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ミステリについて語り合う、「推理小説研究部」なんて仮の姿。校内の犯罪や悪事を探り、知識と技術で対抗する。殺人事件だってどんとこい。自慢の暗器でイチコロだ。そんなまじめにふざけたような彼らの名は「完全犯罪研究部」・・・ これはまたとんでもないメンバーが集まったものだ。 「THANATOS」シリーズの汀こるものさんの新シリーズ。おそらく「THANATOS」よりもくせのない作品に仕上がっているはず。 完全犯罪研究部が各々の手にした知識と技術、そして正常とは言いかねる行動力を駆使して自分たちの正義のために暴走する。そんなお話。悪ガキどものお守りをする顧問の女教師もいつしか巻き込まれて、やがては騒動の中心に。そんな物語。早い話、本格ミステリではなく、青春ドタバタ劇。 くせのない作品、とは書いたものの、今回は犯罪や薬物に関する蘊蓄がふんだんに盛り込まれています。たとえばニトログリセリン、あるいはスリングショット。そういったものが盛り込まれても、過剰にならず程よい分量に収まり、むしろ物語の展開を巧みに補足しています。 完全犯罪研究部を取り巻く様々な事件。それらをあの手この手で解決していくパターン。ひとつひとつの事件は短いながらも、きっちりかたが付けられています。これが最後まで一気に持っていく勢いにつながっているようです。 姉を殺され、すっかり姉になりきってしまう妹の杉野二号、メンバーからも謎の人物として扱われる古賀、彼らを教え導く立場にありながら同僚と不倫しているゆりっぺ(由利千早)など、複雑な身の上を抱えた登場人物たちも多く、常識と非常識の間を行ったり来たりしているような人物ばかり。それがなんだか爽快だったり。もっとも、少し中心からはずれた人物になると、書き込みが少ないのかぼやけた印象のキャラになってしまっているのが残念。 とにかく、作者がやりたい放題好きなように書いたというイメージが浮かんでくる楽しい作品。きっと、汀こるものという作家が与えていた先入観を崩すんじゃないでしょうか。2010年11月15日読了
2010.11.30
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『記憶に自信ある者求む』という広告に応募した質屋の跡取り博一。無事採用され、高い給与を受け取りながら、記憶力の向上に励んでいた。だが、主催者側と連絡が取れなくなった博一は、悪事に関与させられたのではないかと不安を覚え高広に相談したのだ。強い関心を示したのは礼。「赤髪連盟」に似ていると・・・ 帝都探偵絵図シリーズ第二弾。●「世界記憶コンクール」 記憶力のある者を募った広告で採用された質屋の博一は、高給で記憶の訓練を受けていた。やがて関係者とは連絡が取れなくなり・・・しまった、「赤髪連盟」を読んだ人の方が楽しめそうな一編。親子とはどうあるべきか、ちょっと考えさせられます。●「氷のような女」 いまだ貴重品の氷。だが、衛生上問題のある悪水氷が出回り、検査が必要になっていた。処分される氷はどこへ・・・高広の義父基博の若き日。氷の行方から思わぬ方向へ広がっていったのがおもしろかったです。タイトルは誰のことか。●「黄金の日々」 かつて広告図案で一等を得た恵が親しくなったのは、高名な陶芸家唐澤の養子幸生。唐澤のうわ薬の作り方はもはや伝承者がなく・・・真相へとたどりつくきっかけがなかなかおもしろいところでした。高広が謎を解くのとは随分雰囲気が違いますね。これもまた親子がらみ。●「生人形の涙」 来日したアーリントン卿は、随分以前に日本に滞在したことがあった。取材を試みた高広に、卿は不思議な物語を話し始めた・・・消えた静聴の謎と消えた勲章探し。前者はその真相に、後者は探し方に拍手を送りたくなりました。とくに後者は単純ながらもストーリー全体としっかり絡められていたのがよかったです。 テーマは親子関係でしょうか。薄いものも厚いものもありますが、どの作品にも親子の情が絡められ、今回の統一されたキーポイントのようでした。これを扱った作品は多々ありますが、ここまでそろえたものはちょっと記憶にありません。 高広と礼のコンビは、今回は少々おとなしめ。楽しみにしていた読者には残念かも。ただ、その代わりに高広の義父基博の若かりし頃があったり、「点灯人」に登場した森恵が探偵役を務めるなど、お楽しみ要素は盛りだくさん。そのほかの人物もなかなか魅力的で、読者をひきつけてくれます。 明治の時代背景や文化、風俗、人々の気質といったものを活用して仕上げられた短編集。続編では礼の活躍も期待したいところです。収録作:「世界記憶コンクール」「氷のような女」「黄金の日々」「生人形の涙」関連作:『人魚は空に還る』2010年11月13日読了
