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橋という橋は何のためにあつたか? 詩人 吉本隆明 の詩、 「佃渡しで」 の一節です。17歳か18歳の頃、この詩人の作品と出会いました。それ以来、この詩人は、彼が自分の父親と、ほぼ、同い年だと気づく二十代の半ばまで、まあ、神様でした。
少年が欄干に手をかけ身をのりだして
悲しみがあれば流すためにあつた
「門を出ると涙が溢れて来た。私はよそ行きの行灯袴を穿いていたが、迸った涙はその末広がりの裾にさわらずに、じかに前方の地面に届いた。(私は涙もろい性質であるが、こういう泣き方をしたのは、この時と十年後弟保が死んだときだけである。)」 大岡昇平「少年」 「少年」 という自伝的な作品の中で、 大正9年 当時、 10歳 だった少年の姿を振り返っているのは、執筆当時 64歳 の作家 大岡昇平 です。
「私はそのような卑しい母から生まれたことを情けなく思った。暮れかかる月島の町工場の並ぶ埃っぽい通りを、涙をぽたぽたたれ流しながら歩いている、小学生の帽子をかぶった自分の姿は、いま思い出しても悲しくなる。」 この時、 府立1中 の入試に失敗し、 青山学院中学 への進学が決まった 10歳の少年 が知ったのは、結婚するまでの 母 が 「芸妓」 であったという秘密でした。
「そうだ!」 と思い当たったのが、最近、 中公文庫 で復刊された 「成城だより(全3巻)」(文藝春秋社・講談社文芸文庫・中公文庫) です。
1980・9月18日 木曜日 曇
やや冷。やっと息を吐く。乱歩賞受賞作品 『猿丸幻視行』 を読む。タイム逆行剤を飲み、折口信夫先生になり替わりて、猿丸太夫=人丸説を探索す。作者の断られる如く梅原猛 『水底の歌』 を参看す。文章セリフ荒く、折口先生のイメージと一致せざる恨みあり。
女が男の耳をつかみて支配する場面、二度出てくる。これは「トリスタンとイズ―」の原型物語にある魔法にて、後に媚薬に変わる。作者意識しありや。(以下略)
1980・9月22日 月曜日 曇
周辺映画館に味をしめ、自由が丘推理劇場に行く。 ヴィスコンティ「イノセント」 。上流者機影が流行、スノビズムに迎合か。退屈とエロチスムとソフィストケイトされたダイヤローグの即物的描出。悪くなし。ただし悪党だが憎めない立役のメロドラマ的自殺はいただけない。 「アリア・ブラウンの結婚」 の方、はるかに面白し。(以下略)
まあ、こんな調子なのですが、みなさん、映画の話とか、続きが読みたいと思いませんか。
社会事象に対する辛辣で、戦争体験者の矜持にみちた発言も 「読みどころ」
、いや 「聴きどころ」
だと思います。決して、昭和の老人の繰り言ではないところがさすがです。
二十代のぼくにとって、 吉本隆明
と並んで、もう一人の神様だった人が最後に残していった仕事です。乞うご一読。
というわけで、 YAMAMOTOさん
お次をよろしく。 (2020・09・21・T・SIMAKUMA)
追記2022・07・22
上の投稿で話題に出した 吉本隆明、大岡昇平、
そして 加藤典洋
という3人が3人とも 「戦後」
という時代を生きた人でした。それぞれが、あの戦争について、戦前の国家体制について、生涯かけて考え抜いた人といっていいでしょう。 吉本隆明
は皇国少年としての敗戦体験、 大岡昇平
は飢餓の戦場の兵士として、敗戦後の俘虜としての戦争体験、 加藤典洋
は特高刑事の子としての葛藤、世代はずれていますし、体験もそれぞれ違うのですが、 「まともな考え方」
ということが、どこから生まれてくるのかを教えてくれた人たちです。
2000年
あたりが転機でだったのでしょうか、彼らが書き残した 「まともな考え方」
に対して、軽佻浮薄さがただ事ではないと感じる政治的発言が大手を振り始め、その代表者のような人が銃で撃たれ、税金を使って葬儀をするという素っ頓狂な事態が勃発しています。開いた口が塞がらないとはこういう事態との遭遇の場合をいうのでしょうね。
まあ、詠嘆してもしようがないので、ここで取り上げた 3人
をはじめ、 ぼくが
「まともな考え方」
の人だと、思う人の著作を一冊づつ案内していくほかありませんね。
「まともな考え方」
など、
もう、誰も振り返らない時代が始まっているのかもしれませんが、老いの遠吠え(笑)ですね。さて、何冊案内できるのか、まあ、どうせヒマですしね(笑)。
追記2024・02・16
100days100bookcoversChallenge
100days 100bookcovers Challenge備忘録 (1日目~10日目)
(11日目~20日目)
(21日目~30日目)
(31日目~40日目)
(41日目~50日目)
( 51日目~60日目))
いう形でまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと
備忘録
が開きます。
追記
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をお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)
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