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祭のあと、皆は足りないビーズは何なのか、をずっと探していた。 光(白)から闇(黒)をつなぐならば、三原色の黄色が足りない、と発見したのはデセルだ。シュリカンのルビーを含めて、エメラルド、ベニトアイト、ペリドット。確かに黄色はない。 ではその「黄色」は具体的に何を指すのか。色の言語によると、黄色は人間の意思であるという。 ならば下が寝落ちしたりせず、最後まで意識的にエネルギーを扱うことがまだできていないからではないか、という説が導かれていた。 その後、クリロズで人形のようになっていた少女が解放されたため、この説でおそらく合っているのだろうと推測する。練習をしなくてはならないね、という結論が出ていたが、いまいちすっきりしないまま日が過ぎていた。 一方、ステーションではおなじみの会話が交わされていた。 「エル・フィン。もういいから、休みなさい」 「大丈夫です」 夏至当日、金髪碧眼の彼は別のイベントに出るために休暇をとっていた。もちろん、それはまったく悪いことでも、責められるようなことでもない。 彼がかたくなに休もうとしないのは、夏至祭りから当日にかけて、トールと少女が瞑想部屋にこもりきりになっていたため、ルーチン処理をすべく代理でルキアのトールが出勤していた、と知ってからだった。 それだって実際は、瞑想部屋での二人のエネルギー交流がある程度成功したために、仕事自体が二割ほど減っているのだ。 理想からするとまだ半分程度ではあるが、なんとか実用レベルにはなってきたと思っていい。 だから本当に大丈夫だ、と何度も伝えるのだが、エル・フィンは休もうとせずに、もう五日ほどもステーションに詰めていた。忙しいときにのんびり休暇などとってしまったことが、よほど許せないらしい。 また見回りに行くというエル・フィンの背中を見送って、トールはため息をついた。 (シェーン、ちょっといいかい) クリロズにいる彼の守護竜に心話をつなぐ。 (これはお久しぶりです) シェーンはすぐに応答した。かつてエル・フィンと二人、トールに恩を受けたこともある。ドラゴン族であることに高い誇りを持っているシェーンだったが、彼にはつねに一目置いていた。 (エル・フィンがそちらへ帰らない件なんだけどね) (わかってます。そろそろあなたにお願いしようかと思っていたところでした。本体からもメールを書いてます) シェーンは肩をすくめるような波動を送った。思念の苦笑がかえってくる。 (そうか、それなら話が早いな。当人にはいくら言っても駄目だろうから、君の了承がもらえればそちらに強制送還してヒーリングをかけさせてもらうよ。 今は昼過ぎか……よければ明後日いっぱいまで、二日半の連休とするが) (もちろんよろしくお願いします。……ただ、彼のことだからここでも端末で仕事を続けるんじゃないかと心配で。本体もその旨書いていましたが) (確かに。ではそこも細工しておくとしよう) (ありがとうございます) 心話を切ると、トールは部下の気配をさがした。エリア統括である以上、やろうと思えばエリア内で誰がどこにいるかも探ることができる。 エル・フィンは小さな修復をいくつか終えて、報告のために戻ってくるところだった。 ひととおり彼の報告を聞いてねぎらってから、おもむろにトールは言い渡した。 「エル・フィン。ただいまより二日半の休暇を命じる。クリロズに帰るように」 ゆっくりとした口調。めずらしく微笑を含まないベニトアイトの双眸が、反論を封じるようにまっすぐにエル・フィンの碧眼を見つめている。 青年は口をひらきかけ、無駄をさとったのか声を出す前に一度閉じた。 「……わかりました」 「よろしい。レオンとゆっくり遊んでおいで」 トールは微笑み、青年を送り出した。 彼がクリロズに着いたことを確認し、シェーンとの約束どおり、端末を開けようとする前に強烈なヒーリングを送って眠らせる。もう五日はほとんど寝ていないはずだから、効きは嫌でも良好だった。 そうしながら、今度はクリロズのトールが、端末回線につないで彼の端末を遠隔操作しはじめる。 たまたまクリロズに来ていた緑の少女が、トールの背にもたれながらそれを見ていた。 「なにやってるの?」 「いや、エル・フィンが働きすぎだから、ちょっと休ませようと思ってね」 彼の操作する画面に、「休暇中につき使用禁止」という文字が出てくる。少女はぱっと顔を輝かせた。 「あたしも描く! やらしてやらして」 はいはい、とトールが席を譲ると、少女は以前に資料室の端末にいたずらしたときのような動画をつくって、いそいそと画面にはりつけた。 何かタコのようなものがボールを投げ、そのボールがどこかに行って、何かに当たって返ってくる……という、言ってしまえばただそれだけのものだ。 端末を立ち上げた生真面目なエル・フィンが、心底脱力するであろうことが容易に想像されて、すこし可哀想な気がしなくもない。 まあでもそれくらいのほうが、いっそ仕事する気をなくすだろう。 彼がワーカホリックなのは性格であるとともに、自分を心配してくれているからだと知っている。 ならばよけいに、ゆっくり休んでほしかった。 <水晶薔薇庭園館綺談4 6月末の休暇前> (エル・フィンさん) http://elfin285.blog68.fc2.com/blog-entry-32.html <☆七夕セラフィムヒーリングとパラパラ漫画の謎☆> (じぇいど♪さん) http://plaza.rakuten.co.jp/californiajade/diary/200907040000/ *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→
2009年07月31日
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夏至前から、デセルはクリロズの動力部で調整を行っていた。 いままではほとんどクリロズ自体に入ったことがなかったが、今回天使エリアとクリロズのセキュリティをどちらもトールが統括することになったため、同じチームが管理にあたることになったのだ。 元々クリロズは同艦隊の一部であったし、エル・フィンの遊撃隊も兼務だしで、それほど違和感はない。 デセルは黄緑色の瞳をきらめかせて、動力源の一番最深部、更に中心部分を見つめた。 エネルギーの循環と放出が少し偏っている。クリロズのエネルギーの廻し方は地球型惑星の内部と同じであり、深部から表面へ、表面から深部へと循環が行われているのだが、現時点でエメラルドとサファイア構造体だけでは、波長に偏りがあるようだ。 「ベリルとコランダムとして……色調の幅を増やしたほうが安定するんじゃないかな」 「元々はエメラルドだけだったのが、今回担当が替わって色が増えたからね。バランスが必要なんだろうな」 じっと視線を固定したままの呟きに、動力部まで親友を案内してきたトールが応える。 いわゆる「旧クリロズ」の時代は、ここにあったのはエメラルドのエネルギーだけだった。 エメラルドというのは、地球のガイアエネルギーの核となる石数種類のうちひとつだ。その昔の緑の少女であるテイアと、その片割れの当時のクリロズのリーダーが、情報とエネルギーを中継するためにアクセスしていたのが、その「エメラルドの女王」にあたる。 そのガイアエネルギーとクリロズの動力源の石をリンクさせていたのが、クリロズの最深地下部分に今もある特殊な機械である。 その機械は、テイア、今は緑の少女がいなければ作動しない。 そして、昔テイアとその片割れで動かしていたときには、エメラルドエネルギーの人間しかいなかったことになる。 だが数週間前、上の会議でクリロズの担当者が緑の少女ともうひとりのツインペアから、少女とトールのペアに正式に変更された。 これは種々の事情と条件が満たされたためで、少女のもうひとりのツインも了承済みであるが、この交代によって、関わる人間のエネルギーは、エメラルドだけから、サファイアあるいはベニトアイトとエメラルド、というように種類が増えたのだ。 これまでの移行期間から、担当者が確定したことによって、本格稼動のための調整が必要になったのだろう。 「夏至祭りで音楽やるんですよね」 指先でそっと微調整を行いながらデセルが言う。 「そう。途中、私とマリアで魔法の織り込まれている歌も」 「じゃあ、音階と色階の新設定ですね。音周波数と色周波数を合わせればいいんだな。前設置でそれ合わせの起動でいいんでしょう?」 彼はひょろりとした長身をかがめるようにして、動力部の中央を繊細な指先で調整していく。 「マントルや地殻は珪酸塩岩石だから……サイクロケイ酸塩鉱物が環状で……人の構成要素にもケイ素があるし……エメラルドとルビーの共通項と補色関係は……」 ぶつぶつと呟く。こうなるともう周りのことは聞こえないし、目に入らない。下手に邪魔しないほうがいいことも知っているので、トールは苦笑して、じゃあ頼んだよ、と親友の肩を叩いた。 夏至祭り当日のスカボロー・フェアの時間は、彼らにとっては同時に仕事の時間でもあった。 まずクリロズの機械部では数人のエネルギーを合わせて波動を広げてゆく。緑の少女は分身できないため、その後ステーション天使エリアの瞑想部屋でトールと同じことをしたが、こちらは時間がかかった。 エネルギーをあわせるときには、天上の根源から、そして足下のガイアからも同時にエネルギーを引っ張ってきて合流させ、ハートから広げてゆく。 同時に、根源の光、セントラルサン、ステーション天使エリア、ルキア、クリロズ、地球(ガイア)、根源の闇と縦一直線にもエネルギーラインを繋げて共振させる。 ひとつひとつが輝くビーズを糸でつなげれば、全体でもっと美しく強いブレスレットができるのと同じようなことだ。 それは将来を視野に入れた実験でもあった。完成させるにはまだパーツが足りないということもわかっていたが、何が足りないか、を同時に下にも明確に示さなければならない。 三次元の意思が、やはり一番重要だからだ。 同時存在できない緑の少女のために、別々の時空を後から拾って一直線につなげることにする。 その役目はマリアが負った。クリロズでの歌と同時に、彼女はめったにしない巫女の正装でルキアの神殿の最奥部に立っていた。 歌詞と音に魔法を乗せて時空間をつなぐ。 巫女とは、異なるものを繋ぐ架け橋。 光も闇も、彼女にとっては同じものだ。ブレスレットの輪をつなぐように、根源の大いなるエネルギーを感じ、巫女の名においてそれを喚ぶ。 それぞれのビーズをつないで、頭上と足元から大きな光の柱がやってくる。 柱はルキアの神殿で融合し、マリアの身体を光の中に取り込んで固定された。 足りないビーズが揃うまでは、マリアがその身をもって上下を繋ぐ柱となる。 ステーションでの瞑想は五割ほど成功。しかしクリロズでは機械の中で、緑の少女がまるで人形のように意思をなくして漂っている。 輪をつくるために足りないものは何なのか、考えなければならなかった。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→
2009年07月30日
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陽の気が極まる夏至前夜。 銀樹の提案で、浮島クリスタル・ローズ・ガーデンでは庭でケルト音楽の夕べが催された。 トールやエル・フィンも、ハープやフィドルでメイン演奏者として参加することになった。 ちょうど数日前、マリアが夢の中でレオンに黒いティンホイッスルをあげていたので、もちろんレオンも参加。 銀樹自身はフィドルや相当の腕前のバイロンを叩く。緑の少女もハープと踊りやる!と増えたあちこちの家でハープを探したりしていた。 ケルト好きな下の娘もパーカッションで参加、シュリカンとエンガスは踊りと、メンバーもだんだん豪華になってゆく。 焚き火の前にあつらえられた簡素なステージには、見たこともないような楽器がたくさん並べられていた。 地球ではありえないような楽器や、この素材で作ったら普通は重すぎて弾けないというようなもの、下が三角になっていて、通常なら立たないであろう太鼓が浮いている、などなど。 宵闇の降りる刻限、会場にはトールの手で篝火と大きな焚き火が用意された。 古代ケルトでは夏至の日に健康を願って裸足で焚き火を飛び越えた、という歴史がある。さすがに火は危ないと銀樹が躊躇していたところへ、トールが燃え移らず熱くない焚き火の提案をしたのだった。 マリアがルキアで作っている乾燥ハーブが、たくさん籠に入れて火のそばに用意される。 夏の夜、幻想的な炎が参加者を歓迎していた。 「あっ、銀樹さんだ!」 勢い込んで早めに到着したレオンが駆け寄って挨拶する。お手伝いします、と申し出たレオンに、銀樹はプラチナブロンドの髪をゆらし、にっこり笑って「ハーブを火にくべてね」と言った。 少年がさっそく籠から両手一杯にとったハーブを焚き火にくべると、ふわっと薄い色の煙といい香りが周り中に広がる。 時間ぴったりになり、木陰から軽快なフィドルの音が流れ出した。銀樹だ。 トールとエル・フィンもそれぞれ離れた木陰に立っていて、焚き火前のステージに向かって歩き出しながら、一人ずつフィドルの音をあわせてゆく。 単音が和音になり、さらに三和音になり、演奏者が芝生の上の簡易ステージに着くと、いっせいにパーカッションなどのほかの楽器が鳴り出して賑やかになった。 今宵のパーティは裸足参加が条件。 焚き火を囲んで青々とした芝生にひかれたいくつものキリムに座り、気持ちよさそうに足を投げ出した参加者たちから盛大な拍手がまきおこる。 あちこちでビールジョッキの乾杯が行われ、持ち寄りの食べ物がふるまわれる。テンポのいい曲が続くうちに、手拍子や踊りもどんどん出てきた。エンガスが焚き火の中で炎の舞を披露する。 ひととおり盛り上がったところで、打って変わってしっとりした音楽に変わった。 ケルトに実在した、最後の吟遊詩人といわれた盲目の男の作った曲が、最初はいろいろな楽器をまぜて、2曲目はハープメインでゆったりと流れた。 人々が踊りや手拍子につかれた手をおろし、ゆるりと聞き入る。エル・フィンとレオンはステージを抜け、キリムに座ってビールやハーブ水を飲んで一息入れた。 炎を見つめる師匠の横顔を、レオンが熱心に見つめている。 そんな休憩をはさんだ後は、アイリッシュ・タップダンス。 シュリカンがタップ用の板をつくり、緑の少女やレオンが、合間をみてはクリロズの裏庭で練習していたのだ。 シュリカンがキリムの間を走り回って参加者を集める。皆タップシューズを履いて、紅潮した顔でダンス用の板に並んだ。 中央は緑の少女とレオン、そのすぐ後ろにシュリカンとレオンの姉のディジー。周りには名乗りをあげた何人もの踊り手たち。 銀樹の手が、ゆっくりとしたリズムでバイロンを叩き出す。トールのフィドルがそれを追う。 いかにも泥臭い、ケルトの田舎風のリズムから、踊り手たちはステップを踏み始めた。 シンプルなステップが何回も何回も繰り返されるうち、飛び入りの踊り手も増えてどんどん列になって増えてゆき、リズムも次第に早まってゆく。 観客から大きな歓声があがった。 緑の少女はレオンと手をつないでぐるぐる回ったり、シュリカンと並んで息ぴったりに同じステップを踏んだりした。 練習を積んだだけあり、キレのいい見事な足さばきだ。いたずらっ子のような大きな目でレオンを見ると、レオンは嬉しくなって掛け声を返した。 ぐるぐると螺旋のようなエネルギーが会場に生み出されてゆく。 ハーブを炊き込んだ火、酒、音楽に踊り……どこの世界にもありそうな魔術的な儀式の要素が集まり、緑の少女は踊るうちにトランス状態に入っていった。 頭の中を、リズムと体感と音楽だけが回る。 ダンスが終わり、マリアがソロでスカボロー・フェアを歌いだすと、少女はばったりとシュリカンの膝枕に倒れてしまった。ハープで伴奏をつけるトールが、シュリカンにうなずきかける。 この曲ではエネルギー的な調整を行うことになっており、分身のトールもシュリカンも、そして身体をここにおいた少女の中身も、すでにクリロズの機械部で同時に仕事を始めていた。 会場のマリアは、白い薄物を重ねた衣装になっていた。 ゆったり手を動かしながら歌うと、白い光がふわっと広がったり、虹色のオーロラのようなものが舞い降りてきたりする。 その傍にデセルも座り、竜の形を模した馬頭琴に似た楽器で伴奏をつけていた。胡弓とバイオリンを足したような、哀愁のある音色がゆるやかにハープと溶け合う。 まるでヒーリングのような透明感のあるエネルギーが流れ、聴き惚れるレオンの頬に涙が流れた。 余韻をもって曲が終わり、しばし穏やかな沈黙が流れる。 そのうち静寂を破って、銀樹のフィドルがしっとりと鳴りはじめた。最後の大合奏が始まるのだ。 銀樹のフィドルがしだいにスピードをあげてゆき、小気味よく走りだすと喝采が起こった。そのすぐ後をトールが受け、銀髪を揺らして濡れたような弾む音でメロディを奏であげる。 観客が歓声をあげると、今度はエル・フィンが自分の音をかぶせるように前に出てきた。音楽祭の始まりのころは、苦虫を噛み潰したような顔で演奏していた彼だが、祭りが進むにつれて楽しくなってきたらしい。 足でリズムをとりながら、身体を動かしつつ夢中になって演奏している。 トールは睫毛を伏せてゆったりした感じで音を響かせ、笑顔でときおりエル・フィンを見やっていたが、エル・フィンのほうはまったくトールを見ようとはしない。金髪を汗で額にはりつかせ、激しい演奏を繰り出しているが、それでも二人の息はぴったりと合っていた。 レオンがティンホイッスルを吹くのも忘れて、エル・フィンの演奏に見入っている。 銀樹とトールは顔を見合わせ、笑いながらフィドルで歌い上げた。パーカッションやハープ、竜頭琴が華を添える。 観客たちもきゃあきゃあ言いながら、賑やかに焚き火を飛び越えたり踊ったり。 アンコールも賑やかにすぎ、祭りが終わるとレオンが師匠の傍にやってきた。 片手にフィドルを持ったエル・フィンが、空いた手で養い子の頭をなでる。 「トール先生たちは?」 「仕事中だ。俺達は後片付けをしなくちゃな」 養い子の頭をぽんぽんと叩くと、エル・フィンはちらりと館の方角に目をやり、それから周囲を助けて後片付けの声をかけはじめた。 <夏至の音楽祭~ケルトな夕べ~> クリロズイベントトピhttp://mixi.jp/view_event.pl?id=43665438&comm_id=3669474*************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)物語第77話、エンジェルナンバーは夏至祭りと相成りました。構成はぜんぜん考えてませんので(爆)、偶然・・・いえ上で計算されてる必然です。私は起こったことを一生懸命おいかけて記述してるだけですから^^;でも今って7月も終わり。まだ一ヶ月も遅れてまつね・・・あうorzコメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/28 セラフィムヒーリング トール&緑ちゃんのヒーリング第二弾♪♪お申し込みは本日21:30まで!
