性経験なんかないよ」「いいのよ・・・嘘発見器はほんとのことがわかるんだから・・・・ごまかしきれないわよ」「相手の女性のことも聞いてみようか?・・・・・その女性は自分より年上?」もちろん女性経験はないのだから、相手の年齢だって答えられるわけがない。「あ、反応があった・・・・年上に決まったわ・・・じゃあひとつ上?・・・・ふたつ上?・・・・3つ上?・・・・」「全て反応があるわよ・・・・っていうことは全ての年代の女性と経験があるのよ・・・すごいわねえ」さっきの質問以来、ひとことも言ってないのに、彼女たちは勝手に想像を膨らましていく。「それなら年下の女の子だって餌食になっているかもしれないじゃない?」「じゃあ下の子の年齢も聞いてみようよ・・・・ひとつ下?・・・ふたつ下・・・3つ下・・・」「これもすごい反応よ・・特にふたつ下って言うのに反応がよけい出てるようよ!」「ふたつ下って、あたしたちと同じじゃない・・・・」「そういえば、英語科の鈴木さん・・・・この前、この河本君と一緒に歩いてたわよ」英語科の鈴木さんというのは、うちの担当教授の姪御さんで、「水工実験室」にも時折、教授の妹さんである母親から用事を頼まれて届け物を持ってきたりしていた。「あ、鈴木さんの名前を聞いただけですごい反応!」「じゃあやっぱり鈴木さんとお付き合いしてるんだ!」とんでもない話だった。こんなデマが大学内を駆け巡ったりしたら、河本は「水工実験室」にいられなくなるに違いない。「勝手に想像しないでくれ・・・・違うって言ってるだろ!」河本は、配線に繋がれたまま、立ち上がり怒鳴った。「ああ、恐いわねえ・・・当てられたからって、怒らなくたっていいじゃない・・・ほんとのことなんだから。」女子大生たちは一箇所に固まって、河本のことを凝視した。 つづく
2007.03.09
コメント(20)
皆さん、まだ理解されてないようで・・・・これは、私が見た「夢」(眠って見るほうだよ)をノートに綴っておいてるんで、それを見ながら、「つじつま」のあうようにまとめてるお話なんですよ。ありえなくて当然なんですけど・・・・ 後藤教授の部屋に設置された、理髪店にあるような大きな椅子・・・・様々な配線がされていて、河本には「電気椅子」のように思えた。「これが、嘘発見器よ・・・・さあ河本君座って」中川女史に促され、河本はその大型の椅子に腰掛ける。「嘘発見器の実験なんだけど、ついでに脳波の測定と、心拍数も測らせてもらうわね。・・・・上着も脱いでね」河本はそれまで着ていた作業服を脱ぎ、Tシャツ1枚になった。中川女史は河本のTシャツを裾のほうからたくし上げ、彼の分厚い胸に心拍数の測定器をセットした。「少しダイエットしたほうがいいわね・・・それじゃ、若い女の子にもてないわよ」少し顔をしかめながら、中川女史がそういうと、周りにいた女子大生達は一斉に笑った。「ホラホラ、あんた達も笑ってないで、早く測定機器をセットなさいな・・・」女子大生達は笑うのをピタッとやめ、それぞれが担当する機器を河本の身体に付け始める。脳波を測定するヘッドギア状のものをかぶせられ、指の一本一本にも線が接続された。「嘘発見器って言うのはね・・・この指の一本一本から出る汗の量で、ウソをついてるかどうかわかるようになっているのよ・・・ほんとに微量な汗だけどね・・・だからエアコンを少しかけるわね」今日は、梅雨のじめじめした時期のわりにはからっとしていたので、それほど汗もかいてないが、エアコンで調整された室内は、汗がすっと引いたような気がする。「さて、測定機器のセッティングをするわよ・・・脳波計はOKね・・・心拍数は・・・あらあら、この子、意外と落ち着いてるわ・・・・これだけの可愛い子に囲まれてると普通は、心拍数が上がるもんだけどね・・・もしかしたら、女の子はお嫌い?」中川女史は私の顔を下から見上げるようにして聞く?河本は返事をせず、無言のままでいたのだが・・・・「あらら・・・心拍数が上がってきたわ・・・・顔も赤くなってきて・・・・正直な子ね・・・皆さん、安心して・・・・皆さんに魅力があるってことが証明できたわ」中川女史は、周りを見回してそう言った。また女子大生達は「ケラケラ」と笑う。「さあ、今度は嘘発見器の微調整に入るわ・・・個人個人で、出る汗の量が違うから、振幅数の微調整が必要なのよ・・・・ここに”1”から”10”までの数字が書いてあるカード10枚あるわ・・・・・この中から”5”番のカードを、初めからあなたに渡して置くから・・・・・そしてこちらにある、もう一組のカード・・・・順番にあなたに見せていくから、あなたのカードはこの数字ですか?って聞かれたら、全て”イイエ”って答えてね。・・・・もちろん”5”番のカードを見たときも”イイエ”って言うのよ」(初めっからカードを見せられて、それが嘘かどうか・・・・そっちでわかるじゃないか)河本は思いましたが口には出しませんでした。「じゃあ・・・心拍数も脳波も・・・汗の量も安定してきたから始めるわね・・・あなたのカードは”1”ですか?」中川女史は、「1」のカードを河本に示しながら質問します。「いいえ」「じゃあ・・・”2”ですか?」「いいえ」カードは1から順番に示されていって、いよいよ「5」のカードが示された。「あなたのカードは”5”ですか?」「いいえ」河本は極力、反応が出ないように落ち着こうとした。「カードは6ですか?それから10までのカードが、同じように示されていった。「さあ、皆さん・・・・こちらへ来て測定器の結果を見てちょうだい。・・・・心拍数が山のようになってますよね・・・・これは数字が”5”近づいていってるときに、緊張感が増して心拍数が上がって行き、”5”という数が通り過ぎていったから心拍数も徐々に落ち着いてきたっていうことよね」女子大生達は、口々に感動したような発言をしていったが、これは素人でも考えればわかることだろう・・・河本はそう思った。「さあ、今度はこちらの嘘発見器のほうよ」中川女史は少し移動して、嘘発見器の針の航跡を女子大生達に示した。「こちらの方はちょっと違うでしょ?・・・・”1”から”3”までは、何の反応も現れてない・・・でも”4”で微妙に反応してるわね?・・・・これは次がいよいよ”5”だってわかってるから、微妙に汗をかき始めたのよ・・・・でほら、”5”になるとこんなに反応してるわ?・・・・・・でも次の”6”からはもう嘘をつかなくてもいいと思っているから最初と同じぐらいになってるでしょ?」河本にはよく見えないところだが、女子大生達はそのグラフを見て大きくうなずいていた。「じゃあ次に進むはね・・・・今度は河本君にカードを引いてもらいます。・・・そしたら君はそのカードを誰にも見せずに、こっそり確認してね。・・・・こちらで見せるカードもアトランダムにします。・・・・でも答えはさっきと同じ・・・全て”イイエ”と答えてください。」今度は、そのグラフを見て、なんの数字のときに反応が現れるかを確認し、ウソを発見するというゲームだった。河本が引いたカードは「4」・・・・・誰にも見えないようにして、河本はそのカードをひざの上に伏せた。「あなたのカードは”6”ですか?」「いいえ」「あなたのカードは”2”ですか?」「いいえ」「あなたのカードは”4”ですか?」「いいえ」その時、測定器を見ていた女子大生達が喚声を上げた。反応が出たようである。「でも、確認のために残りのカードもやっちゃいますからね・・静かにしなさい」そのあとも、カードを見せられ・・・・全てのカードが終わったとき、中川女史は1人の女子大生に質問をする。「内田さん・・・・彼の持ってるカードはなんですか?」「えっとお・・・・4じゃないかと思うんですけど?」中川女史は、そのグラフを見に行き、「これは、はっきり”4”です・・・って断定していいですよ」そして、中川は河本に向かってはっきりと言った。「あなたの持っているカードは”4”です」河本は、そのカードを女子大生みんなが見渡せるように、高く掲げて見せたのである。 つづく
2007.03.09
コメント(14)
うちの小学校もそろそろ卒業式間近なんです。ということは、そろそろPTA会長としての祝辞も、作らないといけないんですよね。これがまたなかなか面倒で・・・・・今年は創立60周年という節目の年になることとか・・・・昨年60周年記念として半纏を作っていただいたお礼のこととか・・・・校長先生が今年で退職され、卒業生が最後の教え子になるということとか・・・・・言わなきゃいけないことが多すぎるんです。誰か綺麗にまとめてくれないかなあ・・・・ 河本がその「嘘発見器」の実験台にされたのは、6月半ばのことだった。自分の土木工学科の担当教授から、実験室、もしくはすぐに連絡できる場所に居ろという厳命があったので、河本はいつものように「水工実験室」の水路の中の作業に集中していた。実験水路は60センチ幅で長さは20メーター・・・・ガラス張りの水槽で、これから行う実験は水路を急激に狭くした時に発生する波のエネルギーを解析する「交差波」の実験だったから、水路内にさらに狭い水路を設置する作業だった。大学に入学してすぐに、河本は「水工実験室」の門を叩いていた。実家が田舎の小さな建設会社で、海岸や港湾工事の仕事を中心にした業者だったものだから、跡とり息子の河本にとっては自然の選択だったのだが、4年になり担当教授から与えられた卒研のテーマが「交差波」という河川工事のことを考えた実験だったので、少し不満に感じていた。もちろん教授に逆らうわけには行かない。隣の水槽で、「テトラポット」のような消波ブロックの実験準備をしていた仲間が羨ましく思えた。「河本先輩、心理学の後藤教授からお電話です。」二年生が呼びに来たので、河本は後の仕事をそいつに任せて、電話に出た。「はい、河本ですが・・・・」「アア、河本君・・・今、二時間ぐらい時間が取れるかな?」時間を限って聞くのは、その時間実験台になれるかどうかの確認だった。「交差波」の実験は河本の卒研のテーマで、他の仲間3人での共同実験だったが、ほかの2人は今、授業に出ていて、夕方からでないと実験が開始できない。「今ならいいですよ」「じゃあ、すぐに私の部屋に来てくれないかな・・・・」河本は下級生に、「二時間ほどでかけてくる・・・後藤教授の部屋にいるから・・・」そう言い残して実験室をあとにした。居場所さえはっきりしていれば、担当教授は文句を言わない。水工実験室を出て、陸上競技場を横切り4号館へ向かう。「今日は、いい天気だなあ・・・・こんな日は芝生の上で昼寝でもしたいなあ」先週まで梅雨のうっとうしい雨が続いていて、久しぶりの太陽がまぶしく河本を照らす。陸上競技場のスタンドには、恋人同士のような男女が、2人並んで腰掛けて話しこんでいた。いつも、暗がりで水の実験をしながら、男だけの・・・例えて言うなら「運動部の合宿所」のような生活を繰り返している河本には、羨ましい光景だった。14号館の建物に入り、エレベーターで4階の後藤教授の部屋のドアをノックした。「はいどうぞ」中に入ると、40代半ばの後藤教授は数人の女子学生に囲まれて談笑していた。全員、「後藤ゼミ」の学生で、前の実験でも顔なじみの女子学生もいたのだが、河本を見ても挨拶するわけでもなく、白衣着用のその姿は、明らかに河本を実験動物扱いしているようだった。「ア、河本君・・・・今日の私は、テレビの収録があってね・・・実験は助手の中川女史に指導してもらって、この子達がするから・・・・・いつもどおり気楽にやってくれたまえ」後藤教授はそう言うと、すぐに立ち上がり、白衣を脱いで出かける用意を始めた。最近、テレビ出演も多く、時代の寵児としてもてはやされている後藤教授だったが、本人が思うほど人気はないように思えた。ただ、この教授をアイドル視している女子学生たちがちやほやしているだけで、このときも出て行く後藤教授をみんな、満面の笑みで送り出した。教授が出て行くと、さっそく中川女史が真顔に戻って河本に声をかけた。「さあ、河本君・・・今日は嘘発見器の実験よ・・・・アッチの椅子に座って」そこには、「理髪店にあるような大きな椅子が据えられ、様々な配線がされていたのだった。「あなた・・・・これから、あたし達がする質問・・・・全て嘘をついてもばれるのよ」そういうと中川女史だけでなく、そこにいた全ての女子学生がニヤリと笑うのだった。 つづく
