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不安だけが夜を駆け抜けていく。大きな窓の傍らに立って、アイボリーのカーテンを少しだけ引いた。部屋の中の光が反射して、外は見えない。窓ガラスは真っ黒い鏡のようになって、のぞきこむ自分の顔を映す。黒縁眼鏡で可愛くない私の顔を。そしたら。天使がふわり訪れた。真っ白な女の子の。私の心に触りにやってきた。女の子は自分のことを「死神だよ」と言うけれど、私は思う。真っ白くて、あったかくて、天使なんじゃないだろうかと。ただ、羽根がないだけだ。私の心に触れにきた。かわいらしい黒い猫をその胸に抱いて。本当は、哀しいことを告げにきたのに。でも、私はどうしてか、言ってしまったんだ。「友達に・・・なって」なんて。どうしてそんなことを口にしてしまったのか、よく判らなかった。けれど、あのときの私は、本気でそう思ったんだ。この子と話をしてみたいと。そうしたら、真っ白い女の子はやさしく微笑んでくれた。「いいよ」友達になってくれる、と。「あたしは、モモ、あなたは?」「・・・私は・・・」私の名前は・・・。 「しにがみのバラッド。」シリーズは、主人公の真っ白で優しい死神モモが死んでいく人たちの大切な思いを受け止めたり、大切な人の死に苦しむ人たちを助けたりするストーリーです。白い死神モモ。普通の死神は真っ黒な姿で、感情がなくて、機械的に人間の命を刈り取る仕事をしてします。しかし、死神なのに何故か優しい感情を持っているモモにはそんなことはできません。人一倍やさしい心を持つモモは、死神のルールに違反したとしても、少しでも死に苦しむ人々を助けようと相棒である仕え魔の黒猫ダニエルとともに陰ながら頑張ることになっていきます。モモ自身の謎にまつわる話や連続性のある話、以前登場したキャラクターに関する話題など例外もありますが、基本的に短編形式。毎回いろんな悩みを抱えている登場人物たちをモモが優しく助けることになるのです。 町おこしに失敗した港町。知事をしていた祖父をちょっと前に亡くしている少女・水者ミツミは、祖父を亡くしたショックと自分がしたと思い込んでいる罪にさいなまれ、自分を見失って周囲から孤立し苦しんでいました。そんなミツミを学校のクラスメイトたちは、頭のおかしな人物「不思議ちゃん」と呼び、いじめることになります。そして、ミツミから「友達になって」とお願いされたモモは友達になることを承諾しますが、死神のモモでは普通の友達がするようにミツミを支えることはできないのです。苦しむミツミを救うため、モモはミツミに友達や恋人ができるように、ミツミが悲しみや過去の後悔を乗り越えられるように、陰ながら奮闘することになっていきます。今回は短編集というよりもまるまる一冊、水者ミツミに関わるエピソードでした。深く傷ついたミツミがモモの作ったちょっとしたきっかけに助けられ、友達や恋人を作り、少しずつ立ち直っていく姿がとても感動的で大変面白かったです。また、複数の視点から「どうしてミツミは深く傷ついているのか?」徐々に明らかになるミステリアスな展開も良かったです。 ジャンルは、死神ハートフル・ファンタジー。感動的なストーリーが好きな人にお薦めです。<終>しにがみのバラッド。シリーズコミックやDVDも出てます
2009年08月31日
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夕方少し前。下生えをザクザクと踏みしだきながら理花たちのキャンプに近づく者があった。夕樹だ。どこか楽しそうな顔つきで歩いてくる。まっさきに気づいた精霊のラニカが「お疲れ様でした」と声をかけた。夕樹は軽くうなずいてから閑散としたテント周りを見回した。「みんないないね。どこへ行ったの・・・リカちゃんは」「理花さんなら、あちらの林です。海を眺める場所にベンチを置いたんです。セイレル様は長老様たちともう一度お話しするために席を外しております」「ふーん。