2009年07月28日
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ジャカランダの並木が、紫色のみごとなトンネルをルキアに作り出している。散った花びらが白壁の家の前を埋めて、まるで一面青紫の絨毯のようだ。 それは本体のいる土地で初夏のさわやかな気候に咲く、桜と同じように緑の少女が愛する樹だった。 家の横、並木を見渡す位置の木陰に、大きな木製のブランコがかけられている。 トールと緑の少女はそこに並んで座り、のんびりと花を眺めていた。 「あれから、考えたんだけどさ」 足先を伸ばして地面を蹴り、軽くブランコを揺らして、花を見つめたまま少女が言った。 「……わかんなくなったんだ。むこうのツインとして会議に出たのもあたしで。黒いのもあたしで。でもここにいるのもやっぱりあたしで」 「うん」 「だけどあたしは、黒いほうはぜんぜん認識できてない。強いて言うなら、アエルじゃなくてカイル。ぜんぜん女っぽくないんだ。むこうのツインとして会議に出てるのも、黒じゃない。といってアエルでもない。あたしそのままじゃないけど、あたし、で」 言葉を探しながら思考を追う少女の横顔を、トールは静かに見つめている。さわやかな初夏の風が、満開の花の香りを乗せて二人の間を吹きすぎた。 「そしたらさ、わかんなくなった。今ここにいる『あたし』は誰?って。トールのことを好きなあたしは誰? 下にいるあたしは誰? 黒は誰?って。 そしたら……そしたら、すごく混乱して、どんな顔してトールに会えばいいのか、わかんなくなった」 怒っているような表情で、少女はまた爪先で地面を蹴った。さっきよりも大きくブランコが揺れる。 「どんな顔でもいいんだよ」 組んだ足を持ち上げて軽く地面から浮かせ、ブランコが揺れるままにしながらトールは微笑んだ。振り返ったエメラルドの瞳を見つめて繰り返す。 「どんな顔でもいい。それは笑っててくれれば一番嬉しいけれど、泣いていようが怒っていようが拗ねていようが、黒かろうが今のあなただろうが、本体の姿であろうが、私にとっては何も変わらないからね」 「……」 少女は目をしばたたいた。泣いたり怒ったり拗ねたりを頻繁に繰り返している身としては、なんと答えていいかわからない。 一陣の風に紫の花吹雪が散ったあと、ようやく口をひらく。 「ああ……でも、あたしもそうだ。どこの時代でもトールはトール。グラディウスだって同じように感じるよ。今の本体さんは女性だから、そのまま一緒、とは思えないけど、でもその関係でうまくいってるんだし」 「まあね。あのごついグラディウスと同じに見えると言ったら、きっと本体は落ち込むだろうよ」 冗談に少女は笑った。同じく微笑んでトールが続ける。 「私にとって、あなたは最初から黒と緑の子だからね。だから、他の人とは違う見え方をしているのかもしれない」 調子が悪くなりはじめた当初、少女がルキアで静養していたときに、黒の女性とかぶって見えたり、明滅して見えたことを彼は言っていた。 いつも男みたいにさばさばしていて、不安を口にしたり、泣く黒の女性は想像がつかないと皆が言う。本体が落ちているときは、いつも行方不明になるだけだったと。 黒の女性が魂としてより均整のとれた存在であるなら、彼が見たのは純粋なアエルの部分とでも言える存在かもしれない。 だからなのか、ルキアで明滅して現れた彼女は、ずっと奥のほうで子供のように泣いているように見えた。 「わたしがわたしだけだったら愛してくれたの?」と彼女は言った。 トールが今の二人をそのまま愛してくれていることは知っている。けれど、ルシオラの混ざらない純粋なアエルの部分はそれでは不安なのだと。 自分はルースと一緒になったから、だから愛されているだけなんじゃないか、という無言の叫びが胸に届く。 「あなたはルースだったら、どんな次元でもどんな星屑の中からでも見つけ出せるって言う。じゃあわたしのことは見つけてくれないの?」 追い詰められた表情で彼女は泣いた。 今のあなたなら見つけ出せるよ、と答えても駄目なのだった。ルースをもたないわたしを探して、と言うのだ。 しかし、融合したとはいっても個性を保っているのだから、アエルの内心としてはさもありなんとトールは思った。 自分の本体のことを考えても、もうひとりのツインの前でのルシオラのことを考えても、今口先だけのこの場逃れをしてはいけない。 そう強く感じた彼は、真剣に考えて伝えたのだった。 明るいルキアの庭で、ベニトアイトの瞳がまっすぐに少女を見る。あのときの言葉を、もう一度ここで語ろう。 「正直なところね……もしもルースがロストしていなかったとしたら、アエルを探せるかというとわからない。 だけど、そのときにはアエルの傍にはカイルがいて、どこにいても探しだしてくれるだろう」 ゆっくりと、一言ずつを噛み締めるように語る彼に、少女は真剣な表情でうなずいた。 「だが実際は、ルースはロストして、アエルと一緒に生まれなおした。その瞬間を、二人から一人になった輝きの強さを、私は今でも覚えている」 それはルースの輝きだけではなかった。 生まれたばかりの、ほんとうに無垢な、無邪気な部分というのを、アエルの部分はもう持っていないと思うかもしれない。 けれども本当はそんなことはなく、ルシオラの無邪気な輝きは、アエルの輝きでもある。 アエルの持つ、経験に裏打ちされた訳知りのしたたかさ、それだってルシオラの持つ部分でもある。 「あなたたち自身は気づいていないかもしれないけれどね。本当はあなたたち二人は、とてもよく似ているんだよ。 表に出ている部分が違うだけで、魂の本質は、その輝きの強さは驚くほどそっくりだ。 ルシオラが単体で経験を重ねていったとしたら、きっとアエルのようになっていたよ。アエルだって、今は無邪気さの表出をルースの部分に任せているだけで、そういう部分を持っていないわけじゃないのだから」 トールの声は穏やかで、大地にしみこむ雨のように少女の心を潤した。 彼女のすべてを奥底まで見通し、そして包むような瞳が続ける。 「黒のあなたも今の緑のあなたも、私から見ると二人は同じなんだよ。どちらにシフトしようと、調整されようと変わらない。 ルースと一緒になったからアエルの部分を愛しているのではなくて、アエルのぶんを足すように、以前より深くあなたそのものを愛していると思う。 だから……黒やアエルのあなたがもし行方不明になってしまったとしても、どこにいてもやっぱり探してみせるし、迎えにゆくよ」 ゆるやかに、しかし確固とした調子で彼は言い切った。 彼がそうして言い切ったことは必ず実行するということを、少女は誰よりもよく知っている。 「……うん、ありがと」 風で膝元に流れてきた長い銀髪の先をもてあそびながら、少女はうなずいた。 安心した顔で青紫の花びらを集めはじめた少女を見ながら、トールは微笑んだ。 そう、どんな彼女であっても、こちらの想いは変わりはしない。 けれども逆に、たとえば黒の彼女にどう思われているかというと、彼にはよくわからなかった。 嫌われていると思っているわけではない。 黒の女性のほとんどがカイルなのだとしたら、かつてのように同僚、同朋だと思ってくれている可能性が高いだろう。 それこそ生まれたときから知っているルシオラの魂に比べると、カイルとアエルの魂に関しては知らない部分が長いのは当たり前だ。 それを忘れてはいけないのだ、と彼はあらためて肝に銘じた。 ひとつの魂から分離してツインとなっていたカイルとアエルは、同一人物になることも多かったという。 ならば、今の彼女には二つではなく、カイルとアエルとルシオラという、三つのかけらが同居していると考えるほうがいいのかもしれない。 好きな人に対して、自由でいてほしいと思う。 同時に、一番でありたいと思ってしまう自分もどこかにいる。 エゴであると知ってはいるが、その気持ちをないと誤魔化すことはできない。 そしてさらに、カイルのことを考えると、今彼女の隣に立っていることさえも、これでいいのかと思ってしまうことがある。 やってはいけないこと、立ってはいけない場所に、自分は立ってしまっているのではないか。 もちろんそんなことはない、今あるものを大切に享受していい、という思いもあり、気持ちは打ち消しあいのシーソーのようだった。 緑の少女の部分。 純粋なアエルの部分。 そしてカイルに近い、黒の女性の部分。 おそらく全部違うのだ。 それらが個々で違うと認めることも、どれも同じだと認めることも、きっと両方が必要で、究極的には同じ意味なのだろう。 ブランコを立って並木道で遊ぶ少女を眺めながら、彼の思考は漂った。 ひとつの魂の中に同居するどの面が現れても、必要な立場からそれを支えられる存在でありたいと思う。 彼の愛するひとの魂は、ちょっとばかり複雑なのだ。 それはよくわかっているではないか。 ならば、そこに統一された解を求めるのは無粋というものだろう。 複雑ならば複雑なまま。 せっかく組まれた精緻な細工物を、中が覗けないからと無理に壊してしまうのは良い方法ではない。 こちらの見方を変えればいいだけだ。 ジャカランダの花の下、トールは目を閉じてゆっくりと息を吸い、そして吐いた。 ふたたび開けたときには、シーソー遊びはもう終わりだ。 一部には恋人であり、一部には庇護者であり、一部には同朋であり。 それでいい。 どの立場であれ、信頼に足る、よりよき存在でありたいと彼は思った。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/28 セラフィムヒーリング トール&緑ちゃんのヒーリング第二弾♪♪
2009年07月27日
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「……それはそれは、ひどい戦いじゃったよ」 校長がそう言って白髭をひねると、聴きいっていた生徒達の間からため息がもれた。 「先生、バラッド(古詩)のようなことは本当にあったんですか?」 尖り耳に丸眼鏡の少年に、もちろんあったとも、とうなずく。少年はますます目を丸くして尋ねた。 「有名な翼の物語や、月の騎士の物語も、ですか」 「そうじゃとも。伝説というのはな、実際にあったからそう語り継がれてきたんじゃよ」 校長は優しい目で石造りの講堂内を見回した。定期試験の最後の日、食堂を兼ねた広い部屋にはすべての生徒たちが集まっている。 常勤講師として部屋の隅に参加していたトールは、校長の視線が自分の上に一瞬長くとどまったことを感じていた。 なんとはなしに悪い予感がする。 「……たとえば、月の騎士のバラッドにはれっきとしたモデルがおる。それも、お前さんたちが全員会ったことのある人じゃよ」 いたずらっぽく校長がウインクすると、一気に講堂内が沸いた。誰だろう、ここにいる全員が会ったことがあるって? よほど有名な人? それとも校長先生その人とか? 興奮したざわめきの中、誰かが話題のバラッドを歌い出した。 凍りつきたる その深遠に ただ姫君を守るため 騎士の剣は輝けり そは月の光を鍛えたる 永遠にめぐる時の環を 月のごとくに寄り添いて ただ姫君を守るため 騎士の技は磨かれし…… (……ちょっと待ってくださいよ。バラッド、ですって?) 意味ありげに自分を見ている校長に、トールは心話で問いかけた。そのバラッドは知らなかったが、今聞く限り、ありふれた歌詞ではないのか。 (そう、誰もお前さんには教えんかったじゃろうな。まだ続いている物語だったのじゃから) 言葉尻にかかるように、バラッドの続きが聞こえてくる。いつしかそれは生徒達の合唱のようになっていた。 その歌詞は古く、ありがちな騎士道的冒険譚のようであった。しかしその中に、世界を支える樹だの、失った翼だの、という言葉が出てくると、いいかげん気づかざるをえない。 (……アシュタール、まさか?) 校長はトールを見つめたまま、ゆっくりとうなずいた。 (そう。バラッドは真実ではないし、すべてを語っているわけでもない。じゃがな、お前たちのことは、ひとつの象徴だったのじゃよ。 ようやく……ようやく、あの戦いの時代が終わったんじゃ) バラッドを歌っていた生徒達が、校長の視線の意味を推し量り始める。それを見た白髪の老人は、顔をほころばせて高らかに言った。 「そうとも。月の騎士のモデルは、ここにいるトール先生じゃよ。儂とは古い戦友でな……そうじゃ、剣の腕も素晴らしかったのう」 途端に、うおおおお、と講堂中が沸いた。 トールは今まで、剣が使えるということをあえて申告していなかった。だから生徒達は、初めて聞く情報に目を輝かせて銀髪の教師を注目し、どれほど使えるのだろう、と口々に言い合っていた。 校長はトールに横目で睨まれても平気な顔で、両手をゆっくりと上げ下げして会場を静める。 あげく、試験明けのごほうびに模範試合でも見せてもらおうかと言い出した。 (アシュタール?) (まあ、まあ。たまには年寄りの喜びにつきあってくれてもいいじゃろ。あれが思い出話にできることの喜びを、お前さんならわかるじゃろうが) トールは内心舌打ちしたい気分になった。だが、あの時代を、あの過去を、過ぎ去った思い出として物語として語れることの感慨はわからなくもない。 (まったく……) 仕方なくトールはため息をついて立ち上がり、手をすっと動かして練習用の刃をつぶした長剣を掌に呼んだ。生徒達の歓声がひときわ強くなる。 学内でだけかけている銀縁の眼鏡を外して胸ポケットに入れ、ちらりと剣術の教師を見やると、若い教師は途端に首を横に振った。 「いや、私ごとき若輩者では相手になりませんよ」 隣の教師たちも同じく。外見年齢はトールとそう変わらないが、実戦経験がないわけではあるまい。ただ、あれほど激しい戦いであったかどうかはわからない。 見やった教師たちが全滅してしまい、トールはもう一度ため息をついた。教えるのが上手いからといって強いとは限らない、と言っていたのはエル・フィンだったか。 今日はちょうど彼も来ていたはずだ。そろそろ帰る刻限だろうが、仕方がない、つきあってもらおう。 しかしこうまで周囲が騒がしくては心話もままならない。 トールは小さな幼竜のディアンを呼び出し、エル・フィンへの伝言を頼んで放った。 学内の演習場で待っていると、ディアンを肩にとまらせた金髪の部下が、苦虫を噛み潰したような顔でやってきた。 彼は非常勤の臨時講師としてたまに授業を持っているのだが、やはりこれから帰るところだったのだ。 「なにか御用ですか」 不審そうな表情で演習場の中央に立つトールと校長のところにやってくる。 「呼び立ててすまないね。模範試合をしてほしいそうなんだ」 「トール師がですか? 剣術の教師たちは?」 「あっさり断られてしまったよ」 上司の苦笑が流れた先を、エル・フィンの碧眼が冷たく睨みつける。こいつらのせいで帰れなくなったと思えば、不遜にも校長まで睨まずにはいられない。しかも彼も、剣が使えることを申告していなかったのだ。 だが若い教師たちはともかく、校長はまったく動じない様子でエル・フィンに微笑んだ。 「頼むぞ、エル・フィン」 「……」 無言のまま、仕方なくエル・フィンは校長に一礼した。演習場の隅に荷物を置き、同じく練習用の剣を持って中央でトールと向き合うと心話が届いた。 (とりあえず仕事のほうはこちらで融通をつけておくから) (ありがとうございます) 軽く剣を触れ合わせて開始の合図。 エル・フィンは嫌々ながら踏み込んだ。その斬撃は早く鋭いが、どこか投げやりであることにすぐトールは気づいた。 二合ほども撃ち合い、銀髪の錬金術師は厳しい声を出した。 「エル・フィン。それでは生徒たちに模範試合を見せる意味がないだろう。それに、衝撃波はまわりに立つ教師達が抑える手はずだから大丈夫だ。もっと思い切りきなさい」 (それに、レオンが来ているよ) 付け足された心話に、エル・フィンはわずかに目をみはった。 背中で気配を探れば、確かに人垣の後ろのほうにレオンとその叔父のルークのエネルギーを感じる。レオンはこの学校に編入することになっていたから、見学に来たのだろう。 そういえば、今朝出るときルークに珍しく予定を聞かれたことを思い出す。 「……では、遠慮なく」 碧眼を一瞬細めて、エル・フィンは強烈な斬撃を放った。座興の模範試合であれ、生徒達に最高のものを見せたいというトールの思いやりにも心打たれていたし、衝撃波の問題も解決しているなら、手を抜く理由はない。 それに、やはり戦士の性なのだろう、強い者との対戦にはどうしても血が騒いでしまう。 いつのまにかすうっと集中し、演習場を囲む生徒達の歓声も耳から消えていた。 ただトールの操る剣の輝きが、光る鞭のごとくに目の前を踊る。その動きに合わせまた反して、エル・フィンの剣筋も流れるような弧を描いた。 「そこまで」 はっと気づくと、校長が両手に剣を持って二人の間に入っていた。 完全に夢中になっていた自分と比べると、銀髪の錬金術師は手加減していたに違いないが、それでも対戦の最中に止めに入れるとはよほどの技量だ。 見ればトールも苦笑している。 さすがに校長だ、とエル・フィンは剣をひいて深く黙礼した。 顔をあげると、天を突くような大歓声が自分達を包んでいた。 <水晶薔薇庭園館綺譚7 模擬試合(6月上~中旬)>http://elfin285.blog68.fc2.com/blog-entry-55.html*************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)はじめてバラッドの話が降りてきたとき。さすがに嘘だろー、と思って、内容を黙ったままエル・フィンさんの本体さんに調べていただいたんですが。そしたら、エル・フィンさんが図書館みたいなところで本を探して持ってきてくださったそうです。ホントにあったんかい!・・・というわけで観念してネタにしてみますた orz象徴とか言われても、緑ちゃんはともかくトールが言われる意味がぜんぜんわかんないんですけどねえ・・・コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/28 セラフィムヒーリング トール&緑ちゃんのヒーリング第二弾♪♪
2009年07月26日
