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『月曜日の抹茶カフェ』以来、久しぶりに青山さんの作品を手にしました。 カバーには「2022年本屋大賞2位作品、待望の文庫化」の文字が。 ちなみに、2023年は『月の立つ林で』が5位、 2024年は『リカバリー・カバヒコ』が7位となっています。 ***「一章 金魚とカワセミ」交換留学生としてメルボルンにやって来たレイは、1か月経っても一人の友達も出来なかったが、アルバイト先の免税店の先輩・ユリに誘われて公園のバーベキューに出かけ、ブーと知り合う。二人はビクトリア国立美術館での再会以降頻繁に会い、留学終了までの期間限定交際を開始。そして、1年の留学期間終了直前、ブーの友人ジャック・ジャクソンがレイの絵を描くことに。「二章 東京タワーとアーツ・センター」額縁製造販売「アルプル工房」に、円城寺画廊の経営者男性・円城寺と同行女性・立花が現れ、展示イベント用の額装を依頼、その中にはジャック・ジャクソンの『エスキース』があった。空知は大学3年生時のメルボルンでのジャックと出会いから額縁に興味を持ち、額職人になった。そして今回、師匠である村崎にその絵の額装をさせてくれと願い出て、木材から作り始める。「三章 トマトジュースとバタフライピー」漫画家・タカシマ剣のアシスタントをしていた砂川凌が、ウルトラ・マンガ大賞を受賞。二人の出会いや作品について語り合う対談を、ビジネス誌『DAP』が取材することに。対談先の喫茶店「カドル」には顎髭店主とウエイトレス、そして『エスキース』が飾ってあった。取材が終わった後、タカシマは砂川から本当の思いを聞かされることになる。「四章 赤鬼と青鬼」輸入雑貨店「リリアル」に勤務する茜は、オーナーからイギリスでの買い付けを打診される。そして、忘れてきたパスポートを取りに行くため、離婚した夫・蒼が住む家を訪れることに。しかし、茜は心療内科でパニック障害と診断され休職、元夫の留守中に猫の世話をすることに。そこで、タカシマ剣のマンガ本の中に、『DAP』の対談記事が挟まれていることに気付く。そして、戻ってきた元夫と『泣いた赤鬼』について語り、節分の豆まきをし、互いの思いを…… 「俺は君の気高い生命力を知ってるよ。レイ」(p.225)まさに、衝撃の一言!「やられた……」という思いと共に、「何故、気付けなかったかな……」という悔しい気持ち。そして、何よりも「流石は青山さん!!」という感嘆。続く「エピローグ」では、様々な事柄が、ジャックによって次々に明らかにされていきます。「赤」と「青」による、あまりにも見事な立体的に形作られたお話に大興奮。「これが、何故2位?」と信じられない気持ちでいっぱいになると共に、1位の未読作品『同志少女よ、敵を撃て』が、気になってしようがないです。こちらの作品は、なかなか文庫化されませんが、もうそろそろかな?
2024.11.17
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茅ヶ崎サザンビーチで若い女性が撲殺され、額には『M』の傷痕が残されていた。 その後、”波夜人”と名乗る者が、県警相談フォームにメッセージを投稿。 それは、被害者を口汚く罵ったうえで、自らが罰を与えたというものだった。 捜査会議に参加した夏希は、波夜人との対話を進めるよう指示を受ける。 夏希の呼びかけに応え、波夜人は被害者・森かずみの「罪状」公表を求めてくる。 その「罪状」とは、彼女が勤務するキャバクラの顧客・桑原成一に対する結婚詐欺行為で、 これが公表されない場合、新たにクソ女の死体が見つかることになると恫喝する。 そして、捜査が進む中、かずみの得意客・山川信彦が容疑者として浮かび上がる。山川を監視することで『罪状』公表は無視することになるが、翌朝新たな女性遺体が発見される。波夜人から犯行声明が届き、額に『A』の傷痕が残るその遺体は、女優・能勢ゆかりのもので、本名は阿曽沼莉子、結婚を餌に津田秀夫から多額の金品を贈与させ、彼を自死に追い込んでいた。波夜人は、「罪状」を公表しないと新たな遺体が城ケ島付近の海に浮かぶことになると脅す。容疑者として浮かんだ、阿曽沼莉子に執着していた俳優・山村良(本名・兼松正秀)も無関係。そして、額に『Y』の傷痕が残る3人目の遺体が発見されると、波夜人からメッセージが届く。遺体は家電大手企業秘書課の石川琴音で、専門商社営業・徳永昌義を横領逮捕に追い込んでいた。夏希は、性別、年齢共に不詳の波夜人について突如何かが閃く、そしてそこに上杉が現れた。3つの事件を担当した捜査員に見当をつけ捜索を進めると、大須賀政司警部補が容疑者に浮上。彼の息子・康司はストーカー規制法違反容疑で取り調べを受け、逗子の海に身投げしていた。そして、彼をストーカーとして訴えたのは、ファッションモデル・赤井マヤだった。夏希は上杉らと共に、警察用船艇で逗子海岸へと向かう。 ***今回は、アリシアではなく、タイハクオウムのピリナが優れた視力を活かして大活躍。お話が、加藤の臨場シーンから始まったのも初めてでしょう。新たに登場した小峰江の島署長と芳賀管理官の対比も面白かった。そんな中、私が今巻で最も印象に残ったのが次の箇所。 第二項は「死者の名誉を棄損した者は、 虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」と規定するので、 死者である森かずみの場合には 事実でないことを発表しなければ名誉棄損には該当しない。(p.58)死者については、それが事実なら、何を言っても名誉棄損にはならない。死者を貶めても、事実なんだからかまわないということですね。でも、何か引っかかる……それって、どうなの?
2024.11.16
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角田光代さんによる『源氏物語』の現代語訳。 この作品は、2021年に読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞しており、 第1巻には、「桐壼」から「末摘花」までが収録されています。 評判通り、とても読みやすいものでした。 ***一帖 桐壺(きりつぼ)桐壺更衣は、後宮の女たちから嫉妬されながらも皇子を出産。帝は益々更衣を愛したが、更衣は女たちからの度重なる嫌がらせで病に倒れ、亡くなってしまう。 帝が若宮を臣籍に降し、源氏の姓を与えた頃、桐壺更衣に生き写しの藤壺の宮が入内。源氏は12歳で元服し、左大臣の娘である葵の上と結婚するが、4歳年上の妻になじめず、亡き母の面影を求めて、藤壺への思慕を強めていく。二帖 帚木(ははきぎ)長雨が降り続く夏の夜、17歳の源氏の宿直所に葵の上の兄・頭中将が訪れ、さらに左馬頭と藤式部丞も加わって女性について議論を戦わせる。頭中将は後見のない女性と通じ子まで成したが、正妻の嫌がらせもあって姿を消してしまった。源氏は、三人の経験譚から中流の女性の魅力を知る。そして翌日、源氏は方違えのため訪れた紀伊守の別宅で、紀伊守の父の後妻・空蝉が居合わせていることを知ると、その夜半ば強引に寝所に忍び込む。しかし、自身の身の程を知る空蝉はそれを許さず、その後も源氏の誘いをかたくなに拒み続ける。三帖 空蝉(うつせみ)源氏は、空蝉の弟・小君の手引きで紀伊守の邸宅に三度訪れる。空蝉は開放的な様子の若い女・軒端萩と碁を打っていた。その夜、源氏は寝所に忍び込むが、空蝉は小袿を脱ぎ捨て寝所を抜け出していたため、空蝉と同室で眠っていた軒端萩と情を交わすことに。翌朝、源氏は空蝉が脱ぎ捨てた小袿を持ち帰り、小君に歌を託したのだった。四帖 夕顔(ゆうがお)空蝉に執着していた頃、源氏は六条に住む高貴な女の所にも忍んで通っていたが、その途上、夕顔の咲く家に住んでいる女と知り合う。源氏は夕顔と逢瀬を重ね、廃院へと連れ出すが、夜、物の怪に襲われるような夢を見る。目を覚ますと、正気を失った夕顔が、そのまま息を引き取ってしまう。後日、源氏は夕顔の侍女・右近から、夕顔が頭中将との間に子まで成した女だったと知らされる。五帖 若紫(わかむらさき)18歳の春、瘧病に苦しむ源氏は、加持を受けるため北山の聖のもとを訪ねる。そして、某僧都の家で、母を失い祖母の尼君に育てられている可憐な少女・紫の上を垣間見る。兵部卿宮の姫君で藤壺の宮の姪でもあるこの少女は、藤壺の宮に生き写しだった。源氏はこの少女を自らの手で育てたいと僧都や尼君に願い出るが、全く相手にされない。その頃、源氏は藤壺の宮に仕える王命婦を頼りに藤壺と逢瀬を持つと、藤壺は懐妊してしまう。紫の上の祖母である尼君が亡くなった後、源氏は紫の上を二条院へと連れ去る。紫の上は二条院の暮らしに馴染み、源氏になついていった。六帖 末摘花(すえつむはな)源氏は、乳母子の大輔命婦から、故常陸宮の姫君・末摘花のことを聞き興味を持つ。早速常陸宮邸を訪れ、後をつけてきた頭の中将と恋の鞘当てを繰り広げた後に、命婦に手引きさせて、一向になびいてこない姫と強引に契りを結ぶ。しばらくの後、姫のもとに訪れた源氏は、その翌朝見た姫の醜い姿、特にだらりと伸びた先が赤い鼻に驚愕。落ちぶれた宮家の境遇の哀れさから、姫の面倒は見続けたものの、二条院では、紫の上と赤鼻の女の絵を描いたり、自分の鼻に紅を塗ったりして戯れていた。 ***男女共に、現代とは道徳や倫理観が想像を絶するほどに異なっており、唖然。その土台となっているのは、当時の厳然たる身分制度と婚姻制度。血筋による圧倒的権威だけでなく、美貌まで兼ね備えた光源氏は、もうやりたい放題。現代ならば、どれもSNSで大炎上する事案ばかりで、いじり倒される末摘花には涙を禁じ得ない。しかし、光源氏の人格が疑われるような言動も、彼が生きた時代や社会が創り出したもの。逆に、空蝉などは、現代に近い感覚の振る舞いを貫き通すので、ひょっとすると、当時でもこちらの方がスタンダードだったのでは、とも思わされます。あの時代においても、やっぱり光源氏は類まれなる存在だったということなのでしょうね。
2024.11.09
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境界知能の子どもたちの実態と、その可能性を伸ばすための方法を提案する一冊。 著者は、児童精神科医で立命館大学教授の宮口幸治さん。 第1章 気づかれない「境界知能」と「軽度発達障害」 第2章 知能検査について知る 第3章 教科学習の前になぜ認知機能が大事なのか? 第4章 子どもの可能性はどのように伸ばすのか? という構成で、「発達障害」と「知的障害」の違いや、知能検査の概要と結果の活かし方、 「学習の土台」となる5つの認知機能と「コグトレ」等について記されています。 第1章の概要は、次のような感じです。IQの平均値は100で、「IQ85以上115未満」が「平均域」となる。そして、「知的障害」は次の4段階に分けられる。・IQ50~69(おおよそ9~12歳)……軽度・IQ35~49(おおよそ6~9歳)……中等度・IQ20~34(おおよそ3~6歳)……重度・IQ20未満(おおよそ3歳以下)……最重度 ※( )の年齢は、発達期を過ぎた成人に対する精神年齢一方、境界知能は「IQ 70以上85未満」で、「知的障害」と「平均域」のボーダーに当たる。成人でおよそ中学3年生程度の知的能力であり、「知的障害グレーゾーン」とも呼ばれ、人口の約14%が該当するものの、行政支援の対象外で、療育手帳は取得できない。(ただし、発達障害で手帳を取得できる可能性はある)境界知能や軽度発達障害は、教師や親でも気づかないケースが多々ある。それは、見た目や普段の生活の様子が、健常児とほとんど変わらない子もいるから。それを見過ごさないためには、次のようなサインを観察し、状況を正しく理解することが必要。・友達との会話についていけない・相手の気持ちが想像できずにトラブルになる・感情をコントロールするのが苦手。キレやすい・約束を忘れてしまう。忘れ物が多い・先生の話を聞けない・手先を上手に動かせない・体をうまく動かせない第1章の中では、私は次の部分が最も強く印象に残りました。 もうひとつ大事なのは、子どもの話をしっかり聞くことです。(中略) 特に子ども相手ですと、説明がつたなかったり要領を得なかったりして、 「それって、こういうこと?」などとつい口をはさんでしまいがちです。(中略) 子どもにしてみれば、親や先生からの意見が欲しいわけではなく、 ただ話を聞いて、自分のことを受け入れてもらいたい一心なのです。 ですから、子どもの目を見て、しっかりと相づちを打ちながら、 話に耳を傾けることが大切です。 その際に、子どもが「お母さん、どうしたらいい?」 「先生、どう思いますか?」などと意見を求めてきたら、 初めて助言を与えてあげればいいと思います。(p.51)子どもだけでなく、大人でもそうかも知れませんね。
2024.11.09
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特装版の64頁にも及ぶ付録小冊子には、『幸か不幸か』が掲載されています。 これは、著者の中村さん自身が書き下ろした、 10年前の慧月、9年前の玲琳、2年前の慧月、そして現在の慧月を描いたお話で、 付録小冊子の紙幅の大部分を費やした、とても気合の入った作品です。 今後のお話についても、このエピソードを前提に描かれていくと思われるので、 これからも、このシリーズを読み進めていく予定の方は、 通常版と比べ、価格はやや高くなってしますが、ぜひとも読んでおくべきものでしょう。 と言うか、このエピソードを読めば、今巻のお話の感動レベルがさらに上がること間違いなし! ***30年前、護明が19歳、弦耀が14歳の時、二人は第9皇子の刺客に襲われ、護明は弦耀を庇って失明、以後政務に携われなくなり、廃嫡の話が持ち上がった。そして25年前、皇子たちに唆された前帝の差し向けた術師が、護明と身と魂を入れ替えて逃亡、その際、術師と入れ替わった護明を、弦耀はそうとは気付かぬまま殺してしまったのだった。以後、弦耀は、復讐のため、目の見えぬ、足に傷を負っているであろう術師をずっと探し続けた。そして、25年ぶりの極陰日、術師は入れ替わりの術を使って、他者の体を奪おうとするはず。玲琳は、弦耀に命を賭して協力を申し出た後、慧月の発言から董が術師ではないかと気付く。慧月は景彰に、玲琳は尭明に宥められた後、二人は本音をぶつけ合って心のすれ違いを修復、玲琳は、術師を捕らえるための策を弦耀に伝えると、極陰日に向けて備えるのだった。洞穴の中で安基に声をかけられた董は、共に凍った湖上を歩き対岸にいる住人たちの方へ。しかし、途中、氷の表面には皇帝の象徴である五本爪の龍を刺した巨大な旗が敷かれていた。董がそれを踏んでしまった直後、爆音が響いて足元の氷が割れ、湖の中に投げ出されてしまう。そして、日食が始まると、住人たちが五家の雛女たちに指導された鎮魂歌を歌い始めた。董は入れ替わりの贄の印である赤い腕紐を見つけるが、気付くと痰壺の中に閉じ込められていた。その後、護明の遺体は陽楽丘の中でもとびきり明るい場所に埋葬された。そして、弦耀とアキムは新たな関係をスタートさせる。しかし、玲琳には異常事態が発生。そして、皇后・黄絹秀は怪しげな動きを見せ始める…… ***特典SS『歌唱指導』は、五家の雛女たちによる住民への鎮魂歌指導時の超短編裏話。そして、『幸か不幸か』は、慧月と玲琳の幼少時の胸を締め付けられるような苦しさや、慧月が他の四家の雛女たちとの初めて対面、「雛宮のどぶネズミ」と呼ばれるに至った経緯、さらには、波瀾万丈の鎮魂祭を終えた後の、慧月と玲琳のより強まった絆等を描いたお話です。次巻は新章に突入、シリーズを通じての謎にも、徐々に迫っていく予定とのこと。やはり鍵を握っているのは、絹秀でしょうか?
