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一日の授業を終えたトールは、学校内の自室で机にむかっていた。何枚もの書類の上を羽ペンがすべってゆく。 コンピュータを操作しているように見えようが、羽ペンと羊皮紙に見えようが、エネルギー的にデータの書き込みをしていることは何も変わりがない。 教師達はそれぞれ自分の好きな方法でやっており、トールが羽ペンを走らせているのは、単にそれが好みだというだけだった。 適度にゆったりした部屋には中央に大きな机があり、磨きこまれて濃い茶色に艶を放っている。 壁際に小さなソファがふたつと観葉植物、机の反対側の棚には、いくつもの書物やクリスタルが並べられていた。 机の隅には、盆栽のような形で世界樹のミニチュアが置いてあり、現れたり消えたりする半球形のドームの中で日が照ったり雨が降ったり、葉を散らしたりしている。 すべての書類を書き上げ、羽ペンを机に放り出してトールが伸びをしていると、扉をノックする音がきこえた。 「どうぞ」 声にこたえてそっと扉を開けたのは、大きな黒っぽい瞳が印象的な、焦げ茶の髪の小柄な少年だった。神聖幾何学の授業に出ているから一年生ではないが、外見の年齢だけ見れば、十歳に届いていないかもしれない。 少年は机を挟んでトールの前に立つと、もじもじと言葉を選んでいるようだった。 彼の見つめる世界樹の上にドームが現れて雨が降り、また消えて日の光が葉を照らす。 「なんだい、ジョゼ? 魔法式の書き取りならとっくにもらっているよ」 世界樹の葉をゆらす風の音を聞きながら、机に肘をついて顔の前で指を組み、微笑んでトールは言った。 ジョゼ・グリーンフィールはしばらく無言でもぞもぞしていたが、やがてローブの袖から握りしめた手をトールの前に突き出して言った。 「先生、これ」 それは白い石だった。トールは手にとってそれを眺め、指先でつついた。 とたんに石を中心として各種の多面体と魔法陣が光りながら出現して、先ほどの授業でトールが見せたと同じような『形』を展開してゆく。 しばらく眺めてから、トールはかたわらの少年に向かって微笑んだ。 「よくできてる。頑張ったね」 「ありがとうございます!」 ジョゼがぺこんと頭をさげる。トールは続けた。 「多面体がいくつか抜けているのと、魔法式に四箇所ほど書き違いがあるから、次はそこを気をつけてごらん。今の時点でも、立派に『良』はあげられるけれどね」 片目をつぶってみせると、少年は他に言いたいことがあるらしく、またもじもじと上目がちにトールの顔を見た。 「・・・・・・先生、あの・・・・・・」 「なんだい?」 優しい声にも、ジョゼはしばらく下を向いたり上を向いたりしながら口をきけずにいた。 世界樹のドームが消えたり現れたり・・・・・・ ずいぶんたってからやっとトールの目を見たが、勢いこみすぎて、まるで怒ったような顔になっている。 「・・・・・・僕を弟子にしてください!」 ジョゼは顔を真っ赤にして言い切ると、肩ではあはあと息をついた。 トールは目をしばたたき、手の中の白い石から少年へと視線をうつす。 冬の湖のごとく透き通ったの瞳にじっと見つめられ、ジョゼはすべてを見通されているような気持ちを味わった。 「なるほど、学校の勉強だけでは満足できないってことかな?」 眼鏡ごしの問いに、少年は緊張したへの字口のままうなずく。白い石を手の中でころがしながら、トールは考えた。 確かに、さっきの今でまがりなりにも自分の『形』ができるなら、学校の授業では物足りない部分があるに違いない。 しばらく考えてからトールは口を開いた。 「うん・・・・・じゃあ、校長に話をしてあげよう。 授業のない時間は、クリロズの僕の部屋にくるといい。あっちにも僕は同時存在しているからね。 ただし、授業にはきちんと出て勉強すること。ひとつでも赤点をとったら、僕の研究ではなくて自分の勉強に専念すること。いいね?」 少年の緊張を和らげるように、トールは微笑んだ。 彼は分身である銀巫女よりもっと近い形で、クリロズにも常駐している。 すべての人の元に同時に現れるという大天使には比べるべくもないが、エネルギーが大きくなれば、そうして何箇所かに同時に存在する者も上世界では少なくなかった。 トールの場合は、今のところクリロズにひとり、家やこうして魔法学校にいるのがひとり、本体のそばの三次元にひとり、それに分身として銀巫女がいる。 現在クリロズのトールが一番時間が自由になるから、ジョゼにいろいろと教えることができるだろうと思われた。 「はい!!」 よほど嬉しかったのか、ジョゼは顔を輝かした。 *************** このジョゼ君。下に本体さんがちゃーんといらっしゃいますw授業内容を誰にも話さないうちから、かなり細かくお持ち帰りしてらしてそりゃもうびっくりしたのでしたwwwこの【銀の月のものがたり】シリーズはimagesカテゴリでお読みいただけます。応援してくださってありがとうございます♪→3/31 芽吹きのヒーリング
2009年03月31日
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トールは魔法学校に講師として籍を置いている。 担任は持っていないので毎日出勤するわけではないが、初級から上級まで、いくつかの授業を受け持っていた。 今日は午前が神聖幾何学、午後が魔法理論だ。 神聖幾何学は中学年以上の混合クラスになるので、教室の生徒達もかなりバラエティにとんでいる。 魔法を学んでいくうちに外見が変わってくる者も珍しくなく、だいたいが若い青年程度の外見であるものの子供や動物風の顔も混ざっており、中にはドラゴンや妖精もいるから、顔ぶれだけを見ても何年生かは判断がつかない。 学校でだけかけている素通しの銀縁眼鏡を通して、トールは30人ほどの生徒達の顔を見渡した。 「今日は個人の幾何学的特性について、だったね。 すべての生き物には、固有のエネルギーフィールドが存在する・・・・・・オーラと呼ばれることもあるね。オーラの見える人?」 数人を除き、ほとんどすべての手があがった。 トールはうなずいて話を進める。 「厳密に言うと、オーラとエネルギーフィールドは同じものでもあるし違うものでもあると言える。 それは、まずそこにエネルギーの結晶体であるモノがあり、それの持つものを『色』や『流れ』や『形』など、色々な方向からとらえて呼んでいるからなんだ。 主に『色』で捉えた場合にオーラ、『形』で捉えられた場合にエネルギーフィールドという言葉を使うことが多いかな」 「捉え方の違い、ということですか?」 几帳面そうな、太い眼鏡をかけた青年が質問した。 「そうだよ。だから、色でエネルギーフィールドを、形でオーラをとらえたとしても、けして間違いではないんだ。 どちらも同じものの一側面でしかないからね」 「じゃあなぜ同じ言葉で呼ばないんですか? ややこしいのに」 部屋の端にいる女生徒が口をとがらせる。呼び名と特性が分かれているということは、試験のときに覚える項目が倍になるということだから、気持ちはよくわかった。 苦笑を浮かべながらトールは言った。 「本当にね。でも、見え方が違うから、一緒にするとかえって混乱してしまうのかもしれないよ。 たとえば、オーラ、というとこんなふうに見えるんじゃないかな?」 指を鳴らすと、虹色の層をもった光の輪が大きく彼の周囲にひろがった。オーラが見えるといった生徒たちはうなずき、手を上げなかった生徒たちは目をみはっている。 「これがエネルギーフィールド、という場合はこんなふうに見える・・・・・・僕の場合は、ね。見え方にはかなり個人差があるから」 もう一度指を鳴らすと、今度は何重にも重なり合った多面体が、トールの身体を中心に同心円を描くような光の線となってあらわれた。 正四面体、マカバ、正十二面体などなど。三次元でケプラーの宇宙像と言われるものに似ているが、同じ形状のものが角度をずらして複数ある場合もあり、もっとそれぞれが重なり合っているようだ。 それだけで複雑精緻にみえる形態に、教室がどよめく。 「もっている多面体は、それぞれの特性によって傾向が違う。各種エレメントの多さ、妖精系とか天使系とかね。その重なり方によっても違ってくる。 で、多面体のみではだいたいの傾向を表すだけだけど、そこに個人の場合はたいてい、各種の魔法陣が追加される」 光の線が何本も流星のように走って多面体の角を結び、円を描き、魔法式を書き込んでゆく。 