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「まったくあの国は、何でも軍事がらみの発想しかしないのよね。昔からいつもそう」 詩衣那さんは軽くため息を吐きながら首を小さく横に振った。 ……? 軍事がらみ? 妖精が? ワタシは頭の中が疑問だらけになってしまった。「妖精が軍事がらみって……。どこをどうすれば妖精と軍事が結びつくんですか?」 まったく想像が出来ないワタシは、そう聞いてみたのだが、それはかなり無邪気な質問だったらしい。しかし剣持主任の答えを聞くまでは、そのようなことがワタシに分かるわけがなかった。ホント……。ワタシはうぶだったのかもしれない。「美姫君。どんな技術だって軍事目的に利用されなかった技術なんてこの世の中に無いんだよ。妖精の魔法を人間の技術で制御出来るようになったとしたら ……、それが軍事目的で使われないというほうがありえない話だと思うよ」 まだ右手に持っていた箸をテーブルの上の箸置きに置くと、剣持主任は静かに喋り始めた。言葉を選んでいるかのようにゆっくりした喋りは、ワタシに理解させようとしているからなんだろうか? ワタシはもちろん、詩衣那さんも仁村さんも剣持主任の話をしっかりと聞いているみたいだけど……、そんなにも大事な話なんだろうか?「たとえば美姫君は、軍事的な能力の中でもっとも重視される概念は何だと思う?」 ワタシに向かってそんな話を振られても……。まったく見当がつかないです。う~ん、適当に答えるかな。だって軍事なんて学校でもどこでも教えてくれないんだもん。「攻撃力……、ですか? ほら、『攻撃は最大の防御なり』って言うじゃないですか」 乏しい知識を総動員して思い浮かんだ言葉をそのまま言ってみる。間違っては……、いないよね?「残念ながらハズレだ。しょうがない。知らないなら教えてあげよう♪」 とてもうれしそうな剣持主任。自分の知識をひけらかすことが出来るのがうれしいらしい。やっぱり剣持主任ってばオタクなんだ……。「……お願いします」 こういう人種の自尊心を傷つけるとどういうことになるか? そのことをあえて実地で知りたいとは思わないワタシは、ちょっと複雑な気持ちで返事をするのだった。長くならなければいいんだけど。……簡単に説明してくれるといいなあ。「軍事的にみてもっとも重要な能力。それについては色々な意見があるだろうが、おそらく衆目の一致するところと言えば、【輸送力】だろうな」 ややふんぞり返り、大きく開いた鼻の穴から何かワタシには理解しがたい情熱によって熱く加熱された息を吹き出す。剣持主任、なんかそれって生理的に嫌悪感を覚えるんですけど、どうしたら良いですか? 黙ってうなずくしかないワタシです。「主任、あまり暴走しないでくださいね。社員食堂とはいえ一応ここも職場には違いないんですから」 ワタシが引いているのを見て、やんわりと注意をする仁村さん。ありがとう。仁村さん。これで剣持主任の話が長くなるのを防げるかな? あ~あ、妖精と軍事がどう結びつくのかなんてことを質問しなければ良かったよ。失敗しちゃったなあ。長い話って嫌いさ。「仁村君、暴走とはひどい言い方だなあ~。この話は限りなく今の仕事そのものに近い話なんだよ」 いざこれから気持ち良く薀蓄(うんちく)をたれようとしていた矢先にもかかわらず仁村さんに出鼻をくじかれた剣持主任は、ぶうぶうと不満をたれた。あ~、やだやだ。
Jun 29, 2004
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「商品名としては詩衣那さんの【妖精用電波ガード】っていうネーミングのほうが良いような気がしますけど。だって【フェイザー】ってネーミングだと何のことだか分からないし……」 別に詩衣那さんが加賀重工の会長の孫娘だからとかなんとかというのは関係無く、純粋に詩衣那さんの案のほうが商品名としてはまだ良いと思ったから、そのままの気持ちを言ってみる。まあ詩衣那さんのネーミングがベストだとは思わないけどね。【妖精用電波ガード1号・まもるくん】って、なんか間抜けっぽいし。「分かりにくいかなあ……。たった一言で装置の性質を言い表していると思うんだけどねえ。今からでもどうにかならないかなあ」 未練そうな剣持主任。まあしょうがないかも。商品名には正確さよりも分かりやすさのほうが大事なんだから。「どうにもならないと思いますよ。来月頭に行われる役員会議では、詩衣那さんの意見がそのまま通りそうだという感触が濃厚です。まだ噂に毛が生えた程度の情報ですが、よほどのことが無い限り、【妖精用電波ガード1号・まもるくん】になりそうですね」 紙ナプキンで口の周りをそっと拭くと、ミニノートパソコンを取り出して何かの資料に目を通す仁村さん。やっぱり仁村さんって剣持主任の秘書のような仕事もしていたんだ。「そうよ。もう私の意見が採用されるのは確実なんだから、あきらめなさい」 右手の甲を口に当てて『ほほほ♪』と笑う詩衣那さん。なんだか最初にあったイメージから段々とずれてきたような気がするんですけど。「じゃあ結局、【妖精用電波ガード】で決まりなのか? しかし電波をガードしてるわけじゃないんだぞ。あの装置は。世間の誤解を更に増幅することになってしまうわけだが、いいのかそれで?」 不満そうな剣持主任は、テーブルの上に残っていた料理を箸を伸ばすと口いっぱいに放り込んだ。あっ! それ、狙っていたのに……。「ところで剣持主任、前にワタシがもらった【試作品28号】とか、今度市販される【妖精用電波ガード1号・まもるくん】とか、今開発中の……【零号機】とか結構すごい発明だと思うんですけど、ほかにもこういった機械を開発しているようなところってあるんですか?」 詩衣那さんと剣持主任ばかりが話していて、私がなかなか会話に加わることができないのもちょっと嫌なので、ここはひとつ話題を変えましょうとばかりに、ワタシはたいした期待もせずにそんな質問をしてみた。だって妖精に対する機械の悪影響をキャンセルする機械だとか、妖精の魔法を強化する機械だとかを開発しているようなところが、そうごろごろしているとは思えないんだもの。「同じような装置を開発しているところか……。断言は出来ないが、もしかするとアメリカで開発中なのかもしれない。それも米軍が。あくまでも推測でしかないんだがね。」 口の中の料理をお茶で流し込むように飲み込むと、少し考えながら話す剣持主任。それにしても米軍? 米軍がどうしてそんなことを?
