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こう攸は文鎮の傍らに鎮座する吏部侍郎の刻印を見おろした。使い慣れた印章は手にしっくり馴染む。自嘲の笑みが浮かぶ。もう自分のものだと思っていた。でも、違ったのだ。「・・・この印を、とりにきたのか?」「ええ、他に何を?」楊修はあっさり肩を竦めてみせた。「その椅子に座るべきは紅黎深を甘やかすだけのお守り役ではなく、吏部侍郎です」もうお前ではだめだと、いうのだ。だから自分が代わる、と。「紅黎深のお守りは及第です。でも紅黎深のお守りと後始末が吏部侍郎の仕事ではないんですよ」こう攸は何一つ反論できずに、ただきつく唇を噛み締めた。・・・そのとおりだった。気づけば吏部侍郎の印を投げつけていた。「それをとりにきたんだろう!勝手にもってけばいい」沈黙が落ちた。楊修の視線を感じたが、こう攸は顔をあげられなかった。もう完全に楊修に見切りをつけられた。「もうそろそろ、よろしいですか?楊修殿。私も暇ではないので」官吏殺しの異名を持つ監察御史・陸清雅に拘束されたこう攸は、取り調べという名目のもと投獄されて・・・。 「彩雲国物語」シリーズは、名門のお嬢様なのに貧乏の中で育った主人公の紅秀麗が国を良くするため官吏を目指し、官吏としての厳しい道を進むことになるというストーリーです。彩雲国は前王が王族や貴族たちを大量に粛清したため人材不足・貴族の反発が大問題で困った状況にあります。しかも若くして王になった紫劉輝は王の仕事を全くせず、同性愛者なのか世継ぎを作る気配もありません。そんな中、大金につられて王の教育係を引き受けた秀麗は陰謀に巻き込まれながらも仕事を果たし、いっそう官吏への夢に向かって努力することになるのです。そして、彩雲国初の女性官吏となった秀麗は女性というハンデをものともせず、運を引き寄せ仲間たちに支えられ頑張ることになります。出世や自分の利益を守るため互いの足の引っ張り合いが激しい陰謀渦巻く官吏の世界で秀麗は「政敵を叩き潰す」のではなく「人々を助け、助けた人々に支えられる」ことによって上を目指します。しかし、秀麗が応援している王・劉輝は貴族たちに追い詰められ、王の腹心で秀麗の教師だったこう攸は投獄されてしまうのです。 秀麗はこう攸の更迭を阻止するため、直属の上司である官吏の不正をただす部署の長官・葵皇毅に「李こう攸殿留任のための捜査をさせてほしい」とこう攸の弁護を申し出ることになります。秀麗の必死の提案に心を動かされた皇毅はこう攸の弁護を許可することになるのですが、「紅秀麗、お前は政治家と官僚の違いが分かるか?その答えが分かれば、お前は必ず李こう攸の弁護から手を引く。ひと月捜査しても分からず留任をほざくようなら李こう攸と共に仲良くクビだ」と秀麗に大きな課題を突きつけることになっていきます。主人公の秀麗とともに「政治家とは何か?官僚とは何か?」ということを考えさせられるストーリーでした。現実の日本の政治にはない「政治に携わる者の重い責任や厳しさ」が感じられ、日本の政治は大丈夫なのか?と心配になってしまいました。それはともかく、李こう攸・紅黎深・百合姫たち家族の不器用すぎるけれど深い愛が感動的でとても面白かったです。 ジャンルは、政治陰謀ファンタジー。陰謀ストーリーやファンタジーが好きな人にお薦めです。<終>彩雲国物語シリーズ(一部紹介)コミックもあります
2009年03月30日
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『暑い・・・死にそう・・・』幽霊らしからぬセリフを吐いてぐったりと床に倒れていたのは操緒だった。数年前から僕に取り憑いている、かつての幼馴染みだった少女。全体的に色素が薄い気がするが妙に存在感のある背後霊である。ショートパンツに肩全開のキャミソールという限界ギリギリの薄着姿でひんやりした板張りの上に寝そべったきり動かない。「げぇ・・・信じらんねえ。さっきから異様に暑いと思ったら四十度超えてやがる・・・」幽霊屋敷とも呼ばれる鳴桜邸は、先週ついに連日の酷使に耐えかねエアコンが黒煙を吐いて機能を停止、二度と帰らぬ身になった。そんな日本列島の気温が観測史上最高記録を更新し続ける日々のある夜、しくしくと幽霊のような恨みがましい女の泣き声に深夜起こされた智春は、守護霊を自称する操緒とともに幽霊の正体を探ることになった。そこにいたのは面識はないものの同じ学校に通っている家出中の女子生徒。智春は悲しんでいる彼女を助けるため何故か変装することになって・・・。 