ちょうどいいか。リカちゃん慰めてくるよ」そう笑顔で言うと夕樹はラニカの教えてくれた方へ歩き出した。夕樹の体を乗っ取ったアシュトレー。ギースを無理矢理にでも過去へ送り込もうとする彼は、理花の持つ火龍の心臓石のペンダントを狙って・・・。 「乙龍」シリーズは、主人公の普通の女子高生・椎名理花が龍の住む異世界に強引に連れて来られて「火龍の長を選んでほしい」と頼まれることになるというストーリーです。幼馴染みの夕樹と一緒に無理矢理異世界に連れてこられた理花ですが、理花は鱗のついた長くてうねうねした生物(蛇)が大嫌い!異世界では神のように畏敬されている龍も「大嫌いな生き物の特徴を備えている」ということで拒否反応が起きてしまいます。しかし、美青年に変身した風龍のセイレルから「元の世界に戻してやらないぞ」「いつまでも火龍の長がいないと世界のバランスがおかしくなる」と説得?されて、仕方なく長を選ぶための冒険の旅にでることになります。ところが火龍たちは世界中に散らばってたり、夕樹の母親が異世界の王女だったことが判明したり、謎の妨害者が現れて理花の兄・正輝が人質にとられたり、数々の困難が待ち受けることになっていきます。 選定眼の力でイルウェンギース(通称・ギース)を火龍の長だと見定めた理花でしたが、未来からの使者にあらかじめ「自分が長になると破滅の未来が待っている」と警告されているギースは長になることを承諾しません。「早く火龍の長を選ばないと世界のバランスがおかしくなる」「選定眼に従って正しい長を選べば未来において世界は破滅する」という難しい状況の中、アシュトレーの妨害にも負けず理花は重大な決断を下すことになるのです。正直、未来がどうなるのか?は分からず、謎も多く残っていますが、とりあえずシリーズ完結です。アシュトレーを含む全員が少しでも納得できるように最後まで頑張った理花の活躍がとても良くて面白かったです。また、当初私は「火龍の長は龍たちが決めたほうが良いのでは?」疑問に感じてましたが、大きすぎる力(時間を移動するなど)を持つ龍たちが争うよりも第三者である人間が決めたほうが被害が少なくて良いと思うようになりました。 ジャンルは龍世界冒険アクション・ファンタジー。ファンタジーが好きな人にお薦めです。<終>乙女は龍を導くシリーズ
2009年08月24日
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それでも、やはり本当のこととは思えなかった。刻也が冗談や嘘でそんなことを言う人間ではないのは分かっている。でも本当なら、自分がさっきまでそのことを知らなかったはずはないという思いを捨てることはできなかった。冴子とは毎日のように一緒に寝ていた。他の誰よりも自分は冴子と話をしていたはず。そのせいで現状と齟齬があるのを感じずにはいられない。冴子が健康とは言えないのは前から分かっていた。まるで幽霊のようだ。冴子のことをそんな風に思っていた時期もあった。なのに健一はずっと冴子が煩っているのは、心の病気だろうと思いこんでいた。エッチ依存症。冴子は自分のことをそう言っていた。だからそれが原因なのだろうと思っていたのだ。体調が悪化した冴子から聞かされた衝撃の真実に健一は・・・。 「ROOM NO.1301」シリーズは、「自分には恋愛は向いてない」と悩む主人公の絹川健一が恋愛を追い求め成長していくことになるというストーリーです。家にいられなくなった健一は、非常識な芸術家・桑畑綾に出会ったことで存在しないはずの幽霊マンション13階に住むことになります。そこはHをしないと眠れない有馬冴子、パンツいっちょに白衣を着ただけでうろつく桑畑綾、実の姉に恋するミュージシャンの卵の少女・窪塚日奈、弁護士にはなりたくないのに司法試験合格を目指す八雲刻也、などすごい才能はあるけれど奇妙な人々が不思議と集まる場所だったのです。そして、健一は綾をはじめ同居人となった冴子、健一の実の姉・蛍子、綾のプロデューサーの錦織エリ、たち複数の女性と何故か肉体関係を持つことになってしまいます。