Jun 26, 2004
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「ところで、剣持主任。【妖精に対する機械の悪影響をキャンセルする装置】っていうのも何か長ったらしくて言いにくいんですが、何かもっと簡単な名前は無いんですか? 確か近々商品化されるんですよね」 ある程度食事も進み、おなかの自己主張がおさまりかけてきた頃、ワタシは疑問に思っていた事を聞いてみた。「ああ、その件に関しては今、ネーミングを考えていてほぼ決まりかけているところなんだが……」 ウーロン茶を飲みながら答える剣持主任。ちょっと歯切れが悪いけど、もしかして販売前に商品名を出すのは企業秘密でダメなのかな?「ほぼ決まりかけているって、もしかして私のアイディアが採用されたの?」 食事の手を休めて、会話に加わる詩衣那さん。なるほどね。詩衣那さんがアイディアを出したならそれで決まっちゃうものなのかな。会長の孫娘だし。「詩衣那さんが出したアイディアって、確か【妖精用電波ガード1号・まもるくん】でしたっけ?」 ひとさし指を下唇にあてて、宙に視線を漂わせて記憶を思い出そうとしている仁村さん。しかし詩衣那さんのネーミングがそのまま商品名になっちゃうのかな?「そうよ。良い名前でしょ? 商品の効能も一発で分かるし♪」 う~ん、こういうことは良く分からないから返事のしようがないなあ。とりあえず自信満々な詩衣那さんに対して笑顔を送ってみる。「ええ、そうかもしれませんね……」 言葉を濁すワタシ。だって商品のネーミングって言ったら、売れ行きを左右する大事なものでしょ? そうそうおいそれとは意見なんて言えないよ。そう思うでしょ?「実を言うと詩衣那君の案には一点だけ問題があるんだ。世間一般では妖精は電波に弱いという認識がなされているわけなんだが、実はそれは間違いなんだ。正確にはコンピューターやネットに接続されている携帯やPHS等に弱いんであって、電波そのものに弱いわけでは無いんだよ。【電波ガード】なんて名前を使ったら妖精に対して間違った認識をさらに増幅してしまうから、あまり好ましくはないんだな」 ワタシがそのまま黙っていると、難しそうな顔になった剣持主任が現状を説明する。「正確じゃなくても良いじゃない。いい? 【電波ガード】が正確なネーミングじゃなかったとしても分かりやすいネーミングであることは変わりないんだし。商品なんて売れてなんぼなのよ。いくら現実を反映した正確なネーミングだからといって、分かりにくさから売れなければ何にもならないのよ。これだから研究一筋の人間は困っちゃうわ」 さすがに経営者の一族に連なる者というべきか? 詩衣那さんはとうとうと自説を述べている。なるほど。確かにあの装置は妖精の為になる装置だけど、売れなければ何にもならないんだよね。だとしたら【電波ガード】というネーミングは分かりやすいのかな。「ちなみに剣持主任なら、どんなネーミングにするんですか?」 詩衣那さんの意見ばかりを聞いていても不公平になるので、ワタシは剣持主任の意見も聞いてみた。一方の意見だけじゃ公平な判断なんて出来ないものね。「ん? 私の意見かね? あえて短い言葉で簡単に言うなら【フェイザー】だろうな。妖精に与える悪影響の原因である機械が発する波動の位相(フェィズ)をずらして新たな波動を発生させて、ふたつの波動の山と谷を重ねることで波動のエネルギーを打ち消し合って、波動そのものを消してしまうわけだからね」 その意見を聞いたとき、ワタシは納得したのだが、『商品としては売れないかもね』と思わざるを得なかった。だって名前を聞いただけでは何の装置なのかよくわからないんだもの。う~ん、詩衣那さんの案と剣持主任の案では……。
Jun 25, 2004
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「まさか、妖精サイズの中華料理が出てくるなんて……」 社員食堂の個室。ホントにここは社員食堂なの? ワタシたちが今いる部屋は、『機能美だけが取り柄です』というような社員食堂とは対極にある室内装飾を施された部屋だった。その部屋の中央に置かれた中華テーブルの上に並べられた妖精サイズの料理の数々を眺めて、ワタシはため息をついて、ついでに涎も流しかけた。おっと、はしたないかな? いやいや、そんなことないよね。可愛い妖精少女は何をやっても良いという法律が……、なかったっけ?「えへんっ! 私に感謝してよね。妖精サイズの料理が出てくるのは、私が6年間にわたって主張しつづけたおかげなんですからね。これからは妖精のVIPの方を接待することもあるはずだからってね」 ワタシと詩衣那さんは、妖精が座ると目の前にちょうど良い高さでテーブルが来るように調整された妖精用の椅子に腰かけている。レストランなんかに置いてある子供用の椅子の妖精版なんだけど、やっぱりこの椅子は市販なんかされていない特注品なんだろうな。いったいいくらするんだろう?「詩衣那君以外の妖精がここで妖精用の椅子に座るのも、妖精サイズの料理を食べるのも今日が初めてのような気がするんだけどね。だいたい妖精の数自体が少ないんだから、その妖精の中からVIPが出てくる可能性っていうのもかなり低いと思うんだが」 皮肉っぽく答える剣持主任。なるほど。加賀重工の会長の孫娘のわがままってわけだね。まあ、おいしいものが食べられるんだからそれはそれでいいか。「あら、これからは分からないわよ。妖精がVIPになる可能性が少なくても、逆にVIPが妖精に召喚される可能性だってあるわけだし」 しれっと応じる詩衣那さん。まあ、可能性は無くもないけど……。どこかの大企業の社長とか、政治家とかが召喚されたりして。ふふふっ、首相とか大統領とかが召喚されたらどうなるんだろう。ちょっと電波を受信しつつ、私は自分の想像にちょっとにやりとするのだった。「まあ、そんなことがあったら、私は詩衣那君の先見性の高さに脱帽してあげるよ。さあ、それよりも美姫君。もう気分は大丈夫かな。食欲はあるかね?」 念のために聞いてくれるのだろうけど、これだけの料理を目の前にして食欲が湧かないなんて妖精じゃないです。早く食べないと逆に気絶しそうです~。「大丈夫ですっ! めいっぱいいけますっ!!」 というわけで思わずこぶしを作って力説するワタシ。我ながら色気よりも食い気なのは、悲しむべきなのかそれとも胸をなでおろすべきなのか? 判断に苦しむところだよね。「主任、美姫さんの身体状況は特に異常はありません。コンディショングリーンです。それよりも早く食べないと料理が冷めてしまいますわ。特に妖精サイズの料理は量が少ないですからすぐに冷めてしまいますよ」 手元のパソコンをチェックしながら、剣持主任を急かす仁村さん。そうだよね料理が冷めちゃうよね。でも、冷めた料理でもおいしくいただけるのが妖精の舌なんだけど、そのことは知らないのかな?「そうだな。では、美姫君のプロジェクト参加を祝ってっ! 乾杯っ!」 とりあえず勤務中? ではあるので、それぞれジュースとかお茶で乾杯をするワタシ達だった。ちなみにワタシはオレンジジュースね。中華料理にオレンジジュースって組み合わせは変かも知れないけど、おいしいんだな。これが。
Jun 24, 2004
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「最初からいたんだが……。もしかして気がついてなかったのかね?」 傷つくなあ~。と、つぶやきながらすねてみせる剣持主任。意外と子供っぽいのかも。「だって、気絶していたんですよ。分かるわけないじゃないですか」 対抗してこちらもすねてみせる。可愛らしさではワタシのほうの圧勝だね♪「あはははは……。まあ、冗談は置いといて、よくぞ言ってくれた。美姫君、ありがとう。しかし今回のことは私が悪かった。美姫君のように魔法力が強い妖精が実験に協力してくれたのに有頂天になってしまって、つい無茶をしてしまったかもしれない。すまん。このとおりっ!」 そのまま頭を下げる剣持主任。あらら、そこまでしなくても……。「あ~あ、それじゃあまるで今まで私は、何の役にも立ってなかったかのような言い方じゃないの。剣持さんったら、私のことをそんなふうに思っていたのね。なんだかやる気が出なくなっちゃったかもしれないなあ♪ おいしいものでもごちそうしてくれたら、やる気が出てくるかもしれないけど……。ね、美姫さん?」 突然、何を言いだすのやら。ワタシが戸惑っていると、詩衣那さんはワタシのほうに向けて、いたずらっぽく片目でウィンクをしたのだった。ああ、なるほど。「そうですねえ。なんだかそう言えばおなかが空いてきたような……。やっぱり魔法を使うとおなかが減るんでしょうか?」 ベッドの上で立ちあがると剣持主任に向き直ったワタシは、わざとらしくおなかを両手で押さえるのだった。どちらにしてもホントにおなかが空いてきちゃったし。「うーん、詩衣那君だけではなくて、美姫君までがそう言うのなら、よしっ! どちらにしても今日の昼食は美姫君の歓迎祝いも兼ねて私がおごる予定だったし……。仁村君。社員食堂の個室は空いているかな? 確認してくれないか」 剣持主任ってば、ワタシの歓迎会を社員食堂でする予定だったのか。というか現在進行形? う~ん、うれしいといえばうれしいけど、社員食堂で歓迎祝い? なんだかなあ。「美姫さん、社員食堂と聞いて、ちょっとがっかりしているのかしら?」 詩衣那さんがワタシの様子を見ておかしそうに笑う。「いえ、がっかりなんかしてないですよ。うれしいです」 あわてて社交辞令を言うワタシ。でも悲しい妖精の性で、言葉とはうらはらな態度になってしまうがにくい。だって社員食堂のイメージって、とにかくひたすら安いのみって感じなんだもん。「ふふふ、美姫さんは知らないのよ。今、剣持さんが、社員食堂の個室って言ったでしょ? 加賀重工の社員食堂の個室はね、大事なお取引先の方とかを接待する場所でもあるの。当然そこで出される料理のレベルも種類も……。というわけなのよ♪」 声をひそめて、ワタシの耳にひそひそとしゃべる詩衣那さん。えっ!? そうなんだっ!!「主任、個室は空いているそうです」 それまでパソコンを操作していた仁村さんが剣持主任に報告する。そうか、空いてるんだ。「よし、じゃあすぐに行こう」 その声を聞いた瞬間、ワタシのおなかは正直に反応したのだった。気絶から目覚めたばかりだというのに……。誰にも聞かれなかったかな?
