椿荘日記

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けむり男と落ちてきたお月様~4


その6


May 22, 2005
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カテゴリ: ペット
先生の応援を待つ間、朝食の支度など何時ものように家事に取り掛かります。

やはり夫に突然の報告は気が引けましたので、まずはマリと同じく猫好きな、今や高校一年生となった息子を起こしながら、猫を拾ったことを告げますと、寝ぼけ眼ながらやはり驚いたらしく、ごそごそと起き出して来ました。次は夫ですけれど、窓を開け、一瞬考えた末食事ですとだけ告げ、とりあえず階下に降りました。

猫の籠はマリが面倒を見やすいように厨房のガラス戸棚の前に置いてあるのですけれど、息子が既に起き出して、熱心に覗き込んでおります。
マリは息子に保護した際の状況と、今の子猫の状態を手短に話しますと、マリの行動を当然のことと認めてくれ、それでも少し、猫嫌いの自分の父親のことを気にしている風でしたが、「幾ら何でも弱っているこの子を追い出すほど、パパは無慈悲じゃないわ」と安心させましたけれど、どうするの?との問いには流石にマリも口籠ってしまいました。兎に角病気が治るまでは大事にしてあげましょうねと答えると、息子もうんと頷きました。
やがて夫の、洗面の音が階上から聞こえ、暫くすると何時もの上機嫌で階下の厨房に降りて参りましたが、籠の子猫には気がつかない様子で、毎朝欠かさずに飲んでいる、夫自らの手作りヨーグルトのジュース割を自分で作りはじめた時、物音に目が覚めてしまったのか、急ににゃあと鳴き始め、夫は随分吃驚した様で、その正体が分った時はもっと驚いておりました。
「どうしたの?」と驚きと疑念を禁じえない様子で問う夫に、事情を説明(息子の時よりは、危機的状況の表現がいささか誇張気味だったかもしれません~苦笑)し、保護を渋々承知させ、取り合えず第一関門は無事突破致しました。

子猫は目が覚めると再び籠から出ようと、あらん限りの声を絞り鳴きながら必死にもがきますので、食事中の夫の癇に障らないよう、今度はお洗濯の為に二階に連れて上がり、今度はガラス越しの日向に洗濯籠を伏せて閉じ込め、慌しく洗濯機のスイッチを押し、洗濯物を畳み始めました。いくらか広くなった籠の中でやはり子猫は鳴き通しで、片づけが一通り終わりかけ流石に可哀想になってしまい、籠から出して抱き上げますと、途端に泣き止みます。
まだ幼いのに親から引き離され、知らない所に連れて来られ、きっと不安なのでしょう。もしかすると、一人ぼっちで鳴き続けたことも随分応えているのかもしれません。傍に居て、触れていて遣りさえ居れば大人しくなりますので、片手で抱きかかえ、空いたもう一方の手で片づけを続けます。何しろ小さな子で、マリの目には生まれて一月も経っていないのではと思われ、落ち着かない様子で動き回るのを、むずかる掛かり子をあやす様に宥めながら、先生の到着を待つことに致しました。


気が利いてお優しい先生は、マリの手元には品物も考えも何も無いことを想定し、猫用のミルクと子猫の離乳食、ペットシーツ、トイレ砂を買って来て下さり、安堵の表情のマリの手から子猫を受け取られますと「小さいねえ」とにっこり笑って、軽く首の後ろをつまみ上げ、手足が縮むのを確認されて、思ったより元気だねと仰いました。それからすぐに、蚤取りを兼ねたシャンプーの用意をし、マリを助手にして始めます。猫用のシャンプー剤を洗面器のお湯に溶き器に掬っては、丁寧に子猫の体の首から下に掛け(こうすると首から上に蚤が逃げないそうです)、蚤の有無を確かめながら手際よく洗って行きます。
「余りいない様だね」とマリも感じた子猫の綺麗さに、共にやはり遺棄された子だとの確信を強め、手足を一所懸命動かし逃れようとする子猫が、温水の暖かさに気持ち良さ気に放尿した時、二人でほっとして顔を見合わせ、最後に濡らしたティッシュペーパーで、きょときょとと不安げに動かす左目と、閉じたままの右目をそっと拭かれますと「やはり結膜炎だろうね」と洩らされました。
マリは人間の薬が猫たちに有害であることが多いのを調べて知っており、今回は消毒剤や点眼薬などは一切使わず、温水しか用いませんでしたので、その判断に先生も頷かれ、しっかり濯いでお仕舞いです。その様子を夫は横目で眺めつつ、連休中に片付けなければならない新しい勤務先の仕事のレポートを仕上げる為に忙しげにキーボードを叩いておりましたが、何も申しません。

体を乾いたタオルでしっかりと拭き上げた後、先生は、トイレの設置や、ペットシーツを寝床の底に新たに敷きこむなど万事卒無く、また猫用のミルクをマリが与える際の介助もして下さいまして、甲斐甲斐しいご様子に思わず微笑まずにはいられません。湯上りの所為か興奮気味の風情の子猫も、新しいミルクの味が気に入ったのか朝よりもしっかりと飲んで、先生とマリを安心させてくれました。
マリが拵えたお礼を兼ねたパスタ料理のお昼を「椿荘」のお庭で三人揃って(息子は学校へ部活動の為に出掛けましたので)頂きまして、初夏間近の新緑の中、上々のお天気に皆の心も綻び、件の子猫はマリの膝の上でご機嫌な様子でくつろいでうつらうつらし、難しい表情だった夫の顔も幾分和らいで見えます。この先のことはマリ自身も決め兼ねていて、けれど、子猫を珍しい物の様に興味深げに眺める夫の理解と、元来猫好きで愛情の篭った視線を投げかける先生のご協力が望めれば、そう難しい未来ではないのかもと楽天家のマリはその時ふと思ったのでした。

*この項つづく






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Last updated  May 22, 2005 08:52:56 AM
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