『福島の歴史物語」

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2021.01.01
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     伊東さん 狩野さん 相楽さん

 現在の郡山に、伊豆に関連する苗字が三つ残されています。それらは前回の伊東さんであり、それと相楽さん、狩野さんです。

 私は大分以前に、三春の福聚寺で、伊東祐長が郡山へ来たときの話をしました。いま有名な芥川賞作家の玄侑宗久さんの父親の橋本宗明和尚にです。すると和尚は、こう言ったのです。「祐長は、ウチの寺に泊まったんだよ」。瞬間私は「ヒェ〜」と思いました。何故なら私は、伊豆から来た祐長らは、今の安積町から郡山に入ったとばかり思い込んでいましたから、あえて阿武隈川を越えて三春に泊まった理由が分からなかったのです。和尚は話を続けました。「その頃、福聚寺は、三春にではなく日和田にあった。」「うーん。なるほど。」そう聞いた私は、帰り足で、日和田にあったという、福聚寺の跡を探しに行きました。そしてどうやら見つけた場所の地名は、なんと聖坊(ひじりぼう)でした。「そうか、ここに泊まったのか。」私はそう思いました。そこは阿武隈川の手前でしたから、なんとか納得できたのです。

 このことについて、郡山市史では、『笹原川、逢瀬川、藤田川などの合流点近くの郡山、安積町、富久山町、日和田町の阿武隈川流域に求め、伊東氏の開発進展によって、水利権や用水確保の必要から次第に上流へと上り片平などに嫡流の居城がおかれた』と記述しています。しかし私は、郡山に赴任してきた祐長の一行は、聖坊の福聚寺に足を留め、それから片平方面へ向かったと考えました。もちろん先遣隊が来ていて、祐長らを案内してくれたと思われます。片平方面に向かった祐長らは、奥羽山系の水を利用して棚田を開拓し、その後になって郡山市史とは逆に下流の郡山、安積町、富久山町、日和田町方面へ開拓をしていったと考えています。その理由として、熱海町、大槻町、片平町には、伊豆から勧請された神社が多いこと、その神社のうちの采女神社のある『うねめ公園』には、いまも棚田があるのです。そして片平町に大きな舘跡がある上に館に関する地名が多いこと、などからです。たとえば片平町には、上館、中館、下館、西戸城、東戸城、そして門口に館堀、外堀、新堀、的場、馬場下があり、それと寺町を示唆する寺下という地名、ここには今でも常居寺、岩蔵寺、広修寺が集中しているのです。そしてもう一つの理由として、祐長に付き従ってきたと思われる狩野氏と相良氏が土着したらしいことからです。場所は片平の伊東氏を中心にし、その北の熱海に狩野氏、南の大槻に相良氏を配置していますので、戦いの場合を想定したのかも知れません。

 いまの熱海町に住んだと思われる狩野氏は藤原南家工藤氏の流で、伊豆の工藤氏、つまり伊東祐長の先祖になります。狩野の名は、工藤氏が拠点としていた伊豆の狩野荘、現在の狩野川上流で伊豆市大平柿木付近に由来するものです。姓氏家系大辞典によると、狩野氏は、『伊豆国狩野庄を領していた大族で、伊東の工藤と同族である。』と記されているとされます。現在の静岡県天城湯ケ島町には、治承四年(1180)に築城された狩野城、別名・柿ノ木城が、静岡県狩野川と柿木川が合流する地点の南西にあり、標高189メートルの山頂に築かれていました。いまもその城跡が残されています。伊豆半島の中央を流れる狩野川は、狩野川水系の本流で、現在は一級河川で、その水系の流域面積は653キロメートルで静岡県の面積の11%を占める大河です。

 『太平記』巻一に、南北朝時代の人物として『狩野下野前司』、巻六に『狩野七郎左衛門尉』、巻十に『狩野五郎重光』、巻十四に『狩野新介』、巻三十七に『ひとかたの大将にもとたのみし狩野介も、降参しぬ』というように、狩野の姓が見られます。さらに文治五年(1189)、狩野行光が奥州合戦に於いて戦功があり、源頼朝から恩賞として一迫川(いちはさまがわ)の流域、今の宮城県栗原市周辺を給わっています。ですから狩野氏は、宮城県地方にも勢力を持っていた氏族だったのです。その一族を伊東氏は、自己の本拠の片平の北の守りを、熱海の狩野氏に委ねたのではないでしょうか。家族数は少ないのですが、狩野さんは、いまも熱海町中山宿を主に、住んでおられます。

 いまの大槻町には、多くの相楽さんが住んでいます。アイラクと書きます。しかし伊東祐長と一緒に郡山に来たと思われる相良氏は、アイリョウと書きました。この相良氏は、江戸時代後期の人吉藩の藩士、田代政鬴が編纂した相良氏を代表する史書の一つ『求麻外史』によりますと、人吉藩の相良氏は、藤原南家の流れをくむ工藤氏の庶流で、今上天皇の直系祖先である工藤維兼を相良氏自身の祖としているのですが、德川幕府が編修した大名や旗本の家譜集である『寛政重脩諸家譜』では、その孫にあたる工藤周頼が遠江相良荘に住んだことから相良を苗字としたとしています。相良城は、現在の静岡県牧之原市にありましたが、恐らく大槻町に来たのは、ここの庶流の相良氏であったと思われます。

 ところで、大槻町に住む高齢の方は、いまでも相楽さんとは呼ばずに、相楽様と呼ぶ土地柄です。もっとも相楽氏は、この地で古くから庄屋などの役職についていたといわれますから、その所為とも考えられますが、むしろ伊東氏との関係から様を付けて呼ばれたとも推測できます。なお現在の大槻に住む相楽さんに尋ねたところ、「戦国時代に、茨城県の結城から移り住んだと伝えられている。」ということでした。そこで大槻町の長泉寺にある相良氏の墓所を見せて頂いたところ、鎌倉時代のものと思われる墓碑が数基祀られていました。ですからその頃には、大槻に相良氏のいたことが証明できます。またその墓所には、相良から相楽と変えた形跡が残されています。それにしても、伊東さん、相良さん、そして狩野さんの末裔の方が現在も郡山に住んでおられることも凄いと思っています。

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最終更新日  2021.01.01 09:24:19コメント(0) | コメントを書く
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