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2015.01.24
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カテゴリ: 読書案内
【多島斗志之/症例A】
20150124

◆ノンフィクションと見紛うミステリー小説
とくに予備知識があったわけでもなく、何となく多島斗志之という著者に興味を持ち、『症例A』を読んでみた。
サイコ・ホラーの大好きな私にとっては、メンタルのこういう領域を扱った作品に、年甲斐もなく好奇心を抑えられないのかもしれない。
ところがページをめくっていくうちに、内容が思った以上に深刻であるのに気付いてしまった。
世の女性たちが飛びついて喜びそうな精神分析というスタイルを、登場人物のセリフを通して真っ向から否定しているのだ。

「精神分析なんてのは、文学であって医療ではないんだ」

その痛烈極まる批判に、実は私も同感である。
フロイトやユングなどを引用した心理学入門みたいな本が、あいかわらず人気だが、私は一切信じていない。

「患者の発言とか夢とかを材料にして勝手な解釈とこじつけをするような療法は、もう、いいかげんにやめてもらおうじゃないか」

話が飛躍してしまい恐縮だが、この小説が扱っているのは解離性同一性障害、いわゆる多重人格に関する症例を取り上げている。

ウィキペディアによれば、“世にも奇妙な物語”でいくつかの作品が映像化されているようだ。
巻末に参考文献として取り上げられた図書の数を見ても分かるが、この著者の並々ならぬリアリティ追求の姿勢に、とても熱いものを感じる。

あらすじはこうだ。
榊医師は精神科医として十年のキャリアがあるが、現在勤務する病院では三日目だった。
そこで担当することになった亜左美(仮名)という17歳の高校生の診断を下すのにとても苦慮した。
前任者である沢村医師(事故死した)は、亜左美を精神分裂病であろうと診断していたが、榊はそれに対し少なからず疑問を抱いていた。
一方、上野にある首都国立博物館の学芸部に、江馬遥子は勤務していた。
遥子は一通の封書を、金工室長である岸田に見せた。
その手紙は、寺の住職をしていた遥子の父(故人)に宛てられたものだった。
遥子の父は田舎で寺を継ぐ前、やはり都博の学芸部に勤務していた。
差出人の五十嵐潤吉は、父の当時の同僚であった。

遥子は真偽を確かめるため、金工の目利きである岸田に、狛犬の検査を依頼するのだった。

『症例A』では、精神病院内における榊医師を主とする話と、国立博物館に勤務する江馬遥子を主とする話が同時進行し、最終的に二つはつながっていく。
途中、回りくどさを感じないわけでもないが、圧倒的なリアリティを感じさせる筆致に、ページをめくるのももどかしいほどである。
単なるミステリー小説として紹介するには甚だ惜しい気もするが、ラストの純愛的なしめくくりに好感が持てる。
読後の爽やかさがとても良い。

2009年に消息を絶っているらしい。(ウィキペディア参照)
失踪当日に、友人らに「筆を置き、社会生活を終了します」との手紙が届いたとのこと。
その後、依然として行方が知れないのが気になるところである。

『症例A』多島斗志之・著


☆次回(読書案内No.155)は未定です、こうご期待♪


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2015.01.24 05:33:42
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