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小さな文豪・森見登美彦による名作各編の語り直しを読んだ。○ストーリー自分たちが所属する「詭弁論部」の部室の存続をかけ,公衆の面前で桃色ブリーフのみで踊る--阿呆学生のメロスは,友人のセリナを人質にしておきながら,ちゃっかりと京都の街を逃げ切ろうとするのだった。------------森見登美彦が史上の文豪の5作品に対して,パスティーシュを書き,連作短編集としてまとめ上げた作品だ。全て京都のダメ学生を主人公に置き換えた森見ワールドに変貌しているのだが,きちんと元の作品への尊敬の念にあふれている。また,最後の「百物語」でゆるやかにつながるという趣向,森見登美彦の他の作品にもつながる趣向もあり,ファンにはたまらない作品だと言える。------------同じパスティーシュとは言え,「走れメロス」はパロディのトーンが強いが,「桜の森の満開の下」などは元の作品にインスパイアされた文学作品ともとる事が可能で,様々方向からアプローチがされていて面白い。ダメ学生たちを主人公にした自虐的なギャグ小説で有名になった森見登美彦の,ブンガクシャとしても別の面が垣間見える。------------僕は文庫版で読んだのだが,どうやら「走れメロス」の足跡が記された地図が付属しているのはこの版だけのようだ。京都通でないと着いていけない地名のオンパレードは毎回のことだが,地図の付すのはとても親切でありがたい。僕も年に1回京都に行っているのだが,この地図が無かったらここまで楽しめたかどうかは大いに疑問だ。------------各編について簡単に述べる。「山月記」:大文学作品を執筆するために全てをなげうっていたはずの斉藤が失踪した。彼は大文字山で天狗となって暮らしているらしいのだが・・・”樋口先輩”の誕生秘話かと思えば,天狗もなかなかマジメに悩んでいて,まだまだ青いカンジだ。「聖なる怠け者の冒険」にも登場する夏目がサブ主人公だ。「藪の中」:映画サークルの鵜山は,なぜ恋人と彼女の元の彼氏との恋愛映画を撮影したのか?・・・パロディ作品と思わせて,なかなか純文学をしている。「走れメロス」:いもしない姉の結婚式をデッチ上げて逃げ回るメロス。だが彼とセリナの間の友情の真実とは?・・・表題作に恥じない芯の通った阿呆学生の物語だ。一見ただのパロディなのだけれど,別の形の友情を貫いているという意味では,古典の現代的な語り直しとも言える。最後の一行でまた現実に戻るカンジではあるが。「桜の森の満開の下」:満開の桜の下で出会った彼女は,〈男〉の才能を引き出し,〈男〉を一流の作家に成長させる。だが〈男〉は売れっ子作家の毎日に違和感を抱き始める。・・・いつも通りの雰囲気で始まるのだが,後半は完全に純文学だ。森見の京都への思慕が強くにじみ出ている。「百物語」:百物語が実際に開催されると聞き,出かけた〈私〉は,誰からも見えない人物を目撃してしまう。・・・これまでの4作品の登場人物が一堂に会する貴重な作品なのだが,残念ながら作品そのもののチカラが弱い。
2009.11.30
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買い逃していた「火の鳥 別巻」が,朝日新聞出版より復刻されたので買った。○ストーリーエジプトの王子・クラブと奴隷の少女・ダイアは,火の鳥の血を飲んだため,3千年の命を身に付ける。エジプト,ギリシャ,ローマと,激動の古代史を通じ,2人は死と復活,別れと再会を繰り返す。------------手塚治虫の「火の鳥」は,小学生で部分的に読み,「マンガ少年」での〈望郷編〉の開始と共に,中学生のときに全巻を集め,かなりボロボロとなっているが今でも持っている。今回の〈別巻〉には,いわゆる”COM版”「火の鳥」とは異なる,”少女クラブ版”と”漫画少年版”の「火の鳥」が収録されている。これ以外では小さいサイズでしか読むことが出来ないので,他の巻と同じ大型判で揃えられるのはファンとしては大変うれしい。------------”少女クラブ版”は,「リボンの騎士」の連載の後に始まった作品なので,同じような系統だ。ハリウッド歴史スペクタクル映画と宝塚歌劇を合わせたような作風で,どうしても甘いテイストはあるものの,驚くほどダイナミックな展開もある。「火の鳥の生き血を飲むと3千年生きる」という設定からは,現代まで物語を続ける,という気概があったとも取れる。手塚治虫の無尽蔵なイマジネーションならば実現可能だったとは思うが,〈エジプト編〉〈ギリシャ編〉〈ローマ編〉の3つで完結している。個人的には,主人公のクラブとダイアが美男・美女で,もう1つ設定に工夫が無いのが,完結してしまった理由だと(勝手に)思っている。とは言え,ハッピーエンドで終わる珍しい「火の鳥」なので,安心して読むことができる。------------上記の”少女クラブ版”に,未完で終わった”漫画少年版”の〈黎明編〉も収録されている。最も古い手塚治虫の「火の鳥」であり,明らかに貸本マンガ時代を感じさせる画風だ。物語は,後の”COM版”〈黎明編〉と似ている部分が多く,やはり日本の歴史をベースに物語をつむいで行く,というのが本来の構想だったのだと思う。どうしても未完であるため,ページ数不足を補うための収録のような印象が強い。本当のファンサービスなら,〈休憩 Intermission〉や「ブラックジャック〈不死鳥〉」なども収録してくれれば良かったと思う。さらにこの大型判では,ムリな調整を行っていて,ページの一部が欠落した状態で収録されているため,細かい部分とは言えストーリーがつながっていない。これは名作への侮辱だ。元は朝日ソノラマの編集の問題だが,版権を引き継いだ朝日新聞出版にもそれを見落としている責任は重い。------------さて残念ながら〈太陽編〉完結の後に,手塚治虫が亡くなってしまったため,「火の鳥サーガ」としては未完だ。僕は未練たらしく,〈太陽編〉は上下巻を何年も前に買ったものの,下巻はまだ読んでいない。読まないでおけば,僕の中でだけは「火の鳥」はまだ続いているからだ。
2009.11.29
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昨年公開されたフランス映画を観た。○ストーリー10才の少女ベティは,突然1人になった。姉のアニエスは寄宿学校に通うこととなり,両親は別居の準備を進めている。彼女は父親の精神病院から逃げ出してきた青年イヴォンを納屋にかくまうのだが・・・-------------少女ベティのたった1週間を描いた作品で,ある意味ストーリーの展開は予想できる。だからむしろ風景と美術の美しさ,演技の繊細さを楽しむべきなのだと思う。ベティはの父親は精神病院の院長なので,家族は併設された屋敷に住んでいる。病院の性質上,フランスのどこか地方にあるらしく,学校に行くにも,近所の農家をのぞきに行くにも森の中の道を自転車でこいでいく必要がある。物語はリアルなのだが,舞台設定はややファンタジーを思わせる。-------------時代ははっきりと言及されないが,しばらく前(たぶん1世代前)という印象がある。けれどもヨーロッパの田舎なので,調度も車の種類も全く分からない。ベティ家族が住んでいる屋敷が立派なのだが,古くてコワイ。こんな家に住んでいるベティと姉のアニエスが,どうして池の向こうにある古いお城をお化け屋敷として怖がるのかが理解できないが,とにかくそういう設定になっている。屋内の映像は暗い。でもその淡い間接照明がヨーロッパを感じさせる。ベティや母親の服装はシンプルながら洗練されていて,さすがはフランス映画だ。-------------さらに言うならば,ベティが自傷癖のある青年イヴォンをかくまうので,ベティの夜出歩くことが多くなる。この風景がまた暗い。けれども絶妙な明度に調節してあって,ギリギリストーリーは追える。結果的に,学校でのある事件がきっかけでベティは大きく成長する。夜は暗いが怖い場所ではなかった。怖ろしいのは同じ人間ということだろうか?ラストシーンで家族は再度1つになるが,根本の問題は1つも解決しているように思えない。結局少女は大人にならざるを得ないのだろう。傑作ではないかも知れないが,心にゆっくり染み入る感じの映画だ。
2009.11.28
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演劇に人生をかける女性たちを描いた恩田陸の作品を読んだ。○ストーリー伝説的プロデューサーの芹沢が都心の新劇場のこけら落としとして女性2人を主演にした舞台をかける。女優たちの話題はその舞台のオーディションの噂で持ちきりだった。演劇界の若きサラブレッドとも言われる東響子も,その招待を待望している1人だった。だが響子の前に立ちはだかったのは,演劇経験のほとんど無い無名の少女だった。名声とも栄光とも異なるある境地を目指して,2人の少女が激突する。-------------恩田陸の作品で,舞台演劇をテーマにしている,と聞くと,「またかよ」と思う人もいると思う。僕自身も,先に「中庭の出来事」と「猫と針」を読んでいたので,まったく同じ先入観を持ってしまった。2作品とも,舞台劇の状況とミステリーの構成を,少しメタな視点でブレンドした佳作だとは思う。けれどもどこか舞台劇の祝祭感覚に酔ってしまっている様な印象があり,少し入っていけなかった。この「チョコレート・コスモス」は2作品より以前に刊行されているので,僕の読んだ順番が例外的なのかも知れないが,結果的にはこれが大正解だった。これはミステリーでもメタフィジカルでもない。純粋に演劇をテーマにしたエンターテイメント小説として楽しめる。-------------恩田陸にしては珍しく(と思う),事前にリサーチを行っていることがうかがえる。脚本が書けない悩み,オーディションの難しさ,売れない俳優の練習,有名俳優の悩み,舞台裏の空気,など,うまく作品に再現している。さらにオーディションの舞台で,「金の林檎」,「開いた窓」,「欲望というの名の列車」など,実在する古典ないしインスパイアされた演劇を実演させる,など,テーマに忠実に物語を構成しようとする強い意志が感じられる。-------------この作品は,いつもの恩田陸以上にキャラクターの小説だ。女優も様々なタイプが登場して楽しませる。主人公の東響子は両親とも俳優で子役出身,20才で既に実力,カリスマを備えた存在だ。それ以外に,オーディションに参加するのが,アイドル出身で女優として伸び盛りの安積あおい,大ベテランの元映画スターでもある徳子,響子の従姉で実力派映画女優の宗像葉月,そして未知の可能性を秘めた新人の佐々木飛鳥だ。1次,2次のオーディションともに,女優の個性の差を表現するために,同じ舞台のシーンが,ほぼ人数分繰り返される。それが毎回見事に1人1人異なる演技をしてみせる,というのは小説だからか?それとも恩田陸の描写力が優れているからだろうか?女優の演技だけでなく,演出にも個性が出ていて,まざまざとその舞台がスポットライトを浴びて目前に再現されているような気がした。東響子というキャラクターは,最近の恩田陸作品では珍しく,悩み,成長するという人物。恵まれている育ちなのにそれを気にかけない,ということではなく,その逆コンプレックスゆえにより精進する,というカンジかな?現代の主人公像としては理想的な存在だ。-------------最後まで謎の存在だったのが,もう1人の主人公の佐々木飛鳥だった。天才女優の可能性を秘めていながら,自分の意思が希薄,という難しい役どころだ。小説の中のツールとしては有効なんだろうけど,どうしても得体が知れない。恩田陸自身がこのキャラの扱いに困ったのか,「そろそろ佐々木飛鳥について語ろう」で始まる章の唐突さは,まるで別人が執筆したようだった。なんで自然に物語として彼女の生い立ちを紹介できなかったのだろうか?せっかく多くの女優を生き生きと描いていながら,東響子の領域に到達できたのが,カラッポの天才・飛鳥だけ,というのは物語としてやはり残念だ。舞台の上の飛鳥はいいのだけれど,それ以外が場面がどれも不自然というのが,この作品のすごく残念だけどブンガクとしては致命的な欠点だと思う。それでも読んでいて,何回も鳥肌が立った。エンターテイメントとしては完成品だと思う。