一方、彼女である大海千夜子との関係はいっこうに進展せず「自分は恋愛に向いていない」と悩むことになるのです。 冴子から「私は本当は去年の冬に死んでるはずだったの」と真実を告げられた健一は、いつも冴子と一緒にいたのに冴子の病気に気づかなかった自分自身を責めることになります。そして、健一は冴子の死を受け入れることができず打ちひしがれ、その上、日奈に続いて綾まで13階から去ることになって健一は心を閉ざすことになってしまいます。そんな時、今まで気づくことのなかったことや聞かされなかったことを色々な形で知ることになった健一は、みんなの思いに支えられて再び歩き出すことになっていきます。シリーズ完結編です。このストーリーの主人公の健一は考え方や価値観が普通の人間とはどこかずれていますが、そんな健一がものすごく落ち込んでいる時に手を差し伸べてくれる13階の仲間たちや千夜子の存在がとても温かくて感動的で大変面白かったです。また、シリーズを通して、どこかおかしい13階の住人たちが少しずつ成長していく様子がよく感じられたのが良かったと思います。 ジャンルは不思議ラブストーリー。ラブストーリーが好きな人にお薦めです。<終>ROOM NO.1301シリーズ短編集もあります(4冊出てます)コミックやドラマCDも出てます
2009年08月17日
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王都アムリオンを二つに分ける大レーヌ川の南側。貧しい人々が暮らす南街区と呼ばれる地区には、いつでも温かくて美味しい食事を出すことで有名な「三本足のアライグマ」亭という店があった。その「三本足のアライグマ」亭の脇道に入ると、そこに見えるのは小さくてちょっとばかりオンボロな診療所。人間も他の生き物も同じように診療する魔法医トリシアの診療所である。「トリシア~いる~?」午前の診療時間が始まる少し前。トリシアの診療所にベルとショーン、そしてアーエスがやって来た。魔法学校「星見の搭」に通う三人は、トリシアの後輩だ。三人は東の島の古代神殿にあったという魔法の封印がかかった厚い黒革表紙の本を持ってきたのだ。特に考えもなしに、さっそく「鍵開け」の呪文で封印を解こうとするトリシアでしたが全然開きません。我慢できなくなったトリシアは力技で強引に封印を破壊しようとして・・・。 「トリシア先生」シリーズは、人間も動物もモンスターも分け隔てなく同じように診療する心優しい主人公の魔法医トリシアが友人たちや師匠たちに支えられて成長していくことになるというストーリーです。アムリオン王国一の名医ソリスから診療所を引き継いで一応一人前の魔法医になったトリシアですが、相変わらず魔法の失敗で壁に大きな穴を開けてしまったりドジばかり。そのせいでソリス先生がいた頃には患者さんが絶えなかった診療所も人間の患者さんがさっぱり来なくなってしまいました。逆に治療費を払うことのできない動物の患者さんは増える一方。すっかり獣医に間違えられて人間の患者さんから「獣医に治療されて大変だ。助けてくれ!」と言われてしまう始末。そんなトリシアですが、一人前の魔法医目指して頑張ることになります。 後輩三人が持ってきた魔道書の封印を無理矢理こじ開けてしまったトリシア。魔道書には「逆時流」と呼ばれる時をさかのぼる呪いがかけられていて、トリシアをかばったアンリ先生が呪いで子どもの姿になってしまいます。このままどんどんアンリ先生の時間がさかのぼると最終的に生まれる前の状態まで戻って消滅してしまうのです。アンリ先生を救うためトリシア、キャスリーン王女、ベル、ショーン、アーエス、たちはアムリオン王城の地下迷宮に隠されたあらゆる呪いを解くことのできる伝説の秘宝「黒い釜」を求めて冒険することになっていきます。「黒い釜」を手に入れるには三つの関門をクリアしなくてはなりません。しかし、ドジばかりのトリシアや頼りない第二王女キャスリーン、半人前の後輩三人組、途中から仲間に加わった方向音痴の猫の騎士、そして子どもになって本来の力を出せなくなったアンリ先生、などメンバーたちはどう考えても力不足です。それでも、それぞれの特技を生かして友情と信頼の力で頑張るトリシアたちの活躍がとても感動的で面白かったです。 ジャンルは、ドジっ子魔法医冒険友情ファンタジー。アクションやファンタジーが好きな人にお薦めです。<終>魔法医トリシア先生シリーズこのシリーズは、富士見ファンタジア文庫でも4冊出ています
