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2015.05.18
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カテゴリ: 読書案内
【中島梓/コミュニケーション不全症候群】
20150518

◆コニュニケーション不全に陥る原因を鋭く考察する
いつだったか、こんなことがあった。
ショッピングモール内にある上りエスカレーターに乗っていた時のこと。
私は左側に寄って乗っていた。
私より2~3段上を、年配の女性が堂々と真ん中に乗っていた。
後方から走って来た二十代男性が私の横を通り越し、年配の女性のすぐ真後ろまで来た時、ものすごい大きな「チッ!」という舌打ちをした。
私のところまで「チッ!」という音がしたのだから、もちろん年配の女性も気付かないわけがない。
おもむろに避けた。
すると、すぐさま二十代の男性は女性の脇をすり抜け、バタバタと一段抜かしで上っていった。
だからどうだと、ここではマナーについて語るつもりはない。

楽園のような国ではない限り、世の中はもともと住みにくいし、暮らしにくい。
世の中にマナーとか道徳、あるいは宗教があるのは、人間という本来はそれほど優しい生きものではない種を、抑制しておかなければならないからだ。

私は、人間の側面を飾り立て、「誰でもやればできる」「夢は叶う」などの安易な励ましで何万部と売れたようなハウツー本が大嫌いだ。
今もそれは変わらない。
そんな中、『コミュニケーション不全症候群』と出合った。
すでに10年以上も前のことだ。
作家の中島梓は、心理学者でも何でもないのだが、自身が「コミュニケーション不全症候群」の代表者的存在であることから、徹底的に分析、考察してみようと思い立ったらしい。
中島梓にはもう一つペンネームがあり、栗本薫という名の方が知られているかもしれない。
早大文学部卒で、SFから推理小説など幅広いジャンルから人気作品を発表している。
しかし、2009年に56歳という若さで他界しており、今はもう、あの緻密で斬新な新作に触れることはできない。

『コミュニケーション不全症候群』を読んでいて、私なりに目からウロコだったのは、人間なんて「じっさい自分のことしか考えられない存在であった」というくだりである。



私は膝を打って「そのとおり!」と言ってしまった。
だれもそういうことをちゃんと言ってくれる人がいない中、中島梓のようにガツンと事実を語ってくれる人がいて、胸がスカッとしたのだ。
そういうことをきちんと分かっていなければ、世の中すべての人が常識とか礼儀を知っていて当然、などという発想には至らないはずだからだ。

日本における公害問題や凶悪事件などは、統計から見ると、実際には減少傾向にあるようだ。
それでも尚、現代というのは人間がかつて経験したこともないほど暮らしにくい時代であるという。(物質的な面で言えば十分に恵まれている国ではあるが。)

実験例としてあげているのは、水槽の金魚やフナである。
生存に必要なための空間の確保の必要性が、いかに重要かが分かる。
一定限度以上の数を、狭い水槽に入れると、魚たちは互いに攻撃的になり、弱いものから淘汰されてゆく。
結果、調和の取れた数まで減ると、それ以上の共喰い行為はピタリと止む。
この自然界における本能とはスゴイものだ。

こんな小さい島国にギュウギュウひしめき合って暮らす私たちは、程度の差こそあれ、皆、病んでいる。
互いの顔色を見て、互いの言動に一喜一憂しながら、自分のテリトリーも確保できないまま浮遊している。
狂暴な人・人・人の渦巻く波に、私たちは道徳や倫理、あるいは神仏の力を借りて、どうにかこうにか暮らしている。
今後、人口減少が加速することで、経済的には苦しくなるかもしれない。
年金制度が破たんするかもしれない。
けれど、それなりに生存スペースが確保されることで、人間としての最低限度の住みやすさ感じられるようになるかもしれない。

『コニュニケーション不全症候群』では、他にもダイエットに関する強迫観念についても述べられている。
選別される側の屈辱や恐怖は、やはり女子の方が過酷だ。
ダイエットは今や、国民すべてと言っても過言ではないほどの関心事である。
それはすでに精神のボーダーを越えようとするまでの病的なものが蔓延している。

これらの内容は、今を生きる私たちに烈しく警鐘を鳴らすものであり、今一度考え直すきっかけを与えてくれる。
繰り返し読むのには、最高にして優れた評論エッセイである。

『コミュニケーション不全症候群』中島梓・著


☆次回(読書案内No.162)は未定です、こうご期待♪


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2015.05.18 05:36:00
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