2009.11.27
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マイケル・ジャクソンの映画『This is It』が会社の女性の間でブームだ。2週間の期間限定上映が延長され4週間となったものの,今週金曜日の27日が最終日なので,「行った?」「2回目行こうかなあ?」「最前列しか空いてない」などと話し合っている。DVDの発売予定があるから,とも言われているが,期間限定の映画上映はコンサートの雰囲気に近いので,追悼映画の上映方法としては適しているのではないかと思っている。僕も世代的にはピッタリで好きな歌手ではあるが,足を運ぶ予定は無い。僕の好きなマイケル・ジャクソンは『Wiz』のスケアクロウ役かなあ。超マイナーで古いけど。
2009.11.26
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大ベストセラーとなった村上春樹の最新作の第1部を読んだ。○ストーリー小説家を目指している塾講師の大吾は,知り合いの編集者に頼まれ,不思議な少女ふかえりの書いた『空気さなぎ』と言う作品を書き直し,文学の新人賞に受賞させる。資産家の老女と共に闇の死刑執行を行っている青豆は,ある行動を取ったことにより,自分の周りの世界に変化が起きてしまった事を知る。2人の世界は徐々に緊張感をはらみ始める。-----------タイトルの通り1984年を舞台にしているが,村上春樹の翻訳文のような硬質な文章にかかると,国も時代も超越してしまうため,1984年らしさはあまり感じられない。とは言え,ジョージ・オーウェル作の「1984」に登場する”ビッグ・ブラザー”への対比として,「1Q84」には”リトル・ピープル”という存在が登場する。もっとも第1部を読んだ限りでは,”リトル・ピープル”が〈悪〉を象徴しているのか,それとも単純に中立的に〈触れていはいけないチカラ〉を象徴しているのかはまだ分からなかった。孤独な人物のモノローグで語られることの多い村上春樹作品の中で,男女2人の視点で交互に語られるという手法は珍しい。物語の構成や内容は,現実と非現実の境界のゆらぎ,共生から支配への変貌,「他人を損なうモノ」への抵抗,など村上春樹の長編小説に共通するテーマが感じられ,大きなスケールの作品となる予感を与える。「第1部」でも「前編」でもなく「Book 1」となっているので,果たしてこの物語がどこまで続くのかは分からないが,読み返しも含めて長い間楽しみたいと思う。-----------20代後半の男性・大吾と女性・青豆は,少年少女時代に会ったことがあるらしい。”教団”や”リトル・ピープル”と言ったキーワードは徐々に,2人を再会させる方向に進めているように思える。一方で2人の生きている世界は「1984」と「1Q84」に分かれてしまっているらしい。それぞれ大きな悲しみと孤独を抱えたムラカミ作品の2人は,日本だけでなく世界的に共感を呼ぶ主人公たり得ると思う。今後の2人の運命はとても気になる。とは言え,個人的には村上春樹の過去の主人公の方が好みだ。彼らは多かれ少なかれ明確な欠点や欠落を持っていたが,今回の2人は職を持ち,一定の収入があり,体格も良く,さらには他人に無い特殊技能を持っている。さらに言うならば,男女生活の相手にも不自由をしていない。別に小説の主人公にコンプレックスを抱えた人物を求めているワケではないが,少しこれまでの作品との変化もあり,もう1つ入り込めていない。-----------この作品で一番光っている登場人物は,大吾のパートに登場し,「空気さなぎ」の物語を語り始めた少女・ふかえりだろう。変わった生い立ちを持ち,変わったしゃべり方をし,変わった作品を語る17才の美少女だ。村上春樹作品では,若い女性が巫女のような役柄を務め,主人公の冒険を手助けする,というパターンがある。今回のふかえりも,神がかった部分があり,十分にその資格がありそうだ。-----------この作品では,村上春樹作品の新しいテーマである,宗教とカルトの色が濃い。当初は大吾のパートのみにその色が見えていたが,第1部の終盤に差し掛かり青豆のパートにもそれが見えてきた。村上春樹は,オウム真理教の信者と被害者へのインタビューをノンフィクション作品として発表している。その経験にもとづいた深みのある展開が予想され期待は膨らむ。
2009.11.25
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パズラー型ミステリーの旗手,西澤保彦の短編集を読んだ。○ストーリー彼女をもてあそんだ憎き男を殺す--僕にそれを持ちかけてきたのはクロイシだった。だがクロイシがホテルで死体として発見されたとき,僕の中に怖ろしい疑惑が起き始める。-----------”何事も極端まで進めないと気がすまない”,それが僕が西澤保彦に対して持っている印象だ。デビュー当時のSFとミステリーの統合,「匠千暁シリーズ」の対話ロジックミステリー,その後も自然食健康法,レスビアン,嫁姑の確執など,とことんまであるテーマを突き進め,ミステリー作品に仕上げている。ガチガチなミステリー短編集だった「パズラー」まではいかないものの,この作品はかなり本格ミステリーを意識している。最近の西澤作品に見られる登場人物や設定の極端さ,ブラックさは薄まり,読みやすい作品となっている。とは言え,初めての人には嫌悪感を感じさせるくらい刺激的かもしれないが。-----------各編について簡単に述べる。「ぼくが彼女にしたこと」:偶然街で出会ったあこがれの女性は,中年の男性と関係を続けていた。その男性を消すために僕がしたこととは?・・・自分でも分からないのに恥知らずな行動を取ってしまう主人公は,かなりイタイ人だが,中学生くらいの男子ってこれくらいやりかねない怖さがある。だが間違いなくもっと不気味で怖いのは彼があこがれる女性。「迷い込んだ死神」:山の中で死のうと思っていた男が迷い込んだのは豪華な別荘だった。そこで出会った不思議な一家の正体とは?・・・ブラックな味わいなのだが,主人公がフツーの人なので読みやすい。「未開封」:連続殺人事件の被害者に共通するのは〈静香〉という名前だった。・・・”未開封”から受けたイメージを人間にまで当てはめてしまうことから成立している短編だ。その感覚がすでにフェティシズムで,西澤保彦の異常性が目立つ作品だ。「死に損」:友人の披露宴に出席するために故郷を訪れた女性が殺害された。容疑者は拘留されたが,事件のきっかけが分からない。だが明らかになってきた残酷な過去は・・・ディテールへの不必要なこだわり,ユーモアなの判断に苦しむ登場人物たちの極端な行動,と欠点が目立つ短編でありながら,ラストの意外性のおかげで面白いものに仕上がっている。「九のつく歳」:39才になった私は,街を離れようと決心をする。だが訪ねてきた刑事は私のことをすべて知っていた。そこから明らかになった事件の真実とは?・・・”どうしてそれが分かるのか?”という謎が徐々に明らかになり,さらに事件が,という展開は楽しめる。結末はやや投げやりな印象。「動機、そして沈黙」:長患いだった母親の葬式を終えた妻をねぎらう霧島刑事は,時効の迫る〈平成の切り裂きジャック事件〉について考える。眠れないまま夫婦で事件について語り合ううちに,ある新しいことに気付き,そして・・・中編の長さがあり読み応えがある。同じ短編集でやや似たような設定の作品があるのは良くなく,損をしている。だが西澤作品らしいロジックの積み上げ,徐々に見えてくる人間の怖さが満喫でき,短編集のタイトルになった理由に納得が行く。間違いなくベスト作品だ。
2009.11.24
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この3連休は少しずつご近所に出かけ,2,000円ぐらいの買い物をし,まるで中学生のようなつつましい生活を送っていた。今日なんて午前中に図書館に行き,帰りがけに「おかしのまちおか」に寄り,昼は録画した映画を観て,午後は読書で過ごす,という実に清い一日だった。それだけでなく,この3日間はお酒を絶っている。と言うのは春に行った健康診断で肝機能で再検査の烙印を押されてしまったからだ。火曜日の朝に検査,と言っても採血をするだけだが,があるので,それまでのガマンだ。------------ケーブルテレビとHDDの組合せは,ちょっと観たいと思っていた映画を録画するには最適だ。おかげで毎週5本くらい映画が貯まっていき,まるで仕事のように観ている,という不思議な状況に陥っている。ただ下らない作品も,重苦しい作品もあり,全部について感想を書くことは避けている。今日観終わったのは去年公開された日本映画だが,驚くほどハードな現代もので,少し考え込んでしまった。「ねんきんおしらせ便」も来たところだし,引退したら毎日こんな生活なんだろうか?と最近考えてしまう。
2009.11.23