2024.11.03
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冒頭「第1章 はじめましてアリシア」は、 港南警察署刑事課鑑識係から本部鑑識課に異動した小川祐介巡査部長が、 警察犬係に配属され、民間警察犬訓練施設でアリシアと出会った頃のお話。 最後は、みなとみらいで起きた爆破事件現場での夏希との遭遇シーンで終了。 第2章「横須賀中央署」からは、秋谷で起こった児童誘拐事件のお話。 横浜科学技術大・依田信康教授の一人息子・信悠(5)が通園バスに乗る直前に誘拐され、 《キメラ》と名乗る者から、県警相談フォームに誘拐した旨のメッセージが届く。 夏希は依田邸の前線本部で、特殊犯捜査係第4班・島津冴美らと共に犯人との接触を試みる。小川やアリシア、江の島署の加藤清文巡査部長、サイバー特捜隊IT担当・五島らの活躍で、依田夫妻と関りがあった神奈川工業大大学院生・本城常雄の居所が判明し、信悠の救出に成功。本城が潜んでいた倉庫が突然爆発するも、アリシアが事前に異常に気付き夏希たちは難を逃れる。そんなアリシアが、信悠を迎えに来た依田夫妻を前にすると、激しく吠え始めた…… ***黒幕については、比較的絞りやすいお話で、多くの読者が、最後の結末も予測できたのではないかと思います。それよりも、第1章のアリシアと小川が出会った頃のお話が、とても良かったです。警察犬について、興味がわきました。
2024.11.03
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教室で、机の上の無数の落書きと花瓶を前に、涙する伊桜里。 そして、こちらを視界の端に留める、グループのリーダー格らしい肥満体男子。 瑠那は、その指紋を確認すると血祭りにあげ始めるが、蓮實が途中でそれを制止。 その後、男子の両親が激怒して駆け付けるが、優莉匡太の声を聞き震えあがる。 亜樹凪は瑠那に、饗庭窅一(あえばよういち)が嫉妬心から殺しに来ると警告。 饗庭は初代死ね死ね団の生き残りで、今は優莉匡太の親衛隊・悍馬団のひとりだという。 しかし、瑠那はNPO法人・少年少女ソーシャルワーク・サポート東京の坂井美鳥らに請われ、 家出少年少女らを救出すべく、匡太の半グレ同盟の総本山・山梨県臥龍岡連峰に入山する。一行は、敵の襲撃を受けつつも、かつて寺蜜神教会清心衆本部があった芥切山を目指す。が、瑠那は閻魔棒に山裾まで追い出され、そこで「伊桜里は貰った」というメッセージを受取る。そして、饗庭の襲撃を受けながらも、何とか伊桜里の暮らす児童養護施設まで辿り着くが、そこには、共に夕食の調理をすることで、父・優莉匡太に心を許してしまった伊桜里がいた。 ***死ね死ね隊の八牧哲英ことチョン・スンウは、かつてパグェに身を置いていた。凜香に恋愛感情を抱いていたスンウは、凜香が閻魔棒の拠点の一つで監禁・洗脳を受けた際、D5の一員に化けてこっそりと監禁場所に近付き、薬物欲求を緩和させる薬物を注射していた。それによって、凜香は洗脳は解けなくとも、禁断症状は長引かなかったのだった。 ***瑠那は、NPO法人の負債を取立てに来た唱道会系鳴澤組の伊場安郎らと再び臥龍岡連峰へ向かう。瑠那を欠いたNPO法人一行は、少年兵らに捕らえられ、円形闘技場で辱めを受けていた。そして、そこに侵入した鳴澤組一行も捕らえられ、処刑が行われようとした時、瑠那登場。さらに、凜香、結衣、瀧島らが現れ、八牧も加勢、巨大建造物は瓦礫の山と化したのだった。 ***巻末の広告ページには、 次巻より最終三部作!! 『高校事変22』 松岡圭祐 2024年9月25日発売予定の文字が掲げられており、既に22巻は刊行されています。いよいよ、父と娘がそれぞれの支援グループを率いて争うことで、シリーズも終幕を迎えるのでしょうか?
2024.10.26
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前巻ラストの衝撃シーンを受けての最新刊。 半年間、ずっと楽しみにしながら待っていました。 葵の言葉を、小野塚はどのように受け止めるのでしょうか? ドキドキしながら、読書開始です! ***第61話「春秋に富む」では、葵の「私にとっても特別です!」の言葉に対し、小野塚は「そういう知り合い 大事にしなきゃって気付かされました」と返すのみ……。激しく落ち込んだ葵は槙本に電話をかけ、薬剤師の恋愛や結婚について語り合うことに。そして、ADHDと診断された南奏太(14)が、母親と共に萬津病院にやって来る。第62話「助ける、支える」では、奏太に処方されたインチュニブの効果に疑問を抱いた母親が、コンサータへの変更を希望していると担当医・久保山から聞いた葵が、奏太と母親に聞き取り。眠気が続いているのは寝不足が原因ではと問われ、奏太は夜中に絵を描いていると告白する。メラトベルが追加処方されるも、奏太の将来を心配する母親は、父親に強い言葉を発してしまう。第63話「あふれてる」では、「小児薬物療法認定薬剤師」に応募した葵が、小野塚を飲みに誘う。そして、「小野塚さんのこと好きです」に対し、返ってきた言葉は「酔ってます…?」。さらなる「今は仕事のことで頭がいっぱいで…」には、逃げ帰るしかなかった葵。そして、相原くるみも泌尿器科と腎臓内科の4Bに配属されてから疲労困憊しきっていた。第64話「ないものねだり」では、7年前から慢性腎不全で通院している城島克也(66)が、初期の胃がんが発覚し2か月前に部分摘出、その後再発予防でTS-1を服用していた。また、幡野絵美(24)は、2年ほど頭痛外来に通院し、デパゲンが処方されていたが、60錠程飲んで救急搬送、胃洗浄後に活性炭とナロキソンを投与するも意識障害で問診出来ない。一方、くるみは羽倉や葵の姿を見て、自分の不甲斐なさを感じ、最近ずっと気を落としていたが、逆に対人スキルにくるみとの差を感じていた羽倉から、補い合っていこうと語りかけられる。第65話「踏みしめて」では、羽倉の提案したバルプロ酸中毒の解毒法が功を奏し、意識レベルが改善した絵美は、精神科の診察を受けた後、退院することに。また、副作用で口内炎が酷くなった城島は、TS-1の投与を中止、シャント造設手術も延期に。これまでの治療に疑問を抱く城島に、くるみは「うがい薬」を一緒に作ろうと誘いかける。 ***第62話に登場する奏太の父親は、常に冷静に理性を働かせながら、決して感情的にならず、妻に対しても、子供に対しても、包み込むように優しく接していて、驚愕もの。こんなにも、様々な視点から物事をとらえ、子供の将来を展望出来る人は、そうそういません。ましてや、身内に対しての対応は、仕事として他人に対するよりも、ずっとずっと難しいのに。そして、第65話でくるみが城島や絵美の母親に語りかける場面は、強く胸に迫るものがありました。また、次の一人語りには心が震えました。 羽倉くんへの嫉妬も 四門先生への苦手意識も 全部自分の自身のなさからきてた 仕事ができないとジャッジされることに怯えて… 人の目を気にして努力しても 焦るばかりで視野が狭くなってた でも 私はもう解決策を知ってる まだまだ躓くだろうけど 目の前の仕事にひとつひとつ向き合って 積み重ねていくしかない …ここが 私の仕事場これに続く「今日も お疲れさま」は、働く人たち皆へのエールですね。『アンサングシンデレラ』は、やっぱり良い!第61話の薬剤師の恋愛・結婚事情も面白かった!!
2024.10.25
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恩河日登美は雲英亜樹凪と共に、自らが殺害した捜査1課・坂東志郎の家へ。 亜樹凪は娘・満里奈に「あなたとはつながりたい」と連絡先を記したメモを渡す。 以後、日登美は雲英秀玄を殺害すると、出版社やテレビ局を次々に占拠していく。 そして、マスコミやネット上で優莉匡太を非難する声は全く聞かれなくなった。 一方、夏休みに登校した凜香、瑠那、伊桜里は、蓮實に誘われヘリで志渡澤島へ。 やがて、そこに結衣も姿を現すが、翌日には瀧島直貴ら7人の閻魔棒や、 匡太の半グレ同盟から離脱した者たちと共に、満里奈もやって来た。 そして、海上自衛隊の潜水艦・てんりゅうを奪った日登美までもが現れる。日登美は、矢幡総理が日本の国益のため、優莉4姉妹と裏切り者の元半グレをこの離島に隔離し、匡太が送り込むだろう現役の死ね死ね隊精鋭も含め、全て抹殺しようとしていると結衣に告げる。すると、イージス艦から発射されたミサイルで、結衣たちがいたビルは跡形もなく消失。てんりゅう艦内で日登美の言葉が真実であると確信した結衣は、瑠那をそこに残し島へと戻る。自衛隊のP3CとC2編隊8機を、てんりゅうから発射された対空ミサイルが撃墜。結衣は、上陸してくる自衛隊に備え、トラップの種類と設置場所を日登美に示すと共に、手に負えないぐらい敵の数が増えた場合は、島の中央の丘に集合するよう皆に指示。一方、瑠那は輸送艦・おにざきの撃沈に成功するが、楊陸艇2隻は取り逃がしてしまう。290名の上陸掃討部隊、さらには何百何千の空挺要員に包囲され、丘に追い詰められた結衣たち。ミサイルが発射されたものの、丘の上には変わりがなく、周辺だけが黒焦げの大地と化していた。瑠那はてんりゅうで潜水艦・かいりゅうを撃沈した後、かいりゅうを装ってイージス艦に接近、イージス艦を乗っ取ると、丘の周辺に向けミサイルを発射したのだった。 ***全てが結衣の目論見通りに進んだところで、自衛隊との壮絶な闘いは終了。その後、結衣は瑠那に義父母のもとに戻って日暮里高校に通い、伊桜里を護るよう伝えます。瑠那は、立派になった阿宗神社で義父母の本心を思い知らされることになりますが、日暮里高校では、鈴山耕貴淺、有沢兼人、寺園夏美の3人に温かく迎え入れられたのでした。
2024.10.20
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『京都 梅咲菖蒲の嫁ぎ先』の続巻。 副題は、「~百鬼夜行と鵺の声~」。 前巻に比べると、250頁とボリュームは軽め。 <続>ではなく<2>とあるので<3>以降の刊行も期待できそうです。 ***妖たちが列をなして闊歩する『百鬼夜行』。京都市内でその目撃談相次ぐとの記事が、時雨書院が発行する雑誌『時世』に掲載された。審神者・梅咲藤馬は、立夏が笛を吹いて妖を集め、秋成たち白虎班が滅する計画を立てる。しかし、鵺(ぬえ)が現れたことで作戦に乱れが生じ、新斎王・綾小路蓉子が姿を消してしまう。明治時代に百鬼夜行を滅した伝説の斎王・犬童桔梗。斎王は未婚の内親王でなくとも特別な力があれば既婚者でも良いと仕組みを改めた人物。その桔梗の遣いが、かつて鵺を封じた西福寺の薬師如来像を、1か月前にどこかへ移したという。さらに、桔梗は時雨書院社長として菖蒲たちの前に姿を現すと、鵺について語り始める。 「鵺は世の中の『魔』や『膿』を自分の中に溜め込み、 抱えきれない状態になった時に世に現れる。 そして、そんな鵺を討った者は、特別な力を得ることができるそうだ。(中略) 鵜は災厄の化身と言われているが、そうではない。 災厄が起こらないよう、自分の体に悪しき感情を溜め込んで民を護り、 それを抱えきれなくなった時、自分を射てほしいと鳴いて空を飛ぶのだ」(p.177)鵜を放ち、その力を求める妖たちをが集め、百鬼夜行を引き起こす。そして、その鵺を射ることで、自分が力を得ようとしていた者がいる。作戦決行の夜、不自然な動きを見せた者は……犬童家と共に賀茂家を護る八家の二大勢力の一つ、犬居家にも疑惑が生じる。犬居家の新年の宴、菖蒲が箏を立夏が三味線を奏でる中、菖蒲は蓉子の意識と繋がることに成功。蓉子を連れ去った人物が明らかとなり、舞殿上空に現れた鵺を蓉子が放った矢が射止める。そして、幼い頃『神童』と呼ばれた男の悲恋と喪失、そして今回の一件の経緯が記されていく。そんな男に、斎王・蓉子が処分を下すと共に、男の兄からの手紙を手渡したのだった。 ***菖蒲と立夏の関係も進展を見せましたが、それ以上に撫子と玄武の力を持つ冬生との関係が急速に進展しました。次巻は、時雨書院を舞台としたお話が始まり、時雨書院社長・犬童桔梗や『時世』編集長・草壁徹も、また絡んできそうですね。
2024.10.19
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表紙には「2023年 最も売れた小説!」の文字が踊ります。 既に映画化されると共に、続巻も刊行されています。 カスタマーレビューの評価数の多さには驚かされるばかりで、 そこに書かれている内容も好意的なものが大多数です。 ***フリーライターの筆者は、都内に一軒家を購入しようとしている知人・柳岡から相談を受ける。それは、その家の間取りに不可解な点、「謎の空間」があるのが気になるということだった。筆者は、設計士の栗原に協力を求め、二人でこの不可解な間取りの謎に挑むことに。そして、筆者がその家を題材に記事を書くと、宮江柚希という人物からメールが届く。待ち合わせた喫茶店で、柚希は自分の夫・恭一があの家の住人に殺されたかもしれないと告げ、あの家の住人がかつて住んでいた可能性がある、埼玉県の一軒家の間取り図を見せたのだった。行方不明になって3年後、埼玉で発見された宮江恭一の遺体は、左手首を切断されていた。そして、先日東京で発見されたバラバラ遺体は、左手首だけが見つかっていなかった。筆者は、あの都内の一軒家を訪ね、かつての住人「片淵」について隣家の女性から話を聞く。一方、栗原は、宮江恭一には妻がいなかったことを突き止める。そして、筆者は、柚希の本名が片淵柚希で、あの家の住人・片淵綾乃の妹だと知ることに。柚希が10歳の時に突然姿を消し、13年後に再会した2歳年上の姉とは、また音信不通だという。柚希は、筆者と栗原に、父の実家の間取り図を見せながら、そこで起こった事件について語る。それは、父の兄・公彦の息子である洋一が仏壇の前で亡くなっていたというもの。さらに、筆者は、柚希の母親・喜江から、綾乃の夫・慶太が書いた手紙を見せられる。喜江は、手紙に記されていた『左手供養』について語り始める。片淵家を何十年も縛り続けてきた因習、そして、妻を守るため自らの人生を棒に振った夫。しかし、筆者からその話を聞いた栗原は、更なる疑問を投げかけたのだった。 ***1頁に38文字×15行で、図表(間取り図や系図等)は結構多め。さらに、文章も読みやすいもので、サクサクと読み進めることが出来ました。ただ、ホラー色が強いお話で、読後感は私が好むものとはちょっと違ったかな。共感できるキャラクターも見当たらず、心に残るものもそれほどなかったです。
2024.10.19
