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芸大に通う二見遭一は、撮影コースのアイドル画素はこびに誘われて自主制作映画に主演することになった。天才と噂される最原最早が監督として、彼を主演に選んだのだ。彼女のコンテに惹きつけられた二見は、不眠不休で二日間も読み続けてしまう。撮影は順調に進み、映画『月の海』は完成するが・・・ 学生生活を謳歌する芸大生たちが自主制作映画を作り、その中で人間関係のしがらみや過去の苦い出来事などを、独特のボケとツッコミで解決し、明るく前向きに生きていく物語。 ずっとそうだろうと思って読んでいたのに、途中で世界は歪んでしまいました。 いや、確かに芸大生たちが映画を作る物語には変わりありません。ですが、読者を思っても見なかったところは連れて行ってしまうのです。この展開の変化はまったく見事としか言いようがありません。 また、一般的に天才とかカリスマとかを表現するのは難しいと思いますが、最原最早という天才はその能力を確実に文章で表現されています。天才が天才という言葉だけで終わってはいないのです。それがストーリー上無理なく表現されているのがよかったです。 もちろん、最原のボケと二見のツッコミという組み合わせは要所要所で登場し、読者をあきさせません。これだけでもなかなかのおもしろさでした。このボケ加減がまた効いているのだとも思います。 全体を通してみると、読者も天才・最原最早に惹かれて読む作品でしょうか。もちろん、丸二日間不眠不休で読むほどではありませんが。とにかく、次の作品をまた手に取りたくなる作品でした。オススメです。2010年1月21日読了
2010.01.29
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小劇団「シアターフラッグ」。アマチュアとして多くのファンを持つ劇団ではあったが、300万円の負債を抱え解散の危機に。主宰の春川巧は兄の司に泣きついたが、司が出した負債を立て替える条件は、劇団の収益だけで2年で返済できなければ解散するというものだった・・・ メディアワークス文庫の創刊第一弾。 小劇団が舞台ということで、対立点は恋愛かあるいは配役かと思っていたのですが、まさか資金が問題になるとは思いもしませんでした。しかも取り分ではなく負債。 確かに、「シアターフラッグ」のような小劇団というのは収支度外視というか、極端ですが理想形を追い求めるためなら金は惜しみなく使うというイメージがあります。それを真正面から取り上げた姿勢に好感が持てます。 ラブ度はいつもより薄く感じますが、それでも全体に有川さんらしさが見えます。そのひとつが登場するメンバーにつけられた渾名。特に際立っているのが司につけられた「鉄血宰相」。ぴたっとはまりました。 その鉄血宰相・春川司が正式に製作として加入したわけではないのに、なぜか黒幕というか中心として深く関わっていくようになります。物語も司の出番が多く、当然のように「シアターフラッグ」のずさんな状況が露わに。本来なら中心にあたる巧を、劇団内の立場だけでなくストーリー上でもすっかり食ってしまった形です。でも、組織の中にはこういう人物が必要なときもありますよね。 恋愛方面はほんのりとした味付け。いくつかの一方通行が一直線に連なっていますが、この辺がどのように変化していくのか、続編があるのならとても楽しみ。もちろん、2年後に返済ができるのかどうかも気になります。 これで続編がなかったら、解答編がない問題編だけのミステリみたい。期待したいなあ。2010年1月20日読了
2010.01.28
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制服を着た14歳は無敵。ピチピチの素肌と膝上20センチのスカートからスラリと伸びた脚で、彼女たちは世の中を闊歩する。だが、成長期にありがちな貧血と関節痛に病院から出された赤と白のカプセルを飲んだ翌朝、彼女たちの身に変化が起きた・・・ 我が世の春を謳歌する14歳の少女たちの身に起きた不思議な出来事を描いた短編集。●「性」 つきあっている竹田との初体験を拒んだ翌朝、目覚めたチホはパジャマのズボンを下から突き上げる異物を確認した・・・「朝、目が覚めたら」というのはよくある変化のタイミングですが、そこから先の展開がおもしろいです。特にチホの割り切り方とか、竹田の対応とか。●「欲情」 ストーキングの証拠を愛の妹咲につかまれた僕。脅されて咲との待ち合わせに行くと、そこにいたのは愛?・・・遠くの○○よりも近くの△△。なんとなく予想できる流れでしたが、咲のキャラクターで引っ張った感じ。●「従順」 犬になってしまった志乃。彼女を拾ったのは、「少女誘拐殺人をしそうなオタク」と嘲っていた男で・・・新聞が効いています。こちらはちょっと予想外でした。●「独占」 美憂が家に訪ねてきた。だが玄関を開けると、そこにいたのは七美、つまり自分・・・歪んだ感情、あるいは倒錯した愛情。