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連休の中日なので,いつものパターンに従いお出かけをした。目指すは上野の西洋美術館で開催されている『古代ローマ帝国の遺産展』だ。雨がぱらつく可能性もあると言う予報なので,新しい折りたたみ傘を持っていった。西洋美術館は何しろ駅から近い。いつもはロダンの彫刻の前を素通りしてからてくてくと歩くのだが,今回は横断歩道を渡ってすぐだ。また最近の展覧会には珍しく,全く並ばずに入場できたので,気持ちの切り替えが済んでいない間に始まってしまったような印象だ。------------〔第1章 帝国の誕生〕いきなり目の前に飛び込んできたのは初代皇帝アウグストゥスの胸像だ。しかもいくつもある。解説によると一定の様式の胸像を帝国全土に設立することも,帝国を成り立たせる方策の1つだったとのこと。美術品を通じて,ローマ帝国の興りと治世のシステムが理解できる,というのはなかなか面白い体験だった。デッサンの授業の石膏像で有名なアグリッパの胸像もあったが,アウグストゥスと比べると小ぶりで,美術室での迫力は全く感じられなかった。〔第2章 帝国とその機構〕その次のパートは,ローマ帝国の文化を伝えつつも,食器,分銅,ビン,燭台など生活のありさまを伝えるものが多かった。表現が難しいのだけど,ローマ時代の生活品は富貴階級が使っていたものであっても,どこか利便性が勝っていて味気ない気がする。〔第3章 帝国の富〕このパートはポンペイからの遺構品を中心にまとめられている。今回の展覧会の副タイトルに『栄光の都ローマと悲劇の街ポンペイ』があり,なぜポンペイなの?という素朴な疑問があった。これはアウグストゥスを中心とした”初期ローマ帝国”というくくりで捉えれば同時代ということでつながる,ということが分かった。「長い市民戦争が終わり,人々は平和な時代と繁栄を楽しみました」という真っ最中にベスビオ火山の灰に埋まり,そのまま18世紀までタイムカプセルとして残った,ということらしい。うーん,ナットク。石とガラスを用いた噴水のモザイクの鮮やかな発色も素晴らしかったが,一方で水道のバルブなど,今とほとんど遜色が無い技術品も興味深かった。〔『庭園の風景』〕ひょっとしたら今回の展覧会で一番印象深かったのが,CGで再現されたポンペイの富貴階級の家,『庭園の風景』かも知れない。ところどころ画像がテクスチャーのままで歪んで見えるが,それでも遺跡,発掘された壁画,遺物,それらを全て統合して製作された3DCGの画像は圧巻だった。------------さて展示物とは別に,イベントとしての技術的な部分を述べる。まず最初に書いたとおり珍しく混んでいない展覧会だったので,ゆったりと鑑賞することができた。もっともそのため,人の誘導の技術は確認ができなかった。展示品は気持ちゆったり目に配置してあり,ぐるっと周囲を回れる作品もいくつかあり,多少の回遊性を持たせてあった。ただし展示のくくりが大きいので,やや各パートのテーマが絞りきれていない印象だった。東京都美術館と同様に,途中に階段があり,嫌な予感がしたが,それ以降はポンペイの壁画であり,テーマや動線に混乱をきたさないで出口まで動くことができた。終わってみれば,なかなかの満足度だった。人気がもう1つなのは主催が東○新聞だからだろうか?もっと評価が高くてもいいかも知れない。------------最近のイベントでは珍しく,企画展のチケットで常設展も入場できるというので,さっと周ってきた。意外や意外,なかなかのレベルの作品が揃っていて,感心した。やはり地方の県立美術館とは比較にならない。さすがだ。
2009.11.22
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僕の服の半数以上を占めていると思われるユニ○ロが,大々的にPRをしていた創業60周年の感謝セールに行った。大人気のヒートテックだが,去年は買いそびれてしまって悔しい思いをした。今年は1着は買ったが,もう数着あってもいいと思っていたところ,それを600円で先着200名に販売すると言う。------------朝6時からセールを開始と店側は強気の商売だが,一方で9時までダラダラ並ばなくていい,という気楽さもあって,5時に起きて隣町の店舗に行ってみた。すると僕が到着した5時半の段階で,店舗の入っている長細いビルの長辺と短辺を覆ってしまうほどの行列が出来ていた。間もなく5時45分に早めに開店され,行列が動き出したものの,入場制限をしているので結局6時15分までは入れなかった。並ぶ前にざっと数えたら300番目程度だったので,当然先着200名の整理券はもらえなかった。それでも早起きして並んだ,という体験が「買わないと損」というメンタルを創り上げしまうから不思議だ。去年に売り切れを体験しているので,ヒートテックは定価でも買ってしまう。6時過ぎても行列に向けて,どんどん人が走ってくる状況に,ユニ○ロの大人気を思い知らされた。------------帰りがけに,セ○ン・イレ○ンに寄って,『JIN 仁』の「黒糖・黒米いなり」を探した。これは2つ残っていたのを両方とも買い占めた。ちょっとしてやったり,という気分になれた。
2009.11.21
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去年2008年公開でスピルバーグ製作のサスペンス映画を観た。○ストーリー冴えないサラリーマンのジェリーは,テロリストの容疑でFBIに逮捕される。携帯電話にかかってきた謎の女性に従い逃げ出したジェリーは,同じように謎の女性に操られているレイチェルと共に,FBIの追っ手から逃げ続ける。あらゆる情報機器を操り,ジェリーとレイチェルを的確にサポートする女性は,2人を一体どこに導こうとするのか?------------古くはヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』を,新しくはウィル・スミス主演の『エネミー・オブ・アメリカ』を思いおこさせる映画だ。平凡な主人公が,ある時突然トラブルに巻き込まれ,事件の容疑者として逃げ回る羽目になる。やがて主人公は逃げるだけでなく,事件を解決するために立ち上がることにする。・・・と,全体の流れはある意味,サスペンス物語の王道だと言える。この映画の新しさは,主人公も彼を追うFBI側も,携帯電話など現存するIT機器をフル活用して走り回るということだ。特に主人公側は謎の女性のフルサポートを得ているので,携帯を落としてもすぐ隣に座っている人の携帯を借りれば指示が受けられる。この辺り,回線をシャットできるPCと異なり,どこにいてもつながってしまう携帯はコワイ。それ以外はひょっとしたら目新しさは無いかも知れない。けれども待ったなしのアクション,合間に主人公たちの人物描写をキチンと入れて観客の得ておく周到さなど,おさえるポイントをキチンとおさえている,という安心感がある。イジワルを言えば,そのソツの無さが仇になって,残るものが少ない,と言うことが挙げられる。作品はもっと突出した部分があった方が,印象に残るものだから。------------ソツが無いとは言え,それは映画の作り方の話だ。設定が設定なので,ツッコミどころは満載だ。その辺りをもっと前面に出せば,将来カルト的な人気が出る可能性もゼロではない。まずジェリーたちをサポートする女性だが,「今から30秒後に○○しなさい」とか「15秒で○○しなさい」とか,指示がいつもギリギリでトートツだ。自分が優秀でミスが無いからと言って,他人への指示がここまでタイトってのはいけないだろう。ジェリーは最初は指示に間に合わなかったが,すぐタイミング良く動くようになる。成長スピードが速い。次に,シングルマザーのレイチェルの存在感が希薄だ。芯の強そうな女優で,この役にはピッタリだと思うのだけど,元の脚本のために損をしている気がした。終盤明らかになるが,黒幕側がジェリーを巻き込むには,誰もが納得する理由がある,一方レイチェルを巻き込んだ理由が最後まで良く分からなかった。ところところで話の展開が苦しい。キッチリした指示を出す黒幕側なので,ジェリーたちの動かし方もロジカルか,と言うとそんなことは無い。ジェリーたちにショットガン2丁を与えて,あるものを強奪させるのだが,それってホントに必要なの?ショットガンが調達できるなら,”あるもの”の代わりになるものも調達できるだろ?なんだか黒幕,頭の回転は早いけど,イマイチ頭が良くないような気がする。------------先日『ウォーゲーム:デッド・コード』を観たばかりなので,いろいろと比較してしまった。歩行者にも追いつけないパトカーが出てきた『ウォーゲーム』よりは,『イーグル・アイ』の方がスピード感だけは10倍あった。
2009.11.20
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デビュー作から読んでいるマンガ家・高橋葉介の「夢幻紳士シリーズ」の最新刊を読んだ。○ストーリー青年・夢幻魔実也は,ある男の屋敷を訪ねる。かつてここには美しい庭と美しい奥方がいたが,彼女が病に倒れ衰弱するのと合わせて屋敷も荒廃の色を見せていた。魔実也は彼女の死の責任を男に追及するが,男はまがまがしい本性を表し,彼に襲い掛かってきた・・・その時!------------早川書房の『ミステリマガジン』で連載され,完結した早川版「夢幻紳士」の3部作は,「夢幻紳士」の長編という新しい試みで,これまででも最高傑作だと思っている。1年のブランクを置いて同マガジンで発表された〔回帰篇〕は,過去に発表された「夢幻紳士 〔怪奇編〕」のいくつかを書き直す,という変わったコンセプトだ。シリーズとしては伝統的な短編読み切りの怪奇譚だが,画風というか絵のタッチは最近の木炭スケッチトーンも使うものであり,新旧のカラーが混ざった作品になっている。版権の関係などは全く分からないが,なぜこうしたセルフリメイクが必要だったのかは不明だ。早川3部作のレベルの高さから考えると,ネタに詰まったというような状況ではないのは間違いない。------------よく言及される複数の「夢幻紳士シリーズ」の区別についてだが,〔回帰篇〕の執筆により,〔怪奇編〕と早川3部作は同一の夢幻魔実也だ,という印象が強まった。個人的には,〔マンガ少年版〕の少年探偵,〔冒険活劇篇〕の少年探偵&冒険家,〔怪奇編〕以降の青年探偵の3パターンと考えるのがしっくりくる。けれども古いファンの共通見解だと思うが,一番好きなのは,30年近く前に発表されたオリジナルの〔マンガ少年版〕だ。------------各編についてオリジナルとの差を中心に述べる。「蝙蝠」:ダークファンタジー風。オリジナルは〔怪奇編〕(徳間書店版,以下同)に未収録のため未読。唯一の初物となった。「首屋敷」:ブラックな味わい。〔怪奇編#1〕に収録。画風,タッチなどが大きく異なる。ストーリーこそ同一だが,ごく一部でセリフの順序などが異なる。おそらくリズム感を保つためだろう。「沼」:伝統的ホラー。〔怪奇編#1〕に収録。一部のシーンとセリフをカットし,テンポが良くなっている。ラストのシーンは,オリジナルの方がいろいろな意味で良いと思う。「吸血鬼」:モダンホラー。〔怪奇編#1〕に収録。冒頭の数ページとラストの1ページが割愛されているが,それ以外はオリジナル通り。だが特にラスト1ページの展開の有無で,結末が全く異なっている。これはオリジナルが圧倒的に優れている。「蛇」:ブラックだが,男性には格別の恐怖感あり。〔怪奇編#3〕に収録。オリジナルに忠実なので,その分画風の変化が目立つ。「夢魔」:「蝙蝠」と似たような物語だが,ずっと前向きな雰囲気で終わる。〔怪奇編#2〕に収録。オリジナルに忠実で,ラストシーンは同一。テンポやアングルの良さなどでリメイク版に軍配。「木精」:悲恋ファンタジーの名作。〔怪奇編#2〕に収録。一部の構成を変更して,テンポを速めている。木の精の美しさははるかにリメイク版のぼかしタッチが上だ。「鬼」:伝統的なホラー。〔怪奇編#3〕に収録。オリジナルに忠実。人体損壊のシーンが和らいだのと,鬼から女への変身を巧みに描いているのでリメイク版が良いと思う。「蜘蛛」:モダンホラー。〔怪奇編#2〕に収録。オリジナルにだいぶ改変を加えたため魅力が半減している。ラストの展開も大人のテイストで良かったのだが。「夜会」:〔怪奇編〕のラスト(当時)を飾るモダンホラーで,絵もストーリーも素晴らしい。〔怪奇編#3〕に収録。ほぼオリジナルだが,冒頭のシーンが割愛されている。甲乙つけ難い。「花火」:『チゴイネルワイゼン』にインスパイアされたホラー。〔怪奇編#3〕に収録。オリジナルにとても忠実で,テンポなどはオリジナルに軍配。花火が明るすぎるような・・・「幽霊船」:〔怪奇編〕の冒頭作品となった伝統的なホラー。〔怪奇編#1〕に収録。オリジナルから構成を変更し,結末が変更されている。物語のまとまりとしては,オリジナルがはるかに優れている。ただし,今回は〔回帰篇〕のラストという特殊な事情があることを勘案すべきだろう。
