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墓標は海を見ている人も茶畑もこの国のすべてが海を見ている御影石が並ぶ遺跡のような丘陵地の斜面紅色の彼岸花が揺れるその隙間を浮かぶように歩く白衣と菅笠の老犬男に名は無い深く刻まれた皺の数ほど訪れたが台場からフェリーで徳島に入るのは今回が初めてだここから順打ちに八十八箇所を巡る試練の地に入り人の数もぐっと減る観光バスで数箇所訪れるような人々は大抵道後か讃岐に向かうその為だけに白衣を着る姿は秋葉原のコスプレと大差ない寺間も長く道も険しいこの地の巡礼は過酷だ卒塔婆をスラロームのようにくるくる回る同行者が金剛杖の鈴の音に首を傾げ後を追うフェリーにしたのはこの為だ人知れず生きたいのならなるべく人に埋もれていた方が良い東京にいるのはただそれだけ家族も無くただ生きながらえこの血を抹消する記号としてだけのあの日与えられた名はただの「0」と「1」に崩れ落ちる砕ける波、砂の城壁のように墓標は海を見ている人も茶畑もこの国のすべてが海を見ているその墓標に名は無い
October 25, 2006
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お大師さまが寄り添うようにその守りを受けながら浜辺を歩くふたりの背中南無大師遍照金剛高速道路は須崎までこの先は工事中だ台形の盛り土の上辺をダンプが土埃をあげていた高知西岸まで今はこの道が主要道路のはず太いトルクを活かし右へ左へバイクを傾け海を山を川を田を畑をころころ変えるここの景色を望みながらディーゼル線路と付かず離れず走っていたこの国で電車とは路面電車のことを指すらしいガーガーと排ガスを吐きながら走る汽車と時たますれ違う一息入れようと道の駅に止まる名物の豚まんを頬張りながらふと思い返してみて気が付いた随分走ったがそういえばここまでコンビニがなかったな・・・便利という一度足を踏み入れた沼からはもう抜け出せない日本人の舌を惑わしてしまったのはファミレスとコンビニが起したひとつの罪だと思うが夜中の山越えに浮かぶ灯のような存在するコンビニへの安心感はヘンゼルとグレーテルの一片のパンのようなものかもしれない仕事を辞めたとたんに鳴らなくなった携帯電話のキーを押し液晶に「新着Eメールはありません」とまるで炙り出しかのように浮かびあがった画面をぼんやりと眺めていた便利という底なしの沼ふと森で迷うグリム童話の兄弟を取り巻いていた靄が一斉に晴れる「ナリタミキオ」だ今日の朝会ったリーを連れたあのお遍路誰かに似ていると思っていたがこの時のおれを周りから見ると随分気味の悪い事だったろう「クドウちゃん、クドウちゃん」と劇中のマツダユウサクを呼ぶあの役者を携帯の液晶に見ながら一頻りニヤニヤしていたのだから
October 18, 2006
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羊水に浮かぶ卵の殻の中外界が薄く透けて見えている自分の背よりも高くレンガのように天井まで積上げられたマンガ本の背表紙がまるでステンドグラスのように色鮮やかに四方を囲んでいる西日のあたる縁側の死角に作られた巣宇宙への入り口膝を抱えコックピットに収まった僕は旅に出るハックルベリー・フィンのように誰かに呼ばれたような気がしたどこかで「晩ごはんよ」と言う声を期待していてもそうでない事は知っている夢の中でもだそれにもう朝だという事も目の前に青空が広がっているどうやら台風はそれたらしい垂れた眉毛の犬が好奇心からか異邦人のおれを覗き込んでいる首輪をしている野良犬ではないようださなぎから抜け出すように寝袋のジッパーを開け起き上がると2、3歩後ろにステップを踏み後ずさるがまだおれをけん制しているその姿はまるでブルース・リーのように軽やかだポケットから湿気ったクッキーを抛り投げてやるとひとしきり夢中になっていたが誰かの気配を感じ徐に頭を上げると突然翻り駆け出していくその先にはそれを迎る白装束の大男が立っていたお遍路よく焼けた深く渓谷のような皺が刻まれたその顔でおれを一瞥しかぶっている傘をぐっと下げると背を向け物言わず歩き出していったその足元をブルース・リーが絶妙な間隔を保ちついてゆくその対照的な足取りで一度も振り返ることなくその二人に夏を取り戻したような日差しが容赦なく降り注いでいるそそくさと脱皮のような寝袋を丸めアイコのリアシートの括り付け暖機もそこそこに走り出す筏で川を下るハックルベリー・フィンとジムのようにさらに西へ