「アスラクライン」シリーズは、公認の生徒会が3つもある変な学校・洛芦和高校に入学した主人公の幽霊に取り憑かれた不幸な少年・夏目智春が天才の兄・夏目直貴から送られた謎のトランクがきっかけで非日常的なとんでもない学園生活を送ることになってしまうというストーリーです。天才の兄を持ち、幼馴染みの幽霊の少女・水無神操緒に取り憑かれているという以外ごく普通の少年である智春は、洛高へ入学してからクラスメイトになった美少女悪魔と仲良くなったり、サイボーグの美女の先輩に秘密結社の息のかかった怪しげな部活動に引きずり込まれたり、武闘派の生徒会から命を狙われることになったり、学校の地下にある遺跡を冒険することになったり、普通でない高校生活を送ることになってしまいます。しかも智春はいつのまにか機巧魔神(アスラ・マキーナ)と呼ばれる黒魔術的なロボットの操縦者にもなっていたのです。突如、一変した日常。やがて智春たちは、こうした異常事態が近未来に起こるはずの「世界滅亡」が原因であることを知ります。世界はすでに一度滅亡し、智春たちはおかしくなった「二巡目の世界」を生きているというのです。謎が解き明かされていくにしたがい、智春は現在幽霊になっている操緒を復活させようと手がかりを探すことになっていきます。 恋人がいるのにお見合いさせられそうになって困っている家出少女・友原菜津美を助けるため、智春は菜津美のお見合いを妨害することになります。しかし、見合い会場の「極山荘」は明治時代に創業して以来ありとあらゆるお見合い妨害工作を完璧に防ぐ、妨害阻止百パーセントの遂行率を誇る恐ろしい料亭だったのです。監視カメラがあちこちに設置され、武装した大量の警備員、訓練された軍用犬、従業員の仲居さんでさえも銃を装備していてテロ警戒下の軍事基地のよう。そんな恐ろしい要塞の中、メイクの力で美少女に変身した智春は菜津美の身代わりにお見合いに挑むことになります。今回は短編連作形式の番外編的なストーリーなのですが、どのエピソードでも智春が謎の美少女「夏目ともは」に変身して大騒動を引き起こします。第一生徒会長・佐伯玲士郎が「ともは」に心を奪われてしまったり、「ともは」としていかがわしいファミレスでバイトすることになったり、変態的なストーカーと対決したり、「女装」しただけで大きく変化し暴走しまくる智春のおかしな日常がとても面白かったです。 ジャンルは非日常学園アクション・ファンタジー。アクションやファンタジー、学園ストーリーが好きな人にお薦めです。<終>アスラクラインシリーズTV放送されたり、ゲームにもなっているようです
2009年03月23日
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海面に高く水柱が立った。「取舵っ、風に垂直に帆を起こせ!」「船長、間に合いません」「追いつかれます!」船員が報告するが早いか、船が大波の腹にぶつかったかのように酷く揺れる。甲板の後方を見て、船長は忌々しげに舌打ちをした。ぶつかったのは闘艦だ。帆と櫂の両方を備え、舳先は獣の彫刻を施した金属で武装されている。周囲に他の船影はない。闘艦は丈夫な船体に物を言わせて体当たりをし、二艘の船縁に鉤爪の付いた板を渡して手早く足場を作ると、一様にとび色の衣を纏った賊が雪崩れ込んで有無を言わさず剣を振りかざした。一瞬で甲板は混乱に飲み込まれた。賊は渡し板に飽き足らず、鉛を縛り付けた縄を帆柱や手摺りに引っ掛けて一人でも多く攻め入ろうとする。船員達は応戦しようと剣を取ったが、未知の海域での安易な持ち場の放棄は死に直結していた。「おいお前ら、遠海まで渡ろうってからには腕に多少の覚えはあるんだろう?船を沈められたくなかったら、ひとつ追い払って見せたらどうだ」南海の孤島にあるという悪鬼(グール)の国に向かったフェンたちは・・・。 「フェンネル大陸」シリーズは、いわれなき罪により故郷ストライフ王国を追放された主人公の元王女フェンがいろんな国々をまわって冒険することになるというストーリーです。悪鬼(グール)とは、普通の人間より丈夫で病気に対する免疫は高くケガをしても治りが格段に早い頑丈な生き物です。その反面、知能はとても低いと言われています。ストライフにいた頃のフェンは、王女として国を守るためグールたちをまとめて敵国の兵と戦わせていました。しかし、祖国を追放されたフェンはラークスパーでグールの土木作業員テオと出会い、グールが人間と同じように言葉を喋ったり文化的な生活を営むことができることを知るのです。