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本作は、望月麻衣さんが小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿した 『花散る桜の園』を改題、大幅に加筆・修正したもので、2023年5月の発行。 『わが家は祇園の拝み屋さん』の世界観を大正時代に移したような感じの作品で、 私は「賀茂家」や「審神者(さにわ)」の言葉に激しく反応してしまいました。 ***八咫烏の子孫と伝えられる賀茂家の右腕と言われた梅咲家と左腕と呼ばれた桜小路家。昔から対立するこの両家、梅咲家は流刑者・規貴が出て失脚、桜小路家も資金難に陥っていた。そこで、梅咲家の娘・菖蒲と桜小路家の三男・立夏の縁談を進めることで、梅咲家は名誉の回復を図り、桜小路家は没落の危機を免れようとしていた。かねてより立夏に思いを寄せていた菖蒲は、予定より早く15歳で桜小路家に入ることに。しかし、20歳の立夏を始め、周囲の人々の言動は辛辣で冷酷なものばかりで、菖蒲を苦しめる。さらに、立夏が使用人の千花に思いを寄せていることが明らかになり、菖蒲は自らが婚約解消されるように仕向けるべく、計画を練るのだった。しかし、菖蒲の付添い・桂子から事情を知らされた立夏は、その計画を事前に阻止。さらに、ピアノの恩師から菖蒲の人となりや辛い過去の傷について聞かされた立夏は、これまでの行動を恥じて菖蒲に謝罪すると共に、自分が千花と駆け落ちしようと決意する。ところが千花は態度を一変、これまでの行動は長男・喜一の妻・蓉子の指示だったと暴露する。蓉子は、結婚後冷たくなった夫や次男・慶二に恨みを持ち、桜小路家に復讐を謀っていた。それは、立夏の縁談を失敗させることで梅咲家から桜小路家への援助を断ち切り没落させること。しかし、自分の部屋に夫が他の女を連れ込んで、戯れているところを目にした途端、そのベッドに向かってランタンランプを投げつける。炎に包まれる桜小路邸の中で、菖蒲は立夏と妹・撫子の母親の肖像画を手に、立夏を探していた。そして、煙に包み込まれる危機に際し、『麒麟』の力を発現させたことで一躍『斎王』候補者に。「審神者」となっていた兄・藤馬は、候補者となった菖蒲の護衛者を募り、白虎の力を持つ秋成、青龍の力を持つ春鷹、玄武の力を持つ冬生、朱雀の力を持つ立夏の4人が選ばれる。『斎王』候補者として4人に護衛されながら、籠に乗って鞍馬寺に到着した菖蒲は、『斎王』に相応しいか、出雲に集う神に問う儀式の中で、兄と蓉子の関係を知る。そして、蓉子こそが斎王の器だと気付き、兄に喜一と離縁した綾小路蓉子を迎えに行かせる。その後、菖蒲と立夏は、それぞれの思いを語り合い、遂に菖蒲の恋が成就する時を迎える。
2024.10.13
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私が手にする高嶋さんの作品は、自然災害を扱ったものが多かったのですが、 最近は『首都感染』『バクテリア・ハザード』と来て、今回も感染症との闘い。 文庫本で446頁と、結構なボリュームがありますが、 いつものようにとても読みやすい文章で、どんどん読み進めることが出来ます。 ***ナショナルバイオ社副社長ニック・ハドソンは、アラスカとシベリアで調査を続け、永久凍土の洞窟の中で、約3万年眠っていたマンモスの遺体を発見する。ニックの大学時代の研究室の後輩であるプリンストン大学のカール・バレンタイン教授は、その細胞から遺伝子を抽出する仕事を頼まれ、そこに未知のウイルスがいると気付く。その後、ニックはニューヨークとサンバレーで入退院を繰り返した後に死亡してしまうが、そのことから、カールは2種類のウイルスが存在すると考える。カールは市長の協力を得て、早々に市をロックダウンすると共に適切な感染症対策を実行、サンバレーにおける感染は終息へと向かって行く。その頃、カールのもとに大学時代の友人であるダン・ウェルチから、第3のウイルスである「パルウイルス」が送られてくる。カールは大学の同級生でCDCメディカルオフィサーのジェニファー・ナッシュビルと共にその宿主を求めて、シベリア、そしてアラスカへと赴き、ニックやダンの足跡を追う。カールは、モスクワ大学院生レオニード・イスヤノフとルドミラ・オスペンスカヤの協力で、ウイルス感染により住民が全滅の危機にあるユリンダ村、そして廃墟の村・ユリュートに到達。さらに、天然ガス採掘民間企業・ガスポルトの敷地内でマンモスの墓場を発見すると、大胆な行動でその爆発に成功したものの、パルウイルスの方の宿主はなかなか見つからない。カールとジェニファーは、その後アラスカへと向かい、チャガック国立森林公園へ。そこで、岩の亀裂の中を進んでいくと、氷の中に閉じ込められた数十体の古代人を発見。さらに、そのそばでダンの遺体とボイスメモが残されたスマホも見つけだす。カールは、ダンが洞窟の至る所に仕掛けた爆薬を起爆させると、ジェニファーと共に脱出した。 ***アメリカ人の主人公が、アメリカとロシアを舞台に活躍するお話で、いつもの高嶋さんとは異なる趣の作品でした。特にシベリアでの主人公の行動はかなり強引で、少々無理がある感じ。問題提起としては、十分に伝わっては来るのですが……
2024.10.13
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副題は「クィア・スタディーズ入門」。 著者は、社会学者で作曲家でもある早稲田大学准教授の森山至貴さん。 レズビアン (Lesbian)、ゲイ (Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)、 トランスジェンダー (Transgender)の「LGBT」に「Q」が加わった「LGBTQ」。 近年は、こちらの言葉を目にする機会の方が多くなったように感じますが、 この言葉の「Q」は、クィア (Queer) を意味している場合と、 クエスチョニング (Questioning) を意味している場合があるとのこと。 そして、クィアとは、ヘテロセクシュアル(heterosexual)でない人々およびシスジェンダー (cisgender)でない人々を指す総称だそうです。何だか、なかなかにややこしい……。そこで、少しでも頭の中をスッキリさせようと、本著を手にしました。 本書は、大きく準備編(第1章から4章)、基本編(第5章から第6章)、 応用編(第7章)に分けられます。(中略) 第1章では、クイア・スタディーズへの導入として、 セクシュアルマイノリティについての多くの人の知識が いかに危ういものかをいくつか指摘していきました。(中略) 第2章では、さまざまな性のあり方を2017年現在の最新の枠組みを用いて 分類・整理しました。(中略) 第3章と第4章では、第2章で指摘したような枠組みがどのような歴史的経緯によって 成立してきたのかを確認しました。(中略) 第5章と第6章では基本編としてクィア・スタディーズの大枠を提示しました。(中略) 第7章では、クィア・スタディーズの道具立てを使って、 日本においてセクシャルマイノリティをめぐる議論、 具体的には「同性婚」と「性同一性障害」を分析しました。(p.184)これは、『第8章「入門編」の先へ』の「本書を振り返る」から抜粋したものですが、個人的には、『第2章「LGBT」とは何を、誰を指しているのか』から、「第3章 レズビアン/ゲイの歴史」「第4章 トランスジェンダーの誤解をとく」までの記述が、自分の頭の中にあったこれまでの知識を整理するのに、とても役立ちました。また、「第7章 日本社会をクィアに読みとく」では、現在、日本で大きな課題となっている「同性婚」と「性同一性障害」を取り上げています。私は、先日『トランスジェンダーになりたい少女たち』を読み終えたばかりですが、本書に記された「性別違和概念」に関する記述も、とても印象に残るものでした。
2024.10.13
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「薬剤師・毒島花織の名推理」シリーズの第6弾。 2022年12月に発刊された第5弾『薬は毒ほど効かぬ』の後、 漢方薬局てんぐさ堂の事件簿『「舌」は口ほどにものを言う』を挟んだため、 実に1年7か月ぶりの発刊となる、愛読者待望の一冊です。 今回は、6つのお話で構成されていますが、そのボリュームには大きな差が。 第1話が76頁、第2話が12頁、第3話が52頁、第4話が12頁、第5話が86頁、第6話が10頁。 何故かなと思っていたら、巻末に「第1話・第3話・第5話は書き下ろしで、 第2話・第4話・第6話は初出が『3分で読める!……』(宝島社文庫)」とあり、納得。 ***第1話「認知症と株券」では、爽太の後輩・原木くるみが、神楽坂の甘味処で花織に色々と相談。認知症が進む祖母の介護施設入所や、彼女が所有する株券の売買について、さらに、将来海外勤務を希望している自分に、先日交際を申し込んできた男性がいること等々。 その男性とは、以前居酒屋で飲酒強要されているのを花織が救った、作家を目指す影山でした。第2話「眠れない男」は、30年ぶりに医療施設を訪れた星野栄一郎が、花織の名字や故郷に群生するトリカブトについて話すうち、元警察官と見抜かれるお話。第3話「はじめての介護」は、大学生の青柳亮平が、母に代わって祖母の通院に付き添うお話。祖母は以前通っていたクリニックで処方されていた薬に戻して欲しいと言い出しますが、今回担当した医師では分からず、花織が相談を受け、その薬が何であるかを探り当てます。そして、祖母が新しい薬を嫌がったのは、副作用があったからということも判明したのでした。第4話「誰にも言えない傷の物語」は、アレルギーがあって舌下免疫療法をしている少女が、猫アレルギーを治すために猫の唾液を摂取しようとして、猫に嚙みつかれてしまったというお話。第5話「処方せんとバイト」では、東中野のマンションのエレベータが地震で停止。フードデリバリーのバイト中に、顧客から別の荷物配送を頼まれた影山と、母親が飲まずに溜め込んでいた睡眠導入剤を買い取ってもらおうとしていた海野千夏、患者に薬を届けに来た花織が閉じ込められてしまうお話で、花織の過去の恋愛事情も明らかに。第6話「肝油ドロップとオブラート」は、50年前の夏休み、戸棚にあった肝油ドロップを、兄弟がこっそり食べたことに、どうして母親が気付いたのかについて弟が兄に尋ねるお話。 ***長らく待った甲斐があったと実感させられる面白さ。チュアブル錠の飲み方やオブラートの正しい使い方、薬の転売を目的とする処方箋偽造、ヘロインとコカインの違い、グルタチオンに零売薬局と興味深い話題が満載。特に第5話は、ミステリーとしても、これまでで最高の完成度です。
2024.10.05
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副題は「産経記者受難記」。 著者は、元産経新聞記者で、現在はフリーライターの三枝玄太郎さん。 1991年に産経新聞社入社後、警視庁、国税庁、国土交通省などを担当し、 2019年に退職するまでの記者生活を振り返る一冊。 僕は評論家や学者ではなく、ずっと現場で這いずり回ってきた記者なので、 大所高所から「メディアの左傾化」を論じるつもりはない。 ただ、現場でしか見えてこないメディアの実情というものがある。 産経新聞は往々にして「右翼の新聞」と誤解されている。 しかし、それが不当なものであることは、本書を読んでいただければおわかりになるだろう。 同時に、多くのメディアが左傾化する事情も何となく見えて来るはずだ。(p.6)これは、本著冒頭「まえがき」の一文です。ここに記されているように、本著表題「メディアはなぜ左傾化するのか」については、構えて記述されている部分は、ほぼほぼ見当たりません。あえて言えば、次の部分がそれらしいことが最も伝わってくる部分でしょう。 当時の早稲田は過激派である革マル派の金城湯池と言われていた。(中略) 政経学部の学生委員会も革マル派の影響力が強いといわれていた。(中略) Nくんとはそれなりに仲が良かったが、彼はほどなくして朝日を辞めた。(中略) 何と朝日を辞めて、労組の職員になっていたのだった。 毎日の女性記者はその後も毎日にいて、特派員として活躍している。 彼女がデスククラスにでもなれば、 新入社員を採用する1次試験の面接担当官くらいにはなるだろう。 また左派系の学者のゼミに入っていて、その担当教授から推薦をもらって 朝日や毎日の面接を受けている学生は多いだろう。 こうして左派系のある意味で「色のついた学生」の系譜は 絶えることなく続いていくのだと思う。(p.42)著者と同期の朝日新聞記者・Nくんは、早稲田大学4年生の頃、学生委員会の委員長として、「学費値上げ反対スト」で渉外担当の教授と交渉し、ハンドマイクで怒鳴り散らしていた人物。また、毎日新聞の女性記者は、新人だった頃「私、○○女子大の学生委員会にいたときから尊敬しておりました」と、Nくんに対しあいさつ回りで嬌声をあげた人物です。著者の様々な体験からは、新聞記者の知られざる実態がとてもよく伝わって来て、とても興味深く読み進めることが出来ました。本著からは、新聞記者の活動は、チームで組織的に行われていると言うよりも、個々に一匹狼的に動いて、それらを結集していくものだという印象を受けました。
2024.10.04
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前巻に引き続き、冒頭は今巻も夏希は洋上の人。 高校2年生を終える春休み、父の大学時代の友人・赤沢政隆のヨットで、 女子大生の麻由香や男子学生の三上、永原と共に、函館湾をクルージング。 同乗予定の従姉妹・朋花は体調不良で参加せず、その6日後に事故死した。 時は流れ、神奈川県警に復帰した夏希は、織田と共に《芦ノ湖ホテル》へ。 そこでは、従業員の横地吉秋が、支配人の高山重史の腹部をナイフで刺し、 フロント係の向井麻菜と宿泊客2名を人質に立てこもるという事件が発生していた。 そして、現地に到着した夏希は、宿泊客の1人が自分の母親であることに気付く。夏希は、レンタルクルーザーに大型モニターを設置し、湖上から自分と母親との交換を呼びかけ、それを受け入れた横地とホテルロビーで粘り強く対話し、投降へと導くことに成功する。しかし、横地はホテルを出たところで、自身が心配していた通り、何者かに射殺されてしまう。そして、横地の本名が梶川秀則で、武藤朋花を撥ね殺した男だったことが判明する。夏希は、上杉、紗里奈と共に函館に向かい、その事故についての捜査を開始する。すると、夏希のクルージングの3日後に、朋花が赤沢、三上と3人でクルージングをしていたこと、それから3日後に朋花が事故死、5日後に赤沢がバイク事故死していたことが分かる。高山も何者かに刺殺されたという知らせを受け、夏希たちは三上が経営する喫茶店に急行。そして、三上からクルージング時に何が起こったのかを聞き出すと、夏希は、上杉、紗里奈と共に渡島リゾート本社に乗り込む。上杉、紗里奈が、議員殺しの実行犯・延原専務から話を聞く間、夏希は高畠社長と1対1で対峙。そのやり取りの中で、事件の一部始終を明らかにしていくのだった。 ***今回も、残り頁がどんどん減っていく中での、電光石火の見事な事件解決。夏希と犯人とのやりとりは、これまでメールや掲示板上でのものが中心だったのですが、今回の横地や高畠とのやりとりは、相手を目の前にしてのもので、とても迫力がありました。お話が新しいステージへと、一歩進んだ気がします。
2024.09.29
