2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
全22件 (22件中 1-22件目)
1
「かわいい……。なんだか最近、詩衣那さんばかり見ているから、美姫さんのように素直な反応って新鮮だわ。詩衣那さんってば、もう6年も妖精をやっている割に素直じゃないんですもの」 仕事中だというのに、二村さんまでがこの反応……。まあいいですけど。それにしても詩衣那さんの評価って……。「これが私的には自分に素直な反応なんです。元の性格が歪んでいるんですから、自分の感情に素直になれば、歪みが増幅されるのは当たり前です」 赤いスーツに包まれた身体を直立させ、それなりな胸をツンと突き出して開き直る詩衣那さん。すごい、そんな屁理屈、初めて聞いた。「詩衣那君にとっては既に知っている話で、聞いていてもつまらないということは分かっているが、だからといって話の腰を折らないでくれないか? せっかくいい気分で話しているんだから」 いい気分って、剣持主任、そんなつもりだったんですか? やっぱり魔法の研究をしようだなんて連中には、まともな人なんて居ないんだろうか……。とりあえずワタシは二村さんの胸元で小さくため息をつくと、ちょっとしたあきらめの気持ちとともにテーブルの中央に歩いていくのだった。よっこらしょと、隣に詩衣那さんが居るけどちゃんとした椅子に座っていたほうが楽なのは間違いないしね。「すみません、じゃあ、続きをお願いします。でも、出来たらなるべく短くなりませんか? 長くなると退屈した詩衣那さんに遊ばれそうだし……」 なんだかもうどうでも良いような気もしてきたけど、とりあえず話を聞かないことにはいつまで経っても次の段階に行きそうにない。ワタシは剣持主任に話の先を促した。「そうだな……。まあしかたがないか。では話を戻して、魔法の発動にはイメージが大事であるのだが、それを肉体的に見れば脳梁の太さが関係してくる。ということは魔法の能力が強い弱いということも肉体に左右されるから、遺伝により魔法の強い家系と弱い家系が出てくるということがわかる。つまりここに本来の妖精の社会に身分制が生まれてくる理由がある。しかもそれは人間の身分制よりも強固だ。何しろ人間の場合は身分の違い、血筋の違いと言っても、圧倒的な能力差というものは無いものなのだが、妖精の場合は魔法の力の強さという圧倒的な差となってあらわれて来るんだよ。身分制が確立し維持される理由があるというわけだ。まったく嘆かわしいことにね」 剣持主任はちょっと悲しそうに頭を振った。言葉どおりに受け止めれば、身分制のある事を嘆いているような……。「魔法はイメージの力で発動される。そのイメージの力は脳の出来で決まるから、妖精の魔法の強さには遺伝からくる差があって、だから妖精の社会では血筋による身分制が自然な形になってしまうと、そういうことですね。まあ理屈としては納得できなくも無いですけど……。ホントなんですか? その話」 初めて聞いた話をはいそうですかと全面的に信じるわけにも行かないので、とりあえず反論してみるワタシ。ちょっと意地悪かな?「本当だとも。妖精は召喚にあたって魔法についての情報はほとんど教えてくれない。いや、中には教えてもらった人もいるんだろうが、固く口止めされているような感じがするという調査結果がある。そのように情報が少ないにもかかわらず、断片情報を組み合わせると、やっぱり妖精には魔法力の強い王族や貴族と、その次に魔法力の強い武士階級、そして魔法力の弱い平民たちがいるということまでも分かっている。ちゃんと裏づけは取れているんだ」 うーん、妖精の魔法もすごいけど、ちょっとした情報だけでそこまで分かっちゃう科学的手法もたいしたものかもね。ワタシは思わず感心してうなずくのだった。「で、ワタシのような鳥の羽をした妖精が王族や貴族で、コウモリ羽の妖精が武士階級で、トンボのような昆虫の羽の妖精が平民……、なんですか?」 先ほど聞いた、妖精の羽の種類の違いと魔法力の強さの関係の話を思い出しながらワタシは剣持主任に尋ねた。でも人間世界にいる妖精であるワタシ達にしてみたら最も空想上の妖精の姿に近いトンボ羽の妖精、しかも女の子の妖精が、鳥の羽をした妖精よりもかわいがられるんだよね。まあワタシみたいな天使のような白い鳥の羽をした妖精は鳥の羽をした妖精にしては受けがいいんだけどね。
May 31, 2004
コメント(0)
「ん? 美姫君きなんで自分の頭を叩いているのかな?」 ワタシの様子を気にする剣持主任。あうう~。「いえ、何でもありませんから気にしないで話を続けてください」 説明する気になんかなれないワタシは、その自分の感情に素直に従うことにした。だって妖精って自分の感情に素直なんだもんね。「……まあ、いいか。では話を戻してまとめてみよう。まず、妖精が羽を出し入れするにはイメージの力を借りることからして、魔法の発動にはイメージが大事だということが分かる。そして人間の男女の脳の違いから分かるのは、言語とイメージ、論理と感情を一体のものとして処理する為には脳梁が太い方が有利であるということ。そして妖精の脳梁は人間に比べて男女それぞれが約2倍の太さを持っている」 一息ついた剣持主任は、今の言葉がワタシの頭に理解されるのを待つかのように、じっとワタシの顔を見つめるのだった。うん、とりあえずここまでは分かる。「そこまでは分かりますけど、だからどうなるんですか?」 ワタシとしては早く話の続きを聞きたいので、ちょっといらつきながら返事を返す。むう~っ!「つまり魔法も肉体的な素養に左右されるということだ。まったくの仮説でしか無いが、おそらく詳しく調べてみれば妖精の中でも美姫君のように鳥羽の妖精の脳梁が一番太くて、次にコウモリ羽の妖精。そして最後が昆虫羽の妖精が続くと思う」 なるほど、そうなのか。しかし妖精の脳を比較するって……。「解剖はヤですからね。まだ死にたくないですし」 ひとこと釘をさしておくワタシ。「じゃあ死なない解剖ってことで、服を脱がすっていう意味の解剖ならしても良いのかしら? ね、美姫さん?」 ススッと手が伸びる詩衣那さん。なんでワタシの胸に触ろうとしているんですかっ!?「そっちの解剖もダメです。もう、ふざけないでください」 またしても話が脱線しちゃったね。と、思いながらもワタシは詩衣那さんの手から逃れるべく、安全地帯へと、つまりは二村さんの胸元にまで逃げ込んだのだった。
May 28, 2004
コメント(0)
「そんなことまで分かってるんですか!?」 思わずワタシは聞き返してしまった。ワタシ達が住んでいるこの人間世界の妖精達は建前上は平等であるのだが、現実には羽の種類によって妖精差別が行われていることを知っている。だからこそ、本来の妖精の社会では妖精達は平等な社会を実現していて欲しかったというか、きっと平等な社会を築いているだろうと思っていたのに……。「ひとりひとりが聞いた話は極めて断片化されたそれだけでは意味が分からない情報だったとしても、それが2万人以上ものデータとして集積されたら……、かなり正確な推測が成り立つんだよ。間違い無い。妖精の社会は基本的に歴然とした階層が存在する身分性社会だ」 推測であると言いながら、断言する剣持主任。「まずそのことを説明する前に、もう一度、妖精の脳梁が太いということを考えてみよう。人間の場合は、男性よりも女性のほうがその脳梁が太いわけなんだが、これが男性よりも女性の方が言語からイメージを膨らませることが得意な理由となっている。左脳は言語と論理を司り、右脳はイメージと感情を司る。男性の場合は左右の脳半球を連結する脳梁が細いので、論理と感情は比較的分離されて処理される。しかし女性の場合は脳梁が太く、左右の脳半球間のデータのやり取りが男性よりも活発な為、言語とイメージ、論理と感情が渾然一体となっているわけだ」 一気に喋ってのどが渇いたのか、剣持主任はいったん話をストップすると、テーブルの上に置かれたお茶の入ったペットボトルに手を伸ばして口をつける。ワタシは果たしてこの話はいったいどこに向かっているのか手に汗を握っている横では、詩衣那さんが椅子に座ったままあくびをしている。どうやら詩衣那さんはこの話を既に聞いたことがあるのかもしれない。それにしても、こうも身体に密着した服だと足を開いて座るとすぐに分かっちゃうから大変だ。フリフリの長いスカートだとその中で足を多少開いていても分からないのに、このスーツだと足をピッタリとくっつけていないとみっともないんだもん。「そして人間に比べて妖精はさらに脳梁の太さが太い。美姫君や詩衣那君、特に脳梁が細い人間の男性から脳梁が太い妖精の女性になった美姫君は、感じているんじゃないかな? 以前の自分に比べて感情を論理で押さえ込もうとすることがなくなりとても素直になったということを。うれしい時には素直にうれしがったり、悲しい時には素直に泣いたりというようなことが多くなっていないか? 妖精になって身体が小さくなったことが精神の子供化を招いていると思っている妖精が大半だが、そんな単純なことじゃない。脳梁が人間よりもはるかに太いという妖精の肉体的な特徴にその原因があるというわけだ」 妖精は感情に素直だというのはワタシも体験的に分かっていたけど、それに明確な理由があったとは知らなかった。でも、素直じゃない妖精もいるかもねと、ワタシは海斗の顔を思い浮かべた。……う~っ! なんであいつの顔を思い浮かべなくちゃならないのっ!? ワタシは自分の頭を叩くのだった。
