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結婚詐欺にあいそうになったばかりの織香が1,428,000円で買ったもの。それは旅行用トランクのような箱から生えた傘、否、自家用の、一人乗りの空飛ぶ機械だった。彼女は日本最初の女性個人客として教習に通うが、それは誰にも話し出せない秘密だった。ちょっとだけ未来の出来事・・・(「煙突の上にハイヒール」) 近未来、もうすぐありえそうなことばかりを集めたライトなSF短編集。●「煙突の上にハイヒール」 空飛ぶ機械「Mew」を手に入れた織香。だが、隠していたことをひとり追及してきた女性がいた・・・高いところが嫌いな僕にとっては夢でも何でもないんだけれど、これこそ「夢の未来」なのでしょうね。「Mew」の機能に制約があるのも、現実的で良かったです、「Mew」から始まる展開のおもしろさがありました。●「カムキャット・アドベンチャー」 飼い猫に誰かが餌を与えているようだ。僕たちは猫の首輪に車載カメラを取り付け、確認を試みた・・・これは今でも十分にありそうなこと。その顛末になんだか微笑ましさを感じてしまいました。●「イブのオープン・カフェ」 クリスマスイブの夜、ひとりオープンカフェに座る未知に相席を頼んだのはタスクと名乗る人型ロボットだった・・・ほんのひととき、ミステリっぽさを味わいました。雪の寒さ、寂しさと、未知とタスクの切なさがリンクしているようでした。●「おれたちのピュグマリオン」 「できないときに、『できません』と言えることをですよ」稔は自分の作ったロボットの長所を俺にそう説明した・・・おもしろいのですが、この結末は心理的に抵抗があって、ちょっと受け入れがたいのです。● 「白鳥熱の朝に」 臨時扶養者特措法によってやってきたのは17歳の少女。狩野と芳緒の奇妙な同居生活が始まった・・・本当に恐ろしいのは白鳥病そのものなのか、それとも人の心なのか。最後に並ぶ一編が明日への明るさを持っていることがうれしいです。 どれも近未来的なことを扱っていますが、今すぐにでもできそうなことからちょっと時間が必要そうなものまで内容はさまざま。作中のような時代になっても、人間の、日本人の心というものだけは忘れずにいたいものです。 SFとは言うもののあまりハードなものはなく、比較的ライトに感じました。SF初心者の方にもおすすめです。収録作:「煙突の上にハイヒール」「カムキャット・アドベンチャー」「イブのオープン・カフェ」「おれたちのピュグマリオン」 「白鳥熱の朝に」 2010年4月14日読了
2010.04.27
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名探偵荒城のもとに届いた一通の挑戦状。それは「夜叉姫」を名乗る伝説的な犯罪者からのもの。荒城は罠と知りつつ殿島を引き連れ豪華客船「エリス号」に乗り込むが、チケットを持たないもうひとりの探偵真野原は追い出されてしまった。荒城たちと夜叉姫の対決、結果は如何に・・・ 『雲上都市の大冒険』に続くシリーズ第二作。今回も荒唐無稽でありえない楽しさを与えてくれる作品です。 何といってもまず第一に挙げるべきは、ふたり探偵の活用に成功している点でしょう。どちらか一方の探偵にいわゆる狂言回しのような役回りを与えるわけでなく、あくまでふたりが共に異なる持ち味を発揮し、なおかつ物語そのものを盛り上げるのに成功している好例ではないでしょうか。この点では、前作以上の成功と言ってもいいでしょう。 また、単純に冒険活劇に終始せず、名探偵の存在と時代性に踏み込んでいたのは興味深いことでした。たしかに、現在はこの物語の舞台となった時代と比較すれば名探偵だけでなく怪人も生きにくい時代であり、こういった冒険活劇の舞台としてはふさわしくありません。 夜叉姫という怪人二十面相張りの敵が登場してきたのも、今後のシリーズ展開を期待させます。次の対決はいつ、どこで、どんな形で行われるのか、その興味は尽きません。 もっとも、いろいろな面で荒唐無稽な作品です。ちょっとこれはありえないだろうと思う部分もありますが、それをすべて包んでひとつの世界を作り上げています。ひとつひとつの部分を見るとおかしく思えても、まとまると違和感がないのです。 それにしても、ストーリー上の主要な人物をどんどん殺しすぎではないですか? 前回に引き続き今回も。関連作:『雲上都市の大冒険』2010年4月10日読了
