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大学に合格して上京した多田万里は、入学早々、奇妙な出会いをした。会場で意気投合した柳澤光央、そして柳澤を追って来た彼の幼馴染加賀香子と。完璧なお嬢様であるのと同時に、香子は思いこみ激しく柳澤を追い続けるストーカーもどきなのだ。柳澤は香子を避け続けるのだが、そのとばっちりは万里へ・・・ ついに出た新作は、大学生もの。登場人物の年齢が上がったためか。若干はじけぶりがおとなしい気もします。まあ、大学生ですから。 大学が舞台ということで、入学式だとかオリエンテーションだとか、やっぱりそれらしいシチュエーションが使われていて、その使い方がまた巧みです。特に、やっぱりサークルの使い方が印象的でした。おまけんよりも、むしろあっちが。まあ、大学生なんて何でもありですから、これからもやりたい放題ですね。 香子が柳澤を想う気持ちがあまりにもストレートで、それでいてなんだかいじらしくも見えます。そもそも極秘に試験を受けていた柳澤を追いかけて同じ大学に入学してきたあたりが普通じゃなく、その気がなければちょっと引いてしまいそう。おまけに、その行動に行き着くまでの数々のエピソードがまた同じような感じで、まさに一人相撲。 この一人相撲も、きっとお嬢様ゆえの部分もあるのでしょうが、「美人なのにもてないんです」なんて言ってのけるあたり、他人の心が理解できるのかできないのか、どうなのでしょう。オーラを持った非凡な人物なのは間違いないでしょう。 一方、高校三年以前の記憶を失っている万里も、そのお人よしぶりは人並みはずれたものがあります。以前からそうだったのでしょうか。現在の彼の気持ちと、過去に何やらあったらしきリンダとのこともあり、どろどろの関係を招きそうな予感も。 まだまだ始まったばかりで、これからそれぞれのベクトルがどちらへ向いて行くのかまったく予想ができません。万里の過去やリンダの謎とかいろいろ絡んできそうで、続きが気になります。早く読みたーい。2010年9月20日読了
2010.10.31
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英国版ゲシュタポである監視隊《ザ・ウォッチ》の隊長となったカーマイケル。彼はロイストンの娘エルヴィラの後見人となっていた。遜色ない学歴と後見人を持ちながら、彼女はその生い立ちから社交界になかなか受け入れられない。友人ベッツィの手助けもあり、ようやく社交界にデビューすることになっていたのだが・・・ いよいよ三部作の完結編。弱みを握られたことで制約にがんじがらめにされていたカーマイケルが権力者と全面対決、といったところ。『暗殺のハムレット』から10年、思いもかけないことから影での顔を知られてしまった彼が迫りくる敵の手をすりぬけていく終盤は、手に汗握るスリリングな展開です。 心ならずも監視隊の隊長という、いわば権力の象徴のひとつのような立場になってしまったカーマイケルですが、その影ではちゃんと彼らしさを出していることがわかり、読者を安心させてくれます。一方で、彼が追い詰められて行く姿からは、作者が作品にかなりドラマチックな展開を要求していることが感じ取れます。それと同時に、ここまで彼が痛めつけられるということで、ノーマンビー政権下の英国の惨状を映し出すことに成功しています。 一作ごとに変わるヒロインは、今回はカーマイケルの元部下にあたるロイストンの遺児エルヴィラです。彼女がパレードを楽しむ姿を通して、ファシズムが英国にごく一般的に浸透している様を描き出しています。彼女の行動力と楽観的な性格は、ともすれば陰鬱で悲劇的になりがちなこの物語の陽の部分を担い、バランスをとっています。もちろん、彼女の役割はそれだけではありません。ストーリー上でかなり重要な役割を担うわけですが、それは読んでのお楽しみということで。 エンターテインメントに徹するような表現要素で物語を組み立てながら、きっちりと政治問題や人種差別など社会派な面も盛り込んだあたりに、作者の設定の巧さを感じました。帯に書かれた《オールタイムベスト級》という言葉は誇張ではない傑作です。関連作:『英雄たちの朝』『暗殺のハムレット』2010年9月19日読了
2010.10.25
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名門ラーキン家の三女ヴァイオラは、ロンドンで女優として活躍している。彼女がつかんだ役は、男女を取り換えた「ハムレット」での主役、女ハムレット。しかも、来英するヒトラーが観劇予定だという。だが、ガートルード役だったローリア・ギルモアが爆弾によって死亡してしまった。その捜査に乗り出すのは、警部補カーマイケル・・・ ナチスドイツと講和後の英国を舞台とした歴史改変もの《ファージング三部作》の第二弾。本当にスケールの大きな物語になってきました。 今回もカーマイケルとヴァイオラの語りが交互に入る構成。そのどちらもがおもしろいのです。ヴァイオラは抜擢された女ハムレット役に取り組むうちに、いつしかヒトラー暗殺計画に巻き込まれてしまいます。計画に関与しないで済むことを考えていたヴァイオラが、徐々に追い詰められて暗殺事件の中心に吸い寄せられていく緊迫感はたまりません。 もちろん、冒頭でヴァイオラが語る内容から、どういうことになるのかはおおよそ見当がつきます。でも、そこに至るまでがおもしろいのです。 一方カーマイケルは、ギルモアの事件を捜査するうちに暗殺計画に迫り、やがて皮肉なことにヒトラーや英首相に就任したノーマンビーを守る立場に。社会がどんどんファシズムに傾いていく中、『英雄たちの朝』で権力に屈してしまった彼が、スコットランドヤードの警察官として己の矜持を賭けて立ち向かうこの事件。前作ではあまりはっきりしていなかった彼の内面が、葛藤や心理的抵抗を経て鮮やかに色づけられたように見えます。彼がその正義を全うしようとする姿には惹かれるものがありました。 本当の歴史を知る者としては、この歴史改変が物語に効果的に作用していることがよく理解できるのとともに、こういった形で事件が結末を迎えることが世界にとってよかったのか判断しにくい部分もあります。ただ、今となってはヴァイオラに幸福がめぐってくることを祈るばかりです。関連作:『英雄たちの朝』2010年9月16日読了