2009.11.19
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スポーツ根性ドラマのパロディ映画を観た。○ストーリー全力高校の野球部はいつも1回戦敗退のため,廃部を命じられる。逆境になると燃える男・不屈闘志は,野球部を存続するために,校長に甲子園出場を約束する。だがその道は険しいのだった。-------------原作は「炎の転校生」の島本和彦で,やたらハイテンションなキャラクターばかり登場する。映画版は,島本作品のおバカな雰囲気を見事に映像化している。おバカな一方で,映像も音楽もCGも,かなり気合を入れて作ってあるので,シーンによっては『ROOKIES』と見分けがつかない。ひょっとしたら,どちらも同じような内容なのかも知れない,とさえ思ってしまう。アホらしいけど,気持ちよく笑える。ギャグをかますならば,その分,残りの部分をマジメに作らないといけない,という見本のような作品だ。-------------この映画が魅力的なのは,ハイテンションな主人公をそのまま演じ,それでいてすこしもしつこくない,という絶妙な演技を見せてくれた玉山鉄二のおかげだろう。ソース顔なのでシリアスな役が多いようだが,ギャグシーンを楽しそうに演じているところを観ると,3枚目も向いているような気がする。校長に藤岡弘、,監督にココリコの田中直樹と,イメージピッタリな俳優を持ってくるあたり,玉山鉄二の起用を含めて,キャスティングの妙だと思う。グッジョブ。-------------マネージャーの堀北真希も可愛いが,本人はこの映画への出演をどう思っているのだろう?後悔してたりして・・・ちょっと知りたい。
2009.11.18
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西澤保彦のデビュー作からのシリーズ「匠千暁シリーズ」の最新作を読んだ。○ストーリー女子高生が自宅で死体で発見される。そのそばには同じ殺害方法で警ら中の若手巡査が殺されていた。最初は単純な強盗殺人だと思われた事件だったが,次々に不可解な謎が判明する。-------------「匠千暁(タック)シリーズ」は,4人の主人公たちが(もっぱら飲みながら)事件について討論をしながら解決をする,というパターンのシリーズで,おそらく西澤保彦の作品の中で一番人気のあるシリーズだと思う。難攻不落と思われた謎を,4人のロジック合戦で崩していくのも面白いし,男2人,女2人のキャラクターもなかなか特徴的で楽しめる。問題は,この4人が大学で出会って,大きな事件が起きて,社会人になって,という時系列的な流れがあり,以前の作品を読んでいないと理解できない部分が出てくる,ということだろう。「スコッチ・ゲーム」と「依存」の2作は,それぞれタカチとタックの過去との決別的な位置付けなので,それ以降の作品ではたびたび言及される。そのあたりを押さえておかないと楽しめない。-------------さて「身代わり」では,前半こそ辺見先輩とウサコの2人だけだが,後半にはタックとタカチも合流し,待望の4人勢ぞろいがだいぶ久しぶりに実現された。ファンにとってはこのシーンだけでも涙がじんわりと出てくる。驚くのがタカチこと千帆が甲斐甲斐しくタックの世話を焼いていることで,一見まるで別人のようだ。(ホントは今でも大迫力)4人以外でも,コイケ,平塚刑事,七瀬刑事,など,「匠千暁シリーズ」の重要キャラクターが全て登場しているような様相となっている。テンションの高かった「スコッチ・ゲーム」と「依存」に比べれば,間違いなく読みやすいし,はるかにのどかな雰囲気だ。-------------さてミステリーの部分だが,西澤作品なのだから当たり前なのだけど,見事にキッチリと構築されている。平凡そうに始まって,実は・・・という展開も,うまく抑制されいるカンジで,物語の構成もうまく出来ている。ただラストがあまりにも唐突だった。もう少し再開した4人の話とか,謎解きを七瀬刑事に話して,それが調査される展開とかを期待したのに,4人で謎解きをして,ストンとおしまいってのは,ちょっと肩透かしだ。とは言え,西澤作品はミステリーのロジックよりも,冷徹な人間観察が優れている。今回も謎解きの過程で,驚異的な人格のキャラが登場する。西澤保彦の人間観察が冷徹すぎて引いてしまうこともあるが,昨今の新聞記事を考えれば,現実も負けずにコワイ人格の人が多いようだ。
2009.11.17
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『バットマン ビギンズ』のスピンオフと言った印象の現代アニメ版バットマンを観た。○ストーリー地下道に逃げた悪人を追うバットマンは,脇腹に銃弾を受けてしまう。執事のアルフレッドに助けを求めるバットマンだが,痛みのため過去の経験の幻覚を見る。バットマンことブルース・ウェインは,若い頃”痛みを克服する”ためにインドで修行をしていたのだ。だが本当に痛みを克服することとは・・・-------------念のため書いておくと,『ゴッサムナイト』は『ゴッサム市の騎士』を意味する。”ゴッサム”はバットマンの舞台である架空の大都会で,富と犯罪が集まっている,という設定になっている。バットマンは,その都市の守護天使という役割を担っているワケだ。-------------さて以前も書いたが,スーパーマンとバットマンは,アメコミでしかも同じDCコミックから出版されている。大きく分ければ,スーパーマンが昼と陽の部分を担当し,バットマンは夜と陰の部分を担当している。さすがに現代で映画化するとなると,大人の鑑賞に堪えるバットマンの方が題材としてふさわしいことは,『バットマン ビギンズ』と『ダークナイト』のヒットからも理解できる。この作品は,『バットマン ビギンズ』と同じテーマ,悪と正義の定義,個人が正義を雄行うことの是非,憎しみと罪悪感,などを扱っている。長編映画とは趣が異なるが,新しいバットマン映画のダークなカラーが好きな人には喜ばれると思う。-------------この作品の大きな特徴は,短編アニメ映画集であるということだろう。しかもそれを日本の優秀なプロダクションが製作しており,アメコミのアニメ版ではなく,先に述べたようにテーマとしては哲学的,手法としては実験的,というなかなか歯ごたえのある仕上がりとなっている。ただ1時間15分を,6つの短編で構成しており,それぞれがかなり作風が異なるので,どうしても混乱してしまう。似たようなアニメ版スピンオフで『マトリックス』の外伝『アニマトリックス』というのがあったが,『ゴッサムナイト』はそちらほどぶっ飛んではおらず,一応バットマンのフォーマットに従っているのは安心だった。とは言え,フォーマットもストーリーも,大きく一般ウケする作品ではないだろう。-------------各編について簡単に述べる。『俺たちのスゴい話』:ゴッサム市の片隅でスケートボードで遊ぶ少年たちは,自分が目撃したバットマンの話を自慢し合う。ところがそこに・・・最初はデフォルメに驚くが,徐々に圧倒的な表現力に釘付けになる。傑作だ。『クロスファイア』:収容所に犯罪者を護送する役目を与えられた刑事たちは,バットマンの雑用係になったような気がして面白くない。だがギャングの抗争のど真ん中に入り込んでしまった2人の目の前に・・・いきなりアメリカ製アニメの画風となり戸惑う。ストーリーは単純だがチカラ強い。『フィールドテスト』:弾道を曲げることで身を守る装備をテストしたバットマンだが,そのために一般の人が負傷してしまう。・・・ブルースはキラキラ美青年だし,ストーリーも「だから?」という感じ。『闇の中で』:さらわれた聖職者を救うため,ゴッサム市の地下深くにもぐるバットマンが見たものは・・・スタイリッシュな色彩と画像が光る作品。少しストーリーに着いて行けない瞬間あり。『克服できない痛み』:悪人を追う際に,脇腹に銃弾を受けてしまったバットマンは,痛みのため過去の経験の幻覚を見る。・・・一番考えさせられた短編だ。ラストシーンの悲しそうな顔は切ない。(けど,手当てが先だろう!)『デッドショット』:バットマンの盟友ゴードン警部補が,暗殺者デッドショットに狙われる。果たして彼の運命は・・・再びアメリカらしい画風。バットマン対怪人という伝統的な展開。全体の構成とか順番とかにもう少し気を使ってくれても良かったのではないだろうか?『俺たちの・・・』は真ん中に,『克服できない・・・』はラストに持ってくるべきだと思う。
2009.11.16