Jun 23, 2004
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「う、う~ん……」 気がついた時、ワタシは天井を見上げていた。明るい照明がワタシの目を刺激する。ちょっとまぶしい。「あっ! 気がついたわよっ! 大丈夫? 美姫さん」 大きな声がする……。声のするほうに顔を向けてみると、そこには詩衣那さんがいた。どうしたんだろう? そんなにも興奮して……。「良かったわ。気がついて。身体の調子はどう? まだ気持ち悪かったりする?」 この声は、仁村さん。ええと、みんなしてワタシを心配しているようだけど……。「あの、ワタシ、どうしちゃったんですか?」 横になっていた身体の上半身を起こしてみる。どうやらここは医務室らしい。ワタシが今まで横になっていたのは人間用の広いベッドのようだ。妖精用のベッドは無かったのかな。「気絶してたのよ。まったく剣持さんったらいきなり無茶するんだから。後できつく言っておかないとね。で、美姫さん、もうやめる?」 ベッドの上に立っている詩衣那さんがワタシを見下ろす。その顔は笑っているけど、目は真剣だ。「やめるって、何を……」 まだ目が覚めたばかりで頭が半分ほど回らないワタシは、オウムのように聞き返す。「もちろん、魔法を強化増幅する実験に協力することよ。初日からずいぶんと酷い目に会っちゃったことだし、もう嫌になっちゃったんじゃないの?」 ゆっくりとした言い方をしているけど、やはり真剣な雰囲気の詩衣那さん。そうか……、思い出した。ワタシ、実験中に気絶しちゃったんだ。「詩衣那さんの言う通りよ。美姫さん。危ないと思ったら、いったん引いてやめてみるのもひとつの方法なのよ。もちろん、それでもやるというなら止めないけど」 ベッドの横に置いた椅子に腰掛けたまま、ワタシの顔を覗き込むようにして問い掛ける仁村さん。ホントに心配そうな顔をしている。でも……。「いいえ、やめるだなんてとんでもないですよ。この研究の成果が世の中に出れば、妖精がパソコンに触れないだなんてこともなくなるし、もしかしたら魔法も自由に使えるようになったら妖精ももっと人間社会に受け入れられるようになるだろうし、もう少し頑張ってみます」 前に剣持主任がワタシの家に来たときに聞いた話を思い出しながら、ワタシはそう答えた。確かに今回は気絶しちゃったけど、まあそれだけのことだったしね。「ありがとう、美姫君。それでこそ美姫君だ。やはり白い鳥の羽は伊達じゃないな」 突然、頭の後ろから剣持主任の声がした。慌てて振り返ってみると、ベッドの向こうに立っている剣持主任がそこにいた。「剣持主任っ! 居たんですかっ!?」 びっくりしたワタシは敬語を使うことも忘れて、一応は仮にも上司に向かって失礼な口をきいてしまった。
Jun 22, 2004
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「美姫君、やはり君の魔法力は詩衣那君よりも上らしい。基本的に零号機は詩衣那君専用でまだ美姫君専用には調整されていないのに、ここまで大きな羽が出せるなんて。詩衣那君はせいぜい通常の120%増しの大きさの羽を出すのが精一杯だったんだぞ。……これでいよいよ次の段階に進むことが出来る」 ワタシは自分の背中から生えている羽を見ながら、剣持主任の言葉を聞いていたが、その言葉の半分以上が頭の中に留まることなく右から左へと抜けていった。だってものすごく綺麗なんだもん。自分の背中から生えていることが信じられないぐらい。キラキラと光り輝く羽、光の翼。「それで、これからどうすれば良いんですか?」 しばらく自分自身の羽に見とれていたワタシは、ふと我に返ると剣持主任に質問した。『次の段階に進むことが出来る』と言われても、具体的にこれから何をするのか未だに良く分かってなかったりするのだ。これが……。「さっきも説明したように、我々人間には魔法がどんな原理で発動しているのかなんてことは、結局のところ分からないんだ。だから魔法に影響を与えることが出来る人間の唯一の手段であるコンピューター等の機械の調子を変えて、その影響が妖精にどう作用するのかを観察し、フィードバックするしかないんだよ。まあ、ここで長々と説明を繰り返してもしょうがないから、実際にやってみせよう」 しばらくはそのままの状態が続いたのだが、やがて耳の後ろにチリチリと電気が走るような感触が出てきたかと思うと、それは身体全体に広がっていった。その感触が気持ち良いのか悪いのかと言えば、あえて言うなら少し弱めの電気風呂にでも入ったかのような感じで、気持ち良いと言えなくもない。まあ、あえて言えばだけど。「今、先ほどの設定と同じプログラムをもうひとつ走らせてみた。マシンの基本性能からすると、その演算能力の3%程度しか使用していないわけなんだが、魔法的にいうなら単純計算で出力が2倍になっているはずだ。美姫君、何かさっきとは変わったことはないかい?」 2倍の出力なのか……。でも羽は2倍の大きさにはならないんだな。ワタシはそんな感想を持ちながら、今のワタシの気分をどう伝えたものか考えていた。う~ん、電気風呂なんて言うと、お爺さんみたいなんて言われるかな? それともお婆さん?「身体中でチリチリと電気が走っているような気がします。でも不快って感じじゃなくて、銭湯にあるような電気風呂の軽いやつに入ったみたいな感じで気持ち良いです」 とりあえず難しいことは置いといて、正直に感想を言ってみる。チリチリとした電気のような刺激が身体をリラックスさせているのかもしれない。「なるほど。気持ち良いということなら、問題なさそうだな。しかし電気刺激のようなものが感じられるというのは、強化された魔法力がそのまま魔法の発動へと結びつかずに、無駄に溢れ出しているのかもしれない……。ちょっとプログラムのパターンを変更してみよう」 そのまましばらく待っていると、一瞬、頭の中がぐるぐると回るように気分が悪くなったかと思うと、またもとに戻った。気がつくと身体中を覆っていたチリチリとするような電気刺激はなくなっている。なるほど。最初のアイドリング状態に戻したのか。ワタシは1人で納得した。「では、さっきとは違ったプログラムを走らせてみるぞ。…………よし。どうだね? 徐々にパターンを変えてみるから、逐次状態変化を報告してくれないか?」 剣持主任がどのような操作をしたのかは知らないけど、零号機の稼動により、ワタシの心は爆発したかのような勢いで周りに広がっていくと、そこに有るあらゆるものに連結したような気がした。パワーが流れ込んでくる……。「さっきよりも、いえ、さっきとは比べ物にならないぐらい気分が良いです」 ワタシがそう答えた瞬間、今度は一転して気分がものすごく悪くなったっ!! 目の前の景色がぐにゃりと曲がって見えたかと思うと、なんだか身体の奥底から吐き気がこみ上げてきて……。ダメだ、意識が無くなる……。スピーカーの向こうから、仁村さんの叫びが聞こえたような……。そうか、こういう時にこそ、さっきの脱出装置を使わなくちゃいけないんだ。でも、レバーはどこ……? ワタシはそのまま意識を失ってしまったのだった。
Jun 21, 2004
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しばらく執筆が滞っていたので、休日にまとめて4日分書こうと思ったのだが、結局は2日分書いてお終いになってしまった。世の中にはまとめて書ける人がいるけど、やっぱり私は毎日少しずつこつこつと書くタイプなんだなと実感しました。一気にダーーーーッと書ける人ってすごいかも。
Jun 20, 2004
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「零号機、アイドリング状態から魔法強化レベル1へ」 ブーーーン…… 剣持主任の声が聞こえてくると同時に、ワタシの周りをぐるりと取り囲んでいるパソコンの本体から唸るような音が聞こえてくる気がした。機械の作動音というか、耳から聞こえてくる音というよりも、頭の中に直接響いてくるという感じ。でも不愉快じゃない。低く響くその音は、むしろ眠気を誘うかのような心地よさだったりする。ふにゃ~。「気分はどうかな?」 剣持主任の声がどこか遠くから聞こえるような感じがする。なんだか夢を見ているような……。「良い感じです。なんだか眠くなりそうなぐらい……、です」 眠いような感じだけど本当に眠いわけではなくて頭の活動はハッキリしている。そういった妙な感覚を味わいながら、ワタシはぼんやりと答えた。「よぉ~し、良いぞ。ここまでは詩衣那君が示した反応と同じだ。ちょっと眠いような感覚があるかもしれないが、しばらくすると慣れてきて眠気を感じることはなくなるはずだ」 そうなんだ。そういえば徐々に頭がクリアーになってきたような気がする。……暗示にかかりやすいのかな? ワタシって。「はい、段々と眠気が冷めてきました。眠かったのは最初の2~30秒くらいですね。今はとても良い気分です」 暗示にかかりやすいのかどうかは置いといて、眠気が徐々におさまると同時にワタシはひどく高揚したような気分になってきた。なんだか今のワタシなら何でも出来るような感じかも。「了解だ。ではさっきと同じようにまた羽を出してくれ」 無理をして落ち着いた雰囲気を演出しようとして、ちょっと失敗しかけているというような感じで剣持主任が次の指示を出してくる。う~む、予定ではさっきよりも大きな羽が出せるということなんだけど……。ホントかな?「分かりました。では、行きます」 ワタシは精神を集中させるために目を閉じると、いつものように、夜空に浮かぶ満月の光に吸い込まれて身体が浮かび上がる様子を想像しながら、羽がゆっくりと広がって展開していく様子をイメージする。本当は目なんか閉じなくても羽を出すことなんか朝飯前なんだけどね。とにかく背中から光が伸びて羽の形をとると、それが実体化して白い鳥の羽になるのが目を閉じていても分かる。いつもよりも大きな羽が……。「仁村君ッ!」 鋭く叫ぶ剣持主任。その背後では仁村さんが小さく返事をしている声が聞こえる。どうしてそんなにも驚いているんだろう? ワタシはそっと目を開けると、首をちょっと回して自分の羽を見てみた。うわっ!? お、おっきい~。「す、すごい……。こんなにも羽が大きくなるだなんて」 倍の大きさとは言わないけど、それでもいつもよりは何割か大きな白い羽がワタシの目に飛び込んでくる。それになんだか羽がキラキラと光っているような……。「通常状態の173%の大きさです。しかし機械的に増幅された魔力がコントロールされきれていないのか、羽の実体化が完全では無いようです」 仁村さんが剣持主任に報告している声が聞こえる。なるほど、羽が光っているのはそのせいなのかな。オーラの光とは違うんだろうか?