May 27, 2004
コメント(0)
「そうそう、それだ。妖精が羽を出すときにイメージの力を借りるということは、魔法の発動にはイメージの力が関係してくるのだろうと推測しても間違いではないはずだ。いかに適切なイメージをどう強くリアルに想い浮かべることが出来るかということが、魔法の発動には重要なことなんじゃないかと、私はそう判断しているわけだ」 手をポンと打つと、剣持主任はようやく話を元に戻したのだった。それにしても魔法の発動にイメージが重要だって言っても……。確かワタシの時は……。「でも、ワタシが最初に羽を出した時は、そんなイメージを思い浮かべるなんて関係無かったですよ。寝ぼけた弟に2段ベッドの上からはたき落とされて、とっさに羽が出ちゃったんですよ。もう無意識に」 妖精に召喚されたその日のことを思い出しながら、ワタシは首をかしげた。どう考えてもあの時は羽を出すために必要なイメージを思い浮かべるなんてことは関係無かったと思う。「それこそが美姫君の魔法の力が他の妖精と比べても段違いに強いことを示す証拠だと思う。ちょっとしたルートから、召喚されて妖精になった人達がどのようにしてその羽を出すことが出来たかというアンケート結果を見せてもらったのだが、美姫君のように召喚された直後に羽を出すことが出来たというようなケースは確認されていない。もちろん単なる偶然だった可能性もなきにしもあらずだが、私は違うと思う。美姫君のような鳥の羽をした妖精は他の妖精に比べて魔法力が強いのではないかというデータも出てきているのだ。まあ、その中でも美姫君はさらに特別らしいんだがね」 また二村さんに身振りで指示を出すと、剣持主任は新たなスライドが映しだされるのを待ったのだった。今度は何が出てくるんだろう。……ええと、これはなんのグラフなのかな? 偏差値の棒グラフみたいだけど……。「まずは第1のグラフを見てもらおうか。これは召喚後どれだけの時間が経過してから羽を出すことが出来るようになったのかというアンケート結果だが、母集団は妖精すべてとなっている。対して、第2のグラフでは妖精の7割を占めるトンボのような羽を代表とする昆虫の羽を持った妖精を母集団としたもの。そして第3のグラフは妖精の2割を占めるコウモリ羽の妖精を母集団としたもの。最後に妖精の1割を占める美姫君のような鳥の羽を持った妖精を母集団としたグラフだ。この4種類のグラフを見て何か気がつかないかね?」 気がつくも何も、見ただけで違いはハッキリしているのが分かってしまった。まさかこんなことって……。「羽を出すことが出来るようになるまでの時間に差がありますね。昆虫の羽をした妖精が一番遅くまで時間がかかって、逆に鳥の羽を持った妖精が一番短い。コウモリの羽を持った妖精はその中間のように見えます」 妖精の羽の種類と、羽を出すまでの時間の長さに関連性があるだなんて今まで考えてもいなかったから、こんなデータを見せられたワタシは何かこう妖精の秘密の一端を知ったような気分になってきた。「より正確に言えば、鳥の羽をした妖精が召喚されてから羽を出すことが出来るようになった時間の平均値を1とすると、コウモリ羽の妖精の場合は2、そして昆虫の羽の妖精の場合は4の時間がかかっているのだよ。ここから私達は、妖精の魔法力の強さは、鳥の羽をした妖精がもっとも強く、次にコウモリ羽の妖精が続き、そして昆虫羽の妖精が最後となると仮定した。もちろんこれは仮定であって事実であると確認されたわけではない。しかしそれを側面から裏付ける調査データも無いことはない。実は妖精に召喚される際に残された人間と妖精の会話記録を分析した結果、本来の妖精世界の社会においては、羽の種類は妖精の身分を表すものらしいという結論になっているんだな。これが。」 本来の妖精には身分の差がっ!? それっていったいどういうことなんだろう。ワタシは未知の事実を次々と知らされて、身体が小刻みに震えて興奮してくるのを抑えられなかった。
May 25, 2004
コメント(0)
「み、見たんですか……?」 裸を見られたということはいい。既に今日だけでもお風呂に着替えにと散々裸を見られたり触られたりしているから、それについてはもうどうでも良い。問題は、ワタシ自身ですら記憶が残っていない酔っぱらっていた時のことを見られたというのが恥ずかしいのだ。いったい、あの時のワタシは何をしていたのだろう?「もちろん♪ なんだったら詳しく教えてさしあげましょうか?」 今日見た中では最高の笑顔を浮かべる詩衣那さん。花が、花が飛んでるよぉ~。「い、いいです。話さなくてもいいですからっ!」 慌てて詩衣那さんに向かって両手のひらを広げた手を差し出して、発言をストップさせようとするワタシ。あせりまくりです。「あら、そう。聞きたいんじゃないかと思ったんだけど。まあいいわ。じゃあこれはまた別な機会にでも♪」 さらに笑顔をグレードアップさせる詩衣那さん。「私もちょっとだけ聞いてみたいわね。酔った時には精神の抑圧が外れるから本心が出てくるものなのよね。きっと美姫さんの心理データの補強の参考になるかも知れないわ。剣持主任、いかがですか?」 二村さんまで……。カンベンしてください。もうお酒は飲みませんからぁ~。「別な機会なんてありませんっ! ありませんよね? 剣持主任」 剣持主任が口を開こうとする前に、先を制して剣持主任に確認というか、無理やりの同意を取り付けようとするワタシ。もう必死です。だって絶対に恥ずかしい状況だったっていうことは分かりきってるんだもん。「美姫君が機嫌を損ねてしまうのもなんだから、詩衣那君も二村君もそこまでにしておきなさい。……まあ、美姫君が自分から聞きたくなったというなら、そのときにでも聞かせてもらおうか」 そうは言うものの、実際には興味深そうな顔をしている剣持主任。だ~か~ら~っ!「そんな気になんかなりませんっ! それよりも妖精が色々とイメージを思い浮かべながら羽を出し入れすることと、魔法がどんな関係があるのか早く説明してください。詩衣那さんも話を横道に逸らすようなことを言わないでくださいよ」 もう、強引に話の内容をもとに戻すしか無いと判断したワタシだった。さあさあ、さっさと話を進めましょうっ!!
May 24, 2004
コメント(0)
「二村君、比較用の画像を映してくれ」 説明をするために必要なのだろう。もう1枚のCTスキャン画像が、詩衣那さんの脳のCTスキャン画像の横に追加された。手際が良いね。「向かって左が先ほどから映しだされていた詩衣那君の脳の画像で、右側が平均的な女性の脳のCTスキャン画像だ。この部分を注意して見て欲しい。ここが脳梁だ。ここを通じて右脳と左脳は情報を交換しているわけだが……。二村君、脳梁部分を着色してくれ」 すると先ほど剣持主任が、ここが脳梁だと説明した部分だけに色がついた。妖精の詩衣那さんのほうは赤色、そして人間の女性のものだと説明されたほうは青色だ。なるほど、ここが脳梁。色がついてはじめて場所が良く分かったよ。「このままでも分かるが、より実感する為に2枚の画像を重ねてみよう」 そして仁村さんの操作にしたがって2枚のCTスキャン画像が重ねられた。おおっ! なるほど。「ひとめで分かると思うが、詩衣那君の脳梁のほうが、平均的な人間の女性の脳梁にくらべておおよそ2倍の太さを持ってることが分かるだろう。人間と妖精の肉体的な違いは、この部分にこそ有ると思う」 バンッ! と、スライドが映されている壁を叩く剣持主任。まるでそれが合図だったかのように、スライドの映写はそれで終わった。「で、妖精は人間にくらべて『のうりょう』っていうのが太いというのは分かりましたけど、それが魔法とどういった関係があるんですか?」 黙っていても説明されることは分かっていたけど、つい聞いてしまう。やっぱり魔法とか聞くとわくわくするよね。「完全に関係があるということは分からない。しかし想像は出来る。人間の場合、男性の脳梁よりも女性の脳梁のほうが平均して約1.3倍は太いのだが、それにより女性は左右の脳半球の連絡が密になり、男性よりも効率的に脳全体を使うことが出来るとされている。