「これによって、エネルギーの波の中で『モノ』という存在が定義されているんだよ。そしてこの存在は、常に動いている」 左手を上げると、掌に金色をした二本の螺旋が出現した。一本は上方向へ、もう一本は下方向へむけて回転しているように見える。 「動きの基本は、右回りと左回りの螺旋。・・・・・・これらを総合すると、こうなる」 螺旋がとびあがってフィールドに組み込まれていく。すると多面体も魔法陣も、それぞれがそれぞれの方向にそれぞれの速さで、精巧な機械仕掛けのように回転を始めた。 「これが、定義されたものが『生きている』状態。こういうふうに見ようとすれば、誰でもがこうなっているんだよ」 目を丸くしている生徒たちを前に、回転する光の積層魔法陣の中からトールは微笑んだ。かるく手を振ると、ふっと光が消える。教室はいつもの状態に戻り、昼近くなった陽が明るく窓の外を照らしていた。 「まあ、色や香りや感触として認識する人もいるから、本当は人によって見え方が違うんだけど。 今出た神聖幾何学が、すべての基礎に読みとれる共通語であることには変わりないんだ」 教室のあちこちで、目をしばたたいたりため息をついたりしている生徒がいた。実際に魔法にかけられたような気がしたのかもしれない。 彼らの目をさますべく、さらりとトールは爆弾を放った。 「僕の『形』は今見せたね。じゃあ、今度は自分の『形』をそれぞれ読んで、模型を作ってごらん。 エネルギーを固めて物を作る技術はもう習っているね」 「えーっ」 たくさんの口から同じ言葉がもれる。 トールはとりあわず、くすくす笑いを忍ばせた。 「ゆっくりでいい。最初はエレメントの基本図形からでいいよ。 自分の『形』の模型は・・・・・・そうだな、学年末の試験がわり。 あれができると、自分をヒーリングしたりフィールドを調整するのにも、とても便利だからね」 「先生、香りや感覚でとらえる人はどうしたらいいんですか?」 「その場合は、一度幾何学立体に翻訳してもらうことになる。個人の受け止め方が違うだけで、実際にある本質はなにも変わらないからね。 逆に、最初から形で見える場合も、自分なりに香りや感触を感じてみるといいよ」 眼鏡ごしにゆっくりと生徒たちを見回してトールは続けた。 「なにも間違いなんてものはないんだ。すべてが真実の一面を担っている。 だから、自分の感じたものに自信をもつことだよ」 応援してくださってありがとうございます♪→3/31 芽吹きのヒーリング★読んでくださる皆様へ★物語がですね、ものすご~~~く貯まってまして・・・orz 書いてあるぶんが10話以上あるのに、さらに先に抜け部分を書かないとアップできないという。 リアルとリンクした物語で、あまりタイムラグを作りたくないし なによりネタたまりすぎて書ききれなくなってしまうので、 しばらく基本的にコメントレスはお休みさせていただいて 書くことに集中したいと思います。 ……気晴らしに所々出没するとは思いますが、全部は無理になってきました(^^; このご無礼は、物語でお返しできたらいいなあと思います。 でも書く動力源ですので、ご感想等ほんとに大歓迎です!! いただけると小躍りして、次のお話に気合いが入ります。 リアルからの本体ツッコミなどもご遠慮なく! 勝手なお願いすみませんが、気合いいれて書きますので どうぞご理解のほど、よろしくお願いいたしますm(_ _)mPSお茶の時間、のナンバー訂正しました。すみません><
2009年03月30日
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しばらくすると緑の少女は目ざとく、トールがこっそりとあくびをかみ殺していることに気づいた。 「おまえ、やっぱり眠いんだろ」 「いえ、大丈夫ですよ」 「おまえの大丈夫なんか信用してなるものか。 だいたいこんなソファじゃ、身体が余っちゃってるじゃないか。 ……そうだ、あたしが寝かせてやるよ! さあさあ、ベッドへ行った行った」 素晴らしい思いつきをした、と少女は目を輝かせた。あたしだってそれくらいできるんだからな、とトールの腕をひっぱってソファから起き上がらせ、背を押して寝室へと向かわせる。 部屋のドアを開けると、廊下でおとなしく待っていたらしい少女の幼いドラゴンたちが、いっせいにぴいぴいと鳴いた。 彼らににっこりと笑いかけて、ぐいぐいとトールの背を押していく。 寝室のベッドにトールが長身をおさめると、少女は得意げに横に座った。 「ほら、ねーむーれー、ねーむーれー」 とんとん、というよりは、ばしばし、に近い力加減で、彼女は布団ごしにトールの身体を叩いた。 苦笑してされるままになっていたトールだったが、暖かな布団に疲れた身体のほうが先に順応してしまい、だんだんと目蓋が重くなってくる。 「だいじょうぶ……です、よ」 あくびの混ざった眠たげな声に、少女はますます嬉しそうにいいからいいから、と叩く手を早めた。 そのとき、子守唄の続きはなんだったっけ、と思っている彼女の思考にアクセスしてくるものがあった。 凶暴ではないが色は黒っぽく、興味津々に、かつ一生懸命アピールしてくる感じだ。 少女は(なんだよ、じゃまだな。あたしはトールに子守唄歌いたいんだから)と空いた片手で振り払うしぐさをしたが、相手はかまってほしいのか、怖い映像など送ってきて、なかなか引き下がろうとしない。 一瞬剣で追い払ってやろうかとも考えたが、でも悪意はないしな、と彼女は思いとどまった。 ちょうどそのころ、トールの意識にも聞きなれた声が伝わっていた。 (……これは珍しい場面だなあ。緑が寝かしつけやってる) (やあ、シュリカン) 声を出したり目を開けたりするのに比べれば、意識だけの会話はずっと楽だ。少女を探していたシュリカンは続けた。 (なんか、黒っぽいのが緑にアクセスしてるな。お前のとこはセキュリティ堅いから、そういうのはじくかと思ったのに) (悪意はないからね。認証されてなければここに入ったり直接干渉したりはできないけど、意識を特定できるなら通信はできるんだよ。 もちろん、明確な悪意があったら通話もはじくことはあるけど。 さもないと、電話もつながらない絶海の孤島になっちゃうからね) (まあ確かにな。 で、あいつは得意満面だが、どうするんだお前) (どうもこうも……身体のほうが限界で、もう起きられないな。本体から苦情もきてることだし、しばらく寝るよ。明日は授業だし) (そうか。緑はどうする?) (僕はかまわないけどね。姫様に寝かしつけていただくのは光栄の極み…… とはいえ、君のほうが気が気じゃないだろ。寝てる間、ここの全権を君に委任するよ。基本自動システムだから、あとはほっといてくれればいい。いいかい?) (了解。受け取った) シュリカンとの心話は切れた。 トールは大きく息を吸った。ゆっくりと吐きながら、身体中の力が抜けてベッドに沈み込んでいくのがわかる。 割り込んでくる通話をようやく追い払ったらしい少女が、相変わらずでたらめな子守唄を歌ってくれていたが、すでに彼の意識はとぎれとぎれだった。 せっかく自分のために歌ってくれているのだから、もっと聞いていたいと思うのだが、松脂でくっつけられたように目蓋があかない。 ひとつの呼吸ごとに彼の心は眠りの国に沈みこんでいき、穏やかな平和に満たされて、やがて規則正しい寝息に変わっていった。 トールが完全に眠ったと思えるまで、少女は布団を叩くのをやめなかった。 力加減がこれでいいのかわからなかったが、彼が安らかな寝息を立てはじめたところをみると、たぶん間違ってはいなかったのだろう。 寝かしつけに成功したと知って、彼女の顔が輝いた。 「やったー」 思わず叫びかけて、さすがに手で口を押さえる。そのとき守護竜のシュリカンから心話がとどいた。 (おい、もう帰ってこいよ。あいつは寝たんだろ) (やだよーだ) せっかく成功したんだもんね、お祝いしなくちゃ、と少女は足音を忍ばせて小さなドラゴンたちと踊りだした。 最初は声もひそめていたのだったが、だんだん踊りに熱中しだし、そのうちベッドをトランポリンにしてきゃあきゃあ飛び跳ねはじめる。 (……お前な、それはいくらなんでも迷惑だ。撤収するぞ) シュリカンの苦虫を噛み潰したような声が届くと、周りの空間がぐにゃりと変化した。緑の少女とドラゴンたちは、手もなくすぽんと別の空間へ引っ張り出されてしまう。 (あれで起きないってのもすげえよな。才能なのか、甘いのかな) 眠るトールに敷地の管理権を返しながら、自分のことを棚にあげてシュリカンは呟いた。 ********** 甘いのです。(本体即答 続きが読みたいという奇特な方は拍手してねw応援してくださってありがとうございます♪→3/31 芽吹きのヒーリング
