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高校を卒業した梅本杏子は、デパ地下に入っている和菓子屋「みつ屋」にアルバイトとして勤めだした。自分がやりたいこともわからず就職もしなかったのだが、ニートにはなりたくないと考えたのだ。店長の椿をはじめとする個性的な面々に囲まれ、少しずつ仕事に慣れていく杏子だったが、お客も個性的で・・・ 今度は和菓子屋! 坂木さんは毎回変わった職業の日常(?)の謎を見せてくれるのでそれが楽しみだったりします。 今回も和菓子とそれにまつわるあれこれがいっぱい詰まっています。「兄」とか「腹切り」とか様々出てきた業界の隠語そのものもおもしろいのですが、その裏側にあるものごとやいかにも日本を感じさせるエピソードがたまりませんでした。ちょっとしたお勉強ですね。 登場人物はみんな個性的。身近にいたらちょっと困るかもしれないけれど、物語の中にいる分には魅力的だったりします。椿店長の二面性も意外だったし、イケメン立花は表と中身のギャップが大きく、桜井さんは過去がちょっと顔をのぞかせて・・・って、みんな素顔をちょっと隠したような人ばかり。でも、それが物語の中で活かされています。 でも、一番魅力的だったのは和菓子かもしれません。和菓子ってやっぱりアンを使った甘いもののイメージが強く、多少敬遠気味でした。でもそこに秘められていたものを少しかじると、なんとも魅力的に見えてくるのです。おいしそうに見えるのはもちろん、様々なエピソードが輝かせているかのようでした。 謎解き担当は椿店長でしたが、本当にズバッと切り込んでいきます。お客さんの買い物や言葉の端々などをとらえて、心に抱えている問題を解決していきます。ちょっと踏み込み過ぎな気もしますが、まさにナイフのような切れ味でした。ただ、切れ味がよすぎて読者に考える余地を与えないような展開で、そういった面で推理の楽しみは薄かったように思えます。 和菓子という比較的地味な素材でそこに隠された世界を広げ、あたたかな人のつながりを見せてくれた坂木さん。次に取り上げるテーマが楽しみです。収録作:「和菓子のアン」「一年に一度のデート」「萩と牡丹」「甘露家」「辻占の行方」2010年7月15日読了
2010.07.29
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七夕の夜、わたしはたっくんと出会った。アリサから代打で誘われた合コンで出会った数学科の彼はちょっと変わっていて、のめりこむと寝食すら忘れて集中してしまう。そんな彼と、わたしは恋に落ちている。あの七夕の日から。ブルーベリーで服を汚してしまった、あの日から・・・ どこかでモリミーやマキメと同列で語られていたのでどれほど奇妙かと構えていたのですが、そんなこと忘れてしまうほどあたたかく、そして愉快なラブストーリーでした。 花とたっくん、アンドウ、ヤマネ。4人の楽しそうなことといったらありません。バイトだったり研究室だったりといろいろ忙しそうではありますが、その中でもとても青春している姿が目に浮かびます。大変なのだけれど、楽しそうなのです。 たとえばタコパ、あるいは花火、そして卒業旅行。こういったものというのは、学生の特権とまではいかなくても、学生ならではの楽しみ方ができることではないでしょうか。同じことをしても、社会人ではもう同じ感覚は取り戻せないもの。そういった感覚だとか雰囲気というものが強く出されていたように思います。一年弱の時間の間にそんな出来事がもっとあったもよかったかもしれません。 理系の男性というのはたっくんほどではないにしても、ちょっと何かにのめり込むタイプの人が多い気がします。僕の周りにも、学生時代はそんな人がちらほらと。まあ、たっくんぐらいのめり込むようだと、少々心配になりますね。 登場人物がみんないい人で、それぞれに将来のこととか、夢だとか、そういうものを前向きに考えているのもなんだか気持ちよく感じられました。いいじゃないですか、そういうのって。 たとえ物理的な距離は離れてしまっても、心理的な距離はどんどん近付いていく。そんなふたりのこれからを応援したい気分になりました。2010年7月8日読了
2010.07.24
