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何くそっ!婆さまに好きな言葉は何と聞く。「何くそっ!」大正十一年生まれの婆様が言う。婆さまはずっと洋裁をしてきた。「何くそっ!と思って、うちは仕事するねん。」婆さまは洋裁一筋だ。若い時は猛烈に働いた。電車に乗ってもバスに乗っても縫い物の手を休めない。便秘の時は便所にいても針を動かす。デパートに行く時はスケッチブックを持って行った。マネキンの着ている流行りの洋服を片っ端からスケッチする。人が止めてもやめない。鼻息がふんふん荒い。いつもがむしゃらだ。何くそっ!何くそっ!ミシンを踏み続ける。ガラス障子ががたがた震える。何くそっ!何くそっ!婆さま、一体、どうしてだ?婆さまの父親は若い時に死んだ。婆さまの母親は目が見えなかった。婆さまは母親の手をひいて通りを歩く。石が飛ぶ。心ない言葉が飛ぶ。婆さまは洋裁で家計を支える。婆さまもぐっすり眠った日がある。父親の三味線が鳴った日だ。婆さまの父親は三味線の名人だった。子供だった婆さまにも三味線を教えた。婆さまはちっとも覚えなかった。稽古が始まった途端、居眠りをしてしまう。ぴんしゃん・ぴんしゃん。父親の三味線が鳴る。婆さまはうとうと眠る。稽古が終わるまで、ぐっすり眠る。「父ちゃんの三味線はそれほど上手やった。」その父親が死んで、婆さまは眠らなくなった。もう三味線は聞こえない。何くそっ!何くそっ!あの日から、婆さまはミシンを踏む。何くそっ!何くそっ!わたしは父ちゃんの三味線が鳴るまで眠らない。何くそっ!何くそっ!そうやって、生きてきた。婆さまは年をとった。よく眠るようになった。夜は早く寝る。昼間もよく寝る。「父ちゃんの夢、見るねん。」ぴんしゃん・ぴんしゃん。父ちゃんの三味線が鳴る。父ちゃんの歌も聞こえる。♪高い山から!婆さまは口ずさむ。そこから先は歌えない。知らない。居眠りしていた。「生まれ変わったら、三味線弾きになる。」そんな事を言いながら、またミシンを踏む。パンタロンを縫っている。婆さまは明日の敬老会にそのパンタロンをはいて行く。(P69)
この人、どんな小説を書いたのだろう?
追記
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