2009年03月27日
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ネット開通しましたー!!嬉しいので本日二個目の記事です♪ 書き溜めてあったトールの小説などwww************自宅の大きなソファに、トールは疲れきった長い身体を投げ出していた。 さすがに一日四戦には無理があった・・・・・・しかもそのうち二人は、大天使と戦闘教官だ。 しばらくは難解な魔法書を読むともなくめくっていたが、ほんの数分後には本を顔の上に伏せて、うとうとと眠ってしまった。 部屋はアイボリーの暖かな色調で統一され、家具はあまりないが、所々にクリスタルや植物の鉢が置いてある。 開け放った窓からは、薄いオーロラのようなカーテンをはためかせ、爽やかなそよ風が入ってきていた。 陽射しは春の陽のごとく暖かく、暑くも寒くもない。 静かな部屋に、彼のおだやかな寝息だけがかすかに聞こえていた。 「トール?・・・・・・寝てるのか?」 ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、緑の少女だった。 部屋の主が寝ていることに気づいて、勢いよく開けたドアノブを、そうすることで立てた音が取り消せると思っているかのように、あわてて自分のほうに引き寄せる。 しかし目覚めたトールは少女の姿を認めると、微笑んで本を脇にどけ、身体を起こそうとした。 「これは姫様、いらっしゃいませ。お茶でもお入れしましょう」 「いい。寝てろ」 つっけんどんに少女はさえぎり、大またに部屋を横切った。トールの横に立って彼の顔を見下ろし、疲れてるんだろ、と半分そっぽをむいて言う。 「だから、ここでいい」 少女は緑の服につつまれた小さな背中をソファに押しつけるようにして、膝をかかえて男のそばに座り込んだ。 トールは二、三度まばたきをすると、くすりと笑って片手を伸ばした。 少女の座るクッションのすぐ脇、ベージュ色のラグの端を、長い指がとんとんと叩く。 すると小さな魔法陣が現れて赤紫にきらめいたかと思うひまに、芳香をはなつ琥珀色の液体を満たした湯気のたつカップがふたつ、飴色の丸盆に載って現れた。 「どうぞ、お菓子もありますよ。お姫様」 小皿に載ったクッキーと、彼女の好きなアップルパイが出現する。 相変わらず器用だなあ、と少女が目をみはると、トールはソファのへりに片肘をつき、上半身だけ起こして紅茶をすすった。 「こういうときには、自分が魔法使いでよかったと心底思いますね」 ふうっと息をついて彼が大げさに満足そうな様子を見せたので、少女は部屋にきて初めて表情を崩した。 「寝たまま紅茶が飲めることが? クリロズのあんなでかいセキュリティとかシステムとか、好きに組めるくせに?」 クリロズというのは、彼女が管理する宇宙空間を航行可能なマザーシップのことだった。外見がいわゆる宇宙船ではなく、広大なバラ園に囲まれた洋館のある浮島と見えるため、クリスタル・ローズ・ガーデン、通称クリロズと言われている。 その外周は約二キロ。上世界の船としてはそう大きい方ともいえないが、もちろん決して小さくはない。 そのセキュリティや動力、航行および浄化システムの構築と管理はトールの仕事だった。 「あれは私だけの仕事じゃありませんよ」 カップを戻して彼は笑った。 「あなたに美味しい紅茶も出せないようなら、魔法を使う意味はありません。 それより、シュリカンに怒られたそうですね」 その言葉に少女はぱっと振り返り、大きな瞳でトールを睨みつけた。 彼女はクリロズの庭でシュリカンに剣を抜かれ、対戦中わざと彼が防御を外したことで、彼の左肩を少し傷つけてしまったのだった。動揺して震える彼女を、シュリカンは「トールの気持ちがわかったか。二度とやるな」ときつく叱ったのである。 「お前のせいだぞ」 「そうですね。申し訳ありませんでした」 視線を受け止め、トールは微笑んだ。少女がもっと怒るかと思ったのだが、意に反して彼女はまたすぐに黙り込み、背を丸めて最初の姿勢にもどってしまう。 すこしくせのある茶色い髪をトールはしばらく無言で見つめていたが、やがてそっと片手を伸ばすと、その髪を優しく撫でた。 緑の少女は、大きな暖かい掌が自分の頭に乗せられたことを感じた。 おそらく普段の少女を知る者が見たら驚くであろうことに、彼女はおとなしく頭をソファにもたせかけ、しばらく撫でられるままになっていた。 やがて彼女はぽつりと言った。 「もう、おまえとは二度とやらない」 「おや、それはシュリカンに妬けますねえ」 おどけてトールは言ったが、緑の少女は膝に顔を埋めてかまわず続けた。 「嫌なんだ。わかったんだ。あんなに痛いなんて……あんな思いは、もうごめんだ」 絞りだすように言うと、彼女は頭を上げてトールを見た。その大きな瞳に涙が浮かんでいないのが不思議なほどの、痛々しい表情だった。 「もう二度と、自分の力を使い尽くして死んだりするな。 自分を捨ててあたしを護るな。 あたしの楯になるな。 おまえを失うのは嫌なんだ」 「……最後のひとつ以外は仰せのとおりに、姫様」 想うほうと想われるほう、嬉しいのは辛いのは、いったいどちらなのだろう。 止めていた手を動かして少女の頭を撫でながら、ゆっくりと彼は答えた。 「なんでだよ」 「簡単です。あなたが誰かの楯になったら困りますからね。自分が約束できないことを、人にやらせてはいけませんよ」 青灰色の瞳が微笑む。 少女はぷっとふくれ、トールはずるい、と呟きながら頭をもどした。小さなくすくす笑いがそれを追いかける。 「大丈夫。わかっていますから。 私は死んだりしません……たとえそれが、あなたを護るためであっても」 静かなトールの声は、やわらかく大地にしみこむ雨のようだった。 少女は彼が自分の気持ちも、そのほかのすべてもわかっていることを知った。 ***************あいかわらずのらぶ話ですいません(爆 今後マリア(銀巫女)のネタも増えてくるんで、総タイトルを「銀の月のものがたり」に変えようかな~とおもいます。 タイトルでは次から「銀月物語」とかに短縮しますがw しっかし、ネット落ちしてて思ったのですが 私は書くのが好きです。 ネットにアップできなくても書く。書くことそのものが楽しいんです。 小説書いてると、広辞苑と逆引き広辞苑と類語辞典がほしくなる! これ、きっと人生の小目的に設定してるに違いないな~と思いました。 きっと一生やるんだろうな・・・・・・ネタさえうかべばw そんな自分の楽しさの物語ですが、読んだ方が楽しんでくださったら望外の幸せです^^ 来週火曜の一斉ヒーリング記事もかきました~(これはメールでw よかったら見てくださいね♪応援してくださってありがとうございます♪→3/31 芽吹きのヒーリング
2009年03月26日
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なんか唐突にやりたくなりましたw今回活躍予定なのは、このブログを読んで下さっている方はご存知、私のハイヤーである銀巫女です。この人、いずれ物語としてアップしたいなと思いますが、リアル引越しにあわせて一回死んで生き返るというおちゃめな事態になり^^;文字通り生まれ変わったような?名前も浮かんできて、マリア=ソフィア。わりにありがちな感じでw^m^長いから適当にマリアとか呼んでます。単純に響きが可愛くて好き♪で、この人巫女さんなんですが、ヒーラーでもあるようで。次の一斉なににしようかな~と考えてたら、わたしわたし、みたいなアピールがあり(笑)せっかくなので挑戦しようと思いました☆どうなるかかなり未知数ですが、実験くんにお付き合い下さる方、大募集です!!彼女のイメージって……春。色が淡い感じだからかなあ(あいかわらず安直な)。ヒーリングテーマも、季節にあわせて「芽吹き」にしてみます♪ 芽吹く種は、皆様それぞれの胸の中に。誰もが自分の種を抱いて生まれてきたのではないかと思うのです。それは特別なことではなく、みんなが持っているもので。温かさにつつまれて楽になれたら、自分が見つかったら育つもので……。あたたかな春の陽射しのもと、あなた自身の素晴らしい可能性の種を、みつけて芽吹かせるお手伝いができますように^^今回実験くんですので、寝落ち上等でご感想くださったら幸せです♪★リアルタイム2009年3月31日(火)21:30から60分間★コールイン可能期間リアルタイム~翌日水曜20:30開始までご注意などはいつもの一斉ヒーリングに準じます。はじめましての方は、お手数ですが過去記事をご覧くださいね。次の一斉は、パソコンから更新できるといいなあ♪