Jun 18, 2004
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「……状況を確認しよう。今、零号機は妖精に対して悪影響を与える波動を自分自身で打ち消しているだけの状態だ。美姫君の体調には、悪い影響も、もちろん良い影響も与えていない。美姫君自身はどう感じるかね?」 静かに落ち着いた様子の声が聞こえる。妖精は感情の起伏が激しいというけど、ハイテンションな状態も静かな状態もいけてしまう剣持主任だって、十分に感情の起伏が激しいような気がする。「はい。気分的には落ち着いています。特に問題なしです」 先ほど天井近くまでワタシを吹き飛ばした椅子に座りながら、ワタシは事務的に答える。何でも実験の開始したばかりの時は装置の調整の為にも、なるべく気持ちを落ち着けておく必要があるらしい。難しいことは分からないけど。「よし、では詩衣那君で実験した結果により判明した、最も魔法強化に適した状態で装置を稼動させることにする。まずはその前に現状のままで羽を出してくれないか? 装置が稼動する前の状態のデータを取りたいからね」 妖精が自由に使える魔法は、羽を出して空を飛ぶことだけ。だから魔法が強化されたかどうかということを測定するために、羽の大きさ等の状態変化を観測するということらしい。まあ、魔法なんてファンタジーの世界にしかなかった人間の科学で、妖精の魔法を理解しようとすると、こんなところから一歩一歩始めないといけないのだろう。「ハイ。こうですか?」 深く腰をおろして背もたれに身体を預けていたワタシは、やや上体を起こすと椅子に座ったままで羽を出した。ついでにゆっくりパタパタと羽を動かしてみる。う~ん、背伸びをするような感じ。妖精にとって羽を出すのはなんとなく気持ちいい状態かも。「動かさなくて良いから、まっすぐピンと伸ばしてくれないか。……そうそう、よぉ~し。二村君、データは取ったかい?」 スピーカーの向こうで、剣持主任が仁村さんに問い掛けている声が聞こえる。それにしてもここのスタッフって剣持主任と二村さんだけなんだろか? よっぽど予算がないのかな……。まさかね。「……片翼の長さ、28.97cm。確認いたしました」 ワタシの身長がおよそ25cmだから片翼の長さが28.97cmというのはずいぶんと長いことになる。これがトンボ羽の妖精なら羽がまっすぐに伸びているから身長よりも長い羽だと羽の先が地面に接触してしまうから不便だろうとは思う。ところがワタシのような鳥の羽タイプだと、羽を『しまう』だけではなく『折りたたむ』ことも出来るのだ。だから伸ばせば身長よりも長くなっても折りたたんでいれば羽の先が地面に届くことはないから、特に不便は感じない。ちなみにコウモリ羽の妖精も事情は同じで身長よりも長い羽を持っている。この点も鳥の羽の妖精とコウモリ羽の妖精の魔力が強いという証明でもあるらしいけど、……なんだかこじつけのような気がしなくもない。「よし。では美姫君。羽をしまってくれ」 ワタシは無言のまま頷くと、ゆっくりと羽をしまった。まずは実体を持った羽が徐々に薄れていき光で出来た羽に変わるとそれが背中に吸い込まれるように小さくなっていく。ふ~む。今まで注意して見た事なかったけど、羽が出たりしまわれたりするときに光の羽になるのって、なんだか面白い。……妖精オタクの幸也は知っていたのかな?
Jun 17, 2004
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「こんなスイッチがあるっていうことは、先に言ってくださいっ!!」 床に降ろされて投網から解放されたワタシがまずしたことは、剣持主任に非難の言葉を浴びせることだった。もう、ホントにっ!「悪かった。詩衣那君が被検体だった初期には、装置が暴走して詩衣那君の命に関わるようなことがあっては大変だと、緊急時にはすばやく装置から距離を取るための機構として脱出装置が必要だったんだ。もちろん実際に使われたことは一度もないんだが……。だからつい、説明するのを忘れていたんだ。すまん。許してくれ」 怒りもあらわなワタシに対して、剣持主任は素直に謝ってくれた。もう、そんなにストレートに謝られると、こちだっていつまでも怒ってばかりもいられないじゃないですか。それにもしかするとこの研究所では、この程度でいちいち怒っていてはやっていけないのかもしれないし……。ワタシはこれ見よがしに大きなため息をつくと、剣持主任の顔を正面からじっと見た。そして……。「勝手にレバーを引いてしまったワタシも悪かったですから、そんなに謝ってもらわなくてもいいです。むしろワタシのほうこそ謝らないといけないです」 厳密に言えば、ワタシも悪い部分があるのは確かだし、とりあえずうやむやに出来るならそうしちゃおう。うんうん。「ありがとう。美姫君。じゃあ実験を再開しよう。今、吹き飛んでしまった椅子を元に戻すから、ちょっと待っててくれ」 剣持主任はそのままガラス窓で隔てられた別室に身振りで合図をする。するとさっきまでワタシを包んでいた投網がするすると天井に向かって引き上げられていき、天井に空いた穴の中に収まってしまった。よく見ると、同じような穴が天井にいくつも空いている。「天井にいくつも穴が空いているんですね」 脱出装置の作動により吹きと飛ばされてしまったシートを直している剣持主任に向かってワタシはつぶやいた。「ああ、基本的には椅子は真上に射出されるから、真上にある投網が自動的に作動することになっているんだが、場合によってはあらぬ方向に飛ばされることも有るかもしれないからね。予備として広範囲に投網が出てくる穴をつけているんだよ」 そこに詩衣那さんがゆっくりとした羽ばたきで近づいてきた。「へぇ~、話には聞いていたけど、脱出装置を作動させるとこんなことになっちゃうんだ」 のんき、かつ興味深そうに見ている詩衣那さん。なんだ……。詩衣那さん知っていたんだ。だったら教えてくれても良いのに。ワタシは、ほっぺたをちょっと膨らませてしまった。「よし、セット完了。美姫君。もう一度、座ってくれないか。今のアイドリング状態から、いよいよ装置を本格的に稼動させるからね。なに、変なところに触ったりしなければ大丈夫だから」 剣持主任~、それって微妙にワタシを非難してません? ワタシは椅子に座りながらヒクヒクと頬を引きつらせるのだった。剣持主任だって悪いのに~。……ま、それはそれとして、いよいよだね。
Jun 16, 2004
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ポンッ! ワタシがどうしていいのか分からずに宙を舞っていると、すかさず天井からちょっとばかり情けない音がした。何かが発射されたような音にも聞こえるけど、今のワタシにはそれが何なのかということはまったく分からない。しかしその何かが、どんどんと目の前に大きく迫ってくる。そしてワタシにぶつかる直前、それは大きく広がったのだった。何? 何!?「身体に力を入れるなっ!」 スピーカーから剣持主任の緊張する声が聞こえる。その瞬間、ワタシはその大きく広がった何かにキャッチされていた。「キャッ!」 まるで女の子のようなかわいらしい悲鳴がワタシの口から漏れる。まあ、女の子に間違いはないからおかしくはないんだけど、ちょっと恥ずかしい。それにしても今、ワタシをキャッチしたこれって、もしかしてもしかすると……。「投網?」 投網に包まれた経験は初めてなので確信は持てないけど、これはやっぱり投網だよね。普通に魚を獲る為の投網に比べたらずいぶんと網の目が小さいけど、機能からして投網に違いないかも。なんだかね~。「無事か? 美姫君?」 投網に包まれて天井からぶらぶらとぶら下がっているワタシに対して、剣持主任が問いかける。それよりも早く降ろして欲しい。うにゃ~、自分の羽で飛んでいるならともかく、つりさげられている状態ってなんか嫌っ!!「ええ、無事ですけど、一体何なんですか!? 椅子についていたあのレバーといい、この投網といい……。ちゃんと説明してくださいっ!!」 身動き出来ない状態のまま、ワタシは声を荒げる。というかそれしか出来ない。うう、身体が変な体勢で固まっちゃってるよぉ~。「分かった。説明はするから、今はとりあえず美姫君を下に降ろそう。そのまま何もせずに身体の力を抜いておいてくれ。大丈夫、とにかく異常な事態ではない。脱出装置が正常に機能しただけの話だ」 指示通り身体の力を抜いて待っていると、投網から天井まで伸びているロープがゆっくりと伸びてきて、それに伴いワタシと床の距離は縮まっていくのだった。それにしても『脱出装置』っ! この零号機って、そんなにも危険な装置なの?
