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【梅原猛/学問のすすめ】◆知識の習得は退屈、だが必要不可欠なもの個人的な嗜好で恐縮だが、私は梅原猛が好きだ。私が高校生の時にハマった『隠された十字架』に始まり、『水底の歌』『笑いの構造』など、どれも楽しく拝読した。今回再読した『学問のすすめ』は、すでに再版はされておらず、古書店などで手に入れるしかないものだが、ぜひとも若い人たちに読んでもらいたい良書である。著者がてらうことなく、「若い時には、学問が必ずしも面白くなかった」と語っているのには、つくづく共鳴した。こんなに立派な著名人でも、若いうちはイヤイヤ勉強していたのか、、、と思うと、何となくホッとする。 『学問のすすめ』は4章から成っている。第一章 生い立ちの記第二章 創造への道第三章 新しい認識への旅第四章 仏教・実践そして人生 私がとくに秀逸だと思ったのが、第一章と第二章で、自叙伝のところなど燃えたぎる熱情にあふれている。梅原猛は仙台市に生まれ、京都大学文学部哲学科を卒業している。代表作に『隠された十字架』や『水底の歌』『仏教の思想』などがあり、研究は多方面に渡っている。もともと著者は西洋哲学に造詣が深く、そこから東洋の仏教思想へと研究の幅を広げて行く。ニーチェの説く精神の三つの段階、『ツァラトウストラはかく語りき』など読んでもさっぱり頭に入って来ないところ、梅原猛の解説により、なるほどと分かったような気になるから不思議だ。 ちょっとここでニーチェの“精神の三様の変貌”というものをご紹介したい。これは、人間の一生を通して考えた時、三段階の変貌を遂げなければ、真の人生とはなり得ないという思想だ。第一段階・・・ラクダ=忍耐重い荷を背負って黙々と砂漠を歩くラクダの姿は、人間があらゆる困難に耐え忍ぶ精神をたとえている。第二段階・・・ライオン=勇気百獣の王であるライオンは、ドラゴンと闘う。それは必死の勇気なくしては挑めない相手であり、それだけの価値がある闘争だからだ。第三段階・・・小児=創造子どもは無邪気に好きなことを楽しむために、一からスタートし、一からつくり出す。創造とは、子どもにのみ許された特権である象徴。 このラクダ→ライオン→小児というプロセスは、あくまで理想論かもしれないが、それだけに示唆的でもある。この考え方は、若い人にはちょっとだけ励みにならないだろうか?若いうちに長く、辛い修練の時が必要なのは、やがて手にする創造の秘儀のためだと考えれば、少しは精神にゆとりが持てるかもしれない。※ここでいう創造とは、梅原解釈によれば、「家庭をつくり、子供を生み、子供を育てる。それもまた大きな創造なのである」と述べている。 私が『学問のすすめ』を何度となく夢中になって読むのは、こうして梅原猛の論ずるようなことも、知っているか否かでずいぶんと人生に対する考え方や生き様が変わってくると思われるからだ。知識の習得というのは、ホンネを言ってしまえば退屈である。役に立つかどうかも分からないのに、本を読んだり勉強したりすることに、一体どんな意味があるのか?だが、『学問のすすめ』を読むと、ニーチェのことが書いてあったり、万葉集のことが書いてあったり、仏教のことが書いてあったりで、知らず知らずのうちに、ほんのわずかでも知識の習得に成功していることに気付かされる。これからを生きる若い人たちの中で、このブログを読んで少しでも興味を持ってくれたら、ぜひとも図書館に足を運んでもらいたい。そしてできれば梅原猛の『学問のすすめ』の一読を推奨する。 「真理の探究は全く孤独な仕事なのである。全世界を敵にしても、あえて戦うことのできる孤独な勇気を自己の中にもたねばならない」 『学問のすすめ』より梅原猛・著☆次回(読書案内No.159)は未定です、こうご期待♪★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから
2015.03.29
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【ノア 約束の舟】「辛いことだが、、、殺らねばならない。これが、、、正義なのだ」「正義、、、? どこが? 一体どこが正義なの? 生まれてくる赤ん坊を殺すことが? もしあなたがそう言って、、、正義のために手を下すのなら、、、あなたは息子たちとイラを失い、、、私を失うことになるのよ、、、!」タイトルだけを見ると、宗教色の強そうな作品に思える。だが決してそんなことはない。神話としての物語を、何やら壮大なヒューマン・ドラマに完成させている。学生時代、機会があって聖書を読むことが度々あったのだが、“ノアの箱舟”は選ばれし人間の、真の救済のドラマとして捉えていた。