2007.03.08
コメント(20)
困ったときの、「夢の続き」頼り・・・・・・実は、引き続き「ナイト童話集より・・・シンデレラ」を書こうと思ったんです。私がいつもいく、喫茶店の常連さんで、その「シンデレラ」のネタを提供してくれたある中学生の母親なんですけどね・・・今日はちょっと変なんです。いつもはとってもおしゃべりなのに、私が入っていくと急に黙りこくって・・・・「オイ、どうしたんだい?・・・・今日はずいぶん静かじゃないか?・・・・ハハア・・・俺に恋したな?」「だって、ナイトさんに話すと、ブログのネタにするんだもの・・・昨日も書いてたでしょ・・・この次は”シンデレラ”にするって」先日、子供が塾の帰りに、その母親の妹・・・実のおばさんに誘われてボーリングに行ってしまったんですよ。で、連絡もないし・・・・けっきょく帰ってきたのが12時過ぎちゃって・・・・・そのことを、喫茶店のほかの常連さんに話して「ウサ」を晴らしてたんです。(あ、これはこの次のネタにしよう・・・しめしめ)そう思って、昨日・・・「次回予告」ってことで書いたのは皆さんご存知の通りなんです。ところがね・・・知らなかったんですけど・・・・このお母さん・・・・ジャングル・ナイト・クルーズのけっこう熱心な読者さんだったんですって。昨日「次回予告」って書いたのがすっかりばれちゃってて、それで今日は、私に何にも話しかけてくれないんです。だからシンデレラは、当分書けません。そこで、困ったときの「夢の続き」頼りなんです。 皆さんは、「嘘発見器」に掛けられたことはあるだろうか?実は、この物語の主人公、「河本正晴」は何度も掛けられているのである。といっても決して彼が犯罪者だったというわけではなく、たまたま学内で募集していた「心理学実験」の実験台に、アルバイトとして応募したところ、採用されたのである。そのとき一緒に採用されたのは10人・・・・皆、この大学の学生であったが、その中には「心理学専攻」の学生はひとりもいなかった。河本自身も土木工学科の学生であり、「心理学」は一年のとき、「一般教養」の単位取得のために講義を受けたが、ほんとの初歩の心理学ということで問題視されなかった。アルバイトといっても時給はとっても安く、普通の苦学生ならよそで働きたいところだが、河本は「水工実験室」に所属しており、この実験室は「徒弟制度」のような制約があって、教授から、「月曜から土曜まで・・・必要ない限り実験室、あるいは学内のすぐ連絡のできるところにいるように」とのお達しがあった。そうはいっても、4年生の河本は、必要な単位は既に3年生までにほとんど取得していて、大学には「卒業実験」のために来ているようなもので、だからこそ、実験室以外のところにいきたいというストレスが溜まっていた。だからこのアルバイトは、ストレス解消のためであり、金額なんか問題ではなかったのである。それに、心理学専攻の学生は、けっこうかわいい女の子がそろっていて、土木工学科」という、むさくるしい男ばかりの集団の中に身を置く河本にとっては、それもまた楽しみの一つだった。「心理学の実験」といっても、そこの教授も学生もほとんど何のための実験かは教えることもしないから、ただただ実験に協力するのみであった。せいぜいわかったのは、半分に折った紙の片側に絵の具を塗りたくって、それを重ね合わせて左右対称の模様を作り・・・それを被験者に見せてなんに見えるのかを問う「ロールシャッハテスト」ぐらいのもので、そのほかの実験は何のために何を求めてしている実験なのか、まるでわからなかった。頭に脳波を測定するヘッドギアをかぶり、、衆人環視の中を「寝なさい」といわれる実験はつらかった。「レム睡眠とノンレム睡眠との脳波の比較実験」という事だったが、周りの数人の学生に見守られながら「寝なさい」と言われても、とてもじゃないけど人の見ている前で眠ることはできなかった。 あ、ごめん急用ができたから続く
2007.03.07
コメント(10)
いよいよ、「鶴の恩返し」も大詰めになってまいりました。お気に召すやら召さぬやら・・・・まあ、どっちにしてもいつかは終わらせなくちゃなりませんからね。さて、次回予告ですけどね・・・・「シンデレラ」にしようと思ったり、「泣いた赤鬼」にしようと思ったり・・・まだ迷ってるんですけど・・・・・また、タイトルだけ決めてまるっきり考えずに行こうかと思ってます。 与ひょうが待つ駅前に、ぴたりと車が横付けされました。「待った?」鶴子が、助手席側の窓を開けて与ひょうを覗き込みます。与ひょうは、車の助手席に乗り込みながら「言いや。。。」と一言だけ答えました。「子供がいる話・・・・もっと早く言えばええのに・・・」「ごめん。。。なかなか言い出せなくって・・・」後は無言のまま、鶴子のアパートに向かいます。「ご飯食べたの?」鶴子に言われて与ひょうは、朝から何にも口にしていないことを思い出しました。「うちに着いたら、夕飯の支度はしてあるから、先にご飯食べましょうね」子供のことが心配で、会社まで休んで私と金が到着するのだけを待ちわびていた鶴子が、夕飯の支度なんかできるのでしょうか・・・・・鶴子のアパートに到着しました。二階の部屋に行くと、テーブルの上にはサラダがボウルの中に作ってあり、夫婦茶碗が夫婦箸と一緒においてあります。独り者の鶴子が私のために用意しておいてくれたんでしょうか・・・・テーブルに着くとさっそく鶴子が言います。「ねえ・・・・お金・・・見せてくれる?」与ひょうは大事に抱えていたバッグからA4判の封筒に入った500万を取り出します。「これで助かるわ・・・あの子・・・・じゃあまだ暖かいうちにご飯食べましょうか・・・・ビールでも飲む?」「いやあ・・・まだわし、ホテルも取っておらんから」「なにいってるのよ・・・・こうやってお金までしたくして貰って、・・・もうあなたと私は夫婦とおんなじよ・・・ここに泊まってよ」先日までの態度とはかなり違いました。冷蔵庫からビールを出した鶴子は、栓を抜き、与ひょうのグラスにビールを注ぎました。「あんたは飲まんのけ?」「あたしはこれから、お肉を焼いたりするから・・・・料理ができたら付き合うわ」与ひょうはグラスを一気に飲み干しました。砂漠に水をまいたように・・・・そのビールは空腹の与ひょうのはらわたに吸い込まれていくようでした。「あれ?・・・・なんじゃあ・・・・・天井が・・・・天井が・・・・・」そのまま、与ひょうは倒れこんでしまいます。「こんなんで酔うはずは・・・・・・」そのまま気が遠のいていきます。 与ひょうが目を覚ましたのは、それから何時間たってからのことでしょうか・・・・与ひょうは病院のベッドで寝ていました。「あれ?・・・・ここはどこだ?」「気がついたの?・・・与ひょう」ベッドの脇には熊子が座っていました。「わし、どうなったんじゃ?」「あんたねえ・・・・・即効性のある睡眠薬を飲ませられたのよ・・鶴子に」「え?そういやあ鶴子はどこにいったんだ?」「黙って聞いて・・・・全部説明するから」熊子は与ひょうに全て教えてくれました。最初、鶴子が仕事で与ひょうの近くまで来たのは事実でした。熊子に実家への届け物を頼まれたのも事実・・・・そして道に迷って車を側溝に入れてしまったのも事実でした。問題はここからです。東京に戻って、熊子にこういう人に助けてもらったと報告すると、熊子がそれは与ひょうのことだと話したんだそうです。そして、言わなくてもいいのに、与ひょうの土地が新幹線の用地に引っかかってかなり高額の金を貰ったらしいことも話しました。さっそく鶴子は、与ひょうに近づき、その金を騙し取ろうと画策したのです。実は、鶴子は本名を「園山久子」という結婚詐欺の常習犯で最後の事件を○○県で犯し、事件発覚後逃亡生活をしていたのだそうです。その事件の担当者が、立花警部補・・・・・だから、立花刑事が姿を現すと彼女は隠れるようにしていましたが、あまりに与ひょうのまわりに立花刑事の影が見えるので、ここらが潮時と・・・500万でまた姿をくらまそうとしたようです。今朝、与ひょうが立花刑事に連絡してきたとき、立花は手口から鶴子が園山久子であると直感したそうです。そして、与ひょうの言葉の中に「同じ会社に熊子と言う同級生がいる」という話を聞き、駐在所に確認したところ、与ひょうの同級生は3人しかおらず、その熊子の実家から会社の電話を聞き連絡を取ったんだそうです。連絡を受けた熊子は、鶴子のアパートまで立花を案内し、今まさに逃亡しようとする鶴子を緊急逮捕した。それが今までの経過でした。「じゃあ、やっぱり、あの女は、わしと一緒になるつもりはなかったんじゃなあ」「あんたは、純粋すぎるのよ・・・・だからすぐ騙される・・・だいたいあんたみたいな男の世話する物好きはあたしぐらいしかないのよ・・・それなのに・・」「黙って聞け!熊子・・・・・」突然与ひょうが大きな声を出しました。「わし、今まで、一人で暮らしてるのもしょうがないかなあって思ってただ・・・でもなあ・・こうやって鶴子と、少しだけでも一緒に飯食ったりしてたら・・・・わし、一人では暮らしていけんってようわかった・・・・それにわしのような男には、お前のような女でないとやっていけん・・・こんなのに引っかかった男はいやかも知れんが・・・・わしと一緒になってくれんか?」「今度は私の番よ・・・あんたも黙って聞いて・・・・あたし、子供のころからあんたの世話をずっとしてきた。。。このまま大人になってもこんな風にしてるのかなって思ったら・・・あたし田舎で暮らすのがいやになって東京から戻らなかったの・・・・でも、今回鶴子があんたの世話をしてるのをずっと見てて・・・やきもち妬いちゃったみたい・・・・・だから、・・・あんたと一緒になって・・・ずっと面倒見させて欲しいの・・・」こうして・・・・与ひょうと熊子がその年の秋に結婚し・・・翌年には子供まで生まれました。与ひょうと熊子は今でも時々、この事件を思い出すそうです。「鶴子が恩返しするって思ってたら。。。。あの女、鶴じゃなくてサギだったからねえ・・・同じ鳥でもえらい違いだ・・・・・・」鶴じゃなくて・・・サギおい、ナイトはその親父ギャグを言いたかっただけなのか?まあまあ、皆さん怒らないでください・・・・最初から気づいてもよかったでしょ?鶴子が使った偽名の苗字・・・・「城崎鶴子」なんですから・・・・このあと、与ひょうと熊子が幸せに暮らせたかどうかはわかりません・・・もしかしたらこのあと・・・「舌切り雀」のおじいさんとおばあさんになったかも・・・ということでお終い
