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悔しさ、恥ずかしさ、いたたまれなさ。そんな誰もが味わう感情の動き。完膚なきまで打ちのめされたあのとき、自分の存在が否定されたようだったあのときがよみがえる・・・ 『ロードムービー』に続くスピンオフ短編集。今回も思いもよらぬあの人との再会が待っています。●「しあわせのこみち」 自分の絵には自信があった。だから、教授が撮りあげて評価してくれるのは当然自分だと思っていた。だが、それは田辺が撮った映像作品で・・・才能があることを自他ともに認めた者だからこそ感じられる悔しさ、劣等感、あるいは焦燥感。そういったものがとても強く伝わる作品。なんだか、読んでいるだけの自分までもが、そういった才能がある者になったような感覚です。●「チハラトーコの物語」 他人を傷つけない嘘で飾られた千原冬子の人生。そんな嘘を繰り返す彼女は、因縁あるひとりの脚本家と出会った・・・まさに嘘で塗り固めた人生だったトーコですが、その中に隠された本当の姿というかプライドをしっかり見せてもらった、そんな感じです。●「樹氷の街」 合唱コンクール目前。指揮者の天木にとっての課題は、一向に上達しないピアノ伴奏の倉田をどうするか、だった・・・辻村さんの作品にはちょっとイタイ感じの女性が登場することが多いのですが、今回の倉田梢は本当にイタイ。もうかわいそうなくらいに。だからこそ、人と人とのつながり、絆というものがどれだけ大切で必要なものなのか伝わってきました。 スピンオフ作品の楽しさは再会にあります。以前読んだあの作品のあの登場人物がちょっとだけ絡んでくるという楽しみ。思いもよらぬ過去だったり、成長した姿だったり、あるいはまさかと思う裏側だったり。もちろん、既に読んでいることを前提で。 『光待つ場所へ』も単独でも楽しめるでしょうが、やはり本当に楽しむのであればあらかじめ読んでおくことが必要です。どれと繋がっているか、どれを読んでおけばいいのかはお楽しみということで。まあ、人物相関図を見たら一目でわかりますけどね。 辻村さんの作品世界は繋がっているものが多く、楽しませるという意味では非常にファンにやさしい世界です。次の作品『ツナグ』も、またどんな繋がり方をしているのか、あるいは繋がっていないのか、楽しみにしています。収録作:「しあわせのこみち」「チハラトーコの物語」「樹氷の街」2010年8月11日読了
2010.09.30
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開国以来、一党独裁体制で長く安全を享受してきた「この国」。常に戦争を避け、ひたすら経済大国への道を歩んできた国ではあるが、安全の維持のためにこの国にもふたつの組織がある。ひとつは国民の日常生活を守る治安警察、もうひとつは他国と相対する可能性を秘めた国防軍・・・ 治安警察の番匠少佐の周囲で起こった、「この国」ならではの事件の数々。●「ハンギング・ゲーム」 国家反逆罪で菱田の公開死刑を執行することになった番匠少佐。反政府組織は必ず阻止を試みるはずだが、番匠は確実に執行しなければならない・・・息詰まるような攻防。死刑執行を待ちわびる観客にこの国の異常性が強くあらわれています。思ってもみないとはこういうことをいうのでしょうね。●「ドロッピング・ゲーム」 第63回日本推理作家協会賞短編部門候補作。エリートコースである海洋学校への進学が叶わなかった翔一。彼が校舎から転落したのは自殺なのか。だとしたら、立ち直りを見せていた彼がなぜ・・・小学校の成績で将来が振り分けられてしまう教育偏重社会の歪み。理性的で強い悪意に反感を覚えるとともに、この国ならではの真相に感心させられました。●「ディフェンディング・ゲーム」 4件続いた強盗未遂事件。他国軍の関与を考慮した治安警察は、海軍士官学校に見回りを依頼した。3人組で見回りをする麻岡、池、印南の目の前に不審な男が・・・収録された作品の中では、もっとも現実よりかも。それでも、この国のおかれた状況がしっかり絡められ、なおかつ同じ学校でも「ドロッピング・ゲーム」の持つ後味の悪さが払拭されるような気がしました。●「エミグレイティング・ゲーム」 公園で殺されていた男は、サタの昨夜の客だった。その次に殺された男も、その次の男も。簡易宿泊所と呼ばれる国営売春宿に、ついに番匠が現れ・・・「この国」の世界と登場人物たちの背景、そして事件がうまくかみ合わせられた一篇。とくにサタの困惑するような心情が手に取るように伝わってきます。●「エクスプレッシング・ゲーム」 「カワイイ博」会場でのテロ計画を察知した番匠。標的である貝塚の警備を固める番匠だったが、復讐を誓う松浦は、周到な計画を立て・・・頭脳ゲームのようだった作品群の最後に添えられた派手なアクションもの。そこに秘められた頭脳プレーに注目。 短編ひとつひとつがおもしろく、論理とサプライズに徹した作品集。読者の常識からすれば、どこかずれた感じがする「この国」に住む人々に光が当てられ、その行動と動機の異常性を明らかにしていきます。 ただし、『この国。』というタイトルの割には「この国」そのものに直接焦点が当てられなかったのは残念。そのあたりももっと浮き彫りにしてほしかったかな。収録作:「ハンギング・ゲーム」「ドロッピング・ゲーム」「ディフェンディング・ゲーム」「エミグレイティング・ゲーム」「エクスプレッシング・ゲーム」2010年8月8日読了