この大洪水によって、ノアの家族と一つがいずつの動物たちのみ生き残り、あとの人類は神の怒りをかい、呑み込まれてしまう、、、というのがオリジナル。しかし、『ノア 約束の舟』においてはSFチックにも、泥でできた“ウォッチャーズ”と呼ばれる巨人が登場したり、実はそれらが神の楽園から追放された堕天使であり、さらに、ノアには心を許して箱舟づくりを手伝うという脚色がされている。よくよく考えてみると、この作品におけるテーマは、「ノアの信仰心」なんかではない。「ノアの神への絶対的信頼」でもない。聖書解釈は、既存のものではないことだけは確かである。 あらすじはこうだ。ノアがまだ少年だったころ、カインの末裔であり人間の王を名乗るトバル・カインは、ノアの目の前で父親を殺害した。ノアはその場から必死になって逃げた。成人したノアには、妻と3人の男の子に恵まれた。ある晩、眠っていたノアは、恐ろしい夢をみる。それは、神が堕落した人間を一掃するために、地上が大洪水に見舞われるというものだった。ノアは、その夢を神のお告げであると信じ、箱舟をつくり始める。そんな中、大地は枯れ、食料はなくなり、人間たちは争って肉を欲した。女は犯され、子は口減らしに捨てられた。宿敵トバル・カインは仲間を引き連れ、ノアのもとへやって来てその計画を知る。そこで、ノアのつくった箱舟を我が物にしようとしたところ、泥の塊でできた“ウォッチャーズ”と呼ばれる巨人たちが立ちふさがるのだった。 ユダヤ教の選民思想を理解するのは、ちょっと難しい。たとえば、大洪水が襲っているさなか、箱舟の外では多くの人々が阿鼻叫喚の世界である。動物を助けていながら、どうして幼い子どもぐらいは助けてやらないのかと、常識人ならそう考えるだろう。というのも、この時ノアは、一切の人間を救わなかったのだ。つまり、唯一絶対の神のお告げは、いかなる例外も許されない。神の意志は尊きものであり、絶対的であり、罪深き人間の命など、大した価値はないのである。このへんを踏まえて鑑賞しないと、ユダヤ教に対する理解に苦しむ。 さて、監督のダーレン・アロノフスキーは、ご存じ『ブラック・スワン』や『レスラー』を手掛けた巨匠である。どの作品の主人公も、憑りつかれたように前のめりになっていく姿が、狂信的に描かれている。『ノア 約束の舟』においても同様、神とのあまりにも密な関係が、果ては、冷酷非情な決断を迫られるシーンへと突入し、この作品のピークとなっている。 私は意外にも楽しむことができたが、人によっては嫌悪感をもよおす場合もあるかもしれない。聖書物語の入門編としておすすめしたい。 2014年公開【監督】ダーレン・アロノフスキー【出演】ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、エマ・ワトソン
2015.03.21
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【超高速!参勤交代】「我らは武芸百般を極めし雄藩。おめえらのような野良侍どは違う!」「んだ!我らは一人一人が一騎当千!そのような人数で来るどはかたはら痛いわ!」「飛んで火にいる夏の虫とは貴様らのごどだ!」昭和を舞台にした作品がすでに古典的なものになりつつある昨今、時代劇なんてなおさら古めかしく感じられるのが現状だ。ところが『超高速!参勤交代』は、そういう既成概念を取り払ってくれる新しさがある。内容がコミカルでユニークだからという理由だけではない。しっかりと練られた脚本、視聴者に安心感を与える演出、癒しのある風景、全てのバランスが良いあんばいに調和されていたと思う。ついでと言ってはなんだが、学校で習った“参勤交代”を実感できるのもありがたい。こんな大がかりな大名行列が、年に一度とはいえ、時間とお金をかけて国もとと江戸を往復するのだから、それはもう弱小藩にとっては財政逼迫のガンであったに違いない。中央には絶対逆らえないようにしくみを構築されているのだから、どうしようもない。とはいえ、これが徳川泰平の世を長く持ちこたえさせた理由でもあるのだが。 あらすじはこうだ。磐城国の小藩・湯長谷藩の一行は、江戸での勤めを終えて帰ったばかりだった。ところがその後、徳川八代将軍・吉宗の治める江戸幕府老中・松平信祝より命が下る。それは、「5日以内に再び参勤交代せよ」というものだった。藩主・内藤政醇はよくよく考えた末に、策士である家老の相馬に対策を講じさせた。結果、少人数で近道して走り抜け、幕府の監視がある宿場のみは、これ見よがしに大名行列をくんで、大人数に見せかけることにした。さらに、戸隠流の忍び・雲隠段蔵を雇うことで、近道の案内役を任せるのだった。 