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文庫版で518頁とボリュームはたっぷり。 まるでこれまで読んできたお話の続きを読んでいるかのような、 ごく自然な立ち上がりから、途中も元に戻って読み返す必要”ゼロ”の明快な文章。 稀代のストーリーテラー・東野さんの面目躍如といったところです。 ***中條健太(37)との結婚式が2か月後に迫った神尾真世(30)。しかし、元教員の父・神尾英一が殺害され、実家のある郷里へと向かう。すると、実家に父の弟でアメリカでマジシャンをしていた叔父・神尾武史が現れ、犯人逮捕を警察に任せっきりにせず、自分たちの手で真相を突き止めようということになる。通夜と葬儀の参列者の様子を動画撮影し、警察の持つ情報をあの手この手で入手しつつ、真世の同級生や上級生、下級生で今回の事件に関わりのある者たちに探りを入れていく。英一の遺体の第一発見者でもある酒屋の原口浩平、夫・池永良輔が関西に単身赴任中で、自身は実家に戻っている本間桃子、大ヒット漫画『幻脳ラビリンス』の作者・釘宮克樹、 広告代理店勤務で、釘谷のマネージャー的役割を果たすの九重梨々香、『幻ラビ・ハウス』に代わる町おこしイベントを計画する柏木建設副社長・柏木広大、居酒屋を経営する沼川、地銀『三つ葉銀行』に勤務する牧原悟、IT企業経営者・杉下、そして、亡父の銀行口座から大金が消失してしまった森脇敦美等々。各者各様の事情が複雑に絡まり合っていたため、謎解きは困難を極めるが、武史は、同窓会後に関係者が一堂に会する機会を設け、それを解き明かしていく。そして、事件は釘宮の親友・津久見直也の追悼会に向け英一が用意したサプライズが発端と判明。エピローグでは、真世が結婚に抱いていた不安感の原因も明らかとなる。 ***初期設定に少々無理があり、途中の展開もかなり強引さが感じられます。それでも、読む者をグイグイと引き付けていく筆力は、流石としか言いようがありません。ただ、最後はかなりの失速感。きちんと締めくくることは、とても難しい……
2024.09.28
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今回は、夏希が小堀沙羅と一緒に客船《ラ・プランセス》で船旅に。 しかし、出航から30分近く経った頃、沙羅に捜査一課の久米係長から 横浜市内の銃砲店で狩猟用散弾銃の実包3箱、合わせて75発が強奪されたので、 次の寄港地・神戸に到着したら、すぐに戻ってくるようにとの電話連絡が入る。 一方、江の島署の加藤巡査部長は、傷害事件の加害者・狭間を追っていたが、 出航前の《ラ・プランセス》船上に狭間を発見、北原巡査と共に洋上の人となっていた。 捜査1課・石田巡査長から、その旨連絡を受けた沙羅は、夏希と共に加藤たちと合流。 さらに、強盗致傷事件の容疑者・江川も《ラ・プランセス》に乗船した可能性が浮上する。そして、ランチタイム、乗船客とクルー全員を人質とするシージャックが発生。レストランは、白シャツの猟銃男と拳銃を持った紺ブレ男、サービススタッフ数名に制圧され、船長、ジャズシンガー・牧村真亜也、沙羅の3人がブリッジに監禁されてしまう事態に。神奈川県警刑事部長に着任したばかりの織田は、海保と連携しながらの対応を迫られる。パーサー・八代尚美の機転で衛星携帯電話端末を入手した夏希は、まず佐竹管理官に連絡。そして、身代金5億円を要求する犯人に投降を呼びかけるが、翻意させるには至らなかった。その後、海保のヘリが《ラ・プランセス》に接近するも、それに気付いた犯人の要求で退避。しかし、ここを好機と見た加藤は、北原と共に客室を後にし、夏希もその後を追う。ブリッジを急襲した3人は、江川、狭間、サービススタッフたちを制圧するが、監禁されていたはずの牧村真亜也が、夏希に銃口を向け、彼らを解放するよう要求。が、そこに警視庁公安部外事3課警部補・大沢と巡査部長・八代が現れ、危機を脱出する。真亜也は北の工作員で、東海村から盗み出された乾式プルトニウムを所持していたのだった。 ***織田が神奈川県警刑事部長になって、夏希も神奈川県警に戻ることに。思っていたより随分早く、お話の舞台が元に戻ることになりましたが、サイバー特捜隊を舞台とするお話を継続することは、やはり簡単ではなかったのか……。そして、織田と夏希の関係が、今後先進展することは難しくなったような気がします。
2024.09.22
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今回の主役は、『シリアス・グレー』同様、根岸分室室長・上杉輝久。 前巻では登場機会がなかったものの、 その存在感は、巻数を重ねる毎にぐんぐん上昇中。 そして、今巻から、あの五条香里奈の18歳年下の妹・紗里奈が登場します。 ***「北アルプスの奥に行ってこれから先のことを考えてみます」機動鑑識第1係巡査・五条紗里奈の残したメッセージを頼りに、上杉は山中を彷徨い歩く。そして、雲ノ平第2雪田で紗里奈を発見すると、彼女の言葉に耳を傾けると共に、辞表を撤回し、根岸分室へ異動するよう説得する。「信二さんと天国で幸せになります。皆さん、ごめんなさい。 美穂」《横浜コーストホテル》705号室には、この遺書と共に、積菱ハウス横浜支社営業部長・勝沼信二(52)と積菱ハウス横浜支社支社長秘書・大月美穂(28)の遺体が残されていた。一方、622号室には、高島総合開発営業部長・安井秀雄(32)の遺体と共に、凶器と思われる大理石の灰皿が残されており、それには大月美穂の指紋が付いていた。現場に駆け付けた高級クラブのママである安井の妻・玲子は、激しく悲しみ、怒る。しかし、紗里奈はその様子に不自然さを感じ取っていた。上杉と紗里奈は、玲子の店《ラ・フルー・ドゥ・スリジエ》を訪ねる。そして、紗理奈に全ての青写真を見抜かれた玲子は、金沢警察署で取り調べを受けることに。一方、124頁になって登場した夏希は、金曜夜に小川やアリシアと戸塚で暑気払いをするので、上杉と紗理奈もぜひ一緒にと誘い、舞岡八幡宮境内で待ち合わせをすることになる。しかし、夏希と小川は、突然現れた4人組の男たちに略取されてしまう。上杉と紗里奈は、待ち合わせ場所に残されたアリシアと共に近辺を捜索。ここでも、紗里奈が類まれなる才能を発揮して、一行は佐島マリーナへと急行することに。そして、アリシアの活躍で監禁場所を突き止めると、夏希と小川の救出に成功したのだった。 ***今巻は、二つのお話から構成されていましたが、いずれも呆気なく終わってしまった感が強いですね。特に一つ目のお話では、玲子があんなにあっさりとギブアップするとは……もう少し粘らせて、二つ目のお話はまた別の機会でも良かったように思います。
2024.09.21
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久々に夏希のデート・シーンからスタート。 お相手は、夏希の現在の直属の上司・サイバー特捜隊隊長・織田信和。 二人でランチをした後、北鎌倉の明月院でアジサイを見る予定だったが、 刑事部捜査一課の刑事たちに、織田は殺人罪の容疑で逮捕されてしまう。 さらに、神奈川県警の3人の警官が、傷害事件・器物損壊事件・窃盗事案で、 次々に逮捕される事態となっていたが、そのいずれもが否認事件。 サイバー特捜隊IT担当・五島は、防犯カメラの映像がディープフェイク動画だと気付き、 そのコントロールサーバーにクラッキングの痕跡を発見することに成功する。そして、江ノ島署刑事課・加藤は、織田が事件当日に被害者・福原と待ち合わせたバー《オージーヒート》の店長・水谷と、客・中江の証言が嘘であることを突き止める。また、五島は、彼らの狙いが能勢警察庁長官またはギュメット・パリ市警視総監と推察。さらに、夏希は背後に《ディスマス》の存在があると思量されことを黒田刑事部長らに伝える。Xデー当日、襲撃に備え能勢長官とギュメット総監に対する警備が強化されたものの、能勢長官が、夏希たちの目の前で略取されてしまう。しかし、アリシアと冴美率いるがSISの活躍で、能勢長官は無事保護され、《オージーヒート》の店長、客、バイト女店員の3人組が逮捕されたのだった。***残り頁わずかとなったところで、今回も急転直下の一件落着。前巻を読んでから、しばらく時間が経っていたので、事件の背後で《ディスマス》が糸を引いていることに、私は全く思い至りませんでした。でも、今後も色々なところで《ディスマス》は絡んでくるのでしょうね。
2024.09.16
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第20巻が発行されたのが昨年10月。 それから8カ月を経て、今年6月の新刊発行でした。 こうして、お話が続いていくことが、読者にとって一番嬉しいこと。 この先も、ペースが多少遅くなっても、長く続いていってほしいですね。 ***上海出身の実業家で、世界屈指の大富豪・ジウ・ジーフェイの娘・ジウ・イーリン。円生との仲を深めたいイーリンは、10月からの大学院入学を前に、美術について学ぶと共に葵のことを知るため、1か月間『蔵』でアルバイトをすることに。さらに、父・ジウ氏から、高宮宗親が所有する珍しい宝石の調査も依頼されていた。イーリンは、『根付』を通じて高宮との関係を築きつつ、清貴や小松にも相談。その宝石が、中国の元女優・アイリー・ヤンが所有する『サンドロップ』だと見当をつけ、円生の新作『今都』のお披露目パーティーで、高宮自身に確認するが否定されてしまう。そして、ジウ氏の姉・麗明と夫・浩一、妹・珠蘭と夫・博文が会場に現れる。麗明の『人殺しの娘は、父親に取り入るのに必死ね』という言葉に激しく動揺したイーリンは、清貴たちに、自分の母親・ジーリンとジウ氏の正妻・クーチンとの間に起こった事を語り始める。その後、清貴はジウ氏と付き合いの長いアイリーからも話を聞き、クーチンの死に疑念を抱く。そして、ジウ氏の姉妹夫妻にクーチンがジウ氏に買ってもらったという宝石について話し始める。それは、呪いのブラック・ダイヤモンド『ブラック・オルロフ』。これを、さもジウ氏が贈ったように装い、激昂したクーチンを死へと導いた犯人を暴き出す。その一部始終を見ていたジウ氏は、イーリンに母・ジーリンと祖母・ジーファについて明かす。そして、『ブラック・オルロフ』を現在所有しているのは、高宮だったことが分かる。 *** そして今巻は、過去のエピソードに触れる際には、 参考に巻数を入れさせていただきました。(p.300)これは、「あとがき」に記された望月さんによる一文。確かに、あちこちに巻数が示されていました。 「新選組といえば、秋人さん、今度、新選組の映画に出るという話でしたよね?」 「ええ、ちょうど今、撮影中ではないでしょうか」 と葵と清貴が、思い出したように話してる。(※0巻を参照)(p.100) 「京都人スピリット……」 思えば、以前も洗礼を受けたことがあった。 あれは『上洛』に関する話だっただろうか……(18巻を参照)(p.102) どうやら、ここは清貴と円生の出会いの地だったようだ。(※2巻を参照) 葵も思い出した様子で、ああ、と手を打つ。 「ホームズさんがご住職に『深窓の坊』と言われてしまった時ですね」(p.253) 『上海のホテル「天地」でのパーティーでお会いしましたね。 僕はすぐにニューヨークに発ってしまい、ちゃんと挨拶ができなかったのですが……』 あの時か、と小松は大きく相槌をうつ。(※13巻を参照)(p.256) 今回の舞台として書かせていただいた、『壬生寺』、『八木邸』、『京都 清宗根付館』、 それぞれに取材に伺い、『京都 清宗根付館』は一般見学者として拝観させていただき、 『壬生寺』、『八木邸』は大丸京都店の谷口様(※10巻を参照)のご縁で 壬生寺貫主の松浦様、八木邸の八木様をご紹介いただきまして、 直接お話を伺うことができました。(p.301)10巻は、イーリンが初めて登場した巻でもあります。今巻との繋がりがとても深い一冊ですね。
2024.09.15
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マハさんの2017年の作品。 同年の作品には、『サロメ』や『たゆたえども沈まず』がありますが、 2008年の『ランウェイ☆ビート』のような感じで楽しめる作品。 こういう作品もイイですね。 ***『盗まれた名画を盗み返す』謎の窃盗団<アノニム>。そのメンバーは、次の7人。Awesome(オーサム):メンバー最年少の天才エンジニアNego(ネゴ):オークション会社「サザビーズ」の花形オークショニアOblige(オブリージュ):ラグジュアリーブランドのオーナーでファイン・アートの収集家Neverness(ネバネス):フリーランスで活躍する世界屈指の美術品修復家Yummy(ヤミー):ブルックリンのギャラリー経営者Miri(ミリ):香港の巨大美術館のメイン・アーキテクトを務める建築家Epoch(エポック):イスタンブールのトルコ絨毯店経営者で美術史家。Jet(ジェット):IT長者で世界トップ10のアートコレクター。アノニムのボス。今回のターゲットは、ジャクソン・ポロックの『ナンバー・ゼロ』。ロレンダ・ボシュロムが所有するこの作品が、オークションに出品され、サザビーズ香港のメイン・セールの超目玉作品として登場することに。この作品を、誰にも気づかれずに贋作にすり替えよというのが、ジェットからの指令。メンバーたちは、難読症の高校生・張英才に『ナンバー・ゼロ』を描かせると、それをオークションで高額落札された『ナンバー・ゼロ』とすり替えることに成功。さらに、香港文化大学講堂で行われた学生決起集会で見事なスピーチを披露した張英才の背後に、本物の『ナンバー・ゼロ』を高々と掲げたのだった。 ***『オーシャンズ11』を彷彿とさせる、スリリングな展開。紙幅があれば、もっとお話を広げたり、深めたり出来そうな感じがしました。これで終わってしまうのは、もったいないなぁ。ぜひとも、続話を書いて欲しいです。
2024.09.08
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日本版刊行についても様々な議論や批判が起こり、一度は発売中止に。 しかし、今年4月に産経新聞出版より現在のタイトルで刊行されました。 どの項目についても、丁寧な取材に基づいて事細かく記述されており、 読み進めるのに随分時間がかかりましたが、読むべき価値のある一冊でした。 本著で述べられていることのポイントについては、 岩波明さんによる「解説」を読めば、凡そ理解出来るようになっています。 本書に記載されているように、米国のトランスジェンダーの推進者、活動家たちは、 当事者本人が「性別違和」を自覚し認識していれば「性別違和」と「診断」され、 希望があれば、その後の医療的処置を受けることは当然の権利であると主張している。 (p.328)この後、岩波さんは、「本書に登場したルーシーや他のトランスジェンダーの少女たちは、長期経過という視点から言うと、思春期になって性別違和を自認しているので、本来の性別違和と診断することは難しい。」と述べています。素直に頷くことの出来る指摘でした。 本書の著者によれば、トランスジェンダーの急増という状況を引き起こした原因として、 教育現場と精神保健の問題をあげている。 多くのハイスクールや大学では、性別違和を訴える少女を擁護し、 時には親に知らせることなく、男性名の使用を認め、 積極的にホルモン療法や手術に誘導することも行われているという。 また多くのケースでは、精神保健の専門家(医師やカウンセラー)も、 当事者の訴えをそのまま受け入れ、「性別違和」のお墨付きを与えている。 医師のお墨付きを得た患者は、思春期抑制のためのホルモン療法やテストステロンの投与、 さらにトップ手術にまで至ってしまう。(p.328)著者による本文では、このあたりの状況について逐一詳細に記しています。公立校で5年生の担任が、親だからといって望むものが常に手に入るとはかぎらないと説明し、「親が学校に来て、『うちの子をそんな名前で呼んでほしくありません』と言ったとしても、 親としての権利は、子供が公立校に入学した時点でなくなるのです」(p.125)という発言は驚き。また、女性から男性へ医療処置で性別移行した有名なトランスセクシャルによる「16歳で乳房を取り去って、ホルモン投与を受けて、10年後に『やっぱりやらないほうがよかったんじゃないか』と悔やむなんて想像できるか?考えるだけでもいたたまれない」(p.292)という言葉には、強い衝撃を受けました。 現在のトランスジェンダーの問題は、医療的な問題よりは、 差別と少数者の権利擁護の問題という側面がクローズアップされている。 これは米国でも、日本でも同様である。 そのため、どうしても、社会的、あるいは政治的な視点から語られることが多く、 反応も先鋭化しやすい。この本の著者に対しても厳しい批判が行われた。 しかしながら、この問題は、本来医療の問題である。 多数の症例を集めた客観的なデータに基づいて性別違和の定義を確立し、 標準的な治療方針を得ることが何よりも求められている。(p.332)最後の3行については、頷くしかありません。また、トランスジェンダーをめぐる問題と「偽の記憶」あるいは「抑圧された記憶」に関する問題との類似性も興味深いものでした。『抑圧された記憶の神話』も、機会があれば読んでみたいと思います。