2010.09.24
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遠子先輩が図書館で借りてきた一冊の本。その異常を先輩が発見したとき、事件は明らかになった。「ああっ、この本ページが足りないわ!」。何者かが数ページにわたって本を破り、持ち去ったのだ。先輩の手にある本は無残な姿を晒している。はたして、誰が、何のために・・・ 武者小路実篤の『友情』を元ネタとして取り上げたシリーズ第3弾。『友情』ってどんな話だっけ、と考えた末に導きだした答えは、「読んだことがない」でした。『人間失格』『嵐が丘』に続いて未読。ですので、元ネタとの比較は今回も抜きです。というかこのシリーズ、これから読み進めていく中で僕が読んだことがある元ネタは出てくるのだろうか。 さて、今回のメインになるのはクラスメイトの芥川くん。男子の鑑のようにも思えた彼ですが、こんな難しい過去を抱えていたことが意外でした。 今回の芥川くんの過去、あるいは今までの心葉くんの過去もそうだったと思うのですが、こういった過去に負ってしまった心の傷を書いたら、野村さんは本当にうまいですね。トラウマというのとはちょっと違うかもしれませんが、何かにつけて囚われ続ける過去とその苦悩を表現するのも、物語に結びつけるのも本当に巧みです。 ただ、そういったある種の重い部分だけで作られた作品ではありません。たとえば文化祭という晴れの場面もありますし、琴吹さんの相変わらずな場面もあります。もちろん、遠子先輩の見せ場もばっちりです。文化祭で演じたのが『友情』だったわけですが、こういった共同で何かを作り上げる、何かを成し遂げるって、人間関係を近づける作用がありますね。仲良き事は美しき哉。 ラストに待ち受けている強烈な引きが今後を期待させてくれます。はたして次はどんな展開になるのでしょうか。関連作:『“文学少女”と死にたがりの道化』 『“文学少女”と飢え渇く幽霊』2010年8月3日読了
2010.09.23
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風営法が改正され、その影響でclub indigoも二部制を敷くことになった。従来の営業は夜間の第一部、昼間の第二部は新人中心のショーパブ形式という具合に。だが、一部と二部のホストたちの間にはノリや雰囲気の違いがあり、溝が明らかになっていった・・・ ドラマ化、舞台化されたこのシリーズ。早くも四作目です。●「7days活劇(セブンディズロンパース)」 club indigoで話題になった都市伝説。その呪いの影響か、一部のホストたちがケガをした・・・確かに鼻持ちならない上から目線の新人手塚。彼ら、というより彼のお披露目を兼ねた一編。なんだかんだ言いながらも、根は同じかもしれません。いい結末でした。●「サクラサンライズ」 秋葉原で助けた留学生を無給のホストとして雇うことになった。だが、彼の周囲には不穏な空気が・・・カリームの隠された事情にはさほど驚かなかったのですが、小道具を用いてうまくまとめられた感じでした。ちょっと罰当たりかもしれませんが。●「一剋」 捜査情報を漏らした疑いで豆柴が謹慎に。早乙女刑事とともに彼の疑いを晴らそうとするのだが・・・豆柴、大ピンチ。彼のいつもとは異なる一面が見られる作品。ちょっとイメージが変わるかも。●「Dカラーバケーション」 あの憂夜が休暇をとった。その間に憂夜の過去に関連した女性が現れ・・・とうとうはっきりするのか、謎の人物憂夜の過去、というところ。空也も登場し、シリーズ読者へのボーナス的な色も見えます。 読みやすいライトミステリ。手塚をはじめとした第二部の新人ホストや豆柴の相棒早乙女など新キャラも多く、その分古参のホストたちの出番が少なくなった印象があります。 今回は今まで以上に80年代、あるいは90年代のアイテムが意識的に使われていました。ちょっと懐かしくも思えたのですが、今の若い方には??? なのかな。収録作:「7days活劇(セブンディズロンパース)」「サクラサンライズ」「一剋」「Dカラーバケーション」関連作:『インディゴの夜』『インディゴの夜 チョコレートビースト』『インディゴの夜 ホワイトクロウ』2010年7月31日読了
2010.09.13
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《軌道エレベータ》に《ソーシャルカメラ。ネットワーク》が導入される。そんなニュースを聞いたハルユキはひとつの思考に行きついた。加速空間が宇宙まで広がるという可能性に。その方向性に間違いはなく、ハルユキたちは新たな《宇宙》ステージでの《ヘルメス・コード縦走レース》に参加することになった・・・ おおっ、一気に世界が広がった5巻です。 ストーリーのメインは《ヘルメス・コード縦走レース》。ネガ・ネビュラスは新たにスカイ・レイカーも加えて参加するのですが、この参加メンバー決定までのやり取りがなかなか楽しいものでした。自分のことだけでなく、レギオン全体のことを考えるからこういう考え方の違いが発生するんですよね。