Jun 14, 2004
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「当然だろう。美姫君のように青い髪のショートカットな美少女には白いプラグスーツがよく似合うし、その少女が乗り込む機体は……、まあ乗り込むわけではないのだが、やはり零号機がよく似合うのだよっ!! 悪いかね!? 開発中の機械に自由に名前をつけるぐらい良いじゃないか。それをみんなしてオタクだなんだと非難してっ!」 キレちゃった……。剣持主任って、こんなキャラクターだったのか。それにしてもやっばりこのスーツの名前ってプラグスーツっていうのか。まったくオタクは……。「まあまあ、いいじゃない。オタクはちょっとぐらい迫害されていたほうが生き生きするってもんでしょ。すねない。すねない♪」 詩衣那さんが剣持主任をなぐさめる声が聞こえる。それにしてもなんてなぐさめ方なんだろう。あれじゃ余計に落ち込んだりしないのかな? 変に落ち込まれて無茶な実験をされるとワタシが困っちゃうんだけど。「詩衣那君、いつも私を迫害しているのは君のような気がするんだが……。まあいいか。とにかく美姫君の為に用意したその装置のことはこれからは零号機と呼ぶことにするのでそのつもりでいてくれ」 剣持主任達が居る部屋と、ワタシがいるドームの間は大きなガラスで仕切られている。そのガラスを通してみんなの姿がよく見えるのだけど、剣持主任の後ろでは仁村さんが手を合わせてワタシに軽く頭を下げている。どうやら剣持主任の趣味につきあってくれということなんだろう。きっと剣持主任って趣味の為には何でもするタイプなのかもね。う~ん。ここはひとつ穏便にいきますか。「分かりました。じゃあ、この装置の名前は零号機でいいです。でもこれが零号機なら、詩衣那さん用の装置の名前は何ていうんですか?」 答えは分かりきっているような気もするけど、ここはひとつちゃんと質問するのがお約束というものでしょう。ついついこんな時にサービス精神を発揮しちゃうのは、ウェイトレスのバイトで鍛えあげられたからかな?「赤いスーツを着ている詩衣那君用の装置は、もちろん弐号機に決まっている。詩衣那君の髪の毛が赤色だったら後は申し分無いのだが……。まあ、それはしょうがない」 聞いた瞬間に、『やっぱり……』と、心の中でため息をつくワタシだった。喫茶店の瀬里香でウェイトレスのバイトをしていると、妖精マニアというか妖精オタクというか、そうとしか表現出来ないような人種のお客様がやってくることがある。男女問わずそういった人種の人達は、ワタシが妖精らしくすればするほど喜ぶものなのだけど、剣持主任の場合はそっちの趣味に合わせてあげればあげるほど喜んじゃうんだろうな……。「剣持主任……、主任の趣味に合わせるのは別にかまわないんですけど、装置を爆発させてワタシを包帯でぐるぐる巻きにしようだなんてことは考えてませんよね?」 まさかさすがにそこまではしないだろうと、ワタシは冗談っぽく軽い口調で剣持主任に問いかけた。「…………」 すぐに否定の言葉が返ってくるかと思いきや、返ってきたのはスピーカー越しにも分かる程の、何故か異様に重苦しいまでの沈黙だった。まさかっ! まさかまさかっ!!「あは、あは、あはははは……♪ え~と、この椅子の横に付いているこのレバーは、もしかして自爆スイッチだったりして?」 人間、緊張が高まると笑い出すこともあるらしいけど、ワタシは乾いた笑いをあげつつ、そのレバーに手をかけたのだった。きっと大丈夫。自爆装置なわけないよね。「それに触っちゃだめだーーーっ!!」 しかしスピーカーからはこれでもかという大音量で、剣持主任がワタシを静止する声を上げる。突然のことに驚いたワタシは、ビクッと手が動いてしまい、ついついそのあやしげなレバーを引いてしまったのだった。その瞬間……。バシューーーーッ!!「うわわわっ!!」 エアガンの圧搾空気が一気に解放されるような音とともに、ワタシが座っていた椅子はそのまま上に20メートルほど吹き飛ばされたっ! 羽を出して自力で飛ぶことも忘れてしまったワタシは椅子から放り出されて、くるくると空中を舞うのだった。目が回る~っ!
Jun 11, 2004
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「美姫さん」 ワタシが装置中央の椅子に座ろうとした時、後ろから追いかけてきた詩衣那さんが声をかけてきた。「冗談はおいといて、十分に気をつけてね。この装置は私のデータをもとに調整されているから、私にとっては安全な状態にまで微調整が済んでいるの。でも、美姫さんと私は当然に魔法力も身体能力も違うわけだから、私にとっては安全でも、美姫さんにとっては安全ではない可能性も捨てきれないわ。……もしかするといらない心配かもしれないけど、危ないと思ったら遠慮なんかしてないですぐに大声で叫ぶのよ。力ずくでも実験を止めさせてみせるから。じゃあね♪」 ワタシが応える間もなく早口でそれだけを喋ると、詩衣那さんはそのまま飛んで行ってしまった。詩衣那さん、心配してくれてるんだ。何だかちょっとうれしいな。「ありがとう詩衣那さんっ!」 ドーム状の部屋の脇にある制御室(?)に向かって飛んでいる詩衣那さんの背中に呼びかけたワタシの声に、詩衣那さんはこちらを振り向くことなく右手をあげて軽く振って応えたのだった。「さて、それでは用意は良いかな? 早速だが30秒後に装置を作動させるぞ。それではカウントダウン開始。30、29、28、27、26、25……」 部屋の天井近くに設置してあるスピーカーから、剣持主任の声がしたかと思うと、いきなりカウントダウンが開始された。まったくちょっとは心の準備に時間を欲しいよね。ワタシは背もたれに上半身を預けて両手はしっかりと胸の前で組み、装置の作動を待ったのだった。う~、心臓がドキドキする。「6、5、4、3、2、1 零号機起動ッ!」 剣持主任のかけ声とともに、ワタシの周囲に円周状に配置されたパソコンが一斉に起動したのが感じられた。カリカリというハードディスクが回る音とともに、一瞬、気分が悪くなったが、すぐにその影響がキャンセルされる。どうやらここまでは特に問題は無いみたい。それにしても装置の名前が……。「どうだね? 気分は悪くないかな?」 さすがにちょっと心配そうな雰囲気で聞いてくる剣持主任。「起動した瞬間は~~~、ちょっと気分が悪くなりましたけど~~~、今はもう大丈夫です~~~っ!!」 マイクの類はセットされてなさそうだったので、声が届くようになるべく大きな声で答えてみる。ぜい、ぜい。「っ!! 声を抑えてくれ。そんなに大きな声を出さなくても、小さな声でもちゃんと聞こえるっ! スーツには喉のあたりに超小型のマイクロフォンが組み込んであるんだっ!!」 剣持主任の叫びに混じってスピーカーの向こうから、『やめて~~っ!』とか言っている詩衣那さんの声が聞こえてきたりして、なんだかかなり大変そう。このスーツに付いているマイクってそんなにも高性能なんだ。「分かりました。すみません。……あの、それでこの装置の名前が零号機っていうのは、やっぱりアレなんですか?」 またアニメから命名したのかと、ちょっとばかり非難の口調をにじませてみる。はてさて剣持主任の反応やいかに?