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「黒い家」の貴志祐介の長編を読んだ。○ストーリー「呪力」ことESPが一部の人にあることが判明し,かつての文明は大混乱に陥り崩壊した。それから1,000年,少女・早紀は,注連縄(しめなわ)に囲まれた村で育ち,他の友人たちと同じように呪力を身に付ける。優しい両親,厳しい学校の授業,注連縄の外への課外授業。だが偶然,1,000年の歴史の真実を知ってしまった早紀たちは,ユートピアの枠組みからはみ出してしまう。-------------いわゆるディストピア(反ユートピア)テーマの作品であることは知っていたが,独特の”肌触り”があり,とても驚いた。ディストピア作品と,「地球の長い午後」など破滅的な進化をテーマにした作品の合体とでも言ったらいいのだろうか?さらにその全体を,日本の地名,和風なテイストが覆っており,とにかく新しい体験だった。これに近い雰囲気は村上龍の「希望の国のエクソダス」だろうか?それなりに秩序だっている日本だが,我々が必要とされていない国,という微妙な距離感を感じさせる将来像を見せてくれている。-------------この作品を読んで思い出したのが,貴志祐介の作品では,登場人物がきちんと考えて行動する,ということだ。それもこれは主人公たちだけでなく,彼らを監視する大人たち,そしてある事故をきっかけで彼らを狩ろうとする”ネズミ”たちにも当てはまる。これって当たり前のようでありながら,小説でも映画でもご都合主義的に追っ手はバカが多い。でも本当の恐怖は,自分と同等の能力を持ったモノに追われることだと思う。逃げても隠れても主人公たちに迫り来る追っ手,このあたりは貴志祐介作品に共通したモチーフで,懐かしく思いつつ,ぞっとした。-------------物語は主人公・早紀が,20年前の出来事を回想する,という形式で始まる。所々の表現で,いつか悲劇が起きるということが示唆されている。上巻の中盤から大活劇となるので,これが悲劇を呼ぶものだと思っていた。ところが悲劇は上巻の終盤に意外な形で訪れる。それまでの世界観をくつがえしかねない異常な状況が描かれ,読者は大混乱をしてしまう。だが何か大きな秘密が明かされつつあることは感じられ,ぐっと引き込まれる。下巻の予約を図書館に入れているが,順番待ちでまだしばらくお預けをくらいそうだ。それまで僕の中の早紀は○○○の呪力で○○○しているままだ。
2009.11.15
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『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』など良質の青春コメディ映画を撮っている監督の空港コメディ映画を観た。○ストーリー国際線への勤務が初めてとなるCAの斉藤,操縦士昇格への実地訓練の最終段階にある副操縦士の鈴木,毎日の仕事に疲れ始めているグランドスタッフの木村,新米整備士の中村,彼らの小さな失敗と大きな努力で,ホノルル行きNH1970便は定刻に離陸する。だがしばらくすると意外な事が分かり,機長は緊急事態を宣言する。-------------とても評判のいい映画だ。もちろん矢口史靖(やぐちしのぶ)監督は,人と違ったテーマを見つけること,綿密な調査をすること,暖かいドラマを語ること,で定評がある。けれども”部活青春コメディ”という現代日本映画としては既に確立されているジャンルだった『ウォーターボーイズ』などと比べ,この映画ははるかに挑戦的だ。1機の旅客機を飛ばすということは,驚くような綿密なプロセスが必要だ。地方の高校の部活ならば,物語の関係で省略したりデフォルメしたりしてもゆるされたことが,実際の企業活動と関連する作業の多くは笑い話に出来ない。そうした中で,絶妙なバランスを保ちながら,この映画は,笑い,感動,スリルまで提供してくれる。たぶん,地道で時間のかかる調査とチェック作業があったのだろうけど,映画の前面には一切そうしたことは出さずに,さらりと笑いのコーティングに包んで仕上げている。僕を含めて映画ファンは日本映画に厳しいが,この映画ならば間違いなくオススメできる。-------------この映画のポスターは,田辺誠一と綾瀬はるかが並んでいるものだった。まあ,お約束どおり,2人のロマンスもあるのかと思ったが,物語では2人が一緒に登場するシーンが数分,言葉を交わすのも1回と,全くそれ以上の発展は無い。とにかくANA(NH)の全面協力を元に,1機の飛行機を飛ばす,という業務に関わる多くの人々の姿を描いている。多分,アメリカの有名なパニック映画よりももっとキチンと航空業界に向き合って物語を構築していると思う。一応は航空関連の末席に連なる仕事をしている僕から観ても,いろいろと裏ネタを盛り込んでいるし,コミカルな表情とかアクション意外はおかしい部分は無かったように思う。コ・パイの田辺誠一とCAの綾瀬はるか以外にも,グランドの田畑智子,整備員の森岡龍などが,成長する若手として観客の共感を呼ぶ。彼らが悩み,でもそれを乗り越えていく姿が,観ていて清々しい勇気を与えてくれる。ただそれ以外に,クセのある中年として多くの俳優が登場し,ある人は厳しく,ある人はいい加減に,でも危機に際してはどの人も毅然と職務を遂行する,という姿が,本当にカッコいい。-------------こうした映画を観ると,日本映画も悪くないじゃない,と思うし,さらには,日本人って悪くないかも?,とまで思わせてくれる。それってなかなかのことだと思う。
2009.11.14
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羽田空港で朝一番から打合わせがあった。旅客ターミナルならば川崎に出てから京急で行くのだが,会合の場所が裏方側なのでモノレールでしか行けない。ひさしぶりに浜松町に出ることにした。通勤の混雑を嫌って朝6時半に電車に乗ると,当たり前だがどこかで時間をつぶさなければならない。そこで新橋と浜松町の間にある汐留イタリア街を通ってみることにした。-------------新橋駅の裏側,つまりゆりかもめ側を南に向けて歩く。少し先には汐留の高層ビル街が見えているが,再開発の街の特徴で,スケール感が大きくて歩きにくい。街区のブロックが大きい,信号待ちが長い,という他の場所と同じ欠点に加え,ここの場合はJRの線路が蛇行していて,道路と2回も交差している。すると急に街の雰囲気が変わる。建物の外壁が石張り,ないし石張り風で落ち着いたアースカラーになる。さらにその外装が2階の高さで色のトーンを変えている。さらに歩道が赤系統の石畳になっていて明るい。ビルやマンションの名前まで,「グランディート」とか「エディフィツィオ」とかイタリア語になっていて,ちょっと読めないものが多い。なかなかトータルコーディネートが出来ている。三角形の広場があって,その中央付近に円形になるように石が埋めてあった。最初は噴水かと思ったら,昔の新橋操車場の転車台のモニュメントだそうだ。まったくイタリアとは関係ないのだけど,こうした”土地の記憶”を残そうとする考え方は好きだ。-------------残念ながら,早朝ということも邪魔して,まったく店が開いておらず人の姿が無い。わずかに○井ガーデンホテルのところだけ,動きがあった。だから僕が受けた印象は正しくないのかも知れないが,せっかくの美しい景観も,楽しい体験は約束してくれないような気がした。なにしろ街の中核がJRAの場外馬券売り場だ。どう考えたって,楽しい時間をぶち壊してしまうような人々がいそうだ。また細かいことを言えば,イタリアらしさを追求していながら,結局こぎれいさはあるものの,あの狭っ苦しく活発な雰囲気が少しも再現されていない。見に行きたくなる店もアーケードもないので,ショッピングを楽しむことも出来なさそうだ。つまるところ,誰を呼び寄せたいのかが伝わってこない。-------------都市の大型再開発って難しいようで,都内にはいくつもある割には,行ってみるとガッカリするものも多い。広告戦略のおかげで,どこもしばらくはにぎわうけど,その後も継続して人が行く,同じ人がリピートして行く,という場所は限られている気がする。僕の場合は,丸の内再開発とミッドタウンは何回行っても気持ちが浮き立つ気がするな。
2009.11.13
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「少女海賊ユーリシリーズ」の著者・みおちづるのデビュー作品を読んだ。○ストーリーリュタは砂漠の小さな町・ナシスのパン職人の息子だった。学校を卒業し,家業を継ぐためにつらい修行の毎日を過ごすリュタの前に,大きな街から来た男が現れる。やがてナシスは,男のもたらした新しい技術のおかげで大きく発展をしていく。変わりゆく町がリュタの友人,町の笑いもののトンビの生活をおびやかしているということを知ったとき,リュタは・・・------------僕自身もみおちづるのことを「ユーリシリーズ」の作者として知ったが,「ナシスの塔の物語」の魅力はたった1作で「ユーリ」10巻を超えているかも知れない。この作品がより人に知られ,みおちづるがそれによって記憶に残ることを願ってやまない。ある程度人々に受け入れられるフォーマットを意識したと思われる「ユーリ」と比べ,「ナシスの塔の物語」の世界はぶっきらぼうだ。主人公はパン職人の息子だし,女の子は登場さえもしないし,そもそも舞台は砂漠の小さな町ナシスから動かない。だがこの作品には,作者が時間をかけ,心をこめて書いたことが伝わってくる暖かさ,読者の心を打つ美しさがある。それこそリュタの父親ではないが,ガンコ職人の手による製品のようなピンと筋の通ったところがある。------------この作品の暖かさの証の1つに,最終的に悪人と呼べる人物がほとんど登場しないことが挙げられる。ナシスの町に元からいる人々も,町を発展させようと移住してきた人々も,それぞれの立場で自分の生活を豊かにしようとしており,特別悪意を持った行動を取ってはいない。トンビという半ばホームレスの青年が以前から住み着いていた場所が,町が拡張しようとするところと一致してしまったことで事件が起きる。だがこれは,経済論理から言えば,トンビに立ち退きをせまる人々の主張も分かる。欲にかられた支配者も,復讐にとらわれた男も登場しない。ただ普通の人々の営みの中で小さな町ナシスは徐々に悲劇へと進んでいく。------------この作品に圧倒的なリアリティを与えているのは,人々の生活の営みに対する綿密な描写だろう。主人公リュタの家・パン職人の家の仕事を克明に描くのは当然として,トンビの石選び,石積みの作業の手順,反対にナシスを発展させようとする”歯車屋”の機械改良の努力までも,きちんと描写される。丁寧な調査と描写のおかげで,町の伝統を守ろうとする側も,町を発展させようとする側も,血の通った生きている人間として迫ってくる。上橋菜穂子の「守り人シリーズ」も似たようなリアリティのおかげで,”和製ハイファンタジー”として大人気となった。今のところ知名度には大きな差があるが,ここにも同じ志を持った作品がある,ということを強く主張したい。------------ほめてばかりだとバランスを欠くような気もするが,この作品はそれだけの魅力を持っていると思う。元気をくれるラストシーンをぜひとも体験してもらいたい。
2009.11.12
