森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2025.01.09
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小説家の大江健三郎氏には知的障害を持ったご子息がいらっしゃいます。
生まれつき後頭部がこぶ状に膨らみ脳がはみ出ているのです。
医学的には脳瘤(のうりゅう)と呼ばれます。
大江氏は「個人的な体験」という小説で脳瘤の赤ちゃんについて取り上げています。

現実を直視しない主人公は、奥さんが妊娠中にアフリカへ旅行することを考えたりしています。
障害児が生まれてくると、自分の子どもを「怪物」と表現します。
つまりわが子を完全に拒んでいるのです。義母も同様です。
受け入れようとしない。さらに産科医までが「この赤ちゃんは早く死ぬ方がよいいいだろう」と言い放ちます。
主人公は、自分の子どもにも自分の人生にも真正面から向き合おうとはしません。

なかなか死なない赤ちゃんを見て、主人公はわが子を死なせてくれる医師のもとへ連れて行きます。

しかし、生と死の究極の場面で、父親はある結論に到達します。
「欺瞞なしの方法は、自分の手で直接に縊り殺すか、あるいはかれを引き受けて育てていくかの、ふたつしかない」
これが受容の第一歩でした。それも何か特別なきっかけがあったわけではありません。
つまり受容には時間がかかり、他人からの説得などの明確な転機があるのではなく、自然とそういう心が芽生えてくるということなのです。

この小説の最後の場面では、主人公の義父母が完全に赤ちゃんを受け入れています。
赤ちゃんの死を望んだ義母がなぜ簡単に障害を受容してしまったのでしょうか。
それはおそらくこの受容が「真の受容」ではなく、「仮の受容」だからです。
私たちの受容の心は一直線には進みません。
らせんを描くように遠回りしたり、一歩進んで一歩後退しながら進んでいきます。

受容は「あきらめ」から始まることが多いようです。
「あきらめ」は居直ることや自暴自棄になることとは違います。
「あきらめ」の気持ちは「容認」からやがて「克服」に変化します。

(いのちは輝く 松永正訓 中央公論新社 54~57ページ)





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Last updated  2025.01.09 06:20:08
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kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) New! 申し訳ございません。生涯森田様でした。
kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) New! 障害森田様 この記事の中で「心とは裏腹…
楽天星no1 @ 早速のご返事感謝 森田生涯さんへ 早速のご返事ありがとう…

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