その脳梁が妖精の場合は人間よりも比率的に見ておよそ2倍の太さということなら、妖精は男女ともに人間よりも脳の両半球をより効率的に使うことが出来ると考えてもおかしくはないだろう。ところで、妖精は慣れてくれば別だが、最初の頃は色々とイメージを思い浮かべながら羽を出し入れするそうだね?」 質問をしながらハンカチを出して、メガネの曇りを拭く剣持主任。「ええ、そうです。ワタシの場合は、満月の光に吸い込まれるようにして浮かび上がるイメージで羽を出して、水の中に潜って身体を丸めるようなイメージで羽をしまうんですよ」 最近はもう無意識のうちに羽を出したりしまったりすることが出来るようになっているワタシだけど、妖精になってすぐにTデパートの妖精の店員さん、大島眞利菜さんに教えられた方法を思い出して答えるのだった。「そのイメージって、大島さんって方のやり方でしょ?」 詩衣那さんが話に割り込んできて、ワタシに確認をする。何だか笑っているのはなぜ?「詩衣那さんも大島さんを知っているんですか? ああ、妖精の服や日用品を買おうと思ったら大島さんのところに行かないといけないですもんね。それとも妖精の集会で会ったんですか? でも、集会の場所では詩衣那さんに会わなかったような……」 驚いた声を上げたワタシだったが、すぐに詩衣那さんと大島さんが知りあいだったとしてもおかしくはないということに気がついた。妖精の人口はまだまだ少ないからね。「このまえの妖精の集会ことなら、私も出席していたわよ。美姫さんにもちゃんと会っていたんだけど覚えてないの? ふふ、まあ覚えてないでしょうね。あれだけ酔っぱらっていたんじゃ……」 え!? もしかして酔っぱらって裸になってしまったあの時のワタシに会っていたというの!? 凍りついてしまうワタシだった。
May 23, 2004
コメント(0)
「私も初めてこの写真を見た時は、どっちが妖精でどっちが人間かということなんかちっとも分からなかったわ」 ポツリとそう口にする詩衣那さん。そうか、妖精を6年もやっている詩衣那さんでも分からないんじゃ、ワタシに分かるわけないよね。ワタシは剣持主任に対して膨らませたほっぺたを元にもどしたのだった。「というわけでその大きさの違いを別にすれば、妖精と人間には外見上の違いは見当たらないということになる。まあ美姫君みたいにナチュラルで青い髪をしていたりと人間とは違う部分も探せばあるが、色を染めてしまえば分からなくなる程度の違いでしかない」 たしかにそうかも。ワタシは自分の青色をした髪の毛をそっと触ってみた。スーツの手袋越しにも関わらず、気持ち良いぐらいにさらさらとしたその感触が感じられるようだ。そういえば横に座っている詩衣那さんはストレートの長い黒髪だ。大きさの違いを除けば、羽さえ出していなければまったく人間との外見上の違いは見つからない。「青色の目まではともかく、青い髪なんて人間じゃありえないですからね」 まあ青い髪の毛も悪くはないけどねと思いながら、ワタシは剣持主任の意見に同意した。剣持主任はそれに対してひとつうなずき、言葉を続けた。「まあそうだな。それに髪の毛の色が違ったからといって、魔法が使えるようになるとも思えない。魔法が使えるか使えないかということに関係しそうな違い。それは身体の内部構造の違いにあると思う。二村君、スライドを切り替えてくれ」 剣持主任に指示を受けて仁村さんが映し出したその写真。それは……。「機械の影響をキャンセルする装置の開発によって、妖精のCTスキャン画像を撮ることが可能になった。これは詩衣那君の脳を縦に輪切りにした画像だ。見ての通り、脳の内部が異次元空間に繋がっているとか、小さな身体に合わせて集積回路化されているとか、そんなことは無い。注意深く見ないと、まったく普通の人間の脳のCTスキャン画像と見分けがつかないだろう」 妙な言いまわしをする剣持主任。それにしてもこれが詩衣那さんの脳みそ。う~ん。色がついてたら気持ち悪いだろうなあ。「注意深く見ないと……。ということは、妖精の脳は人間とは違う部分が有るっていうことですね。どこが違うんですか?」 どうせ医学的な知識なんか無いから注意深く見てもワタシに分かるわけがない。ワタシは考える前に質問していた。これが野菜の種類の違いとかなら分かるかもしれないけど。「脳梁(のうりょう)の太さだ」 これぞ決め台詞というつもりなのだろが、剣持主任が言った言葉の意味が分からない。【のうりょう】って何?「人間、そして妖精の脳も右脳と左脳のふたつの半球に分かれている。簡単に言えば右脳は感情を左脳は論理を司り、それぞれが分かれて活動しているのだが、そのふたつの脳を連携させるための組織が脳梁だ。左右それぞれの脳半球は脳梁によって繋がれてデータの交換を行っているわけだ。その脳梁の太さが人間と妖精では違うわけだ。もちろん実際の太さは身体の大きな人間の脳梁のほうが太いから、縮尺的に見て太いという意味だがね」 よく分からないけど、ここが大事なところなんだろう。ワタシは黙って剣持主任の話を聞き続けた。それにしても妖精と人間に、その大きさ以外の明確な違いがあっただなんて……。
May 21, 2004
コメント(0)
「妖精が人間を召喚するにあたり、夢を通じて通信をして召喚に対する人間の同意を取り付けているということは、美姫君もよく知っているだろう?」 ワタシに同意を求める剣持主任。確かにそれはそうだ。なんといってもワタシは本物の妖精と話した当事者なんだから。「ええ、嫌になるぐらいに知っています。名前を教えたら召喚に同意することになるって言っておきながら、ワタシが名前を言わなくても思っただけでそれを読み取っちゃうなんてズルイですよ。『形の上の同意だけで十分です』なんて言うんですよっ!」 そもそも妖精になってしまった始まりの状況を思い出して、ちょっと興奮してしまったワタシだった。それにしても思い出すたびに怒りがこみあげてくる。ううう、もしも今度出会うことがあったらどうしてくれよう。ワタシの本来の身体を横取りしてこんな妖精の身体を押し付けたエルフィンめ~っ!「そのことだけからでも魔法というものについて分かることがある。妖精が魔法を使うことが出来るということは疑いようがない事実として、実は人間にも魔法が使えるのではないか? ということだ。妖精は人間の身体を召喚する場合、その身体の本来の持ち主である人間の意図を無視することは出来ないということ。すなわち人間には妖精の魔法に対抗するだけの力、言いかえるなら魔力があるということが推測される」 白衣を着てメガネをかけたいかにも科学者という感じの剣持主任の口から、魔法だの魔力だのという言葉が次々と出てくることに対して、ちょっと違和感を覚えながらも、ワタシはふんふんとうなずくのだった。なるほどね。「しかしいくら力があってもその使い方を知らなければ宝の持ちぐされだ。とりあえず人間にも魔法が使えるかもしれないというだけのことでしかない。だが、もう少しよく考えてみると、はたして人間と妖精はどこが違うのか? もしも人間にも魔法が使えるのなら、なぜ妖精は次元の壁を超えて人間の身体を召喚できるだけの魔力を持っているのに人間には初歩的な魔法を使える者すらいないのか? 本当に人間が魔法の使い方を知らないから使えないだけなのか? という疑問も出てくる」 そこまで言うと、剣持主任は二村さんに目で合図した。二村さんは剣持主任の合図を受け取るとうなずき返した。そして手元のパソコンを操作して、ある画像をプロジェクターで投影し、ミッションルームにあるスクリーンに映し出したのだった。何? この画像は?「妖精と人間は身体の大きさこそ違っても、不思議なことに縮尺はまったく同じだ。少なくとも哺乳類において小さな生き物ほど体温を維持する為に身体は丸くなり手足は短くなる傾向がある。なのに妖精の場合は単純に人間を縮尺しただけだ。妖精が自然の進化の果てに生まれた種族ではない可能性がここにある。まずはスクリーンを見て欲しい。右と左に写っているのは羽をしまった妖精と人間だ。見た目のサイズを同じにしてあるわけだが、美姫君。君はこの映像のどちらが妖精でどちらが人間かわかるかね?」 映し出されていたふたりの人物(?)は、どちらも平均的な日本人の女の子に見えた。このうちのひとりが妖精で、もうひとりが人間? う~ん、どっちだろう。「右、ですか? なんとなく子供っぽい顔つきをしているような気がするし……」 妖精はたいていの場合、年齢よりも若く見られることが多いから、ちょっと幼い感じの女の子のほうを選んでみた。胸も小さいし、こっちの娘が妖精だろう。うんうん、きっとそうに違いない。「残念、はずれだ。妖精は左側、右側が人間だ。妖精の美姫君にも分からないとはね」 してやったりという口調の剣持主任。もうっ! 剣持主任ったら楽しまないでくださいっ!!