2024.09.08
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副題は「商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのからくり」。 著者は、SMG税理士事務所・代表税理士の菅原佑由一さん。 とても売れていますが、カスタマーレビューの中には微妙なものも。 私もタイトルに強く惹かれ、今回読んでみることにしました。 ***まず、タイトルに関する記述は、「1-1 タピオカ屋はなぜ流行ったのか?」で早々に登場します。その中に「タピオカ屋はどこへいったのか?」という節があり、次のように書かれています。 消えたタピオカ屋がどこに行ったかというと、 ある店は唐揚げ店になり、ある店はマリトッツォの店に変わり、 ある店は焼き芋の店になりました。 イニシャルコストを徹底的に抑えることで短期で利益を回収し、 ブームが去ったらすぐに見切りを付けて撤退する。 この変わり身の早さを活かして、消えたタピオカ屋は次のブームに乗り換え、 新たな収益を生み出しているのです。(p.21)この部分は「イニシャルコスト(開業にかかるコスト)」が、キーワードだと思いますが、そこに関してはあっさりと記述されているだけで、深掘りされることはありませんでした。これは、本書が40ものテーマをわずか191頁の中で扱っていることに起因しているのでしょう。数多くの図やグラフ等の資料が掲載されていますが、それらへの言及もほぼありません。また、「4-8 容姿端麗とは言えないアイドルがなぜ売れるのか?」というテーマについては、「熱心なファンが収益を生む」「応援する喜びを実感」の2節に分け記述していますが、「容姿端麗とは言えない」という部分に関する直接的な回答は見当たりません。まぁ、この部分を深掘りすると、このご時世、色々と問題が発生しそうではありますが。かつて『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を読んだ時のような、ワクワク感や満足感は、あまり感じることが無いまま、読了してしまいました。
2024.08.13
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私にとって、大変興味深いテーマを扱った一冊。 なので、スイスイ読み進めることが出来ると思いきや、 読んでいても、書かれていることがスッと頭の中に入って来てくれない…… 最後まで、頁を捲る速度が思うように上がってくれませんでした。 「何故だろう?」と、ずっと考えながら読んでいましたが、 「おわりに」に至って、その理由と思われることに気付きました。 今回もまた「親ガチャ」という流行語に便乗して早く出版したいということで、 山路さんにお手伝いいただきました。 山路さんご自身が、前著の時以来このテーマにすごく興味を持ってくださり、 編集者の渡邉勇樹氏と共に、遺伝と能力と教育を巡るさまざまな質問を 次から次へとぶつけてきてくださいました。 それに応えようと、 行動遺伝子学の最近の論文や自分自身の研究で示された科学的根拠だけでなく、 まだにわか勉強中の脳科学の知見、さらには個人の経験や日頃の思いなどを総動員して、 楽しくディスカッションさせていただいたものを、 質疑応答の形でまとめていただいたのが本書です。(p.248)著者とされる人に口頭で話をしてもらい、それを文章にまとめ出版することは、決して珍しいことではないでしょう。が、上手くやらないと何だか要領を得なかったり、読みづらいものが出来上がってしまうことも。テープ起こしをした経験のある方なら、分かっていただけるのではないでしょうか?
2024.08.12
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今巻は、3年前の”東の海”「ゴア王国」コルボ山からスタート。 そこには、16歳のルフィを見つめるドラゴン、傍らにくま。 その頃、ソルベ王国には、父の手紙を待ち続けるボニー、傍らに王太后。 海軍科学班第8研究所には、手紙を書き続けるくま、傍らにベガパンク。 9歳の誕生日から半年、ボニーはソルベを脱走、父とニカを捜すため海賊団に。 魚人海賊団アーロン一味を撃破したルフィーたちは、偉大なる航路・スリラーパークや、 シャボンディ諸島でのエース公開処刑の際、くまの圧倒的な力を目の当たりにすることに。 そして、ルフィにニカの姿を重ねるくまは、未来への希望を託し、自我を喪失したのだった。父の過去を全て見たボニーは、サターン聖に襲い掛かかるも捕えられてしまう。そこにくまが現れボニーを救出、サターン聖に一撃を見舞うが直後に完全停止。サターン聖がバスターコール発動命令を下す中、ボニーの呼びかけでバシフィスタは海軍を攻撃。そしてルフィが、サターン聖、黄猿と対峙する中、サンジはベガパンクと共に脱出を図る。その瀕死のベガパンクが、念波を用い10分後に世界に向けてメッセージを発することに。しかし、ルフィの前にはマーズ聖、ウォーキュリー聖、ナス寿郎聖、ピーター聖が現れる。五老星の攻撃にバシフィスタは次々と機能停止、が、対峙するゾロとルッチに新たな動き。そして、ルフィのもとには、赤鬼のブロギー、青鬼のドリー率いる巨兵海賊団が駆け付けてきた。 ***バーソロミュー・くまの、これまでの一連の行動の背景を明らかにしつつ、娘・ボニーへの溢れんばかりの愛情を描いたお話は、とても見ごたえがありました。そして、ブロギーとドリー、懐かしい!!サンジとゾロも、それぞれにとってもカッコイイ場面がありました。さて、気になったのは、黒ひげ海賊団のカタリーナ・デボンとヴァン・オーガーに、カリブーが、古代兵器「ポセイドン」と「プルトン」の情報を示しながら、自らを黒ひげの子分にしてくれと売り込んだシーン。今後の新たな展開を生みそうです。
2024.08.05
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今回の主役は、根岸分室室長・上杉輝久。 夏希の名前が登場するのは、お話が始まって半分以上を経た157頁になってから。 ということで、今回はサイバー特捜隊による、サイバー犯罪への対応ではなく、 黒田部長の密命を受けた上杉が、らしさ全開で犯人に迫っていくお話です。 *** 『1週間以内に神奈川県警にとって拭いがたい恥辱となるような大きな事件が起きる。 このネタを県警に買ってもらいたい』(p.8)ミスターZと名乗る男から、刑事部長に伝言するようにと刑事部にタレコミ電話が。このX計画を明らかにすべく、黒田部長の命で上杉は本牧山頂公園駐車場に向かう。しかし、武器密売人・ミスターZは何者かの銃撃を受け絶命、上杉も銃撃されることに。パトカーが駆け付け、上杉は難を逃れたものの、本牧署警察官に逮捕されてしまう。誤解が解けた上杉は、X計画の内容を掴むため、ミスターZこと日下部の周辺の捜査を開始。刑事部監理官・佐竹や暴力団対策課・堀の協力で、街金社長・山川に辿り着くと、提供させたデータから、日下部が拳銃を売り渡していた会社がラスダックであることが判明。さらに、警備部監理官・小早川から、ラスダック監査役が攻撃している人物の情報を入手。それは、中央アフリカ共和国出身で、かつてノーベル文学賞候補になったエンゾ・マンベレ博士。マンベレ博士は、犯罪組織《ディスマス》の援助行為を偽善だと真っ向から批判しており、明後日には横浜で開催されるシンポジウムで基調講演を行うことになっていた。上杉は、X計画を《ディスマス》の差し向けた狙撃犯によるマンベレ博士暗殺と推測する。日下部狙撃犯が、スナイパー《グレーシャーク》と推察されるとの情報も佐竹管理官から届き、上杉は、小早川、堀、夏希の協力を得ながら、マンベレ博士の警護に当たることになる。 ***夏希の提案が功を奏し、さらに定番のアリシアの大活躍もあって、何とか《グレーシャーク》の逮捕に成功します。 「上杉さん」 夏希は上杉に駆け寄っていって、ひろい胸に抱きついた。 火薬の臭いが鼻をついた。 「おい、よせよ」 上杉は心底迷惑そうな顔で答えた。 「あ、すみません」 あわてて夏希は身を離した。 自分の衝動的な行動に、夏希は頬を熱くした。(p.256)やはり、上杉たちが活躍するお話の方が、スリリングで面白くなる感じですね。また、夏希が神奈川県警に戻る日が訪れるのでしょうか?
2024.07.28
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京都市営地下鉄の利用促進プロジェクト「地下鉄に乗るっ」。 本作はそのキャラクターを主人公とし、望月さんが書き下ろしたもの。 随分前に購入し、ずっと机の上に乗っていたものを、今回やっと読み終えました。 既にシリーズ全3巻が発行されているので、続けて読んでいきたいと思います。 ***『蚕の社』と呼ばれる神社の近くにある『太秦荘』という明治に建てられてた洋館。10年前、そこで暮らしていた太秦萌、松賀咲、小野ミサは、現在別々の高校に通う2年生。夫々に届いたハガキに導かれ、3人は地主神社『えんむすび祈願さくら祭り』で再会を果たす。後日、3人は太秦荘に集うことになり、そこにミサの兄・陵とその友人・藤沢翔真も加わる。10年前、咲とミサが太秦荘を離れる前日、入居者と大家一家で花火を楽しんだ。しかし、火の不始末から離れで火事が起こり全焼、住んでいたおばあさんは無事だったが、翌日、3人には火事の記憶が全く残っておらず、以後、母親たちも疎遠になってしまっていた。その話を萌の母・華から聞いた陵と翔真は、当時下宿していた4人の独身女性に疑念を抱く。そして5月5日、当時の関係者と既に亡くなっていたおばあさん・尾崎林子の息子・洋一、さらに翔真が一堂に会し、当時のことを振り返る中、火事は、林子の隠し財産を狙った犯人が、証拠隠滅のために火を放ったためだったと判明。そして、その犯人に犯行を促した人物も明らかとなっていく。 ***3人が記憶を失っていたのは、「催眠療法」のせいでした。『わが家は祇園の拝み屋さん』や『京都烏丸御池のお祓い本舗』の世界観の中なら、「まぁ、ありかな」ということになるのでしょうが……『京都寺町三条のホームズ』は、6月に新刊が発行されていたので、読んでみようと思います。
2024.07.21
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7月19日、米国では2700便以上、世界全体では航空便の約5%が欠航。 スタバではオンライン注文ができなくなり、テスラは生産ラインを一時停止。 病院で手術を受けられなくなったり、荷物の配達が遅れたりもしたとのこと。 前巻のお話が頭を過りましたが、今回はソフトウェア更新などが原因のようです。 ***サウンドウインド社のネットワーク・プレイヤー《歌いーぬ》に異常動作が発生。すると、サイバー特捜隊にアルマロスを名乗る犯人からメッセージが届く。夏希はアルマロスにメッセージを送信、対話を試みるが返答はない。そして、大手通販サイト・ラクソンの物流倉庫で搬送ロボットが暴走。再び対話を試みた夏希に対しアルマロスから返信が届くが、その正体はつかめないまま、新たに配膳ロボット《イヌボット》が各地で異常動作を起こす。その結果、SNS上はサイバー特捜隊に対する非難で溢れ返ることになってしまう。そんな中、夏希は、かつて石田に教わった「株の空売り」に思い当たる。そして、サウンドウインド社等3社の株式を不自然に売買している2法人を発見。その両者の代表取締役は、いずれも藤沢市辻堂東海岸に住む糟屋武志という男だった。織田の命で、そこを管轄区域とする江の島署の加藤巡査部長が、北原巡査と共に捜査を開始。その家に住んでいた津川香澄とその息子・健太郎に辿り着く。そして、公衆電話から夏希のスマホに電話がかかってくる。ツガワと名乗る女性は、子どもを人質にとられ脅されているという。女性が残した「ハンドラ」という言葉から、ハンドーラ公国公子の表敬訪問に辿り着き、夏希は織田と共に、公子が搭乗する羽田発新千歳空港行きの旅客機に乗り込む。 ***その後、搭乗した旅客機がクラッキングされ、その管理権限を奪われてしまいますが、トイレにこもる津川香澄を夏希が説得、クラッキングを解除させることに成功します。また、加藤は、北原の他、石田、沙羅、小川、アリシアと共に、アジトを突き止め、糟屋らを逮捕すると共に、健太郎を無事救出したのでした。今回のお話では、加藤と北原が捜査を一歩一歩進めていくシーンが、私としては、一番面白かったです。サイバー特捜隊による、サイバー犯罪への対応だけを描いていては、やはり全体的に抽象的で、何となくピンとこないお話に終始してしまいそう……
2024.07.20