2009年03月26日
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春分をはさんで、ルシフェル→ルシフェル&ミカエルときたら次はやっぱりミカエルピンでしょー、と非常に安直な考えのもとに(笑)いやほらね、こういう流れには逆らわないほうがいいとここ2年ほどで学んでみましたwで、ミカエルさん。スパルタキングとして有名すぎて、一部恐れられてるむきもありますが……(^-^;ほんとはすっごい愛のカタマリみたいな人、ですwしかもすごい直球勝負!それだけに厳しい言動になるんでしょうね~ラピスラズリの説明を読むたびに、ミカエルを思い出してしまう私です。色もロイヤルブルーだし♪そして彼のテーマは「ノンジャッジメント」。でも、剣がシンボルであるとも言われます。(エンジェルリンクだと光輪ですね)いつも思うんですが、剣というのはそれなりの主義主張なしには振り下ろせないものではないかと……強制されない自由意思のもとでなら、よけいに。基本的に誰かを何かを、切るための道具ですから。「ノンジャッジメント」を象徴しながら剣を持つとは、なんと重いものを背負っているんだろう、と思うのです。裁くべからず、という姿勢と誰かを何かを護るために、その手に握る剣と。この人も、相反するものを抱えこんだ上ですべてを包み込んだその上で私達に道を示してくれているのかもしれません。★リアルタイム日時2009年3月24日(火)21:30~22:30★コールイン可能時間リアルタイム~翌25日(水)20:30開始まで★募集期限リアルタイム直前まで(火曜21:30まで)この記事に参加表明してください。前のヒーリングのご感想などいただけますと、非常に励みになります♪ ありがとうございます♪その他注意事項はいつもの一斉ヒーリングに準じます。初めての方は、お手数ですが過去記事・フリーページをご覧くださいね。★★春分の光と闇のバランスヒーリングも、日曜いっぱいまで受付中!ひとつ前の記事からどうぞです♪それではお待ちしております(^-^)
2009年03月21日
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春分ですね~。昨日、タイミングをきっちり合わせてセンタリングとか再確認させられた私です orzお世話になった方のご紹介は、携帯からじゃリンク貼れなくてなんなのでまた後ほど…。とりあえず、春分前のぐるぐるで得たものの再確認と、自分が受けたいので(笑)一斉ヒーリングなぞ♪光と闇……これは以前からずっと思っているのですが闇があるのが悪いわけではなく夜の闇がなければ人は安心して眠ることができないし光の輝きが目に痛いときもあるし過去の積み重ねで今の自分がいるけれど今は今の自分で過去じゃなくといってなかったことにできるわけでもなく結局のところ大事なのはバランスなのかな、と思います。ふたつながらあるのが自然。そして、バランスとかセンタリングとか立ち位置を決めるためには振り子のように両側に揺れてみる経験も、また必要なのかもしれません。色々痛い目にあって学んでみたりね……(遠い目)というわけで今回は、先日のルシフェルにミカエルのペアでお届けします。双子とか兄弟とかの説もある二人。過去~現在にわたって、不要なエネルギーコードの処理もできるので(自分で先に気づけばよかったよ私……)今ここの自分自身、に戻るお手伝いをいたします。光と闇と自分。みんなおんなじ、みんなだいじ(^-^)★ヒーリング期間本日この記事がアップされてから~22日24時まで(募集も同じく)期間中、何度でも好きなだけコールインでお受け取りいただけます。最初の一回のみ、この記事のコメント欄に参加表明していただけると幸いです。その際、前のヒーリングの考察など書いていただけますとすごーく喜びますw好転反応などの注意事項は、毎週火曜の一斉ヒーリングに準じます。まだネットが開通していないので、初めての方はお手数ですが過去記事をご覧くださいね。それではたくさんのご参加お待ちしております♪
2009年03月20日
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相変わらずネット落ちしております~~ なにみえバナーを大きな画面で見たいよう(T-T) 新築で電話自体が開通してなかったアパートに、光ファイバーが先に入ってることがわかりまして…… でもそれで繋ぐには、今までのプロバイダだとすごく高くなっちゃうとか。 で、管理会社とのやりとりの結果、せっかく光入れてるのでそっち使ってほしいってことで(そりゃそうだ) そうなるとプロバイダ変更も考えなきゃ…… でもネット使えないから比較検討できん! ……というわけわかめな感じになってます orz 詳しい人が近くにいてくれたらいいのに~~。。 とりあえず光の工事が26日になるそうなので、 ネット回復は早くて今月末になるかと。 遅くてすみません。 ■好転反応についてご質問くださったY様、 そんなこんなでメール書けませんが、感情の毒だしありますよ~ フリーページに好転反応について書いてますので、ご覧下さるとうれしいです♪ ■S様、エンジェルリンクのテキストお送りしましたが 無事届きましたでしょうか? ネット開通次第メールさしあげますので、のんびりお読みになってみてくださいませw ■ネット落ち後にお問い合わせの皆様には、開通次第またお返事させていただきます。 すみませんがよろしくお願いいたしますm(_ _)m
2009年03月16日
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じぇいど♪さんの本、「なにが見えてる?」が楽天で予約開始されましたよ~~~!! 携帯で検索してさっそくぽちりましたとも。2冊(笑) 携帯なんでリンク張れず申し訳ないですが、じぇいど♪さんのブログにリンクあるので行ってみてくださいね~w トールのかんでる予約特典は、楽天のみです。 気になる方はぜひ☆ また、来週火曜のルシフェルヒーリングも募集中です♪ ひとつ前の記事からどうぞ(^-^)
2009年03月12日
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こんにちは。おかげさまで、無事新居にはいりましたw部屋の中はまだまだ魔窟ですが……(^-^;今日は幼稚園と市役所の手続きをひととおり終えて、ほっとひと息です。ADSLを申し込んであるのですが、開通までまだかかるようで……orzコメントやメールのお返事ができませんが、どうぞお許しくださいませ(T-T)エンジェルリンクのお問い合わせも、どうもありがとうございます!ネット開通次第お返事させていただきますので、しばしお待ちいただければ幸いです。さて、来週は以前大好評だった、ルシフェルヒーリングをやりたいと思います♪暖かいマントであなたを包み、過去世やインナーチャイルドの傷を認め、癒してくれます。どんなに叫んでもわがまま言っても悪態ついても大丈夫。強く暖かい闇の中で、どうぞ存分に抱きしめてもらってくださいね(^-^)携帯からのメール更新なのでご注意がコピペできませんが、いつもの一斉ヒーリングに準じますので、お手数ですがそちらをご参照くださいませ♪★リアルタイム日時 3月17日(火)21:30~22:30★コールイン可能時間 リアルタイム~翌18日(水)20:30開始まで★募集期限 リアルタイム直前までたくさんのご参加お待ちしております♪
2009年03月10日
