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前巻に引き続いての海外編。 今回は、葵がニューヨークで大活躍。 序章『迷える心』では、香織がパースへの短期留学や小日向、店長について語り、 葵がニューヨーク行きの経緯や、清貴への気持ちの変化について語ります。 その契機となったは、上田が「曜変天目」を『蔵』に持ち込んだこと。 葵はそれを見て激しく動揺したのに、清貴は瞬時にそれを再現品と見極めたのでした。掌編『出発前夜』でも、葵の清貴への気持ちは落ち着かず、清貴からの「僕としては、今すぐでもあなたと結婚したい気持ちですよ」という言葉に、「どうしよう」「困る」に近い感覚を抱いてしまいます。葵は、恋する人の才能に嫉妬しているのでした。本編『摩天楼の誘惑』では、葵が好江、利休と共にニューヨークへ。まずは、利休の幼馴染み・一ノ瀬遥香の父が営む和傘店を訪ねます。そして翌日、サリー・バリモアが招いた「キュレーターの卵」たちは、いきなり、彼女の特待生となるための試験に臨むことになります。その中で、葵は持てる力を存分に発揮し、見事3人の特待生のうちの一人に選ばれ、3人で「アーティストの卵の展示会」の一角をプロデュースすることに。一方、サリーは、フェルメールとその贋作師・メーヘレンの展示会に注力。そんな中、清貴が修行の際世話になったトーマス・ホプキンスが現れます。美術界の権威・ホプキンスから、愛弟子であるサリーと篠原陽平とが仲違いした理由を、調べてほしいと頼まれた葵は、会員制の闇オークション会場に潜入します。そして、さらに聞き込みを進め、篠原が所有する「フェルメールらしき絵画」を見ることで、サリーと篠原とが決裂に至った事の真相に辿り着いたのでした。葵たち特待生のプロデュースは、高い評価を得ることが出来、サリーは、どうしても展示したかった絵画を展示することに成功します。そして、サリーは葵にニューヨークでの修業を勧め、そのサポートを申し出ますが、清貴へのモヤモヤした気持ちを吹き飛ばした葵は、清貴の側にいると決意したのでした。そして、掌編『流した想い』では、香織が鴨川河川敷で秋人の弟・晴彦に出会い、互いを慰め合います。続く『エピローグ』では、清貴目線で今巻における葵の感情の推移を振り返ると共に、葵目線で前巻と今巻の海外編の顛末を振り返ります。 ***今巻も、前巻序章の中で秋人が述べた言葉に集約されていきました。登場するキャラクターたちが、お互いを認め合い、競い合い、高め合っていくのがとてもイイですね。
2022.07.24
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今巻は、清貴が京都を飛び出して海外で大活躍。 Introductionでは、葵と共にジウ・イーリンがコマツ探偵事務所に現れ、 彼女の父親が上海で開催するという美術展示会の展示品鑑定を依頼します。 そして、続く序章『まるたけえびすに、気を付けて』で、 秋人の事務所の後輩、紅子と桜子からの相談を速攻で解決すると、 清貴、円生、小松の3人は上海へと飛び立ち、本編『麗しの上海楼』が始まります。 ***イーリンの父、ジウ・ジーフェイが各国から招いた鑑定士たちが集まる上海博物館で、清貴たちは、現在、世界に3つしか残存しない漆黒の茶碗・曜変天目の全てを目にする。上海楼では、イーリンの義母兄、ジウ・シュンエンが、鑑定士たちに曜変天目を披露。しかし清貴は、それが贋作であることを瞬時に見破る。そんな清貴のスマホに、菊川史郎から、ニューヨークにいる葵の写真が送られてくる。史郎は清貴に、美術収集家・高宮が寄託した蘆屋大成の絵画を持ち出すよう要求し、その絵画が、家頭誠司が贋作であることを見破れなかったものだと知らされる。清貴は、葵の身の安全を確保し、祖父の汚名を晴らすべく行動を開始するのだった。 ***その後、清貴は高宮に会い、ジウ氏がファンであるアイリー・ヤンに会い、蘆屋大成の『胎蔵界曼荼羅』『金剛界曼荼羅』という対の作品を目にしますが、次に、蘆屋大成が描いた中国の街並みの絵を目にした途端、事の真相に気付くのです。そして、円生に、葵を救うために蘆屋大成の絵を用意して欲しいと頼むのでした。 「『どうがんばっても、俺はお前にはなれない』って気付いたことが最初かな。 