2010.11.26
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至楽社の記者里見高広は、帝都一と呼ばれる天才絵師有村礼と奇妙な関係にあった。高広が入手する「ストランドマガジン」に掲載された「シャーロック・ホームズ」を訳し伝えることで、礼が表紙絵を描くというのだ。高広は前日の続きと現実の謎解きを要求される日々が続く・・・ 腰の低いホームズと高飛車なワトソンによる帝都探偵譚。●「点灯人」 行方不明の兄を捜す広告を載せてほしいと至楽社に少女がやってきた。彼女の兄は広告図案で一等をとった少年だった・・・第2回ミステリーズ!新人賞最終候補作。話の広げ方とその方向が巧みです。彼を捜し出すだけで終わらないのがいいですね、●「真珠生成」 銀座の美妃真珠から三粒の「プリンセス・グレイス」が消えた。うち一粒は金魚鉢の中から見つかり騒動に・・・時代性と人間の心がよく結びつけられた作品。意外性というよりも人情もののような趣きがあります。●「人魚は空に還る」 見せ物小屋に登場した人魚は大人気に。だが、興業後には悲惨な出来事が待っていた・・・これはきれいだったなあ。なんだか風景が頭に浮かびあがってくるかのようでした。●「怪盗ロータス」 世間を騒がす怪盗ロータス。彼の今度の標的は、洋画をコレクションしている富豪の大黒だ・・・睡蓮小僧が一枚上手だったでしょうか。またの対決があれば楽しみなのですが。 BL風の表紙で、イマイチ手を伸ばしにくかった作品集。礼と高広であれば通常ならば礼が探偵役のキャラクターでしょうが、それをひっくり返したことでちょっと色合いの異なるものに仕上がった気がします。ただ、礼はあまり役に立っていないような。まあ、礼に謎解きを強要された高広が義父や編集長といった人脈を駆使して解決するといった感じですね。収録作:「点灯人」「真珠生成」「人魚は空に還る」「怪盗ロータス」2010年11月13日読了
2010.11.25
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明林書房の営業マン・井辻智紀は、前任者吉野の後をついで担当の書店回りをしている。智紀は目の前に立ちはだかる書店や出版にまつわる謎を、同業の営業マン・真柴や仲間の力を借りながら解き明かしていく・・・ 『平台がおまちかね』に続く、〈出版社営業・井辻智紀の業務日誌〉シリーズ第二弾。●「ビターな挑戦者」 取次で突然暴言を吐かれた井辻くん。相手はどうやら「デビル」とも呼ばれる異端児らしくて・・・デビルという通称とその心情とのギャップが意外で驚きでした。本に関する話は楽しい反面、実情の厳しさを目の当たりにする辛さもありますね。●「新刊ナイト」 新人白瀬みずきの新作は自伝的でダークな作品。ヒットが期待されるが、かつての同級生が書店員として現れ・・・聞いてしまえばすぐわかることなのに、それを聞くことができないもどかしさ。本当にナイトでした。●「背表紙は歌う」 ベテランの営業ウーマン久保田の依頼。それは元旦那が経営する書店のキナ臭い噂について調べてほしいというもの・・・このタイトル、上手いなあ。井辻くんと真柴をうまく連携させた、心温まる作品。●「君とぼくの待機会」 候補作が発表になった東々賞。だが「受賞作はもう決まっている」という噂が流れ、作家たちも各陣営も浮足立った・・・噂の出所はなるほどと唸らされました。最近では待機会やそのあとの祝勝会(あるいは残念会)の様子が作家本人や関係者の発信でわかってきましたが、きっと候補になった時からずっとはらはらそわそわしているのでしょうね。●「プローモーション・クイズ」 塩原健夫の2作目の帯に書店員からの推薦コメントをもらおうとした井辻くん。ところが、同僚が受け取ったコメントのひとつがなぞなぞのようで・・・ちょこっとあの彼女が登場。さすがと思わせてくれます。書店員さんもゲラが読めるのが大変なのか、特権なのか。 登場する人物は、みな温かい心の持ち主。善人ばかりなんていうとなんだかあまりよくない評価のようですが、それぞれが心の中に抱えているものがあり、それが登場人物の魅力のひとつになっています。たとえ悪人がいなくても、これはこれでいいと思うのです。 まさに「本好き」に向けて書かれたような一冊。次もまた楽しみになってきます。収録作:「ビターな挑戦者」「新刊ナイト」「背表紙は歌う」「君とぼくの待機会」「プローモーション・クイズ」関連作:『平台がおまちかね』2010年11月8日読了