May 20, 2004
コメント(2)
「と、とにかくその話はもういいから、二村君。早く話を元にもどしてくれ」 動揺を隠すためなのか、わざとらしいまでに落ち着いた態度をとる剣持主任。ワタシの横では詩衣那さんが肩をすくめている。もしかしこんなやり取りっていつものことなのかな?「はい。失礼いたしました。……それでは話を元に戻して私の本当の仕事は何かと言うと、美姫さんに今着てもらっているスーツは美姫さんの身体の状態を常にモニターしてるの。そのデータは常に私の手元に送信され続けてるわけなんだけど、どういう状況のときにどんな反応が起きるのかを調べるのが私の本当の仕事なのよ」 さっきまでのちょっとおふざけモードから態度を一変させた仁村さんはミニサイズのノートパソコンを取りだすと、そのまま電源を入れた。そして何かの画面を出すとワタシにそれを見るように促した。「美姫さんと詩衣那さんが着ているスーツには、ネットワーク機能が付いていてデータを研究所内の無線LANを介して私のこのパソコンに送っているの。もちろん今使っているこの私のパソコンにも、美姫さんと詩衣那さんが着ているそのスーツにも、機械の妖精に対する悪影響をキャンセルする機能がちゃんと付いているから安心して良いわよ」 ワタシが見た画面は上下二段に分かれており、それぞれワタシと詩衣那さんの身体状況が映し出されていたけど……。難しすぎてちっとも分からない。「なんだか分からないですけど、分かりました。それにしてもこの小さなスーツにまで機械の悪影響をキャンセルする装置が組みこんであるだなんて驚きました。すごい技術ですよね。やっぱり作るのは大変だったでしょう?」 素直に感心する心が半分、ウェイトレスのバイトで鍛え上げられたお世辞半分というところで、ワタシは『すごいですねぇ~♪』と、繰り返すのだった。「まあ、それはその……。後で分かるわよ。このスーツをどうやって作るかということについてはね」 ワタシの左肩を右手でポンと軽く叩いて、詩衣那さんが言葉を濁す。頭を軽く振っているのは何の意味だろう?「というわけで仁村君の本当の仕事は、スーツから送られてきた詩衣那君と美姫君の身体データとその瞬間における君達のまわりの環境の変化、より具体的に言うならパソコンの稼動状況やその他の機械の影響との相関関係を、どんな小さなことでも良いから発見することにある」 いつもの調子を取り戻したのか、剣持主任の独演モードが開始された。それを見た二村さんは妖精サイズの椅子を2脚取り出してそっと机の上に置くと、ワタシと詩衣那さんに座るように促すのだった。ワタシ達は軽く頭を下げるとちょこんと腰をおろした。どっこいしょっと♪「それにより本来なら妖精に対して悪影響しか与えないはずのパソコンなどの機械が、妖精に対して良い影響を与える為の条件を探しているわけだ。といっても美姫君には何のことか良く分からないだろうから、これから基本的なことを理解してもらおう。そもそも妖精とはいったい何者だということから始めなければならないのだが……」 既に全開モードなのか、徐々にテンションを上げていく剣持主任。「妖精は“魔法”を使って我々人間が住むこの世界の事情をかなり正確なところまで把握しているのは間違い無い。対して我々人間は妖精界のことを想像するしかないのだが、それでも既に妖精の召喚事件が始まってから7年以上……。召喚された元人間の妖精達からの聞き取り調査により、我々も妖精世界の事情についてかなりのところまで理解出来ているはずだ。仮に間違いが在ったとしても誤差の範囲内だろう」 妖精世界の事情……。ワタシも知りたいと思っていたことが、今、剣持主任の口から話されようとしている。ワタシは自分の心臓が高鳴るのを感じていた。いったい妖精世界とは、そして妖精とはいったい何なんだろう? 知りたい。ワタシは剣持主任の言葉に全神経を集中させるのだった。
May 19, 2004
コメント(0)
「さて、では本格的な実験に入る前に、スタッフの紹介と妖精に関して我々人間が把握していることについての説明をすることにしよう。彼女は詩衣那君や美姫君たち妖精のサポート担当の仁村智子(ニムラ・トモコ)君だ。研究所内における生活面・医療面・その他、男性スタッフには相談しづらいこと全般を担当してもらうことになる。しかしそれは副次的な仕事にすぎない。仁村君の本当の仕事については彼女の口から説明してもらおう」 ワタシと詩衣那さんがそれぞれアニメに出てくるような宇宙服によく似た『スーツ』に着替えてから詩衣那さんの部屋を出ると、廊下で待ちくたびれてイライラし始めた剣持主任に連れてこられたのは、ミッションルームと呼ばれる部屋だった。この部屋では会議の為だろうか? パソコンとそれに繋がれた大型のプロジェクターが設置してあった。パソコンが稼動しているにも関わらず気持ち悪くならないのは、やはりここにも妖精に対する機械の悪影響をキャンセルする装置が設置してあるからなのだろう。一安心だね♪「はじめまして。美姫さん。今、紹介を受けた通り、研究所内であなた達に対するサポートを担当させてもらう仁村智子よ。よろしくね。それにしても報告書は読ませてもらっていたけど噂どおりの美少女妖精さんね。とても人間だったときには男の子だっただなんて信じられないわ」 ミッションルームに置いてあるテーブルの上に立っているワタシに右手の人差し指を差し出す仁村さん。おそらく握手のつもりなのだろうと判断したワタシは、仁村さんの人差し指を両手でつかむと大きく揺すったのだった。「こちらこそよろしくお願いします。仁村さん。あの……、この場ではともかく、何も知らない人の前ではワタシが人間だった時には男の子だったということは秘密にしてくださいね。……なんだか恥ずかしいですから」 にこやかに挨拶をすると同時に、一応念の為に釘を刺しておくワタシ。妖精になっていることは見れば分かることだから隠しようが無いのだが、妖精に召喚されると同時に性転換もしちゃったということは、隠せるものなら隠しておきたいのだ。最近のワタシがなるべく女の子らしく振舞っているのもこんな理由だったりする。しかし見るべき人が見れば、性転換した妖精を見分けるのは簡単らしい。世の中、何事にも専門家というのが居るということなんだろう。 「妖精に召喚された人間の半分は性転換もするんだから、特に恥ずかしがることでも無いとは思うけど……。でも、分かったわ。美姫さんがそれを望むなら私はそれをかなえてあげるのが仕事。美姫さんを生まれながらの女性として接すれば良いのよね?」 考え込む様子も見せずに即断する仁村さん。さばさばとした態度が、何だか今のワタシよりも男性的かも?「生まれながらの女性としてというのもなんだか恥ずかしいですね。いや、まあそれで良いんですけど」 改めてそう言われると、どっちに転んでもやっぱり恥ずかしいのかもしれないなと思ったりするワタシだった。ちょっと笑顔がヒクついてしまう……。「美姫さんの今の姿は完全な女性なんだから、女の子として扱ってもらうほうが良いと思うわよ。これから先、女性として生きていく時間のほうが長いわけだし」 横に立っている詩衣那さんが、ワタシの膨らんだ胸を触るか触らないかの微妙な間合いで指差した。うう~っ、身体のラインが丸分かりの服がこんなにも恥ずかしいものだとは知らなかった。やはり何事も経験してみないと分からないことってあるんだなあ。「からかわないでください。恥ずかしいのを我慢して着てるんですからね」 詩衣那さんの指先から逃げるように身体をよじると、ワタシは右手で胸を隠し、左手では股間を隠すように手を当てるのだった。なんだか身体に密着したこのスーツを着ていると、裸でいるような錯覚に陥るんだもん。着心地良すぎて何も着ていないようにも思えてくるし。 「恥ずかしいと思うから恥ずかしいのよ。むしろそんなポーズを取っているほうが萌えられちゃうわよ」 ククッと、軽く笑うと、同意を求めるように剣持主任にウィンクをする詩衣那さん。「し、詩衣那君。君は私に何が言いたいのかね?」 珍しく動揺するそぶりを見せる剣持主任。横では仁村さんも手を口に当てて笑いを堪えている。何がどうしたっていうんだろう?「そう言えば、『美姫君のスーツの色は白にしなくちゃならないんだっ!』って、強硬に主張したそうですね。上田さんがぶつくさ言ってましたよ。『詩衣那さんと同じ赤色のスーツならすぐに用意出来るのに、主任は何を考えてるんだ』ってね」 そして上司を見る目とはとても思えない目でチラリと剣持主任を見ると、仁村さんはワタシに向かってこっそりと話しだした。「青い髪をしたショートカットの女の子には、白色のスーツが良く似合うんですって♪ 知ってる? 主任の研究室にはその手のフィギュアが山のように飾ってあるのよ。まったく学生時代からずっとオタクなんだから。美姫さんのそのスーツも見る人が見ればどこからデザインを持ってきたかすぐに分かるはずよ」 いったい何のことだろう? 私は首をひねりながら剣持主任の顔をうかがうのだった。「いいじゃないかっ! 美姫君をひとめ見た瞬間に、これは綾波レイだっ! 彼女には白いスーツを着せるしかないって、思っちゃったんだからっ!!」 逆切れした剣持主任は顔を赤くしながら二村さんに反論する。それにしても、……オタクだったんだ。剣持主任ってオタクだったんだ。ワタシの剣持主任に対する評価が5ポイント低下したのは言うまでもない。それにしてもワタシが綾波レイ? なつかしのアニメ特集でしか見たことないけど、ワタシってそんなにもあのキャラクターに似てたかな? う~ん、今度誰かに聞いてみよう。
May 18, 2004
コメント(1)
「ええ、意識して見たのは初めてです。妖精の羽って光が実体化? ……して出来たものだったんですね。詩衣那さんがゆっくりと羽を出してくれたから分かりました」 自分にも羽があるから羽については何の不思議な感情も持っていなかったけど、改めて考えるてみると確かに妖精の羽は魔法によるものだと言われても何の不思議でもないかもしれない。妖精って不思議っ!「妖精の羽はともかく、このスーツのこともよく分かったでしょ? ちゃんとスリットが自動的に開くように出来ているっていうことが。というわけで安心して羽をだして良いのよ」 そのまままたふわりと宙に浮くと、早くおいでと空中から手招きをする詩衣那さん。赤いスーツに身を包んだその姿、なんだかとってもカッコイイです。「分かりました。がんばりますっ!」 気合を入れて羽を出そうと意気込むワタシ。それを見て詩衣那さんは笑い出した。えっ?「あははは、美姫さんったら、そんなにも力んじゃったら却って逆効果よ。このスーツの反応速度の問題もあるからゆっくりめに羽を出すぐらいがちょうど良いの」 ゆっくりとね♪ と、繰り返しながらテーブルの上に立つワタシの頭上を舞っている詩衣那さん。ゆっくりとしたその動きはまるで本物の蝶のよう。「ゆっくりめに羽を出すんですね。やってみます」 そしてワタシはいつもよりも大きく吸い込んだ息をゆっくりと吐き出しながら背中から羽が少しずつ伸びていく様子をイメージした。すると背中に当たるスーツの内側に何か力を感じたと思った瞬間、なぜかスーツの背中の部分に羽を出す為のスリットが生じたことが理解出来た。まるで自分の目で見て確かめたかのように。この感覚、まるでスーツから何かが逆流してくるかのような……。「そうそう、その調子よ。うん、ちゃんとスーツは機能してるわ。すごいすごい」 大げさにはしゃぐ詩衣那さん。