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恋は盲目のトール氏にたたき起こされたので、これは記事にせねばなりますまいwこちらをご覧の方なら、もうご存知かもしれませんが。あの、じぇいど♪さんの「なにが見えてる?」が本になりますよー!!いやあ待ってました!もちろん私も予約しますともwwwだって予約特典ほしいもん(笑)実はですねー、予約特典には、トールもこっそり一枚かんでるのですよーwいやほらあんだけアガペーMAXな奴なので(笑)私の新居の調整もそこそこに、そりゃああもう真剣になんかやっております。あ、もちろんリアルじぇいど♪さんのご了解のもとにね♪さすがなにみえ! 予約特典もすごいものがっ!トールの魔法が気になるあなた!一端に触れてみるチャンスですよ~~~~♪予約方法などは、来週中に詳細がアップされるそうです!来週・・・・・・来・・・・・・ら・・・・・・ネット落ちしてるじゃないかウワァァァァァァヽ(`Д´)ノァァァァァァン!!!・・・・・・・orzちょっとー誰のいやがらせよ?(爆えーっとパソコンとか担当は誰だっけミカエルだっけ。なにこの流れは。さらなるスパルタばっちこいしないとダメってこと?スパルタキング襲来?ううう・・・・・・キングきてもいーから予約したひ・・・・・・(あーあ言っちゃった 爆応援してくださってありがとうございます♪→3月10日(火) ロシアンレムリアンヒーリング
2009年03月07日
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明るい戦闘教官殿に返礼の術式理論を教えると、もう陽も斜めになりはじめていた。 トールはさすがに疲れはて、泉のそばの地面に長身を伸ばした。あっという間に、そのまま眠りこんでしまう。 やがて陽光が朱に染まり始めるころ、下草を踏み分ける足音がして彼は目をさました。 「ここにいたんですね」 顔を出したのは傷の治ったデセルだった。彼には結界の認証コードを渡してある。 トールは大きく伸びをして、半身を起き上がらせた。 「ちょっとばかり鍛えられてね」 デセルは無言で肩をすくめた。いつも陽気な表情がぶすっとしている。 「・・・・・・逃げてきた? 君が?」 言葉にされない情報をエネルギーごしに読み取って、トールは驚いた。不敵なデセルが敬語を使ったり逃げたりする相手は、彼の知るかぎりほんの数人しかいない。 状況を理解して、銀髪の男は頭を振った。 「・・・・・・どうもご愁傷様」 「どういたしまして。で、一本どうです」 デセルは剣環を鳴らした。つまりは逃げ回るばかりであったのが、少々欲求不満であるらしい。 トールは一瞬本体の負荷を考えて躊躇したが、すぐに思い直した。身体は疲れていたが、なにか表現しがたいものが爆発したそうにしているのは、彼も同じであったからだ。 「やるか」 素早く立ち上がると、並んで荒地へと向かった。 精緻な技を競った数日前の対戦と違い、お互いの剣はほとんど力任せに打ち下ろされた。一合ごとに重い音が鳴り響く。 天使や教官の前では目立たないが、二人とも普通以上の使い手ではあるのだ。「それ、トールさんに合った戦い方かな? 大体、力に頼ってたらロクな問題が起きないって分かってるじゃん」 戦闘教官の声が脳裏にこだましている。 わかっているよ、と彼は唇だけをかすかに動かし、大きく踏み込んでデセルに斬りつけた。 わかっている。そんなことはとうに。 この統合の時代に、剣の力などおそらく無用の長物になっていくのだろう。 彼もそうなってほしいと願っている。 デセルの魔法陣がきらめいて剣を防ぎ、跳ね返す。返す手で脇に打ち込まれた剛剣を、トールは身体を開いて避けた。 彼が剣の腕を鍛える理由は、ただひとつ。 彼女が、その強さゆえに孤独になることがないように。 万一強い者が盾に必要だと言われたとき、自分が彼女の前に立つことができるように。 それ以外は無用の長物でかまわない。 否、彼女がもしその強さを、その孤独を捨て去ることができるのなら、トールは自分の持つなにもかもを投げ捨てても惜しくはなかった。 彼女を護るためなら、何を手放してもかまわない。それが彼の誓いであったから。 それほどまでに、彼女は孤独だった。 自らの特質を分析し評価する、冷静な目を持つがゆえに。 その苦悩は人知れぬ。 彼女が怜悧な頭ももたず過去も知らず、ただ無邪気に笑っていられたならどんなによかっただろう。 けれど彼女は・・・・・・泣いていた。 自分も泣きたいような気持ちになって、トールはデセルの剣を思い切りはねとばした。 だから、彼女より強くありたいのだ。 すべてを知ってなお、何にもかかわらず想う者はいると。 ひとりではないのだと、言葉によらず知らせるために。 ***************ステーション一個まるごと吹き飛ばしちゃう、桁違いに強い想い人さん。どんなに鍛えたって、勝てないのかもしれないけれど。引越し前に、ここまではアップしたかったのですーほんとは次のエピソードが、自分的にはお気に入りだったりするんですがwそれは引越し後かな。今日は前日搬出が終わり、大きな家具とかすでになくなって部屋が広い・・・しゃべると声が反響するんですよ~(笑パソコンは残してもらったけど、明日の早朝には使えなくなります。新居のネット環境、早く繋がるといいなあ><応援してくださってありがとうございます♪→3月10日(火) ロシアンレムリアンヒーリング
2009年03月06日
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さすがに疲れて、トールは森の泉まで戻り、水を飲んだ。 泉の精が水底で意味ありげに笑っている。わざと波紋を立ててその顔を消し、彼は顔を洗った。 立ち上がったところで、敷地結界に誰かが入ったのがわかった。 ミカエルが手配してくれた教官にちがいないと思って歩を早め、荒地に着いてみるとうら若い女性がひとり。なんにもないなあ、という顔で荒地を見回していた。 「こんにちは。ミカエルから頼まれて来ました」 彼女は言ったが、トールはにわかに信じられない気分だった。 緑の少女の例もあり、女性だからといって弱いとはけして思わない。 ないのだが、ミカエルの紹介ということで、なんとなく男性と思い込んでいたものか・・・・・・彼女の服装が、ふわふわととても可愛らしいのものであったのも意外さの一因であったろう。 他意はないがつい不躾に見回してしまったらしく、彼女は気分を害したように腰の剣を抜き、顔の前にきらりと立てて言った。 「私が勝ったら術系の授業、タダで教えてくださいね」 「いや、そんなことしなくても普通にお教えしますよ」 慌ててトールも剣を構える。 そういえば彼女の気には覚えがある。戦闘教官をやっていたと聞いたことがあるが、以前会ったときはこの姿ではなかったから気づかなかったのだ。 「それにしてもあの・・・・・・その服、とても可愛らしいのですがなんとかなりませんか」 半分口の中で彼は言った。彼女の服はとても似合っているのだが、何かいじめをしているようで、たとえ隙をみつけたとしても何となく攻撃しづらいのであった。 すると彼女はなにやら動き、茶髪で緑の服になった。これが「教官バージョン」であるらしい。 「じゃ、いきましょーかー」 言って彼女は打ち込んできた。明るい口調とはうらはらに、その剣は鋭い。 さすが教官、と彼は声に出さず呟いた。しばらく受けていたのだが、 「ほらほら~。あんまり不真面目だと弾いちゃうぞっ…と~♪」 剣を飛ばされた。お見通しであるらしい。 では今度は、と力まかせに数度打ち込んでみる。彼女は絶妙の角度で自分の剣を突き出し、トールの斬撃をいなした。 「力はあるねー。あるに越したことないけど、使い方がちょっと違うぞ…っと」 また剣を飛ばされる。柔よく剛を制す。銀巫女と同じタイプだが、技量も経験も数段上、といったところか。 「そんなにガンガン打ち込むと、脇が甘くなるんだぞ~」 今度は光の弾丸が脇に数発飛んできた。 飛び下がったトールが魔法を唱えようとすると、彼女はにやりと笑って指を鳴らした。 「はいはい。常に周りを見ていて~。熱くなると周りが見えないよー」 書きながら移動していたらしい、魔法キャンセルの陣形が発動する。 術式が苦手だとか言っていなかったか? 短く舌打ちをし、ミカエルに半分騙された気分でトールが魔法陣を消しに急ぐと、銀色の剣を大きなロッドに作り替えた彼女が、ぶんぶんと手を振った。 「トールさーん。