2007.03.07
コメント(16)
ダイエットの話し・・・・私、最盛期86キロあったんですよ。それでも、当時も少しはダイエットしてね・・・去年の4月には84キロになりました。その前の年からPTA会長を引き受けて、ちょうど「子供の声がけ事犯」なんかが話題になり始めてたんですけど、あちこちにお願いして「声掛けできる腕章」なんていうのを作りました。町内の方々にも集まってもらって、「腕章をお配りしますから、その腕章をして登下校時のパトロールしてください」ってお願いしましたところ、「腕章をしてまで子供に声を掛けたくない」って言う人がいましてね・・・・・・そりゃ、昔は腕章がなくたって子供に声を掛けることができたんですけどね・・・最近は難しいんですよ。それでその時考えました。夏休みにラジオ体操をして、その時、子供と年寄を集めようってね。で、夏休みに子供と年寄を「顔なじみ」にさせておこうって事になったんです。私も、「言いだしっぺ」ですから毎日ラジオ体操に行ったんですけど、そのころ病院にドックで行ったんです。「あんた、体重71キロまで落とさなきゃならないねえ・・・それが標準体重だから」医者にそういわれました。で、運動は朝30分、子供と一緒に走ったり、ラジオ体操してますからそれを続けて・・・食事は3食のうち夕飯を抜けって言われたんですけどね・・・・私、宴会担当で好きあらね・・・できないって言ったら、じゃあ外食はカロリー高いから昼食を抜こうって事になりました。毎日はきついなあと思ってたら、週に1回昼食を食べる会がありましてね・・・それには出ていいっていう話して、食事制限を始めたのが去年の8月・・・12月まで75キロまで落としました。でも、12月・・・寒くなったら運動するのが億劫になって・・・今は78キロ。。。。そろそろまた運動をしなくっちゃナア・・・・・ 翌朝、与ひょうは旅支度をして、銀行に直行するつもりでしたが、まだ開店前・・・・ウロウロしていましたが、ハッと思って電話をしました。相手は、鶴子の元亭主であろう立花刑事でした。子供の病気の状態を知ることと、治ったら自分と鶴子にその子を引き渡して欲しいというお願いの電話をするつもりだったのです。前に貰った名刺から立花刑事の職場に電話をします。立花刑事は出勤していました。「あんた・・・・刑事という仕事がどれだけのもんかわしゃ知らんけどな・・・子供が生きるか死ぬかっちゅう時ぐらい、休んだらよかろうが」「なんの話しですか?」「鶴子が、子供の手術のために500万かかるって前の亭主に言われたといっとるぞ・・・」「もしもし、それは鶴子じゃなくて園山久子じゃないんですか?・・・・・」「あんた、あに言ってるだ・・・・まあ、確かにあの会社の人は、わしの同級生の熊子もそうじゃが芸名をつかっとるかも知れん。・・・そんなことはどうでもいいんじゃ・・・・それで、その子の様態はどうなんだね?・・・・大丈夫なんじゃろ?」「それが園山久子の手口なんですよ・・・・それでその500万どうすることにしました?・・・もう渡したんですか?」「うんにゃ・・・これから銀行に行って貯金を下ろして・・・・八王子のアパートまでもって行くことにしちょる・・・あんたには、直接鶴子が渡しに行くじゃろ・・・・その子のことだけんどな・・・・病気が治ったら、わしと鶴子で引き取るから。。。あんたもそのつもりでおってくれ」話がかみ合わないままで、電話を切ってしまいましたが、与ひょうは立花刑事に宣言したことですっとした気分でした。それから銀行に行って預金を下ろし、・・・前に熊子から買って貰った旅行かばんにその現金を押し込みました。銀行の担当者が「500万もの大金をどうするんですか?」としつこく聞いてくるので、与ひょうは「結納金じゃ」とはっきり言ったのです。ちょうどお昼の新幹線に間に合いました。夕方には鶴子のところに行けるはずです。はやる気持ちが抱えたかばんをぎゅっと押さえました。東京駅に着いたのが夕方の4時・・・・前に教えて貰ったとおり、中央線のオレンジ色の電車に乗り換えて八王子に向かいます。八王子の駅に着くと、与ひょうは鶴子に電話をしました。「今駅についた・・・・・」「これから迎えに行くね・・・・」駅前で与ひょうはかばんを胸に抱えたまま、じっと待ちました。 つづく
2007.03.07
コメント(14)
今日、あるお母さんからアイディアをいただきました。ある喫茶店の常連さんで、私がその喫茶店にいったらひとりで怒ってるんですよ。お嬢さんが塾に行ってて、終わったはずなのに何時になっても帰ってこなかったんだって。中学生だから塾に行くときは携帯を持たせてるんだけど、何度呼んでも出ない・・・・心配になったんだけど、ハッと思って電話した先がボーリング場・・・・・実は、そのお母さんの妹が「ボーリングの大会」に出場してたんだって。そしてその妹さんの勤務先が塾のそば・・・・・・いました。!!!!「おばちゃんが連れてってくれるっていうんだもん・・・・・」言い訳したんだけど、その時間はまもなく12時というころで、かなりの勢いでその妹さんのこと怒ったんだって。「ナイトさん・・・どう思う?・・・怒るわたしが悪いの?」いえ・・・あなたが正しいんです。でもそれで浮かんだ物語・・・・・12時前に帰らなくっちゃ・・・・そう、今度の「ナイト童話集」は「シンデレラ」になりそうです。 東京に戻った鶴子は、毎日のように、与ひょうに電話をかけてきます。「今日は営業で、ある大学の先生のトコにいったの・・・・大学生の服装なんか見てて、今度ああいう服を着てみようと思って」とか・・・・「さっき、お客さんと待ち合わせた喫茶店のケーキ・・・すごく美味しかったから今度買って持って行くね?」とか・・・・毎日毎日の生活に変化を感じさせる話を聞くことができました。一方与ひょうの方はというと、それでなくても何にもない田舎で、農閑期ですから毎日が同じ様な生活・・・・「今日、甚乃丞さんとこから貰った生卵が、双子だった」とか・・・・「トイレの電球が切れてしまった」とか・・・・・毒にも薬にもならない、つまらない話しばかりです。「本当にこんな刺激のない村で、あの女が暮らしていけるんだべか?」最近では、鶴子の存在が、与ひょうにとっては心の中の半分以上を占めるようになっていましたから、逆にそんな心配をするようになっていました。与ひょうは一度鶴子に聞いたことがあります。「東京で生活しておって楽しいじゃろ?」「ええ、もちろん!!・・・・東京には何でもあるし、今が一番楽しいわ」こんな女性が田舎の暮らしで満足できるわけがない・・・・・今は二週間に一度、与ひょうの家に来て何やかやと世話をしてくれる鶴子ですが、実は田舎暮らしがしたくないのではという疑問がわいてきました。二週間に一度来て、ホテルに泊まって帰るということの繰り返しでしたから、これもあるとき鶴子に聞いたことがあります。「わし、こんな広い家にひとりっきりなんじゃから、ホテルなんぞに泊まらずに、ここにとまりゃあええんじゃ・・・・」その答えは・・・・・「私最初の結婚で失敗してるから、ちゃんと籍を入れるまではこのままでいたいの・・・・・だから、それまではホテルに泊まらせて?」何をしようというわけでもないのですが、答えはいつもこうでした。そんなこんなで、与ひょうは鶴子と、キスどころか手をつないだ事もないのです。それでも、電話だけはこまめに毎日くるのでした。付き合いを始めて3ヶ月ほどたったころです。いつも夜の10時には鶴子の電話が定期便のようにあったのですが、その日に限って10時半まで待ってもきませんでした。今まで、無断で連絡もよこさないというのは初めてでした。「明日は遅くなるから電話できないよ」電話のできない日は前の日にきちんと報告してくれていたのに、その日に限って電話がないのです。いえ、電話ができないっていう日だって、公衆電話からでも、一分ほど話すために必ず電話があったのに・・・・「おかしいなあ・・・・病気でなければええんじゃが。」与ひょうでも、心配になって鶴子のアパートに電話してみる事にしました。「トゥルルルルル・・・・トゥルルルルル・・・・」電話の呼び出し音が受話器を通し10回ほど鳴り響いていました。「もしかしてどっかに出かけてるんだべか?」そう思ったとき受話器を取る音がしました。「はい、城崎です・・・・・」その声は暗く沈んでいるように聞こえました。「あ、鶴子さん?・・・そこにいたのけ?・・・・いつも電話をくれる時間じゃのに、今日は電話がないから心配しとったぞ」「ああ・・・ごめんなさい・・・・今日はちょっと、電話を掛ける気分になれなくて・・・・」「なんかあったのか・・・・」「ううん、なんでもないの・・・気にしないで・・・・」それからお互い、しばらく無言の時間が流れました。「そんでも気になるから・・・話してくれんかのう?・・・わし、もうあんたの亭主になるつもりでおるんじゃから、なんでも相談して欲しいんじゃ・・・・あんただって、わしを頼りにしとるって言うとったじゃないか・・・・」それからまたわずかな時間が流れました。「実はね・・・・あなたに内緒にしてたわけじゃないんだけど・・・・あたし別れた亭主との間に、子供がひとりいるの・・・・」エエ!・・・そんな話しは聞いてなかった・・・・・・「その子が・・・・心臓の重い病気にかかって・・・・緊急に手術しなくちゃならないんだって・・・・・あいつ、あたしと離婚するとき、あいつの浮気が原因だから、慰謝料をあたしに払ったでしょ?・・・・・貯金もないし・・・・どこからも金を借りる当てもないから・・・・500万、何とかしてくれって電話よこしたのよ・・・・」子供をなぜそんな亭主のもとへ置いてきたのか・・・・与ひょうには理解できませんでした。「慰謝料といったって、安い給料だから、スズメの涙ほど・・・・あたしひとり生活するのだって精一杯なのに・・・・500万なんて・・・あたしだってどうにもならないわ・・・」「その子は、手術をすると治るんか?」「だめよ・・・あなたのお金を出してもらうだなんて・・・そんなこといえた義理じゃないわ」「うんにゃ・・・あんたの子供は、今度はわしの子供になるんじゃ・・・・手術が終わったら、わしらでその子を引き取って、一緒に育てよう・・・・それよりも先ず手術じゃ・・・・明日、金を持って東京に行くから・・・・・」明日、銀行に行ってお金をおろしたら、その足で東京に向かい、電車を乗り継いで八王子まで行くという約束をしました。八王子の駅に着いたら連絡するというと、鶴子は子供が心配で仕事が手につかないから、明日はずっとアパートにいるといいます。「じゃあ、着いたらそこへ電話するべえ」そう約束して電話を切りました。子供がいたと言う話は、少なからずショックでしたが、こうなれば、与ひょうも覚悟を決めたようです。「マア良かろう・・・・子供を作る手間が省けたと思えば・・・・・」そう独り言をいって、与ひょうは明日出かける準備を始めたのでした。