2010.04.22
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昭和27年、向かった先は雲上の楽園・四場浦鉱山。その坑道の一角で経営者の男が殺害された。20年間幽閉されていた座吾朗は予告通り地下牢から姿を消し、やがて第二第三の殺人が。鉱山会社の顧問弁護士だった殿島は、白スーツの二枚目名探偵荒城咲之助、義手の自称探偵真野原玄志郎と事件に挑む・・・ 第17回鮎川哲也賞受賞作。とてもおもしろいミステリでした。細かく見れば粗や齟齬があるのかもしれませんが、そんなことは気にならないくらいでした。まさに痛快、そして荒唐無稽。 何が荒唐無稽なのか、と問われれば、密室脱出トリック以上のものはありません。あっと驚くというのはこのトリックのためにあるような言葉で、今まで読んできた密室脱出トリックの考え方を根底から覆すようなものでした。正確には「あっと驚く」よりも「ええっと驚く」の方がより近いニュアンスかな。 痛快だったのは、第二の?探偵・真野原のキャラクターです。人を食ったような登場から特徴的なのですが、自ら頭脳派といいながらも快活でユーモアあふれる彼のキャラクターは、読む者に読み進める楽しさを与えてくれます。たとえ陰惨な事件であっても、彼が関わるだけで印象が変わります。ともに活動するのが正反対なイメージを持つ殿島だからなおさら。その時々で使い分ける義手も楽しさのひとつです。まあ、金魚鉢はいらんだろうと思いますが。 雲上都市と呼ばれる鉱山の街に登場人物が活き活きと描かれ、それが昭和27年という時代の持つ雰囲気とぴたりとあっています。真野原に限らず、ほかの登場人物たちも魅力的で物語に引き込まれます。 勢いがつきすぎる筆は若干饒舌で、不必要な部分もあるように感じましたがそれすらも楽しい作品でした。こどもの頃読んだジュブナイルミステリの楽しさに似ているかもしれません。これが世にバカミスと呼ばれるものであるのなら、バカミス好きと呼ばれてもかまわないかも。もう少し前に読んでいたら、きっと『100人館の殺人』のサイン本予約販売にも申し込んだのにと後悔しているのでした。2010年4月4日読了
2010.04.17
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携帯関連メーカーとベビー用品メーカーの共同チームは、ヒット商品の開発で軌道に乗っていた。しかし、リーダー粕谷が目の前でニコチン中毒死したことから、メンバーは疑心暗鬼に。しかもメンバーの水野は、犯人が同僚であり恋人の早智恵であるという証拠をつかんでしまった。ただちに水野は早智恵と別れる決意をした・・・ みなさんは石持浅海というミステリ作家から、どういった作品を想像するでしょうか。 自分の恋人が殺人犯だとわかったらどうするでしょうか? というのが、今回のテーマ。エゴイズム丸出しの主人公には辟易する思いでしたが、本当にそんな場面に出くわした場合、自分ならどうするだろうと思いながら読みました。もうひとつ、早智恵が犯人ではない証拠はどういうものだろうかとも。 主人公の水野は、自分の保身のためにいろいろな物事を論理的に考え、行動できる人間です。彼の思考と行動を追って流れていくこともあって、物語は結末へとスムーズに進み、比較的読みやすいものでした。 ただ水野は、早智恵が殺人を犯した動機の究明や早智恵が犯人でない証拠探しよりも、むしろ自分と早智恵との関係を上手く断ち切ること、すなわち別れるタイミングを探るばかりです。期待すればするほどミステリ的な妙味は薄れていくようで、これは読み方を間違えたかと思わざるを得ない感じでした。 もっとも、推理を披露して聞かせる桜沢と、それを必死に誘導する水野のやり取りはなかなか興味深いものでした。犯人を突き止めようとする桜沢と、なんとか桜沢の矛先を早智恵からそらそうとする水野。このふたりのやり取りが持つ緊迫感はちょっと変わったものでしたが、この物語の見せ場のひとつでしょう。 テーマが重視されたのか、結果として謎解きのようなミステリらしいミステリでもなければ倒叙推理とも言い難い作品でした。でも、石持さんらしい何かがあった気がします。2010年3月26日読了