October 12, 2006
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とろりとしたジュンサイ色の沼井戸の底は闇の主の住処だ引きずり込まれたらもう二度と戻れない永遠の深みあの夏の日の青蛙は今もそこに水面に浮かべたスイカがぼんやりと望月に変わる頃玄関脇に立てかけられた木枠に洗濯物の靴下のように何十本もの大根が干され二階の下屋には縄のれんのように吊るされた渋柿が揺れ野沢菜を洗う冷たい水は指先を割る冬支度に猶予はないずっと昔からそうやってずっとこうして冬を迎える茶の間の真ん中半畳の畳と敷板を剥がす平面の凹にやぐらを組み布団に天板冷たい朝寝床からやっとのことで抜け出すと一目散に転がり込むすでに火の入っているそこは極楽浄土一酸化炭素中毒で本当に極楽に行かないよう布団から首だけ出しているおれを見てまるで亀のようだと母は言った炭を熾す事から始まる冬の一日そうして先人達は火を管理してきた灯をともし、車を動かし、人を暖め人を殺し料理をしてきた料理は火術火を使えなければ私など何者でもない傍らの焚き火はほとぼりが残る程にいつしか辺りは日が落ち夜の入り口を彷徨っている火の底に棒切れを差込みてこの要領で持ち上げ一息吹き込むとパッと火の粉が舞い上がり一瞬元の力を取り戻した火の化身がテトラポットに膨らんだおれとアイコの影を映した
October 6, 2006
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空は何とか持ちこたえているものの波は相変わらず高く水平線は霞んでいるそこに遥か北アルプスの稜線が浮かぶ極限の蜃気楼その稜線のサークルの中が世界のすべてだった頃を思い浮かべ傍らに熾した小さな火に流木をくべながら砂浜の座標にひとつ点を加える結界でも張られているかのようにしんとして真っ暗だ味噌樽の味噌と粕漬けの粕が混じりそこへ何百年ものほこりが覆いかぶさる様な匂い梁には誰のものか分らないが兵隊のヘルメットや水筒が掛けられ農機具や使われなくなった家具やおもちゃ等が一言もしゃべらずにそこで息継ぎの仕方を忘れたかのように泣いているおれを見ている逃げ出そうと試みるも厚さ10センチもあるような重い扉は子供の力ではどうする事も出来ない何を仕出かしたのかは忘れたここに入れられているのだから何か悪さをした事は間違いない「土蔵に入れるよ」言う事を聞かないと母はこの決めゼリフを使いおれを震え上がらせ父は何も言わずに泣きじゃくり抵抗するおれを引きずりいとも簡単に閉じこめて蓋をしたひとしきり泣いて泣き疲れた頃そのまま眠ってしまった事もあったかもしれないきゅる、ぎゅるるる・・・突然結界は破られたかと思うとその重い扉は開けられシャバの光が差し込んでくる外光に立ってこの幼い犯罪者を開放してくれるのは大抵腰の曲がった祖母だその顔を見てまたぶり返したように泣き出すおれに祖母は「腹へってねえか?」と本物の刑事みたいだおれは心の中で「腹へったよ山さん」とジーパン刑事のものまねでつぶやいた。
October 3, 2006
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砂浜に流木で座標軸を引く時の流れと感情の「XとY」最初の点三億円事件のあった年、まだ感情はないJFK暗殺もビートルズ来日も知らないベトナム戦争は泥沼化していたらしいが戦争も知らない数年後のあさま山荘事件なまり玉を飲み込んでしまい腹の底に溜まるような記憶されている初めての感情今にも玄関からこの犯人達がショッカーのように我が家に押し入って僕を何所かへ連れ去って行くんじゃないか僕達はずっと茶の間のテレビを見ていた日本の近代化がほぼ完成した頃僕はまだハンバーグもスパゲッティナポリタンの存在も知らない祖母の後を追いかけ畑でトマトをもいで食べてたし裏の小屋にはニワトリとヤギとウサギがいた毎朝産み落とされる卵はまだあたたかく鶏糞がついてるヤギの乳は沸騰させないように一度沸かして飲むスーパーの調整された牛乳よりも濃くて甘い夜店で買ったひよこは雄で役に立たないと言われたが親にお願いして鶏小屋で一緒に飼ってもらった見る見るうちに大きくなり愛嬌は消えた雌鶏は興奮して卵を産まなくなったらしいいつの間にか雄鶏はいなくなっていた。おれはこの頃の舌の記憶を持っているそれが何十年後最大のアドバンテージになるとはまだこの頃の僕は知らない
October 1, 2006
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