それに対してムカつくというより、 『自分には、どんなにがんばっても決してなれないものがあるんだ』 ってことを悟った。それぞれに役割があるっつーか」(中略) 「俺のブレーンはお前だと思ったら、 自分の出来の悪さとかコンプレックスとかなくなったんだよ。 だから、もし、自分にはどうしても解けない課題があった時は、 俺は迷わずにホームズの見解を聞く。そのことにためらいはない。 それは、ホームズという友達がいる俺の力だと思ってる」(p.60)序章の中で述べた秋人の言葉ですが、これが見事な伏線となって、円生の新たな一歩へと繋がっていくのです。ミステリーの要素も含めて、これまで読んだ中で、シリーズ最高の一冊だと思います。
2022.07.23
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シドニーの情報誌『月刊ジャパラリア(Japaralia)』公式サイトに、 2015年6月から2016年5月まで連載された小説 『12 coloured Pastels ~12色のパステル~』を改題、加筆修正し 単行本として刊行されたものを文庫化したのが本著。 著者の青山美智子さんは、小説家デビューとなる本作品で、 2020年に第1回宮崎本大賞を受賞し、 本屋大賞では、『お探し物は図書室まで』と『赤と青とエスキース』が、 2021年と2022年に史上初の連続2位を獲得したというスゴイ方。 ***マーブル・カフェをひとりできりもりしつつ、栗色の髪の若い女性客に片思い中のワタル家事担当の夫・輝也に代わって、幼稚園に通う息子・拓海のため奮闘する朝美拓海の通う幼稚園で副担任を務めるえな先生と泰子先生泰子先生の高校からの友人で、オーストラリアで新婚旅行を楽しむ理沙理沙が新婚旅行で出会った、結婚して50年の美佐子とその夫・進一郎マスターに勧められシドニーのボタニックガーデンに「緑色を描きに」やって来た優ボタニックガーデンでサンドイッチ屋を営むラルフと、彼の隣室に住んでいたシンディシンディが小学校の課外授業で出会ったグレイス先生と、高校の頃出会った交換留学生マコグレイスと出会い翻訳家となったアツコと、その夫でインテリアデザイナーのマークアツコと幼なじみでランジェリーショップを営む尋子(進一郎・美佐子夫妻の娘)かつて自分の家でホームステイをしていたマコとエアメールを交わすメアリーそして、マーブル・カフェのいつもの席で、そこで働く店員に恋文を書くマコ ***これらの人々が、12の短篇の中で様々に関わり合いながら、物語が紡がれていきます。そして、そのお話のどれもが全てとても優しい。さて、次は本著の続編となる『月曜日の抹茶カフェ』を読むべきか、それとも先述の、本屋大賞2年連続2位の2作を読むべきか……私の読書傾向も、芥川賞の選考結果同様、最近は女性作家の作品を手にすることが、とても多くなってきたような気がします。
2022.07.21
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2016年10月2日から2018年3月25日まで 毎日新聞「日曜くらぶ」に掲載された、小川糸さんのエッセイをまとめた一冊。 ドイツ語の勉強や犬の散歩、買い物や料理等、小川さんのベルリンで生活や、 路上ライブや物々交換システム等、そこに住む人たちの暮らしが綴られています。 「第2章 母のこと」には、お母さんとの関係が赤裸々に記されており、 二人の関係が、一筋縄ではいかないものであったことが伝わってきます。 それでも、色々なことがあって、色々な心境の変化が生じて、 紆余曲折の結果、小川さんが現在のような心境に至ったことが救いです。 *** 月曜から金曜日まで語学学校に通っていると、本当にあっという間に一日が終わり、 一週間が過ぎ、一カ月が終わってしまう。(中略) けれど、そういう生活を送っていると、 あまりに日々が単調に過ぎ去ることに気づいた。 それで、一週間の曜日それぞれに、 自分でご褒美をあげることにしたのである。この後、小川さんは一週間の曜日それぞれのご褒美を紹介していくのですが、これは、なかなかいいアイデアだなと思いました。私も、最近は日々単調に時間を浪費してしまっているように感じていたので、一日一日にメリハリをつけるべく、曜日それぞれにご褒美を考えてみます。 日本では、いつから、「お客様は神様」みたいになってしまったのだろう。 