2010.11.23
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諸々の事情により家庭で暮らすことができない児童、生徒が寝食を共にする児童養護施設「七海学園」。勤務二年目の春菜は、中二の葉子に係る話に手を焼いていた。葉子には亡くなった問題児の霊がとりついていると噂されているのだ。仕方なく春菜は児童相談所に連絡をしたのだが、やってきた男はそれまでの担当者とはちょっと違った・・・ 第18回鮎川哲也賞受賞作。 児童養護施設「七海学園」を舞台にした連作短編集です。七海学園で噂される学園七不思議。それらのひとつひとつが、日常の謎に姿を変え、私たちの目の前に現れます。不思議なことには必ず正体があるというスタンスです。 児童養護施設が舞台であり、登場する子どもたちを取り巻く事情は決して軽くないのですが、それを補うように子供たちの生活がいきいきと描かれています。 ミステリとしては社会派色の強い日常の謎。問題児の霊が取り付いているだとか、廃屋から聞こえる幽霊のような声だとか、あるいは夏のごく短期間だけいた子どもとか。各編で解かれる謎は決して派手ではないですし、その解決に特別大きな驚きやインパクトがあるというわけではありません。ただ、どの作品も端整で丁寧に書かれた印象があります。小説としての巧さも感じられ、ますます満足。 途中から執拗に回文を用いており、中にはこのこだわりをしつこく感じる向きもあるでしょうが、こういった部分の遊び心もミステリにはありかなあと。 また、連作短編集ならではのあの仕掛けも施されています。個々の謎よりも、むしろこの真相の方が驚きは大きかったかもしれません。 鮎川賞の受賞作としては賛否あるかもしれませんが、非常に楽しみな作家さんが登場したと思っています。続編も早めに読まねば。収録作:「今は亡き星の光も」「滅びの指輪」「血文字の短冊」「夏期転住」「裏庭」「暗闇の天使」「七つの海を照らす星」2010年11月7日読了
2010.11.22
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黒板に書かれた太一以外の4人の名前と「12時~17時」の意味を知ったとき、文研部のメンバーたちは衝撃を受けた。12時ちょうどに、伊織と唯が子供に戻ってしまったのだ。同じ現象は稲葉と青木にも。ひとりだけ子供に戻らない太一だったが、彼には別の試練が待ち構えていた・・・ ふうせんかずらの手による2つの試練を乗り越えてきた文研部の面々。今度の試練は「時間退行」ですが、これがとてつもなく厄介。いつどこで誰にこの現象が起こるか分からない上に、見た目だけでなく精神も子供に戻ってしまうのですから。 ということですが、今回は青木に尽きるでしょう。あの青木がこんなにもいい男だったとは! 彼らしいくさいセリフが満載ですが、それがぴったり当てはまったときの効果は絶大でした。もともと、唯との間に生じた今回の不信は「身から出た錆」のような部分が少なからず存在していたのですが、結果としてそれがうまく活かされたような。 青木と唯に限らず、ほかのメンバーも過去にいろいろなものを抱えていて、その包み隠したいものが否応なく表に出されてしまいます。一緒に、過去にまつわる辛い記憶や感情も甦ってしまうのです。 包み隠せるものなら隠してしまいたい、なかったことにしてしまいたい。甦ったものにフタをするのか、それともそれをありのままに受け入れ、乗り越えるのか。どちらが正しいとは一概に言えないかもしれませんが、その判断が今回の別れ道だったと思います。 太一を挟んだ伊織と稲葉の三角関係は今回も変わらず。不思議な感じのする明るい三角関係ですが、こちらの進み具合もこれから注目ですね。関連作:『ココロコネコト ヒトランダム』『ココロコネクト キズランダム』2010年9月30日読了
2010.11.16
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新婚旅行から帰ってきたふたりは、新居に着くとたちまち喧嘩になった。そもそも新婦の月(ルナ)には新郎水元への愛情なんてなかったのだ。ふたりはPM社のマッチングで特A判定が出たベストな組み合わせのはずだったのに。離婚を迫るルナだが、そう簡単にはいかない。なぜなら、水元はPM社の社員だから・・・ いわゆる「成田離婚」を取り上げたSFラブコメディといったところ。少子化や晩婚化が進み、結婚推進という国家戦略が重要とされ、結婚すのが当然の世界。ここで反りの合わないふたりが離婚のために共闘するという、なんとも逆転というか矛盾したストーリーです。 