2010.04.12
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剣道にかける青春。福岡南に残ることを選んだ早苗は香織との対戦をのぞむが、そこまでには当然いくつもの障害が立ちはだかる。一方香織は、べったりだった後輩の田原美緒が自分と距離を置き平正眼の構えを使うことに戸惑い、反発する。ふたりの最後の夏の行方は・・・ 高校生活の三年間を剣道にかけたふたりの物語もいよいよ完結。今回は早苗、香織のふたりだけではなく、ほかに四人の物語が収められています。ちょっと邪魔な気もしますが、ストーリー上必要なところかな。特に福岡南の吉野先生の若き日の武勇伝や、平正眼に構えた美緒の真意は重要なポイント。うーん、なるほどと思ってしまいます。 これらのエピソードが加わった分、早苗と香織の物語としての密度が薄まってしまったのは否定できないでしょう。これは仕方のないことですが、どうしてもふたりが登場する部分は割りを食って少なくなってしまいます。その辺が残念でした。バランスが難しい部分ですね。 もっとも、早苗や香織のパートには相変わらずのおもしろさがあります。何しろ熱い。ふたりの剣道への、武士道への心が熱いのです。 待ち望んだふたりの対決は万全の状態とは言い難いのが残念でしたが、その時できるすべてを出し切ったような熱い戦いは大満足でした。 この先どういう道をたどろうとも、ふたりの友情に変わりはない、そう確信できる物語でした。香織はこれからも剣道を続けていくだろうし、早苗にも続けてほしいと期待します。でも香織の後輩になるというのはちょっとご遠慮かなあ。 流れとしては3年で終わりかもしれないけれど、もう少し先まで読ませてほしい、そう思わずにはいられませんでした。関連作:『武士道シックスティーン』『武士道セブンティーン』2010年3月23日読了
2010.04.08
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ゴンドラ設置にむけて計画は順調に進み、いよいよ工事に入る。その前にと、迷宮街では祭りのようなイベントが開かれた。前線に立つ戦士たちが覇を競う最強トーナメントだ。その直前に、真壁と由加里はひとつの大きな決断を下していた。はたして・・・ 迷宮街を舞台とした真壁の活躍もいよいよここまで。ゴンドラ設置プロジェクトにともなう探索者たちと怪物との攻防戦が中心です。 これはつらい。読んでいてつらい。おもしろいけれど、つらい。 最初からずっとそうだったのですが、とにかく人が死んでいきます。あの人も、この人も、まさかと思った人まで。さすがにここまで読むといろいろな思い入れがありますから、なかなかつらいのです。でも、それぞれの死にはドラマがあって、それがいいですね。ストーリー上、無駄な死はないという感じ。もちろん、生き残った人にはまた相応のドラマがあって、これぞ群像劇です。 群像劇といえば、今回も様々な登場人物に視点が変わります。その中には、今まででは考えられないようなケースも。これには驚きでした。でも、探索者たちの今後の在り方を考える上では、決して外せないパートでしょう。 多くが省略されてしまいましたが、トーナメントも今回の重要な部分だったはず。真壁の成績はともかくとして、そこにはきっといろいろな人間模様が渦巻いておもしろかったはずです。ここはもっと読みたかったなあ。 ということで、今回もとてもおもしろく読ませてもらいました。ただ、この結末はどうなのかなと若干の疑問も。きれいな形ですがこれで本当によかったのかな。 真壁がやってきて、真壁が去るまでの迷宮街。でも、これだけの群像劇ですから語られなかった部分が数多くあるはず。そういったものを世に出してもらえたらうれしいです。関連作:『迷宮街クロニクル 1 生還まで何マイル?』『迷宮街クロニクル 2 散る花の残すもの』『迷宮街クロニクル 3 夜明け前に闇深く』2010年3月20日読了
2010.04.06
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