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「右脇が甘いぞ」 結界を張ったクリロズの裏庭で、トールの攻撃がエル・フィンを狙う。はい、と答えながら、部下は手に握った木の枝で突きをはらった。対するトールの武器も、そのあたりに落ちていた手ごろな木の枝である。 「そうだ、ステーションの例の件は解決しました」 アドバイスの礼を述べながら身体をひねり、はらった体勢から回転力をつけて相手の胴を狙う。 「それはどうもありがとう。助かるよ」 乾いた音をたててトールは弟子の渾身の突きを叩き落とした。その余裕たっぷりな様子に、エル・フィンが悔しげな舌打ちをして大きく踏み込んでくる。 無言で振り下ろされた枝を受け止め、斜めに受け流して体を入れ替える。間髪いれずその肩を突くと、エル・フィンがよろめいた。 「治療しようか?」 「いえ、もう一本お願いします」 碧眼をしかめて言う。金髪が汗で額にはりついていたが介せず、しびれる腕に弓手を添えて打ちかかってきた。その根性はたいしたものだ。 トールは軽くため息をついてその斬撃をかわした。 「まったく君の根性には恐れ入る。少しは休みなさい」 「往生際の悪さは、総指揮官殿ほどじゃありません」 「そうかい」 にやりと笑ってトールはお返しに斬撃を放った。真っ向から受け止めたエル・フィンの枝が、衝撃に耐え切れず音高く折れ飛んでしまう。 一瞬とびすさると、トールは左手の指をたててくいと動かした。背後にあった木の枝が浮かんでエル・フィンの目の前に落ちてくる。 「ありがとうございます」 生真面目な礼を言って、エル・フィンはまたそれを構えなおした。 「あの子はいまどうしてる?」 エル・フィンの強烈な一撃をいなしつつトールは碧眼を見やった。身体を引ききったところで攻撃に転じる。 「剣を教えだしたところです。才能が…あり、そう、なの、で」 次々繰り出される斬撃に切れ切れになりながら部下は答えた。 「そうか。じゃあ今度見学に連れておいで。勉強になるだろう」 防戦一方に追い込んでおいて、容赦ない締めの一撃をしかける。したたか腕を打たれて、エル・フィンの手から木の枝が落ちた。悔しげな表情をひらめかせ、ありがとうございました、とエル・フィンは頭を下げた。 「どういたしまして。腕を見せてごらん」 「いいです。これくらい自分でやりますから」 歯を食いしばってエル・フィンは答えた。部下の性格を把握しているトールは、肩をすくめてそれ以上は言わなかった。 昼下がりのクリロズの裏庭。 森のはずれの空き地に、薄茶色の巻き毛の少年がひとり、まだ細い腰に剣を佩いて緊張した面持ちで立っている。 少し離れた岩には、金髪碧眼の師エル・フィンが腕組みして腰かけていた。 トールは横目で結界を確認し、穏やかな表情で少年のほうに歩いた。彼もまた、腰に愛用の長剣を佩いている。 正面に向き直り、銀髪の錬金術師は優しいまなざしを少年におくった。 外見年齢はジョゼと同じくらいだろうか。くるくるした巻き毛にふちどられた、まだあどけない顔立ちに素直そうな大きな瞳。 部下のエル・フィンが可愛がって育てているこの子と、正式に会うのはまだ数度目だった。 敬愛する師匠のさらに上司にあたるトールを前にして、しかも手合わせをしてもらえるということで、レオン少年は口から心臓が飛び出そうな顔をしている。 そのさまにふっと微笑み、トールはすらりと剣を抜いた。 おもむろに両手で顔の前に捧げ持ち、しばし目を閉じる。 (天と) 青灰色の目を開いて時計周りに刃を半回転させ、かるく跪づくようにして刃先を足元に刺し、両手を柄に添えてまたしばし頭を垂れた。 (地と) 何が起こっているのか、レオンはぽかんと口を開けて見とれている。 所作の意味に気づいたエル・フィンが、驚いたように組んでいた腕をほどいて立ち上がり、(トール師匠の真似をしなさい、レオン)と心話をおくった。 あわてて少年が剣を構える。 黙礼してくるエル・フィンに微笑を返し、少年の動作が追いつくのを待って、トールはゆっくりと立ち上がった。 剣の平に左手を添えて、目の上に水平に捧げ持ち、短く祈る。 (わが内なる神にかけて) 少年を促して互いの剣先をかるく交差させた。 (この剣が信義の元に振り下ろされることを誓う) 滞りなく一連の所作が終了し、トールはにっこりと笑った。 それは、今では学校の授業でしか習わないような、騎士道的な由緒正しい剣の挨拶だった。 初めてまみえる小さな剣士とその師匠に、彼は敬意を表したのだ。 大人と子供の剣士は、互いに構えの姿勢に入った。 空気がぴんと張りつめ、周囲の光が増したように感じられる。 す、と流れるようにトールは踏み出し、レオンの右肩に剣を振り下ろした。 硬い金属音がして、少年の剣がそれを受ける。 何が起こったのかわかっていないレオンの表情は、その動きが無意識によるものだと語っていた。 ほぉ、とトールは目を輝かせた。 (この子、あれが見えているのかな?) 天性の素質があるようだと、エル・フィンから聞いてはいたが。彼は笑顔をこぼし、楽しそうに次の剣を振り下ろした。 予想通り、少年は一瞬早くトールの動きを察知して見事に防御する。 自分が「ヒカリ」と呼ぶエネルギーを見ることでそう動けていると気づき、レオンの目も強く輝いた。 その瞳をとらえて、トールはまるでいたずらっ子のように軽くウィンクした。 川の流れが急に早くなるように、踏み出して彼の右耳すれすれに切り込む。 少年があわてている隙に、続けて左脇、そして頭上。急に上がったスピードに着いていけなくなったレオンが、(切られる!)と首をすくめてぎゅっと目をつぶる。 ガキン! 背の高い影が飛び出してきて二人の間に立ちはだかり、トールの剣をとめた。 「師匠、お願いします」 エル・フィンが自分の剣を構えている。声は冷静を装っているが、トールがレオン相手に寸止めするつもりなのをわかっていないはずはない。 思わず飛び出してしまったということか。 「いいとも」 トールはにやりと笑った。無表情で人を寄せつけない雰囲気をもったエル・フィンが、この子の前では柔らかい部分を出していることを、トールは歓迎していた。 ほうっ、と息をついて座り込んだレオンを横に、二人は剣を交えた。切る、はらう、突く、いなす。少年に基本の型を見せる意味もあって、彼らの動きは攻防ともに無駄のない舞のようだ。お互い木の枝で容赦なくやりあうときとは違う。 剣の練習のそもそもは、エル・フィンがグラディウスを統合したトールとの練習試合に勝てず、逆にトールに剣術指南を申し込んできたことによる。 グラディウス統合前まではほぼ拮抗した実力であったため、エル・フィンにはそれがどうにも悔しいらしかった。 「つっ……」 トールの突きを払いきれず、鋭い刃がエル・フィンの左肩をかすめ鮮血を噴いた。 銀髪の錬金術師は次の動きを即座に止め、剣を鞘におさめて部下に歩みよる。 「見せてごらん」 「いえ、こんなのは……」 言いかけたエル・フィンだが、見守るレオンの瞳が泣きそうに潤んでいるのを知って言葉を止めた。お願いします、と呟く。 うなずいたトールはエル・フィンの傷に手をあて、瞬く間にそれを治療した。 (君はレオンがいると無理をしないな。いいことだ) 微笑みと一緒に心話を送る。 無表情なエル・フィンの頬がほんのかすかに赤くなったのを、トールは見逃さなかった。 <水晶薔薇庭園館綺談6-1 剣指南(6月上旬)>(エル・フィンさん)http://elfin285.blog68.fc2.com/blog-entry-52.html<トールさんとお手合わせ♪☆レオン物語37話>(レオン君)http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1192888975&owner_id=18458013*************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)これはぜひぜひ! 上のリンクも読み比べてご覧ください♪それぞれの視点から見てますから、ほんと面白いです。こういうとこ、創作じゃなくって「ほんとにあった話」なんだなあって不思議ですよね~ 笑コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!ヒーリングのコメントに、ファンです♪と書いてくださった皆様もありがとうございます~(感涙いやもうほんとに嬉しいです!!(T△T)おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/28 セラフィムヒーリング トール&緑ちゃんのヒーリング第二弾♪♪
2009年07月25日
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お待たせしました! トール&緑ちゃんのヒーリング第二弾です♪え、天使から石シリーズになったんじゃなかったの・・・いやいや、ここのヒーリングは常に(表面上)私の気分で(実際は上の誰かの計画で)決まりますから^^;前回のセラフィムヒーリング、えらい人気でびっくりでしたからね~。ものすごい伸びで、どなたかボランティアで参加表明の人数数えてくれないかな~とか思ったくらいですw前回は七夕さまでしたから、3週間ぶりになりますね。その間に、緑ちゃんはエネルギーワークの練習したり、日蝕式典でお歌も歌ったり。新しく生えてきた4枚の羽もだいぶ大きくなって、もう前からでも見えるようになりました。上には、羽専門?の美容院とかエステとかっていうのがあるらしいのですが。式典にむけて、フレデリカママのお知り合いの美容院できれいに整えてもらってとっても素敵。お日様の七色の光、で羽のコーティングしたとかで、きらきらしてます♪ちゅまちゃんによると、式典の前後で緑ちゃん、すごーく可愛くなったとかで。緑ちゃんファンのあなたはぜひその可愛さをお持ち帰りしてくださいwww羽っていうのはエネルギーを受けるアンテナのような役割もするらしい(byトール)ので、そのあたりも楽しみなところです。怒涛の大波小波を乗り越えて、成長中?な二人のヒーリングをよかったらどうぞwあ、前回に同じく、下じぇいど♪さんはヒーラーさんではないので、間違ってもお問い合わせなどなさいませんように。ご質問は上で緑ちゃんに直接どうぞーw応援ぽちっ♪→★リアルタイム日時 2009年7月28日(火) 21:30より1時間(日本時間)★コールイン受け取り可能時間 日本時間で上記日時~7月29日(水) 20:30開始まで ※とくに決まった宣言文はありませんが、よいお時間に 「さつきのひかりのヒーリングを受け取ります」と宣言していただければ大丈夫です。 ★募集期限リアルタイム直前(火曜21:30)まで★参加ご希望の方はこの記事(エラーになってしまう場合、mixiの同名記事)のコメント欄に、HN(ハンドルネーム)と都道府県、以前さつきのひかりのヒーリングをお受けになったことがある方は、前回のご感想を一緒にお書きください。私もとても嬉しく励みになりますし、書くことでご自身の気づきも深まるかと思います。※他の記事へのコメント・メッセージ等は無効になります。お返事もできませんので、ご注意ください。★ヒーリングの種類その時々のテーマとともに、純粋な愛のエネルギーによるヒーリングを、お申し込みいただいたご本人、住んでいる土地、ご先祖さまがた、にお送りいたします。もっともシンプルで、誰にでも入りやすく、心の癒しには一番効くのだそうです。ハートが癒されると、ふんわり開いてご自分にとっていいものがたくさん引き寄せられてきます。キラキラをたくさん引き寄せちゃいましょう♪♪★初めましての方は、フリーページをご一読くださいませ^^→→「ヒーリングについて(http://plaza.rakuten.co.jp/satukinohikari/4000)」※よくあるご質問もまとめてあります。ご質問の前にご覧下さいね^^★喉が渇くことがあります。また好転反応が出た場合に楽に流すためにも、白湯などの水分をとられることをお勧めします。★エネルギーやヴィジョンを感じるワークではありません。リラックスして、寝るつもりでゆったりとお布団で受け取ってくださるといいと思います♪★車の運転など、注意力・集中力を必要とする場面では、絶対にヒーリングを受け取らないでください。 眠くなることがありますので、危険です。万一そういう事態になった場合には、「私は今はヒーリングを受け取りません。後ほど布団に入るときに改めて受け取ります」とはっきり宣言してください。★ヒーリングは医療行為ではありませんので、受けたことで怪我や疾患が良くなったり悪くなったりするというものではありません。変化はご自身が望まれたことを後押しするために現れます。ご自身の判断と責任によりお受けくださいね。
2009年07月24日
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緑の少女とトールはルキアでひと休みしてから、技術部の懇親会にちらっと顔を出した。 行ってみると一次会のお開き直前で、皆ですっかりできあがっている。 顔を出したツインの上司に、陽気な酔っ払い達がわーきゃーと盛り上がって何度目かわからない乾杯をしてくれた。 部門のセキュリティの仕事は時間もきりもなくて激務だが、皆暖かくて気のおけない人達ばかりだ。職場から動けなくてもさほどの不満がないのは、皆の人が好くて楽しいからだとトールは思う。 二人はそのまま、二次会にも少しだけつきあってルキアに帰った。 翌朝、マリアの作った朝食を皆で食べる。ダイニングには明るい朝日が満ちて、手作りの野菜がとても美味しかった。 「後でまた糸屋に行くわね」 紅茶を飲みながらマリアが微笑む。糸の質がいいと褒められて、緑の少女はありがとう、と笑った。 食事を終え、いつものように食器を片づけるとトールが言った。 「これからステーションに戻って、いくつかの異常個所の処理をするんだけどね。ひとつ面白そうなのがあるんだよ。一緒に行かないかい?」 「うん、行く」 マリアと別れ、二人は一度ステーションへ移動した。そこからけっこう遠く、ステーションの外側の結界のあたりまで、羽だけで飛んでゆく。 途中、トールはドラゴンを使わずに羽で飛んでゆくときのアンカーの仕方や、自分へのバリヤーの張り方などを少女に教えた。 少女は言われるままに即座にやってのける。 トールが魔法陣を書いて行うバリヤーの部分を、そんなんわかんない、めんどくさい、と思いながら、気だけ感覚でつかんでつくる。 「よし、これで同じ」 「そうだね。ちょっとこれとは方法は違うけど、まあ安全性と効果の面では問題ないからそれでいいよ」 少女が作ったバリヤーを見ていて、トールはうなずいた。 そうこうするうちに、結界の破れ目にたどり着く。 「うわああああ、かわいいいいい!」 見た途端に少女は叫んだ。 そこには、小さな赤子のドラゴンがひっかかって、動けなくなっていた。 その子がみーみー鳴いて発しているエネルギーで、周囲の結界を破壊していたのだ。 トールはもちろんそういう赤ちゃんドラゴンがいるのを知っていて、少女が喜ぶだろうと思って誘ったのである。結界を補修して助け出すと、少女の両の手の平に乗るくらいの小さな赤ちゃんドラゴンは、ちょこんと少女の肩に座った。 身体は青緑のまだらに羽のふちが赤、という色かと思っていたら、どうやら色がころころと変わる。首をかしげて少女を見上げる、大きな目がとても可愛い。 後で下の娘に聞いたところによると、普段連れ歩くのが危険というわけではないが、とても力の強い子であるらしい。サイズはあまり大きくなるタイプではなさそうだった。 「ねえ、この子、もらってもいい?」 頬ずりして目を輝かせる少女に、トールはいいよ、と微笑んだ。 そういえば彼女が最近連れ歩いているのは、結界を食う15匹のドラゴン軍団である。それに加えて、さらに気で結界を破壊する赤ちゃんドラゴンなんて大丈夫なんだろうか、と思わないでもない。 だがまあ、破壊された結界を修復する責任者はトールである。どうにかするより他はないというか、上もそのあたりを見越してこの仕事につけているのかもしれなかった。 それからトールは、胸ポケットから封書を取り出した。 昨日みつけた断れない筋の招待状。7月22日の皆既日食の日にある式典のものだったのだが、少女が了承したので出席の返事を書いたのだ。 「私はこれから他の仕事に行かなくちゃならないんだ。招待状の返事を書いておいたから、アシュタールじゃなくても、あそこの幹部のマスターや大天使なら誰でもいいから届けてくれるかな」 「わかった。じゃあね」 緑の少女は封書を受け取って手を振った。 誰のところに行こうかと考えて、ミカエルやラファエル以外で一番行きやすい、そして楽器をもらってからまだ顔を出していない、サンダルフォンの部屋に向かった。 封書を渡して出席の返事をすると、サンダルフォンはにっこり笑った。 「式典で音楽演奏してもらうから、あげた楽器をもっておいで。いきなりじゃ自信がなかったら教えてあげるから、楽器をもって今度私のところに来るんだよ」 「ええええ! やだよそんなの!」 思わず後ずさって少女は首をはげしく横に振った。 「まあ、そう言わないで」 「やだよ! 挨拶回り途中で放り出したからって、なんでそうやって好奇の目にさらされなきゃならないんだよ」 サンダルフォンは柔らかな動作で首を振った。音楽的な、歌うような声で続ける。 「そうじゃない。私たち天使にとってはね、君とトールというのは大戦のときに負った、天界の傷の象徴なのだよ」 「象徴……?」 「そう。ルシオラのことは誰もが覚えているからね。永の時を経ての二人の復縁は、私たちにとっては、あの辛い戦いの時代がようやく終わった、ということの象徴でもあるのだよ」 サンダルフォンが昔の傷を見つめるような悲しい瞳をしたので、緑の少女は顔をしかめた。同じような目にあった魂はたくさんいたはずなのに、なぜ自分達が象徴と呼ばれるのかわからない。 しかし同じく戦いの時代が終わったという話を、先日カイルとアエルとして出席した会議で聞いたばかりではあった。 「ひとりや数人で演奏しろとは言わない。壇上の後ろにいる楽団の中でいいから」 サンダルフォンに懇願されて、少女は仕方なくうなずかざるをえなかった。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)結局昨日は、リアルでは日食を見れずじまいでした orz 上で嫌ってーほどエネルギー浴びまくりだったので、これ以上浴びるなとかミカエルに言われますた・・・でもちょっとは見たかったよう。しくしく。 で、たしかに昨日の上の式典はすごかったです。 すごすぎてまだ解凍できないけど(爆 ようやくちょっと落ち着いてきたかなあ~コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→
2009年07月23日
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緑の少女は、糸屋の店先でリラをいじっていた。 例の「御用聞き」で、サンダルフォンの部屋にいったときにもらったものだ。トールからも22弦のミニハープをもらったことがあるが、それよりももっと小さくて丸っこい。 キラキラした装飾つきで、トールからももらったからもういらない、と最初は断ったのだが、いいから持っていけと押しつけられてしまったのだ。 リラが別名「天使の竪琴」と呼ばれていることを知ったのは、後になってからだった。 店先で弾けば客寄せになるかもしれない、と思って弾き始めたのだが、なんとなく気分がのらない。下の娘がよこしてくれたドラゴンと、なんともいえず気分の晴れない感じで彼女は過ごしていた。 そのうち、まっすぐに店にむかってくる人影に気がついた。すわお客かと笑顔を作って出迎えると、それがデセルであることがわかった。 (なーんだ、お客さんじゃないのか) 少しがっかりした表情の少女に、デセルは笑顔をむけた。 「こんにちは、緑さん。ちょっとオフィスに来てもらえませんか」 「……うん、いいけど」 少女は留守をドラゴンに頼み、デセルの横を歩き出した。 実は彼女は、しばらくトールとちょっと気まずくて顔をあわせられずに、避けている、というか戻りにくくなっていた。 それを知っていて、直接自分ではなくデセルを迎えによこしてくれたのか、それとも彼が自発的に来てくれたのかはわからない。 けれど、きっかけがあって戻りやすくなったのは事実だった。 とりとめもなく色々話しながらついてゆくと、すぐにオフィスに着いた。ずいぶんと人が増えている。 奥のつながった部屋のほうで、トールが気づいて顔をあげる。少女の姿を認めて微笑をうかべ、親友にうなずきかけると、またすぐに仕事に戻った。 少女は手前のスタッフルームで、少しだけ仕事を手伝った。他部署への書類の送り方などをデセルが教えてくれる。 「あて先は、元の書類のここから気をコピーしてこっちに貼ってください。それから、部屋のここの機械に入れてこのボタンを押すと、自動的に行き先別に送られますから」 「ん、わかった」 そんなことをやっているとすぐに、全部の仕事が終わって万歳、という瞬間がきた。二十四時間稼動している部署ではあるが、波の切れ目は当然あるし、なにより統括のデスクの上が平らになったのは初めてだ。 最後の書類を転送し、机の上に羽ペンを放り投げて椅子によりかかったトールに、スタッフから陽気な拍手が沸き起こる。 伸びをして息をついたトールは、彼らに笑って席を立った。 「ちょっと失礼するよ」 といったん皆に挨拶し、少女を連れて部屋を出る。 そして、瞑想部屋と呼ばれる場所のドアをあけた。 入ると真っ暗な中に星空が一面に映し出され、宇宙空間に浮いているような感じになる。 瞑想の邪魔をしないよう防音がきいていて、星のまたたきの音さえ聞こえそうな気分になった。 ここはエリアを統括するツインがともに瞑想に入るための部屋だ。 ツインというのは特殊な波動を持っており、うまく気持ちとエネルギーを交流し、共振させることで爆発的なエネルギーを発生させることができる。 それをエリア全体の結界システムと連動させることで、すべての不具合や波動調整などを一瞬にして直してしまう、それがこの職にはツインしか就けないという理由だった。 もっとも、トールと少女はまだまだそこまではいかない。うまくいけば書類の山は五割以下になる計算だったが、今のところは足でかせぐしかなさそうだった。 上もそれを承知の上で、仕事しながら慣れていくように言われている。 トールはそこへ少女を連れていくと、優しい表情で向き直った。 「今日はここで仕事はしないけれど、なんでもいい、今の気持ちを話してごらん。