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2年生の夏、女子マネージャーとして野球部に入部した川島みなみ。都立高校の弱小野球部ではあるが、甲子園に連れていくことを目標にした彼女は、マネージャーの仕事を知るために書店で本を1冊購入した。だが、よく確認もせず買ったそれは、ドラッカーの『マネジメント』だった・・・ 企画力、発想力の勝利です。 タイトルどおり、野球部の女子マネージャーが『マネジメント』を参考に部活を運営したらどうなるのかをわかりやすく小説にしたものです。 ポイントは何と言っても〈野球部の女子マネージャー〉だったこと。多くの人によく知られたこの世界を舞台にし、物語を進めていくことがどれだけ理解の助けになっていることでしょうか。これが〈サッカー部〉でもちょっと違ったと思いますし、況や企業をや。「もし営業部の女性アシスタントが~」ではだめなのです。 正直なところ、物語としては特別におもしろいものではなく、あまりに都合よく進んでいくのも残念に思えます。もちろん、この本の性格上上手くいかないのでは困りますし、求められているのは成功のみですから仕方ありませんが。ただ、もうちょっと山や谷があってもよかったかなあという気にはなりました。 これを読んでドラッカーの『マネジメント』を読みだした人もいるでしょうし、そこまでいかなくても多少の興味を持った人は多いはず。僕も興味を持ったひとりです。少しあざといようにも思えますが、『マネジメント』のエッセンスをこれからいかしていければいいんじゃないでしょうか。そう、真摯に。2010年7月6日読了
2010.07.22
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三年前、自然死として処理された祖父の死にまつわる事件に巻き込まれた城坂論語。いま、私的裁判〈双龍会〉が開かれ、彼はその被告として裁かれる立場にある。事件の日に時間をともにし突然消えた謎の女性〈ルージュ〉の疑惑を主張し、弁護人〈青龍師〉に瓶賀流をたてた論語だが、その目的は・・・ どんでん返し連発の法廷劇。これは傑作と呼んで良いでしょう。 前半が論語と〈ルージュ〉との二時間ほどの会話、後半は私的裁判〈双龍会〉という構成。前半の狐と狸の化かし合いのような会話は、丁々発止というよりはのらりくらりとかわしながら隙を突くようなやり取り。これがテンポよく続き、読む者を飽きさせません。 これだけでも楽しいのですが、驚きなのは後半の法廷劇。京都という土地柄からあってもおかしくなさそうな私的裁判〈双龍会〉ですが、このやり取りが実におもしろいのです。何せどんでん返しの連続。予想できない展開が読者を引き込んで離しません。 論理的に相手をやり込めていくことももちろん必要ですが、それよりもハッタリやでっちあげ、その場の勢いがものを言う〈双龍会〉。ハッタリをかまそうがなんだろうが、それがハッタリだと証明されなければいいのです。とにかくロジックで反論させなければいいのです。 物語の筋を語りすぎるのは興を削いでしまうのでほどほどにしますが、ただ一点だけ。論語と流をはじめとした登場人物たちの考えや目的まで追っていくと、微妙なズレもあっておもしろさが更に増してきます。登場人物もなかなかのもので、特に龍樹落花は最高でした。 法廷ミステリであると同時に恋愛小説としても読めるこの作品。どうせ読むなら、読む側も〈双龍会〉を傍聴するかのように勢いに乗って読んでみましょう。あるいは論語の〈ルージュ〉への想いに共感してみましょう。ガツンと来ませんか? 講談社BOXということで手に取りにくいことも想像できますが、そこで躊躇せずにぜひ読んでほしい一冊。きっと損はしないはずです。講談社BOX、侮れませんよ。2010年7月3日読了
2010.07.20
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密室での殺人事件、殺し合った三人の被害者、ちょっと不思議で興味深い事件の場に貴族探偵は突然どこからともなく現れる。そして、推理などという〈雑事〉はすべて使用人に任せ、難事件を解決していくのだ・・・ 『神様ゲーム』以来となる麻耶さんの五年ぶりの新刊は、足掛け10年かかった短編集。●「ウィーンの森の物語」 密室で見つかった男の死体。一見自殺のようだったが、ある物証は明らかに他殺であることを示していた・・・反転させる手際の良さが目を惹きました。しょっぱなからきれいにまとめてくれました。●「トリッチ・トラッチ・ポルカ」 強請りをはたらいていた女が殺害された。容疑者は高校教師の男。男は遺体の頭部を埋めている姿を見られていた・・・ちょっと読みにくさを感じながらも、この辺も麻耶雄嵩らしさかなあと納得。●「こうもり」 高級旅館風媒荘に泊まりに来た絵美と紀子は作家の大杉道雄と堂島直樹に出会う。しかし、大杉の妹佐和子が殺され・・・これは思ってもみない形でした。まんまとと言うべきでしょうか。●「加速度円舞曲」 突然落下してきた岩にぶつかり、車が故障してしまった美咲。岩は担当する作家の家から落下していた・・・ロジックの積み重ねが冴える作品。これでもかこれでもかとばかりに。●「春の声」 皐月の従妹弥生は、家のために三人の婿候補からの選択を祖父から迫られていた。三人の候補が集う夜、その内の一人から電話が・・・これにはうーんと唸らされます。 麻耶作品の探偵と言えばやはり銘探偵・メルカトル鮎なのですが、貴族探偵にもまた同じような人物像を思い浮かべてしまいました。事件解決の方法は全く違うのに。 全体にロジックが前面に強く押し出された作品集。10年という時間の経過もあってか、後半の作品ほどレベルが上がっているようにも思えます。一般的には「こうもり」の受けが良さそうな気がしますが、それよりも「加速度円舞曲」や「春の声」の方が好きかな。 欲を言えば、貴族探偵である必要性をあまり感じられなかったのが残念です。とは言っても、御前様は直接推理なんてものはなさらないお方ですので。収録作:「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」2010年6月27日読了