……ちゃんとスーツは機能しているって、それはもしかして!?「詩衣那さん、それ、いったいどういうことですか?」 大きく広げた真っ白で天使のような鳥の羽を羽ばたかせ、詩衣那さんと同じ高さにまで浮かび上がると、今の疑問をぶつけてみた。何だかそこはかとない不安が出てくるのはなぜ?「いえ、ただね、そのスーツの背中の仕組みの作動に関しては私のデータを流用しているから、美姫さんが羽を出すときの兆候をちゃんとスーツが拾えるのかな? ってちょっと心配だったのよ。まあ、大丈夫だとは思っていたけどね。実験成功っ! てね♪ あははは……」 笑ってごまかす詩衣那さん。もうっ! 実験するならするって言ってよ。「実験成功って、それじゃあワタシはモルモットですか?」 ぷうっと膨れるワタシ。白い服を着て膨れたらまるでオモチかもしれない。もうはじけちゃっても知らないからね。「まあまあ、怒らない怒らない。美姫さんはやっぱり白い羽の妖精だけあってスタイルは良いわね。さすがだわ」 ワタシのちょっと幼児体型に限りなく近いこの身体が、良いスタイル? それに白い羽の妖精だから何だって言うの?「おーい。もう着替えは終わったんだろ。時間が無いんだから早く出てきてくれ。すぐにでも状況説明に入りたいんだが」 いったい白い羽の妖精が何だっていうんだろうという疑問を詩衣那さんに問い掛ける間もなく、ドアの外からイライラとした剣持主任の声が聞こえてきた。もうコーヒーは飲んできたのかな?「分かってます。ミッションルームですね。今行きます。さあ、美姫さん、行きましょう♪」 詩衣那さんとワタシは空中で手をつなぐと、妖精用の小さなドアから部屋の外に出たのだった。もちろんその場でワタシの疑問が解消されることは無かった。いったい何がどうなっているんだろう。ワタシを取り巻く状況が急に変化してきたような予感かも……。
May 16, 2004
コメント(0)
「良く似合ってるわよ、美姫さん。じゃあそのまま羽を出してみてくれる?」 赤いスーツからまるで直接生えているかのような紫色の蝶の羽をゆっくりと動かすと、詩衣那さんはふわりと浮き上がった。まさに飛ぶというよりも浮き上がるという感じで、なんだかとても優雅に見える。「ハイッ! ……でも、大丈夫ですよね? ちゃんとスーツの背中に羽を出す為のスリットが出てくるんですよね。嫌ですよ。スーツの中に羽が閉じ込められちゃうのは。妖精の羽は魔法で出来ていて妖精の本当の身体ではないって言いますけど、乱暴に扱うと痛みを感じるには違いないんですから」 パソコンや携帯電話等の機械からの妖精に対する悪影響を打ち消しちゃうすごい機械を開発したりしているこの研究所のことだから、たぶん大丈夫とは思うけど、やっぱり不安が口に出てくる。何事も初体験というのは期待半分恐怖半分ということなのだろう。少しずつ脈拍が上がってくるぅ~。「心配しなくても大丈夫。……そうだ、美姫さん。私のスーツの背中を触って確かめてみてくれる?」 詩衣那さんはふたたびテーブルの上に着地すると、まずは背中の羽をしゅるりとしまったのだった。そしてワタシの不安を和らげる為に、開口部がピッタリと閉じられているその赤いスーツの背中をワタシに示すのだった。「じゃあ、失礼します」 促されるままに詩衣那さんが着ているスーツの背中を触ってみると、ちょとばかりでこぼことしている部分はあるもののさっきまでここから羽が出ていたとはまったく思えない。少なくとも表面上スーツにはまったく開口部は見当たらない。ちなみに自分の背中に手を伸ばして触ってみると、やはり同じような感触があった。「完全に閉じてるでしょ? じゃあこのまま羽を出すからよく見ていてね」 そしてよく見えるようにゆっくりと羽を出す詩衣那さん。自分自身も妖精であるにもかかわらず、妖精の背中から羽が出る瞬間をじっくりと見たことが無いことに気づいたワタシは食い入るようにそれを見るのだった。興味津々~♪「あっ!?」 詩衣那さんの背中から羽が出てくる瞬間を見終わったワタシは、それが自分の今までのイメージと違うことに気が付いて思わず声を上げてしまった。なんとなく今まで妖精の羽は、地面から植物の種が芽を出すような感じで『生えてくる』というイメージを持っていたのだけど、ワタシが見たもの……。それを一言で言えば『投影される』というか、霧が晴れていくとともにそれまで見えなかった存在があらわになってくるというか……。「もしかして妖精の羽が出てくる瞬間をまじまじと観察したことは無かったのね」 そして詩衣那さんはそれから2~3度続けて羽を出したり入れたりして、その様子をじっくりと私に見せてくれた。妖精の羽が出るとき、まずは背中の羽が出る部分がスーツ越しにも分かるように光ったかと思うと間を置かずしてスーツの背中に切れ目が入り、そこからシャワーのように光が伸びてきてそのまま羽の形となってくる。そしてみるみるとその光の羽が実体化して蝶の羽になったのだった。ちなみに羽がなくなるのはその逆のプロセスだ。……妖精の羽がこんなふうに出てくるだなんて、普段気にしていなかったから気がつかなかったよ。いやあ、身近に不思議って存在するんだね♪
May 15, 2004
コメント(0)
「ホント、すごいですね。すごいとは思いますけど、このスーツ1着でいったいいくらのお金がかかっているんですか?」 半ば感心、半ばあきれ返りながらワタシは溜息をついた。きっととんでもない額のお金がかかっているんだろうなあ。さすがに大企業というかなんというか。「そうねえ、開発費も含めるということなら軽く家の2~3軒は建つぐらいの金額ってところかしら? 私も詳しくは知らないんだけど、前に一度そう聞いたことがあるわ」 家の2~3軒っ! それってもちろん人間の住む家のことだよね? まさか犬小屋が2~3軒って落ちは無しだよ。「妖精用の服とかは値段が高いってことは常識ですけど、それにしても高すぎませんか?」 そう言うのが精一杯のワタシ。あきれ返り度急上昇です。ホント、お金ってあるところにはあるものなんだね。感心しちゃうよ。「開発費にはこのスーツを製造する為の機械や、着用者の状態をモニターするシステムの分も含まれているからそんなもんじゃないかしら。ああ、もちろん家の2~3軒というのは1着あたりの値段だからスーツというもの全体にかかった費用はそれこそ億単位のはずよ」 着心地を確かめるかのようにゆっくりと身体を動かしてストレッチをする詩衣那さん。なんでそんなにも平然としていていられるんですかっ! 億単位と聞いてワタシは身体が硬直しちゃっているのに~っ!!「億単位だなんて、いったいここの人達は何を考えてるんですか!?」 妖精の魔法を研究するためとは言っても、そんなにもお金をかける必要があるということがワタシにはどうも実感出来なかった。頭ではなんとなく分かるんだけど、感覚がついていけない貧乏人なワタシだった。「戦闘機や護衛艦を開発するのに比べたらほんのポケットマネーみたいなものよ。しかももしもこれで妖精の魔法が自由に使えるようになったとしたら、効果は計り知れないわけだしね♪」 笑顔で答える詩衣那さんを見て、ワタシは世の中にはワタシの知らない世界があるんだなあと思うしか無かった。う~ん、その日の生活にも困っているような妖精もいるのに、この差はいったい……?「さあさあ、いつまでも呆れてないでスーツを着ないと。慌てず、でも急いでね」 確かにいつまでも剣持主任を部屋の外で待たせて置くわけにもいかないし、早く着なくちゃ。ワタシは腕をスーツに入れて伸ばすのだった。……そうか、気がつかなかったけど手袋まで一体化しているんだ。これにヘルメットを被ればまさに宇宙服だよ。「着ました。これで良いですよね?」 首までジッパーを上げたワタシは詩衣那さんに向き直ると、スーツの状態を確認してもらった。それにしてもこのスーツ、ワタシのサイズにピッタリ……。思ったとおり身体のラインが完全に出ちゃうよ。着心地も良いからまるで裸でいるみたいで何だか顔が赤くなっちゃう。こんなにも身体にピッタリと密着する服なんて初めてなんだもん。
May 14, 2004
コメント(0)
「どうですか? これだけ塗れていれば大丈夫でしょう?」 クリームを塗り終わったワタシが詩衣那さんに問いかけたとき、ちょうど詩衣那さんは赤色のスーツに手足を通し終わり、ジッパーを引き上げようとしているところだった。スーツは身体の前にくる部分が首のところからおへそのあたりまで開いていて、ジッパーを上げて閉じるようになっているらしい。……よくもまあ妖精サイズのジッパーなんか開発出来たよね。市販品の服はみんなボタン留めが基本なのに。「そうね、見たところ満遍なく塗れているみたいね。……残念だわ」 肉を挟まないようにだろうか? ゆっくり慎重にジッパーを上げる詩衣那さん。何だかこのスーツって着るとボディラインがハッキリと出るから、フリフリのエプロンドレスなんかよりも恥ずかしいかもしれない。「何が残念だって言うんですか?」 答えは分かっているので非難を込めて質問するワタシ。もうっ!「もしも塗りムラがあったら塗ってあげようかと思っていただけよ。ただそれだけ♪」 だから『それだけ』が問題なんですよ~っ! と、心で叫ぶ。でも表情には出ちゃったかもしれない。詩衣那さんがワタシの顔を見てくすくすと笑ってるし……。「ともかく、クリームはちゃんと塗りましたから今度はスーツを着れば良いんですよね?」 テーブルに置かれたスーツケースからワタシ用の白いスーツを手に取ってみる。思ったよりも重いのに肌ざわりは柔らかい。コットンでもシルクでもなければ、ナイロンというわけでもない。いったいどんな素材で出来ているのだろう。ゴムのようでもあるし、そうでもないような気もする。「おーーいっ! いいかげん着替え終わったんだろうね?」 スーツを広げて、さて着ようか? と思った瞬間、ドアの外から剣持主任の声がした。どうやら待ちくたびれてきたらしい。は、早く着なくちゃ。「もう少し、待ってください。あと、ワタシがスーツを着たら終わりですっ!」 今、ドアを開けられたら裸に紙オムツだけという情けない姿を見られてしまう。ワタシは慌てて答えると、アニメに出てくる宇宙服のようなその白いスーツに足を入れるのだった。おおっ! 何だか肌に密着してくすぐったいっ!!「美姫さん、あんまり慌てちゃダメ。そのスーツの内側にはこれでもかってぐらいに電極が付いていてそれぞれが微細な線で結ばれているから、無理な力を込めてスーツを着たらその線が切れてしまうかもしれなわよ。特に背中の部分には気をつけてね。」 詩衣那さんは背中から紫色をした蝶の羽を出して、ワタシにその背中を向けた。「!? スーツを着たままでも羽を出せるんですか? でも、背中の部分には羽を出すためのスリットが無いですよ」 驚きの声を上げて、着かけのスーツの背中の部分を見てみるワタシ。……確かにスリットなんか開いてないよね。う~ん。「どう、驚いたでしょ? 初期型のスーツではこうは行かないけど、最新式のものだと背中の内側の部分に取り付けられた電極が、羽を出す際の微弱な筋電位の差を察知して普段は閉じている背中のスリットを瞬時に開くような仕組みがあるのよ。だから特にスーツの背中の部分は複雑に出来ているから注意してね」 その言葉を聞き、さらにまじまじとスーツを確かめてみるけど……。ダメだ。どこにスリットがあるかということすら分からない。もしかしてもしかすると、このスーツってものすごい物なのかも!?