2007.03.06
コメント(16)
前回のコメントに、「煎餅汁」の話題を取り上げていただきありがとうございました。今回、「キリプレ」で贈らせていただいた「煎餅汁」と「飴煎餅」はいずれも、私の中学の同級生が社長をしている「八戸屋」と言うお店のものです。いちど覗いて見てください。 翌日は早朝から鶴子が与ひょうの家にやってきました。鍵をかけて寝る習慣のない与ひょうでしたが、いつも5時には目が覚めますので、この日も既に、納屋で仕事をしていました。7時ちょっと回ったころでしょうか・・・・・・鶴子の車が、与ひょうの家の前にスーッと滑り込んできます。着替えも車に積んできたのでしょう・・・・夕べとはまったく違うカジュアルなものを着ていました。しかし、いつもにこやかな表情をしている鶴子でしたが、車から降りたときの顔はビジネスの時よりもずっと真剣そうな顔をしています。与ひょうは「こっちだ、納屋のほうにいるぞ」と声をかけようと思いましたが、その表情に気おされ、声を掛ける事ができませんでした。やがて車から降りた鶴子は、与ひょうの家の玄関に近づき、一転してにこやかな顔になり、「与ひょうさ~ん・・・・起きてる~?」と声をかけるのでした。話しは変わりますが、読者の皆さんはデパートの「店内放送のアナウンス嬢」が、どのようにして放送しているかご存知でしょうか?筆者が以前、某デパートに勤務していたことはお話ししたことがあったと思います。その時、一度だけ、放送室に店内アナウンスの原稿をもって行ったことがあったんです。もしかしたらそのデパート・・・そのアナウンス嬢だけなのかもしれませんが、放送するときに身をよじってマイクに話し掛けてるんですよね。「世田谷区からおいでの○△◇×様、○△◇×様・・・・・お連れ様が3階婦人服売り場でお待ちでございます~~~至急・・お越しくださいますよう、ご案内申し上げます~~~」台詞は忘れてしまいましたが、そのようなことを身をよじって言うんです。まるで、恋人のマイクに今にもキスしようとする勢いで・・・・むかし「萩本欣一さん」の番組に出ていた、ちょっと太目のタレント「斉藤清六」さんが、「村の時間の時間です~~~」ってやってたように、身をよじって放送してるんです。それがね・・・それがですよ・・・・社員食堂で会うと・・・普通のお姉さんなんですよ。今の鶴子がそういうような感じだったんです。車から降りたときの無表情が・・・玄関の前で、与ひょうがまだ寝ているとでも思ったんでしょう・・・・突然、表情が一転して、デパートのアナウンス嬢のように、身をよじって出すような声で与ひょうを呼ぶのです。「ねぇ~、まだ寝ているの~~あたし、もう来ちゃったんだから~~」納屋から見ていた与ひょうは、その表情の変化に、あっけに取られて見ていました。与ひょうの返事がないので、鶴子は玄関の戸をこじ開けようとしました。しかし、この家もかなり古くなっていて、立て付けが悪くなってきていますから、なかなか開けることはできません。どれくらい古いかと言うと、県の「重要民俗文化財」に指定されそうだったのを、茅葺の屋根をトタン屋根に葺き替え、普通の窓をサッシに変えたりして指定を免れたくらいなんです。指定されると、様々な制約が出てきて、ちょっと壊れたのを補修するにも、県の「教育委員会」からの許可を貰わなくちゃならないんです。そんな面倒なことは、与ひょうもしたくありませんでした。「そんなに乱暴にしなくても、あくじゃろうが・・・・」与ひょうはとうとう見かねて納屋から出て行きました。「あら・・そこにいたの・・意地悪ねえ・・・もっと早く声をかけてくれればいいのに」表情を見られていたことをおくびにも出さず、鶴子はいつものにこやかな顔で与ひょうに近づいてきます。「ホテルのパン屋さんで、焼きたてのパンを買ってきたの・・・コーヒーで食べましょうよ」前にも述べたように、与ひょうはふだんインスタントコーヒーに砂糖をたくさん入れて呑んでいました。ですから、コーヒーメーカーで入れたコーヒーをブラックのまま飲むのは、苦すぎるのです。与ひょうも我慢して飲んでは見ましたが、どうにもいけません・・・・・鶴子がパンと一緒に買ってきたジャムをトーストに塗りつけ、それを食べようとしますと・・・「あなた・・・そんなに糖分をとっちゃだめよ・・・・これから少しでも長く、あなたと暮らしたいと思ってるんだから、長生きしてもらわなくちゃ・・・あなただけが頼りなのよ」与ひょうは今まで、誰かに頼りにされると言う経験はありません。いつも誰かの世話になり暮らしてきたのです。そんな与ひょうでも「頼りにしてる・・・」・・・この言葉は、カウンターパンチを貰ったような・・・甘い響きに感じたのです。パンチが甘い?そうなんです・・・・気持ちよくヒットしたパンチ、特にあごの先端をかすめるようにヒットしたパンチは、なぜか天国にいるような気分になるのです。「本当に、わしと一緒になるんけ?」昨日までどうしようかと悩んでいた与ひょうでしたが、「自分を頼りにしている女ができた」と言うだけで、綺麗さっぱり悩みが吹き飛んでしまいました。朝食を終え・・・・鶴子が少し申し訳なさそうな顔をしました。「ごめんね・・・・夕べ会社から電話が入って、今日はすぐに東京に戻らなくちゃ行けないの・・・・また来週・・・いえ、再来週来るから・・・・電話は忘れないでね」そういうと、東京に戻っていってしまいました。与ひょうは鶴子の残していった残り香を、胸いっぱい吸い込むのでした。 つづく
2007.03.06
コメント(16)
今朝、家族全員で寝坊してしまいました。わたしがおきたのは6時30分・・・あわてて家族全員を起こしました。次男はもちろん学校・・・7時ちょうどに出なければ遅刻です。長男も、今わが社でバイト中、これも現場着7時20分ですが次男と同じころでなければ、迎えのバスに間に合いません。そういうわけで、朝は食パンを焼かずに牛乳で流し込むという騒ぎです。私は前に話したとおり、昼食を抜いてますから、朝はきちんと食べなければなりませんが、今日ばかりは、コンビニで弁当を買って会社の自室で食べる事になりました。社員に・・「家で奥さんご飯食べさせてくれないんですか?」って言われる始末・・・・食パンの枚数はちゃんと私の分も買っておいてくれ! どうしても夕飯の支度をするといってきかない鶴子と連れ立って、与ひょうは隣町のスーパーまで買い物に行くことになりました。ご飯だけはタイマーをかけ、夕方6時には炊き上がるように仕掛けてきましたが、冷蔵庫を開けてみると納豆が1個と豆腐が一丁入っているきりでしたから買出しに来たのです。「あ、コーヒーメーカーも買おうよ・・・・明日の朝はコーヒーを飲んで・・・・」え?コーヒーを飲むって・・・・・「鶴子さん・・・・あんた泊まっていくきか?」「あ・・・いやあねえ・・・・ホテルはちゃんと予約してきたわよ・・・ご飯を食べたら私はホテルに帰って寝ます・・・・でも、明日の朝は与ひょうさんの家に戻って、朝御飯の支度をするわ」もしかしたら、与ひょうが今聞かなかったら、鶴子は自然な形として泊まるつもりだったかもしれません。買出しをしたのは牛肉とシラタキ、ネギに舞茸、それに生卵・・・スキヤキの材料一式・・・・それとコーヒーメーカーに、キリマンジャロのコーヒーを買い、鶴子の車に積み込んで帰ってきました。家につくともう夕方の6時・・・・ご飯もすっかり炊きあがり、あとは「すき焼き」を作って出来上がりです。ちゃぶ台の上にすき焼きのためのガスコンロをセットし、鶴子が下ごしらえを済ませた材料を入れて行きます。「ねえ・・・飲まないの?」「ああ、・・・いつもはひとりだから・・・・ビールくらいなら飲むんだけんど・・・・」「遠慮しないで飲みなさいよ・・・・あたしは車だからお付き合いできないけど」ちゃぶ台をはさんで向かい合い、鶴子はすき焼きを作りながらご飯を食べ、与ひょうはそれを見ながらビールを飲む・・・・まるで新婚家庭のような雰囲気でした。「ねえ・・・この前の話しだけどさあ・・・・・新幹線のホームで、先に降りてきた男の人の話ししてたじゃない?・・・・あれ何のこと?」「ああ・・・あれはわしが勘違いしてたんじゃ」あの男の話しは、鶴子の前では絶対しない・・・与ひょうはそう決めていました。「それよりも、わし、鶴子さんに聞いておきたいことがあるんじゃけんど・・」「なあに?」「あんた、わしの何が気に入りなさったんかいのう?」「バカーッ・・・・何度も言わせないでよ・・・・あなたの優しさがあたしを和ませてくれるの・・・前の亭主が暴力的な人だったでしょ?・・・だから、あたし今度結婚するときは優しい人・・って決めてたの」「そんでも、前のご亭主とは恋愛結婚じゃったんじゃろ?」「若かったのねえ・・・・・恋人同士のころはそれでもそれなりに優しかったのよ・・・でも一緒に生活するようになると・・・・ちょっと特殊な仕事してたからねえ何日もうちをあけて帰ってこないときもあるし・・・・そのうち・・・少し文句をいったら、黙って俺についてくればいいんだ・・・って始まって・・」確かに刑事だから・・・張り込みとか捜査で家を空けることもあるだろう・・・・「ずっと我慢できればいいんだろうけど・・・・そのうち私もガマンできなくなってきて・・・・そのとき、あの人が浮気をしたのよ・・・・あたし爆発しちゃったわ・・・」そのとき、殴る蹴るの乱暴をされ・・・それが数度繰り返されてとうとう我慢しきれずに家を飛び出したというのです。・・・・そのとき、また電話のベルがなりました。「与ひょう・・・・お前あの女と一緒にいるだか?・・・・おかしなことになっちゃなんねえぞ」それは甚乃丞さんからの電話でした。鶴子と与ひょうがスーパーで並んで買い物しているところを、甚乃丞さんの長女が学校帰りにスーパーで買い物をし、そのとき見たらしいのです。電話口から甚乃丞さんが、ガンガン怒鳴る声が聞こえたのか・・・鶴子は「あたしホテルに行くね・・・・」そう言って出て行ってしまいました。 すまん。眠くなっちまっただ・・・・・あれ、訛ってる・・・・疲れてるだなあ・・・・じゃあねんべえ・・・つづく
2007.03.05
コメント(18)
