『福島の歴史物語」

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2017.02.16
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        我が家の伝説

 私は今年80歳。あのことがあったのは結婚前であったから、大分昔のことになる。

 我が家には、三つの土蔵があった。それらは母屋から近い順に、『前の蔵』、『中の蔵』、『裏の蔵』と呼ばれていた。ある夜、その『前の蔵』の扉を開けると、すぐ左に、地下室へ行く階段があったという夢を見た。地下室があるなどと聞いたことも見たこともなかった私は気になり、翌日起床するとすぐ、『前の蔵』へ行ってみた。扉を開けた左には、いつも見慣れていた半間四方ほどの押入れが鎮座していた。夢で見たのはここかと思って押入れの戸びらを開いてみたが、何の変哲もない様子である。よく観察してみたが、押入れの背後の板は土蔵の壁にピッタリ付いており、人が入り込めるような隙間は見当たらなかった。押入れの床も叩いてみたが、それも開くような様子はなかった。

 「やっぱり夢だったな」、そう思いながら蔵の中を見渡した。すると今まで気にも留めなかった床の中央部に、空気穴として使われていたものなのか、半間四方ほどの平らな格子状の床を見つけた。そこを上から眺めてみると、格子を透かして下の土が見えていた。
「ん…?」
 私は何やら妙なものがあるのに、気がついた。

 格子を外してみると、籾殻が富士山の形に整えられていたものがあった。再び、「ん…?」、である。これはどう考えてみても、これを作った本人以外の人が手をつければ分かるようにしていた方法としか思われない。すでに祖父・父ともに亡くなっていた私は、今やこの家の当主である。私はその富士山の真ん中を、傍にあった木の棒で刺してみた。富士山が大きく崩れ、刺した棒が木の板に当たる音がした。そこで今度は思い切って、富士山を掻き払ってみると、何かの蓋になっているような木の板があった。またしても「ん…?」、である。

 私は恐る恐る、その蓋を除けてみた。するとそこには陶器の壺の首が見え、壺の中には、何やら油紙で包まれたようなものが見えた。壺は、半分以上が土に埋まっていたので、中身だけを取り出した。それは体積の割には、重いように思われた。薄暗い土蔵の中で開いたその包みの中からは、細い縄が通された結構な量の古銭と一緒に、和紙に包まれた細長いものが出てきた。それを開けてみると、長い髪の毛の束があったのである。その髪の毛はもろく、簡単に折れ、そして崩れるようであった。

「うーん…」。
 私は思わず唸った。
 これは一体誰のもので、何のために保存していたものなのであろうか。薄暗い中で見たそれは、あまり気持ちの良いものではなかった。「そうか、これはこの髪の毛の持主が、ここから出してもらいたくて、夢になったのか」 

 そう思った私は、日を置かずして菩提寺の法蔵寺にお願いをし、供養して墓に納めてもらった。

 あれから幾星霜。

 平成十年(1998)、私は先祖伝来続けてきた営業の全てを整理した。長年の取引先による取り込み詐欺、そして2004年におきた大水害の被害から立ち上がることは出来ないであろうという危機意識が、その根底にあった。しかし営業を止めるということには、大変な労力を要するものであった。全社員への退職金と銀行借り入れの返済。それだけでも大変なのに、約束手形を受取っていた取引先の一部は不渡りとされるのではないかと恐れ、暴力団に安く売った会社も現れた。これら暴力団からは、支払期日を守ることへの脅迫も受けていたのである。

 これら一斉に襲ってきた多くの支払いに対して、当然ながら資金不足となった。実家の売却のことを聞きつけた当時の三春町長から、「三春の町屋資料館にしたいので、是非買い取りたい」との打診を受けた。当時、三春歴史民俗資料館や三春人形館などを作って町興しに力を入れていた町長は、我が家の建物の時代は新しいものの江戸期の様式で間口が狭く、奥行きが長かったのである。町長は、そのことに気がついたのかも知れなかった。その提案に応じることは、建物が自分の手から離れても、建物自体は長く残るかも知れないという安堵感もあった。三春に住む親戚などの、賛意も得られた。私は、実家の売却の申し入れを受け入れた。私の実家は町の所有となったが、それもあって借財のすべてにピリオドを打つことが出来たのである。

 そのような頃、叔母から、次のような話を聞いた。

 「(太平洋)戦争中に、おじいさん(8代目・私は10代目)が、『裏の蔵』の『上がりがまち』に、何か一人で埋めていたのを見た覚えがある。何を埋めたかは知らないが、もし何かあったら忘れずに掘るといい」

 そうは言われても既に三春町の物になってしまった今、勝手に掘り返す訳にもいかなかったし、その気にもならなかった。忘れた訳ではなかったが、そのまま時間が経っていった。そしてある日、三春へ行った時、愕然とした。あの実家の全てが取り壊され、ポツン、ポツン、ポツンと三つの土蔵だけが取り残されていたからである。私はその時、叔母の言葉をすっかり忘れていた。そしてそれに気がついて三春へ行った時、すでに土蔵の改造はほとんど済み、床も綺麗に貼られ、土蔵を利用した新しいカフェの開店準備が進んでいた。もう、どうすることも出来なかった。私は黙って帰ってきた。

 私は今でも、「本当におじいさんは『裏の蔵』に、何かを埋めて隠したのではなかろうか」と疑問に思っている。そしてあの夢は、本当は『前の蔵』ではなく『裏の蔵』の夢であって、おじいさんが夢で、孫の私に何かを伝えようとしたのではないだろうか」とも思っている。叔母も亡くなってしまった今、それを確認する方法はなくなってしまったが、自分が所有しているうちに掘り返してみなかったことと、『前の蔵』の壺、多分夢の中の地下室を掘り起こさなかったことに、若干の悔いが残っている。



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最終更新日  2017.02.16 09:44:59
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