Jun 9, 2004
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「原理? 原理と言えるかどうかということに若干自信が無くもないが、妖精に与える機械の悪影響を完全にキャンセルする装置は、機械が出すという波動を全部まとめて消去しようというものだ。対して妖精の魔法を強化する装置は、機械が出す波動の種類を出来るだけ細かく分類し、選択的に消去もしくは増幅しようということが一応の原理と言えるんだが……、分かったかな? 美姫君」 やや早口に説明する剣持主任を見て、詩衣那さんが空中で肩をすくめて無言のうちに首を振る。ええと、詩衣那さんのその態度からして、まだ何か隠されたことがあるのかな?「なるほど、なんとなく分かりましたけど……。それで、その『選択的に消去もしくは増幅』って、何を基準にして選択をするんですか?」 これが最後と質問をする。というかもうそれぐらいしか質問のしようがなかったのだ。専門的な科学用語をとうとうとしゃべられてもワタシには理解出来ないし。「……そんなものは、てきとうだ」 つぶやくような剣持主任の声。う~ん、今、『てきとう』って聞こえたけど、まさかね。妖精の魔法を強化増幅しようだなんてすごい装置を、【てきとう】に作るなんてこと、あるわけないよね。「あの、ワタシの空耳だったと思うんですけど、今、『てきとう』って聞こえちゃったんですが……。すみませんが、大きな声でもう一度教えてもらえますか?」 かなり遠慮しつつ聞いてみる。しかし剣持主任は何も言わない。というかどう言って「だから本当に『てきとう』なのよ。まずはコンピューターの設定を微妙に変えるでしょ。そして私の身体反応がどうなるかを見て、調子が良くなっていればその設定を使うし、調子が悪くなるようだったらその設定は消去する。そんな手探り状態で魔法を強化しようだなんて考えてるのよ。剣持さんは」 やれやれと大きくため息をつく詩衣那さん。「しょうがないじゃないか。人間が魔法に対して干渉可能な手段はコンピューターのような機械しかないし、どういうようにすれば良い影響を与えられるかということについては手探り以外のやり方があるわけもないだろう」 ややむきになる剣持主任と、それを面白そうに見ている詩衣那さん。本当にこのふたりっていったいどんな関係なんだろう?「まあ、とにかく、『てきとう』というのは言葉が悪かったな。『あらゆる角度から試行錯誤を繰り返す』という言い方に訂正しておこう。というわけで、美姫君。早速だが【試行錯誤】といこうじゃないか? それとも、いやなら前に振り込んだ契約金を返してくれるかな♪」 ワタシが既に契約金としてもらった300万円を、ほぼ使い切っていることを知っているのか、そんな言い方をする剣持主任。まったく自分が不利になりかけてきているからといってお金を持ち出すだなんて……。まあ、それが世の中というものなんだろうけど。「詩衣那さん、仁村さん……」 ワタシは助けを求めるようにふたりの顔を交互に見つめる。「大丈夫よ、美姫さんの体調が少しでもおかしくなったら、すぐに機械をストップしてあげるから。剣持主任も見た目とは違ってちゃんとまともな科学者なんだから信用してあげて」 仁村さんが強く断言する。う~ん、それにしても職場の部下からも『見た目はまともじゃない』と認識されていたのか。剣持主任は……。「そうそう。ちょっと脅かし過ぎちゃったかもしれないけど、まあちょっと気持ちが悪くなるぐらいだから。がんばってね♪ 応援してるわよ」 にっこり微笑む詩衣那さん。ちょっと気持ちが悪くなるぐらいって……、それが怖いんですけどぉ~。「じゃあ、話がまとまったところで、美姫君、装置中央の椅子に座ってくれたまえ」 バサッとわざとらしく白衣をはためかせて、12台のパソコンが円周状に並べられた中央に置いてある妖精用の椅子を指差す剣持主任。しょうがない。行きますか。「分かりました。でも本当に危ないことは嫌ですよ」 最後に念を押すと、ワタシは装置の中央に向けて羽ばたいていくのだった。さて、これからどうなるんだろうか?
Jun 8, 2004
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「それで妖精の魔法を強化する方法なのだが、妖精の魔法がコンピューターに悪影響を受けるのなら、逆に考えればコンピューターの設定を変えるとかすれば妖精の魔法に対して良い影響を与えることが出来るのではないかと……、そう考えたのだよ。いやあ、単純な思いつきだったんだが、やってみたら上手くいったわけだな」 仁村さんに頭を撫でられながら聞いてるワタシには、剣持主任がいったい何を言っているのか良く分からなかった。う~ん。「あの、結局どういうことなんですか?」 頭の中に疑問符がちらりほらりと降ってくる。「美姫さんは、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』って読んだことない? 『ネバーエンディング・ストーリー』っていう映画の原作なんだけど、その原作の最後のほうに、バラバラにしたアルファベットをランダムに組み合わせて物語を作ろうというシーンが出てくるんだけど、剣持さんが作ろうとしている妖精の魔法を強化する装置の原理って、結局はそれなのよ。まったく……」 ワタシ自身は、『はてしない物語』も、『ネバーエンディング・ストーリー』も知らなかったのだが、【バラバラにしたアルファベットをランダムに組み合わせて物語を作る】という考え方に何かこう、不吉なにおいが感じられるかも。「詩衣那君……。それは言いすぎじゃないのかな?」 口の端をひくひくと引きつらせて、詩衣那さんに抗議する剣持主任。「ち・が・うって言うの?」 剣持主任の頭の周りをヒラヒラと飛びながら、大げさな身振りを交えて詰問する詩衣那さん。「いや、違うとは言い切れないけど……」 途端に力なく答える剣持主任。どうやら詩衣那さんには頭が上がらないという関係になってしまっているらしい。まあ、自分が勤めている会社の会長の孫娘が相手では、それもしょうがないのかもしれない。なんだかちょっとだけ同情してもいいかもね。「あの……、それで結局、この機械。妖精の魔法を強化する装置の作動原理というか、どんな理屈で魔法の強化をするのかということは、説明してもらえるんですか?」 なんとなく聞きたいような、聞きたくないような、微妙な気持ちで尋ねてみるワタシ。なんだかとんでもない原理のような気がしてきたんだけどどうしよう?