そーゆーわけなんでよろしくー」 まったく嫌味のなさに、トールの口元もつい微笑んだ。 大きなロッドに持ち替えた彼女は、しばし防戦にまわった。どうやら打ち込ませてくれるらしい。 だが同時に魔法も発動させようとすると、即座に消された。 「少し周りを見るようになったけど、陣形は分からないように作らないと消されちゃうよ」 光の矢が陣を切り裂いてゆく。では呪文ではどうかと唱えてみると、これもあっさり相殺された。 「略式にして判断力を削がないと、対応されちゃうぞ」 いちいちもっともな言葉なので、トールには反論の手段がない。 しばしただ打ち込んでいると、ふいに「トールさんは、なんで強くなりたいの?」と訊かれた。 「・・・・・・護りたいから」 小声でつぶやいたのであったが、撃ち合いをしながらも彼女の耳はきちんととらえていたらしい。 「そんなに強くなったら、守りたいものも壊れちゃうよ」 残念ながら、護りたいもののほうが私より強いんですよ。苦い笑いを噛み殺し、トールは斬撃を放った。 彼女はそれを受け止め、払いざまトールの剣を吹き飛ばした。 剣はもう、数え切れないくらい吹き飛ばされている。 隙を見て打ち込んだ刃が入る直前、大技で身体もろとも飛ばされたことも何度かあった。 なるほどミカエルの言うとおり、お互い退屈しないで対戦できるレベルということらしい。 剣を取りに行く彼の背中に声がかかった。 「ねぇ。なんで私がいろんなもん吹き飛ばすか分かる?」 トールはさすがに息切れしつつも、「私が弱いからでしょう」と答えた。 彼女は首を振った。 「違うよ。私、トールさんより力ないもの。 いろんな戦い方があると思うよ。 それ、トールさんに合った戦い方かな? 大体、力に頼ってたらロクな問題が起きないって分かってるじゃん。 見てよこの場所」 彼女はぐるりと荒地を見回した。 この荒地は、大規模な魔法実験などをする場合に他の生き物たちを脅かさずにすむよう、あえて最初からこの造りにしているのだが、彼女はたぶん、トールの心象風景としての荒地を言っているのだろうとわかった。 たしかにここだけ見たら、寒々しくなにもかも灰茶色に染まって、なんと寂しい風景だと思うだろう。 心配してくれているのがわかって彼が剣を下ろすと、教官は微笑んだ。 こういう時はこうするんだよ~、と、地面にカリカリと魔法陣を書く。 ピンク色の文字列が空に浮かび上がったかと思うと、大輪の花がいくつも降ってきた。 「こっちの方がいいって。あたしこっちの方が好き~」 彼女は花の山にダイブする。 トールはそれをぼんやりと眺めていた。 「手合わせしたくなったらいつでもやるから、無理はしちゃダメなんだよー」 花の香りに埋もれながら、にこにこと戦闘教官は言った。 ****************トール、こてんぱんです(笑)これでも教官によりますと、普通以上の腕前らしいんですけどね~想い人が強すぎて目立たないというwww応援してくださってありがとうございます♪→3月10日(火) ロシアンレムリアンヒーリング
2009年03月06日
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だいぶダンボールの海が発生してまいりましたーwなるべく減らそうとしてはいるのですが、モノって多いのねえ、とため息です。新しいアパートはリビングが今よりちょっぴり広い分、収納が微妙なのですがその分思い切ってモノを減らせるからいいかな~と思っています。問題は、ネット。電話会社に手続きはしてあるのですが、引越し日から2~3週間PCから繋げないかもしれないそうですorzトール小説も、想い人さまが非常~~~にお強いことが判明したり、リアル本体さんのいるお弟子さんがトールにできたり(これがまた、お互いの見たものがちゃんと一致しててびっくりなのです)、これからの展開が気になるところですが・・・なるべくアップしていきたいんですけど、引越し後はしばらく無理かなあ・・・(^^;土曜朝から搬出なので、金曜以降コメントやメールのお返事ができなくなると思いますがどうぞお許しくださいませ。一斉ヒーリングは、私も好きなのでどうにか続けられたらいいなあ。エネルギー送るのは問題ないんですけどね(ガンバって掃除するしw)、どちらかというと告知記事が(笑)携帯から書くかなあ~~~応援してくださってありがとうございます♪→★リアルタイム日時 2009年3月10日(火) 21:30より1時間(日本時間)★コールイン受け取り可能時間 日本時間で上記日時~3月11日(水) 20:30開始まで ※とくに決まった宣言文はありませんが、よいお時間に 「さつきのひかりのヒーリングを受け取ります」と宣言していただければ大丈夫です。 ★募集期限リアルタイム直前(火曜21:30)まで★参加ご希望の方はこの記事のコメント欄に、HN(ハンドルネーム)と都道府県、以前さつきのひかりのヒーリングをお受けになったことがある方は、前回のご感想を一緒にお書きください。私もとても嬉しく励みになりますし、書くことでご自身の気づきも深まるかと思います。※他の記事へのコメント・メッセージ等は無効になります。お返事もできませんので、ご注意ください。※楽天でエラーになってしまう場合には、MIXIの同名記事にてお願いします。★ヒーリングの種類純粋な愛のエネルギーによるヒーリングを、お申し込みいただいたご本人、住んでいる土地、ご先祖さまがた、にお送りいたします。もっともシンプルで、誰にでも入りやすく、心の癒しには一番効くのだそうです。ハートが癒されると、ふんわり開いてご自分にとっていいものがたくさん引き寄せられてきます。キラキラをたくさん引き寄せちゃいましょう♪♪★初めましての方は、フリーページをご一読くださいませ^^→→「ヒーリングについて(http://plaza.rakuten.co.jp/satukinohikari/4000)」※よくあるご質問もまとめてあります。ご質問の前にご覧下さいね^^★喉が渇くことがあります。また好転反応が出た場合に楽に流すためにも、白湯などの水分をとられることをお勧めします。★エネルギーやヴィジョンを感じるワークではありません。リラックスして、寝るつもりでゆったりとお布団で受け取ってくださるといいと思います♪★車の運転など、注意力・集中力を必要とする場面では、絶対にヒーリングを受け取らないでください。 眠くなることがありますので、危険です。万一そういう事態になった場合には、「私は今はヒーリングを受け取りません。後ほど布団に入るときに改めて受け取ります」とはっきり宣言してください。★ヒーリングは医療行為ではありませんので、受けたことで怪我や疾患が良くなったり悪くなったりするというものではありません。変化はご自身が望まれたことを後押しするために現れます。ご自身の判断と責任によりお受けくださいね。
2009年03月05日
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「トール、剣を抜け!」 鋭い声に振り返ると、緑色の服を着た小柄な少女が、身丈ほどもありそうな大剣を振りかぶっているところだった。 彼女は剣をトールに向けて振り下ろしながら、いたずらっ子そのものの顔をしてにやりと笑う。 「あたしはハンパなく強いよ」 「ちょっ・・・・・・ちょっと、待ってくださいよ」 あわてて剣を抜いて受けながらトールは言った。 彼自身に分身がいるように、彼の想い人にもいくつかの姿がある。この無邪気な緑の少女もそのひとつだった。 トールの敷地境界には強力な防御がほどこされ、普通には許可なく他人が入り込むことはできないが、彼女だけは別だ。認証なしでいつでも入れるようになっている。 「待たない」 少女はきらきらした瞳で右、左、右と斬りこんでくる。体格は小柄であっても剣筋は鋭く、体重移動も完璧でかなりの威力だった。 少女の言は決してはったりではない。 防戦一方ではいずれ持たなくなることがわかっていたが、トールは彼女に向けて攻撃することができなかった。 やがて鈍い衝撃を掌に残し、トールの手から剣が後に飛ばされた。 彼は少しほっとしたのだが、緑の少女は怒った顔で、本気じゃないだろう? もう一度剣をとれ、と顎を動かした。 トールに剣をとらせると、すぐに彼女は高く飛び上がった。風が吹き上がり、天高くさしあげた弓手に無数の光が集まってくる。 