昨日はけっきょく、「381」ヒットでとまりました。あの業者さんたちってどうやって「行き先」決めてるんでしょうね。え? ブログ管理者を見て決めてるって?????? 立花刑事が与ひょうの家を訪問した翌日のことでした。昼は何かと忙しかったのですが、夕方からテレビを見ながらうとうとしていました。「リーン・・・リーン」電話の呼び出し音で目を覚ますと、鶴子からの電話です。「ああ、おはよう・・・ア違うか・・・こんばんはだ・・・・」寝ぼけまなこで返事をすると、鶴子は「ケラケラ」と声を立てて笑いました。「少し前に帰ってたんだけど・・・・電話もらえるかなあって思って・・・」「アア、スマン・・・・わしちょっと居眠りしとったもんじゃから・・・」「そうよねえ・・・畑の仕事から家事まで、全部1人でこなさなきゃならないもんねえ・・・疲れるわよ・・」まるで、「私が早く嫁に行かなければ」とでも言ってるようでした。「ところで今度の土曜日・・・あたしこの前のお客さんのところに行くことになったのね・・・だから与ひょうさんのところにオジャマしようかと思って・・・」「何時ころ来るだね?」「朝一番に出るから、・・・そうね・・・午前中いっぱい仕事して・・・・午後には行けると思うわ・・・・・それからなら晩御飯の支度してあげられるし・・・・」「いや、そっだら事して貰わんでも、もしなんなら玄ちゃん食堂か、纏寿司から出前を取ればすむことじゃから・・・・」「それじゃああたしの料理の腕がわからないでしょ?・・・それにどこにどんなお店があるかも知りたいし・・・」すっかり嫁に来る気です。「それとね・・・・与ひょうさんのことがもっと知りたいから・・・・いいでしょ?」まだ迷っているとはいえ、そういわれると、どこかくすぐったい与ひょうでした。「ところでな・・・・上野の動物園の前でな・・・鳩に餌をやっとった男がおるじゃろ?・・・その男のことなんじゃけど・・・・」「さあ・・・私よくわかんないんだけど?」「東京駅に着いたときに、わしと同じ車両から降りた男の話なんじゃが?・・・覚えとらんかのう?」確かにあの時は動揺していたと思われるのですが、鶴子はまったく知らない人だと言い張ります。「で、その人がどうかしたの?・・・・」「いや・・・知らなければいいんじゃ」与ひょうにしたって、もう既に離婚した亭主が「追いかけはしない、自由にすればいい」と言っているのに、よけいなおせっかいを焼いて、やけぼっくいに火をつけさせるつもりはありませんでした。たとえ警察官だとしても、妻に暴力を振るっていいわけはなく、ましてや浮気を繰り返した男がいかに反省しても、また同じことを繰り返さないとは思えなかったからです。「じゃあ・・・土曜日にまた」電話が終わったあと・・・・与ひょうは立花刑事と鶴子のことを互い違いに思い出していました。職業柄、角刈りにしていて、町を歩いていると暴力団と間違われそうな顔立ちの立花刑事ですが、ちょっと悪そうなその感じが、初心な女性ならいちころで持っていかれそうな優男でした。そして一方・・・・鶴子の少し細面で色の白い顔立ちも、けなげな女性という感じでしたから、二人並べるとそれはなぜかお似合いのカップルに見えるようでした。「黙って俺についてくればいいんだ」という立花刑事と、それに従う鶴子・・・・しかし、それはそのうちにストレスがたまり爆発する・・・・そんな感じに思えました。「きっと鶴子さんが爆発してしまったんだろうなあ・・・・」映画やドラマなら、ラストシーンがハッピーエンドで終わればそこで終わってしまいますが、現実にはその後も生活があります。いつまでもハッピーなままで終わるというのも稀なのではないでしょうか。与ひょうは立花刑事と自分とを入れ替えてみました。しかし、立花刑事ほどしっくりとは行きませんでした。与ひょうは女性から、「右を向いていなさい」といわれれば、一晩中でも右を向いているようなタイプですし、鶴子がそのような命令口調で言葉を発するということ自体、ありえないように思えます。「これだなや・・・わしがしっくりこないのは・・・・・」もし、土曜日に鶴子が来て、半日過ごしてみて・・・・やっぱりあわないようなら、その時断ろう・・・・与ひょうはそう考えていました。さて・・・その土曜日がやってきました。与ひょうは、まだそのことを甚乃丞さんにも伝えていませんでした。「わしの事だから、最後に決めるのはわしだ・・・・・」先日、仏壇から聞こえてきた母親の声を思い出していました。「幸せは自分でつかみとるもの」甚乃丞さんになんといわれようと、最後の結論は自分で決めようと思っていました。午後二時過ぎ・・・鶴子がやってきました。「こんにちは・・・・」鶴子は覗き込むように与ひょうの家に入ってきました。「ああ、いらっしゃい・・・・東京から何時間もかけて運転してきて、疲れたじゃろう・・・まんずまんず座ってけろや」鶴子はなぜか「ククク・・・」と笑います。「なんかおかしいか?」「方言って面白いよねえ・・・・今ね・・・あなたがまんずまんず座ってけろや・・って言ったでしょ?・・・・はじめ意味がわかんなかったの・・・・って言うか・・・・饅頭に座って蹴っ飛ばせって聞こえたのよ・・・・」鶴子はもう一度「ククク・・・」と思い出し笑いをしました。「それがそんなにおかしいか?」自分の言葉をバカにされたようで、与ひょうは少しムッとしました。「ア、ごめんごめん・・・・あたしもここに暮らすようになったら言葉を覚えて、きっとあなたや、甚乃丞さんのようにおおらかな性格に変われるような気がするの・・・・そうなったらいつでもニコニコしていて・・・・今までのいやなこと、みんな忘れて・・・・そうなったらいいなあ・・・って思って・・・」さて、ちょっと時間がないのでここでつつく・・・にしますけど。。。。この2人の運命は・・・・・ つづく
2007.03.05
コメント(12)
私はこの「鶴の恩返し」をどうしようと思ってるんでしょうね?童話を書くといいながら、警察まで登場させちゃって・・・・・「ピカレスク・ロマン」風になってきちゃったようです。 留守電に入っていた隣の県の警察からの電話・・・・・・今まで犯罪なんて縁のないものと思っていた与ひょうにはとんと見当もつきませんでした。隣の県だなんて・・・修学旅行のときに通過しただけで地に足をつけたこともありません。ましてや事件に巻き込まれるなんて絶対にありえないことなのです。その警察から、次に電話が入ったのは午後になってからでした。「ああ、こちら○○県警捜査二課の立花っていうものですが、小泉さんのお宅ですよねえ?・・・与ひょうさん?って方いらっしゃいますか?」「あ、わしだけんど・・・・なにか?」「ああ。どうもはじめまして・・・・・実はこちらのほうで起きた事件について少々お伺いしたい事がありましてねえ・・・・それで、明日の朝10時ですが、私おジャマしたいと思ってるんですよ・・・・ご都合はよろしいでしょうか?」「時間はいいだども・・・・・何の事件ですかなあ・・・・」与ひょうにしてみれば、警察に話を聞かれるということも初めてのことでしたから、どんな事件に巻き込まれているのか気になるところでした。「あ、詳しい事はお目にかかってからお話しします。じゃあ・・・明日、その時間に・・・そちらの警察署によってから行かないといけませんから、少し遅れるかも知れませんがよろしく」そう言うと一方的に電話は切られてしまいました。与ひょうは、相談のために甚乃丞さんへすぐに電話をしました。「そりゃたいへんだなあ・・・・・・隣の県から警察が来るってか?」「んだ・・・なんでも立花って言う刑事がくるって言ってたども・・・・・・」「そいで、捜査二課って言っただな?」「うんだあ・・・・捜査二課・・・って間違いなく言っただよ」「捜査二課っていったら・・・・この村の議員選挙のとき、熊子の家の隣の吾作さんが選挙違反で捕まってな・・・・そのとき調べてたのが確か捜査二課っていうてただな・・・隣の県というても、捜査二課っていったら選挙違反だべ・・・そういえばこの前の新聞で隣の県のどっかの町で町長選挙があって、たくさんの人が捕まったって聞いたぞ」「だって、わし、隣の県に知り合いなんぞいねえし・・・・・」「いや、一人いるじゃろ・・・・・・小次郎んとこの姉様・・・・確か隣の県に嫁に行ってるはずじゃ・・・・そういや、秋に帰ってきたとき、お前んちの野菜を持たせてやったろが・・・・・・あれを町内に配って選挙違反ちゅうことじゃなかろうか?」「野菜も配っちゃいかんのか?」「わしら法律っちゅうもんを知らねぇから、違反だと思うことが違反でなく、違反でねえと思ったことが違反だった事がようけあるぞ・・・この前の農協の組合長選挙もそうじゃった」実は、去年の田植え前・・・・忙しいときだったのに、農協の組合長が与ひょうや甚乃丞さんたちを呼び出し、「纏寿司」で寿司をご馳走してくれるという話になったことがありました。これは明らかに「組合長選挙での投票の依頼」でした。ところが、一昨年の村議会議員選挙のとき吾作さんが同じく「纏寿司」で何人かの人に寿司をご馳走し、「供応の罪」で逮捕された事があって、そのことを知っていた甚乃丞さんは、組合長の誘いを断りました。もともと組合長に投票するつもりでしたから、そんなことをしてくれなくてもよかったのですが、それが選挙当日、「組合長反対派」の人たちにばれてしまったのです。「反対派」の人たちは「選挙違反だ」といって、組合長の事を警察に訴えましたが、「農協の組合長の選挙は公職選挙法には抵触しない」と訴えを退けられました。「寿司を食べなかった」とはいえ、与ひょうは反対派が組合長を訴えた事を聞き、近いうちに警察の取調べに呼ばれるだろうなと覚悟していましたから、「公職選挙法違反ではない」といわれ拍子抜けした事を思い出しました。「じゃあ小次郎の姉ちゃんが選挙違反したのけ?」「そりゃワカランが、となりの県だとしたら、それしか考えられんじゃろ」熊子のように良くしてくれた小次郎の姉は、与ひょうにとっては「初恋」の人でした。それも熊子のような厳しさはなく、優しく包み込むような暖かさのある人でしたから、そんな人が選挙違反でもしかしたら拘留されているのでは・・・・そう思うと、与ひょうの胸は締め付けられる思いです。翌朝、与ひょうはその警察の人が来るのを30分前からじっと待っていました。もし、小次郎の姉の話だとしたら、与ひょうは完全黙秘する構えなのです。というよりも、「あんな優しい人を捕まえるなんて、酷い奴だ」・・・そうなじるつもりで待っていました。10時少し前、近くの駐在所のおまわりさんが、誰かを連れてやって来ました。「与ひょうさん・・・いるかね・・・・ちょっと・・・・お客さんだぞ」その連れられてきた男を見て与ひょうは驚きました。「新幹線男!!!」そうです・・・・あの東京旅行の際、往復新幹線で隣だった男・・・上野公園で鳩に餌をやっていた男が、今目の前に立っているのです。「ああ・・・あんたあのときの・・・・」その男も、訊ねてきた相手が与ひょうだと知って驚いていました。「なんだ・・・・あんたら知り合いかねえ?」駐在さんも、驚いています。「先日は失礼しました。・・・私こういうものです」新幹線男は警察手帳を示し、自分は「立花和義」という○○県警捜査二課の警部補だと名乗りました。