言いたくなかったらそれでいい。でも、言いたいことがあったら言ってね」 「……うん」 間をおいて少女はうなずいた。それからぽつりぽつりと話し出す。 週末にカイルとアエルのツインとして、会議に出席したこと。そこで調整をうけたこと。 むこうとのコードが強くなったら、今度はトールと繋がりにくくなってしまい、混乱して急に不安になったこと。 二人のツインを持つにあたって、自分の精神とキャパシティがキーポイントだと言われたこと。それはこのことかもしれないと思っていること。 それから……ほんとうに彼女の足をとどめていたのは、今言ったことだけじゃない、きちんと言葉にならない、できないような、複雑な気持ちなんだということ。 雨だれのような彼女の言葉を、トールはだまって聞いていた。 言葉にならない、本当にそうだ。 伝えたい思いも聞いてほしい思いも、どちらも単語選びのなんと難しいことか。 テレパシーですべて通じたらいいのにと思うこともあるが、言葉を選ぶその過程そのものが、そして考えて考えて、やっぱり言葉にならないんだと伝えることそのものが、きっと気持ちを伝えるための抜けない飛び石なのだろうと思う。 言葉ほど、簡単で難しい魔法を彼は知らない。 伝えたくても言えないこと。 伝えてしまって後悔した、けれどもどこかに出さずにはいられなかったこと。 傷ついて傷つけあって、それでも届けたいのは、おそらくたったひとつの気持ちなのに。 なぜ人はすれちがうのだろう。 それすらも、愛の境地を知るために? トールの中にも、言葉にならない思いはいくつも眠っている。 ましてトールという人格からはみだした部分ももつ本体はなおさらだ。それは緑の少女も、いや生きるすべての人が同じことだろう。 言葉はむずかしい。 人はむずかしい。 それでもなお、愛さずにはいられないものたち。 言葉にならないんだ、という少女の台詞を、微笑んでトールは受け入れた。 あふれ流れる奔流のような心に対して、選べる単語はあまりにも少ない。 言えなければそのままでいい。 言葉にならないからといって、気持ちがないわけではない。 だから、そこに言葉にならないなにかがあるのだと、それさえわかっていればいい。 大事なのは表層の矢印ではなく、それが指し示す奥底の形なきたゆたいなのだから。 忘れることなく抱きしめていれば、いつか凝って結晶になることもあろう。 それが美しかろうともそうでなかろうとも、泥濘の奥から現れた宝であることに違いはない。 満天の星空を背に、穏やかな声でトールは言った。 「もうあらかた仕事も終わったから、これから一緒にルキアに帰ろう」 「うん、わかった」 少女もすっきりした気持ちで答える。 二人がオフィスに戻ると、和気藹々とした雰囲気でスタッフ達が待っていた。 いやあ、仲直りできてよかったよかった、普通にしているつもりでも、統括がやっぱりどこか無理しているのがわかるし、そうなると我々もやりにくいからねえ、と笑ってちゃかされる。 ぱっと赤くなった少女をいたずらっぽい目で見やると、トールはひょいとその華奢な身体を子供のように縦に抱き上げた。彼と少女は50センチほどの身長差があるため、彼女と一緒にいるときは、トールは少しだけ猫背になる。 「ぎゃー、はずかしーから降ろしてー!」 叫び声を無視して、皆に「お疲れ、お先に失礼するよ」と笑顔で挨拶する。 「はいはい、どうぞどうぞ」 「これで後は二人だけにしとけばいいですから、安心安心」 上の人、特に天使系というのは愛情表現がおおらかだと言われるが、それぞれ羽を持ったスタッフ達もまったく動じることなくにこにこと答えた。ひとり無表情で淡々としていそうなエル・フィンは、今日この場にはいない。 すぐに別の分身をよこしてシフトを交代するからね、今夜の技術部懇親会は楽しんでください。そう言って、トールは少女を抱いたまま扉から姿を消した。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)今日は皆既日食!残念ながらこちらは雨がちの曇りですが、上は色々といそがしそーです。トールもマリアも正装してなんかやってます(爆緑ちゃんもかわいー白いおよふくがとってもお似合い。いずれ物語に書きますので、しばしお待ちあれ~コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→
2009年07月22日
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数日後、デセルは自作の「ホイール・スコープ」を納品してくれた。 まず第一に「多現象オシロスコープ」として、設置箇所で起きているいくつかの現象、その波動がありのままに万華鏡様に映しだされるようになっている。 輝線の波形では素っ気ないためモザイクになるようにしたのだそうで、色の組み合わせでメッセージを表示することもできるらしい。 さらにドリームキャッチャー的な網目構造をもち、一つだけではなくいくつかを全体のシステムに組み入れることで、良いものは通し、悪いものは通さない、または良いものを取り込み、悪いものは別次元へスルーという両方の機能を発揮することができる。 しかもそれだけの機能を持ちながら、形状はいたってシンプルな機能美に貫かれていた。 「機能の優れた物は、往々にして造形もまたムダがないです。そこに余計な飾りは要らない」 デセルが真面目な顔で言う。それはまさに、トールが望んだままの、いやそれ以上の芸術品だった。 エリア統括となったトールは、すでに天使エリアそのもののシステムに組み入れられている。目を閉じて集中すれば、広いエリア全体のどこに結界のほころびや弱点があるか、異物が混入しているか、手に取るようにわかった。 しかしいつもそんな感覚を開いていたのでは神経がやられてしまうので、普段は切っている。 このホイールスコープがあれば、数十人いるセキュリティチームの誰でもがどこで何があったかをすぐに知ることができるため、書類ごしよりも対応が早く楽にできるだろう。 実際、ネットワークに入れないまでも、単発でいくつか設置しただけで、見回りの仕事などはだいぶ楽になった。 そしてまた数日後、彼は技術主任就任の件も引き受けてくれた。 今まで公の仕事からは遠ざかっていた人ゆえに、トールの喜びは大きかった。 前任の主任は、幹部エリアの一角にある宝物庫に配置替えした。 基本的には全体システムの管理下にあり、範囲は狭いが階級は変わらない、むしろ名誉職だ。彼のやり方を続けることができるし、ちょうど前の人が退職したところだった。 その異動と同時に、デセルを正式に技術主任として任命する。 トールはさっそく、作ってもらった装置を全体システムに組み入れた。個々のホイールスコープがネットワークに繋がれ、個体では発揮しきれなかった機能を蜘蛛が美しい網を張るように展開してゆく。 新しくデセルの部下となった技術部員達が、その芸術レベルの出来に感動しているのを聞いて、トールは自分のことのように嬉しかった。 ルーチンの見回りなどもようやく動き出し、さらにエル・フィンの遊撃隊がかなり円滑に動けるようになってきて、机の書類の山がかなり減る。 トールはようやく腰をすえてデスクワークにとりかかった。 今までは現場に出ていることが多くて、書類はたまる一方だったのだ。 現場と親しく顔見知りになれたのは嬉しいが、重要度が低くて放置していたため、溜まりに溜まってしまった雑用をどうにかしなくてはならない。 あの漂流者の件あたりから、緑の少女の調子が悪いのも気がかりだった。 それまでは、山ほどある修理要請の小さいものは自分ですぐに行ってきたり、招待の断り状を書いたりしてくれていたのだが。 週末あけて調子が悪くなりルキアでしばらく静養したのち、動けるようになってからは糸屋に戻って、そのままルキアにもオフィスにも下の娘の家にも顔を出していない。 下の娘からの又聞きによると、昨日はどこかで飲んできて、そのまま糸屋の機械の裏で寝袋で寝てしまったそうだ。 道端で寝ているのではなかったことに胸をなでおろしつつも、心配であることに変わりはなかった。 トールは書類の山をひっくり返して、下から順番にかなりの速度で処理をはじめた。 いつだったか少女がうめき声をあげたように、まったくさまざまな案件が持ち込まれている。 天使エリア下端の倉庫○番の壁が崩れてきている、などの修理・見回り要請がまず山ほど、これはルーチン見回り班に割り振りし書類を転送する。 辺境からの漂流者の件は、共有スペースの宿泊棟まで誘導済みだ。初心者グリッド班に編入するが性格的に要考慮のもよう、共有棟責任者に申し送りしておく。 次に、多次元エネルギーの境界層における重複した濃エネルギーの空間処理方法について、等の技術的な質問が数件。コメントをつけて技術班へ転送する。 宝物庫の担当退職の件は、退職祝いを贈る手配をし、新担当を配置済である旨告知した。 それからうんざりするほどくる、パーティなどの招待状。上の世界というものは、遊び心とか余裕とかいうものが大切らしく、パーティはとても多いようだ。 肩書き上トールのところにも相当の招待状が来るのだが、何人でも同時存在できて、死ぬほど仕事しながらも一人くらいは暇な分身がいそうな上層部の方々と下っ端は一緒にならない。断れるものはすべて断り状を書いて断ってゆく。 中に一通、これは断れないなという正式な式典の招待状があったが、それも緑の少女の状態による。とりあえず保留にしておいた。 やがて処理がすすみ、山の上の新しい書類にくると、かなり重要な用件も混ざってきた。 中層部に小さな黒い染みがあり、移動するという件。これはエル・フィンの遊撃隊に出動要請をかける。 そのエル・フィンの職場が現在特定されていない件。 彼はもともとステーションのほかの部署の仕事も時々請けていたようで、所属があいまいになっているらしい。彼の希望によっては他部署の仕事を請けずに専属になれるよう、ザドキエルとアシュタールに了承をとり、またエル・フィンに意思確認を行った。 同じく人事異動の裁可数件。そしてデセルから、多次元オシロスコープのネットワーク接続および正式稼動の件がきている。当然了承。 裁可をもらった書類を受け取りながら、デセルはすでに次の書類に取りかかっている親友を眺めた。 トールの執務室とスタッフのオフィスは、実際に廊下を歩くとそう近い位置にあるわけではないが、今はポータルも介さず直接部屋同士の空間をつなげてしまっている。 緑の少女と何があったのか知らないが、隠していてもどことなく無理をしているのはすぐにわかるのだ。デセルも激務をこなしながら、ちらちらと少女のことを気にしていた。 だいたいこの書類も、もうすこし簡単にならないものだろうか。あの机の山が減れば、彼もゆっくり少女に会う暇がとれるようになるのだろうに。 クリロズとステーションとルキアと……三人に分身できるとはいっても、クリロズもステーションも「場の統括」になってしまった彼はシステムの礎石となっていて、基本的に持ち場から離れられない。唯一自由に動けるルキアの彼も、魔法学校の授業をいくつも持っていて忙しいことをデセルは知っていた。 デセルは自分の机に向き直ると、目前の書類仕事をものすごいスピードで片付けた。 部下の技術部員たちに必要な書類を渡しながら、「ちょっと席を外していいかな。すぐ戻るから」といって部屋を出る。 目の隅でトールの仕事がもうすぐ終わりそうなことを確認しながら、デセルは早足でショッピングモールへと向かった。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)トールのしてる書類仕事ってどんなの?と疑問に思われてた方、いらっしゃるでしょうか。こんなのです(笑)こんなのが山ほどくるのー!!ひどいときには執務机の上に、山が4つくらいあったりします。。orzコメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/21 クンツァイトヒーリング やわらかなピンクをあなたに。
2009年07月21日
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ある夜。 ラボ、痛覚遮断、関節増設、の話を聞いたら 突然自分の腕に力が入らなくなった。 力を入れようとすると、がくりと崩れるリアルな感触。 ああ、そこにいたんだ、と思った。 ---------- 「ほら、痛くないでしょう? 僕らは動物達にそんなにひどいことはしてないんですよ」 若い声が見下ろしながら笑う 被験者を動物と呼ぶことにも だんだんと目的から乖離して 意味のわからなくなった研究にも ほとほと嫌気がさしていた 彼らを逃がそうとして 捕まった おやおや嫌ですね、僕らはそんなにひどいことはしてないんですよ。 あなたは知識があるからわかるでしょう そうだ、ご自分で経験してみたらいい そしてお決まりの痛覚遮断手術。 執刀者が未熟で各所に焼けるような痛みが残る この下手くそめ。 右脇を床に縫いつける三叉の鉾 私は転がったまま残った目だけで声の主を見上げる お 前 だ よ 話すことはない 舌を切り取られた 魔法を紡げないように 手の指も ご丁寧に関節ごとに皮一枚残して分断された 魔法陣を作れないように だらりと垂れて まるで糸のたるんだマリオネット 目は片方だけ残された 不様な自分の姿を見ることができるように 悦にいった声が笑う やはりこいつは変態だ。 私はゆっくり首をめぐらし 似た姿の同士たちが床でもがいているのを見る 嬉しそうに声が笑う 惨めですね、あなたほどの研究者がそんな姿で もう人の姿ですらない 私はそれを聞いていない 彼のことも自分のことも もう興味はない 指は動かせない 肩からざらりざらりと動かすしかない それで陣を描くことはできるだろうか 足も分断されていて舌もない チャンスは一度だろう どこで描く陣がもっとも精密だろうか 残された目で空間に描くか 部屋の中には私の他に二人 回復して転送する 分断の箇所をつなぐのが精一杯 二人が精一杯 他の部屋の者はどうしようもない 手術の後遺症は残る 痛みは戻せない ただ今切れている箇所をつなぐだけ それは彼らにとって迷惑だろうか 単なる押しつけかもしれない 私はじっと彼らを見た それでも彼らは出ていくほうを選ぶだろう 今だって這おうとしているのだから。 あの目は生きることをやめていない ならばいい その目を愛おしいと思った 私は残された目を閉じる 最後の魔法を使うために 二人だけならば どこか見つからぬほど遠くへ 残る命の炎を集約すればきっと 罪滅ぼしと思ったわけじゃない それで滅ぼせるような罪ではない ただ 彼らが逃げのびてくれれば 私はここで死んでも 希望が生き残る 希望のためにこの命を使えるならば 死に様としては悪くない そんな気がした <LABO - manipulate - > http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/448d87233a5f6473a3ff18496c7a89e5 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)トールとデセルさんが、地下のバーで話していたこと。 単発で出すにはちとえぐいので、今日二本目です。 苦手な方すみません。 コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/21 クンツァイトヒーリング やわらかなピンクをあなたに。
2009年07月20日
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ルキアを出てしばらくのデセルが飲みに誘ってくれたのは、とんでもなく忙しいなりにリズムができてきて、なんとか休憩くらいならとれそうな頃合だった。 息抜きもままならない数日を過ごしていたので、申し出はとても魅力的だ。 頼みたいこともあったし、ありがたくその誘いを受けた。 待ち合わせには遅れてしまうかもしれないから、よかったら天使エリアの中まで来てくれてもかまわない、と伝えておく。 デセルの背にも羽が生えていたし、エネルギーが合わなくて具合が悪くなるようなことはないだろう。 待ち合わせ場所にしていた、天使エリア入り口付近のエネルギー緩衝帯に着くと、デセルはソファに座って観葉植物の精霊たちと楽しげに会話しているところだった。 デュークとグラディウスの出会いの話らしい。 片手をあげて近づきながら、トールは笑った。 「懐かしいな。あのとき私は記憶がなくて、なんで君が笑ったのか、まったくわからなかった」 「俺も朦朧としてたし。……というか、あの体格の変化は詐欺ですよ。あれじゃ、後で会ったって気がつくはずない」 「私のせいではないよ」 トールはうそぶいた。互いににやりと笑う。 当時は二人とも、過去に魂のつながりがあるとは気づいていなかった。どれほどの時を経ての今の再会になるのか、見当もつかない。 デセルが案内してくれたのは、タワー棟の中層階にあるアイリッシュパブだった。 わりと広めの店内で、外壁側は一面のガラス窓になっている。窓越しにじむネオンサインのような柔らかな光が、とても綺麗だった。 「同じのでいい?」 カウンターに座り、デセルは最初の一杯を奢ってくれた。 おめでとう、と言われ乾杯する。 とりとめもなく話しながら、ゆるゆると飲んだそのグラスが空になっても、二人はまだ帰りがたかった。 河岸を変えようということになり、今度は地下にある小さな店に移る。 客が他にいないのは、ボトルキープのように時間枠を持っているからだとデセルは言った。 「トールと来たら飲もうと思ってたんだ」 そう笑って開けてくれたボトルは、ILEACH。蒸留所の名を秘されたシングルモルト。 仕事の現状、打診していた件、ずっと昔のラボの話。 「……あれも、君かもしれないな」 手の中で暖めていた杯に口をつけて、トールは隣に座る親友の目を見つめた。舌の上を強い香りとあっさりとした後口がすぎさってゆく。 記憶に残る瞳の色は、ペリドットではなかった。しかし諦めずに生を見つめていたその光は、同じように闇の中で輝いて見えた。 「そうかな。……『制御安全弁』?」 「ああ、そう呼んでいたよ」 「そうか……」 デセルはグラスを干した。見るともなしに、バーテンダーの背後に並ぶモルトの瓶を追いかける。蒸留所をかかえる六つの島。 名の秘された蒸留所、名前のなかった自分。 (……名などなくとも、その存在が強烈であることには変わりがないさ) トールもぐっとグラスをあけた。職人の手間と誇りのつまった深い味わいが、舌を転がってゆく。どこの産であろうとも、旨いものは旨い、それだけだ。 新しい一杯を注がれながら、二人は無言でちらりと視線をかわした。たしかにそれだけでよかった。 自然に話題は変わり、ステーションの仕事の話に戻った。打診していた件以外にももうひとつ、頼みたいことがあるという。 こんなシステムを組みたいと思ってるんだ、というトールの構想を聞くデセルの頭に、ドリームキャッチャーと万華鏡がうかんだ。 この二つの機能を組み合わせて、こういうふうに作っていけばいいはずだ――作ってくれと言わんばかりに、脳裏に段取りが浮かんでくる。 「いいね。良いプランは青図段階でもいい顔しているものです」 デセルの表情が技術者のそれになる。 彼の心を動かせたことが嬉しく、トールは軽く指を鳴らして資料の図面を取り出した。 ペリドットの瞳がじっとそれに見入り、しばらくして満足そうに嘆息する。 「無駄なく構築されたシステムは、その図面だけでも美しいものですよ」 「装置ができても、技術主任のことがあるから、まだ本格的にシステムに組み入れるわけにはいかないよ。しばらくはネットワークなしの単発で使うことになる」 トールは残念そうに言ったが、それでもわくわくしたのは確かだった。 「いいよ。やりましょう」 金茶の髪の友人が受け取った資料について承諾すると、トールはほっとした顔で微笑んだ。よかった、これで少しは寝られる、と呟く。 別れ際、もうひとつの件を受けてくれると大変ありがたい、と彼は頭を下げた。 技術面でのどうこう以前に、デセルと一緒に働くのが好きなのだ。 親友に見送られてステーションの自室に戻ると、トールは就任後初めてベッドを使って眠った。 <天使の分け前 2> http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/fd901f8574e5cf27e4b8a2c03f25d000 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)いつか、もう一度出会うことがあったら一緒に酒でも飲んでみないか―― そう言っていたグラディウス。 彼の望みは叶ったようです。 この二人見ていると、男同士の友情っていいなあ、とか思いますねw コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/21 クンツァイトヒーリング やわらかなピンクをあなたに。