結婚よりも離婚の方がエネルギーを必要とするといいますが、それを地で行くようなものでしょう。 ふたりの視点が交互に登場します。互いに自分の都合ばかりを主張するあたりなんとも身勝手ですが、それでいて「そりゃ、そうだよね」と言いたくなる気分も。見栄とか対面とか、あるいは実利とか感情とか嫉妬とか、まあいろいろあるでしょうから。とくにPM社のマッチングに対する考え方、とらえ方が明らかに食い違っていて、ちょっと考えさせられるものもあります。 一方、ふたりの離婚の意思を知ったPM社の抵抗というか包囲網が凄まじく、ここまでするかと思わせるほど。その対応が厳しければ厳しいほどふたりの離婚の意思がより強固になっていくようで、その様子が大変おもしろく見えました。 また、離婚届の提出に行ったときのお役所の反応や、身内の対応など、この世界ならではというところも興味深いものでした。 《我孫子武丸=ミステリ》ということにこだわらなければ、十分楽しめる作品。決してミステリではないと思うので。2010年9月29日読了
2010.11.10
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唇を合わせることで感染する不治の病、ソムノスフォビア。全寮制の学園リセ・アルビュスで女生徒が亡くなり、やがて発覚した死因は学園中を震撼させた。亡くなった織恵に憧れていた美詩は梢から織恵を感染させた相手が学園内にいることを知らされ、犯人探しを始めたのだが・・・ 感染症により「キス」がタブーとなった近未来の物語。 犯人探しといっても、死因の特徴から当然《織恵にキスしたのは誰か?》ということになります。 「唇を合わせることで感染する」ことを含めたソムノスフォビア特有の性質、作品内外の倫理観や常識、そして登場人物たちの考え方や思い込みといったものがきれいにはめこまれています。真相を巧みに隠していて、読んでいても右へ左へと作者に揺さぶられ続けているような感覚でした。 ラストでたどりつく真相はとても切ないもの。ちょっと唐突だった気もしますが、すべてが無駄なくしっかり繋がって導き出されたものに見えます。 最近でも新型のインフルエンザとか、簡単には克服できないような病気があるわけですが、ソムノフフォビアのような新たなウィルスも近未来には本当に登場するかもしれませんね。 若年者向けの「ミステリーYA!」ということなので、こういうミステリもあるんだよという例になればいいと思います。そして、できることならば若年層だけの読みものにはしたくないなあとも。2010年9月28日読了
2010.11.10
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相麻菫は問いかけた。「私たちの中に、アンドロイドがいると仮定しましょう」と。未来視の能力を持つ彼女が浅井ケイに投げかけたその問いはどんな意味を持つのか。そしてその答えは。ケイはリセット能力を持つ春埼美空と出会い、三人は考え始めた。二年前の夏の出来事・・・ 早くもシリーズ第三弾。今回はケイと春埼の出会いの頃を描いた過去物語です。前二作において限りなくケイに従い続けてきた春埼。その信頼関係の原点をここに見た気がします。その感情の薄さから危うく感じられた現在の春埼ですが、この時点ではさらに輪をかけた危うさ。触れたら壊れるという感覚でした。無論、それを食い止めたのはケイへの信頼、言いかえれば依存でしょう。 このような関係だからこそ、以前の「私がリセットを使えなくなったとして。私と貴方の関係性は、何か変化しますか?」という春埼の発言につながるのでしょう。そして、ふたりの関係に変化が訪れるとしたら、それは意図するにせよしないにせよケイの変化がもたらすものなのでしょう。 今回相麻菫がとった行動の真意はどうもよくわかりません。未来視の能力を持つ彼女だけに、きっと何かが視え、そしてそれを理解したうえで行動しているはず。そこには理由が必ず存在するのです。そのあたりはきっとこれから明らかになっていくのでしょうね。 透明感のある独特の文章は健在。まさに無色透明純粋な世界といった感じでした。そこに加えられる少量の異物が、物語に幅と奥行きを与えているように見えます。次も楽しみ。関連作:『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』『サクラダリセット 2 WITCH, PICTURE and RED EYE GIRL』2010年9月27日読了
2010.11.09
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