May 12, 2004
コメント(0)
「なんで分かっちゃうんですかっ!?」 悲しい妖精の性で、ついつい本音を白状してしまうワタシ。ああっ! こんなこと言うつもりじゃ無かったのに!!「だって美姫さんの表情ってくるくると変わるんですもの。何を考えているかだなんてお見通しよ。……そうねえ、適当に塗るのはまずいから、私が塗ってあげようかな?」 テーブルの上に置かれているワタシ用のクリームが入っているビンを拾い上げると詩衣那さんは胸の前でビンを両手で軽く持ち、ワタシに向かって笑いかけた。視線がつい胸のほうに……。「遠慮しておきます。自分だけでちゃんと塗れますから」 風呂場で触られまくったのに、さらにここで触られるのは嫌すぎる。瞬間的にそう判断したワタシは、丁重に詩衣那さんの申し出を断ったのだった。だって詩衣那さんの触り方って激しいんだもん。「あらっ♪ 『自分だけでちゃんと濡れる』だなんて、美姫ちゃんったらもう『妖精狂いの季節』になっちゃったの?」 小さく開けた口を握りこぶしを作った右手で隠す詩衣那さん。目がにやけてます。まったく、妖精ってみんなこういうことにしか興味がないのだろうか?「勝手に変な誤解をしないでく下さい。自分でちゃんとこのクリームを塗ることが出来ると言っただけです」 これ以上つきあってられませんとばかりにワタシは詩衣那さんの左手に握られているビンを奪い取ると蓋を開け、ねっとりとするクリームを身体に塗りつけた。うひゃっ! 意外に冷たい感触……。「あはははは、ごめんなさい。怒らないでよ。普段、妖精同士でおしゃべりするだなんてことが無いものだから、ついはしゃいじったのよ。許してね♪」 ごめんと手を合わせてウィンクをする詩衣那さんを見て、ワタシもちょっと反省した。「そうですね。妖精同士仲良くしましょう。でも、触りまくられるのは嫌ですからね」 そう言えばワタシの身の回りには付きまとうようにして守銭奴で色魔な妖精の海斗が居るけど、ここだけの話、海斗が居ることによってずいぶんと助かっているかもしれない。人間の間に妖精がひとりだけでいると、どうも保護されるべき対象ととしてしか妖精を見ていない雰囲気が伝わってきてちょっと嫌なのだ。でも海斗と居る時のワタシは、人間の時には当たり前だった相手と対等であるという感覚を持つことが出来るからだ。 頭では妖精も人間も対等だとは理解出来るのだけど、どうしても身体の大きさがこんなにも違うとね……。「良かった。美姫さんに嫌われてなくて。じゃあ、美姫さん。私は先にスーツを着ているから、美姫さんも早くそのクリームを身体に塗っておいてね」 そして詩衣那さんはスーツケースの中から鮮やかな赤色をしたスーツを取りだした。おおっ! たたまれていた時には気がつかなかったけど、全身ひとつなぎになっているんだ。人間だったときも含めて、こんな服を着たことなんか無いけど、ちゃんと着れるのかな?
May 11, 2004
コメント(0)
「あの……、これは?」 宇宙服っぽいスーツとはいえ所詮ただの服に過ぎないはずなのに、なんで服を着るのにこんなものが必要なんだろう。というかそもそもワタシが着なくちゃいけないのは本当にただの服なの?「スーツの内側には私達の身体の状態をモニターするために各所に電極が取り付けてあるの。その電極と身体の間に隙間が出来ないようにこの導電性のクリームを塗っておくのよ。ほら、こうするの。なるべくまんべんなく塗るのがコツなのよ」 ビンの蓋を開けて中から半透明のゲル状のクリームを手のひらにたっぷりと取ると、詩衣那さんは自分の身体にそれを塗りつけた。腕や脚、そしてお腹から胸へとクリームを延ばしていく。詩衣那さんの胸に伸びる白い手……。その手が通過したあとの胸はてらてらと濡れて光っている。ちょっと、目が離せません。ワタシもまだ男の子の感覚が残っているのかな? ドキドキ。「美姫さん」 じっと詩衣那さんを見ていたワタシにを呼ぶ詩衣那さんっ!「ち、違いますっ! 見とれてなんかいませんっ! 誤解ですってばっ!!」 慌てて詩衣那さんの胸から目をそらすワタシ。くるりと回れ右をして詩衣那さんに対して背中を向ける。しかし考えてみると今までずっと裸同士でいたのに、なんで急にこんな気持ちになるんだろう。やっぱり完全な裸よりも一部でも隠されたほうが微妙な気持ちになっちゃうんだろうなあ。うにゅにゅ~。「女同士で恥ずかしがってどうするの? だいたい美姫さんが私の裸を見たって怒りゃしないわよ。今まで散々見せ合ってるんだし。それよりもこっちに来て。背中にこのクリームを塗ってくれる?」 ワタシは自分用に受け取ったクリームをテーブルの上、主観的には床の上に置くと、詩衣那さんから使いかけのクリームを受け取った。そして……。「あの、このクリームを塗るには、詩衣那さんに触らないといけないんですけど……」 手にクリームをつけたまま、詩衣那さんの背中を目の前にして動きが止まってしまうワタシ。うう、ホントに良いのかな? 触っても……。「もちろん触っても良いに決まってるじゃない。美姫さんったら、おかしなことを言うのね♪」 その言葉に励まされて、詩衣那さんの背中にクリームを塗ろうと手を伸ばすワタシ。自分以外の妖精の肌を間近でここまでじっくりと見たのはもしかするとはじめてかもしれないけど、詩衣那さんの肌ってきれいだなあ。さわったらすべすべなんだろうなあ。「そうですか。じゃ、じゃあ塗りますよ。良いですね」 そして半ばかちんこちんになりながらも、薄く広く詩衣那さんの背中にクリームを延ばすように塗るわたし。ああっ! 今、指が詩衣那さんの胸を脇から触っちゃったかもっ! 怒られたりしないかな?「ふう~、自分で背中にクリームを塗るのは大変だから、美姫さんが手伝ってくれて良かったわ」 どうやら今、ワタシが詩衣那さんの胸を触ったことを追及はされないみたい。やれやれ一安心。「いえ、たいしたことはしてませんから」 ぷるぷると頭を振りながら返事をする。さて、それは良いけど、今度はワタシもこのクリームを塗らなくちゃいけないんだよね。うーん、まあ適当に塗っちゃおうかな?「今、『適当に塗っちゃおうかな?』なんて考えてるでしょ? 美姫さんったらダメよ。それじゃあ正しいデータが取れなくなっちゃうわ」 まるでワタシの考えたことをそのまま読んでいるかのようなタイミングでの詩衣那さんの発言は、ワタシの心臓の鼓動を30%程度早くしたのだった。び、びっくりしたぁ~っ!!