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疎外感,寂寥感が底辺に流れていた名作「月の裏側」の主人公・塚崎多聞の短編集を読んだ。○ストーリー多聞のフランス人の妻・ジャンヌが家を出てから1年が経った。彼女から多聞に定期的に送られてくるのは,ただの風景写真だった。果たして彼女はどこにいるのか?それとも彼女はもう既にこの世にいないのか?------------冒頭に書いたように,塚崎多聞は別の長編に登場したキャラクターだ。茫洋とした存在感が男性にも女性にも好かれ,思わず自分のことを語りたくなってしまう人物として描かれている。正直,少し憧れてしまう存在だった。この短編集でも多聞の設定はそのままだ。そのためそれほど積極的に行動をしなくても,自然と事件に巻き込まれ,自然と解決の糸口がつかめてしまう。誰もがホームズになれるわけではないので,「ワトソン的な存在でありながら,実は名探偵」というのはなかなかそそられる設定だ。だが,説得力,人物の魅力,知力を発揮してみせるタイミングなど,作品として成立させるにはいくつものハードルがある。恩田陸の塚崎多聞作品は,その条件をクリアしている珍しいシリーズだと思う。------------恩田陸には関根多佳雄という素人探偵が登場する作品群もある。傑作短編集「象と耳鳴り」を中心に,関根多佳雄あるいはその子どもたちが登場している作品がいくつかある。関根作品はシリーズとは呼べるほどつながりがないので”作品群”と呼ぶが,この作品群の空気は,今回の多聞を主人公にした作品と共通するところが多い。ただひじょうに残念なことは,関根多佳雄は元検事,彼の子どもたちは若手の検事,弁護士,ないしそのタマゴという,やたら前向きな設定を背負っていることだ。多聞はなんと初登場の長編で,”あちら側”に行ってしまった経歴がある。その上,中年にさしかかりつつある音楽プロデューサーという設定なので,年令的にも職業的にも,いろいろと動かしやすいキャラクターだというのは,誰もが思うことだろう。そういう意味で,本来は短編の方が得意ではないか,と思われる恩田陸にとっては,塚崎多聞は貴重なキャラクターで,今後も作品が書かれるのではないかと思う。------------各編について簡単に述べる。「木守り男」:知人の放送作家から『コモリ男』という言葉を聞いた多聞は,木の上にしがみついている妖怪のような存在を見る。・・・この作品の中で一番切れ味の悪い短編で,雰囲気でごまかしている気がする。木守り男の存在も,放送作家が関わっていた悪事も,全てあいまいなまま終わっている。”あちら側”もOKな多聞を主人公にした短編だからこそ,この雰囲気もゆるされたのかも知れない。「悪魔を憐れむ歌」:そのデモテープの歌を聞いた人は死に急いでしまう,そんな噂を追いかけて,ある家を訪ねた多聞が経験した怖ろしいこととは?・・・音楽プロデューサーという多聞の職業を活かしている短編だ。どこまで”あちら側”系のホラーなのか分からない短編なのだが,それが魅力の1つになっている。「幻影キネマ」:新人ミュージシャンのプロモーションビデオを撮影するクルーに同行した多聞が,ミュージシャンから告白されたのは,彼が映画に関わると,周りの人が死ぬ,という話だった。・・・この短編あたりから,明らかに路線変更があって,物語は”こちら側”で完結するようになったようだ。どうしても内容が薄いので,テレビドラマを観ているような気がしてしまう。「砂丘ピクニック」:日本の砂丘を訪ねたフランス文学者は,「砂丘が目の前から消えた」と記していた。果たしてその文章は真実なのか?その土地で多聞たちが経験したこととは?・・・不思議な静ひつ感を漂わせた短編だ。多聞と楠巴の推理合戦がピリッと締まっていて素晴らしい。この作品のエッセンスを一番体現している短編ではないだろうか?(「中庭の出来事」の楠巴登場)「夜明けのガスパール」:夜行列車に乗った多聞たちは,それぞれ体験した怪談話をする。だが多聞が披露した話には彼自身が気付いていなかった重要な秘密が隠れていた。・・・どう書いてもネタバレになりそうなのだが,意外性のある短編だった。間違いなくヒネリは効いていた。(「puzzle」の黒田登場)------------さて,実は読んでいる途中で,ひじょうに嫌な気持ちになった。登場人物たちが,大手レコード会社の社員,外交官の娘でエリート官僚,イギリスの貴族の息子,フランスの富豪の娘,と揃いも揃って異常なまでの箔付きの存在だからだ。考えてみると,恩田陸作品の登場人物って,こういうイバリの効いた存在が多い。別に物語を構築するのに,ここまで片寄った存在を集める必要はないんじゃないだろうか?なんだか恩田陸の歪んだコンプレックスを見てしまったようで,一気に熱が醒める追うな気持ちになった。
2009.11.11
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『デスレース2000』のリメイク映画を観た。○ストーリー経済が破綻した近未来のアメリカでは,刑務所も民間企業が運営していた。企業は収益を上げるために,囚人同士を戦わせ,それを放映する。格闘技の次に人気が出てきたのが,数々の障害物の中を走る自動車レース,『デス・レース』だった。無実の罪で収監されたジェンセンは,自由を勝ち取るためにレースに参加することにする。------------オリジナルの『デスレース2000』は,大陸横断のキャノンボールレースの間に,どれだけ人を殺すか?という目的のカーレースを描いた1975年の有名なB級作品だ。1970年代は,ベトナム戦争の影響もあり,『猿の惑星シリーズ』,『ソイレントグリーン』などアンチユートピア的な作品も少しずつ製作されるようになっていた。1981年に『マッドマックス2』が世界的なヒットとなり,”文明が崩壊した未来”のイメージを決定付けるまでは,『デスレース2000』がその役を担っていたとも言える。------------さてB級っぽさやブラックユーモアがただよっていたオリジナル版に比べ,リメイク版『デス・レース』は,俳優も映像も格段に質が向上している。5勝すると自由の身になる,という設定も命がけでレースに挑む人々の姿を納得させる。だが,レースがちまちまと収容所の周りを回っていたり,一応レーシングチームのクルーがいたり,ラスボスが収容所の所長だったり,とフツーのアクション映画になっている。とにかくオリジナルの型破りな存在感には遠く及ばない。------------主人公は,頭のカタチがキレイなアクション俳優のジェイソン・ステイサムだ。アクションにリアリティを持たせる,という意味では素晴らしい俳優だが,もっぱら運転席で逆ハンドルを切っているだけなので,この人である必然性は薄かった。相変わらずのボソボソしゃべりで,何を言っているのか聞き取れない。なぜかレースに参加する車には,せくしぃー美女がナビゲーターとして助手席に座る。大陸横断レースではなくサーキットレースだし,ピットとも無線でつながっているので,ただのデッドウェイトとしか思えない。でも絵的には,ムサい男ばかりよりはるかに魅力的だけど。------------主人公をレースに参加させるのに,ここまでの複雑な策略をしなくてもいいだろう,とか,策略をめぐらしたのは6ヶ月前だから前のドライバーが生きていただろう,とか,なんでヒットマンが収容所にいるの,とか,せくしぃーナビゲータを信用するなよ,とか,所長のセキュリティ感覚どうなってんの,とか,ツッコミどころ満載だ。でもどうせなら,もっとハッチャケ映画に仕立ててもらいたかったなあ。
2009.11.10
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今年から大学生になった甥っ子の大学際に行った。僕が卒業したところに入っているので,かつて通いなれたルートをたどるだけだ。今では入場料も取らないので自由に出入りできるのが新鮮だ。一歩中に入れば,相変わらず渋谷のスクランブル交差点のように混んでいるので,それを避けて抜け道を行く。昔の感覚を思い出して,構内の通路ではなく建物と渡り廊下を伝いぬって目的地に移動する。同じような年配の人もいるが,圧倒的に若い人ばかりだ。なんだか照れくさい。------------------昔行った店が開いていたので食事をした。相変わらずのボリューム,とにかく味よりもボリューム。ちょっと完食はムリ。昔は従業員が中国系の方たちだったが,今ではタイかビルマ系の人になっていた。------------------それからステージの上で,全身黒タイツに身を包んで,弓なりのブリッジの体勢になって逆さに歩く甥っ子の姿を見た。なんだかとっても恥ずかしかった。
2009.11.09
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作品の商品化戦略が着々と進んでいて,来年にかけて盛り上りが予想できる一方で少し引いてしまう不思議な気持ちにさせる「大人のガンダム」の7巻を読んだ。○ストーリー突如現れた「黒いユニコーン」に倒されたバナージは,ブライト艦長の率いる戦艦ラー・カイラムに収容される。オーストラリアに寄港した艦には,バナージとリディ,そして財団に囚われの身となった2人の女性ミネバとマリーダも集まってくる。そしてミネバたちを奪還するために,ネオ・ジオンとジオン残党が基地に攻撃を仕掛けて来た時,バナージが取った行動とは?------------------6巻の後半にはガンダムのファンをうれし泣きさせる展開があったが,その勢いは7巻でさらに加速している。福井晴敏というよりカトキ的な趣味を感じさせる舞台と古参の兵隊&モビルスーツの登場が,地球編のラストを無骨に盛り上げる。ゲームとのタイアップと思えるある機体の活躍はともかく,残りの機体のそろえ方はかなり意表をついていて,面白い驚きだった。こうしたミッシングリンクを埋める方法論も,このシリーズ独自の楽しみ方だろう。------------------主人公たちが2巻ぶりに同じ場所に勢ぞろいしてくれたおかげで,物語の軸がピンと揃い,ストーリーラインがスッキリしてくれたのもうれしい。ブライト,ベルトーチカ,カイ,ルオ商会など,懐かしいキャラクターと名前が出てくるのもうれしい。よく言われていることだが,このシリーズはほとんど歴史小説と化しているので,ファンはどのキャラクターがどのタイミングで出てくるか,というポイントも楽しんでいる。------------------そうした中年たちとは別に,バナージ,ミネバ,リディ,マリーダたちが,若い世代を体現している。とは言え,昔の作品と異なり,「大人のガンダム」を目指した作品なので,『体制と大人をやっつける若者』という単純な構造にはなっていない。ブライトたち中年もかなりしたたかに生きているし,ジンネマンのオヤジなんてこの巻の主人公なんじゃないか?というほどの大活躍だ。青年リディも体制の秘密を共有することでそちら側に身を置くようになってしまっているし,少年バナージも今ひとつパッとしない。スパッと気持ちを切り替えたミネバに,早いところバナージとリディも追いつけてもらいたい。------------------例によって中盤からは戦闘シーンが続く。ガルダという巨大空中要塞に取り付いて,ミネバを救おうとするのだが,なんだかどこかで観たような展開だと思っていて,しばらく考えて分かった。宮崎駿がその昔NHKで製作していた作品のラストに似ているのだ。えー,こっちにもオマージュ?