2010.07.19
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2004年の今日、当時の楽天日記でブログをはじめて以来、6年になりました。 ちょうど小学校を卒業するだけの年月ですが、これからも卒業することなく、続けて行こうと思います。 とりあえず、もう少し更新頻度を上げていきたいと思います。たまっている感想が7冊分あるので、まずはそれを書くことから。 まあ、何はともあれ今後もよろしくお願いします。
2010.07.18
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秋津新聞社の投稿課に届いた一通のメールは、静かに、そして大きく秋津新聞を揺さぶった。メールは、女子中学生を誘拐監禁し身代金の要求を告げてきたのだ。添付された彼女の写真は、届くたびに服を剥ぎ取られていく。はたして秋津新聞社が取るべき対応は・・・ 最初に書いておきますが、これは偽装誘拐ものです。いろいろとすごい作品でした。 もっとも目につくのは、誘拐事件を偽装した中学生の野中栞の恐るべき冷静さです。進学校に通っているとはいえ、一介の中学生が咄嗟にこんな偽装誘拐を企てられるとはとても思えません。まして、彼女は両親の死を目の当たりにしたばかりに、こんな動機で。これはちょっと無理があるかなあ。一言でいえば無理矢理、あるいは強引。 そういうところを抜きにすると、犯人側が秋津新聞社にかけるプレッシャーがとてもきわどくスリリングでした。なにしろ野中栞は秋津新聞社の上をいく手を打ち、完全に手玉に取っています。まったくもって空恐ろしい中学生なのです。写真の件など、ここまでやるかという感じ。いや、「石持浅海、ここまでさせるか」か。 一方、秋津新聞社はと言えば、新聞社としてのメンツだとか以前の事件の後遺症のようなものに囚われ、迷走もいいところ。大人の汚さが見えてきて、かえってリアルです。でもこういった組織防衛的な考え方が、妙にしっくりきました。 最大の山場となるのは、誘拐ですからやはり身代金の受け渡しシーンです。この事件ならではの趣向を凝らした方法が何とも目を惹きました。本当に侮れない犯人です。 誘拐もののミステリも数多くありますが、いろいろな意味で記憶に残りそうな作品でした。2010年6月20日読了
2010.07.11
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日本からヨーロッパに渡り、ついにツール・ド・フランスの舞台に立つこととなった白石誓。だが、彼が所属するチームはスポンサーの撤退が決まり、やむを得ずひとつの策に打って出ようとしていた。それを受け入れることができないチカはひとり苦悩する・・・ 第10回大藪春彦賞受賞作『サクリファイス』の続編。今回の舞台はロードレースの最高峰、ツール・ド・フランスです。ロードレースが持つ商業スポーツとしての側面に苦悩するチカの姿が描かれます。 ミステリ的な色合いはかなり薄れていますが、今回はロードレースの魅力が満載でした。 参加する選手それぞれが、それぞれの立場で判断し進めていくレース。エースはエースとして相応しい結果、即ち勝利を追い求め、アシストはエースの勝利のため、犠牲になることに徹する。天候、標高、展開、それぞれの思惑などさまざまな要素が絡み合い、その時々でレースは違った様相を見せてくれます。ただ単に速いことを競うだけではない奥の深さ、おもしろさがあります。 実際にはここまで細かく選手たちの心情や駆け引きがわかるとは想像できませんが、それでもツール・ド・フランスを見てみたくなりました。我が家ではちょっと見られないので残念です。 ミッコのアシストに徹するチカではありますが、彼にもやはり夢があります。ただ、それを内に秘め、アシストにこだわるところに彼らしさを見た気がします。それはもしかしたら日本人らしさなのかもしれません。 もちろん、レース以外にも見所はたくさん。物語には悲劇もありますが、決してミステリ的なものではありません。むしろ、『サクリファイス』のようなミステリ仕立てになっていなくて正解でした。チカたちの今後のレース人生が楽しみです。もちろん、スピンオフも。 関連作:『サクリファイス』2010年6月19日読了
2010.07.06
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