2009年08月10日
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心配していたまぶたの腫れも、一晩寝て起きたら大して目立たなくなっていた。家に帰ってすぐに濡れタオルを目に当てて冷やした効果か、お風呂にゆったり入って全身の血の巡りが良くなったおかげか、はたまた単に時間の経過により自然に腫れが退いただけなのか、何にしても助かった。晴れの日に腫れ、なんてシャレ、とてもじゃないが笑えない。そう、今日は笑わなくちゃいけないのだ。常に満面の笑み、とまではいかなくても、泣き顔は禁物。お姉さまの門出の日、今日は卒業式なのだから。祐巳は洗面所の鏡に向かって、イーッと口を横に開いて笑顔を作った。大丈夫、泣かない。そのために昨日の夕方、お姉さまと抱き合って心行くまで泣きはらしたのだ。紅薔薇さまである祥子と黄薔薇さまである令の卒業式。そこには先代の薔薇さまたちもやって来て・・・。 「マリア様がみてる」シリーズは、お嬢様学校・リリアン女学園に通う主人公のごく普通の生徒・福沢祐巳が超お嬢様である小笠原祥子さまの「妹」になったことで生徒会・山百合会に入ることになり、楽しい学園生活を送ることになっていくというストーリーです。「妹」といっても血縁関係や法律的なものではなく、親しい先輩(姉)が親しい後輩(妹)の面倒を看るというリリアン独特の慣習・スール制度上の「妹」のことです。当初、祐巳はお嬢様揃いの山百合会に戸惑うことになりましたが、優しい先輩たちや信頼できる同学年の友人たちに助けられて忙しくも楽しい毎日を送ることになります。愉快で個性的な人々が集まっている山百合会は毎回大騒ぎを引き起こしたり、トラブルに巻き込まれたり大変なことになっていきます。 今回は祥子さまと令さまの卒業式の話であり、「マリア様がみてる」シリーズ祐巳・祥子編の最終巻でもあります。「マリア様がみてる」シリーズで卒業式のストーリーと言うと先代の薔薇さま(リリアンでは生徒会長は3人いて、それぞれ「薔薇さま」と呼ばれます)たちが卒業された「いとしき歳月(前編)(後編)」のエピソードが思い出されます。その時、聖さま・蓉子さま・江利子さまの3人が卒業することになったのですが、当然ながらその後卒業した3人の出番は減ることになってしまいました。私は登場人物の中で佐藤聖さまが一番好きだったのでちょっと残念でした。そして、今回は祐巳のお姉様である祥子さまの卒業です。ストーリーの中心人物である祥子さまが卒業してリリアン女学園からいなくなってしまうというのは不思議な感じがしますが、その分今回のエピソードではリベンジ好きな祥子さまが魅力全開で大活躍していて大変面白かったです。卒業式でもリベンジというのが負けず嫌いな祥子さまらしくて良いですね。また、最後のページで祐巳が紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)と呼ばれていたのが印象的でした。今までのロサ・キネンシスというと「ものすごく勉強ができる」というイメージでしたが、祐巳はこれまでとは違ったタイプのロサ・キネンシスになりそうです。 ジャンルはお嬢様学園青春コメディ。コメディや学園ストーリーが好きな人にお薦めです。<終>マリア様がみてるシリーズ(一部紹介)
2009年08月03日
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