この作品の見どころは、幕府から無理難題を押し付けられた東北の田舎侍たちが、いかにして逆境に立ち向かっていくかであろう。地方で細々と田畑を耕し、武道を重んじ、日々を切磋琢磨して生き抜いていく侍たちが、中央のパワハラを知恵をしぼって交していくしたたかさは、見ていて清々しいし、爽快である。また、出演者たちの個性あふれる演技には目を見張るものがある。単なるドタバタ劇になっていないし、漲る若さとエネルギッシュな演出に脱帽だ。主役の佐々木蔵之介、この役者さんは30~40代の女性から大変な支持をされていて、ファン層が厚い。イヤミはないし、素朴でまじめそうな雰囲気は庶民の味方たる藩主役に相応しい。京都の造り酒屋を実家に持つ佐々木蔵之介は、その出自から言っても品が良く、優雅。人気があるのも肯ける。ヒロインにはフカキョンが採用され、なかなかのハートウォーミングに一役かっている。 「時代劇はちょっと苦手」という人にも、全く問題なさそうな時代劇ドラマに仕上げられていた。 2014年公開【監督】本木克英【出演】佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志
2015.03.14
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【トランセンデンス】「人間は未知のものを恐れる。(超越した)私を殺したいのか?」「ウィル、もうやめて。人類を滅ぼすの?」「違う。人類を救うんだ」アメリカ本国では興行的に伸び悩んだ作品らしいが、私個人としては、それはもう楽しめた。もちろん、細かいところではツッコミを入れたくなる場面がいくつかあったし、取り立てて斬新さを感じるところもなかった。だが、見終わった後の何とも言えない切なさとか、寂しさが、私の胸の内を渦巻いたのだ。それは『エイリアン3』を見終わった後にも似ているし、『ミッション:8ミニッツ』の純愛の要素を含ませたSF映画に通ずるものを感じたからかもしれない。さらには、演じた役者の顔ぶれも、見事に一流どころを揃えただけのことはあった。ジョニー・デップを始めとし、モーガン・フリーマンやクリフトン・コリンズ・JRなど、何も心配はいらない。その存在だけで作品が良質に思えて来るから不思議だ。 物語は、人工知能が人類を救済するか否か、あるいは神の領域へと踏み込もうとする暴走について語られている。あらすじはこうだ。 人工知能PINNを研究開発する科学者ウィルは、反テクノロジーの過激派テロ組織RIFTの凶弾に倒れてしまう。死を間近にしたウィルの傍で、妻のエヴリンは何とかして夫を助けたいと願い、友人であり科学者でもあるマックスの助けも借り、ウィルの頭脳をスーパーコンピューターへインストールした。ウィルの頭脳が見事、人工知能へとアップロードされたことを喜ぶエヴリンだったが、ネットに接続することで想像をはるかに超える進化をし始めるのだった。 この作品が他のSF映画にはない魅力に包まれているのは、完全なる人工知能に対する否定ではないことだ。たいていはテクノロジーを否定するような、コンピューターなんか諸悪の根源的である扱いを受けがちなところ、珍しく中立の立場を取っている。例えば、作中、全盲の男がナノテクノロジーによって、みるみるうちに開眼するシーンなどは感動的だ。さらには、作品冒頭とラストで、コンピューターがウィルス感染されて使い物にならなくなってしまった時、荒廃した世界が茫々と広がることの恐怖さえ感じさせる。つまり、この現代社会では、ある程度のテクノロジーが許容され、人工知能と人類とが共存することこそ望ましいとさえ訴えているようでもあるのだ。 主人公であるウィルが目指したものが、人類の救済だとしたら、やり方は無謀だったかもしれないが、間違いではなかったはずだ。しかし何より、ウィルの意識と自我を持った人工知能が肉体の再生を計り、愛するエヴリンを抱きしめるシーンは最高の純愛だと思った。人は皆、崇高な理念・目的意識を持ち、世のため人のためと、社会貢献こそ良しとする傾向にあるが、結局のところ、大切な人を抱きしめ、愛を語らい合うことの方がよっぽど重要で切実なことなのだ。逆に言えば、それなくして人類を救済するテクノロジーなど、幻に過ぎない。『トランセンデンス』は、限りなくテクノロジーを否定した肯定であり、悠久の愛を讃えた作品なのだ。 2014年公開【製作総指揮】クリストファー・ノーラン【監督】ウォーリー・フィスター【出演】ジョニー・デップ、レベッカ・ホール、ポール・ベタニー
2015.03.07
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