ストライフ王国出身のテオは、ストライフがグールを迫害する政策とっているのでストライフの王族を憎んでいました。一方、フェンもそのことで身元引受人になったテオに対して負い目を感じています。そんな時、南海の孤島にフィーバーフューというグールたちの国があることを知り、フェンたちは「グールが治めている国はどういったものなのか?」見聞するため航海に出ることになります。 海賊と嵐に襲われながら何とかフィーバーフューにたどり着いたフェンたちでしたが、フィーバーフューの広大な砂漠や巨大な蠍(犬よりも大きい)、原因不明な病など過酷な自然の脅威の前に危機に陥ることになってしまいます。さらにフェンは仲間たちとも離れ離れになってしまい、乗ってきた船は消失。絶体絶命の中、グールのアベルに助けられたフェンはグールたちの村へと案内されることになるのです。グールを迫害するガルデニア帝国の陰謀と戦ったり、「神の意志に叛き、叡智を求める者よ。業火に灼かれ、大地の贄となれ」というグールたちの間に伝わる伝承の謎を解き明かしたり、冒険の中で深まっていくことになるフェンとテオの絆が大変感動的で面白かったです。また、絶海の孤島で交差する意外な人々の繋がりがとても不思議で非常に驚かされました。 ジャンルは冒険アクション・ファンタジー。アクションやファンタジーが好きな人にお薦めです。<終>フェンネル大陸シリーズ
2009年03月16日
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よく世間の人は、正義の味方なんかどこにもいないって言う。(でも・・・私は知っている。正義の味方は本当にいるんだ、って)織機綺はそう思っている。綺は料理の専門学校に通っている見た目はごくありふれた普通の少女だ。しかし彼女は統和機構という世界の闇に君臨する巨大なシステムによって作られた合成人間なのだった。だが失敗作で、なんの戦闘能力もないため捨てられて、そして利用されて死にそうになったところで(私は救われた正樹と凪に)彼女は、今、自分がこうして生きているのは全部助けてくれた人たちのおかげだと思っている。システムに見棄てられて行き場をなくしてしまったはずの彼女は、今は霧間凪というとても変わった人と一緒に住んでいる。彼女は女子高生のくせに同時に「・・・ふふっ」綺はつい一人で笑ってしまう。誰が信じるだろうか、学校では札付きの問題児でみんなに近寄りたくないと思われて「炎の魔女」などと綽名されている不良少女が実は人知れず人々を助ける「正義の味方」なのだということを。統和機構の合成人間たちと凪が死闘を続けている中、もうひとりの魔女が現れて・・・。 「ヴァルプルギスの後悔」シリーズは、「ブギーポップ」シリーズの外伝的なストーリーでいつも主人公?のブギーポップに代わり「炎の魔女」霧間凪が主人公として活躍することになります。ブギーポップは「世界の敵」を自動的に殺している不思議な死神なのですが、霧間凪は歪んだ悪の行為と日夜戦っている正義の味方です。彼女は報酬とか仕事とか使命とか一切関係なく、幼い頃のちょっとした出来事がきっかけで自分が許せぬと思った悪とシンプルに戦い続けているのです。凪には統和機構の合成人間のような特殊な能力はありませんが、天才的な頭脳と人間としてはズバ抜けた身体能力そして強固な精神力でどんな強敵にも立ち向かうことになります。そんな凪を信奉する少年・羽原健太郎、統和機構最強の合成人間と互角に戦う侍・高代亨、空手が得意な凪の弟・谷口正樹、正樹の恋人であり凪の生活面を支援する普通の人間と変わらない合成人間の少女・織機綺、など単独行動の多い凪にも協力してくれる仲間たちがいます。そんなある日、凪は運命に導かれて宿敵の魔女アルケスティスと遭遇することになり、ピンチに陥ることになっていきます。 ストーリーは「ビートのディシプリン」シリーズと深くリンクした状況から始まります。秘密結社「ダイアモンズ」が合成人間フォルテッシモによって破壊される中、凪は隠れ潜んでる宿敵の魔女アルケスティスに急接近することになってしまい、二人の魔女の激突を防ごうとする謎の存在リキ・ティキ・タビの妨害もあって凪は最大の危機に直面することになるのです。そして、リキ・ティキ・タビから突然凪を託された綺は、凪と互角だというアルケスティスから動けない凪を匿うことになります。霧間凪は「ブギーポップ」シリーズの登場人物の中でも弱きを助け正義を行うクールで格好良い女性です。「世界の敵」を倒す以外、特に何もしないブギーポップとはえらい違いです。今回はそんな凪が主人公としてストーリーの中心として活躍していて大変面白かったです。 ジャンルは、ブギーポップ外伝アクション・ファンタジー。アクションやファンタジーが好きな人にお薦めです。<終>ブギーポップシリーズ(一部紹介)ビートのディシプリンシリーズ「ヴァルプルギスの後悔」シリーズは「ブギーポップ」シリーズ、「ビートのディシプリン」シリーズに深く関連しています。あらかじめ「ブギーポップ」シリーズ、「ビートのディシプリン」シリーズを読んでから読むといっそう楽しめます。今回は「紫骸城事件」のストーリーも関係しているかも知れません。