お金を払う側が圧倒的に偉くて、 お金を受け取る側はしもべのようにサービスしなくちゃいけない。 本来、対等であってしかるべきなのに、 サービスを提供する側は、いつ苦情が来るかと戦々恐々として怯えている。(p.137)してくれて当り前、してもらって当たり前。もしそうしてくれなければ、徹底的に糾弾されて当然。この関係性は、日本の至る所で見られます。そして、その関係性は、ますます刺々しさを増してきているように感じます。 人生は双六のようなものだと思っている。 そこまで駒を進めなければ、見えない景色があるんじゃないか、 と信じているのだ。(p.213)確かに。実際にその年齢に達してみなければ、また、実際にその立場にたってみなければ、気付かない、分からないことは、これまでに多々ありました。
2022.07.18
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その名は、何度も目にしてきた『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ。 しかしながら、私は何故かこれまで一度も読む機会がありませんでした。 そして、今回初めて手にした『ビジョナリー・カンパニー』の原点となる本著。 シリーズ発行前の1992年に記された『Beyond Entrepreneurship』の改訂版で、 今回初めて日本語訳された一冊です。30年前の記述に、それについて現在の視点から述べた部分を加えるというユニークな構成。『Beyond Entrepreneurship』のオリジナル部分は「グレー」のページに、今回の発刊に当たり、新たに書き加えられた部分は「白」のページに印刷されていますが、オリジナル部分の記述が、現在もなお色褪せていないことには驚かされます。 *** リーダーシップとは、 部下にやらなければならないことをやりたいと思わせる技術である。(p.78)これは、著者がまとめた「リーダーシップ」の簡潔な定義。「なるほどな」と、素直に納得させられました。 「いなくては困る人」をつくってはならない。 「私」ではなく「私たち」を主語に考える。(p.219)これはジロスポーツ・デザインのビジョンに掲げられた「チームワーク」における記述。これも、素直に納得です。 成功というコインの裏面は失敗ではなく、成長だ(p.238)これは、ドーン・ウォールのフリークライミングに挑み続けたコールドウェルの言葉。彼は著者と失敗についてどう考えるべきかじっくり話し合い、この考えに至ったそうです。 現金は血液あるいは酸素のようなもので、なければ会社は死んでしまう。 しかも成長は大量の現金を食い潰す。 倒産のほぼ半分は、記録的売り上げのあがった翌年に起こるのはこのためだ。(p.321)これは、「どのくらいの速度で成長すべきか」について述べられた部分の中の一文。「好意魔多し」の典型を示すような記述に、思わず唸らされました。 成果があがらない原因は、採用の失敗、教育訓練の失敗、明確な期待事項の欠如、 質の低いリーダーシップ、評価の失敗、仕事の与え方の失敗など会社の落ち度であり、 社員の落ち度ではない。(p.442)会社として留意すべきことが、簡潔にズバリ記されています。これらのことを組織としていかに整え、運用していけるかがキーとなってきそうです。 優れた人材かどうかは、学歴、技能、具体的な過去の経験などを 主な評価基準にしてはならない(もちろんこうした要素は考慮すべきだが)。 主な評価基準は「この人物は私たちのバリューを支持するか。 私たちが大切にしていることに賛同するか。 私たちの原則を受け入れるだろうか」だ。(p.453)先の留意すべき事柄の中で、「採用」について記された部分。本著の中でも、特に印象深かった一文です。 私たちは急成長を遂げる会社が、採用基準を緩めるケースをたくさん見てきた。 「とにかく誰でもいいから採用してくれ。誰かまわしてくれ、人手がいるんだ!」 という状態だ。(中略) 急成長のプレッシャーにさらされた会社では、採用へのこだわりが大幅に薄れる。 だが採用こそ、あなたがとことん慎重になるべき分野だ。(p.323)これは、本当に留意すべきことだと感じました。現在「教員不足」に悩む教育現場でも、決して忘れてはならないことです。 結局すべては「最初に人を選ぶ」という原則に行きつく。 正しい人をバスに乗せ、誤った人をバスから降ろし、 正しい人々を重要な座席に座らせなければならない。(p.63)「人事」「採用」に関して、過不足なく言い表した一文。まさに、これでしょう。