「実は今日訊ねてきたのはねえ・・・あんた”園山久子”って言う女性を知ってるよねえ・・・・」(あ、この刑事間違ってるだぞ・・・・小次郎の姉は、嫁ぎ先の苗字までは知らねえだが浩子であって久子ではねえだ・・・でも知らねえ事にしておこう)「いや、わしゃ知らねえだよ・・・・」「そりゃおかしいなあ・・・・たまたまある女性がその女のことを知っていて、あんたがこの村でその女を助けたっていうところを見たというんだが・・・」大根やにんじんを分け与えただけで「選挙違反の助けをした」という事になるのだろうか?「誰がそんなでたらめを言っただか?」組合長選挙のときの反対派が、まだ根にもって小次郎の姉を落としいれようとしているのだろうか・・・わざわざ隣の県にまで行って・・・・・ちなみに小次郎じたいは役場の職員だから農協の組合員ではないのですが、小次郎の父親も組合員でやっぱりその「纏寿司」の一件の時も与ひょうたちと一緒にいたのでした。「いやあ。知らないならいいんだけどね・・・・もし何か思い出したら、こちらまで電話ください」そう言って今度は名刺を与ひょうに差し出しました。「とにかく知らねえ物は知らねえだ・・・・それよりもわし、ちょっとあんたに聞きたいことがある。・・・あんたの奥さんのことだけんどなあ」立花刑事は何のことを言っているのかよくわからないようでした。「別れた女房の事か?」「ああそうだ・・・・もう離婚したんだから、あとはもう追っかけねえでくれ・・・・・」「もちろん、わけあって離婚したんだけど、後を追いかけるような真似はしないさ・・・・・あんたとなんか関係があるのかい?」「ああ、少しだけ・・・・知り合いになった」「どこで知り合ったかなんて詮索はしない・・・・別れたんだから、あとはお互い自由になったつもりだ・・・・」立花刑事も少しさびしそうな顔をしたがそう約束をしてくれた。 つづく
2007.03.04
コメント(16)
今朝起きてビックリですわ!トラックバックが40件・・・・エロ業者さんたちもご苦労様でした。全て一括削除させていただきました。でもすごい効果だよね・・・・・朝10時なのに、一日アクセス数の最高記録を既に突破!でも、「キリプレ」、「カウプレ」を楽しみにしてやってる部分もありますから、お気遣い無用に願います。 翌朝、甚乃丞さんのお宅で目覚めると、子供達が起きだしていました。もちろん学校に行くためですが、長女は電車通学のため、朝6時半の電車に間に合わせなければなりません。お姉ちゃんだけではなく、残りの小さな子たちも、将来お姉ちゃんと同じ高校に行くために、その電車に間に合わせるべく、全員5時半には起床します。周りが騒がしいため・・・与ひょうも必然的に起床となりました。朝のバタバタを解消するため、朝食は紅茶にトーストといった軽いものなのですが、与ひょうも含めて7人もの多勢での食事ですから、それはとても美味しいものに感じました。「いいよなあ・・・家族があるのは・・・・・」与ひょうは、鶴子と一緒に暮らし、やがてたくさんの子供が生まれたときのことを考えました。「お前・・・あの女のことを考えてるんか?」甚乃丞さんは、あまり鶴子のことはよく思っていないようです。「いや、そっだらこと考えてもいねえ・・・・でも、わしもそろそろ嫁をもらうことも考えんとなあ・・・・」それでなくても、田舎暮らしの農家に嫁は来たがらないといいます。確かに鶴子はバツイチですが、嫁に来てくれるならありがたい話しなんです。朝食を済ませ、子供達が学校に出る時間にあわせて与ひょうも家に帰ることにしました。「それじゃあ、ごっつぉうさま・・・・あとでな・・・・」長靴を借り、お礼を言ってから田んぼのあぜ道を通って家へと帰りました。家に着くと、与ひょうは誰もいない奥に向かって「ただいま」と声をかけます。母親が生きていたときからの癖で、今でもそうしているのですが、4日ぶりに帰った我が家は、もちろん誰もいるわけがなく、それに加えて火の気もないことからひじょうに寒寒しいたたずまいでした。居間に上がり、先ずはストーブに火を点けます。それからスーツのまま、仏壇に行って買ってきたお土産のクッキーをお供えし、蝋燭に火をともし線香を立てて、母親への帰宅を報告しました。「母ちゃん・・・・・東京からいま戻りました。・・・・・いやあ・・・えがくでかい町でなあ・・・火の見やぐらよりも背の高いビルがいっぱいあってなあ・・・・見上げてばかりいたからクビが疲れてしもうた。・・・・わしとこに嫁に来てもいいというオナゴもおっての・・・・でも、まだよくわからんから、先のことにして戻って来ただけんどどうしたものか迷っちょる。」その時、不思議なことにどこからともなく、亡くなった母親の声が聞こえてきたような気がしたんです。「幸せはもらうもんじゃねえ・・・自分で作るだ」どうやらそんなようなことを言ってるようでした。「母ちゃん・・・そりゃどういう意味だ?」しかし、その後はどんなに耳をすませても、何も答ええはくれませんでした。「甚乃丞さんのなに言われても、鶴子さんと一緒になって、自分達で幸せを作れって言うことか・・・・それとも、少しでも迷うなら迷わないよう自分で納得できる嫁を探せっていうことか・・・・」与ひょうは考えました。考えに考え抜いたのですが・・・・どうにもまとまりません・・・・そのままお昼になってしまったのです。「アア、そうじゃった・・・・わし、熱々のご飯ちゅうものをしばらく食ってなかった」与ひょうはすぐにご飯を焚き始めました。回転寿司で米は食べていたのですが、熱々とはいきません・・・・与ひょうは焚きたてのご飯が大好きだったのです。焚きあがったご飯を先ずは仏壇にお供えし、次に神棚に上げました。そして自分も甚乃丞さんの家からさっきもらて来た「漬物」をおかずにご飯を食べようとすると・・・留守番電話の着信があったことを知らせるランプの点滅が目に入りました。与ひょうは食べながらその留守番電話の録音再生ボタンを押しました。「着信は3件です・・・・・1件目を再生します。」「もしもし・・・・・鶴子です・・・・・わざわざ来ていただいてありがとうございました。・・・来週土曜日に、また仕事でそちらのほうに行きますから、お邪魔させてくださいね。・・・・夜の電話待ってます。・・・鶴子でした。」「2件目を再生します。」「あたしよ。。。亜由美・・・あんた、鶴子にちゃんと返事しなかったんだって?・・・あたしはあんたの面倒を見てくれる人ができたから大喜びだったのに・・・・それじゃないと心配で、あたしが嫁にいけないわよ・・・・早く決めなさい」「3件目を再生します」「こちら・・・○○県警捜査二課です。・・・お留守のようなのでまたお電話させていただきます」「録音は以上です」捜査二課?・・・・・警察にかかわるようなことは、もちろん一切ありません。あるとすれば数年前、お金を拾って交番に届けたことぐらい・・・・・3000円ほどで、落とし主が現れなかったからそのお金は与ひょうが貰いましたが・・・・それ以外に警察とはかかわりをもたことはありませんでした。「なんだろう????」 つづく
2007.03.04
コメント(20)
2007.03.03
コメント(8)
今日3月3日は、私の弟の誕生日です。だから、「節句」の「節」の字が名前に入っています。栃木県の私立の医科大学を卒業し、小児科医として頑張っていますが、昨年ちょっと具合を悪くして入院しました。「医者の不養生」って笑ってましたが、もうお互い若くないんだから・・・・・とにかく誕生日おめでとう 新幹線の中で居眠りをし、おかしな夢を見たなあ・・・って思ってたらもうまもなく駅に到着です。例の男はまだ降りる気配はありません。「行き帰り同じ新幹線に乗ったのも何か縁があるようだのう・・・今度また出会ったらまんずよろしゅうに・・」与ひょうがそう挨拶すると「俺のような男にはもう会わないほうがいいと思うけどな」男はニヤリとして答えました。最後まで怪しい男だなあ・・・与ひょうはそう思いましたが、軽く会釈して降り口に向かいます。駅に到着してホームに降り立つと、時計が10時5分になっていました。「甚乃丞さん・・・忘れてねえべがなあ」今日この時間についたら、軽4輪のトラックで迎えに来てくれることになっていました。改札を出てから5分・・・・「いやあ、わりぃわりぃ・・・・家を出るとき母ちゃんから買い物を頼まれてのう・・・少し遅れたけんど、まあよかろうが・・」「わりぃのう・・・忙しいとこ来てもろうて・・・・いやあ実は今さびしさをふと感じておったところじゃ」さっきまではこの村の人口の何百倍という人が歩いていた東京駅にいたのに、この駅前で甚乃丞さんを待つ間に通ったのは「ネズミ一匹」とそれを追いかける「狐」が通っただけでした。他に乗降客は無く、与ひょうひとりだけが降りただけなのです。もともと新幹線が止まる計画など無かったところなのですが、政治家が無理矢理止まる駅にしてしまったところで・・・・駅舎の周りには一軒の廃業寸前の食堂と、郵便局があるだけ・・・・・その郵便局員も帰ってしまったのか、人っ子一人通らないのです。車に乗り、街頭も少ない通りを一路、甚乃丞さんの家へと向かいます。与ひょうは甚乃丞さんの子供たち4人にお土産を早く渡したいのと、どうせ家に帰っても誰も待っていないので泊めて貰う為に甚乃丞さんの家に向かうのです。甚乃丞さんには高校1年生の娘を筆頭に、中2、小3、幼稚園と女の子だけ4人いました。この子達はみんな与ひょうが大好きで、小学校低学年までは、みんな与ひょうのお嫁さんになるというのですが、4年生になるととたんにその言葉がなくなるのです。だから今、3番目の子は微妙な発言に代わりつつあります。「お嫁さんになってあげてもいいけど、おじちゃんはおじちゃんだもんなあ・・」しかし、4人とも与ひょうの事はずっと大好きなのです。それぞれにディズニーランドのお土産を買ってきたのですが4人とも大喜びしてくれました。もう遅い時間でしたからお土産を手渡すだけ・・・・子供たちはお礼をいうと寝てしまい、後には甚乃丞さんと奥さん・・・そして与ひょうだけ残されました。「オイ、一杯やっか?」甚乃丞さんはお猪口を持つ格好をして誘いますが、最近の甚乃丞さんの好みは日本酒ではなく「ワイン」でした。「カルフォルニャワイン・・・シャルドネの美味い奴が入ったんだ」カリフォルニアとは早口で言えず、カルフォルニャと少し変わった発音になってしまうのですが、甚乃丞さんの舌は確かで、いつも美味しいワインをご馳走になるのです。「それより先に風呂に入ったらええんでないかい?」奥さんがそう言ってくれるので与ひょうは風呂に入れてもらうことにしました。3日間、洗い場のないホテルの部屋の風呂だったので、与ひょうは思いっきりタオルを泡立てて体を洗いました。肩まで入れる浴槽に日本人でよかったなあと感じます。体のあちこちのコリが一気に解けていくようでした。風呂から上がると、甚乃丞さんはワインのコルクをあけんばかりに用意をしていました。「一本800円のワインだがよ・・・カルフォルニャのワインは天候が安定してるのかあたりハズレがねえし、美味いだによ」「ポン」と小気味よい音が響き、ワインの栓が抜かれました。ワイングラスに白ワインを注ぎながら、甚乃丞さんは東京の事を聞きたがりました。「あの女が迎えに来たのけ?」「ああ、あの鶴子さんが迎えに来てくれただ」「あの女、おめえの嫁に来るなんてことはいわなかったけ?」甚乃丞さんは、見てもいないのに、そのことを言い当てたのです。「あの女、きっとおめえが、新幹線に土地を売ったこと知ってるだによ・・・・おめえが金持ちだってことはすっかりお見通しよ」甚乃丞さんも「新幹線長者」のひとりなのだけれど、与ひょうの土地はかなり広く買収されていたこと、それに昨年母親が亡くなったときの生命保険もかなりの額入っていたので・・・・騙されやしないかと心配してくれてるのです。「熊子の友達だもの、そんなことする人でねえだよ」「マア東京モンはなにしでかすかワカランからのう・・・・」甚乃丞さんは、前に都会の人から酷い目にでもあったのだろうか・・・・・ おっと眠くなってきました・・・つづく