「さあ、今度は他の攻撃もありだ。いくぞ!」 少女の左手に集まった光が、すべる蛇のようにあざやかな呪文形を描いて空に広がり、大きな網状になる。 陽光を背にして、まるで太陽が二つあるかのようだ。熱風がちりちりと頬を焼いた。 トールは片手を構えて口の中で早口に呪文を唱えかけたものの、はっとしてすぐに中止した。 荒地の空に広がった魔法陣が一点に集約され、輝ける光の球となってトールめがけて打ち下ろされる。 とっさに胸の前で交差した両手のシールドにそれは勢いよく突き当たり、彼の長身は十歩分ほども後に吹き飛ばされた。 まきあがった砂塵が半分ほどの高さになったころ、彼は息をととのえてゆっくりと立ち上がった。 「やっぱりいくら遊びでも、あなたに向かって攻撃なんかだせませんよ」 剣を鞘におさめ、少女の眼をみて苦笑をうかべる。 「なんだ、つまらんな」 少女は見るからにつまらなそうな視線を投げ、申し訳ありません、というトールの言葉にふてくされたように、ふん、じゃあな、と去ってしまった。 柔らかな笑顔で彼女を見送ると、トールは手近な岩に腰かけた。 開いた掌が冷たい汗でしめっている。剣の柄もべっとりと濡れていた。 掌をゆっくりと閉じたり開いたりしてほぐしながら、彼は青灰色の瞳を閉じた。 少女がここにやってきた理由を、彼は知っていた。 おそらく彼が落ち込んでいたことを知り、励ましにきてくれたのだ。 彼女はとても優しい人だった。 ぶっきらぼうで愛情を愛情として示すことが苦手な彼女の、あれは一流の慰め方だったのだと思う。 最後のふてくされた表情がそれを物語っていた。 そして、彼女が強い理由もまた、彼は知っていた。 だからこそ負けられなかったのに、彼女の強さは予想以上だった。 手加減することは危険で、本気で攻撃すれば相撃ちの可能性があった。 閉じた眼に拳を押しつけ、彼は重く長い息を吐いた。 ため息で幸せが逃げていくなら、ここ数日の間に両手にあまる幸せを逃しているに違いない。 拳を離したとき、トールの顔は決意に引き締まっていた。 剣環を鳴らして荒地の中央に進み出ると、神経を集中して大天使ミカエルに呼びかけた。 大天使は高次の存在で、すべての魂のそばにでも同時に存在できる、というほどの大きな力を持っている。 トールの呼びかけに応えて、白い大きな翼をはためかせ、腰に剣を佩いた金髪の人物が荒地に現れた。 「鍛えてくれって顔だな」 トールを見るなり、ミカエルは口の端を上げた。 「ええ。ぜひよろしくお願いします」 「俺の愛弟子に勝ちたいってわけだ。あいつは強いぞ」 「よくわかっています」 ミカエルはふふん、と笑って剣を抜いた。それだけで強烈な剣気がみなぎり、トールの全身を打つ。 呑まれぬように気合を入れつつ、トールも長剣を構えた。 「では、いざ」 地を蹴って飛びかかる。 トールの渾身の一撃を、こともなくミカエルはさばいた。 予測していたトールは続けざまに斬撃を浴びせたが、片手でことごとく受け流される。 余裕たっぷりにミカエルは言った。 「ふむ、なかなかやるな。 だがあいつは守護竜のシュリカンに大きな雷を落とされたぞ。もうお前に挑戦してくることはないんじゃないのか」 「そうですか」 ミカエルの鋭い一撃を紙一重で避けてトールは言った。 長い台詞を口にする余裕はないが、内心では申し訳ないことをしたと思っていた。 彼女は慰めにきてくれたのに、それを慰めとして受け止めることができなかったのだ。 彼がきちんと受け止められていたら、彼女はシュリカンに怒られずに済んだかもしれない。 せっかくの気持ちが伝えられなかったばかりかひどく怒られたのでは、彼女はやるせない気持ちをかかえてしまったことだろう。 さらに数合撃ち合いながらその思考を読んだのか、大天使がトールの剣を真っ向から受け止め、目を覗きこんだ。 「お前は知っているはずだ。それでもと言うんだな?」 碧空の双眸が鋭くトールを射抜く。 「永遠に」 強い視線を受け止めながらきっぱりとトールは言って、押し切られようとした刃を全身の力をこめて跳ね返した。 ミカエルはわずかに目をみはった後、剣をおさめて言った。 「わかった、戦闘教官を紹介してやる。俺とやるより実力が近いから、いい練習になるだろう。 あっちは術式の教師を探している。代わりに教えてやるといい」 「・・・・・・ありがとうございます」 息をきらせてトールは答えた。 彼は謝意をこめて深く頭を下げたから、姿を消す寸前、ミカエルの顔に浮かんだ表情を目にすることはなかった。 ********ついにあの方、登場ですwトールが戦ってる間は、私も筋肉痛になってました(^^;ちゃんと対応するんですねえ・・・。応援してくださってありがとうございます♪→
2009年03月04日
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目覚めると、朝日が木の間からさしこんでくるところだった。 ぼんやりとした頭のまま、もう一度分身に繋いでみる。 時間の流れなどあるようでないような世界だから、一晩あのままだったのかどうかわからないが、デセルの形をした氷の彫像は、やっと溶けはじめたようだ。 彼は、そろそろと銀巫女の身体に腕を回していた。 強く抱きしめたら壊れてしまうと思っているかのように、そっと。 そんなデセルの頬にも、光るものが流れていた。 しばらくして、お互い少し照れ笑いしながら離れると、デセルは彼女の前にひざまづいた。 ほんの少し芝居がかって、しかし真剣な瞳で彼女の手をとり、甲にくちづける。 「私の女神、わが主のお妃様。 私の第一の愛と忠誠は、まず貴女のおんもとに。 もしよろしければ……貴女の形見を何かひとつ、この私にいただけませんか?」 涙を拭いた銀巫女が、重ねていたうす絹の袖を一枚破って渡す。 彼は移り香の残るすみれ色のシフォンを押しいただいて、愛おしそうに唇に押し当てた。 「私はこれを身につけて戦い、どんなときでも、この形見にかけて自分自身の命を護ることを、それ以上に貴女の御身をお護りすることを誓います」 銀巫女は微笑む。 「わたくしの騎士、頼りにしておりますわ・・・・・・」 アーサー王時代の風習だな、と見ていたトールは思った。 昨日に勝るとも劣らず気恥ずかしい場面だが、二人の関係が新しくなるための儀式だったのだろう。 これからは、犠牲の影なしに愛を与え、受け取ることができるのかもしれない。 根底の部分で問題が解決に向かったことを知ったトールは、心軽く大きな伸びをした。 起き上がってみると、身体に暖かい布がかかっていたのに気づいた。薄く光を編んだごとく七色に輝き、朝の光の中で溶けるように消えてゆく。 「これは君達がかけてくれたのかい?」 トールはかたわらの大樹のうろに向かって呼びかけた。 すると、うろの中から双子の小さな妖精が羽をぱたつかせながら顔を出した。 「違うわ」 「違うわ」 「それは彼の想い」 「それは彼の想い」 「あなたを護ろうとする想いが、夜霧に形を与えたもの」 「あなたを護ろうとする想いが、夜霧に形を与えたもの」 澄んだ声が森に輪唱をひびかせる。 「想いはかならず届くわ」 「想いはかならず届くわ」 「気づくかどうかはわからないけれど」 「気づくかどうかはわからないけれど」 「誰かを護りたいという純粋な想いは」 「誰かを護りたいという純粋な想いは」 「私たち妖精の矢よりも早く、相手を包むわ」 「私たち妖精の矢よりも早く、相手を包むわ」 トールはしばし、消えた布の暖かな感触に思いをはせてから、妖精たちに笑顔をむけた。 「教えてくれてありがとう」 「どういたしまして」 「どういたしまして」 妖精たちは笑顔を残して、またうろに姿を消した。 トールは立ち上がった。森を少し歩くと泉がある。こんこんと湧き出る水は絶えることなく、はるか昔から流れていた。 冷たい水をたっぷり飲み、顔を洗う。 泉の底では、泉の精がすべてを見通したような笑顔をみせていた。 短い呪文を唱えると、手の上に剣と鞘、そして紐があらわれる。 トールは手櫛でいつものように髪を結び、清らかな泉の水で剣先の血を洗い流した。 朝の陽光が泉にふりそそぎ、湖面はきらきらと光っている。水を切るために振って鞘におさめた剣は、光をうけて流星のようなきらめきを残した。 デセルの儀式を思い出して、トールはちょっと微笑んだ。愛する人に直接忠誠を誓えるというのは、なんにせよ幸せなことであるに違いない。 自分も申し込んでみようかな?と一瞬思い、すぐに「嫌がるだろうなあ」と笑いながら声に出してつぶやいた。 彼の想い人は、そういうことをものすごく嫌がる人であったから。 儀式ばったことや上に立つことが嫌で、本人は隙あらば逃げようとしているのに、まわりがそうはさせておかない輝きを持った人。 彼女を困らせるのは本意ではないし、なにより彼女の回りには、守護をもって任じる存在がすでにたくさんいる。彼らと喧嘩をする必要もないことだった。 今までどおり、想いとできることの最上を捧げてゆけばいい。 誓いは自らの胸の中に。 トールはすっきりした顔で、朝の光の中歩き出した。 彼女は、自分の存在をわかってくれている。 それより他に、望むものなどない。 ***** ねたが恥ずかしいのは私のせいじゃありません・・・きっと(爆だってそれしか展開しないんだもん! うわーん!orz次回、ついにあの人が登場ですw引越し先でネット開通に数週間かかるとか言われてるので今のうちに更新しておきます・・・。ヒーリング記事こまるなあ><応援してくださってありがとうございます♪→3月3日(火) ロシアンレムリアンヒーリング