2022.07.17
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日本史の「定説」を疑い、 「定説を覆す最新の研究」も鵜呑みにすることなく、 自分の頭で「歴史の流れ」を考えるための指南書。 著者は、東京大学史料編纂所教授の本郷和人さん。 古代から近世まで様々なトピックスについて、 著者の考えや視点が記されていきますが、 教科書で学んだ知識からだけでは気付くことが出来なかった 個々の事象や時代の捉え方に「なるほどなぁ」と唸らされます。 名君をタイプ分けすると、個人的に優秀でリーダーシップを揮ったタイプと、 本人は有能でなくても家来たちが実力を発揮したタイプに分かれます。(中略) 上に立つ人は、基本的に個人の能力はそれほど問題ではありません。 本人がどれだけ優秀でも、 家来たちが動かなくて世の中がわるくなれば暗君です。(p.222)これは「第7章 江戸時代」の「江戸幕府の名君と暗君は誰か」に記された一文です。11代将軍家斉を引き合いに「将軍は何もしないほうが家臣たちに人気があります」とも記されており、リーダーに求められるものはその時々で変容すると痛感しました。
2022.07.16
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清貴の修行も、今巻でいよいよ最後。 その修行先は、私立探偵・小松勝也が祇園で営む探偵事務所。 清貴が自身の意向で呼び寄せた円生も加わって、 いよいよ本格的に探偵業に挑みます。 第1章『最初の依頼』では、20年前の高辻家の婿養子・洸一の階段転落事件と、 芸妓・ほの香と舞妓・もも香のストーカー疑惑と幽霊騒動の真相とを一挙解決。 第3章『パンドラの箱』では、祖父が遺した鉄製金庫を解錠する暗号解読の依頼主と、 浮気調査対象女性が通う華道教室の経営者との繋がりを突き止め、その全容を明らかに。一方、清貴は、第2章『矜持の証』では、秋人と共に京都文化博物館と平安神宮を訪ね、そして第3章では、円生と共に清水三年坂美術館を訪ねます。清貴は、平安神宮創建に込められた京都の住む者たちの思いや、七宝焼の作家である並河靖之と濤川惣助の『二人のナミカワ』について語りながら、控えめにではありますが、秋人や円生に心を込めてエールを送るのです。これまでの中で、一番カッコいい清貴でした。 ***ところで、第11巻の中で登場した真夏の永観堂。これを読んでどうしても訪れてみたくなり、先日行ってきました。青紅葉も美しかったですが、中には既に赤く色付いている樹が結構あってビックリ。そして何より『みかえり阿弥陀』の神々しさに圧倒されました。
2022.07.16
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まさしく教科書。 医薬品業界の様々な最新情報が、この1冊にぐっと凝縮されています。 1つのテーマを、見開き2ページで解説する構成で、図表等の資料が豊富。 重要語は、その都度ページ端部で説明してくれているので分かりやすいです。 全体は10のChapterから成り、 Chapter1は「医薬品業界の現状」、 Chapter2は「国内外の大手製薬会社の歴史と動向」、 Chapter3は「医薬品業界の組織と仕事」、 Chapter4は「医薬品業界の法律と規制」、 Chapter5は「新薬開発の流れ」、 Chapter6は「医薬品の処方と適正使用」、 Chapter7は「調剤薬局とドラッグストアの行く末」、 Chapter8は「ビジネスの前提となる社会保障システム」、 Chapter9は「革新的新薬開発に向けてのトレンド」、 Chapter10は「医薬品業界の将来像」。Chapter2やChapter7は、業界関係者でなくとも、見聞きしたことのある企業名が登場したり、身近な薬局やドラグストアが登場したりするので、チョットした読み物感覚で軽く眺めてみると、新たな気付きが得られるかもしれません。Chapter10に出てくる「問診アプリ」なんかも、とても興味深い!!