May 9, 2004
コメント(0)
「こ、これは……」 テーブルの上に置かれている開かれたスーツケース。そこに入っていたのは、まるでアニメに出てくるような宇宙服に良く似たスーツ(?)が入っていた。鮮やかな赤色をしたものと、光るような白色のスーツの2着だった。ええと、白いのがワタシのだったっけ?「美姫さん、スーツを着る前にまずはこれを着けて」 慣れた手つきでスーツケースの中からなにやら白くて小さなものを取り出した。2着のスーツと一緒に入っていたらしい。何だろう? 「なんですか? これ……。ええと、この形はまさか……?」 詩衣那さんから手渡されたもの。それは妖精サイズであることを除けば、とあるものに酷似していた。というかそのまんまの形だった。この形、そしてこの感触っ!「そう、紙オムツよ。見た目は薄いけど、あの部分に当たるところには最新の技術で作られた吸水ポリマーが使われているから、2回ぐらいまでなら十分に吸収できるわよ」 オムツを広げて中を見せながら説明する詩衣那さん。ほらほらここを見てよと言わんばかりに、私の目の前にオムツを持ってくる。確かにオムツにしては全体的には非常に薄く出来ているのに、アソコに当たる部分がちょっと分厚い。「でも、なんでこんなものが必要なんです? トイレに行けばいいだけじゃないですか? オムツをはかなくちゃいけないだなんて……」 妖精になりたての日、食べすぎでおなかを壊してしまったワタシは生理用ナプキンで作ったオムツをはいていたことがあるけど……。あれは恥ずかしかった。もう二度とオムツなんかはきたくないのに~っ!「ぶつぶつ言わないの。このスーツはいったん着たら脱ぐのは大変なんだから、オムツでもはいてないとそれはもう大変なことになっちゃうのよ。わかるでしょ?」 まあ、確かにそれは分からなくはないですけど……。やっぱりオムツは嫌だなあ。「どうしてもはかなくちゃだめですか?」 念のために抵抗してみる。しかしその抵抗は無言のうちに粉砕されてしまった。「えっ、何? 何か言った?」 ワタシがオムツを手にして迷っている間に、詩衣那さんはさっさと自分のオムツをはいていたのだ。でも、何でだろう。まったくの裸よりも逆にエッチぽいかも。「……いえ、なんでもないです」 ここで行われる研究に協力すると言った上に契約金まで既にもらっている立場のワタシとしては、恥ずかしいからという理由だけではいつまでもオムツをはくことに対して拒否は出来ない。しょうがないか。恥ずかしいけどオムツをはいたまま外に出ろと言われているわけじゃないし。「あら、そう。……じゃあ、オムツをはいたらこれを身体に塗ってね」 しぶしぶとオムツをはいたワタシ。それを見て詩衣那さんはスーツケースから今度は口広のビンをふたつ取り出すと、ひとつをワタシに手渡すのだった。……? 何? 今度はいったい何なの?
May 8, 2004
コメント(0)
「そのままじっとしていて。まずは身体を拭かなくちゃね」 言われるままにじっとしていると、詩衣那さんはタオルを取りだすとまずは自分の身体を軽く拭いて水滴をぬぐい取ると、今度はワタシの身体に新しいタオルをかぶせたのだった。「気持ちいい。このタオル……」 妖精の肌は人間よりもはるかに敏感なので、人間用のハンカチですらまるでシートのようにゴワゴワ感じるのに、このタオルはまったく違っていた。ワタシの家にも妖精用のタオルがあって、かなり柔らかい生地で作ってあると思っていたけど、このタオルときたらもう感触がまるで違うのだ。欲しいかも……、このタオル。「そうでしょうね。おそらく美姫さんの持っているタオルは、いくら妖精用のだと言ってもしょせんは市販品でしかないものね」 というからにはこのタオルは特注品なのだろか? でもこの肌触りならそれも納得出来るような気がする。ホントに気持ちいいんだもん。「特注品ってことは高いんですよね」 タオルの感触を確かめつつ身体に付いた水分を拭き取っていく。それにしても詩衣那さんの裸って、何だか格好いい。プロポーション抜群でワタシの幼児体型とは大違い。まあ、妖精狂いの季節にはまだ少し早いから胸のほうはワタシといい勝負って感じだけどね。それでもちょっとだけ負けちゃっている……、のかな?「素材からして違うから高いわよ。値段を聞かなかったほうが良かったって、言うぐらいにね♪」 詩衣那さんの言葉は冗談に聞こえなかった。す、すごく高いんだ。「ははは……。じゃ、じゃあこのタオルはここに置いておきますね」 下手に扱って破ってはいけないと思ったワタシは、水分を吸って重くなったタオルを畳むと風呂場の入り口に置いた。うう、使用料なんて取られないよね?「ふふっ、心配する必要ないのに。じゃあ次は髪の毛を乾かしましょうか?」 タオルで身体を拭き終わったワタシたちはドライヤーで髪を乾かした。とは言っても妖精サイズのドライヤーがあるわけではない。比較的小さめのドライヤーが設置してあるので、そこから出てくる温風に頭を突っ込み乾かすのだ。……あちちっ! ちょっと近づき過ぎちゃった。「さてと、では剣持さんが持ってきてくれたスーツを着ましょうか? もうコーヒーを飲み終わった頃かもしれないし」 冗談っぽくそういうと、詩衣那さんは裸のまま部屋の中央に向かって飛び立った。白い裸身に紫色の蝶の羽。その姿はまるでおとぎ話に出てくる本物の妖精のようだった。……いや、ワタシたちも本物の妖精には違いないんだけど。「詩衣那さん、待って下さい。下着っ! はき忘れてますよっ!!」 本気でそう思ったワタシは大声を上げた。ついでに自分もショーツを手に取ると急いではこうとしたのだが……。「良いのよ。美姫さん。スーツは下着も何もつけずに裸のままで着るんだから。そのままで良いから早くおいでなさいな」 空中でくるりとこちらを向くと、詩衣那さんは『早く、早く』と、ワタシを手招きした。って、え~っ! 裸のままって! スーツっていったいどんなものなの!?
May 6, 2004
コメント(0)
「準備にはもう少し時間を下さいな。剣持さん」 何事も無かったかのような返事をすると、詩衣那さんはワタシから身体を離した。うわっ!? 身体が離れる瞬間っていうのもまた……、感じるかも。「それにしても残念ね。続きはまた次の機会にしましょう。じゃあ美姫さん、石鹸の泡をさっさと洗い流して急いでお風呂から出ましょう」 シャワーのお湯をワタシにかけながら、それでもさりげなく身体に触ってくるのは良いとしても……。良いんだろうか、ホントに……。ワタシは頭の片隅で疑問を感じながら、詩衣那さんには何を言っても無駄なような気がしていた。やっぱりなんというか、『お嬢様っ!』なんだねえ~。「さっさとしなくちゃいけないんだったら、用事も無いのに身体に触らないでください」 ちょっと身をよじらせながら抗議する。しかしその抗議の声も、自分で言うのも何だがあまり説得力があるような感じではない。やはりこれは……。「感じながら言われてもねえ。正直に言いなさい。こうされると気持ち良いんでしょ?」 そのままワタシの小さな胸のふくらみの下の部分を持ち上げるようにして触る詩衣那さん。にゃあ~っ!!「あひゃっ!」 思わず意味不明な叫び声をあげるワタシを見て余計に面白がる詩衣那さん。ワタシはまるで純情な女の子のように両手で胸を隠すのだった。……まあ、純情かどうかはともかく、女の子であることは間違い無いんだけど。「おーい、詩衣那君。今、美姫君の叫び声が聞こえたような気がするんだけど、また遊んでいるんじゃないだろうね?」 ドア越しに聞こえる剣持主任の声。そうなんです。遊ばれているんですよぉ~。たすけて……。「遊んでなんかいませんわ。今、美姫さんの身体を洗ってあげているところです」 きっぱりと言いきる詩衣那さん。確かに身体を洗ってもらっているのに間違いはないけど、遊ばれていることにも間違いが無いと思いますっ!!「……分かった。遊んでいるんじゃなくて、真剣に楽しんでいるんだね。まったくっ! ということはまだ2人は風呂場にいるわけだ。じゃあ今のうちにスーツを部屋の中に入れておくから、着替えたら呼んでくれ。いいねっ!!」 そしてドアが開く音と、部屋の中央にあるテーブルの上に何かが置かれて、パチッ、パチッという音が聞こえた。「詩衣那君と美姫君のスーツを置いておくからね。まあ、間違えないとは思うが詩衣那君のスーツはいつもと同じで赤色、美姫君のスーツは白い色をしたほうだからそれぞれ自分のスーツを着てくれ。慌てなくていいからなるべく急いで欲しい。それじゃあっ!」 それだけを言い残すと、剣持主任はまた部屋の外に出ていったようだった。そうか……、詩衣那さんもワタシと一緒にに着替えるんだ。「分かったわ。なるべく急ぐようにするけど、コーヒーを一杯飲む時間ぐらいはあるかもしれないわよっ! 聞こえた?」 詩衣那さんとワタシは身体からお湯を滴らせなが風呂場を出たのだった。ふう~、これで解放された。……のかな?