2009年03月03日
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結局、どこへも行くあてなどなかった。 飲みに行くことも考えたが、こんな精神状態でステーションの友人を呼び出すのは憚られたし、第一酒を飲んだらよけいに神経が冴えて泥沼にはまり込むだろうと思われた。 トールは岩山と神殿の周囲を埋める太古の森をさまよっていた。 この大きな森をまっすぐ抜け、左に廻って岩山の背後に出ると、模擬戦や大規模な実験につかう広大な荒れ地に出る。 右の奥に入りこんでゆけば、この「場」の神聖な場所としての神殿があるが、今は神に祈りたい気分ではなかった。 あてどもなく森に足を踏み入れると、丈高い木々たちはすぐに闇をもって彼を迎えいれた。 普段は賑やかな鳥や動物たちも妖精も、今日という夜はみな静かに息をひそめているようだ。 限りない闇に抱きとめられたことに心なしかほっとして、トールは下草の生え揃った空き地にどさりと身を投げ出した。 闇にゆれる木の葉がぽっかりと空き、満天の星空が見える。星々の歌が長身を包み、宇宙に浮かんでいるような錯覚を起こさせた。 大きく息をついて目を閉じると、ふと銀巫女に意識が繋がった。 今はお互い肉体のない意識体として同じ次元に存在しているが、時間の矢の流れに沿って言うならば、銀巫女はトールの過去生、それもおそらく、もっとも古い過去生ということになる。 二人は同じ魂の違う側面というだけであり、別人のようでも根源は繋がっていて、大きく見れば同一人物なのだ。 だから彼女の感覚は自分の感覚であり、その逆もしかり。普段は遮断することもあるが、肉体という枠がないため、そのほうが難しい。 トールはそのまま、意識をさまよわせて分身に合わせた。 * * 銀巫女はほの白い空間にいた。 そこが自分の家であるかさえ、よくわからなかった。よりかかる背の後ろにやわらかいクッションを感じ、どこか慣れた場所にいるのだろうと思った。 すべての防御を放棄し、奇跡的に傷は小さかったものの、トールの闘気をまともに浴びて失神してしまったデセルを介抱したあと、どう移動してきたのか覚えていない。 デセルはもう大丈夫だと、治療者としての知識と経験が明確に告げていたが、身体の震えはおさまらなかった。 あの金茶の髪が、血ぬれて倒れてゆく場面が何度も目の裏に蘇る。 過ぎし日、彼が肉体に持っていた命を奪ったのは、誰でもないこの銀巫女の手であったのだから。 彼女は震える手を胸で握りしめた。 妹巫女の苦難と死。朽ちてゆく神殿。先読みの力を授かっていながら、なにひとつ防げなかった自分。 あのとき彼女は、意思とは別にデセルを殺してしまった後、自らも命を絶つという最後の罪を犯した。 二つの罪は見えない鎖となって彼女を縛り、いまだ本当には自分自身を赦せずにいる。 デセルのことは好きだった。 過去にはさまざまなことがあり、妹巫女のことで憎んだ瞬間もあった。 けれども、あの時代の流れの中で、誰かが終焉の幕をひかなければならなかったのだと、今の彼女にはわかりすぎるほどわかっていた。 永い時のせせらぎにすべては洗い清められ、今心のどこを探しても、彼への憎しみは見当たらない。 彼が自らの罪を強すぎるほどに悔い、またも刃の前に身を投げ出すとは思わなかった。 デセルが贖罪としての死を望んでいることは知っていた。 闇の神殿が終わるとき、彼女の刃の前に身を投げ出してきたときの彼が、まさにそうであったから。 あのとき彼は、仲間の刃から彼女を護ろうとしていたのだと、ずいぶん後になって気がついた。 しかし同時に、彼女の刃によって死ぬことを、心のどこかで望んでいたに違いない。 彼の死に顔は安らかだった。 しかしその事実は、銀巫女の心を慰めてはくれなかった。 それほどまでに想いを捧げられる価値が、自分にあるとは思えないのだ。 自ら望んでとはいえ、殺されてなお出会い、そして彼女を護りたいと言ってくれる、実行してくれている彼。 私はその愛を受け取る資格があるのだろうか? 貴女が貴女でいてさえくださればいいんです、と彼は言う。 どうか護らせてください、と。 生まれ変わり死に変わる時のなかで、神殿に関係のない自分であったなら、近しい魂ゆえに夫婦として過ごす時間もあったかもしれない。 けれども、彼がもっとも愛してくれる銀巫女という存在は、すでに神の妻として神殿の主に捧げられている。 自らを与えることもできぬのに、その暖かさをあてにすることは罪ではないのだろうか・・・・・・。 ・・・・・・ああ、それでも。それでも。 思い悩むこの瞬間にさえ、デセルの想いは時空を超えて彼女を護りつづけている。 ふと意識をむけさえすれば、薔薇の花弁のようにやわらかに自分をつつむエネルギーを感じることができる。 何も否定しない、すべてを包んでくれるその暖かさが彼女の身体を満たしてゆき、ついに長い長い時間凍っていた瞳を溶かした。 すみれ色の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。 流れ落ちてゆくものを拭いもせず、彼女は少し目をふせて、暖かさが体から満ちあふれていくにまかせた。 「銀巫女さま」 異変を察知したのか、すぐさま駆けつけてきてくれたのは、やはりデセルだった。 首に包帯を巻いたままの姿で、どうされ・・・・・・と言いかけて口をつぐむ。 泣き顔を見てしまっただけでも衝撃だが、彼女が長く泣けずにいることをデセルは知っていたから、ますますどうしていいかわからなくなり、おろおろとその辺りを歩き出した。 手を意味もなく上げたり下げたりし、彼女からほんの少し離れたところを行ったり来たりする姿は、まるで背の高い熊のように思われて銀巫女の唇をかすかにほほえませた。 彼女の唇の動きを見逃さなかったデセルが、言葉を聞きとろうと身をかがめ、耳を近づけてくる。 彼女は思った。 このひとが、私が殺めてしまったひとだ。 このひとが、私を愛してくれるひとだ・・・・・・。 そのとき、銀巫女は自分でも思いもしなかった行動に出た。 白い腕をのべて彼の首にまわし、涙のとまらない瞳を首元に押しつけたのだ。 ありがとう、大好き、死なないで・・・・・・言葉にならないそんな思いが、ハートから直接洪水のように流れ込んでゆき、もらった暖かさの返礼のように、彼の身体を満たしてゆくのがわかった。 そこまで見て、トールは一度離脱した。 ひとつには少し照れくさかったから、もうひとつには、デセルがまるで氷の彫像のように固まってしまい(無理もないが)、完全に動きが止まってしまったからだ。 トールの瞳にも、涙がじんわりと浮かんでいた。 感情の嵐の中にいるのは相変わらずだったが、なんだか眠れそうな気がした。****************おかげさまで、新居が無事に決まりました!!祈ってくださった皆様、どうもありがとうございました♪この決まり方もなかなか面白いエピソードだったので、また記事にしたいと思います~トール小説もおたのしみくださいませ♪応援してくださってありがとうございます♪→3月3日(火) ロシアンレムリアンヒーリング
2009年03月01日
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