なんとも気分の悪い結末でした。●「死命」 智紗子の左手に宿ったのは不思議な生命体。異形のいる場所はニット製のバンドに覆われていた・・・気味の悪さと微笑ましさが入り混じったかのよう。それでも最後をきれいにまとめてくれました。 14歳の中二少女たちの万能感と、異常な身体変化を組み合わせた作品集。「マリオがスター食ったときの無敵モードみたいなもん」なんて、ちょっとうまい例え方だと思います。もっとも、もしかしたら「無敵」という言葉から一番連想しやすいものかもしれませんけど。 同じグループの6人がそれぞれ登場するわけですが、同時進行されている5つの物語をうまく跨いで行ったように思いました。 また、自分の変化に対する受け入れが早く、そこに若干の違和感が。あまり元に戻ろうとはしないのです。もちろん、受け入れないと物語が進まないという面もありますが、ちょっと不自然でした。特に「従順」で気になりました。収録作:「性」「欲情」「従順」「独占」「死命」2010年1月15日読了
2010.01.24
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「面白いお話、再び売ります。」今回も表紙の言葉に嘘偽りはありません。早くも文庫化されると聞き、その前にとあわてて読みました。●沢木耕太郎「マリーとメアリー」 吉行淳之介に初めて会ったとき。そこから話は連鎖して・・・バーを舞台にした某ラジオ番組でもこんな会話をしていそうである。残念ながらちょっと合いませんでした。●伊坂幸太郎「合コンの話」 合コンの準備から待ち合わせ、そして解散まで。そう、これはどこにでもある「合コン」の話・・・なるほど実験的な作品。多少の細切れ感は否めないものの、最後まできれいにまとめられていて、おもしろく読めました。心理戦も巧み。●近藤史恵「レミング」 ついにエースとなった石尾。絶対的な能力を持っている彼だが、突如不可解なレースが続いた・・・前回に続いて『サクリファイス』の外伝。相変わらずの自己犠牲の世界ですが、そのあたりがうまく使われています。●有川浩「ヒトモドキ」 突然、彼女たち家族は伯母と同居することになった。だが、伯母は非常識な人物で・・・今までとはちょっと違った作風かな。怖いとか嫌だとか不愉快だとか、そういった感情が先に立つのですが、最後に印象が変わるようなキッチリとした結末を見せてくれます。●米澤穂信「リカーシブル ―リブート」 ママに連れられて引っ越したわたし。サトルはこの町に来てヘンなことを言い出した・・・長編『リカーシブル』の冒頭部分を短編に仕立てたもの。超能力を使った、おもしろい長編になりそうだと予感させます。●佐藤友哉「444のイッペン」 バイトでやってきた東京ビッグサイト。だが、開場前のわずかな時間に444匹の犬が姿を消した・・・タイトルはこじつけっぽいのですが、気になる作品。特に土江田の過去が。このシリーズはすごく読みたくなりそう。●本多孝好「日曜日のヤドカリ」 一緒に暮らしだして一年になる娘と義父。母親が留守の日曜日、ひとりの男の子が家にやってきた・・・ほのぼのとした日常を描くのかと思いきや、いきなりサスペンスになりその落差に驚き。弥生の年齢以上にできた人間性と、とった行動とのギャップがおもしろかったです。 メンバーにほとんど変わりはなく、前回同様に豪華。しかも質も高い。今回も十分に楽しませてもらいました。近藤さん、ユヤタンあたりは前回と同じシリーズものなので、一冊にまとまるのが楽しみです。 楽しみといえば、『Story Seller 3』。情報があるわけではないのですが、きっと春には出るのだろうなあと楽しみにします。収録作:沢木耕太郎「マリーとメアリー」/伊坂幸太郎「合コンの話」/近藤史恵「レミング」/有川浩「ヒトモドキ」/米澤穂信「リカーシブル ―リプート」/佐藤友哉「444のイッペン」/本多孝好「日曜日のヤドカリ」関連作:『Story Seller』/近藤史恵『サクリファイス』2010年1月13日読了
2010.01.17
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家庭の事情によって東京から夜見山に引っ越した榊原恒一。肺気胸の発作によって転校前に入院した恒一は、登校初日に3年3組の異様な状況に気づく。ひとりの女子生徒が、生徒はおろか教師からも「いない者」として扱われているのだ。だが、それは・・・ 綾辻さんといえば『十角館の殺人』で新本格の扉を開いた方ですが、『殺人鬼』や「囁き」シリーズなどホラー作家としての側面もあります。本書はその両方を併せ持つ、言わば新本格とホラーの融合体です。 基本的にはホラーとしての面が強く出されています。学校の怪談から入る「3年3組の呪い」。謎めいた少女見崎鳴の存在。決して目を背けたくなるようなものではなく、どちらかと言えば先が気になる怖さ。もちろん、凄惨なシーンもありますが、過度に強調されずホラーに縁のない人が読んでも差し支えない程度でしょうか。