2009年07月20日
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「もしかして、また仕事増やしたんですか」 エル・フィンが、冷たい碧眼でトールを見据える。 「正確には、勝手に増えた、かな」 「同じです。どうしてあなたって人は……。やめてくださいよ、とばっちりがこっちに来るんですから」 「おや、その火の粉も受けてくれる気とはありがたい」 クリロズの端末を前に、穏やかにトールは笑った。周囲を寒冷地帯に放り込みそうな軽口の応酬だが、当人達はいたって平気である。 金髪の青年の後ろにちょこんと座っているレオンだけが、はらはらした顔で二人を見比べていた。 だいたいですね、とエル・フィンが口をきった途端に、端末の警報が鳴りだした。結界が破れたらしい。 トールが剣を手にして立ち上がる。 「いいです。ここにいてください」 エル・フィンは、自らも腰の剣を確認して走り出した。あわててレオンが追いかける。 ドラゴンに飛び乗った金髪の青年は、安全な場所でレオンのドラゴンに少年をそこで守っていろ、と命じると、自らは一人で破れ目を確認しにいった。 何か黒い邪なものが、外から結界を食い破って進入しようとしている。 大きさはそれほどではない。一人で可能と判断したエル・フィンは魔法を唱え、結界に張りついてさらに大き穴を開けようとしているそれを吹き飛ばし、仮補修した。 しかし第二陣の黒いものが、結界の外に迫っているのが感じられる。あれは仮補修では防げそうにない。すこし焦って他の結界と調和させようとしていると、横に追いついたトールの魔法陣が走って瞬時に結界を調和させた。 「すまないね。量が多いから、中で散られると面倒だ」 言われて見ると、確かにかなりの量があったようだった。いえ、と言葉少なに答えつつ、そこまで気づかなかったと内心舌打ちする。 レオンにいいところを見せられなかったな、と少し残念だったが、振り返ると少年は目をきらきらさせて尊敬する師を見つめていた。その顔に、わずかにエル・フィンの表情がゆるむ。 「で、どこで何をすればいいんです?」 部屋に戻るとエル・フィンは言った。 「手伝ってくれるのかい?」 「仕方がないでしょう。どっちみち、部下は巻き添えになるんです。それなら最初から把握していたほうがいくらかマシです」 「なるほど。それはありがとう」 トールは微笑んだ。エル・フィンの口調は辛辣だが、自分のことをとても心配して、つねに支えようとしてくれていることをトールは知っている。だからありがたく好意に甘えることにした。 ステーションの天使エリアで働き始めたこと、仕事内容はクリロズとそう変わらないこと、エル・フィンには遊撃隊長を頼みたいこと、などを伝える。 遊撃隊員となる、彼自身の部下を数人選ぶようにも言った。 エル・フィンはまだ分身できないし、レオンのこともある。 だから当然クリロズ中心の勤務にしていたのだが、くだんの技術主任の件もあり、日常業務がきちんと動いていないぶん、どうしても彼の出番が多くなってしまっていた。 上司のトールも寝る暇もないが、数日でエル・フィンにもだいぶ過労がたまってきたようだ。 「エル・フィン、そろそろ休みなさい。あまり寝てないんだろう、顔色が悪いぞ。こちらは大丈夫だから」 ある日の昼前、ステーションの執務室で、報告に来た彼を見てトールは言った。 「寝てないのは総指揮官殿も同じでしょう。上司をおいて部下が先に休むわけにはいきません」 「逆だよ。上が先に休んでは、部下に示しがつかないだろう。君に今倒れられては私が困る。一度クリロズに帰りなさい、レオンが待っているから」 トールが言うと、頑固そうに光っていた碧眼がいくらか和らいだ。そうだ、もう数日養い子に会っていない。 「あれくらいの子をあまり寂しがらせてはいけないよ。出勤は明日の午後からでいい。……ほんとうは連休をあげたいんだけれどね」 青灰色の瞳をすまなそうに伏せる。しかし今この状況で、24時間の休みがとれるだけでも奇跡的だということがエル・フィンにはよくわかっていた。 彼が休んでいる間の遊撃隊は、おそらくこの人が直接指揮を執るのだろう。ぎりぎりのシフトになっている他の人間の休みを減らすとは思えない。 まずたっぷり眠って、なるべく早めに出勤しよう。 さまざまな思いをこめて、エル・フィンは深々と頭を下げた。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)苦労性の部下はやっぱり苦労性という話・・・あれ?^^;おつかれさまですー。爆コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→7/21 クンツァイトヒーリング やわらかなピンクをあなたに。
2009年07月18日
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クンツァイトって大好きな石で。透明な、うすーいライラックピンクがかわいい石です。以前、キーツリーユグドラシルのカヤさんにブレスレットを作っていただいた際、メインに使っていただいたのがこの石で、それまでは名前を知らなかったのですがそれから大好きになりました♪こんな感じの石です↓。色が薄いから、黒背景のほうが見やすいみたいですね。無条件の愛や、慈愛と献身、という意味があるようです。「クンツァイトは、見返りを求めない無償の愛を教えてくれる石。自分への愛を教えてくれるのがローズクォーツだとすれば、他人へ愛情を注ぐことの大切さを気づかせてくれるのが、クンツァイトです。広く思いやりの心を養ってくれますので、人への批判的な気持ちを抑制し、コミュニケーションを豊かにしてくれるでしょう。過去の恋愛で傷ついた経験があると、どうしても次の一歩を踏み出せず、未来をネガティブにとらえがちです。クンツァイトは、その傷ついたネガティブな感情や愛への不信感をなだめ、心を前向きに導いてくれるでしょう。また、無意識なトラウマによる不安や恐れをやわらげ、心からの純粋な愛を表現できるようにしてくれるのです。新しい愛に踏み出す勇気をもたらし、純粋な気持ちを呼び覚まし幸せな道しるべを示してくれるでしょう。」http://www.ishi-imi.com/2006/07/post_27.htmlずっとブレスしか持っていなかったのですが、先日行ったミネラルショーでかわいい原石と、握ってヒーリング用に使えるタンブルをゲットしたので今回はクンツァイトでいきたいと思います~♪ヒーリング翌日の22日は皆既日食があるそうで。すでに色々調整入って大変な感がありますけど、ヒーリングがお役にたったら幸いですそれから、カウンタがおかげさまで777777HITを越えました♪踏まれたのはあおいそらさんです~♪ おめでとうございます&ありがとうございます!あおいそらさんには、スペシャルバージョンでヒーリング送らせていただきますねwお楽しみに~♪応援ぽちっ♪→★リアルタイム日時 2009年7月21日(火) 21:30より1時間(日本時間)★コールイン受け取り可能時間 日本時間で上記日時~7月22日(水) 20:30開始まで ※とくに決まった宣言文はありませんが、よいお時間に 「さつきのひかりのヒーリングを受け取ります」と宣言していただければ大丈夫です。 ★募集期限リアルタイム直前(火曜21:30)まで★参加ご希望の方はこの記事(エラーになってしまう場合、mixiの同名記事)のコメント欄に、HN(ハンドルネーム)と都道府県、以前さつきのひかりのヒーリングをお受けになったことがある方は、前回のご感想を一緒にお書きください。私もとても嬉しく励みになりますし、書くことでご自身の気づきも深まるかと思います。※他の記事へのコメント・メッセージ等は無効になります。お返事もできませんので、ご注意ください。★ヒーリングの種類その時々のテーマとともに、純粋な愛のエネルギーによるヒーリングを、お申し込みいただいたご本人、住んでいる土地、ご先祖さまがた、にお送りいたします。もっともシンプルで、誰にでも入りやすく、心の癒しには一番効くのだそうです。ハートが癒されると、ふんわり開いてご自分にとっていいものがたくさん引き寄せられてきます。キラキラをたくさん引き寄せちゃいましょう♪♪★初めましての方は、フリーページをご一読くださいませ^^→→「ヒーリングについて(http://plaza.rakuten.co.jp/satukinohikari/4000)」※よくあるご質問もまとめてあります。ご質問の前にご覧下さいね^^★喉が渇くことがあります。また好転反応が出た場合に楽に流すためにも、白湯などの水分をとられることをお勧めします。★エネルギーやヴィジョンを感じるワークではありません。リラックスして、寝るつもりでゆったりとお布団で受け取ってくださるといいと思います♪★車の運転など、注意力・集中力を必要とする場面では、絶対にヒーリングを受け取らないでください。 眠くなることがありますので、危険です。万一そういう事態になった場合には、「私は今はヒーリングを受け取りません。後ほど布団に入るときに改めて受け取ります」とはっきり宣言してください。★ヒーリングは医療行為ではありませんので、受けたことで怪我や疾患が良くなったり悪くなったりするというものではありません。変化はご自身が望まれたことを後押しするために現れます。ご自身の判断と責任によりお受けくださいね。
2009年07月17日
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マリアはゆっくりとステーションを歩いていた。 緑の少女の糸屋に行ってみようと思ったのだ。 彼女は手仕事が好きだったから、織って布にしてもいいし、編んでもいい。糸ならば何にでも使える。 トールも忙しそうだから、自分で行ってみようと思った。 ところがよく考えてみると、彼女はステーションに行ったことがないのだった。 料理や裁縫といったものは昔おぼえてできるのだが、そういえば「お買い物」というものをしたことがない。 道や会計の仕方はトールが知っているから問題はないが、気持ちとしては完全なおのぼりさん状態だ。 のんびり物珍しげにショッピングモールを歩いていると、あちこちから店の主たちに声をかけられた。 「おねえさん、あんたの瞳と同じ色の石、どうだい?」 「この木は鉢植えでもきれいな花を咲かせるんですよ~。いい匂いでしょう?」 べつに買わされたりするわけでもなく、にこにこ見たり話しているだけなのだが、なんだか不思議な感じがする。 もう少しで少女の糸屋だ、というモールの十字路に、小さい噴水のような場所があった。 そこで少し一休みしていると、2歳くらいのちいさな羽の生えた子が、えんえんと泣いていた。どうやら迷子のようだ。 「どうしたの、どこからきたの?」 優しい声で聞くと、その子は上を指差した。 見上げると……高い天井だ。 (天使エリアのどこかから落っこちちゃったのかしら?) 首をかしげて、マリアはその子を抱き上げた。 とりあえず緑の少女に聞いてみようと店に行ってみたが、残念ながら少女は上で会議中だそうだ。 留守番のドラゴンが、天使エリアにはテレポートステーションからいけるよ、と教えてくれた。 子供を抱いてテレポステーションまで行き、真剣な表情で行き先の掲示板をじーっと見る。 天使エリアといっても広いらしく、その中のどこに届ければいいのかがわからない。 緑の少女の下の娘で、保育園のようなものに入っている子がいると聞いたことがあったが、そういうところか、それとも迷子センターのような場所があるのだろうか。 「あなた、何階からきたの?」 「うんあっちー」 抱いている子に聞くと、子供はにっこり笑って天井を指差す。もしかしたら直接飛んでゆけるルートがあるのかもしれないが、あいにくマリアには羽はないのだ。 しばらくそこで悩んでいると、親切な人が受付の位置を教えてくれた。 天使エリアについて、入り口のエネルギー緩衝帯にある受付に子供をつれていく。 預けてすぐ帰ろうとすると、こちらへどうぞ、と誘導され、なぜかあれよあれよという間に、さらに上層階へと連れて行かれてしまった。 ミカエルやラファエル、それにザドキエルやカマエルなど、先日緑の少女が回ったフロアではないかと思われる場所に連れられていくと、たくさんの天使たちが待ち構えていた。 おかえり。ようやく帰ってきたのだな。 口々にそう言われて、ほとんどもみくちゃのようにハグされる。 何が何やらわからず、マリアはしばし呆然としていた。 「おかえり、はトールと緑ちゃんではないの?」 「いやいやおまえもだよ、トールよりおまえのほうが長いのだよ」 涙ぐみながら言われる。 結局その日は糸も買えず、ルキアに戻る暇もなくてステーションのトールの部屋に泊まった。 エリア統括はその場所の結界と物理的に結びつけられるため、改装可能な比較的しっかりとした私室が与えられる。 トールはまだ使っていなかったベッドをマリアに譲り、増える一方の書類をさして肩をすくめて見せた。 技術主任が出勤してこないため、ルーチンの仕事が進まずにデスクワークまで手が回らないのだ。技術のフォローをかねて現場にも行っているし、会議にも出なくてはならない。 そういえば今日はこんな会議があったよ、とトールは笑いながらマリアに語った。 あまり上層部の出席していない、わりあい身近な連中が五人ほどの気楽な会議室。 「だから、こうして、こうすれば……こうでしょ!」 緑の少女が、ホワイトボードをばんばん叩きながら熱弁をふるっている。 「……それ、本当にできると思ってるんですか?」 腕を組んで聞いていたトールが苦笑した。 「できるよ。やる!」 エメラルドの瞳を輝かせて、少女は言い切る。とはいっても、細かいところなどはまだ何も決まっていない、というかまだ単なる構想段階でしかない。 だがたしかに壮大な、心躍る計画ではあった。 話を聞いて、マリアは分身をみつめて微笑んだ。 「それなら細部はあなたとデセルが担当するわけね。たいへんで、楽しみなことね」 ころころと笑う。 少女がやるというのなら、技術面は彼らがどうにかする、多少無理でもしてしまうに違いないのだ。 そういうときのトールとデセルの見事な息の合い方を、マリアはよく知っていた。 「彼が引き受けてくれたら、だけれどね」 無理強いはしたくないが、そうなったら楽しいだろうと思う。 親友への信頼に瞳をきらめかせて、トールは言った。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)私からみると、マリアってトールのおねいちゃん、って感じです 笑田舎から出たことなかったおねいちゃんが、弟の彼女がお店出したと聞いて電車乗りついで路線図くびっぴきで頑張ってみたー、みたいなwコメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→
2009年07月16日
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それからステーションのトールは、緑の少女がいつ見てもいつ見ても、机で仕事をしている状態になった。 奥の寝室にいたっては、使った形跡すらない。元々エネルギー補給さえしておけば半月くらい寝なくても平気ではあるのだが、休む暇そのものがないのは問題だ。 少女は少女で、アシュタールからもらった仕事のほかに何かしたくなり、ステーションにパイプや何かの部品を持ち込んで何やら作り始めた。 それは大きな洗濯機の形をしており、横幅と高さはほぼ二倍以上。だが洗うものを入れるような口はなく、ダイヤルはあるが少女にしかわからない言葉で表示がついているため、見つけた下の娘にもなんの機械なのかしばらくわからなかった。 だがしばらくすると、下の娘は叫んだ。 「わかった! 緑、すげぇ! 気をね、入れるわけよ。そうすると、横からどんどん自動的に糸になって大量にでてきて、横の箱にたまって行くんだ。ブースまでつくりはじめた。 糸屋をはじめる気らしい」 こうして始まった少女の糸屋だったが、最初はなかなか繁盛とはいかなかった。 というのも、店番をしているうちに飽きてどこかへ行ってしまうのだ。せっかく肝心の客がきても、売り子がいないのでは話にならない。 なのに売れないと泣きそうになっていたので、気の毒に思った下の娘は少し糸を買ってやり、そおっと店番のドラゴンを派遣してやったりした。 ちなみに暇を見てトールが糸を買いに行ったときには、派遣されたドラゴンが店番をしており、当人は洗濯機風機械の後ろで昼寝をしていた。 デセルも買ったようだが、そのときはどちらであったものか。 少女は気が向くと、たまにトールの執務室へもやってきた。 机の端に腰掛け、じっと彼の手元を見つめている。彼女が来るとトールは手を止めて微笑んだ。 「私が忙しいとさみしい?」 「えー……いやべつに、糸屋楽しいし、することいっぱいあるから。トールが仕事してるの見るの、好きだしね。けど、あたしもこっちの仕事したほうがいい?」 それを聞いて、銀髪の錬金術師はにっこり笑った。 「大丈夫。元々気が向いたときに、って話だったろう。糸屋を楽しんで、たまに顔を見せてくれればいいよ」 「ありがと。あ、でも今日はあたしも書類の分類手伝うー」 少女はそう言うと、山になっている書類に手を伸ばした。だが、すぐにうめき声をあげる。 「なにこれっ。この忙しいのにこんなに細かい用事やら修繕箇所やら、これほんとにこの部門の担当かよ? それにどうでもいい招待状とかわけわかんない専門的な話やら、よくいろいろこんなにくるよな。しかもみんな用件がばらばらで、分類もくそもないじゃんっ」 「まあね」 小気味のよい言いっぷりに、笑いをかみ殺してトールが相槌をうつ。 「これで本来の仕事に加えて、主任さんのこととかあって。こんな雑用まで真面目に対応してたら、そりゃ寝る暇ないよな……あたし、とりあえず行ってくる」 そう言うと、少女は疾風のように部屋を出て行ってしまった。どこに行くのかと聞く暇もない。 後には、豪快に開閉されたドアが起こした風に、ひらひらと舞い散る書類が残された。 少女はいくばくか苛つきながら、大股でステーションのリハビリセンターに向かっていた。 先ほどの書類に、辺境からの漂流者の件というのが混じっていたのだ。 (だいたい、なんでこんなのが天使エリアに報告くるんだよ。だからトールの仕事が減らないんじゃんか) ぶつぶつと考える。一応有翼人種だからとこちらに書類がまわってきたようだが、ずいぶん前の日付だし生きている人間だし、さすがに放置はまずいだろうと思ったのだ。 行ってみると、その男の羽は天使系ではなかった。もっと小型で灰色というか、色が混じっている鳥類系というか。 ステーションのどこかに、せいぜい脱出ポッドくらいの小型機で漂着したらしい。その小型機も壊れていて、やっとのことでたどりついたのを、ステーションのリハビリセンターにとりあえず収容していたようだ。 しかし天使ではなく、どこのエリアにも波動が合わない人のようだった。 聞いてみても、少女も理解できないような辺境から来たらしい。 (ねえ、こういう場合どうするの?) 少女がアシュタールに疑問を投げかけると、落ち着いた返事が返ってきた。 (おお。共通エリアにしか滞在できない人用の宿泊施設が、塔の向こう側の敷地にあるからな。そちらに連れて行ってくれるか) (わかった) 仕方がないので共通エリアまで並んで歩く。 しかしそいつは、なんだか遠慮がないというか、失礼な男だった。 悪意があったり、闇系だったりということではないのだろう。だが興味津々で少女の羽を触ってきたり、一度はそのあたりの物陰に連れ込まれて押し倒されそうになった。 少女が一発お見舞いしてやったらやめたが、それでも気にする風でもなく、とてもずうずうしい感じがする。 早足で宿泊施設まで連れて行き、受付で話をしていると、彼は自分は宇宙船関係の技術者だと言った。 「あら、じゃあ、ちょうどいいからおたくで面倒みてあげれば?」 受付の若い女性が少女を見やる。少女の下の娘が、宇宙船を作ったりする仕事をしているのを知っているのだろう。 だが彼女は、断固として首を横に振った。 「こんな得体の知れないやつ、じょーだんじゃない、紹介なんかできない! 初心者向けのグリッド修復隊にでも配属して、ステーションに慣れながらどんなやつか様子見ておけば」 そう言い放って置いてくる。 (ありがとう) 別れ際の背中に、男から心話が届いた。基本的に会話はテレパシーで言語は使っていないらしい。 名前がないので、勝手に本体がフィアスという名前をつけた。荒々しいとか猛々しいとか、あまりいい意味ではないが、本人はにやにやしているだけでふーん、と嫌がるわけでもない。 それでも一応礼を言うくらいの常識はあったのだな、と思い、わずかに振り返って(どういたしまして、じゃあね)と答え、リハビリセンターを後にする。 そんなことがあったからだろうか。 なんだかちょっと苛々して、気分が悪かった。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)緑たんもがんばるの巻w 糸屋さんの話はじぇいど♪さんの表ブログにもありましたねー。 http://plaza.rakuten.co.jp/californiajade/diary/200906030000/ コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→