2009.11.08
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さて北山トレイルの当日だ。9時過ぎ,まずは京都駅からバスで出町柳まで出る。そこからは叡山電車で貴船口まで揺られて行った。周り中,ハイキングの格好をした人ばかりだ。10時半,貴船に到着。貴船神社はちょうど護摩焚きをする祭りの当日でにぎわっていた。10時45分,貴船に面している鞍馬寺の西口から鞍馬の山越えに入った。ハイカーの姿も見えるルートだが,見上げるばかりの山を登りつめて行くような道だ。昨日の神護寺の再現のようで,早々にきつくなるが,家族連れもいたりして,音を上げるわけにはいかない。-----------------鞍馬寺は裏門から入ったので,いくつものお堂を過ぎて最後の方に本道に到着する。11時半。ここまで来ると道が石で舗装されていてはるかに歩きやすい。すれ違う人の姿もハイカーからフツーの観光客へと変わる。鞍馬寺の駅のあたりまで降り,今回の難所である薬王坂(やっこうざか)に入ろうとしたが,この入り口が分からない。全く何の標識も出ていないので,近隣の人に教えられて山入りをする。12時。鞍馬の山越えは,何百人という人とすれ違ったが,薬王坂越えですれ違ったのは,たった1人だ。クマまで出るとは思わなかったが,ヘビくらいはいるのではないかとビクビクした。道も雨天では渓流になりそうな峠道なので,足場となる根っこや岩の表面に軽くぬるみがあって気を使った。頂上が広くてお寺が散らばっている鞍馬山と比べて,薬王坂はまさに峠で,登ったと思ったら下りになる。どちらも急坂だ。-----------------12時40分,静原に到着。名前の通り静かだ。と言うより,人の姿が無い。小さな盆地になっていて,真ん中を道路が走っているのんびりしたところだ。京都一周トレイルは,”東海自然歩道”ともほぼ重なっている。そのおかげで1キロおき程度,そして重要な曲がり角に,木杭が打ってあって,迷わず歩くことができる。また車の走る道路を避けて,旧道や抜け道を案内してくれるので,人の家の庭先のようなところもあるが,歩いていて気持ちがいい。13時,一時的に車道沿いに歩き,それをそれて暗い川沿いの道を登り始める。これは江文峠(えぶみとうげ)という静原と大原を分けている峠道だ。近くを道路が走っているらしく,かすかに車の走り去る音は聞こえるのだが,暗く湿った林の中を1人で歩いていると,なんだか突然ゾッとする瞬間があるから不思議だ。峠のところで一瞬道路を横切り,杉の落ち葉の多い下り道を抜けると,大原に着いた。13時半。-----------------大原は静原よりも小さくまとまっているようで,民家の数も多いし,なにしろ人の姿がある。そのまま歩き続けて寂光院を目指した。小さなお寺だが,山門からの石段で紅葉が色づいていて美しかった。安徳天皇,建礼門院と関係が深いが,残念ながら10年前に放火で全焼している。14時15分,ここで日帰り温泉に寄って汗を流した。事前に調べておいた「大原の里」というお宿で,うどんと入浴がセットになっている。現地に行ってみると,他にも同様のサービスをしている宿はあるので,いろいろ試してもいいかも知れない。宿は当日の準備で大忙しなので,なんとなく居心地が良くない。-----------------15時,もう汗をかかないように歩くペースを下げながら,大原の反対側の三千院を目指す。渓流沿いに民芸や漬物の土産物屋が並んでいて,今日見てきた場所では一番の華やかだ。すっかり観光地かと言うと,どこか上品さがあってなかなか爽やかだ。三千院は順路がはっきりと作ってあって,靴袋を手にぶら下げて周らなければならない。無粋な気がしたが,圧倒的な庭の美しさに,そんな気持ちは一瞬で吹き飛んでしまった。本日のトレッキングを締めくくるにふさわしい素晴らしいお寺だった。京都市内から遠いにも関わらず人気が高いのも納得だ。おかげで疲れも消えた・・・ハズはなく,左のひざがじんじんと痛い。-----------------16時,幸いに市内行きのバスでは座席に座れた。1時間揺られるので,これは1本遅らせてでも座席を確保すべきだと思う。またまた周り中が老人ハイカーで,その元気さとギアの質の良さに驚く。17時半,ホテルに預けていた荷物を回収して,京都駅に向かった。駅弁はイヤなので,伊勢丹のデパ地下でお弁当を買ってから新幹線を待つ。とにかく天候に恵まれたので,ヒートテックとフリースで防寒を準備したが,その必要もなく,快調に踏破することが出来た。少し自信が着いたが,シューズとリュックはもっと使い易いものにすべきだと思った。京都一周トレイルのその3は無いと思うが,トレッキングそのものはチャレンジしたい
2009.11.07
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会社を休んで京都に1泊2日で行った。京都は何回も行っているが,少し距離があるので北山の方には行ったことがなかった。じゃあ,どこに行こうか,と考えると高雄,鞍馬,大原とどれも捨てがたい。そのクセ,3つとも市内から山あいに入っていくので,一度に訪問をするのは難しい。それを調べていて知ったのが,”京都一周トレイル”という登山道が整備されていて,京都の山中をぐるっと周ることができる,ということだ。とくに北山は,鞍馬から大原まで至る有名な”北山コース”があるらしい。という事で,2日で紅葉の名所を3ヶ所周ることに決めた。とは言え,別に踏破をするつもりも無いので,初日はあっさりとJRバスで高雄に行った。-----------------高雄で訪問するのは神護寺だ。ここは道路から川まで下り,そこからひたすら石段を登り続ける,という参道となっていて,なかなか足に来る。明日のトレッキングの足慣らしも兼ねて,ひたすら足を進めた。上りきると空海ゆかりの名刹の広い境内に驚く。だがそれよりもここに来た目的は・・・・かわらけ投げだ!素焼きのしょう油皿,というイメージのものがかわらけで,それを見晴らしのいい渓谷に向けて投げる,という遊びだ。100円でかわらけを2枚もらえるので,何枚も楽しめる。一応,かわらけに「厄」という文字がプレスされていて,「これは厄除けです」という説明があるが,どう考えても,これはストレス発散だろう。平安の頃から,人間はあまり変わらないらしい。-----------------高雄から仁和寺に戻り,嵐山まで行く。渡月橋を中心に観光客や修学旅行生や人力車があふれている。そうした空気の中,ある有名なお寺に向かう。実は親戚の墓参りがこの旅行の本来の目的なのだ。テーマパーク状態の町では,お寺にも,その付近の店にも線香や花が置いていないのが残念だった。-----------------ホテルにチェックインをして,近くの居酒屋でなるべく京都風のものを食べた。万願寺とうがらしとかね。その後,一応翌日を見据えてマッサージのお店に行った。
2009.11.06
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会社のドレスコードは,金曜日のカジュアル・フライデーと夏のサマー・カジュアルは5年前から導入されていたが,今年から通年いつでもカジュアルになった。温帯気候の今の東京では,10月まで初旬はサマー・カジュアルの延長でほとんど問題なく過ごせたが,11月ともなるとさすがに肌寒くなってくる。11月では,まだコートを着る季節ではないと思うので,なんだかもう1つかな?と思いつつも,ジャケットのままで下にフリースを着込んでいる。こういう時,ビジネススーツって何も考えなくていいから楽だなあと思う。けれども何も考えずにネクタイをするよりは,ローテーションを組む工夫は必要だけど,カジュアルなままで暮らしたいと思う。ユ○クロさん,お世話になります。
2009.11.05
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あさのあつこのガールズ小説の続編を読んだ。○ストーリー地域のハキダメ校と呼ばれている理穂たちの高校でさえも,三年生になればそれぞれの進路を真剣に考え始める。理穂,如月,美咲たちも,それぞれの気持ちに正直に先を見定めようとするのだが・・・-----------------1年以上ぶりに続編を読むので,うろ覚えになっていた第1作を読み返してから取り掛かった。第1作ではフツーの高校2年の夏が描かれていたが,第2作は順当に彼らの高校3年の夏が描かれる。ただし第2作はビミョーに作風が異なる。第1作では,7月と8月の数日が描かれ,バースデイを祝ったり,お祭りに行ったり,海に行ったりと,いたってフツーの毎日が,基本的にオンタイムに描かれていた。第2作では,作品内の時間は同じように短いが,ひんぱんに回想シーンが入り,他の季節の話が突然挿入されるので,より長い時間が経過しているような印象を受ける。-----------------現代のフツーの高校生を描こうとする作品は,マンガではあれほど大量にあるのに,小説ではまれだ。主人公たちが特殊能力を持っていたり,やたら劇的な運命を背負っていたり,という作品は存在するが,日常の延長は小説として成立しづらいらしい。(当たり前ではあるが)この作品は,そうしたまれなジャンルを狙って書かれているようだ。ジュブナイル作品としては定型外で,決して親が理想とするタイプではない主人公像も,リアリティの追求と言う意味では正解かも知れない。基本,第2作も大きくはそのラインに沿って執筆されているので,貴重なチャレンジとしては評価したいし,楽しめた。-----------------だが残念ながら,ビミョーに作風が異なる部分は,主人公の人物造形にも現れている。きりっとしているところがあった主人公も,ウジウジと悩んでいてばかりで,読んでいてイライラさせられるが,それよりも変わったのは如月だ。如月は,理穂と美咲の幼なじみの青年で,いいヤツでボーっとしている,という設定だった。この続編では,動物に好かれる,という設定が加わり,それがもうファンタジーと化していて,犬や猫だけでなく,カラスにも好かれる,となっている。「あー,またやっちゃった」と思わせる展開で,あさのあつこは小説のキャラクター造形に成功すると,あざといカンジでそれを暴走させて,作品を支えさせようとする傾向がある。過去の作品でも,途中から全体がどんどん劣化しつつ,一部のキャラクターだけ設定が肥大化しているのが見られた。この作品の如月も,ここまで来ると,もうマンガの世界の住人だ。となると,せっかく「今の世界」を切り取ろうとしていたこの作品がぶち壊しになってしまう。前作では,章ごとに理穂の周りにいる人が少しずつ異なっていたが,続編では理穂,如月,美咲,スウちゃんで固定されている。それなのに何回も如月と理穂の弟が「デキる」というギャグが繰り返されていて,ウケ狙いが見え見えで,ひじょうに不快だった。せっかく新しいジャンルを開拓しかけた作品だが,第2作で早くもその試みが作家自身の手により潰えてしまっていて残念だ。-----------------(おまけ)第1作は当初ポプラ社で刊行され,その後文春文庫で文庫化された。ポプラ社がポプラ文庫を始めた際に,「ガールズ・ブルーII」はまず文春文庫で発刊されて,読者を混乱させた。どうやらポプラ社への義理立てという意味があったらしく,1年半が経ち,めでたく文春文庫でも「ガールズ・ブルーII」が刊行された。第1作と同じ大人しい装丁で,読者はホッとした。青春小説なのに,大人の事情が出版に影響するというのも大きな皮肉だ。
2009.11.04
