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2007年09月17日
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「探偵狂想曲・秘密の署名」

 #5 真犯人


「ニセモノ? 何のことですか?」
 怪訝な顔をしてオレたちを見る受付嬢。
「いや、だからね――」
 余計なことを言いそうなアイリーンの口をオレは咄嗟にふさいだ。
「ム!? ムゥゥ~~!」
 もがき抗議するアイリーンを、とりあえずヒューに押し付けてオレは誤魔化すように受付嬢に笑みを向けた。
「何でもない。それよりもブルックさん、その時、誰と会ったか分かるかい?」

 来客名簿を指差しながら受付嬢は言う。
「その人、今いるかい?」
「はい、出社しておりますが・・・?」
「是非、会わせてください!」
 カウンターに乗り出すようにそう訴えるソーニャに、目を丸くした受付嬢はコクリと頷いた。

   *

「どうぞ・・・。こちらへ」
 編集部長の秘書と名乗る黒服姿の男に通された部屋は、贅を尽くした調度品の目立つ豪華なところだった。
 オレたちが現れ、樫でできた立派な仕事机に向かっていた部屋の主――ジロフという名の男が顔を上げた。
 少々太めの体形に、下品な口ひげを生やした嫌味な目をしたおっさんである。
「ほう、随分若いお客さんだな」

「私に何の用だね?」
 こちらとしては腹の探りあいをする気など毛頭ない。単刀直入に用件を切り出すことにした。
「先日、こちらにロンドシティの書店の店長が見えたと思うのですが。その時の会見の内容を教えていただけると幸いです」
 その一言でおっさんの表情が凍る。
「わ、私は、そんな奴と会った覚えはない!」

「・・・あんたが2週間前にその人と会っているのは、既に下の受付で確認済みだ」
 目で威圧するオレに、おっさんは震え上がるようにしていった。
「知らん! ブルック書店の店長など、私は知らんぞ!」
 そう叫んでしまってから、おっさんは自分でも自らの失言に気づいた顔をする。
「あ・・・」
「今、ブルック書店って言ったな」
 後ろでヒューが呟いた。
「言った! 言った!」
 はやし立てるようにアイリーンが言う。
 おっさんの顔からは、血の気が失せていた。
「もう言い逃れは出来ないぞ・・・。さっさと白状しちゃえよ?」
「う、うう・・・」
 恨めしそうに睨むおっさん。

 と、その時だった――、

「シャ、シャトルさん・・・!」
 悲鳴のようなソーニャの声に、慌てて振り返ると。なんと、秘書の男がソーニャの背後から首に腕を回し、別の手に握り締めたナイフをこちらに向けていた。
「ああ!? ソーニャさん!?」
 驚いた声を上げるファラ。
 声は上げないがオレもこの予想外の事態に戸惑った。
「ちょっと何するのよ!」
 秘書に対して抗議するアイリーン。
 そのアイリーンに向かって、秘書はナイフを一度ちらつかせて、
「近寄るな・・・」
 と低く、迫力のある声でそう言った。
 その瞬間に、だいたいの事情をオレは察した。
 ――どうやら真犯人を見誤ったみたいだな・・・。
 オレは内心舌打ちをした。
「おお、よくやったぞギュスター!」
 部下の手柄を喜び秘書のほうへ近寄ろうとするおっさん。しかし、ギュスターと呼ばれた秘書は、上司にもその刃を向けた。
「部長、あなたも動くんじゃない・・・」
「な、なんだと!?」
 心底ビックリした顔をするおっさん。その姿は実に滑稽であり、同時に哀れだった。
 ――正真正銘の小悪党だな。
「お前は私の部下のはずだろう? なぜ、そんなことを言う?」
「あんたも騙されていたんだよ。その男に・・・」
 狼狽するおっさんを諭すようにオレは言った。
「騙す? 私を・・・?」
「そうだよ。あんた達は、ブルック書店から大金を積まれてソフィール大先生のサイン本を頼まれたが、所在不明の大先生からサインを貰うにはエドワード社長がいなくてはならない。だが、社長がいない今、あんた達は実にいい手を思いついた。ニセのサイン本を用意して大金をせしめようっていうな。どうせ、ロンドシティという小さな町のみで売られるもの。今後も表沙汰になることはないだろうと甘く見たな・・・」
 おっさんは何も答えられず息を呑んだ。ヘビに睨まれたカエルみたいに。
「けど、どうやらその計画を立てたのはそのおじさんじゃなくて、この男みたいだな?」
 ヒューの言葉にオレは頷く。
「ふん・・・。あと少しで金を持ち逃げできるというところで。尻尾をつかまれたか・・・」
 ギュスターはいう。
「金を持ち逃げだと? あれは私のものだぞ!」
 金という言葉に反応しておっさんが叫ぶ。
 それを嘲笑うようにギュスターは言った。
「馬鹿が、あの金は全て私がいただいた・・・。お前の隠し金庫の有り金も全てな」
「な、なんだと!? どういうことだギュスター!?」
「あなたには気の毒だが、元々、私の目的はあなたが後生大事に密かに貯めこんでいた金だったのさ。だが用心深いあなたは、私にも金庫の場所を教えなかった。そこでブルック書店から金を騙し取るようそそのかせば。そうして新たに得た金を隠しに金庫に行くと思ったんだが。案の定、あなたは金を隠しに金庫の場所へ向かった・・・。しっかり付けさせてもらったよ」
 得意満面な顔をするギュスター。
「おのれ~! 返せ、私の金を!」
 飛び掛るおっさんの腕を、ギュスターは躊躇いなくナイフで切りつけた。
 真っ赤な血しぶきが絨毯に、ポタポタと落ちた。
 呻くおっさんにオレたちの注意が向いたのを確認して、ギュスターはソーニャを抱えたまま部屋から逃走した!

「逃げたぞ・・・!」
 と追いかけようとするヒューを、オレは呼び止めた。
「ちょっと待てヒュー一人で行くな。アイリーン、おっさんの治療を!」
「え~? しょうがないな~」
 露骨に嫌な顔をしながら、アイリーンは治癒魔法を使っておっさんの腕の傷を治した。
 普段の様子からは想像できないが、アイリーンの治癒魔法の腕は町で1、2を争うほどのもので、一瞬にしておっさんの傷口が跡形もなく塞がった。
「す、すまない・・・」
 力なく答えるおっさん。
「死なれたりしたら後味が悪いからな、ちゃんと後で罪は償ってもらうぜ?」
 おっさんは無言で頭を垂れた。
「シャトルさん、早くソーニャさんを助けないと!」
「わかってるよ!」
 ファラに急かされるようにオレたちはギュスターを追いかけた――。





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最終更新日  2007年09月17日 10時14分00秒
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