2009年07月15日
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トールは難しい顔でじっと書類を見ていた。 ステーションの天使エリアにある、オフィスのような部屋。 机にはすでに書類が山積みで、大きいものと小さいもの、二つの山を形成している。 銀髪の錬金術師は机に対して斜めに向いた状態で、端にはわけのわからない顔をした緑の少女が腰掛けていた。 周りには数人の天使たちがいて、色々と説明をしている。 一通り説明を受けて、トールは軽くため息をついた。 少女を振り返り、肩をすくめて苦笑をうかべる。 「どうやらね、二人で新しいポジションにつくことになったようだよ。どうもこの天使エリアのセキュリティと、場の管理関係のようだね」 先にアシュタールから、それとなく打診を受けてはいた。しかしその内容は、緑の少女の御用聞きと、その手伝い、という程度のものだったから、今改めて示された仕事の内容は、正直いって晴天の霹靂のようなものだ。 あの老練な政治家殿は、最初から肩書きを提示しても二人とも嫌がるだけだ、というのを見抜いていたのだろう。 天使エリア全体の統括責任者という、けして低くはない、いや人によっては羨望するかもしれない地位だが、トールには興味もなにもない。だからこそあえて、先に少女を仕事につかせて逃げ道をふさいだのだと思われる。 少女が見つけた破損箇所の報告を受け、直す責任者となれば、逃げるわけにはいかないではないか。 まったくあの人は、と内心トールは呟いた。 最近の流れはひどく速い。 ふっと息をついて、彼は片手を胸にあてた。そこには目に見えない金色の太いコードがあり、緑の少女と繋がっている。少女の手術の後、自分も麻酔をかけられて、気づいたときにはすでにラファエルによって構築しなおされていたものだ。 それを知ったとき、トールはしばしベッドの上で呆然としていた。 けして悪いようにはしないことを知っているし、信頼もしている。 嬉しくない、と言えば嘘になる。しかし一度切ったツインのコードをふたたび構築する気はなかったし、もししたとしたら、それは少女の本体にとって、同時に二本のコードを持つという実験となってしまう。 何事であれ、彼女に対してもう「実験」をしたくはなかった。 だがそれも、流れの中で決まっていたことだったのか。 そもそも、必要がなければ姿すら現さないと決めていた彼が、今生表に出てきた時点で、すべての方向は決まってきていたのかもしれない。 今回この仕事すら、セラフィムの種族でかつ「対」でなければつけないという種類なのだそうだから。 「では、こちらにサインをいただけますか」 トールの思考を破って、説明係の天使達が低いほうの山から何枚もの書類を抜き出した。 おそらく引き継ぎの書類なのだろう、たくさんの書類のあちこちにサインをさせられる。 緑の少女が困っているのを見て、(該当箇所に自分の気を入れればいいんだよ)と伝える。すると彼女は、なんだそうか、とろくに書類も読まずにさらさらとサインをした。 その後、トールの机とL字型になるように向かって左に置いてある、少し小さめの机が少女用となった。 部屋は個人用の執務室にあたるのか、オフィスといっても少し落ちついた書斎に近いつくりになっていて、まだトールと少女しかいない。 奥にはドアがあり、応接間や他の部屋にも繋がっているようだった。 天使たちは二人に向かい、破損報告があったときはこういう書類がくるからどういう手順でどうする、自分が破損箇所を見つけたらどうするのか、などを説明して帰っていった。 「やれやれ、これはしばらく帰れないな」 天使たちが帰った後に、トールは机の上の山を見てうんざりした声を出した。 そうこうしているうちにも、じわじわと山が高くなっていくのだからどうしようもない。 「帰れないの?」 「あなたは大丈夫。これは私の仕事だからね、あまり気にしなくていいよ」 ちなみに前任者がいないのはどういうわけだ、と思って探してみると、なんと過労で倒れて入院中であった。この仕事量ではさもありなん、という気がする。 とりあえず帰るという少女を見送った足で、トールは前任者の見舞いに行った。挨拶ついでに引継ぎをしてもらおうと思ったのだが、個室のベッドに横たわる前任者は、これ以上ないほど幸せそうな顔で爆睡している。 付き添っていたツインの女性が、すまさなそうに代わって引継ぎをしてくれた。仕事全体のイメージや担当者の顔、こまごまとした事柄を伝えてもらう。 部屋に帰ってできることから仕事に手をつけていく中で、どうやら過労の種のひとつらしきものを見つけた。 壮年の白髪混じりの髪と髭をもつ、技術主任。いかつい面構えに負けず劣らずの頑固な職人気質であるらしい。 全体のシステムをざっと洗ったトールは、非効率な部分をみつけてそこの改善案を出したのだが、さっそくその技術主任に反対されてしまった。 「統括どの、ご意見はわかりましたが、あいにく私はそのやり方に慣れておりません。それでは長年培ってきた勘と経験が生かせませんので」 とにべもない。彼の下についている技術部員たちは、仕事が減るからと喜んでいるのだが、トップが頭から反対するのではいかんともしがたかった。 しかしこれでは仕事の減りようがない。 その上くだんの主任は、自分がいなくては仕事が進まないことを承知の上で強硬手段に出てきた。彼が前任者にとっても頭痛の種だったというのは、よく理解できる話だ。 技術主任を他へ異動させるという手もある。彼が喜びそうなポストはすでにみつけてあった。しかし見たところ、技術部員達は人はいいし仕事も確実だが、能力となると主任をまかせられるような者はいそうになかった。 統括エリア全体をフォローできる高い技術力と才能、組織の中で動ける人格。それらを兼ね備えている人間は、トールの知る限りでは一人しかいない。 彼に打診してみて、それでも駄目ならしばらく空席にしよう。技術部分のいくらかはトールが肩代わりするようだろうが、仕方がない。 減らない書類の山を横目に見ながら、彼はひとつ大きな伸びをした。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)トール氏、こうして仕事が増えてゆくの巻(爆 エル・フィンさんに、なんでそんな仕事増やすんですか、って上でよく怒られてるんですけど 笑 好きで増やしてるんじゃないんだよ、勝手に増えるんだって、とか言ってた真相がこれです。 かくいうエル・フィンさんだって、トールとよく似てるんですけどねww アシュタールさん、さすがにコツをこころえてます・・・危険人物^^; コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪ただいま総合6019中79位!!→7/14 蒼のヒーリング トールから皆様へ♪
2009年07月14日
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いよいよ歌姫のミニライブが始まった。 三人でステージまん前の最前列中央に誘導されたが、フレデリカはそれも最初固辞しようとした。数人がかりでなだめたり説得したりし、最後は緑の少女の「ママもいっしょにいて」のひとことで、なんとか着席する。 歌姫の声は透き通っていて美しかった。曲に合わせてか、現代風の衣装を着ている。 スタッフが頑張ったのだろう、舞台はスモークやライティングがとても凝っていた。戦闘教官でもある歌姫の夫がやけに楽しげにドラムスを叩いているのが印象的だ。 曲がバラードに変わると、ハープの音色が柔らかに漂ってきた。それは頼まれてトールが貸したものだ。 ステージで弾いているのは、歌姫の騎士であるエンガス。 (懐かしいな……) トールは思った。その曲調は、かつて彼がまさにそのハープを弾いて歌った子守唄によく似ていたから。 あのときからはるかな時が流れ、平和な時代にこうして並んで曲を聴くようになろうとは予想もしていなかった。 爪弾かれる優しい音色は、過去と現在のすき間をゆっくりと埋めていくかのように響く。 そのうちまた曲が変わり、歌姫の夫が仕込んだ紙を使って、客のひとりひとりが折った紙飛行機を飛ばすという趣向になった。小さな飛行機はきらきら光りながら夜空をはしり、会場は沸いた。 そしてアンコール。 歌姫は裾を長くひいたひらひらのドレスで、ふわりと宙を飛んで現れた。 たくさんの桜の花びらがステージから舞い散り、いつか緑の少女と見た桜吹雪のようだ。 ほんの数ヶ月前のことなのに、もうずいぶん昔のような気さえする。 歌姫はすべるように客席側に進むと、三人に手をのばした。胸にパスをつけたスタッフが二人、今夜の主賓をステージに誘導しにくる。 しかしここでもフレデリカは動くのを固辞した。数人がかりでなだめてみたが、どうやらプレゼンターの件も辞退していたらしい。 それがとても母親らしい理由だとわかったので、トールは重ねて強いず、少女の背を押して舞台へ上がった。 こちらは素直に動いてくれたが、緊張のあまりよくわかっていなかっただけかもしれない。 「緑ちゃん、退院おめでとう!」 歌姫が作った美しい花束を、ぼんやりしている少女にそっと手を添えて抱えさせる。 (た、たおれそう……) 少女はわけもわからぬまま花束を受けとった。 先程からずっと、興奮で光ってちかちかしてせばまったような視界に、急に赤やピンクの色彩があふれかえる。大きな花束だとわかったものの、その理由や相手が誰かはすでにわからない。 どこかで大きな拍手が鳴り響いていたが、耳もぼーっとしていたし、回りもよくわからなかった。頭が真っ白だ。 そんな彼女を見て微笑みながら拍手していたトールの前に、もう一度歌姫が現れた。手に持った花束を、にこにこしてトールに差し出している。 (おや、他には誰かに渡すことになっていたかな?) 周囲を見回すと、どうやらそれはトールに宛てたものらしかった。 「緑ちゃん、トールさん、フレデリカさん、おめでとう!」 客席から声援が飛んでくる。 驚きながらも花束を受けとり、深く頭を下げる彼に拍手が沸き起こる。スポットライトが客席にのびて、フレデリカにも花束が渡された。もう一度万雷の拍手。 (良かったねぇ。良かったよねぇ。帰るトコわかると嬉しいよねぇ。 私も。嬉しかったもの。 …よかったねぇ) 割れるような拍手を背に、歌姫は舞台袖にひっこむと、力尽きたように膝をついた。歌はエネルギーワークだから、かなり消耗するのだ。 会場に繋げていたラインを切ると、余ったエネルギーが羽根のようにキラキラと降ってくる。 二人が舞台で拍手されているのを見ながら、彼女は演奏者達と抱き合って、(良かったね)と繰り返していた。 客席にはたくさんの宇宙船を見た人もいるという。 あの二人の邂逅は、同じように離れてきたたくさんの魂たちの象徴のようなものだと、歌姫は思う。 だからきっと、そのたくさんの魂たちにとっても、今宵は大きな記念なのだろうと。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→7/14 蒼のヒーリング
2009年07月13日
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歌姫がクリロズでミニライブをやると言い出したのは、ほんの三日前だった。 下弦の月にあわせ、また緑の少女の退院祝いも兼ねるのだという。舞台はその前の週、コンサートのために裏庭のバラ園を越えたところに野外音楽堂が作ってあった。 急な思いつきであったわりには、参加者もスタッフもあっという間に集まり、フレデリカも退院祝いのごちそうを作るとはりきって、ライブは決行された。 「アンコールのとき、サプライズで緑ちゃんを舞台にあげて花束贈呈をしたいんです。プレゼンターとしてフレデリカさんと協力していただけませんか」 というメールがライブスタッフから本体に届いたのは、当日の昼間だった。 少女が皆に愛されているのが嬉しくて、もちろん快諾する。ただフレデリカはああ見えて恥ずかしがりなので、舞台にあげるのは難しいかもしれないな、と思った。 クリロズが公開するかしないかのころは、ほっかむりをして裏方に徹していたような彼女なのだ。いつかのバーの開店は、彼女の本体にとっても驚きの展開だったらしい。 ライブスタッフからは丁寧かつ綿密な連絡事項が届き、感謝したトールは自分の署名でも簡単な礼状を送った。どうやら逆に恥ずかしがらせてしまったらしいが。 時間前になって、トールは緑の少女をエスコートしてクリロズの裏庭に向かった。 この日のためにというわけでもないのかもしれないが、フレデリカが作ってくれた揃いの服を着ている。 二人とも同じ白に近い生成りの高級な生地で、トールのものは軍服に近い様式のかっちりした詰襟。襟元に青い石があしらわれ、要所に薄い青のパイピングがほどこしてある。 少女のほうはビクトリア朝のイメージなのか、胸下切替のひらひらしたドレス。薄い緑でパイピングをした襟元が大きめに開いており、エメラルドのペンダントが映えるつくりになっていた。 フレデリカに髪もきれいにとかされ、羽の手入れもされた緑の少女は、開始前からひどく照れていた。羽のある自分をお披露目する、というのもそうだが、どうやら、「きれいにしてもらう」「それを人に褒められる」ということ自体に違和感があり、自分ではないような気がして恥ずかしくて仕方がないようだ。 ライブ前のパーティ会場では芝生に白い大きなテーブルが出され、フレデリカの心づくしの料理がたくさん並べられていた。それを少し食べ、フレデリカと同じ本体をもつ分身でもあるフェンリルが二日がかりで釣ってきた巨大魚の刺身なども食べて美味しいと笑っていたが、いつもの食欲とは程遠い。 そのうち、退院おめでとう、とハグしに来てくれる人が列になりかけると、もう本当にどうしていいかわからなくなったらしい。笑顔もかたまって、困ったようすで後ろのトールを見上げてきた。 「すみません、まあ今日は許してやってください」 彼は微笑んで半歩前にすすみ、列の人々に頼んだ。トールの広い背に半分隠れている少女を見やって、皆が笑顔で手を振ってゆく。 (これでいいかい?) 振り返ると、少女はこわばった顔でこくんと首を縦に振った。普段はマイクを持ったら離さないくらいなのに、心底照れているようすがおかしくて、トールはくすりと笑う。実は自分もこんな服を着ることはめったになく、照れる気持ちもなくはないのだが、少女があまりに真っ赤になっているのでそれどころではない感じだった。 音楽堂の方へ歩いてゆくと、子供を連れた金髪碧眼の若者に出会った。彼はエル・フィン、本体たちが認識したのは最近だが、ずっと以前からのトールの部下でもあり、今はクリロズにほぼ常駐している。 少女の入院のためにトールが精根尽き果てていた件では、どうやら相当心配をかけていたらしい。 エネルギーを使い果たして、ルキアの分身が消えたのが日の出の数時間前。クリロズの分身はぎりぎりまで存在させていたから、消えて完全に式神に任せてしまったのは最後一時間程度にすぎないが、エル・フィンには感知されていたのだろう。 会ったとたん、無言のまま静かに睨まれた。 「心配かけて悪かったね、エル・フィン」 相手の視線を包み込むように微笑んでトールは言った。無表情な強い眼力に冷や汗を流す人も何度も見たことがあるが、彼の行動は心配のあまりだとわかっているから、睨まれてもこたえることはない。 それに、一緒にしている仕事に関しては、エル・フィンがいるから大丈夫、という強い信頼もある。これは彼にとってもいい機会だったはずだ。 それからトールは、部下の連れている少年のほうに目をうつした。 外見年齢はジョゼと同じくらいだろうか、薄茶色の巻き毛をした、素直そうな大きな瞳の少年。 「はじめまして。君がレオンだね?」 「は、はい」 「エル・フィンからよく聞いているよ。君の養い親には、とても助けてもらっているんだ」 話には聞いていたし、見えてもいたが、実際に会うのは初めてだ。緊張している少年に笑いかけて、トールは大きな手で巻き毛の頭をぐりぐりと撫でた。 そうしていると、今度はジョゼとサバトがやってきた。互いを紹介し、少女のお見舞いにもらった特製アップルパイの礼を言う。 「え、でも、やっぱり緑色になっちゃって……」 「それでも味はよかったろう。それに、コンサートの花火もちゃんと見に行ったよ。あれは素晴らしい出来だった。ジョゼもサバトも、よく頑張ったね」 すると、もじもじしていたジョゼは顔を輝かせた。サバトも嬉しそうだ。 少し話したのち、彼らと別れてステージ前の客席に向かう。 その揃いの後姿を、少年たちの六つの瞳が眩しげに見つめていた。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)知る人ぞ知るエル・フィンさん登場w これから出番が増えてきますので、どうぞよろしくです♪コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→7/14 蒼のヒーリング
2009年07月12日