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2019年4月に日本製鉄社長に就任すると、 2024年3月にはその座を退き、会長CEOとなった橋本英二さん。 2020年3月期の連結決算では、過去最大の4315億1300万円の最終赤字を記録し、 2021年3月期までは、4期連続の営業赤字に沈んでいました。 しかし、2022年3月期に黒字に転じると、2023年3月期は6940億円の黒字に。 (2024年3月期は5493億円の黒字、2025年3月期は3000億円の黒字の見通しとのこと) 70年の歴史を持ち、社員11万人、総資産10兆円という日本を代表する大企業が、 見事なV字回復を達成した背景を、本著は一つ一つ明らかにしていきます。 ***「第1章 自己否定から始まった改革 5つの高炉削減、32ライン休止の衝撃」では、「2年以内のV字回復」「上からの改革」「論理と数字がすべて」を掲げ始まった高炉休止を、「第2章 『値上げなくして供給なし』 大口顧客と決死の価格交渉」では、顧客至上主義から脱却する強気の価格交渉と、全国16拠点にあった製鉄所の6エリア集約を描く。「第3章 異例のスピードで決断 インドで過去最大M&A」では、2019年の欧州アルセロール・ミタルと組んだインド鉄鋼王手エッサール・スチールの買収劇を、「第4章 動き出すグローバル3.0 『鉄は国家なり』の請負人に」では、「メード・イン・ジャパン」の拘りを捨て、世界各地で一貫生産を推し進める様子を描く。「第5章 国内に巨額投資の覚悟 高級鋼で勝ち抜く『方程式』」では、ハイテン(高張力鋼)のライン新設(40年ぶり)と、素材メーカーにしかできない市場創造を、「第6章 脱炭素の『悪玉』論を払拭せよ 鉄づくりを抜本改革」では、カーボンニュートラルに向けた設備投資と、「水素還元製鉄」に向けての動きを描く。「第7章 『高炉を止めるな!』 八幡の防人が挑む改革後の難題」では、余剰能力削減後も、生産の空白を生まない強靭な操業体制を構築するための取り組みが、「第8章 原料戦線異状あり 資源会社に巨額出資」では、持続可能な鉄づくりのため、初めて打って出たカナダの資源会社への出資の経過が描かれる。「第9章 橋本英二という男 野性と理性の間に」には、橋本さんの幼少期から現在に至る経歴と、著者によるインタビューが掲載されている。 *** このままでは確実に潰れるという状況だったんです。(中略) まさにそんな中で、本当に自分が社長に就いて再建できるのかと思いました。 ただ、受けた以上はやるしかない。 決めたからには2年でやると覚悟しました。 現実的に考えて、当時のキャッシュアウトの状況が2年続いたら 倒れるところだったんです。(p.271)この言葉が、関係者の誰もが、当時抱いていた実感なのでしょう。崖っぷちに追い込まれ、もはや一刻の猶予も許されない絶体絶命の危機。だからこそ、次のようなリスクがあることは十分承知の上で、橋本さんの社長就任と相成った。 橋本の就任を不安視する者たちが指摘したのは、 強力なリーダーシップと表裏一体にある厳格さがリスクになることだ。 橋本は仕事について自身に厳しいだけでなく、他者にも厳しい。 その厳しい言動が各方面に及べば、 求心力を保てなくなる可能性があるとの見方だった。(p.32)まさに劇薬ですが、周囲の懸念を跳ね除けて、見事にV字回復を達成。ただ、劇薬の効果は、当人が社長に就任している時期だけには収まりません。それは、次期以降の社長が就任した後も、なお大きな影響を及ぼし続けることでしょう。日本製鉄については、今後その推移をまだまだ見守り続ける必要があると思います。
2024.07.13
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スミスに監禁された夏希と織田は、何とか倉庫からの脱出に成功。 倉渕駐在所で休憩後、佐野が運転するパトカーで再び長野県小鍋を目指す。 夜明けを待って、長野県警の十数人の私服警察官と共にアジトに突入し、 李晓明と二人の男を逮捕するが、彼らはスミスとは無関係の存在だった。 サイバー特捜隊は、スミスが警察官あるいは警察官経験者の可能性が高く、 このリアルスミスとは別に、クラッキングを行うサイバースミスがいると推測。 そして、サイバー・セキュリティ・コンテスト・ジュニア入賞者の調査を開始する。 しかしスミスは、夏希と織田を監禁した写真をSNSにアップ、次のようにコメントした。 - 羽田空港、新幹線、携帯電波、交通系ICカード、銀行ATM、 5月10日から今日まで私はいくつもの偉大なシステム障害を引き起こした。 すべてはこの情けない織田信和率いる警察庁サイバー特捜隊に対する挑戦だ。 昨夜、某所に彼を拘束した記念写真を皆様にお送りする。 byエージェント・スミス(p.185)その後、一昨年サイバー・セキュリティ・コンテスト・ジュニアで準優勝した10歳の野村直人が昨春から消息不明となっており、その父・野村隆行が元警察官であったことが判明。さらに、リアルスミスが利用していた可能性のある車両が見つかり、夏希、織田、麻美は、七里ヶ浜駅で加藤、小川、アリシアと合流、海の見える家へと向かう。 ***交通事故で車椅子生活となった息子・直人を支えるため、父・隆行は警察官を辞めていました。そして、息子に一生不自由しない環境を整えるため、息子の能力を示すカタログを作り、世界中の巨大クラッカー集団に、その能力を買ってもらおうとしていたのでした。途中から様子がおかしかった妻木麻美は、がんで亡くなった隆行の妻、直人の母の実妹でした。2巻に渡り繰り広げられた今回のお話では、サイバー犯罪の恐ろしさが随所で語られており、これから夏希が活躍することになる新しい舞台のプロローグとなっています。『デンジャラス・ゴールド』でも、クラッキングをテーマとする事件が描かれていましたが、作者の興味の方向が、ここに来て大きくそちらに舵を切ったということなのでしょうね。
2024.07.13
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シリーズ13弾は、新た展開の始まり。 夏希は、これまで勤務していた神奈川県警察科学捜査研究所から、 汐留の警察庁関東管区警察局サイバー特別捜査隊への異動を命じられる。 その隊長は、織田だった。 そして、開設されたばかりのサイバー特捜隊には、既に犯行声明が届いていた。 エージェント・スミスを名乗る犯人からアンダーソン君へ向けての予告通り、 大手三行のシステム障害に続き、交通系電子マネーでもシステム障害が発生。 夏希はかもめ★百合として指定アドレスにメッセージを送信、犯人との対話を開始する。さらに、携帯大手三キャリアでシステム障害が発生するが、サイバー特捜隊がマルウェアの駆除に成功し、スミスの使用回線も明らかになる。そして、その契約者・李晓明のいる長野県小鍋へと、織田と夏希は向かうが、スミスから新たな犯罪予告が届くと、二人が乗った新幹線は停車してしまう。やむを得ず、二人は安中榛名駅で下車するが、安中中央署警備課の警官に逮捕される事態に。それが誤認逮捕だったと判明後は、地域課の佐野が運転するパトカーで長野県小鍋へと向かう。その途上の山中で、佐野がバイク事故で倒れている男を発見、救助しようとするが、佐野はその男に倒され、夏希と織田は倉庫のような建物の中に監禁されてしまう。 ***この男こそが、スミス。そしてスミスは、織田と夏希を手錠やナイロンロープで椅子に拘束し、時限爆弾を作動させると、扉を南京錠で施錠し、立ち去ってしまったのでした。全く予想していなかった巻またぎで、お話は次巻へと続きます。
2024.07.12
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夏希の家に、福島1課長から宅配便が届く。 バラエティショップ《ファンタジアランド》から直送されたもので、 中には、着せ替え人形《ジュリエンヌ》が。 身に纏っているのは、夏希が鶴岡八幡宮舞殿で歌った時の衣装。 送り主の名前も住所も、実は偽りであったと判明するが、 この後、2度に渡って《ジュリエンヌ》は送り届けられることになる。 そして、その都度、身に纏う衣装が減っていく。 夏希は、福島や織田に相談するが、警察による捜査開始には至らない。そして、荒崎海岸に元衆議院議員・宍戸景大の遺体が漂着。オレンジ☆スカッシュの小野木ゆんに性的暴行を働き、あの事件の契機を作った男。そして、エクスカリバーと名乗る者が、宍戸殺害について大手SNSにメッセージを投稿。そこには、この世に害悪を及ぼす悪人どもに、第二の天誅を下すとあった。夏希は、この投稿にリプライをつけ対話を試みるが、正義の実行を繰り返すばかり。一方、有力参考人として、宍戸に飲食店を潰され行方不明となっている長沼宗雄が浮かび上がる。この事件の捜査本部を仕切る40代前半女性ノンキャリア警視・芳賀管理官は、夏希や小早川の懸念を無視して、長沼を追うことに専念する方針を打ち出す。オレンジ☆スカッシュ事件関連を無視することに不安を感じた夏希は上杉に相談、捜査1課の小堀沙羅巡査長と共に、上杉のランクルで小野木ゆんに話を聞きに行く。そこで浮かび上がったのが、オレンジ・モンキーズを名乗る男性ファンたち。一行は、彼らがオレンジ☆スカッシュを招いてライブを開催したレストラン《リフレイン》へ。店長・酒井から、オレンジ・モンキーズについての情報を得た上杉は、翌日からは単独行動。一方、捜査本部に戻った夏希には、エクスカリバーからDMが届き、明日第2犯行を行うと予告。さらに、帰途についた夏希が、長沼宗雄の遺体発見の報を小早川から電話で受けた時、オレンジ・モンキーズの4人に拉致・監禁されてしまい、またしても絶体絶命の窮地に…… ***オレンジ・モンキーズは、オレスカをつぶした宍戸景大を恨み、殺害していました。しかし、その殺害現場を酒井に見られてしまい、彼に脅されて長沼も殺害。酒井は、過去の死亡事件について長沼から恐喝されていたのです。そして、ジュリエンヌを夏希に送り付けてきたのもオレンジ・モンキーズの一員でした。彼らは、酒井と夏希を戦わせることで、二人とも死に至らせるように仕向け、自分たちの犯行を隠蔽しようとします。しかし、今回もアリシア、続いて上杉、加藤、石田、沙織が現れて、何とか危機を回避。その後、捜査本部では上杉が芳賀に次の言葉をぶつけたのでした。 ひとつだけあんたのために言っとく。 この刑事部一の頭脳は真田だ。 経験はあんたのほうが勝っているだろうが、 真田の意見は素直に傾聴したほうが身のためだぞ。 そうでないと、あんたの大事にしている出世の道が危うくなる。(p.257)上杉の夏希に対する評価の高さ、そして愛を感じます。
2024.07.07
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スタートは、夏希と小川祐介の鶴岡八幡宮への初詣シーンから。 しかしその最中、爆破事件が鎌倉市内で発生、小川は現場へと向かう。 この北条義時法華堂跡とその後背地で元日に発生した事件について、 犯人と思われる人物から、県警相談フォームに脅迫文が投稿されてくる。 - 松が明ける7日までの間に、 恨み重なる北条氏ゆかりの鎌倉の寺を次々に爆破する ワダヨシモリ夏希は、かもめ★百合として犯人にネット上で呼びかけると共に、現場を観察。犯人からの新たなメッセージに対し、さらに呼びかけると返信が届く。対話の中で、犯人はかもめ★百合が鶴岡八幡宮舞殿で歌う様子をテレビで生中継しろと要求。拒否すると、多数の人が生命を失うような爆発を起こすと脅迫するのだった。長官官房の指示で、夏希は犯人の要求通り歌を歌うが、東勝寺跡で爆発が発生。犯人は、かもめ★百合がマスクをしていたことが気に入らず、新たな要求を突きつける。それは、鎌倉署地域課の男性警官5人で、アイドルグループの曲を歌い踊ることだった。しかし、その要求を果たしても、今度は鎌倉文学館敷地内で爆発が発生してしまう。犯人が、次に要求してきたのは、捜査本部の警部以上の最低3人でパラパラを踊ること。福島1課長、佐竹管理官、小早川管理官、織田理事官が踊るが、さらに新たな要求が。それは、松平家由本部長が舞殿で土下座し、それをテレビで生中継すること。拒否すれば、鎌倉の大事な国宝や文化財がいくつも灰塵に帰し、死人が出ると脅迫する…… ***この後、小川とアリシアによる捜査から、犯人のアジトが判明。小川、さらにその救助に向かった夏希は、絶体絶命の危機に陥りますが、そんな中でも、夏希は犯人と対話を続け、彼の心の闇を明らかにしていきます。そして最後は、夏希の火事場の馬鹿力的反撃と、SISの突入によって事件は終息したのでした。さて、今回はこれまでとは違って、犯人がその姿を現したのは、残り頁が238/279になってから。これでは、流石に予想のしようがありません。まぁ、こういうパターンも、今後は増えてくるのかもしれません。
2024.07.06
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車に撥ねられた五条香里奈は、横浜市立みなと赤十字病院霊安室で眠っていた。 かけつけた上杉は、北海道から遺族がやって来るまではそばにいようと決めた。 そこへ、香里奈と同じ職場の神奈川県警の人々が現れ、線香を上げ、花を供えた。 人々は沈痛な面持ちだったが、事故の詳しい状況を尋ねる人間はいなかった。 香里奈の上司・鍋島刑事部長部長、藤堂高彦捜査2課長と同課の安倍だった。その頃、文部科学副大臣・柴田議員は熱心にある政策を進めていた。それは、山川隆信博士発明の《クリア・プラズマ・アクア》というアルカリイオン水精製機を、全国に3万校近くあるの公立小中学校と特別支援学校に設置しようというもの。そのパイロット事業が神奈川県下の県立高校で行われていたが、やがて頓挫することになる。事業推進中、この事業を担当していた県教委教育局指導部専任主幹・野村らは、事業者から依頼を受けたブローカーから、違法な接待でがんじがらめにされていた。野村は、一人で県警の捜査2課に相談に行き、その担当者が香里奈だった。その後、野村は丹沢にトレッキングに出かけた際、崖から足を踏み外して滑落死する。香里奈を撥ねたのは荒木重之ではなく、その戸籍に背乗りしていた臼杵速人だった。吉弘組は荒木の戸籍を皆川組から買い、ニセモノの荒木をブローカーの津田信倫に売り渡した。臼杵は香里奈を撥ねた後、皆川組に自殺を装って殺されてしまう。そして10年後、津田信倫は、上杉殺害を吉弘組に依頼するが失敗、自殺してしまう。 ***捜査に行き詰った織田と上杉は、夏希に相談を持ち掛けます。(残り頁、190/253になってから、ようやく作品タイトルを背負う主人公の名前が登場!)そして、夏希のアイディアが功を奏し、見事に事件の黒幕に辿り着いたのでした。今回も、登場した人物がちゃんと事件に繋がっており、犯人の予想は容易でした。残り頁数極小になってからの急転直下の一件落着劇も、もはや定番かな。というわけで、もう少し時間をかけて描かれると思っていた上杉と織田の二人が愛した香里奈の死を巡るエピソードは、たった1巻で終了。そして、上杉と織田の間で、夏希を巡る攻防が本格的に始まってしまいましたが、その変わり身の早さには、ちょっと……という感じもします。(まぁ、死後10年も経ってますけど)
2024.06.29
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『サル化する世界』以来、久しぶりに内田先生の著作を読みました。 単行本は2020年刊行。 『GQ JAPAN』という月刊誌に2016年7月から2020年6月まで掲載していた 「人生相談」コーナーをまとめたものです。 ですから、最初のものはもう今から8年近く前の話になります。 東京五輪もコロナもまだ始まっていない頃の話です。(p.3)これは本著冒頭、「文庫版のためのまえがき」の一部です。内田先生がこの後述べているように、今となっては「そんな昔の話」です。でも、安倍政権を強く批判し、コロナ対応に疑問を呈し、東京五輪開催には反対……その当時、内田先生が社会をどうとらえ、どう考えていたかが、よく伝わってきました。文庫版特別付録対談として掲載されている「心地よい、新しいコモンについて語ろう」では、東京大学大学院准教授の斎藤幸平さんをゲストに迎え、「日本共産党」や「マルクス」についてを皮切りに、大いに語り合っています。その中で、内田先生は次のように述べています。 コミューンには共有地(コモン)があって、人々は自由にそこにアクセスして、 共同体の富を分かち合うことができた。 貧しい人でも、共有地で牧畜したり、魚を釣ったり、狩をしたり、 果樹を採取することができた。 ですから、「コミュニズム」という言葉を採択したときには、 マルクスには帰趨的に参照すべき原点としてのコミューンというものが はっきりイメージされていたと思うんです。 その現代的形態をどうやって創り出すか、 それが「コミュニズム」の課題だったんだと思います。(p.290)それに先立って、「まえがき」では次のようにも述べていました。 僕がこの本で訴えている「コモンの再生」は、 思想的には「囲い込み」に対するマルクスの 「万国のプロレタリア、団結せよ」というアピールと軌を一にするものです。 グローバル資本主義末期における、市民の原子化・砂粒化、血縁・地縁共同体の瓦解、 相互扶助システムの不在という索漠たる現状を何とかするために、 もう一度「私たち」を基礎づけようというのです。(p.15)こういった内田先生の現在の立ち位置をしっかりと踏まえたうえで、本著は読まれた方が良いかと思います。