2007.03.03
コメント(4)
今朝は、浅虫温泉「海扇閣」の9階の風呂から陸奥湾に朝日を見て来ました。すがすがしい朝で、露天風呂で冷気を浴び、寒くなると風呂に飛びこむ・・・そんなことを何回も繰り返しました。暖冬でなければできなかったかもね。 鶴子の運転で東京駅まで来る途中、鶴子と与ひょうがようやく話しをする機会を得ました。「与ひょうさん、東京はどうでした?」「いやあ、えがくデケェ町だったなや・・・・でも今度は大丈夫だ・・・・電車にも乗れるようになったし、今度は1人でも来れるは・・・・」「じゃあ、今度来た時はユックリお話しができますよね。」そういえば、与ひょうと熊子はけっこう話しをしたのですが、おとなしい鶴子はその会話をニコニコして聞いてるほうが多かったように思います。「このまえ、亜由美さんが変なこと言うもんだから、あたし、変に意識しちゃって、あまり与ひょうさんとお話しできなかったから・・・・」意識したと言うのは、熊子(亜由美の本名)が、「与ひょうと鶴子が結婚すればいい」と話したことが発端でした。「そっだらこと言ったって、まだわし・・・鶴子さんと4回しか会ってないのになあ・・・熊子も鶴子さんの気持ちも考えんで、ほんとすまんこってした。」「でもねえ・・・あたしも4回しか会ってないんですけど、与ひょうさんといると、ホッとするんです・・・・家に帰っても考えたんですけど・・・・そうなるならなってもいいなあ・・・なんて・・・あたしっておかしいでしょ?」「おかしいでしょ?」と言われても、与ひょうは何がおかしいのかわかりません。「あなたの住んでるところがのどかだし・・・・私、あそこなら住んでもいいなあって思ってるんですよ。」おとなしいと思っていた鶴子が、以外にも積極的な態度をとってくるので、与ひょうはたじたじでした。「鶴子さん・・・・あんたほんとにそう思ってるのけ?・・・・そりゃわしにとってはこんなきれいな人が嫁に来てくれるっちゅうのはうれしい限りだが・・・あんた、まだわしのことはよく知らねぇはずだし、あとで、騙されたのなんのって言われても困るから・・・よく知り合ってからのほうがいいんでねえのけ?」与ひょうは自分で言いながら、変な気分になっていました。いままで女性と一度もお付き合いしたこともなく、母親もそれを心配して亡くなったことも充分承知してましたから、そんな自分に「結婚しよう」という女性がいるなんて信じられませんでした。それも都会の女性が・・・・あんな田舎に一緒に暮らしてくれるだなんて・・・・・与ひょうが夢中になってプロポーズしたって言うならわかるんです。それがなんとなく逆の立場にいるような・・・・むずがゆくなるような気持ちでした。「でも、あなた、私のこと嫌い?」「いやあ・・・めっそうもねえ・・・・あんたみたいな人が来てくれるっちゅうのはほんとにうれしいんだが、・・・・」「じゃあこうしない?・・・あたしこの前のお客さんのところにも、けっこう行かなくちゃならないの・・・そうあなたの近くにお住まいのね・・・・だから何度かそちらに行きますから、その時にお話しもしましょうよ・・・・それと、あなたも東京のほうに出てらして・・・」まもなく車は東京駅近くの駐車場につきました。駐車場に入ると鶴子はメモ帳を取り出して、家の電話番号と、会社の電話番号をメモし破いて与ひょうに渡します。「あたしも営業で出てるから、会社に電話してもいないほうが多いけど、自宅のほうなら10時過ぎ・・・・ほとんどいますから、そちらのほうへ電話して?」そう言って、今度は与ひょうにそのメモ帳を渡します。与ひょうは自分の家の電話番号をメモしました。車を降りると、新幹線の改札口まで歩きます。二人並んで歩いていると、スーツ姿の与ひょうと、今日は少しだけカジュアルな格好の鶴子は、けっこうお似合いのカップルに見えます。ショーウインドウに写る姿を見て「けっこういいかも・・・・」・・・与ひょうは思いました。朝、ホテルを出るとき、熊子が与ひょうに・・・「それじゃあ、旅行に出る時みっともないから」と、旅行バックを一つ買ってきてくれました。そのバックのなかには着替えなどを入れた風呂敷包みとディズニーランドで買ったお土産の一部が入ってパンパンに膨れていましたが、そのバッグも、与ひょうのスーツにはぴったりとマッチしています。「あら・・・・時間がないわ・・・急がなくっちゃ」鶴子に言われて、与ひょうも時計を見ると、あと15分ほどで出発の時間です。少し急ぎ足で歩き改札へつきました。「じゃあ、これで帰るだども、元気で・・・・」与ひょうは右手を差し出しますと、鶴子はそのてを両手で包み込み「明日、すぐにでも電話します。・・・・夜の10時ね」そう言って、今来た道を戻っていきました。「あれ?・・・熊子との待ち合わせ時間はまだかなりあるはずだけどなあ」熊子と敏坊は、まだディズニーランドで花火を見ているはずです。でも、行っちゃったもんはしょうがない・・・・・踵を返すと与ひょうは新幹線に飛び乗ったのです。今度は座席指定の決められた場所に座ることができました。「あれ?またお前さんがとなりか!」隣の席には、例の男がまた乗っていました。「東京の旅行はどうだった?」「いやあ、初めての東京だども、面白かった・・・・・あちこち見てまわることができてよう・・・・」「上野公園で出会った女性、、、けっこう美人じゃないか?」上野公園でであった・・・・それはきっと熊子のことだろうと思いましたが、そういえば、鶴子がこの男のことを気にしていたようだったので、与ひょうは思い切って聞いて見ることにしました。「あれは、わしの同級生で案内してくれたんだども・・・もう一人鶴子さんていう女性がおってな・・・・あんた鶴子さん知らんか?」「鶴子?・・・・いやまったく知らないが・・・・・」男は即答しましたが、もう少し考えて答えてもいいんじゃないだろうか・・・与ひょうはそう思いました。鶴子がどんな関係の女性か説明するのも面倒だし、もしこの男が分かれた元亭主で、探しているというならなお面倒だと思った与ひょうは、それ以上、鶴子のことに触れませんでした。会話はそれで終わり・・・・旅行で疲れた与ひょうは新幹線の中で眠ってしまいました。そして夢を見たのです。それは結婚式の夢・・・・・・しかし、その花嫁は、鶴子でなくて、熊子・・・・・そして熊子の脇には敏坊が立っていたのです。 つづく
2007.03.03
コメント(12)
今日は浅虫温泉一泊で会議です。ですから、書けるだけ書いて出かけようと思ってますけど、この先どう展開していけばいいのか・・・・ちょっとだけ悩んでいるんです。前にも言いましたけど・・・私の場合、書きながら考えますから、自分でも先が読めないんですけど、この「鶴の恩返し」の場合、「落ち」・・・いや、「結末」が先にできちゃったんですよね。だから今のところそれに向けて、紆余曲折しながら進めてるんですけど、コメントを下さる皆様から、「こうして欲しいなあ」とか、「そんなことはないだろう」とか・・・そう言われると私の小さなハートは揺れるんですよ。・・・・どうしよう? 与ひょうと鶴子は、昼食の予約ができないかどうか・・・・お醤油の会社が提供する「ポリネシアンショー」の予約コーナーに向かいました。かなりの人気アトラクションで行列もかなり長かったのですが、なんとか4人分の席が取れてホット一息・・・・・それから、、あちこちのアトラクションを覗いてみましたが、どこもすごい列が出来ていました。「午後になるともっと混むから、今のうちに人気のあるところに並べばいいそうよ」そこで2人は、ジェットコースター系のアトラクションの列に並びます。岩だらけの山を暴走する蒸気機関車に乗って回るものですが・・・・普段、ノンビリした田舎に住み、ゆったりとした毎日をおくっている与ひょうには、刺激が強すぎたようで・・・・ぐったりしてしまいました。「もうひとつ、ジェットコースターに乗りたいのがあるのよ・・・そっちにいきましょ?」鶴子は、スピード感あふれる乗り物が好きなようで、どんどん先に歩いて行きますが、与ひょうは今の刺激だけで充分・・・・・・しかし、女性に行こうと誘われて「怖いからいやだ」とも言えず、後をついて行ったのです。ついていった先は、大きなドーム型の建物でここもすごい行列でしたが、並んでいると「パパ!!!」大きな声で敏坊が遠くから走り寄って来ました。「やっぱり若さよね・・・・元気だわあ・・・この子」あとから追いかけてきた熊子はもう疲れているようでした。「パパと一緒にこれに乗りたい」敏坊がそういうと、「残念・・・ここは身長制限があって大きなこじゃないと乗れないのよね」鶴子が「身長制限ありの看板」を指差しました。「ということは、この乗り物は、そっだらに恐ろしい乗り物なんだべか?」与ひょうはしり込みしたい気分になっていました。「わしゃ、敏坊の乗れる乗り物を探して、そっちゃ行くだに・・・熊子が鶴子さんと一緒に乗りゃあいいさ」「そんな・・・・あんた達、ちょっとは話し合ったの?」熊子は「プロポーズ」したのかどうか聞きたいようでした。鶴子はなんか言いたそうな顔をしましたが、与ひょうは照れ隠しなのか、「そっだら話しは後でいいでねえか・・・せっかく来たんだから、楽しむべえよ」そう言ってすぐにその場を離れようとするものですから、鶴子があわてて昼食の集合場所と時間の変更を提案しました。「ポリネシアンショーの入り口に、その時間の10分前に集合よ・・・与ひょう・・場所わかるの?」熊子が心配そうに聞くもんですから「大丈夫だに・・・・わからんかったら、ここの制服着てる姉ちゃんに聞くだに・・・ここの姉ちゃん達は居酒屋の姉ちゃん達とおんなじで、”ハイ喜んで”って何でも教えてくれるだぞ」与ひょうと敏坊は、そう言ってその場を離れました。「ボクこれに乗りたい」そう言って敏坊が指差したのは「宇宙旅行のツアー」を体験させてくれる乗り物でした。「これは年齢制限とか、身長制限はないだな・・・・」これなら大丈夫そうだと踏んだ与ひょうは、この列に並びました。並びながら与ひょうは敏坊に問いかけます。「ママは、今日は一人で留守番してるのけ?」「ママは、一緒にいるじゃないか」そういえば、ママというのは熊子のことで、実母は「お母さん」と呼んでいるということを思い出しました。