2010.10.18
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夏休みに入って間もないある朝、グラウンドでひとりの生徒が遺体となって発見された。状況では校舎の窓から転落したようだが、自殺なのか他殺なのか事故なのかはっきりしない。学校の呪いという説もある。様々な立場にある17歳の高校生探偵たちは一斉に走り出した・・・ 第20回横溝正史賞最終候補作。 これは叩かれるだろうな、というのが率直な感想。 まず読みにくい。刊行にあたって応募作を全面的に改稿したようなのですが、それでもまだ読みにくく、読者に途中で投げ出させようとする破壊力はかなりのもの。技巧的といえばそうかもしれませんが、ならばその技巧がここで必要なのか疑問です。 加えて、登場人物たちの言動があまりに中二病にすぎる点があります。これは好き嫌いですが、受け付けられない人にとっては絶対拒否でしょう。 そしてその結末。再読必須という難解な真相。最後ですっきり真相を見せてほしいと願うミステリ読者にとって、この作品がどう映るか。 と、問題点をあげてみました。 でも、はっきり言って僕個人はこの作品のことが好きだったりします。 読者に対してあまりにも高い要求をする本格ミステリであり、同時にあまりに青くさい天才たちがそろった青春小説。どちらをとってみても、そこに輝くものが見えた気がします。ただ、そのふたつをかけ合わせたときに、なぜだか曖昧模糊としたものに仕上がってしまったようで残念です。10年という長い間隔を経て発表される第二作ではそういった問題点が解消されているのか、どう進化しているのか、期待したくなります。 横溝正史賞選考時にこの作品を推した綾辻さんは、『ヴィーナスの命題』から思い出される先行作品のひとつとして、法月さんの『密閉教室』をあげています。なるほど、確かによく似た雰囲気を感じ取ることができます。『密閉教室』を気に入っている方は、一度手に取ってみてはいかがですか。2010年8月24日読了
2010.10.13
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遠子先輩が受験勉強に専念するため文芸部を休部すると言い出した。考えてみれば、受験生なのだから当然のことだ。一抹の寂しさを覚える心葉だったが、ななせの親友水戸夕歌が姿を消してしまったことを知り、ふたりだけで夕歌の行方を追うことに・・・ 受験というイベントが登場することで、否応なく結末が近づいていることを意識させるシリーズ第4弾。遠子先輩の不在というシリーズとしてはやや寂しい状態です。 『オペラ座の怪人』をモチーフとして取り上げた今回は、なんと言っても琴吹ななせでしょう。これまで「井上なんか」と言い続けてきた彼女の変化と、それに気づかない心葉くんの組み合わせ。なんだかちぐはぐなんだけど、遠子先輩と心葉くんの組み合わせよりもすんなりいきそうな気がするのはなぜでしょうか。ただ、心葉くんは鈍いからねえ。そちら方面がこれからどう推移していくのか。もし美羽が登場なんてことになれば、まだまだひと波乱もふた波乱もありそうで、遠子先輩の卒業までに方が付くのか、いらぬ心配をしてしまいそうです。 遠子先輩不在ということで、主導的に動いた心葉くんとななせ。このあたりにふたりの成長が見えるのがうれしかったです。いつまでも遠子先輩に頼ってばかりではいられないのですから。もう心葉くんは、頼りない男の子を卒業しなくては。 おそらく、ここまで読んできたシリーズ4作の中ではもっとも陰鬱な出来事でしょう。やはり今までは遠子先輩がもつ天然の明るさがそういったものを打ち消していたようにも思えますし、同時にこの陰鬱な雰囲気が遠子先輩の不在をより印象づけていたようにも感じられました。 ところで、井上ミウ名義での出版は検討されていないのでしょうか。関連作:『“文学少女”と死にたがりの道化』 『“文学少女”と飢え渇く幽霊』『“文学少女”と繋がれた愚者』2010年8月12日読了
2010.10.12
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帰国子女の栄美は、日本で高校生活を送ることになった。なかなか日本の風習には馴染めなかった栄美だったが友達もでき、やがて飛鳥部という男子生徒に思いを寄せる。だが、いざ彼とデートの約束をしても、かならず何かしらの障害があって彼に会うことができないのだった・・・ 3章仕立で構成される、栄美の不思議な青春物語。ヒロイン栄美視点の一章、三章に挟まれる形で大学生ユージ視点の二章が入ります。 当初の体裁はごく普通の青春もの、学園ものです。ただ、それだけではあまりに貫井徳郎らしくありません。もちろん、そんなことはないのですが。紙幅も200ページ弱と少なく、ライトな感じを出す作品ですが、しっかり貫井さんらしさを見せてくれます。 その短さゆえにやや性急に思えたり、あるいは無理があるようにも感じますが、それほど気になる部分ではないでしょう。むしろ巧みに用意された伏線と無意識に訴えかけるようなミスリードを楽しむべきでしょう。 また、真相はしっかり社会の暗部にも切り込んでおり、その鋭い刃は私たち日本の現代社会に生きる者たちに突きつけられています。 あまり詳らかにしてしまうのはネタを割ることになるので避けますが、短いという手に取りやすさと軽さ、そして読みやすさをあわせ持ち、多くの読者にメッセージを伝えられる作品でしょう。技ありの佳作です。2010年8月12日読了
2010.10.06
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