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2013.04.07
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【サイコ】
20130407

「母には僕が必要なんだ。母は正気を失って無謀なことをするんじゃない。・・・時々、変になるだけだよ。誰にでもあることさ・・・そうだろ?」
「そうね。でもそういうのは一度だけでたくさん。(中略)一度は罠にかかった私だけど、やはり帰って抜け出すわ」


映画界において、スリラー映画はほとんどB級を脱することが出来ないでいた。それは、明らかな虚構の世界であることがありありと分かってしまうものだったからだ。
例えば、『ドラキュラ』とか『フランケンシュタイン』とか『キング・コング』など、どれもその時代の恐怖映画の金字塔ではあるものの、そこからさらに一歩先へと進むような、説得力のある現実味には欠けるものだった。
そんな中、ヒッチコックはスリラー映画にもリアリティーを要求し、とにかくこだわった。そして常に、自分自身をリアリストとして位置付けていた。
ヒッチコックにとって後期の作品となる『サイコ』は、あながちありえなくもないヒロインの設定だ。
それは、男に貢ぐ立場にあるヒロインが、そろそろそういう関係にも疲れて来て、男に結婚を迫る。だが男は、元妻への扶養料やら亡き父の残した借金の返済やらで金がかかると言って煮え切らない。ヒロインはそこで、「お金さえあれば・・・」という呪縛にとり憑かれてしまう。
そんな時、ヒロインは職場で思いもよらず4万ドルという金を手にする。不動産屋の経理事務をしているヒロインは、持病の頭痛で早退するが、ちゃっかり4万ドルもの大金を持ち逃げしてしまうのだ。この金で男は晴れて借金から解放され、自分と結婚出来ると、ヒロインは思ったかもしれない。

ここまでのストーリー展開で、視聴者はすっかりヒロインが4万ドルを盗んだことの後悔や苦悩の話かと勘違いする。
ところがどっこい、ストーリーは思わぬ方向に転換していく。4万ドルを持って男のところまで車を走らせるのだが、土砂降り雨の晩で、途中、仕方なくモーテルで一泊することにしたヒロイン。
モーテルは、人の良さそうな青年が管理しているようで、ヒロインは安心してこの心寂しいモーテルに泊まってしまう。そして、あの有名なシャワールームでの惨殺シーンだ。


つまり、本当の主人公は、殺されてしまったヒロインではなく、何やら人の良さそうなモーテルの管理人なのだというヒッチコックのトリックに、まんまと引っ掛かってしまうのだ。
私がヒッチコック作品をスゴイと思うのは、視聴者にめくるめく想像力をかきたたせるテクニックの持ち主であるからだ。
例えばあの有名なシャワールームのシーンは、犯人がヒロインを惨殺するプロセスを一つも撮影していない。
グロテスクなスプラッターシーンは存在せず、振り上げられるナイフと、ヒロインの叫び声、そして排水口に渦を巻くようにして流れていく血が映し出されるのみだ。
だが視聴者は、それだけのカットで充分に恐怖を味わうのだから不思議だ。
私はヒッチコックが大好きなので、その魅力を語り出したら止まらない。
でもあえて一つだけあげるとしたら、彼はスリラーサスペンスの作り手でありながら、どれ一つとして下品で軽薄なものはない。
お茶の間でお菓子を食べながら、コワイもの見たさの大衆を充分に楽しませてくれる、最高にしてサイコのエンターテイナーなのだ(笑)

1960年(米)公開
【監督】アルフレッド・ヒッチコック
【出演】アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー

ヒッチコックの『白い恐怖』
20130421
コチラ


ヒッチコックの『レベッカ』
20130505
コチラ


20130124aisatsu





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最終更新日  2013.05.05 06:08:16
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