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2014.05.03
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カテゴリ: 読書案内
【吉川英治/新書太閤記 五巻】
20140503

◆人の繊細な気持ちを甘くみてはならぬ!
「男の嫉妬ってマジ怖っ!」
息子が身の毛もよだつと言わんばかりに語ってくれたのは、O君とT君の話である。
O君とT君はお好み焼き屋さんでアルバイトをしている。
甘いマスク(イケメン)で長身、女子高生たちから人気のあるT君に対し、ニキビ面で風采のあがらないO君は、店長やパートのおばちゃんたちと仲良くしていた。
調子の良いT君は、お店に女の子が来たりすると、気前よく「オレのおごりだから金はいいよ」と言って、ご馳走することが度々あったようだ。
だが実際には店長の目を盗んでやっていたことで、後で自分の財布から代金を支払っておくことはなかったという。
そんな光景を横目で見ていたO君は、最初の一度や二度は我慢していたところ、女の子たちからキャーキャー騒がれてイイ気になっているT君に対し、抑えようもない嫉妬心で友情が壊れていった。
O君は意を決して、仲の良いパートのおばちゃんに相談したところ、「よく私に話してくれたわ。あんたは何も心配しなくていいから。店長には私からちゃんと話してあげる」と。
こうしてパートのおばちゃん、そして店長をも味方につけたO君は、T君を解雇させることに成功したのである。

「一度だってオレのこと注意したことなかったのに、いきなりチクるなんてふざけやがって!」
息子は、T君から憤まんやるかたないと言った愚痴を聞かされたとのこと。
T君の言い分を鵜呑みにした息子としては、O君の復讐がよっぽどショックだったらしい。
二人と仲の良い息子としては、友達ならもっと他にやりようがあったのではないかと、ややT君寄りの意見だった。
だが息子よ、と言いたい。
人の気持ちはそれほどまで計り難い、デリケートなものなのである。

『太閤記(五)』では、信長から“きんか頭”とあだ名をつけられた明智光秀が、積りに積もった怨念を晴らすべく、信長を討つ場面が山場となっている。
世に言う、“本能寺の変”というくだりである。
“サル”とあだ名をつけられ信長から可愛がられた秀吉に対し、光秀の方は“きんか頭”などと呼ばれて笑い者にされることに我慢ならなかった。
信長もおそらくはそういうプライドの高い光秀の性格を知っていたであろう。
頭脳明晰で兵法に明るく、何事にも礼儀正しい光秀だからこそ信長も重宝した。

まさかと思うようなことが起きてしまったのだ。
「敵は本能寺にあり!」
この時の光秀にあるのは、ただただ昔年の恨みつらみ。
戦国時代とはいえ、戦には必ずや大義名分というものがあるはずだったが、光秀にそんなものはなかったのだ。
とにかく信長を討ちとることに全神経を傾けていた。

桶狭間の戦で、三軍を率いた今川義元の大軍を撃ち破った勢いは、ここにはない。
とはいえ、信長の最期はドラマチックで、他のどの武将よりも格調高く、高潔である。

「事実は一瞬の呼吸のうちに過ぎない。死なんとする刹那、人の生理は異常な機能を働かせて自己の通って来た全生涯に、平常の追想に似た訣別をなすものらしい。『悔はない』信長は大声で言った。」

私たちがこの歴史的事実から学べるもの、それは他でもない、人の繊細な気持ちを甘くみてはならないということだ。
まさか?!と思うようなことが起きてからでは遅い。
先人曰く、「親しき仲にも礼儀あり」
誰かの恨みを買わぬよう、日ごろから気をつけようではないか。

『新書太閤記(五)』吉川英治・著

~ご参考~
・新書太閤記 一巻は コチラ
・新書太閤記 二巻は コチラ
・新書太閤記 三巻は コチラ
・新書太閤記 四巻は コチラ

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.124)は吉川英治の「新書太閤記 六巻」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.05.03 05:56:34
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