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緑ちゃん&トールの七夕セラフィムヒーリングはいかがでしたか~^^ご参加表明の伸びがすごかったのは、さすが緑ちゃん!w私が見た範囲ではぱらぱら漫画はなくて普通に?アガペーMAXでしたがいただいたご感想にはぱらぱら漫画見ました~という方もいらっしゃって面白いですwwメール等のレスポンスがこんなにあったのは、もしかして初めてくらいかもしれません。個別にお返事出し切れずに申し訳ありませんが、本当にどうもありがとうございました!とても楽しく拝見いたしております(^^)さて、次はセラフィムヒーリングをトール一人でやったらどうなるか、と思いまして。タイトルそのままだと、またペア♪と思われる方もいらっしゃるかな~と思って蒼のヒーリングにしました。セラフィムヒーリング(単品)とかっていうのもねー、どうかと思い 笑<ネーミングセンスのない私先日のヒーリングでは、6枚のでかい羽をばっさー!と広げて大きなエネルギーを受けて、そして流している場面が見えました。羽っていうのはアンテナみたいな役割もあるのでしょうかね??そのへんがまだ不思議なので、すっきりするまで見てみたいと思いましてwペアでやるときとどう違うのかな~?っていうのも気になるし。楽しんでいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします♪応援ぽちっ♪→★リアルタイム日時 2009年7月14日(火) 21:30より1時間(日本時間)★コールイン受け取り可能時間 日本時間で上記日時~7月15日(水) 20:30開始まで ※とくに決まった宣言文はありませんが、よいお時間に 「さつきのひかりのヒーリングを受け取ります」と宣言していただければ大丈夫です。 ★募集期限リアルタイム直前(火曜21:30)まで★参加ご希望の方はこの記事(エラーになってしまう場合、mixiの同名記事)のコメント欄に、HN(ハンドルネーム)と都道府県、以前さつきのひかりのヒーリングをお受けになったことがある方は、前回のご感想を一緒にお書きください。私もとても嬉しく励みになりますし、書くことでご自身の気づきも深まるかと思います。※他の記事へのコメント・メッセージ等は無効になります。お返事もできませんので、ご注意ください。★ヒーリングの種類その時々のテーマとともに、純粋な愛のエネルギーによるヒーリングを、お申し込みいただいたご本人、住んでいる土地、ご先祖さまがた、にお送りいたします。もっともシンプルで、誰にでも入りやすく、心の癒しには一番効くのだそうです。ハートが癒されると、ふんわり開いてご自分にとっていいものがたくさん引き寄せられてきます。キラキラをたくさん引き寄せちゃいましょう♪♪★初めましての方は、フリーページをご一読くださいませ^^→→「ヒーリングについて(http://plaza.rakuten.co.jp/satukinohikari/4000)」※よくあるご質問もまとめてあります。ご質問の前にご覧下さいね^^★喉が渇くことがあります。また好転反応が出た場合に楽に流すためにも、白湯などの水分をとられることをお勧めします。★エネルギーやヴィジョンを感じるワークではありません。リラックスして、寝るつもりでゆったりとお布団で受け取ってくださるといいと思います♪★車の運転など、注意力・集中力を必要とする場面では、絶対にヒーリングを受け取らないでください。 眠くなることがありますので、危険です。万一そういう事態になった場合には、「私は今はヒーリングを受け取りません。後ほど布団に入るときに改めて受け取ります」とはっきり宣言してください。★ヒーリングは医療行為ではありませんので、受けたことで怪我や疾患が良くなったり悪くなったりするというものではありません。変化はご自身が望まれたことを後押しするために現れます。ご自身の判断と責任によりお受けくださいね。
2009年07月11日
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ザドキエルの部屋での「御用聞き」に閉口した少女は、腕組みしながら廊下を歩いた。 各所でこれをやれなんて、恥ずかしいから腹いせに、館内あっちこっちふざけた改造しまくってやろうかと思う。 とりあえずそのままカマエルの部屋に行く気にはなれなくて、少女はフレデリカママの店に行った。バーはクリロズで一日開店だったが、普段はステーションで高級ブティックをしているのだ。 少女が遊びにいくと、フレデリカは予想より早い退院にはじめ驚き、それから満面の笑みで迎えてくれた。 「相変わらずカワイイ羽だこと。おかげでカワイイ服がもっと似合うようになって、ママ嬉しいわっ。トールやマリアちゃんとのペアルックでも作ってあげましょうね」 「わあ、ほんと?」 「ほんとよ。実はもういくつかあるの。出来上がったらクロゼットに入れといてあげるから、今度のパーティにでも着ていきなさい。あ、トールはクロゼットじゃ気づかないわねきっと・・・・・・研究机の上にでも置いとくわ。書類崩すかもしれないけど」 「わーい、フレディママありがとう! 大好き!」 どういたしまして、とフレデリカは愛娘を抱きしめた。 「さあ、退院祝いに腕をふるいましょう。何を食べたい?」 「えっとねー、ミルクのケーキ! クリームがミルク味のやつ」 まかせなさい、とフレデリカは笑った。奥のキッチンで、少女にも手伝ってもらっていい香りの生地とクリームを手際よく作る。普通のスポンジケーキのつもりでいたフレデリカに、少女は言った。 「これ、巻き巻きしたい!」 「いいわよ~。じゃあ、そうしましょ」 二人はスポンジをぎゅうぎゅうつぶして巻き、間にラズベリーをたっぷり入れて可愛らしくデコレーションしたケーキが出来上がった。 「お祝いだから一本食いしていいわよ!」 豪快にフレデリカは言ったが、食べている途中で少女はそっとフォークを置いた。 「お夕飯入らなくなるから全部はたべない」 あまりにもおりこうな様子に、フレデリカはびっくりだ。えっ、と目を見張っていると、少女はもう一度フォークを取り、一口分を刺してフレデリカに差し出した。 「ママもたべて~。はい、あーん」とにっこりする。 目に入れても痛くない愛娘の可愛らしい行動に、もうフレデリカは溶けそうであった。 ミルクのケーキと一緒に幸せを噛み締めつつ、思い出したように彼女は言った。 「そうそう、ここの二階にね、あなたのお部屋を作ったのよ。ちっちゃいけどシンプルでかわいい、少しカントリー風なお部屋。 退院がアタシの予想より早くて間に合わなかったけど、後でトールにポータルをつなげてもらう予定だから、好きに出入りしてちょうだいね」 わあありがとう!と少女はもう一度、大好きな育ての母に抱きついた。 それから少女は接客に興味を持ち始めたのか、しばらく店先で遊んでいたりした。 かなりの時間がたってから、ようやく彼女はカマエルのことを思い出した。 やっぱり行かないわけにはいかないだろうな、と重い腰をあげる。フレデリカに手を振って、また天使エリアに戻った。 「こんにちは・・・・・・」 そろりとドアを開けると、カマエルが腕を組んで怖い顔で立っていた。 「私のことを苦手だと言っただろう」 あ・・・いや、と彼女はうろたえた。するとカマエルはにやりと笑い、少女の頭をぐりぐりと撫でた。よく帰ってきた、と呟いて。 ステーションに時間はないのだが、さんざんフレデリカのところで遊んできたため、あえていうならもう真夜中というくらいに時が経っていた。 「もうここだけで、ルキアに帰るのだよ。そのあたりで寝たりしないで」 今日はもう挨拶回りはいい、としばらく話した後にカマエルは言った。ルキアが自分の家だと思って、路で寝たりせず帰ってきてくれと、トールにも言われているだろう? そう言われて少女は悩んだ。 一度は脱出したくてあれだけ大騒ぎしたルキアに、自分は戻れるのか、戻りたいのか。 元々はステーションの下の娘の家に間借りしていたから、こっちにも帰る場所はある。けれど、きっと心配しているぞ、と言われて少女はルキアに戻ってみることにした。 一生懸命、できるだけポータルを使わずに飛んでもどる。 ルキアの上空に来ると、星空の下、トールが表で外を見上げて立っていた。彼女を見つけて微笑み、降りてくるのをおかえり、と抱きとめる。 「ずっと待ってたの?」 「星を見ていた。もう戻ってこないかも、と思ったら眠れなくてね」 あなたの家はここだけじゃないし、必ずここに来なくてはいけないと言うわけじゃない。あなたの羽は文字通り自由なのだから、と彼は続けた。 本当は待っていたのだ……想い人がやってこないものかと祈るように空を見上げる、あの古歌のように。けれども彼女の負担にならぬよう、それは口にしなかった。 過去世を統合していくら外見や口調が変わったとしても、芯の部分は何も変わりはしない。隣を歩く彼をみて、少女は思い切ったように口を開いた。 「あの・・・・・・そういえば、さ」 「なに?」 「下のあたしのフィルターがおかしいのかな。前よりトールが近いっていうか」 もじもじと彼女は言った。過去世を統合した時点で変化はあったが、神殿を出てからは遠慮がなくなったというか、より距離感が近くなった気がして、少女は少し混乱していた。 「そうだね。嫌?」 「そうじゃなくて・・・・・・あたしが勝手にそういうフィルターに変えてるだけなんじゃないかと思って・・・・・・そしたらトールに迷惑だし」 「そんなことはないよ。ここにいるままの私を、あなたはきちんと受信している」 「でもさあ、その答えだって都合よく作ってるだけかもしれないじゃん」 「・・・・・・ふうん」 地面を見てぶつぶつ言いながら歩く少女に、トールは歩をとめて少し目をすがめた。いいとも、それほど不安ならば証拠を見せてあげよう。 大股で彼女に近づき、その背から抱きすくめる。 長い銀髪が顔の横に流れ、彼女はわっ、と足を止める。その耳元で錬金術師は言った。 「上を見てごらん」 少女の頭が動いて星空にむく。感嘆の声がもれた。 「わあ、きれいだね。星がいっぱい」 「星の数がどのくらいあるか、知っているかい?」 「知らないよ。たくさんでしょ」 「じゃあ、そのたくさん、に生命や意識体はどのくらいいるだろうね?」 トールは矢継ぎ早に質問してくる。いったい何を聞いているんだろうと不思議に思いながら少女は考えた。 「光ってるのは恒星だから生命体はいないじゃん。地球みたいのは惑星だから光ってないでしょ、そんくらい知ってるよ。 でも、恒星とか惑星もガイアみたいに意識ってのがあるかもしんない。で、それが分裂したり・・・・・・各惑星にも生命体がいたら・・・・・・全部ではもうすごい数、かな」 そう答えながら、彼は急に何の話をしたいんだろう?と頭が疑問符でいっぱいになる。 すると突然トールが言った。 「そう、そうやって生命体や意識体が無限とも言えるくらいたくさんあったとしても、私はほんの小さなかけらになってしまったあなたでも見つけることができるよ。 だからあなたさえ望んでくれるかぎりいつでも一緒にいるし、GPSなんて必要ない。そのエメラルドにもGPSなんてつけてない。 こういうやりとりは自分で作り出してるのでもないだろう。わかったかい?」 「・・・・・・」 耳元で微笑みの気配がして、少女は真っ赤になった。 先ほどのやりとりは本当に数秒間のできごとで、作り出す暇どころか考える暇もなにもない、反応するのがやっとのスピードだった。しかも最後がエメラルドの話題になるなんて。 「あーわかった、あたしの負け。トールはここにいるし、トールが変わったのも本当だし」 照れ隠しに少女は語調を強めた。 わかればよろしい、と笑い声がきこえた。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)イラストはつぼみさんからいただきました♪ ぜーんぜん話の展開を知らずに描いてくださったのですが、あまりにもぴったり!! すごすぎです。 お願いして挿絵に使わせていただきました~♪ つぼみさん、どうもありがとうございましたコメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→
2009年07月09日
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少女はルキアの部屋で鏡の前に立ち、映る姿をじーっとにらんでいた。 このままステーションへ帰るべきか、どうするか。 曇りのない大きな鏡の中には、白い服で白い羽の少女がいる。色が薄くなり金色に近くなった髪も羽もふわふわで、緑色なのはその瞳だけだ。その姿をしばらく睨んだあと、彼女はふくれた。 「これじゃあたしどこも緑じゃないじゃん。着がえる」 横で見ていたトールがくっくっと笑う。なんで笑うんだよ、とさらにふくれると、彼は少女の後ろに回って細い首にペンダントをかけた。 「これでいいだろう?」 彼女の胸元に輝いたのは、大きなエメラルドのペンダントだった。退院祝いだよ、とトールが微笑む。 チョーカーのような弛みのない金の鎖と台座。一見シンプルなつくりだが、とても深い色のエメラルドで彼女の瞳によく映える。 よく見ると繊細な細工がされていて、放浪癖のある少女のためにGPSでもつけられているのじゃないか、と本体が笑った。 「……ありがと」 照れくさそうに少女はしばらくペンダントの鎖をもてあそび、それから意を決したように部屋を後にした。 ステーションのカレー屋に行った少女の本体の娘は、少女を見て目をみはった。 (へえ、かわいいじゃん) 以前の風呂にも入らない野生児とはえらい違いだ。 しかし見ている間に、なにがあったのか緑の少女が突然泣き出した。 なんだかわからないが、とりあえず慰めようと声をかけてハグすると、ドラゴンのエネルギーが強い娘にはぐらんと衝撃がきた。 (うわ。・・・・・・中身、おもいきしずれた・・・・・・) よく見れば、緑の少女はオペの成果であろうか、外見のみならずエネルギー的にも大きく変化して、そのあたりで守護天使をしているような普通の天使より、よっぽどパワーが強くてオーラが大きくなっている。 ザドキエルに直接エネルギーを流されて天使系エネルギーに慣れるよう特訓されてはいるが、ドラゴン系の彼女にはまだハグすることすらできないらしい。 そのうちにトールが迎えにきて娘に挨拶し、少女をなにごとか慰めて店を出た。 二人はステーションのアシュタールのところに向かっていた。 「学校で顔を会わせるたびに、『あの子はどうなった、元気になったのか、会わせろ』と言われていてね。どうやらあなたに仕事を斡旋してくれるつもりらしい」 上層の幹部エリアを歩きながら、閉口したようにトールが言う。 「仕事?」 「そう。まあ詳しくは彼に直接聞いてみよう」 扉の認証セキュリティを通過して、広い部屋に入る。 アシュタールは大きな机についていたが、二人を見ると相好を崩して立ち上がった。 「おお、おお。よく来てくれたな。待っとったぞ」 「おひさしぶり、ですかね?」 意味深げにトールが笑う。魔法学校の教師としては数日前にも会っているが、天使時代からその人格を統合しての今と数えれば、じつに何億年もが経過している。 「ひさしぶりだとも・・・・・・二人とも、おかえり。やっとこっちに帰ってきてくれたんじゃの」 アシュタールは涙を拭った。年をとると涙もろくなっていかんのう、と言いながら。 盛大に洟をかんでから紳士は少女に向き直って微笑んだ。 「頼みたい仕事とは、これじゃよ。 べつに決まったときに出勤せんでいい。天使系エリアをぐるぐる回って、遊んでるときでもかまわんから、なにか問題がありそうな箇所をみつけたら自分でできることなら修復しておいてくれてもいいし、報告だけしてくれてもいい。クリロズの増改築やメンテと同じじゃろ?」 「ふーん・・・・・・うん」 ちらりと隣のトールを見上げて少女はうなずいた。 これまでステーションでは、共通エリアと下の娘のいるドラゴンエリア、倉庫などのあるエリア、それにアシュタールやサナンダのいる幹部エリアくらいしか 覚えている箇所はない。 ドラゴン系の下の娘は天使エリアはまったく見たことがないし、少なくとも本体は個別の大天使の部屋など以外、意識して入ったことはないから、どこなんだろな、と彼女は思った。 「おお、よかった。無理にとは言わんがの。どこにも帰属しないでいたずら三昧もいいが、たまには仕事してみるのもいいもんじゃぞ」 うん、と少女は言った。決まった時間に出勤しろなどと言われたら完全に無理だが、そういうことなら少しやってみてもいい。 まあ、だいたい緑みたいな波動の天使系のやつにこそ、仕事してないでフラフラしてる率が多いんだ、というのは下の娘がいつも言うことだ。人助けなどを一生懸命してるのは、天使系は天使系だけどまた別の部類だ、と。 そういえば緑の少女は昔、ステーションにヒーリングセンターを作ったことがある。 しばらくやって飽きたら、今の責任者の老人に押しつけてしまったのだが。 ただ、ほぼ全権を放り出したとはいえ、今でも自分のところだから何をやっても無料だ。下の娘あたりには、「そのために作ったんじゃないの」と言われているくらいで、今は黒い女性の分身がロシアンルーレットにはまってたまに担ぎこまれているらしい。 わりあいに自分は好き放題を許されているよな、と考えて、ふと少女は気づいてしまった。 これは三次元の世界で、戦場に出るため洗脳された兵士達がもどってきたときの処遇と同じだ。 ドラッグ漬けにしたり、ゲームのようなもので洗脳したり、兵士として「使える」ようにすればするほど、戦場以外の普通の世界に帰ってきたときに人間として使い物にならなくなる。 彼らがホームレスや犯罪者になるのは職がないからではなく、単に人間として壊れてしまっているから。社会に適応できないのだ。 自分はそれと同じ。 だから、以前廃ステーションをひとつ壊してしまったときも、責任をとらされることがなかったのだ・・・・・・。 落ちかけた少女の思考を察してさえぎるように、暖かな手が肩に置かれた。 見上げると、青灰色の瞳が優しく彼女を見つめている。その瞳はすべてを知った上で、大丈夫、と彼女をまるごと認めてくれていた。 エメラルドの瞳に信頼をこめて、彼女はうなずき返した。 トールと別れた後、少女はさっそく天使エリアをまわってみた。 最近下の娘にスパルタをしてくれているザドキエルに、とりあえず挨拶しにいこうかと思いつく。 「えー、御用聞きでーす。なんかありませんかー」 白いワンピースに白い羽の少女が入っていくと、ザドキエルは扉まで駆け寄ってきた。 二歩ほど手前で急停止して、上から下まで少女を見つめる。その目にみるみる間に涙があふれていき、ザドキエルはがばっと少女を抱きしめた。 「あ・・・あの・・・・・・?」 あっけにとられている少女をよそに、ザドキエルはおいおいと泣いた。 帰ってきた。ようやく帰ってきてくれた。私達の愛する天使の子。 言葉にならないそんな想いが、直接ハートに流れ込んでくる。 しばらく泣いた後、ようやく少女を解放して、「ちゃんとカマエルのところにも行くのだぞ」とザドキエルは念を押した。 「えー。・・・なんか苦手なんだけどなあのひと」 「だめだ。必ず行くのだぞ」 御用聞きってこれかよ、アシュタールに騙された、と思いながら少女はザドキエルの部屋を後にした。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)緑ちゃん、ステーションでおしごとはじめるの巻。 これにトールも巻き込まれて?いくんですけどね 笑 それはまたお楽しみに~♪ コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→
2009年07月08日