むしろ存在というものが揺らいでいくことに不安を掻き立てられます。 また、ミステリとしてみれば第一部に【What?…Why?】、第二部に【How?…Who?】という副題がつけられているように、少しずつミステリの質を変化させていくことで読者の興味を逃さず、しかもホラーの不気味な部分を増幅させていった気がします。少しずつわかっていくたびに、新たな謎が増えていく底なし沼のような状態です。なんといっても、【Who?】の扱いには驚きを隠せませんでした。 おそらく、この感想ではおもしろさは全然伝わらないことでしょう。未読の方にはぜひオススメしたい一冊。600ページ以上の長さをまったく感じさせない、綾辻さんの新たな代表作です。2010年1月5日読了
2010.01.16
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「僕の孤独が魚だとしたら・・・」そんなフレーズから始まる小説。この小説に惹かれたある男は、自らの売れないバンドの最後のレコーディング曲の歌詞として、この小説を使った。この小説を思い出したある男は、山道を運転中に・・・(「フィッシュストーリー」) 4編を収録した短編集。それぞれ独立しているものの、『重力ピエロ』に登場した黒沢の印象が強く残りました。●「動物園のエンジン」 夜の動物園。シンリンオオカミの檻の前で寝転がる元職員は「動物園のエンジン」らしい・・・話の繋がり方、転がし方が、まるで河原崎さんの駄洒落のよう。彼らのその後の人生も、もしかしたら駄洒落なのかもしれない。●「サクリファイス」 山里深くにある小暮村。人探しで訪れたその村には、生贄の風習が残っているという・・・初出は「別冊 東北学」。なんとなくそれが窺い知れる作品。小暮村の持つイメージと、終盤の展開とのギャップがなんとも言えません。●「フィッシュストーリー」 あるバンドが残した曲。その曲には不自然な無音部分があった・・・時を越えて繋がりあう、ある小説をめぐる物語たち。30数年前、20数年前、現在、そして10年後と物語が大きくなっていくのもおもしろい。●「ポテチ」 空き巣に入った部屋は野球選手の部屋だった。そこにかかってきた電話に出てしまって・・・4編の中では、もっとも登場人物がいきいきと動いていた印象。中でも今村の母はバツグン。最後もきれいにまとまっていて、後味もいいのです。 残念だったのは、『重力ピエロ』における黒沢を名前しか覚えていなかったことでしょうか。これではさすがにリンクしている意味がありません。もちろん、リンクしている意味がないから楽しめないということはありません。相変わらず、いつもの伊坂さんらしい作品集だと感じました。 ただ、全体にいまひとつインパクトにかけて、つかみどころがなかったようにも思いました。なにかぴんと来ないというべきでしょうか。収録作:「動物園のエンジン」「サクリファイス」「フィッシュストーリー」「ポテチ」関連作:『重力ピエロ』2009年12月24日読了
2010.01.08
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新卒で入った会社が気にいらず、たった3ヶ月でやめてしまった誠治はフリーター。だが、長年続く近所のいやがらせによって、気付かぬうちに母親が精神をわずらっていた。理解のない父親を頼りにできない誠治は、引っ越しのためにバイトをしつつ本気で再就職活動を始めた・・・ タイトルから想像するよりもかなり重い内容を含んでいました。それでもどんどん読みたくなるのが有川さんの腕ですね。 序盤は誠治の言動が身勝手で痛々しく、あまりいい気分ではなかったのですが、それも母親の鬱が発覚するまでのこと。一念発起してからの誠治は頼もしく好感が持てます。自分の置かれた現状をしっかり認識しなおし、それまでの経験を活用して奮闘する姿がよいのです。もちろん、これは姉の応援あってこそ。姉の存在は大きく、母親にとって身勝手な息子や理解のない夫との生活の中で、遠方に嫁いだとはいえ頼りになる娘の存在がどれだけ救いであったことでしょうか。 一方、父親は「経理の鬼」と言われる人で、切れ者なのでしょうが考えが古くて固い。おまけにプライドは高いという厄介なタイプ。妻の置かれた状況を認められないのも当然でしょうか。それでも、誠治は父親を見捨てず、上手にコミュニケーションをとることで輪の中に引き込みます。ちゃんと活躍の場を作られていることに父親も読者も救われる気分です。 後半は有川さんの作品らしく、しっかりとラブコメが入ってきます。これはお約束。なくてもよかったかもしれませんし、もう少し話をふくらめてスピンオフの形で別の機会にしてもよかったかもしれません。 決して、フリーターが家を買ったわけではありませんでしたが、がんばろうという気にさせてくれる本でした。2009年12月20日読了
2010.01.07
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