2022.07.03
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兵庫県宝塚市の山手にある洋菓子店「スイート・ホーム」。 その経営者・香田パティシエと妻・秋子、長女・陽皆(ひな)、 次女・晴日(はるひ)と、秋子の妹・池田郁子の一家と、 ご近所に住む料理教室「オアシスキッチン」の未来先生を巡る短篇集。 「スイート・ホーム」は、陽皆が勤務する梅田地下街の雑貨店に 一人の男性(山上昇)が訪れるようになり、やがて結ばれるというお話。 「あしたのレシピ」は、「スイート・ホーム」を訪れた辰野始という男性客が、 未来の料理教室に通うようになり、紆余曲折ありながらも二人が接近していくというお話。 「希望のギフト」は、この春から同居し始めた郁子を巡る騒動の中、 晴日がテニスクラブで知り合った大学講師・明野真からプロポーズされるというお話。続く「めぐりゆく季節」は、5つの掌編で構成されており、その1つ目「秋の桜」は、大学受験の再挑戦に備える由芽を、陽皆が薄紅色の桜の花びらが載った2つのショートケーキで励ますというお話、2つ目の「ふたりの聖夜」は、未来が米国人カップルのクリスマスパーティーのシェフを務め、奮闘する未来と辰野に、香田パティシエがケーキをこっそりプレゼントするというお話。3つ目の「冬のひだまり」は、ひとり娘・由利香とその夫・幸嗣、孫のあかねの一家に、夫の正臣同様、同居したいと言い出せないでいる祐子の後押しを、郁子がするというお話。4つ目の「幸福の木」は、一緒の時をあまり過ごせていないグラフィックデザイナー・明日香とカメラマン・涼太夫妻を、隣家に引っ越してきた晴日がちょっとサポートするというお話。最後の「いちばんめの季節」は「秋の桜」の後日譚で、由芽が二次試験を終えた後、「スイート・ホーム」で常連たちと和やかな時を過ごし、2週間後に結果発表を迎えるお話。 ***「解説」にもあるように、この作品は『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』、『ジヴェルニーの食卓』等の一連のアート小説とは明らかに色合いが違います。と言うか『ランウェイ・ビート』や『まぐだら屋のマリア』、『総理の夫』とも違います。あえて言えば『本日は、お日柄もよく』が一番近いかもしれませんが、それでも、私がこれまでに読んできたどの作品とも違っていて、「何だか小川糸さんのような雰囲気が漂う作品だなぁ」と感じてしまいました。マハさんの作品の振れ幅のあまりの大きさ、その能力の高さに、改めて圧倒されました。
2022.07.03
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入院中の某大企業重役を狙撃した疑いで警察官に確保された隠舘厄介。 いつものごとく今日子に助けを求めるも、そこに現れた彼女の頭部を銃弾が貫通。 術後、再び姿を現した今日子は、意味記憶を喪失していた…… しかも、執刀医によると、彼女が頭部を撃ち抜かれたのは2度目だという。 忘却探偵が記憶喪失であることを忘れるという事態に、 これは今日子を狙った殺人事件ではないかと、厄介は疑念を抱く。 そして、真実を解明すべく、狙撃手がいたと思われる場所に足を運ぶも、 そこで地雷を踏んでしまい、身動きできない状況に陥ってしまう。厄介からのSOSに反応した今日子は、彼を救出することに成功したものの、探偵事務所のあるビルディングは戦車に砲撃され、無残にも解体されてしまう。そして、自宅に戻った厄介を、白いスーツをまとったブロンドの小男が出迎えた。その男、FBI捜査官ホワイト・バーチは、厄介にこの件から手を引けと言う。狙撃手から逃れるべく沖縄へ飛んだ厄介は、ひめゆりの塔で漫画家・里井有次に出会い、彼女と共に美ら海水族園を訪ねると、その後、沖縄からビルディング跡地へと引き返す。そして、その地下室でギリースーツに身を包んだホワイト・ホースに遭遇。今日子と瓜二つの容貌の彼は、今日子が引退した後を引き継いだ武者だという。 ***この後、厄介とホワイト・ホースのやり取りが続くのですが、忘却探偵の活動履歴を語り聞かせた厄介に、彼は18歳からの今日子の履歴を披露します。そして、彼の真の目的は、彼女を戦場に引き戻すことではなく、自身が「掟上今日子」になることだと打ち明けるのです。そんなホワイト・ホースに、厄介は「あなたは掟上今日子になれません」。そして、次のように述べるのです。 「僕でもなくあなたでもなく、真実は、この文庫自体が、 今日子さんのバックアップだからです - どんな風に本を読んできたかが、その人間を形成する」(p.219)この後、さらに丁寧に、この言葉の意味を説明していくのですが、これが、何ともなかなか良いのです。『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ ~扉子と虚ろな夢~』でも、記憶を失った古書店の店主・康明について、こんな言葉が出てきてましたね。 「自分が持っていた千冊の蔵書、それを片っ端から読んで、 過去の自分がなにを好んで、なにを考えていたのかを学んでいったんです。 康明さんの蔵書はね、あの人の頭の中と一緒だ。 あの人そのものなんですよ」(p.170)さて、『掟上今日子の設計図』に続いて刊行された本著ですが、いったい『五線譜』や『伝言板』はどうなったのでしょう?「あとがき」には、これらの作品名が登場するものの、詳細は不明です。『掟上今日子の忍法帖』が、今年6月には既に発行されているというのに……
2022.07.01
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