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ジェームズ・マカヴォイとアンジョリーナ・ジョリーが共演したアクション映画を観た。○ストーリーさえないサラリーマンのウェスリーのツライ日常は,謎の女・フォックスと出会い,銃撃戦に巻き込まれることで終わりを告げる。世界の秩序を守るために悪人を消す暗殺組織に入ったウェスリーは,長い訓練を耐え,彼の父を殺したという男・クロスを倒すために旅立つ。-------------日本ではほとんどアンジョリーナ・ジョリーばかり注目されているが,主演はジェームズ・マカヴォイだ。『ナルニア国物語』でフォーンのタムナスさん,という重要な役を演じた人で,この人の登場シーンが原作のイメージ通りだったのでファンは大喜びをしたのだ。そんなお人好しキャラが似合う俳優なのに(あるいは「なので」),この映画ではひょんなことから暗殺者に転職をする若者を演じている。当然のごとく,転職前のブツブツ文句ばかり言っているダメダメサラリーマンの方がリアリティがある。この映画のために筋肉を付けた,と言うだけあって,なかなかの大胸筋を見せているが,なんだか似合っていないカンジがする。タムナスさんの時の羊のひずめの下半身もCGだったのだから,別にCGでかまわないと思うが?-------------映画のストーリーは,イロイロとイタイ。ダメな人の妄想という匂いがプンプンしていて,今の言葉で言えば「中二臭」がキツイ。もう最初のオフィスのシーンでそれが伝わってきて,すでにゲンナリしてしまった。それなのでその後の超越的なアクションシーンに,もう1つ乗り切れなかった気がする。織物工場に隠されている暗殺組織だが,その訓練として機織機械の中を左右に行き来している部品をつかむのは理解できるとして,ただただ殴ったり,突然肉屋さながらにさばいた豚を吊るしてある部屋があったりと,よく分からない。究極は,小銃の弾の弾道を曲げろ,という無茶ブリ。もう何でもアリの世界なので,車がビルの壁を走るかと思ったら,そこまではなかった。どうもカッコいいらしい,ウェスリーの織物工場への殴り込みも・・・「○○○かよ・・・」とテンションが着いて行かなかった。-------------R15指定の映画なので,アンジョリーナ・ジョリーのあんなシーンやこんなシーンを期待していたが,それは銃撃シーンの残虐さゆえということらしい。ちょっと残念に思っていることはヒミツだ。散々悪口を書いたが,おバカ映画として観ればなかなかの出来だ。しかも興行的にヒットしたので,続編も出来るというウワサだ。製作者側は,それを全く予想していなかったらしいので,続編はどんな展開になるのか?フォックスは再登場するのか?どんなイタイネタを散りばめてくれるのか?と楽しみは尽きない。
2009.11.03
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コンピュータによる第三次世界大戦の開戦の危機を描いた名作『ウォー・ゲーム』と,その続編を観た。○ストーリーハッカー少年が軽い気持ちでアクセスしたサイトでは,アメリカの都市を攻撃する戦略ゲームのデータが置かれていた。少年はゲームを開始するが,そのサイトを監視していた軍事用スーパーコンピュータは,実際に攻撃がされたと判断し,報復の準備を始める。果たして少年は政府の追っ手から逃げ切れるのか?そして開戦は回避できるのか?-------------第1作が1983年,第2作が2008年の作品で,なんと25年のブランクがある。それでもちゃんとある部分に手を抜かずに続編として成立していることに感心した。なんだろう?いわゆるファンだった少年が大人になって,それなりに偉い役職について念願の続編を製作した,というパターンだろうか?(勝手に想像してます)実は上のストーリー紹介は,83年版と08年版のどちらにも当てはまる。だから最初のうちは続編なのか,リメークなのか判断がつかなかった。気が弱そうだけどちゃっかりモノの少年,という主人公の設定も同じだし,都合よくガール・フレンドが出来るという設定も同じだ。後半になると08年版もオリジナリティが出てくるが,それでも様々な場面で意識をした類似性,つまりオマージュが感じられて面白かった。-------------2つの映画で大きく異なるのは,83年版では大陸間弾道ミサイルの撃ち合いが戦争だったのに対して,08年版では都市型生化学テロが戦争となっていることだ。今どき「露○○め!」と叫んでいるのは,ヤクザやマフィアだけなので,こればっかりはしょうがない。全面核戦争では,司令部が壊滅するなどして命令系統が分断されても,報復のICBMを発射するために人工知能のサポートが必要だった,という説得力がある。一方のテロ攻撃は,〈9.11〉など特殊な事例を除き,情報伝達への壊滅的な破壊は考えられないので,人工知能に必要以上の制御権を与える必然性が感じられない。結果的には,83年版の方が08年版よりベースの部分でリアリティや恐怖感がある,という不思議な結果になっている。返すがえすも,今の時代でサスペンス物を作るのは難しい。-------------予想していたよりもはるかに2作品とも出来が良かったが,それなりにツッコミ所もあって楽しめた。(半分はオマージュゆえなのだろうけど。)-警察の車両のスピード遅っ!軍用ヘリコプターより遅いのは当たり前だが,真っ直ぐな道の目の前を走っている高校生を捕まえられない。-MOPRの声はMicrosoft Samなの?テキストの読み上げ機能は外付けオプションで,走っているコンピュータに依存するだろうから,25年たったらもっとスムーズになるでしょ?-○○○○○教授って,隠居生活が好きなの?それともこーゆー状況をずーっと待っているの?-教授のパスワード管理甘っ!あんたは毎回毎回同じで,MITの教授なら,いい加減学習しようよ!今どきフツーの会社の方がセキュリティ厳しいでしょ。
2009.11.02
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「幻想と怪奇」をテーマにした恩田陸の短編集を読んだ。○ストーリー昔話の舞台だと思っていた村が実在した。男と妻は,そこを訪ねる観光ツアーに参加するが,村のはまさに昔話の通りの状態だった。真偽を疑うツアーのメンバーだが,数々の不思議を見て,やがて信じるようになる。だが,その夜・・・-------------バラエティに富んだ作品を描く恩田陸が,あえてテーマを絞って統一感を出した短編集だ。そのテーマとは,かつて「幻想と怪奇」あるいは「異色」とも呼ばれたジャンル・・・ミステリー,SF,ホラーの中間点のような不思議な味わいのあるタイプの小説のことだ。僕は時々恩田陸の作風を「ミステリーではなくてミステリアスだ」と言っているが,このタイプはまさに恩田陸にピッタリで,どの短編もヒネリが利いていて楽しめた。これまでの短編集では,長編に育てる前のアイディア,あるいは予告編のようなものも含まれていたが,この作品はむしろ短編ゆえの面白さがそろっている。例によって結末のはっきりとしない”オープンエンド”な作品もあるが,この短編集に限ってはそうした結末も合っていて,まさに恩田陸の本領発揮という印象を受けた。-------------「観光旅行」:おとぎ話の世界にしか存在しないと思っていたある村に観光旅行に行った人々は,その夜に奇妙なことを経験する。・・・ラストでじんわりと怖くなる,「幻想と怪奇」ジャンルの最もベーシックな味わいを体現した短編だ。「スペインの苔」:彼女はブリキのロボットを大事にしてた。そのロボットの由来と,ロボットがいつまでも動く理由とは・・・淡々とした語り口なのに忌まわしい世界が広がっていく。前半も怖いのだが,世界が歪み始めるような感覚を与える後半も怖い。「蝶遣いと春、そして夏」:死者の魂を山へと送る蝶遣い。この風習がある土地で,少年が経験した夏の物語。・・・他の作家を引き合いにして申し訳ないが,上橋菜穂子の「守り人シリーズ」に出てくる異界〈ナユグ〉のような世界観だ。またヨーロッパ映画のような美しさもある。「橋」:極東のある島国を東西に分断する橋。バリケードの中から,その橋を見張るのが人々の定期的な勤めだった。ほとんど事件が起きたことの無いその場所で,ある時・・・様々な作品で描かれてきた分断された島をモチーフにした短編だ。恩田陸らしいリアリティが光っている一方で,ラストは・・・ギャグだろうか?「蛇と虹」:かつての悲劇を語る姉と妹。2人の記憶の食い違いは何を語るのか?・・・黒と赤の2色のイメージが喚起される短編。だが苦手。「夕飯は七時」:僕たち3兄弟は知らない言葉を聞くと,想像したイメージを実体化させてしまうチカラがある。だが母さんが仕事中なため,おじいちゃんが夕飯を作っていて・・・シュールなユーモア小説なのに,少しもニヒリズムの要素がない貴重な短編だ。絵本にしたら子どもが喜びそうだ。「隙間」:私が隙間という隙間を恐れるのは,少年の頃住んでいた家の物置の扉の隙間にアレを見たからだ。もう一度あの場所に行ってみると・・・古典的な怖い話だ。ストンと終わるのもそれっぽい。「当籤者」:当たった後,2週間逃げ切れば大金を手にするというくじに当籤してしまった男は,誰も信じることができなくなる。果たして自分をねらっているのは?・・・ホラーでもあるが,スラップスティックのようでもある。血潮を発見するシーンは怖かった。「かたつむり注意報」:その街では時々”かたつむり注意報”が出る。注意報のおかげでホテルに閉じ込められた男は,バーで女から昔話を聞くが・・・かたつむりの独特の匂いを思い出してしまった。このホテルではエスカルゴをメニューに入れているらしいが,いいのだろうか?「あなたの善良なる教え子より」:殺人罪で断罪された男から一通の手紙が届く。果たして彼は本当に殺人を犯したのか?手紙から広がる世界は何を語るのか?・・・ある発想をどこまでも突き詰めてしまうとこうなる,という仮想の世界観が怖ろしい。どう終わるかと思っていたら,ちゃんと怖いラストが待っていた。「エンドマークまでご一緒に」:ミュージカルの世界が現実だったら?・・・古典的なミュージカルの主演を主人公にしたメタ的ギャグ作品だ。汗だらけになりながら踊る主人公たちがけなげで笑える。「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」:王国は巨大な列車の中で興され,何十万もの人々を配下に治めた。ある時,列車が動き始め,そこは動く王国となる。だが徐々に・・・宇宙船を舞台にした文明SFはいくつか読んだことがあるが,列車と地上を舞台にしている点が目新しい。恩田陸が好きな,マヤ文明の雰囲気もある。「SUGOROKU」:国中の村々からある街に集められた少女たちは,街はずれの小屋からお城の部屋を目指して,毎日少しずつ部屋を移動する。不思議なゲームのルールは?果たしてこのゲームの目的は?・・・設定だけを考えるとギャグなのに,読んでいるうちにぴりぴりと怖くなってくる。絶品だ。「いのちのパレード」:地平線まで見渡せる場所に生き物たちがやって来る。長い長いパレードの果てにやって来たのは何なのか?・・・本のタイトルにもなっている作品で,読んだことのない不思議な雰囲気を持っている。この短編で終わってくれても良かったのだけど・・・「夜想曲」:重厚なデスクにゆったりとした椅子。その部屋の主に新しい物語を伝えに来たのは?・・・恩田陸の筆は,部屋や家具の手触りや匂いまでも感じさせる。本当に稀有な才能だと思う。この書き下ろし短編は,前の作品さえなかったらしっくり収まったと思う。
2009.11.01
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