Jun 7, 2004
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「よし、では前にも説明したことだが、妖精に対する機械の影響をキャンセルする装置の原理をもう一度簡単に確認しよう。コンピューターや携帯電話・PHS等のネット機器からは、妖精がいうところの【波動】が出ているということだ。我々人間にはその【波動】というものが実際にはどういうものだかはわからないが、結局のところ機械が作動することで出るのは間違い無いと私は考えたのだ」 以前、ワタシの家でも簡単に説明したことを繰り返す剣持主任。ワタシは仁村さんの持っているミニノートパソコンの液晶画面から剣持主任のほうに視線を移した。逆に仁村さんはワタシの身体反応を見るために、ノートパソコンに注意を戻している。ちなみに詩衣那さんは空中をパタパタと飛びながらアクビをしている。なんて眠そうな顔……。「だから騒音を消す為に同一波長の音波を波長が半分だけずれるような時間差で発生させて、お互いの音波を打ち消しあうようにするアクティブ制音技術の考え方を応用すれば、妖精に対する機械の【波動】の影響を完全に打ち消すことが出来ると考えたわけだが、予想通りの結果を得ることができた」 軽い自慢の口調で話す剣持主任。その剣持主任の元に詩衣那さんがススッと滑るように飛んで近づいてくる。「確かにアイディアは良かったけど、そのアイディアを完成させる為に私はずいぶんといじめられたわよねぇ~。もう最初の頃はこのまま殺されちゃうんじゃないかと思っちゃったわ」 ワタシをからかっていたのとまったく同じ雰囲気で、剣持主任に冗談っぽく突っかかっていく詩衣那さん。殺されちゃうんじゃないかとは穏やかじゃないけど、ホントなのかな?「詩衣那さん、これって危ないんですか?」 ちょっと不安を感じて、詩衣那さんに聞いてみる。「ああ、大丈夫。実際に死ぬことはないわ。ただものすっごく気持ち悪いことになるかもしれないだけだから♪」 その明るさが不安をさらに大きくする。う~、結局どうなるんだろう?「詩衣那君、あんまり美姫君に変なことを言わないで欲しいね。それから美姫君も詩衣那君の言葉を本気にしないように。実験の途中で、ちょっと気持ち悪くなるかもしれないけど、一瞬のことだから」 しかめ面をして詩衣那さんをにらみつけると、ワタシに笑顔を向ける剣持主任。まったく忙しいことだよね。それにしても今の剣持主任の発言って、一瞬は気持ち悪くなるっていうことのような……。「やっぱり気持ち悪くなるってことですよね?」 ジト目で剣持主任を見るワタシ。もう、ちゃんと説明してもらわないと。「なる。だが命に別状は無い」 なるんですか~? それに命に別状はないだなんて、余計に怖いです~っ!! 泣いちゃおうかな?「美姫さん。安心して。私が美姫さんの身体状況を完璧にモニターしているから、もしも実験による悪影響が出そうになってもすぐにストップをかけてあげるから大丈夫よ。詩衣那さんはちょっと大げさに言っているだけなんだから」 優しい笑顔でワタシの頭を撫でてくれる仁村さん。ふみゅ~。仁村さんが言うなら信用しても良いような……。
Jun 6, 2004
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人間っていうか、人造妖精ってわけですね。まあ、なんとなくそうじゃないかな? とは思ってましたけど」 こう見えてもワタシだって現代日本の高校生なのだ。最新の生物学までは分からなくても進化論だとかの基本は知っているつもりだ。妖精は、パラレルワールドの人間に遺伝子操作の末に創られた存在なのか、それとも何か分からない存在により魔法で生み出されたのかは知らないが、自然に進化した存在ではないだろうことだけはなんとなく分かっていたつもりだ。「あまりショックを受けてはいないようだね?」 意外という顔をする剣持主任。「もしもワタシが生まれたときからの妖精だったなら、ショックを受けたかもしれませんね」 今のワタシは妖精少女で、それに慣れきっちゃっているようなところがあるけど、やっぱり本物の自分自身は普通の人間の男子であるという意識がどこかにある。妖精少女とは仮の姿っ! という意識だから、その仮の姿である妖精が自然の存在では無いとしても、ショックを受けるということにはならないのだろう。う~ん、もしかしてワタシって哲学的?「美姫さんの意識としては、まだ本当の自分は人間のままってことなの?」 追いついてきた詩衣那さんが会話に加わってきた。ふ~む、ということは詩衣那さんの意識の上ではもう、自分は人間であるというよりも妖精であるという意識のほうが強いってことなのかな。まあ確かに6年も妖精をやってればそうなるのかもしれないね。それにワタシと違って人間だった頃から女の子だったからその点でも違和感は無かっただろうし……。「ええ、まあ、そんなものですね。妖精であることと女の子であることに慣れてはきましたけど、やっぱり本来の自分は人間の男の子であるっていう気持ちはなくならないですよ」 空中での会話は背丈の高さよりも飛行高度の高さが視線の位置となるから、詩衣那さんよりも背が低いワタシだけど今の視線はワタシのほうが若干高い。その視線の高さも自分が元々は男だったということを思い出させてくれるのかもしれない。……なんてね。「ふーん、そんなものなのかしら。私なんか人間であること……。というよりも加賀家の人間であることに嫌気がさしていた頃に召喚されたから、『妖精である自分が本当の自分だったんだっ!』って感覚のほうが強かったのよ。だから今じゃもう『心の底から自分は妖精なんだっ!』って言いきれるわよ。まあ、別に強く主張なんかしなくても周りの人達はそう見てくれるけどね」 やっぱり詩衣那さんの感覚は、ワタシとはちょっと違うみたい。どうなんだろう。ワタシもあと6年もしたらそんな感覚になっちゃうのかな? どうも想像できないんだけど。「美姫君がそんなにショックを受けていないというならそれはそれで良いんだが……。まあとにかく妖精は、なんらかの形で人造的に作られた生き物であるということ。そしてその生命活動を維持する為には生化学的な代謝だけではなく、妖精が無意識のうちに発動しているだろう魔法の補助が必要だということをまずは理解して欲しい」 ワタシが冷静に話を聞いているのは見て、簡単に要点をまとめる剣持主任。ワタシは感心しつつ、空中に浮かびながら腕を組み、うんうんとうなずいた。「更に言うなら妖精の生命活動を維持する為に魔法が常に発動しているという前提に立てば、妖精の体調をモニターすることによって魔法の発動状況も推測出来るんじゃないかな? ということも考えられるのよね。ちなみに今の美姫さんの体調は申し分なしよ♪」 今まで黙ってワタシ達の話を聞いていた仁村さんは、手にしたミニサイズのノートパソコンを開いてワタシに見せるのだった。だからその画面を見せてもらってもワタシには何のことだか分からないんですってば~。う~みゅ……。
Jun 5, 2004
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「これが、妖精の魔法を機械的に強化する装置……」 大きな白いドーム状の部屋に連れてこられたワタシは、広い部屋の中央に置かれたそれを見てつぶやいた。遠くからだからハッキリとはしないけど、これってどう見ても単なるデスクトップコンピューターの本体にしか見えないんですけど? もっともその数は12台もある。12台のパソコンが円周状にぐるりと設置され、その円の中心部分には、妖精サイズの椅子がひとつ置いてある。それから12台のコンピューターからはうねうねと伸びたコードによって相互に接続されているが、そのコードは束となりドーム状の部屋の端にある制御室(?)へと続いていた。「コンピューター等のネット機器は妖精に悪影響を与えることは良く知られているが、召喚時の妖精の説明にしたがって正確に表現すると、妖精は魔法によりその存在を許されているのだが、コンピューターは魔法に対して障害を与えるから、妖精はコンピューターにより生死を左右されるほどの影響を受けるということなんだが……。美姫君はそれが何のことだか理解出来るかな?」 いきなり長文で説明をする剣持主任。ふざけたところがどこにもない真面目すぎる顔が、どこか怖いような気もする。「ワタシも妖精に召喚されるときに聞いた話ですから、だいたいのことは分かるんですけど、『妖精は魔法によりその存在を許されている』ってところが何のことだか分からないです」 部屋の中央の装置に向かって歩いている剣持主任の後を、ワタシは飛んで追いかける。ちなみに詩衣那さんと仁村さんもゆっくりとワタシの後をついてきている。「さっきも話したが、妖精と人間はそのサイズこそ違っているが体形はまったく同じだ。身体の大きさが一回り違うというぐらいなら納得出来るのだが、妖精は人間のおよそ6分の1サイズでしかない。これは普通では考えられない。生物学的にありえないと断言する学者もいるぐらいだ」 装置の前までやって来ると、くるりと振り返る剣持主任。もうっ! 急に止まられるとぶつかりそうになっちゃっうよ。「私も生物学は専門外なのだが、おそらくそのありえない部分を補っているのが魔法なんだろう。妖精は羽を出して空を飛ぶ魔法しか使えないというのが世間の常識だが、実は妖精がそのサイズでちゃんと生きていること自体が魔法なんだよ」 白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、剣持主任は目をつぶると顔を天井に向けた。何かを考えているみたい。「もともと妖精は自然な進化の果てにはありえない生物なんだ。おそらく妖精世界の地球。私たちはそれをSFに出てくるパラレルワールドのようなものと理解しているのだが、妖精界にも元々は人間が住んでいたらしい。美姫君も聞いたはずだ。妖精世界においては人間は伝説の存在であるという話を」 目をつむったまま天井を見上げていた剣持主任は、ゆっくりと私の方に顔を向けると、これまたゆっくりと目を開いた。なんだか話しづらそうなことを話そうとしているような……。「ええ、それは聞きましたけど、何か分かってるんですか?」 ワタシは人間が伝説の存在であるという妖精の言葉の意味をそう深くは考えていなかったので、軽く聞いてみた。「本来の妖精界の妖精は、その世界の人間によって遺伝子改造されて作り出された生き物らしいんだな。これが……」 剣持主任の声は重かった。