2024.06.29
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本寒川町倉見、藤沢市打戻、横浜市瀬谷区瀬谷町で、次々に小規模爆発が発生。 夏希は、SNS上に犯行メッセージを投稿したハッピーベリーへの接触を試みます。 捜査には、捜査一課情報係巡査部長・別所美夕が夏希の助手として加わることに。 その右手薬指には、ピンクオパールとシルバー925の素敵な指輪がありました。 やがて、夏希は爆発発生場所がどれも新駅開設予定地周辺だと気付きます。 しかし、第4の爆発は警備態勢を敷いた村岡新駅ではなく、平塚市大神で発生。 夏希は加藤と共に、ハッピーベリーのアカウント契約者・村井貞雄の足跡を追いますが、 彼は水沢村の実家で既に白骨化していました。夏希は、ハッピーベリーが、不動産開発事業において愛する誰かを自殺に追い込まれ、その恨みを晴らすため、今回の事件を起こしたのではないかと推理します。そして、加藤からはアパート経営詐欺の被害者・赤川元文が息子と共に自殺したとの情報が。元文は、助手席に息子を乗せたまま、宮ケ瀬湖にクルマで飛び込んだのでした。そして、ハッピーベリーは第5の犯行予告をマスコミに向け発信。昨年の春、元文の息子で彫金家の赤川元哉が藤澤北署に相談に行っていたこと、さらに、その担当者が別所美夕だったことを、石田からの情報で知った夏希は、アパート経営を持ち掛けた藤南開発・山川安信が住む大庭へ、織田と共に急行します。 ***このシリーズでは、登場した人物はほとんど何らかの形で事件に繋がっていることから、今回の犯人も、登場した時点である程度予想出来たのではないかと思います。それにしても、前巻同様、残り頁数極小になってから、急転直下の一件落着劇。これも定型になっていくのでしょうか?さて、本巻の序章と終章には、友人である織田と上杉がそろって登場。次巻からは、二人が愛した五条香里奈、その死を巡るお話が始まりそうです。
2024.06.29
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シリーズ第8弾は、前巻のお話の続き。 2020年9月2日、絶体絶命の危機に陥った夏希のもとへ、何故上杉が現れたのか? その経緯が、2020年8月19日に遡って、記されていきます。 特別捜査でフランスに出国した北条直人は、5月17日以降消息を絶っていました。 織田と上杉は、2020年8月21日、北条の行方を追ってパリへと向かいます。 そこで、贋作を扱う詐欺師のブリュノ・レジェに会い、 8月22日に、レジェから紹介されたマフィアのボス・シモネッティにミラノで会い、 8月23日に、モロッコのメルズーガで、ロシアン・マフィアのムラノフに会い、 8月28日に、サンフランシスコで香港マフィアの盧承徳に会い、 9月1日に、かつて盧承徳の部下だった周天佑に横浜中華街で会います。行く先々で、これまでにはなかった生命の危機に瀕しますが(まるで『高校事変』のよう)、それらを命からがら切り抜け続け、9月2日、織田と上杉は遂に北条と再会を果たします。そして、二人は北条からの連絡で廃業ホテル、サテン・ドール店奥のアジトへと急行。上杉が辿り着くと、《ディスマス》のティファニー・ヤンが夏希に銃口を向けていたのです。上杉と織田は、救出した夏希、小川、アリシアと共にティファニー・ヤンを車で追います。そして、双方の車が停止して車外で対峙すると、北条がティファニーに銃口を向けます。しかしその時、CIAのウィバーらが現れて、ティファニーと北条、仲間の大男を射殺。さらにトップシークレットを知りすぎたとして、全員死んでもらうと宣言したのでした。 ***この後、ミーナがウィーバーに対し、取引を持ちかけます。それは、ダムを襲うクラッキングプログラム《フロウ》の暗号キーを提供するかわりに、全員の殺害をやめるよう要求するもので、ウィバーはそれに応じる姿勢を見せます。すると、ミーナは《フロウ》そのものを、世界中から消滅させてしまったのでした。ただ、このあたりの展開は、少々不可解で戸惑ってしまいました。ミーナも夏希たちも、この場を何事もなく立ち去ることなんか出来るの?ウィバー、上杉に殴られっぱなしで、それで本当に終わる?アサルトライフルを持っている特殊部隊の4人が、何もしないなんてあり得る?読み進めていくうちに、残りページ数がどんどん減っていき、「ひょっとして、さらに次巻に続くの?」と焦っていたら、あれよあれよという間に急展開、ちゃんと今巻でお話は終結しました。でも、3冊分ぐらいかけて、もう少し丁寧に描いた方が良かったような気も……。
2024.06.23
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副題は「弦楽器奏者の現在・過去・未来」。 著者は『アルゲリッチとポリーニ』等の著作がある本間ひろむさん。 ピアノはその美しいキーを指で叩くだけできれいな音が出る。 しかし、ヴァイオリンはそうはいかない - 。(中略) しかも、ヴァイオリンはギターのようにフレットがあるわけではないので、 音程をキープするためには正確な位置を指で押さえる必要がある。 その草木も生えていない石ころだらけの場所からスタートして、美しい音を出し、 音程をキープし、豊かな音楽を創り出すまでどれだけの時間がかかるのだろう - 。(p.4)私が初めて演奏会に足を運び、そのCDを所有したヴァイオリニストは千住真理子さん。そして現在、演奏会に足を運び、CDを購入し続けているのが、本著90頁でスズキ・メソード出身者として紹介されているヒラリー・ハーンさん。12月に行われる演奏会のチケットも、つい先程先行購入したところです。さて、本著の記述の中では、日本のヴァイオリン王・鈴木政吉とヤマハ創業者・山葉寅楠、政吉の息子でありスズキ・メソードの生みの親・鈴木鎮一と桐朋学園創始者・斉藤秀雄、小野アンナとその門下生・諏訪根自子、ストラディバリウスとグァルネリ・デル・ジェス等の対比が、とても興味深いものでした。また、オーケストラとコンサートマスター、アンサンブルと若手プレイヤー、そして、ディスコグラフィ30も面白かったです。五嶋みどり・龍の姉弟や、諏訪内晶子、樫本大進、庄司紗矢香、神尾真由子、服部百音等々、これくらいはちゃんと聞いておかないといけないなと反省させられました。
2024.06.22
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スタートは、前巻までの定番・夏希のデートシーンからではなく、 2020年3月30日に酒匂ダムで発生した原因不明の異常放流のシーンから。 そして、2020年4月30日は、かもめ★百合を罵倒・嘲笑する動画に悩む夏希。 投稿主はVチューバー・波龍で、定期的にこれまで3回アップしていた。 続く2020年5月1日は、やっと北条直人とのデートシーン。 上杉から紹介された北条は、警視庁の警視で、上杉や織田と同期採用のキャリア官僚だった。 そして、2020年9月1日、誘拐事件が発生し、夏希は江ノ島署の指揮本部へ。 被害者は、昨年度の青少年ホワイトハッカー大会で優勝した13歳の龍造寺ミーナだった。その日以降、これまで定期的にアップされてきた波龍の動画が更新されなくなった。2020年9月2日、夏希がSNS上で波龍についての情報を求めると、2人からメッセージが届く。そのうち、ミーナの友人・ユーリと名乗る者に会うため、夏希は逗子海岸駐車場へと向かう。しかし、夏希は何者かに捕らえられ、気付くとそこは米国海軍潜水艦の中だった。CIAのウィーバーは、酒匂ダムを襲ったクラッキングプログラムの製作者がミーナであり、国際的犯罪集団《ディスマス》が、プログラムを悪用すべくミーナを誘拐したと夏希に告げる。夏希は、横須賀米海軍基地で、CIAの通信手段を用いミーナとの対話に成功、その中にミーナが仕込んだ暗号を解き明かすと、横浜関帝廟へと向かう。夏希は、応援要請を受けたアリシア、小川祐介巡査部長と共にミーナの居場所に辿り着く。しかし、突入したCIA5人が銃弾に倒れ、そこに少女を抱えた東洋人の大男と女が現れる。そして、女に銃口を向けられ、夏希が目をかたく閉じた時、一発の銃声が……夏希がアリシア、小川と共に上杉のランクルの覆面に乗り込むと、助手席には織田がいた。 ***ミーナ救出のため、上杉のランクルが山下公園方向へと向かうシーンで今巻は終了。お話がその巻の中で終わらず、次巻へと続くのも今回が初めて。シリーズ7巻目ともなると、さすがに色々とアレンジを加えてきましたね。それにしても、前巻同様、上杉がカッコよすぎます。
2024.06.22
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日暮里高校2年で新聞部の鈴山耕貴淺、有沢兼人、寺園夏美は、 取材のため顧問教員・植淺と共に東京スカイタワーに行っていた。 そこには、社会科見学に来た池袋高校2年の酒井鮎美や秋田貴昭らもいたが、 展望デッキ内3フロアが武装兵により占拠され、1437名が人質になってしまう。 タワー内には、米軍空母から盗み出された核弾頭が搬入されていることが判明、 政府は犯人から次々に繰り出される「日本存亡チャレンジクイズ」への対応に追われることに。 一方、異変に気付いた瑠那と凜香は、蓮實の制止を振り切ってスカイタワーに向かうが、 サイモン・リドラーに家を襲撃された結衣と、連絡が取れない状況になっていた。政府が「日本存亡チャレンジクイズ」に正解すると、人質のうち40人が解放されていくが、自衛官による展望デッキ奪回作戦は失敗、逆に武装兵の数が増えてしまう。その状況下、凜香は武装兵になりすまし、瑠那は人質に紛れ込んで展望デッキに到達。しかし瑠那は、そこにいたハン・シャウティンに見つかり、拘束されてしまう。凜香は、展望デッキを抜け出していた秋田貴昭と共に核弾頭を探すが見つからない。一方、結衣は、匡太によって差し向けられた瀧島直貴ら7人の閻魔棒に襲撃されるも、「シャウティンの計画を阻止すべきだ」と言う瀧島らについてタワーへと向かう。そして、伊桜里と夏美が合流、さらに東京ユメマチ4階で凜香と秋田が合流したのだった。 ***この後、展望デッキを制圧した結衣は、シャウティンを高さ634mの円形バルコニーに追い詰めます。今巻は、前巻以上に結衣らしさ全開のお話でしたが、瑠那は、これまでにないほど痛めつけられて、かわいそうでしたね。
2024.06.21
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今回は、小川祐介巡査部長に誘われたコンサートのシーンからスタート。 声優として活躍する4人のガールズユニット《オレンジ☆スカッシュ》が、 野毛山野外音楽堂に集まったファンたちと、不思議なコール&レスポンスを展開。 愛する女神たちから罵声を浴びせられ、それに熱狂する観客に夏希は呆然。 その帰途、野音前路上で、上杉から昨夜の事件現場への同行を求められますが、 その際、オレスカのファンTシャツを着た上杉の元部下・新庄に出会いトキメク夏希。 上杉と共に到着した梶原の現場は全長80mの階段で、そこで背中を突き飛ばされての転落死。 被害者は、近隣に住む<サクラテレビ>のアニメ・プロデューサー蜂須賀至郎でした。県警本部相談フォームに投稿された犯行声明のハンドル名は、贖罪幽鬼@アカ転生。そして、新たに投稿された第2メッセージは、次のようなものでした。 ー アニメ化された『僕の妹は真夏の夜には夢を追わない』の主役、 多賀マリンの扱いが原作小説と大きく違って許せません。 マリンは俺の嫁です。 俺の心を踏みにじった制作者たちに天罰を与えます。 次の鉄槌を待っていてください。 贖罪幽鬼作品の監督、脚本家、多賀マリン役の声優には、すぐさま24時間の警護体制が敷かれます。夏希は、犯人から送られてきたメアドにメールを送信。しかし、返信はあったものの、それは一方的に犯罪予告を突き付けるだけのものでした。そして、夏希は、加藤・石田と共に逗子ハーバー・リゾートへ向かいます。多賀マリン役声優・小野木ゆんは、《オレンジ☆スカッシュ》のメンバーの一人で、その所属事務所が、そこに保養施設として部屋を借りているのでした。夏希は、オレスカの小野木ゆんと本多杏奈から色々と話を聞き出しますが、その途中、贖罪幽鬼からの犯行予告メッセージが届きます。そして、声優・岩城貞行が運転するバイクが、クロスボウで攻撃されて転倒し死亡。これを知った小野木ゆんのファンたちが、県警本部前に詰めかけてきますが、夏希が、野音のコンサートを彷彿とさせる呼びかけを行い、退去させることに成功。さらに、上杉と共に、岩城貞行が亡くなった俣野町の現場へと向かったのでした。そして、野毛山野外音楽堂での『僕の妹は真夏の夜には夢を追わない』の舞台上演当日。舞台上で、本多杏奈が小野木ゆんの左首筋にカミソリを突きつけますが……そこにアリシア!その後、ゆんから事情を聞いた夏希は、杏奈からも事情を聞き、彼女の言葉の矛盾に気付くと、マネージャー・佐野の言動や、贖罪幽鬼がサクラテレビの関係者であることを自白させます。 ***そして最後は、上杉と共に逗子ハーバー・リゾートへ。そこで再会したSISの島津冴美の活躍もあって、事件は一気に解決。 「いつかは真田が彼らの上司になる日が来るかもしれないんだ。 SISの仕事を見ておいて損はない」(p.263)そんな状況の中でも、上杉が夏希に示す様々な配慮にはグッときました。夏希を巡る男たちのデッドヒートは、現時点では上杉が半歩リードという状況でしょうか。
2024.06.16
