それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

Jun 22, 2005
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私は、席から立ち上がった。


隣の研究チームに行ってみようと思いたったのだ。


まだ、組織を把握しているわけではないが

他の研究チームになら、同じような事務の人がいるに違いない。


私は、ホクロおじさんが「早く処理して」

と言った書類を持って、隣の部屋に行ってみた。


違う部署に入るのは、さすがに緊張した。

「ふ~」




そして、軽くノックをして

「失礼します。」と言ってドアを開けた。


私がいる部屋よりも少し狭く、そして少し

明るい雰囲気の部屋だった。


私は、一番近くにいた優しそうな人に

「あの、○×研究チームの磯野と申しますが

 事務の人はいますか?」

と聞いた。


すると、そこにいる人達が一斉に笑った。


「え…?」


きょとんとしている私に向かって、その人は



と言った。


「え…? …ということは、ここも○×研究チームなんですか?」

「そういうこと。」


私は、恥ずかしくて顔が赤くなるのが、自分でもわかった。


彼は、まだ少し笑いながら



と、聞いてきた。


「磯野と申します。よろしくお願いします…。」

私はまだ、恥ずかしさでいっぱいだった。


「山中さんからは、まだ話、聞いてないの?」

「午前中は、研究所内を見学しただけで…。

 あとは、まだ何も聞いていないんです。

 この書類を早く、処理して欲しい人がいるんですけど

 それが、わからなくて…。」


「ちょっと見せて。 ああ。広沢さんか。

 きっと不機嫌な顔して磯野さんにせかしたんじゃない?」

「あ…。はい…。」


「あの人はいつも不機嫌だから、気にしちゃダメだよ。」

「はい…。」 私は少し笑顔になった。


「でも、山中さんの会議は長いと思うから

 磯野さんも困るよね…。

 うーん。そうだなぁ。じゃぁ、僕について来て。

 君と同じ仕事をしている、他の研究チームの

 事務員さんを紹介してあげるよ。」


「ほんとですか? ありがとうございます!」

私は頭を下げた。


(な…なんて、優しい人なの…!!)


孤独感を味わっていただけに、その人の優しさが

とても嬉しかった。


しかも、改めてみると、とてもステキな人だ。

他の会社だったら、普通の人だったかもしれない。

でも、その時の私には、窮地を救ってくれた王子様に思えた。


私は、王子様と一緒に長い廊下を歩きはじめた。


「磯野さんの席がある部屋と、僕がいた部屋が○×研究チーム。

 部屋の前に、何も書いてないから、わからないのも無理ないよね。」


そういえば、どこの部屋にも、「101号室」という表示だけで

「△○研究チーム」と、書いていなかったことに

今になって気付いた。


「どうして、部署の名前を表示しないんですか?」

「僕にもよくわからないけど、チームが、よく再編成されるんだ。

 そのせいじゃないかな。

 あとは…、スパイを防ぐためかな。」


「ええっっっ! スパイとかいるんですか?」

「あはは。 冗談だよ。冗談。」


「ひど~い!! 信じちゃったじゃないですかぁ!!」

「ごめん。ごめん。」


二人の笑い声が、静かな廊下に響き渡った。

私は笑ったことで、少しリラックスできた気がした。


「それにしても、こんな冗談にひっかかるなんて

 磯野さんって、かわいいね。」

「もう! 新入りなんですからいじめないで下さい!」


そう言い返しながら、私は王子様との会話を心から楽しんでいた。


「さあ、着いた。ここだよ。」

王子様は、軽くノックをして、その部屋に入った。

私も後に続いた。


そこには、かわいらしい女性が座っていた。

私は軽く会釈をした。


王子様はさっそくその女性に、事情を話してくれた。

その女性は、快く引き受けてくれたようで

椅子から立ち上がり


「坂本ゆみです。仕事のことをいろいろ説明させて頂きますね。」

と、優しい笑顔で挨拶してくれた。


顔だけでなく、声もとてもかわいい人だ。

彼が王子様なら、坂本さんはお姫様のような雰囲気の人だった。


「磯野愛と申します。どうぞよろしくお願い致します。」

私は頭を下げた。


「じゃぁ、あとは悪いけど、よろしくね。」

王子様は、坂本さんにそう言い残し私達に背を向けた。


私は慌てて、「ありがとうございました。」

と、お礼を言うと、王子様は振り返り

微笑みながら「頑張ってね」と言って、部屋を出て行った。


(やっぱり、ステキかも…。)


私は、ほんの少し心が温かくなっていた。


「山中リーダーったら、まず私のところへ連れて来て下されば

 よかったのにね…。」

坂本さんは、そう言いながら、私に椅子をすすめてくれた。


「じゃぁ、とりあえず、その書類の処理の仕方を教えますね。」

「はい。」


「ええと、磯野さんのハンコは、作ってないですよね…?」

「はい…。何も聞いていませんが…。」


「そうよね…。これはね、あなたのハンコも必要なの。

 今回は、そうね…。

 代印をもらって、処理することにしましょう。

 あなたのハンコの作成依頼書も提出しなくちゃね。」


「…となると、やっぱり私がそっちに行った方が良さそうね。

 ちょっと待ってて。許可とってくるから。」


坂本さんは、優しい感じの男性のところに行って

何か話したあと、すぐに戻ってきた。


「OKよ。じゃぁ、あとは私のマニュアルをコピーするから

 もうちょっと待っててね。」

「えっ。いいんですか?」


「私が作ったものだから、見やすいかどうかはわからないけど。」

「そんな…。助かります。」


坂本さんは、笑顔でコピー機にむかう。


(かわいくて、優しくて、仕事もできそうな人だなぁ。

 よかった。良い人を紹介してもらえて…。

 これも、王子様のおかげ…。)


私は、本当に救われた気がした…。


そして、王子様に対するほんの小さな恋心のようなものが、

私の心を温かくしていた…。





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Last updated  Jun 22, 2005 11:19:43 PM
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