それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

Jun 21, 2005
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そして、バットやボールなどを運んできて、準備運動を始めた。

ここの野球部の人達らしい。


彼らを見つめているうちに

ふと、涙が出てきてしまった…。


今日のことで、悲しくなったのではない。

半年前の、失恋を思い出してしまったのだ…。


彼の趣味は草野球だった。

そして、私はそのチームのマネージャーを




私は彼のユニフォーム姿が

大好きだった…。


笑うと、日に焼けた肌に白い歯が

とても眩しく感じられた…。


私は彼と結婚したいと思っていた。

結婚できると思っていた…。


でも、彼は別の女性を選んだのだった…。


忘れたいのに、忘れられない…。

半年経った今も、そんな心の痛みを抱えていた…。


(あ。いけない。もう5分前だ。)


時計を見て、ヒヤッとした。




職場での、私情は禁物。

私は慌てて涙を拭き、自分の部署に戻った。


山中さんは、まだ戻ってきていなかった。

すると、近くで歓声があがった。


(なんだろう?)




すると、数人で1台のパソコンを囲んでいる。


「あの…。何してるんですか?」

人見知りをしない私は、その輪の中にいる1人に声をかけた。

髪をキレイに七三に分けた、まるでコントに出てきそうな人だ。


「ゲーム。車のレースゲーム。」

その七三男は、私の顔を見もせずそっけなく答えた。


人と人の間から、覗き込んでみると、

確かに1人の人が、ゲームに熱中していた。


カーブにさしかかるたびに、体が左右に動く。

よほど、熱中しているのだろう。


(ふ~ん。案外子供っぽい一面もある人達なんだぁ…。)


「君、名前何だっけ?」

七三男が、質問してきた。


(だからぁ、朝、挨拶したっちゅーんねんっ!!!)


と思いながら、「磯野です。よろしくお願いします。」

そう、笑顔で答えた。


七三男は、にこりともせず、

「あとで、図書館に行ってコピーしてきて欲しいものがあるんだけど。」

「あ…。はい。わかりました。」


(そんな、無愛想な顔で言わなくてもいいのに…。)


と思いながら、歓声を後にした。


すると、ちょうどチャイムが鳴った。


「磯野さん。これ。これをコピーしてきて。」

七三男が、早速メモを持ってきた。


「はい。わかりました。」


本当は、山中さんを待っていたかったが、

仕事の時間も始まったことだし

とりあえず山中さんのデスクの上に

「図書館に行ってきます。」とメモを書いて

図書館に行くことにした。


歩きながら、頼まれた本のタイトルを見てみると、

英語だらけのタイトルの本だ。


(なんか、見つけるの大変そうだなぁ…。)


午前中に、図書館に見学に行ったとき、

とても広い場所で、膨大な本の量が

あったことを、知っていたからだ。


(まぁ。なんとかなるでしょ。)


そう思って、図書館に行った。


…が、そんな甘いものではなかった。

見学の時には気がつかなかったが、図書館内にある本の

ほとんどが、英語のタイトルの本だったからだ…。


しかも、分野ごとに分かれているのだが

頼まれた本がどの分野にあるのか、さっぱりわからない。


観念した私は、図書館にいる女性に助けを求めた。


その女性は、ベテランの方らしく、メモを見ただけで

「こっちよ。」と、案内してくれた。

そして、その本を差し出してくれた。


「ありがとうございます。」

「いいえ。あなた、新しい人?」


「はい。○×研究チームの磯野と申します。」

「そう。私は三村。よろしくね。」


少し無愛想だけど、意外とやさしそうな人だ。


「コピー機はあそこ。カードは持ってきた?」

「カード?いいえ。何のカードですか?」


「ここのコピー機は、各研究チームに配布してあるカードを

 使わないと、使用できないの。」

「そ…そうなんですか? わかりました。

 すぐに取りに行ってきますので、本を預かってもらえますか?」

「いいわよ。」


(はぁ…。疲れるなぁ。もう。)


図書館から自分の部署へは、一度建物の外に出てから

行かなければならない。

自分の部署と図書館は、かなり遠い場所にあった。


(やっぱり山中さんを待っていればよかった…。)


そう思いながら、自分の部署へ帰った。


するとさっそく、七三男が寄ってきた。

「早いね。ありがとう。」


「あ。すみません。カードが必要だとかで、コピーできなくて…。

 カードの場所、わかりますか?」


そう言うと、七三男はムッとした顔をして

「山中さんに聞いてないの? まったくコピーもできないのかよ…。」

と、大きな独り言を言って、ぷいっと行ってしまった。


私はちょっと悲しかったが


(だいじょうぶ。こんなことは、今までたくさん

 経験してきているのだ…。)


そう、自分に言い聞かせた。


山中さんの席を見ると、まだ帰ってきていない。

私が残したメモもそのままだ。


仕方がないので、近くに座っている

まだ若そうな、メガネをかけた色白の人に

「図書館で使うカードはどこですか?」

と聞いてみた。


すると「知らない。山中さんに聞いて。」

という素っ気ない答えが返ってきた。


他の人達にも聞いてみた。

みんな、同じ答えだった。


(はぁ…。結局、山中さんが帰ってくるまで何もできないのかぁ…。)


私は、悲しい気持ちで自分の席に座った…。


しかし、だからといって、何もしないわけもいかず

とりあえず、トレイに入っている書類を出してみることにした。


書類をまず、種類別に分けてみた。

トレイにあったのは全部で、11種類の書類。


その中で、私が見たことがある書類は3つだけ…。

「出張伝票」と「結婚のお知らせ」と「訃報」

それだけだった。


他の8種類は、聞いた事もない名前の書類だった。


(やっぱり山中さんを待つしかないな…。

 それにしても、どこに行っちゃったんだろう?)


再び、メガネの色白くんに、

「すみません。山中さんは知りませんか?」

と、聞いてみると「今、会議中だよ。」と言われた。


(か…会議~??? 聞いてないよぉぉ~!!!

 …まるでダチョ○倶楽部のようなセリフが

 頭に浮かんでしまった…。)


(もう…!「じゃぁ、午後ね。」って言ったのにぃ…。)


なんだか、広いフロアーの中で何も出来ずにいる自分が

とても孤独に感じた…。


すると、そこへ別の人がやってきた。

顔が少し四角い、色黒のおじさんだ。

口の右側に、大きなホクロがあるのが目に入った。


「ねー、この書類、早く処理して欲しいんだけど。」

「すみません。まだお仕事教えて頂いてないんです。」


「じゃぁ、総務にでも聞いて早く処理してよ。」

と、怒った口調で言ってきた。


「わかりました。」

「頼んだよ。早くね。」

ホクロおじさんは、あきらかに機嫌が悪そうだった。


総務の電話番号は、席に貼ってあったのですぐにわかった。

さっそく、総務に電話をした。


「○×研究チームの磯野と申します。

 お忙しいところ申し訳ありませんが、

 ○%&@*の書類について教えて頂けますでしょうか?」


すると、思いがけない答えが返ってきた。


「その書類は、まず、そちらのチーム内で処理をして頂いて

 こちらに回ってくるものなので、チームの方に聞いて下さい。」


「…。そうですか…。わかりました。ありがとうございました。」


私は、力なく受話器を置いた…。


はぁ…。

思わず、大きなため息がでてしまった。


(どーすりゃいいのさぁ~!!)


もうヤケな気持ちである。

私はまだ、この会社の組織の構造自体さえ把握していない。


(山中さ~ん!!! 早く帰ってきて~!!!)


私は、半べそ状態だった。





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Last updated  Jun 22, 2005 03:16:30 AM
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