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著者は関学大法学部・言語コミュニケーション文化研究科教授の大東和重さん。 本著は、「日本人が見た、日本語を通じた台湾」「地方から見た台湾」 そして「台湾と関わる人々の声に耳を澄ます」という3つの視点を組み込んで、 台湾の土地と人々の間により深く分け入るための道標となることを目指した一冊。 ***まず、「第1章 離島と山岳地帯 - 台湾の先住民族」では、民族学者・國分直一の離島・蘭嶼(らんしょ)に始まる民族調査と先住民族について、「第2章 平地先住民の失われた声 ー 平埔族とオランダ統治」では、作家・葉石濤の連作小説『シラヤ族の末裔』へと繋がれた探索のバトンについて語られます。次に、「第3章 台湾海峡を渡って ー 港町安平の盛衰と鄭成功」では、佐藤春夫の「女誡扇奇譚」の舞台・安平と台南と、鄭成功の生誕の地・平戸について、「第4章 古都台南に残る伝統と信仰 ー 清朝文化の堆積」では、「台湾随想」や『〈華麗島〉台湾からの眺望』等を参照しながら、台南市街の様子が語られます。さらに、「第5章 日本による植民地統治 ー 民族間の壁と共存」では、台湾総督府による統治と抗日運動、そして台北の街並みや台湾人の生活の変化について、「第6章 抑圧と抵抗 ー 国民党の独裁と独立・民主化運動」では、「光復」と「解放」、本省人・外省人の対立と二・二八事件、蒋経国について語られます。そして、「終章 民主化の時代と台湾」では、著者が初めて台湾を訪れた1999年9月の様子が語られます。巻末には「台湾歴史年表」(1662~2016年)と共に、18頁にも及ぶ「読書案内 - 台湾の歴史と文化を知る」が掲載されています。本著「はじめに」で著者が記しているように、台湾の歴史を知りたい人には、『図説 台湾の歴史』等の方が適しているかもしれません。本著は、そういった書物を手にし、基本的な知識を身に付けてから読んだ方が、味わい深く楽しめる一冊のような気がしました。『台湾の日々』しか読んだことのない私には、少々手強かったです。
2024.06.16
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今巻は、総合病院勤務時の同僚・優香里に誘われた婚活パーティーからスタート。 豪華船上で、個人投資家の脇坂安希斗から声を掛けられたものの…… その時、山下埠頭で爆発が発生したため、夏希はすぐに現場に向かうのでした。 そして翌朝、横浜水上警察署捜査本部で、巨大SNS上の犯行声明文を目にします。 それは、横浜市長に対し、山下埠頭へのカジノ誘致撤回を要求する内容。 犯人は自らをレッド・シューズと名乗っていました。 夏希は犯行声明にレスを入れる形で接触を図りますが、犯人からのリプはなし。 そうこうするうち、初音マリーナで第2の爆発が起こってしまいます。さらに、カジノ構想を推進する大手開発企業役員・石川貞人が略取誘拐されると、レッド・シューズが、巨大SNS上で、改めてカジノ誘致撤回を要求してきます。江ノ島署指揮本部では、SIS(特殊犯捜査係)主任・島津冴美が捜査に加わりますが、その犯人像の分析等を巡って、夏希と小さな衝突を繰り返すことに。さらに、小坪オーシャンホテルでも爆発が起こり、今回は負傷者も出てしまいます。そんな中、加藤は、石川貞人に繋がる平塚明広という人物に辿り着いていました。さらに、レッド・シューズのアジトと考え得る廃ホテルが判明、SISが突入することに。しかし、それはレッド・シューズの罠で、隊員の一人が負傷してしまいます。110番に電話をかけてきたレッド・シューズとの交渉を冴美から引き継いでいた夏希は、レッド・シューズからの要求で、平塚の娘のアルバムを腰越漁港に届けることに。しかし、その届け先のプレジャーボートも爆発しますが、アリシアの活躍で夏希は難を逃れます。そして、爆発後の現場からは、石川貞人と平塚明広の遺体が発見されたのでした。 ***お話は、このまま終わってしまいそうな雰囲気で満ち溢れていたのですが、最後の最後に大どんでん返し。上杉と小川が大活躍し、夏希を危機から救い出します。怪しげな人がやっぱり真犯人だったという、まさにミステリーの王道を行く構成でした。
2024.06.14
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今巻は、やはり織田信和とのデートシーンからのスタート。 その夕食中、夏希は織田から根岸分室で心理分析業務に就くよう依頼される。 厚生労働省の若手官僚・堀尾元晴が剣崎海岸で殺害された事件は、 使用された銃弾から、プロの殺し屋によるものと考えられていた。 しかし殺害前に、堀尾のメルアド宛に犯行声明が届いていたことが判明、 違和感が生じたため、夏希が捜査に加わるよう推薦されたのだった。うらさびれた町工場のような根岸分室にいたのは、頑固な喫茶店のマスターのような上杉室長。上杉は織田と同期のキャリア官僚だったが、上司の警視監の不正をマスコミにリークし、警視総監を依願退職、隠蔽に走った者たちは厳しい処分に追い込み、幹部の反感を買うことに。以後、ことあるごとに上司と対立した上杉は、刑事部分室に隔離されたのだった。上杉が居酒屋で、かつての部下である第1機動隊所属の最上義男を夏希に紹介した翌朝、堀尾のブログでバトルを繰り返していたハヤタから、かもめ★百合と対話したいとの連絡が。夏希がメッセージを送信すると、もう一人の大罪人に罰を与えたとの返信。その時、心臓外科医の古田重樹が、瀬上市民の森上池で殺されたとの知らせが入る。上杉と夏希は二人で捜査を続けるが、車で走行中に何者かによって銃撃される。堀尾の弟から、14年前に兄が同級生の古田と生駒チカオの3人で事件を起こしたと聞き出すと、上杉は夏希と共に国会議員の息子・生駒親生の家に向かい、14年前のレイプを自白させる。そして、上杉が生駒を人質に立てこもりを実行すると、そこへSATが銃撃してきたのだった。 ***このSAT狙撃班班長こそが、レイプ事件の被害者・彩帆のかつての恋人。そして、その背後には、さらに彩帆の兄である警察庁参事官もいたのでした。織田とは真逆のように見える上杉ですが、夏希に対する思いは同じなよう。夏希を巡る二人の争いからも、目が離せなくなりそうです。
2024.06.09
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副題は「気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません」。 その冒頭は次のように始まります。 僕は躁鬱病です。 今では双極性障害と言うらしいですが、(中略) 診断されたのは2009年です。当時、31歳でした。 東京のメンタルクリニックみたいなところでした。(中略) 医師と対面して、こちらの症状を話すと、 それで医師は経験から、「躁鬱病ですね」と言いました。(p.9)そして、その医師の考え方は、次のようなものでした。 躁鬱病は病気というよりも体質なので、波の強さを抑えることはできても、 基本的には完治しないし、服薬も生涯続ける必要があるし、 その中で自分なりのやりやすい生き方を見つけていくしかない。(p.13)でも、何かが足りないと感じ、どうすればいいのか分からなくなってしまった著者は、躁鬱病に関する本をいくつか読んでみますが、どれも同じことが書いてあります。躁鬱病ではないであろう人たちの書いた本には、症状については色々と書いてあるものの、経験を踏まえて、どうしてそうなるのか、どうすればいいのかについて書かれていませんでした。類書を読むことをやめ、途方に暮れていた時、精神科医の神田橋條治さんのことを知ります。その『神田橋語録』との出会いが、著者の考え方に大きな変化をもたらすことになりました。本著は、神田橋さんを躁鬱病についてのソクラテスと見立て、彼の言葉をプラトンであるところの著者が解釈し、皆と共有していくという一冊です。
2024.06.09
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今巻も、いつものように婚活デートのシーンからスタート。 第1巻のお相手は、織田信和(2日後に警視庁警備局理事官と判明)、 第2巻のお相手は、小西行則(モータークルーザー《ゼフィール》のオーナー)、 そして今巻は、高校の同級生・石川希美とのダブルデートで結城秀樹と大友義行。 合コンドライブ後、夏希は希美と伊豆高原の温泉で過ごしていましたが、 翌朝5時40分、日曜日にも関わらず、心理課長・中村からの電話で起こされます。 それは、本牧署で9時から行われる捜査会議に参加するようにとの命令でした。 夏希は、伊豆高原駅6時21分発の電車で石川町駅を目指します。伊東からはグリーン車の2階席に座りますが、そこで過換気症候群で苦しむ本間菜月に遭遇。夏希の処置で回復した菜月は、センター試験の会場に無事向かうことが出来ました。本牧署に到着した夏希は、本牧緑地、さらに霊山山頂で起こった連続殺人事件に、かもめ★百合として、ジュードと名乗る犯人とチャットルームで交渉を続けます。しかし、その正体は全く掴めないまま、本牧署と江の島署の合同捜査も行き詰まりを見せます。そんな時、夏希の前に菜月が現れ、その会話の中でユリミファの死について知ることに。そして、その正体不明の歌手の歌を聴いた夏希は、今回の連続殺人との関連を直感。菜月から本牧署でさらに情報を得ることで、第3の殺人を阻止することに成功したのでした。 ***デートの相手が、様々な形で事件に絡んでくるであろうことは、当然予想されるわけですが、お話の途中で登場してくるキャラクターたちについても同様です。本間菜月は、今回のお話のキーパーソンでしたが、今後も度々登場するのでは?また、次回の冒頭デートのお相手は、やっぱり織田信和なんでしょうかね。
2024.06.06
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先日読んだ『脳科学捜査官 真田夏希』のシリーズ第2弾。 既に20巻が刊行されている人気シリーズですが、 2巻目以降の表題に「発行順の数字」が示されていません。 その代わり、各巻に「色に関わる表題」が添えられています。 第2巻は「イノセント・ブルー」、第3巻が「イミテーション・ホワイト」、 第4巻が「クライシス・レッド」というような感じですが、 後追いで発行順に読み進めようとすると、その都度調べなくてはならない…… まぁ、「御子柴礼司シリーズ」も、同様の手間がかかったのですが。 ***江の島弁天橋橋橋脚で、首から下が砂浜に埋められた男の死体が発見されると、その翌日、犯人を名乗る人物から『かもめ★百合』に挑戦状が届く。真田夏希は、犯人が指定した非公開チャットルームで対話を開始するが、次の天誅を実行するため、辻堂海浜公園に爆弾を仕掛けたとのレスが。直ちに公園を閉鎖して利用者を退去させ、爆発物処理隊を急行させるよう命令が下るが、そこで見つかったのは爆発物ではなく、絞殺されたと思われる男の死体だった。かつて高島署で勤務していた江の島署・加藤清文巡査部長と、本庁捜査一課・石田三夫巡査長は、二人の被害者のつながりを追い、彼らが学生時代のサークル仲間だったことを突き止める。その後、犯人から環境副大臣をアイドルのライブ会場で殺害するとの予告が。捜査会議後、一旦帰宅することになった夏希は、マンション前で拉致されてしまい、気が付くと、そこは見覚えのあるモータークルーザーの艇内だった。追いつめられた夏希は、犯人・シフォンに対しカウンセリングマインドを奮い起こす。 ***この後、加藤と本庁鑑識課・小川祐介巡査部長、そして、警察犬・アリシアの活躍によって、夏希は何とか危機を回避することが出来ました。それにしても、シフォンの身の上話は、なかなかに重たいものでした。 古典的な社会心理学では 「人は見てから認識するのではなく、認識してから見るのだ」 と表現されることもある。(p.237)これは、確証バイアスについての記述。「なるほど……」と、唸らされました。
2024.06.02
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瑠那は篤志が運転するCR-Vで廃墟を突き進み、瓦礫の隙間の中へ。 そこには、篤志が救い出した矢幡元総理がいた。 そして、買い物帰りに何者かに襲撃された伊桜里を救出した結衣は、 官邸地階の危機管理センターに侵入すると、梅沢総理に直談判。 「わたしたちきょうだいが、父とは無関係だと発表してください。 それを約束してくれるのなら、わたしたちもEL累次体の犯罪行為について、 もう今後は追及しません」(p.116)結衣の交渉は成功し、矢幡は総理の座に返り咲いた。一方、藤蔭文科大臣は、雲英亜樹凪を通じ、優莉匡太に統合協会日本支部へと呼び出される。そして、十代の文武両道奨励のため、特別ジャンボリー”不変の蒼海桑田”を開催すると、全国で受験した参加希望者20万人の中から合格した1万2千人が、富士ケ嶺公園に集まってきた。金網フェンスで仕切られた雪景色の敷地の中で、結衣、瑠那、伊桜里も3週間を過ごす。そしてある夜、EL累次体が投入したグライダーが飛来、櫓に向けて機銃掃射を浴びせかけた。さらに、匡太が死ね死ね隊に奪わせたオスプレイ、そして自衛隊のアパッチまでもが飛来し、凄まじい砲撃戦が始まると、双方が医療テントを巡り膠着状態に陥ってしまう。自衛官らと共に医療テントに突入した結衣と瑠那は、そこで「鵠酸塩菌」という生物兵器を発見。それは、優莉匡太から採取した皮膚細胞を飲み込ませて培養したもので、感染すると、本人はもちろん、その遺伝子を受け継いだ子供も25日前後で発症、その後間もなく死に至る。これこそが「不変の蒼海桑田」と呼ばれる計画の正体だった。摂氏5度以下の気温の中、1万人以上の若い宿主にマスクなしで1ヶ月間密集して過ごさせ、鵠酸塩菌を爆発的に感染させ、宿主たち全員に定着してから全国津々浦々に解き放てば、標的がどこに潜もうとも、いずれ死に至らしめられるはずというもの。EL累次体は、当初の標的を矢幡としていたが、途中で密かに匡太に切り替えていたのだった。結、瑠那、伊桜里が、既に感染しているのは、間違いのないところ。優莉家の人間以外が発症した場合に備え、専用治療薬の化学式が記録されていたが、それを作るためには3か月から半年ほどかかるので、もう間に合わない。ただ、4mlの治療薬が製造され、3.5km程離れた場所に保管されていることが判明した。結衣らは、4本の注射器を発見するも、匡太にヤク漬けにされた凜香が襲い掛かってくる。その時、床に転がり落ちた注射器の1本は、亜樹凪によって奪い去られてしまう。残った3本の治療薬は、瑠那が伊桜里に、そして結衣が瑠那と凜香に注射する。そして、号泣する凜香に結衣は言った。「よかった。洗脳が解けた」と。その後、EL累次体全体集会に現れた匡太は藤蔭を撃ち殺し、梅沢らも武装兵らに殲滅させる。そして、その状況を「結衣とか篤志とか、ガキどものせいにしちまえばいいだろ」と言い放つ。が、その場の音声は全てインターネット上でリアル配信され、地上波のテレビも放送していた。そして、亜樹凪のダウンジャケットのフードの中に盗聴器を発見した匡太は言った。「不変の蒼海桑田計画ではな、治療薬を注射器5本ぶん作るってきいたぜ?」と。 *** 凜香が吐き捨てた。 「北朝鮮でも死ななかった女だぜ。 とっとと主役の座を譲れってんだよ!」(p.315)まぁ、この言葉が全てを言い表しているわけですが、それでも、松岡さんの胸先三寸で、その運命は決まるのですから、最後まで結構ハラハラしてしまいました。でも、やっぱり結衣のいない『高校事変』なんて考えられませんね。そして、今巻を振り返り、大いに唸らされたのは、高等工科学校の諏訪戸明久が、瑠那のダウンジャケットフードに、すれ違いざまにアナログUHF電波の盗聴器を仕込むも、結衣が即時気付き、後でこれを清めるように雪にこすりつけてからポケットにおさめたシーン。全てを解決に導く素晴らしい回収へと繋がる、見事な伏線でした。
2024.06.01
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