「アア、お母さんは留守番してるのけ?」「お母さんは、おうちでお洗濯とかしてるよ・・・」「一緒に来ればいいんでねえか・・・」「うちのお母さん・・・鶴子おばちゃん・・・あまり得意じゃないんだって」(あの鶴子さんが嫌われてる?)与ひょうにとっては意外な言葉でした。優しくて思いやりがある女性・・・・そんな人だと思っていましたが、確かに最初の乗り物に乗ったときの興奮のしよう・・・それに、熊子の話しではよその保険会社の社員を保険に加入させたというやり手の営業女性・・・与ひょうのイメージとは少しかけ離れているような気もしていました。やっと与ひょうたちの順番が来て、50人ほど入る部屋に入ります。座席に座りシートベルトをすると、操縦席のロボットが挨拶をするのですが、新人の操縦ロボットという設定で客の不安を煽るのです。ロケットに見立てたその乗り物は、墜落しそうになったり、大揺れに揺れたり・・・・そうこうしているうちに到着するというストーリーでした。これでも充分怖かったのですが敏坊は平気な顔をしていました。「次はパパ、どれに乗る?」こうして昼食までの間、二人は親子のように楽しんだのです。昼食の「ポリネシアンショー」は、与ひょう達のいた場所から、反対の方向にありましたが、従業員達の優しい応対で、すんなりと到着することができました。熊子と鶴子は、まだ着いていませんでした。ベンチに座り、「チュロス」が食べたいという敏坊に、与ひょうは買ってやりました。「それうめえのか?」「パパも食べる?」「おお、ちょっとだけくれ」それは、とても甘いお菓子でしたが、「おい敏坊・・・お前、ここは何回も来てるのけ?」そんなお菓子の名前を知ってるのは、何度も着てるんだろうなあ・・・と敏坊に聞くと、「えっとね・・・・3回ともママと一緒に来てるんだ」「世話焼き熊子」が、ここでも顔を覗かせていたようです。少し時間が過ぎたころ、熊子と鶴子は走ってやってきました。「アアやっと間に合った」それはショーの開演5分前です。「人ば心配するめえに、自分のことさ心配しろ・・」与ひょうは少しいやみを言ったつもりですが、2人は意に介さず、「さあ、早くはいろ」と、先にたって入場しようとしました。少し遅くなったせいで、席は少し舞台から離れた・・・・横のほうのちょっとし階段のそばでした。先に食事を済ませるのですが、けっこう美味しいステーキでした。敏坊だけは子供のメニューでしたが満足げに食べています。ショーが始まり・・・・主役のキグルミたちが一生懸命踊ります。「今日が誕生日のお友達いますか?」その時、熊子が「敏坊手を上げて!」と声をかけると、慣れてるようにさっと手を上げます。「今日が誕生日か?」「黙って聞いて・・・・ここは誕生日じゃなくても手を上げなくちゃならないのよ・・・それでなんかもらえるんだから」与ひょうは(ハハア・・・これは常習犯だな)と確信しました。午後も、いろいろなアトラクションに乗り楽しんだのですが、それも与ひょうは敏坊とペアーで遊んだので、けっきょく鶴子と話をすることはありませんでした。そろそろ、帰りの新幹線の時間が近づいてきます。集合場所の土産物屋に集まり、与ひょうは田舎の人たちへのお土産を、そこで全部買いました。「おい、敏坊・・・・なんかおめえに買ってやんべえ・・・なにがいいだ?」敏坊は遠慮がちにしていましたが、熊子に「何でも買ってもらいなさい」といわれ、大きなミッキーの人形を指差しました。与ひょうはその値段に少し驚きましたが、約束ですから買います。「さて。今日はもう帰らなくっちゃね」熊子が言うと敏坊が少しつまらなそうに「今日は花火を見ないの?」といいます。熊子は少し考えていましたが、「そうだ・・・東京駅までは鶴子が運転して言って送ってきなよ。・・・あたしと敏坊はここで花火を見終わったら東京駅まで行くから、そこの銀の鈴のところで待ち合わせしよう・・・時間は・・・そうねえ・・・・」こうして与ひょうと鶴子は2人と別れ、車で東京駅へと向かうことになりました。お別れのとき、「パパ、また遊んでね」敏坊がさびしそうに手を振るものですから与ひょうは・・・「また来るからな・・・・その時はまた遊ぶぞ」そう言って敏坊の頭を撫でるのでした。 つづく
2007.03.02
コメント(22)
今日はチャットに重点を置くつもりですが、部屋にはまだ誰も来てくれない。まあ、しばらく放っておいた報いですね。「因果縁報」・・あるいは「因果応報」っていいますけど、原因があって結果があり、縁があって報いがあるんですよね・・・・。 夕べの最後の居酒屋のお酒が効いたのか、それとも鶴子の「アプローチ」に興奮しすぎて疲れたのか・・・・夕べはベッドに入るなり、いきなり眠ってしまったようでした。朝の目覚めは3時半・・・・まだ外は真っ暗です。いつも、畑仕事で汚れますから、与ひょうの日課として、毎日風呂にははいるのですが、昨日はそのまま眠ってしまって・・・だから3時半でしたが風呂に入ることにしました。「やっぱり風呂はええのう・・・・お湯が身体にしみわたるわい。・・・もし本当に鶴子さんが嫁に来てくれるなら、毎日近くの温泉に連れて行かねばのう・・・」与ひょうは将来の生活設計を思い浮かべていました。「アそうそう・・・・今日は田舎に帰る日だで、旅館の支払いばせんといけんのう・・今日は早く迎えに来るって言うとったから」今日の予定は、6時過ぎに熊子の車で迎えに来て、そのまま「東京ディズニーランド」に行くことになっていました。そして夕方には東京駅から田舎行きの新幹線で帰る予定・・・・・・「もし、結婚を申し込むなら今日が最後のチャンスなんじゃが・・・・ほんとに会って4日目のわしでええんかのう?」新幹線の男のことも気になるし・・・・悩む与ひょうでした。風呂からあがり身支度を整えると、5時半にはロビーに降ります。「すまんのう・・・・ちょっと、誰か若い衆はおらんのか?」フロントに誰もいませんでしたから声をかけますと、奥のほうから従業員が1人出てきます。「ア、勘定を頼みてぇだが」「ご出発でございますか?・・・冷蔵庫のご利用は?」「うんにゃ、冷蔵庫なんぞ使ってねえ・・・・第一冷やさにゃならん物は持ってねえから」「それでしたらお会計のほうは、お着きになられた日にご清算を戴いております。・・・・これが領収書でございます。・・・・ありがとうございました。」なんと熊子がホテル代を支払ってくれていたようです。熊子がホテルに着くと、、与ひょうは熊子にそのことを話しました。「あんで、お前が、わしのホテル代払うんだ?」「あんたがボーっとしてなきゃそんなことしないわよ・・・一緒にいて恥をかくのは私だからね。・・・先に支払いをしておいて、後からあんたから貰えばいいんだもの」「だども、それくらいわしにも・・・」「黙って聞いて・・・・あんたが恥をかくときは一緒にいた私たちも恥をかくの・・・だから、かかった費用はあんたが家についたら、隣の甚乃丞さんに調べてもらって清算して貰うから・・・今は何も考えないで」「世話焼き熊子」は、子供のころと何にも変わっていませんでした。そこへ・・・鶴子が一人の小学生か幼稚園ぐらいの子供を連れてきました。「え?結婚してたっちゅう話しは聞いてたども、子供がいるっつぅ話しは聞いてねえぞ」その子の顔を見ると熊子は少し優しい声で、「敏坊・・・・今日はこの人があんたのパパだからね」そう言ったあとに「与ひょう・・・・これがあたしのボーイフレンド・・・・下田敏樹君っていうの・・・今日一日パパになってあげなさいよ。」そこへ鶴子が説明してくれました。「この子のお母さんも、同じ保険会社で働いてるんだけど、生まれてすぐに離婚したらしくって、どこにも連れてってもらったことがないのよ・・・この前この子の家に集まったとき、ディズニーランドにいくって言ったら、この子も行きたそうな顔をしたのよね・・・そしたら、亜由美さんが連れてってあげるって・・・・」この子がダブルデートの熊子の相手でした。「ディズニーランドなんて、あたしたち3人で行ったって面白くないわよ。・・・それよりも子連れで行けば目立たないし・・・いいでしょ?」こうして、熊子の車に分乗し、4人は「東京ディズニーランド」に向かったのでした。しばらく高速道路を走り、かなりたってから海が見えてくるとまもなく「ここより千葉県」という看板がありました。「おいおい、東京を出ちゃったぞ・・・・どこさ行くんだ・・・」与ひょうはあわてて、運転する熊子に言いました。「なんでよ・・・・ディズニーランドはこの道路でいいはずよ?」「そっだこといったって、東京は、ハア出てしまったぞ・・・千葉県にはいった。」「いいのよ・・・・東京ディズニーランドは千葉県にあるんだから」「んじゃあ・・・・”千葉デズニーランド”だべ」「黙って聞いて・・・・・田舎にだって”東京ホール”っていうパチンコ屋さんがあるじゃない」なるほど・・・確かに東京ホールと言うパチンコ屋さんがありましたし、島根県のほうに行くと、「東京食堂」という大衆食堂風な名前のこじゃれた美味しいという評判のフレンチレストランがあると聞いたことがあります。わかったようなわからないような・・・・与ひょうは頭を捻ってしばらく考えましたがやっぱりよくわかりませんでした。そうこうしている内に、車の前方右手の海の向こうに、なにやら怪しき・・・というか楽しそうな建物群が見えてきました。「あれがデズニーランドけ?」「黙って聞いて・・・・ここはディズニーランド・・・あんたの言ってるのはデズニーランド・・・・小さい”ぃ”が入ると入らないで、えらい違いだからね・・・間違わないで」また熊子に叱られました。熊子の助手席に座っていた敏坊が・・・「ママ。・・・今日のパパはおもしろいね」ニコニコ笑いながら熊子に同意を求めました。鶴子から、「亜由美さん。。。この子からママって呼ばれてるのよ・・・ほんとのママはお母さんって呼ぶんだけどね」と教えられました。「東京ディズニーランド」に到着し、車を駐車場に入れますと、かなりの距離を歩くことになりました。「アア、今日も混んでる様ね・・・・」熊子がため息をつきましたが、それも敏坊の顔を見ると「ようし、今日はママとがんばるぞ」そういって二人で走って入場ゲートまで行きます。与ひょうと鶴子はその後を笑いながら追いかけていきました。入場券は既に買ってあったらしく、4人は真っ直ぐ「シンデレラ城」までやってきました。「じゃあここで、二人ずつ分かれよう・・・・あたしと敏坊は”スモールワールド”に行くから、あんた達も勝手にどっかに行って・・・・1時にここ集合ね」熊子はそういうと、敏坊の手を引いてまた走り出しました。手を引かれながら敏坊が「パパ、じゃあ、おばちゃんと二人で遊んできて・・・ボクはママと違うとこで遊ぶから」と手を振るのですが、知らない人が聞いたらドキッとするような発言・・・・でも、この4人にはなんら不思議にも思いませんでした。でも、与ひょうはそんな熊子と敏坊の後姿を見て、「熊子も優しいお母さんに見えるなあ」・・・そう感じたのでした。 オット時間だ・・続く
2007.03.01
コメント(12)
全48件 (48件中 1-48件目)
1