2009年03月09日
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「さっさと歩いてください」「おや、わたしの歩行は遅いですか」「・・・なんとなく、そういう風に命じるシチュエーションなんです!」宮間夕菜はリーラに怒鳴った。後方では、まだ「モルトケ・ハウス」が煙を上げている。一部で火災が発生したせいだが、いずれ鎮火するだろう。あそこには多数のメイドが残っている上、消火訓練も受けているはずだ。夕菜は横目でリーラを見ながら歩く。第五装甲猟兵侍女中隊(パンツァーイェーガーメートヒェンカンパニー)の中隊長は手錠をされたままだったが、いささかも苦にしたところがないようであった。なんとなく不機嫌になり、夕菜は周囲に言った。「リーラの部下が取り返しに来るかもしれません。警戒を怠らないでください」「まだ、それはありません」返事をしたのは意外にもリーラ本人だった。「手出しをしないと約束したなら、私の部下たちは手出しをしません。後事を託したエルゼは有能ですが、メイドたちの掌握には時間がかかるでしょう。少なくとも宮間様がここを離れるまでは安全です」リーラは涼しい顔をしていた。余裕の態度である。メイドを激しく憎む夕菜に捕らえられてしまったリーラの運命は・・・。 「まぶらほ」シリーズは、魔法学校・葵学園に通う主人公のおちこぼれ学生・式森和樹が本人の魔法の実力はともかく偉大な魔術師の血を引いているということで女の子たちにモテモテになるというストーリーです。和樹は女の子たちに子作りと結婚を前提とした付き合いを強引に迫られることになり、揉め事が苦手で平穏な学校生活を望んでやまない和樹は困ってしまいます。特に和樹が所属する2年B組は「他人が幸福になることは阻止すべし」という根性の捻じ曲がった人々ばかりが揃ったクラスなので女の子にもてる和樹はクラス中から迫害されることになるのです。そんな中、南の島でリーラ率いるMMM(世界的なメイドの組織です)の第五装甲猟兵侍女中隊と出会った和樹は、メイドたちから「私たちのご主人様になってほしい」と頼まれます。普通の生活を望む和樹はメイドたちの願いを断ることになりますが、リーラたちはあきらめず日本まで付いて来ることになり、メイドという存在自体を憎む宮間夕菜との間で熾烈な戦いが始まることになっていきます。 専属メイドとして和樹に仕えたいリーラと「自称・和樹の妻」を主張する夕菜はことあるごとに争うことになります。和樹の拉致・メイドたちの抹殺をたくらむ夕菜、夕菜を懐柔し和樹を自分たちのご主人様にするべく計画をたてるリーラ。お嬢様でありながら家事全般が得意な夕菜にとって家事のプロフェッショナルである「メイド」は天敵なのです。特にあらゆることを完璧にこなすスーパーメイド・リーラは目の上のたんこぶです。一方、リーラも夕菜の能力の高さは認めているものの、夕菜のメイドに対する激しい憎悪や異常なまでの和樹への執着までも認められるはずはなく夕菜排除に動くことになります。基本的に「まぶらほ」シリーズのヒロインは宮間夕菜です。しかし、この「メイド編」シリーズではドイツ人のスーパーメイドであるリーラ・シャルンホルストが主役以上に大活躍しています。実際、私も「メイドに死を!メイドに地獄の鉄槌を!」と連呼し犯罪メイドを率いて大暴走している夕菜よりも和樹や部下を守るため頑張っているリーラの方がヒロインにふさわしい気がします。陰謀・拉致・銃撃戦からちょっと百合的な要素までヒロインたちの苛烈な戦いがとても面白かったです。 ジャンルはメイド仮装戦記アクション・ファンタジー。アクションや陰謀ストーリーが好きな人にお薦めです。<終>まぶらほ メイド編シリーズまぶらほシリーズ 本編(一部紹介)
2009年03月02日
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