ほかではありえないレギオンの結びつきの強さを感じるシーンでした。 結びつきといえば、レースそのものでも強く感じさせられました。もともとメンバーのチームワークなしには上位に進出できないようなつくりですが、ネガ・ネビュラスにとってはその絆を深めるという意味でかなり濃厚な時間だったことは間違いありません。特に、レースが想定されたものと異なる形となり、ハルユキにアクシデントが発生してからは一段とそんなことを感じました。まあ、タクムはちょっと空気になってしまいましたが。 もちろん、レースだけじゃなくて日常のシ-ンも盛りだくさん。何といっても今回はお泊まりイベントでしょう。楓子登場のあたりはあまりの動揺ぶりに笑ってしまいました。 なんとなく今回は番外編のような雰囲気でしたが、これからの苦難が想像できる展開だけに、次にも期待できそうです。関連作:『アクセル・ワールド 1 ―黒雪姫の帰還―』『アクセル・ワールド 2 ―紅の暴風姫―』『アクセル・ワールド 3 ―夕闇の略奪者―』『アクセル・ワールド 4 ―蒼空への飛翔―』2010年7月25日読了
2010.09.09
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ナチスドイツと講和したイギリス。ルーシーは、その講和を主導したグループ〈ファージング・セット〉に属する貴族院議員の娘だが、大陸では迫害されているユダヤ人のカーンを夫とし、家庭内でも微妙な立場に。ファージングで開かれたパーティーの翌朝、有力な下院議員が死体で発見され、ふたりは窮地に陥った・・・ 歴史改変ものです。 普段、翻訳ミステリはほとんど読まないのですが、それが読む気になった理由はこの設定にあります。ナチスドイツと講和したイギリス。そこで起きた殺人事件。しかも国を動かす権力者階級での出来事。おまけにこの世界が三冊も続くという。これは僕にとってあまりにも魅力的でした。 実際、物語は期待を裏切ることなく綴られています。ルーシーとカーマイケル警部補の一人称の語りが交互に続き、一方は上流階級の中に居場所を失いつつある者の悲哀と反発を描き、他方はスコットランドヤードにおける差別や偏見を浮かび上がらせます。 また、大陸はもちろんのことイギリスでも広まっているユダヤ人迫害の傾向とファシズムの足音を巧みに描き出していて、これはきっと後々まで続く重要なポイントになることは簡単に想像できます。 物語は後半へ進むにつれ、事件の全容が明らかになっていきます。ミステリ的には多少物足りない部分もありますが、それよりも物語が作り出す重厚な世界と語り手たちが追い詰められていく緊迫感はなかなか得難いものでした。 ルーシーとカーマイケルというふたりの語り手は、登場人物たちの中では常識人であるとともに好人物で、それだけに読者としても感情移入がしやすくしてくれます。同時にほかの登場人物は、〈ファージング・セット〉の面々を代表にしていずれも一癖も二癖もあるような嫌な人物が数多く揃っており、それもまた語り手への高感度を上げてくれます。 異なる歴史と文化を持つ国を舞台とした歴史改変ものであり、それは読み出す前の不安でもあったのですが、全く問題なく楽しく読むことができました。続きが楽しみです。2010年9月7日読了
2010.09.08
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略奪者ダスク・テイカーに飛行アビリティを奪われてしまったハルユキ。失意の日々を乗り越え、新たな能力を手に入れてタクムとともにダスク・テイカーを追い詰めたのだが、待っていたのは驚愕の事態。はたしてハルユキはこの事態にどう対処するのか・・・ 上下巻でいえば下巻にあたる第4巻。 極めつけのシーンで終わった前巻から引っ張った結果は、展開としては極めて王道を行く形。ただ、この王道がとてもおもしろかったのです。 注目すべきはチユリがとった行動の真意。???といった感じで全く読めなかったのですが、最後までいってすべてがわかったときにはちょっとした衝撃がありました。ああ、彼女もがんばっていたのですね。 もちろん、がんばっていたのはハルユキとタクムも同じ。黒雪姫不在の中、自分たちでレギオンを守らなければならない、自分たちで事態を解決しなければならないと奮闘するのです。もちろん、敵対する相手はダスク・テイカーなのですが、彼らにとってはチユリも敵同然。これはとても辛い状況ですよね。彼らの、特にハルユキの成長が見て取れた気がしました。 とはいっても、やはり黒雪姫あってのレギオン。ちゃんと見せ場が作られていて、少ない登場シーンでも十分に楽しませてくれます。 心意システムが入ってきて全体のバランスが崩れてしまうことも危惧されたのですが、そんな心配も杞憂だったようです。今回に関しては全く問題ないように感じました。しっかり制約が掛けられたのがよかったようです。関連作:『アクセル・ワールド 1 ―黒雪姫の帰還―』『アクセル・ワールド 2 ―紅の暴風姫―』『アクセル・ワールド 3 ―夕闇の略奪者―』2010年7月22日読了
2010.09.01
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