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人と会うのが嫌で、目的地まで裏道を通ろうとした。 背の高い無機質な建物に挟まれた、薄暗く細い空間。 奥の暗がりで乱闘らしい声がきこえ、眉をしかめる。 面倒なことは嫌いなのだ。 しかし今更道を変える気もなく進んでいくと、それが乱闘というよりリンチに近いとわかった。 多人数対一。 ここではそう珍しい光景でもない。 戦闘員を養成する場所なのだから、力こそがすべて、のような雰囲気はどうしたって醸される。 己の立場を守るためには、力で勝つしかないような場面も多かった。 ひとりの方は初めて見る顔のようだ。細身でひょろりと背が高い青年で、年は十代後半、自分より一つ二つ上だろうか。戦闘よりもデスクワークに向いていそうだった。 見ていてけして弱くはないが、相手が悪いし多い。かたや自分と同じく、幼少時から叩き上げられた専門戦闘員どもだ。 普通一般の喧嘩上手くらいでは勝負になるわけがなく、歩調を変えずに近づいてゆく間に劣勢になり、袋叩きにされていた。 「てめえ、こいつの仲間か?」 ゴリラのような体格の男が振り向いた。 返事をする必要を認めない。 彼らのお楽しみを邪魔する気もなく、無視して通りすぎようとしたが、それが気に触ったようだった。 「シカトしてんじゃねえ!」 大柄な割に鋭いパンチを繰り出してくる。避けざま相手の間合いに飛び込み、腹に一発叩きこんだ。狭い通路で男が吹っ飛び、反対側の壁にたたきつけられて落ちた。 面倒なことはしたくなかったのだが。舌打ちして自分の拳を見た。 潜在意識にまで刷り込まれた戦闘技術は、ほとんど勝手にこの身体を動かす。 相手も同じだ。後はただ運と実力の差。技とエネルギーの勝る方が勝つ。 ゴリラ男が吹っ飛ぶと、残りの奴らがまとめて飛びかかってきた。 鬱陶しいこと極まりないが、大勢でひとりを痛めつけるよりは、逆の方が好みに合っている。 銀髪で華奢な体格だったから、女っ気のない施設の物陰で襲われそうになっては何度も相手を返り討ちにしてやっていた。すでに実戦に出たこともあり、こんな状況にはもう慣れている。 後で悶着が起こらないよう、一応殺さぬ程度に手加減はしてやった。 「おい、生きてるか」 まもなく辺りが静かになると、俺は隅でのびている青年に声をかけた。 別に生きていようが死んでいようが構わないのだが、死んだならそのタイミングを確認する必要がある。 すると、青年はうっすら眼をあけた。薄暗い場所でも猫のように光る、黄緑色の瞳。 まだ焦点の合わないその眼が俺を見て…… にっこりと、懐かしそうに笑った。 かすかに唇が動く。 「……」 ようやく会えた、と呟いたのか? 思わず背後を確認したが、誰もいない。 どういう意味だと尋ねる前に、彼の瞼は落ちて意識も飛んだようだった。 いったいどういう意味だ? 初めて見た顔のはずだが。 なぜ彼は微笑んだ? 優しい微笑、なんてものは、この施設では見る機会がない。 ……なんだって言うんだ。 俺は完全に毒気を抜かれて、思わず彼の身体をかついで医務室へ向かった。 いつかあの微笑の意味を聞きたいと思ったのかもしれない。 ひょろりとした長身を担ぎ上げながら、彼の右手がほとんど潰されていることに気づいた。 日常生活に支障のないくらいまでは治せるだろうが、これではもう実戦には出られまい。戦略部へ行くしかないだろう。 しかし、そのことに、彼が実戦に出ずにすむことに、なぜか安堵している自分がいた。 理由はわからない。 俺はひどく混乱していた。 数年後、戦略部に移籍した彼と会ったとき、成長と厳しい訓練とで筋肉がつき、体格のよくなった俺に昔の華奢な面影はなかった。 意識の途切れる直前の瞬間のことだ。むこうも何も覚えてはいなかったのだろう。 特徴的なあの光る瞳を俺は覚えていたが、互いに初めて会うように作戦説明が行われた。 俺の疑問は解かれることなく、その後長く持ち越されることになった。 時満ちて遠い記憶を互いが思い出す、そのときまで。 <デューク - come across -> http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/7f35222f076375f74838bbdda2a652ac *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)この疑問が氷解したの、つい一週間くらい前のことなのです。グラディウスは十代半ばまではすごい華奢な体格をしてたので、(その後あんなにごつくなるとは、誰が想像しただろーかwww)銀髪とあいまって、どうやら銀巫女あたりと間違えられたみたい。元が同じ魂ですから、間違える根拠はたっぷりありますw何万年ぶりだか知りませんが、ああああ、すっきりしたーーー! 笑コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→7/7 セラフィムヒーリング トール&緑ちゃんによるヒーリングです♪
2009年07月07日
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清浄な光の滝が、目を閉じて座るトールの全身を打つ。 ルキア内の神殿で彼は瞑想に入っていた。寝もせず飲食もせず、ずっと滝行のような状態でもう十日になる。 それは緑の少女をルキアから出さないための結界を作っていたからだった。 結界に関しては免許すらもっている彼女を留めるために、結界そのものの強度でなく、彼女自身の意欲をそぐ方法。 具体的には瞑想によって自分自身の闇にアクセスしてそれを引っ張り出し、閾値ぎりぎりで彼女の部屋、行動範囲が広がってからはルキア全体に流す。 ルキア自体が特殊な次元にあって波動の低さとは相容れないため、自然に打ち消そうとする力と拮抗して微妙なバランスを保たなければならない。 範囲をルキア全体に広げてからは、デセルやララー達、他の住人に影響を出さないため、最後はマリアも隣の部屋で瞑想に入っていた。 技術的な面だけでいえば、十日も不眠不休でなくてもできただろう。 しかし、少女にとって重大な課題である闇を後ろ向きにひっぱるという行為は、トールにとって考えうる限り最大最悪の方法であり、きつい精進潔斎を自分に強いなければ、とても保たなかったのだ。 退院の朝も、トールはそのまま壁際にもたれるように座っていた。 闇とのアクセスを切って結界は解除したが、姿勢を変える気力もない。 元々マリアなどはあまり食べないが、他の方法でエネルギーを補給している。今回はそれも断って潔斎していたので、いくら三次元の肉体はないといっても、十日間寝ずの飲まず食わずでは、普通は持たないのだ。 そのうえルキアとクリロズに、他に二人同時存在させていた。最後はそれももたなくなり、まず三時間ほど前にルキアの一人が消え、一時間前にはクリロズの存在を式神に交代した。完全にエネルギーの限界を超えている。 すると本体がやってきた。 (お疲れさま。そのうえあっちこっちで喧嘩してさ。あんた馬鹿じゃないの?) 自分に対して容赦がないのはお互いさまだ。トールは短い思念の苦笑を送った。まだ心話する気にもなれない。 かすかな思いを読み取って、本体はうなずいた。エネルギーが枯渇しているのは本体も同じだ。なんといっても同じ人なのだから。 (わかってるよ。絶賛枠広げキャンペーン中、ってやつね。 けどさあ・・・・・・緑ちゃんのオペ、ララーちゃんの本体さんのオペ、デセルさんのオペ、またララーちゃんの本体さんのオペがあって、次が結界のための精進潔斎だっけ。 一瞬たりと休んでないじゃん。それじゃ余裕がなくなって当たり前でしょうよ。 私も笑えるくらいフラフラなんですけど。 しかも今日このあとすぐスカイプのセッションなんですけど!) (余裕があるようなら、まだまだなんだろうよ) トールは答えた。エネルギーのキャパシティを上げるには、一度完全に使い切らねばならない。 (やっぱり。今回のことは、もっと上からの指示があったんだね。 でもそれでぎりぎりになって緑ちゃん泣かせてたら意味なくない?) それを聞いてトールは重い息をついた。お互い、それは地雷だ。 (まあ、文句言ったってしょうがないけど。どうせ私もあんたなんだし。じゃあ仕事してくるから) そして本体は戻っていった。 次に感じたのは緑の少女の気配だった。 退院の朝、少女はまっさきに神殿にいるトールの気配を探した。 マリアやデセルがお祝いを言ってくれたけれど、待ちきれなくなって羽をつかい、上空に飛び上がる。 今度はあらかじめ場所を聞いておいた。 高く舞い上がって、あれが森で、泉で、神殿はあれだな、と見当をつけて降りたつ。 入ってみると、内部はうっすらと虹色をうかべる清浄な光に満ちていた。両脇に柱がたくさんある廊下のようなところで、どこにトールがいるのかわからない。 すると、(三、だ)と心話がきこえた。 少女はその言葉の通り、いち、に、さん、と数えながら前に進む。三歩めを踏み出すと、すっと小さな部屋にでて、そこに壁によりかかるようにして目を閉じたまま長身の男が座っていた。 「トール・・・・・・」 「退院おめでとう」 ベニトアイトの瞳をひらき、トールは微笑んだ。見せないようにしていても、その顔に疲労がうかんでいる。 少女は駆け寄って、まだ光の滝に打たれたままの彼をどうにかしようとした。 とりあえず横になるのを手伝ってみたものの、少女の力ではとても部屋まで運べない。 重い彼の腕をひっぱりながら、そもそも横にならせたこと自体間違いだったんじゃないかと本気で困っていると、トールはくすりと微笑んだ。 つかまれた腕を逆に引いて華奢な身体を抱き寄せ、片手で魔法陣をつくる。 次の瞬間には、二人はもうルキアの部屋のベッドの上にいた。 しばらくそのままでいた少女だったが、ふと疑問がわいた。 (どれが本体? 他のトールは?) (もちろん、ここにいるのが本体だよ) (なんで?) (もし途中で持たなくなって一体ずつ消えていっても、最後に残るのが神殿にいる私でなければ結界がもたないだろう? ・・・・・・もういつでも出られるから、どこへ行ってもいいのだよ) 青灰色の瞳をうっすらと開いて言う。疲れのあまり、彼がもう眠りの淵に立っていることはすぐにわかった。 彼の言葉遣いが、距離感が完全に変わったとも感じたが、それを確認するのもはばかられる。 (ずるいよ。この状態で、じゃあね、バイバイ、なんて言えるわけないじゃん) (じゃあそばにいておくれ……) 華奢な身体を抱きしめて、トールの瞼が落ちる。ハートチャクラがつながり、暖かな幸せが二人の胸に満ちた。 彼は半分眠りながら、意識の半分で二人のエネルギーを根源に繋いだ。大きな優しい光がまんべんなく注がれる。エネルギー枯渇状態にある自分と本体、そして少女と本体。全体をチャージし、さらに少女の総エネルギー量を上げるつもりだった。 その良き日、ルキアには幸福が花の香りのようにずっと満ちていた。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)ようやく退院~。 明日の七夕を前にらぶらぶっぷりを晒しておきますw 書くほうもこそばゆいんですがね^^;コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→7/7 セラフィムヒーリング トール&緑ちゃんによるヒーリングです♪
2009年07月06日
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来週って七夕ですね~! ちょうど火曜日とは思ってなかった。しかもちょうど満月なんだとか?? 七夕は晴れる確率の高い旧暦が好きですが、でもロマンチックなことには変わりなし♪ で。上の人が羽も生えたことだし(笑)、次はセラフィムヒーリングやってみようかなと思います♪ セラフっていうと、今まではエンジェルリンクでおなじみのローズオーラしか知らなかったんですけどね~ トールとか緑ちゃんもその種族だったとは知らなんだ。 同じ一族ならヒーリングもできるでしょ♪という、あいかわらずひっじょーに安直な思いつきです 笑 で、そしたらね、緑ちゃんが「あたしも手伝うー!」とか言ってくれまして。 そういえば、ステーションのヒーリングセンターを、今管理してるおじいちゃんと一緒に作ったの緑ちゃんなんですよね。 というわけで、トール&緑ちゃんの二人でお届けします♪ ちなみに、ここに緑ちゃんのお名前を出すことはご本体のじぇいど♪さんにご了承をいただいてますが、 下のじぇいど♪さんはヒーラーさんではないので、間違ってもお問い合わせなどなさいませんように。 上で緑ちゃんに会えたら直接聞いてね 笑 エネルギーバランス的には、青と緑とそろったほうがいいかもね~と本体同士で話してみたりしましたが、何にどう効くかはやってみないとわかりません(笑 ・・・まあたぶん、基本はアガペーMAXではなかろーかと私は予想してるのですが、 もしかしたらヒーリングの間にぱらぱら漫画でも見えるのかもしれないしwwww(それはそれで見てみたいような 相変わらずの実験君で、勇気ある方募集ですwww 応援ぽちっ♪→★リアルタイム日時 2009年7月7日(火) 21:30より1時間(日本時間)★コールイン受け取り可能時間 日本時間で上記日時~7月8日(水) 20:30開始まで ※とくに決まった宣言文はありませんが、よいお時間に 「さつきのひかりのヒーリングを受け取ります」と宣言していただければ大丈夫です。 ★募集期限リアルタイム直前(火曜21:30)まで★参加ご希望の方はこの記事(エラーになってしまう場合、mixiの同名記事)のコメント欄に、HN(ハンドルネーム)と都道府県、以前さつきのひかりのヒーリングをお受けになったことがある方は、前回のご感想を一緒にお書きください。私もとても嬉しく励みになりますし、書くことでご自身の気づきも深まるかと思います。※他の記事へのコメント・メッセージ等は無効になります。お返事もできませんので、ご注意ください。★ヒーリングの種類その時々のテーマとともに、純粋な愛のエネルギーによるヒーリングを、お申し込みいただいたご本人、住んでいる土地、ご先祖さまがた、にお送りいたします。もっともシンプルで、誰にでも入りやすく、心の癒しには一番効くのだそうです。ハートが癒されると、ふんわり開いてご自分にとっていいものがたくさん引き寄せられてきます。キラキラをたくさん引き寄せちゃいましょう♪♪★初めましての方は、フリーページをご一読くださいませ^^→→「ヒーリングについて(http://plaza.rakuten.co.jp/satukinohikari/4000)」※よくあるご質問もまとめてあります。ご質問の前にご覧下さいね^^★喉が渇くことがあります。また好転反応が出た場合に楽に流すためにも、白湯などの水分をとられることをお勧めします。★エネルギーやヴィジョンを感じるワークではありません。リラックスして、寝るつもりでゆったりとお布団で受け取ってくださるといいと思います♪★車の運転など、注意力・集中力を必要とする場面では、絶対にヒーリングを受け取らないでください。 眠くなることがありますので、危険です。万一そういう事態になった場合には、「私は今はヒーリングを受け取りません。後ほど布団に入るときに改めて受け取ります」とはっきり宣言してください。★ヒーリングは医療行為ではありませんので、受けたことで怪我や疾患が良くなったり悪くなったりするというものではありません。変化はご自身が望まれたことを後押しするために現れます。ご自身の判断と責任によりお受けくださいね。
2009年07月03日
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ジョゼたちが辞去した後、部屋に帰った少女が退屈しているのを知って、トールは顔を出しにいった。とはいえ気晴らしの種はそろそろ尽きかけている。そこで、別の方面からやってみることにした。 「なにか知りたいことがあったら、今のうちに教えるけどどうだい?」 すると少女は緑の目をきらきらさせて、色々と質問してきた。 ステーションの授業を逃げ回っているからといって、けして頭が悪いわけではない。むしろ好奇心にあふれていて怜悧なのだが、授業に出ないのは本人のやる気の問題なのだろう。 ひととおり質問しつくすと、彼女は部屋からトールを追い出して自分なりのおもちゃを一生懸命作り始めた。 「えーっと・・・・・・結界食べるドラゴンに一部穴をあけさせてー、そこから相手に気付かれないようにもぐりこませてー、一瞬で目的のグリッドを貼る道具をつくるには・・・・・・。つくったら回収できなきゃだし・・・・・・」 などとぶつぶつ言っている。 独り言の破片をつなぎ合わせると、どうやら、「自分で自分の周りに強固な結界を張ったまま、本人が今生、もしくは現在そのことに無意識になっててすっかり上の存在とのコンタクトをなくしており、どうにもアクセスができない人の結界に、本人と本人のこれまた上とすでにコンタクトがない守護存在に気付かれないまま穴をこじあけて一瞬で通信用グリッドを本人のエネルギーフィールドの中にとりあえず構築する道具」 とかいうものを作っているらしい。 これはもしかしたら、また彼女の本体の娘に怒られる羽目になるのかもしれない。後始末は覚悟を決めておいたほうが良さそうだ、と彼女の呟きを背中で聞き、部屋を押し出されながらトールは思った。 それも一段落すると、今度はフレデリカが大きな袋を持ってやってきた。 羽を出したままにしている少女を見て笑み崩れる。カワイコちゃん、えらいわっ! と盛大にハグをして、それからルキアの風呂場に彼女を連れていった。 「ほぉ~ら、キレイにしましょうね。せっかく可愛い羽なんだから」 フレデリカは持参した特殊な洗剤で、少女の羽にべったりとついた年代ものの黒い汚れを落とし始めた。 「・・・・・・かわいい、かな・・・・・・」 べそをかきながら、ひとりごとのように少女は呟いた。もうそんなに怖くはなく、羽を触られてもじっと我慢はしていられる。 丁寧に何度も汚れを落としながら、フレデリカはにっこりと大きくうなずいた。 「可愛いわよぉ。すっごく可愛いわ。羽はきれいでカワイイものよ」 だいたいの汚れを落としてから改めてシャンプーしつつ、羽がどんなに素敵なものかとキラキラと楽しいイメージを混ぜて少女に聞かせる。 「羽はきれいでかわいい・・・羽はきれいでかわいい・・・」 少女はぶつぶつと唱えだした。フレデリカはそれに相槌をうちながら、慣れた手つきで栄養剤をすりこんでゆく。大きなドライヤーのようなもので丁寧に乾かすと、あれほど汚れていた羽はふわふわの真っ白になった。 ついでに髪も洗ってふわふわに整え、持ってきた羽を出して着られる白いワンピースを着せた。 「ほぉ~ら、こうやってちゃんとお手入れすればキレイでしょう?」 見違えるような格好になった少女を大きな鏡に映し、その横で微笑む。 鏡と自分の背中とを交互に見ながら、ぎこちなく少女はうなずいた。 白い羽に対する恐怖。直結する死のイメージ。それがなぜなのか、なぜこんなにも怖いのか、彼女はまだ思い出していない。ただフレデリカやマリアになだめられ、慰められて、すこしずつ羽があるという事実から認めはじめていた。「さあ、最後は見た目もだいじ。フレデリカママ特製の魔法のお薬をかけてあげましょうね」 そういうとフレデリカは、キラキラするラメのような粉を少女にふりかけた。首をかしげ、ためつすがめつして愛娘を眺める。 「う~ん、キレイになったわ。さすがアタシのカワイコちゃんね。 さあ、アタシはもう帰るから見せてらっしゃい。それじゃあね」 誰に、とは言わずにフレデリカは笑って姿を消した。 ひとりになって、緑の少女は逡巡した。 フレデリカが言ったのはトールに違いないが、なんだかどうにも恥ずかしい。 鏡に映る白くて大きな羽を持つ人が自分だとは、なかなか思えなかった。しばらく手をあげてみたり羽をちょっと動かしてみたりして、それが自分であるということがようやく飲み込めると、彼女は意を決してトールの部屋に行った。 決してけなされることがないのはわかっていたけれど、やはり何と言われるかはどきどきする。 少女にはめずらしくノックをしてドアを開けると、トールは机で何か仕事をしているところだった。羽に関することは完全にフレデリカやマリアに任せることにしたらしい。 扉を振り返った彼は、軽く青灰色の瞳をみはって立ち上がった。 「その・・・・・・フレデリカに洗ってもらったんだけど」 恥ずかしさのあまり、下を向いてぼそぼそと話す。 「綺麗だよ。・・・・・・とても」 顔をあげると、優しい微笑みがそこにあった。ぱっと顔が赤くなるのがわかる。また視線を外して、柄にもなく少女はもじもじした。 「散歩にいこうか」 トールは彼女の返事を待たずに窓に向かい、バルコニーへむけて大きく開け放した。 その背に大きな白い翼が現れる。 彼は振り向くと少女にむけて手をさしのべた。 前回よりずっと楽な気持ちで、彼女は大きな手をとった。トールがバルコニーを蹴ると、二人はあっという間にルキアの上空に舞い上がる。 針葉樹の林の間に、大きな銀色の月がかかっていた。 たくさんの星々がまたたく中、二人の天使はそれぞれの羽を使って空中散歩を楽しんだ。さわやかな夜風が彼らの頬をなぶってゆく。 しかししばらく普通に飛んでいた少女は、やがていきなり急降下して地上ぎりぎりで旋回、などということをやりはじめた。 「危ないぞ」 「シュリカンに一体化して乗ってるんだからやり方は知ってるよ」 トールは慌てたが、少女はまったく平気らしい。 そういえばシュリカンは、こちらからあちらへ行くのにただまっすぐ穏やかに飛ぼうとせず、わざわざ急上昇したり急降下したりする飛び方が好きだった。 万一のことがないように魔法陣の準備をしておきながら、元気いっぱいになってきた少女を見てトールは微笑んだ。 明日の朝には退院だな、と思いながら。 *************>>【銀の月のものがたり】 目次1 ・ 目次 2>>登場人物紹介(随時更新)だいぶ元気になった緑ちゃん。羽も見られるようになり、いよいよ次回退院です♪コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。どれも大切に嬉しく拝見しております♪続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪拍手がわりに→
2009年07月02日
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