May 5, 2004
コメント(0)
「やめてください。もしかして詩衣那さんもワタシに『巣篭もり友達』になれと言うんですか? そんな気はありませんからね」 逃げようとして下手に身体を動かすと、ワタシの背中に密着した詩衣那さんの胸の感触を嫌でも感じてしまうので、ワタシは動くに動けずにいた。こ、硬直状態ですぅ~。「ふふっ、『巣篭もり友達』ね♪ それを考えた時にはまさかここまで世間一般に広がるとは思わなかったけど、もうすっかり受け入れられたみたいね。妖精の間では……」 私の耳元で軽い笑い声を漏らすと、意味深な言葉をつぶやく詩衣那さん。なんだかそのセリフって……。「そんな言い方だと、まるで詩衣那さんが『巣篭もり友達』を考え出したというように聞こえますけど……」 動くに動けない私は口を動かすことしか出来ない。まさかと思いつつも訊いてみる。ホント、まさかね。「だって本当に私が考えたんですもの」 さらりと言う詩衣那さんの言葉に、私は耳を疑ってしまった。「まさか本当なんですか? だいたい、どうしてそんなことがっ!?」 先程から話に出ている『巣篭もり友達』とはいったい何かというと、妖精には発情期というものが存在し、その時の激情(?)に抵抗するのはほぼ不可能に近いらしい。しかし妖精用の避妊具というのはまだ開発されていないので男女間でそのようなことをしていると必ず妊娠してしまう危険性がある。それを回避する為の同性同士の一時的な恋人のことを『巣篭もり友達』といい、発情期である『妖精狂いの季節』には延々とアレやコレやソレをし続けるのだという。まったくなんて習慣なのっ!「だってそうでもしないと妊娠しちゃうんですもの。私、欲望に任せて子供を作るだなんてことだけはしたくなかったの。だから妖精になって初めての発情期を迎えた時に、『妊娠しないためには、女同士でやったらどうかな?』と思ったわけ」 ワタシのの腹部を触っていた詩衣那さんの右手が、そろりそろりと胸のほうへとせり上がって来ているのをワタシは感じていた。話されている内容といい、この態度といい、もしかしてワタシったらまたまたピンチですか?「でも、詩衣那さんの前にも妖精に召喚された人がいるはずですけど、それまでは誰も『巣篭もり友達』ということは考えつかなかったんですか?」 とりあえず詩衣那さんが話すことに集中してくれたら、ワタシの胸に伸ばされつつある手もストップするのかな? そんなことを期待しつつ、質問をしてみた。「いなかったみたいよ。まあ、私がその発想を思いついたのも、人間だった頃から私の恋愛対象が女の子だったからかしらね。元々、男なんかよりも可愛い女の子のほうが好きだしね」 ああ~、やっぱり普通じゃないんだ。詩衣那さんってば。どうしよう……。「というわけで、美姫さん……」 そして詩衣那さんの右手はワタシの胸に、左手はワタシの股間へと伸びつつあった。その時っ!!「詩衣那君っ! 美姫君のスーツを持ってきたけど、もう準備はOKかい?」 扉をノックする音と、部屋の外から聞こえてくるその声っ! ああっ、剣持主任っ!! 助かりましたぁ~。
May 4, 2004
コメント(0)
「そ、そんなこと決まっているじゃないですか……」 そうは言ったものの何がどう決まっているのか自分でもよく分からなくなり、そのまま言葉が出なくなってしまった。「今の女の子な身体に合わせて、恋愛の対象は男の子というわけね。いったいどんなタイプの男の子が好きなのかしらね? 美姫さんは」 風呂場の中に据えられた蛇口をひねり、シャワーからお湯を出す詩衣那さん。おおっ! 妖精サイズのお風呂なのにちゃんとシャワーからお湯が出るんだ。いいなあ……。じゃなくて、勝手に納得しないでくださいっ!「違います。ワタシはこう見えてもちょっと前までは健全な男子高校生だったんですよ。男の子相手に恋愛をするだなんてあり得ないです。外見で判断しないでください」 お湯を頭からかけられながらも間違い(?)を訂正するワタシ。うう、こういうシャワーの感覚って久しぶりかも。気持ちいい……。「ということは、女の子同士のほうが良いということなのね。分かったわ。召喚されて妖精になった人の半分は性転換もしているから、妖精の間では同性愛についてのタブーは無いし、美姫さんがそのつもりなら私達そっち方面でも仲良く出来るわね」 ワタシの身体に一通りお湯をかけ終わると、石鹸を手に取り泡立てる詩衣那さん。「えっ? 女の子同士……、ですか?」 一瞬、戸惑いの声を上げてしまう。「あら、違うの? 男の子相手に恋愛はしないということは、女の子相手に恋愛をするってことよね?」 立ったままのワタシの背後から、ワタシの首筋に触れる詩衣那さん。泡だった石鹸の感触が首筋から肩、そして背中から脇へと広がる……。ああ、その先はっ!「だからワタシは元々男の子だったから男に対して恋愛はしませんけど、今の身体は女の子だから女の子に対しても恋愛感情というものが感じられないというかその……、つまり恋愛だとかそういうものはよく分からないというか……」 滑るようにワタシの身体を触る詩衣那さんの手の感触を心地良いと感じつつ、ワタシは考えていた。今のワタシは、男の子に対しても女の子に対しても恋愛感情というものが持てないでいるのだけれど、もう一生涯誰とも恋愛をしないということも考えられないし、いずれは……、というか既に約1ヶ月半後には妖精の発情期である『妖精狂いの季節』がやってくるはず。その時になったらワタシはいったいどうすることになるんだろう?「性転換した妖精って、妖精狂いの季節を迎えるまではそういうように言うパターンが多いのだけど、美姫さんもだったのね。いけないわよ。そんなあやふやな態度でいたら後悔することになっちゃうわよ。特に女の子はね。ほら、ここには男の子には無かった子宮があるのよ。理解してる?」 あわや胸に触る寸前かと思われていた詩衣那さんの右手は、滑るように脇から腹部へと移動する。左手も追うようにワタシの腹部へと動き、それにつれて詩衣那さんの身体がワタシの背中に密着する。こ、これは詩衣那さんのおっぱいの感触!?「し、子宮ですか……。正直、ワタシのお腹の中に子宮があるだなんていう実感は無いです。あの、それよりも詩衣那さん。む、胸があたっているんですけど」 うわずる声で指摘する。しかし身体は硬直し逃げることもわずかに身体をずらすことも出来ない。ああ、ふにゅっとした感触が……、気持ちいい♪「そうよねえ。妖精狂いの季節を経験していないということは、まだ生理にもなったことがないということだから、自分の中に赤ちゃんを育てる為の子宮があるだなんて実感は無いわよね。普通の女の子でも生理が来るまでは子宮の存在なんて意識しないんですもの。でもそれはここにあるのよ。このぷにっとしたお腹の中にね」 両手でワタシのお腹をなで回しながらワタシの耳にそっと囁く詩衣那さん。ダメ、耳はダメっ! 囁かれている側の脇腹がゾクゾクしちゃう~っ!!
May 3, 2004
コメント(0)
「……詩衣那さん。服ぐらいワタシ1人でも脱げるんですけど」 脱衣所というよりも単なる風呂場前ので、ワタシが着ているワンピースの背中の紐を解いて服を脱がそうとしている詩衣那さんに文句を付けるワタシ。展開がぐるっと回って微妙に元に戻っているような……。「それはそうでしょうけど剣持さんからは、『準備をしておいてくれ。詩衣那君、頼んだよ』って言われてるから、美姫さんがスーツを着る準備については、【私が】しておかないとまずいでしょ。だって言いつけは守らなくては♪」 詩衣那さんの言い分に対して、詭弁という言葉がワタシの頭をよぎる。反論の為に口を開こうとしたが、どう反論しても無駄なような気がする。うう、妖精になってから論理的な思考能力が低下してる。「それ、違うと思う……」 確信犯の人には何を言っても無駄だと改めて思ったワタシは、とりあえず抵抗するのをやめることにした。もうさっさと終わらせちゃおう。「違わないわよ。だって私は剣持さんの言葉をそう受け止めたんですもの。だから美姫さんの服を脱がせるのも私。身体をお風呂で洗うのも私なのよ」 主観こそ全てという発言をした詩衣那さんは、そのまま言葉通りの行動に出た。あっと言う間もなくワタシが来ているワンピースは脱がされて、下着姿になってしまった。続いて詩衣那さんも自分が来ている服を脱ぎ、同じく下着姿になったのだった。ああ、予想通りの展開。「もう良いです。下着は自分で脱ぎますからっ!」 抵抗しても無駄だと悟ったワタシは、脱がされるくらいなら自分から脱いでしまえと慌てて下着を脱いだのだった。シャツはともかくショーツを慌てて脱ぐと足に絡まって転びそうになるかもっ!「私が手取足取り脱がせたかったのに、美姫ちゃんってぱ意地悪なんだから……」 残念そうにつぶやくと、詩衣那さんは自分の身体に身につけられていた下着をはぎ取ると無造作にその場に置いた。現れたのは詩衣那さんの一糸まとわぬ裸身……。対峙するワタシも裸。ああ、もしかして妖精の女同士で裸というのは初めてのシチュエーション!?「意地悪なんかしてません。早く身体を洗わないとっ! 剣持主任が用意をしてくるまでに身体を洗っておかなくてはならないんですよね。さあ、風呂場に行きましょう」 心の内の動揺を押し隠せないまま、ワタシの言葉は震えていた。うう、緊張する。足と手が同時に動いちゃうっ! と、とにかく風呂場に入ろう。「美姫さんも今はもう女の子なのに、女性の裸には免疫がまだ無いのね。ねえ、美姫さんは元男の子だったわけでしょ? だとしたら恋愛の対象は今でも女の子なのかしら? それとも……、今の身体にあったものに変化しているの?」 ワタシ達2人が風呂場に入った時、唐突に? 詩衣那さんはワタシに質問をした。えっ!? 何を言いだしたの? 詩衣那さんは~っ!
May 2, 2004
コメント(0)
全22件 (22件中 1-22件目)
1
![]()

![]()