Jun 4, 2004
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「そうですね。確かにさっきは詩衣那さんのことを【偉そう】だとは思ったんですけど……。ああっ! ごめんなさい」 詩衣那さんに怒られる前に先に誤っておく奥ゆかしいワタシ。顔も真っ赤になっちゃってます。「でしょ? ほら、当たったじゃない。ね、仁村さん?」 親指を立てた右手を仁村さんに向けて突き出す詩衣那さん。赤いスーツとあいまって、とってもタカビー。「う~ん、でもそれは魔法なんか無くても普通に考えれば誰でも分かることだから……。第一、美姫さんがそう考えてるということは表情とかしぐさを見ていたら私でも分かったことなんですもの。それに詩衣那さんの身体反応をモニターしている限りでは、通常と大きく違う反応は何も出なかったのよ」 反論をする仁村さん。へえ、ワタシ達の反応をずっとモニターしているのが仁村さんの本当の仕事だって言っていたけど、そういうことを調べていたんだ。「……あの、そんなにワタシの心の中って読みやすいんですか? まあ、自覚していなくはないんですけど」 うう、やだなあ。と、思いつつ、仁村さんに質問する。顔に縦線入ってるかも。「まあ、美姫君の反応が分かりやすいのは確かだな。感情がストレートに表面に出てくるんだろう。おそらくそれは、鳥の羽をした妖精が魔法力の強い原因である脳梁の太さによるものかもしれない。しかし、だからといって詩衣那君の主張がとるに足りないものだとは言えないぞ。詩衣那君には何かを読み取る力がある可能性は否定出来ない。実際に妖精召喚者からのアンケート結果によると、確かに本来の蝶羽の妖精には宗教的な聖職者が多いらしいという結果も出ているからな」 ゆっくりとした口調で静かに語る剣持主任。どうやら仁村さんは仕事の役割上もあるんだろうけど、詩衣那さんの『力』に疑いを持っているらしい。それに対して剣持主任は、詩衣那さんの『力』の存在を信じているらしい。確信を持っているわけでは無いようだけど。う~ん、どうなんだろうね?「で、結局、なんの話でしたっけ……?」 話が脱線しまくりなのを、軌道修正するために、あえてボケてみる。というか、本気で何を話していたのか忘れそう。「だから、妖精の魔法はイメージによるということで、そのイメージは脳梁という肉体的なものに左右されるから、当然に魔法は肉体、つまりは遺伝子によって左右される。というわけで魔法が社会の中で重要な役割を持っている本来の妖精社会では魔法が強い家系が王族や貴族となっているわけで、それが美姫君、君というわけなんだよっ!」 分かってなかったのか? と言いたげな勢いでまくし立てる剣持主任。こぶしを握り締め、息を切らしてます。「だ、だから……。どういうことなんでしょう?」 少したじろいで、ついつい後ろに後退してしまうワタシ。まあ、後退するのは後ろに決まっているんだけど。「うむ、まあなんだ。この研究所では既に妖精に対するパソコンなどといった機械からの悪影響をキャンセルする装置の開発に成功し、もうまもなく市販されるところまで来ているわけなんだが、第2段階のところでちょっと行き詰まっているんだよ」 一転してトーンダウンする剣持主任。あらら、元気出してください。「それが、妖精の魔法を機械的に強化するということですか?」 前に剣持主任から聞いた話を思い出して、ワタシは聞いてみた。うーん、それにしても機械の悪影響をキャンセルするにしても、妖精の魔法を強化するにしても、いったい原理はどうなっているんだろう?「そうそう、それだ。とりあえず現在のネックは、妖精の魔法を強化するにしても元々の妖精の魔法力が弱いと、強化するにしても難しすぎるという点に尽きるんだよ。だからこそ、妖精の中でも最も魔法力が強いだろうというように推察される美姫君に手伝ってもらいたかったんだっ!! 大丈夫、美姫君が協力してくれたならきっと上手くいく。何しろ白い鳥の羽をした妖精は、妖精世界でも最高ランクの魔法力を持つ妖精ということが分かっているんだ。間違い無いっ!」 落ち込んだり元気になったりと忙しい人だな。剣持主任って。一流の研究者って少年の心を持ち続けているって言うけど、もしかしてこういうことなのかな? う~ん、分からない。「は、はあ……。そうなんですか。でもどうやって魔法力を機械的に強化するんですか? そこがちょっと不思議なんですけど」 ワタシはやや前かがみになって生返事をした。少々疲れるかも。「うむ、今から説明をしてあげたいのはやまやまなんだが、もう時間が無い。そろそろシステムの起動は終了した頃だ。……というわけで美姫君。妖精の魔法の原理と美姫君の魔法力が強いだろうというところまでは説明したわけだが、この続きは妖精の魔法力を強化する機械を見ながら説明することにしよう。現物を見ながらのほうが理解しやすいはずだからな」 そしてワタシ達はミッションルームを後にしたのだった。いよいよ、魔法の世界への扉が開くっ!! ……のかな?
Jun 2, 2004
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「でも言っておくけど、昆虫の羽をした妖精の中でも、私みたいな蝶の羽をした妖精はちょっと特別なんだからね」 私のほうが偉いのよっ! とでも言わんばかりの言い方をする詩衣那さん。もう、誰も詩衣那さんのほうが【偉そう】だってことに文句をつける人はいませんよぉ~。ワタシは心の中で突っ込むのだった。「……美姫さん。今、微妙に失礼なこと考えてたでしょ?」 だからどうして分かっちゃうの? ワタシを見る詩衣那さんの目が妖しく光っている。笑顔なのに何だかこわい。「考えてません。どうみても詩衣那さんのほうが【偉そう】だなんて考えてませんからっ!」 ワタシは慌てて否定した。全力をもって否定した。……ぼろがでる程に。「お約束な展開ありがと♪」 あっ! と、口を抑えるワタシを見て、剣持主任も仁村さんも苦笑している。「でも、どうしてっ!? やっぱり顔に出ちゃったんですか?」 妖精って自分の感情に素直だから、内心の感情を顔に出さないでおくことが難しいのだ。いわゆるポーカーフェイスって妖精にはほとんど不可能に近いものがあるんだよね。まあ、個人差はあるみたいだけど。 「違うわよ。そこまで顔に出てたなんてことはないわ。蝶羽の妖精は、同じ昆虫羽の妖精と比べても特徴があるの。広い意味での精神的な指導者階級、具体的に言うなら僧侶や巫女とか、あるいは芸術家とか、もしかすると予言者とかいう感じの階級に属しているらしいのよね。本来の妖精の社会では」 紫色をした蝶の羽をパタパタと動かす詩衣那さん。まあそう言われてみれば紫色の羽というのは、神秘的に見えなくもないけど……。「でも、それと、ワタシの考えが分かっちゃうのが、どう関係するんですか?」 詩衣那さんをはじめ、剣持主任や仁村さんも含めて、ぐるりとワタシを取り囲む顔を見まわして疑問を口にしてみる。ホント、どうして分かっちゃうんだろう?「妖精の魔法を強化する機械の開発は、まだ完成していない。しかし開発の過程では当然に詩衣那君にも協力してもらっているわけなんだが、その際、詩衣那君の魔法力がわずかながら開花されたようなんだ。そうだな……、いわゆる遠見の術というか、千里眼とでも言えばいいのか、あるいはまた読心術とでも言えば良いのかな? そんな能力なんだよ」 眼鏡をキラリと光らせて解説をする剣持主任。 「どう? すごいでしょ?」 威張りまくる詩衣那さん。椅子に座ったまま反り返っちゃってますけど、大丈夫? ひっくりかえらないでよ。「今の段階では、時たまチラリと見えたり分かったりするとか、夢の中で見えたりする程度でしかないということだけどね♪」 ころころと笑いながら茶化す仁村さん。この分では相当普段は吹いているのかな? 詩衣那さんは……。「あ~、仁村さんったらやっぱりまだ信じてないんだ。失礼しちゃうわね。ちゃんとホントに見えるんだから。今だって美姫さんの心の中を当てたじゃない。ねっ、美姫さん?」 さっきチラリと見せた神秘的な雰囲気はどこへやら、妖精らしい素直な感情を爆発させる詩衣那さん。ほっぺた膨らみっぱなし。
Jun 1, 2004
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