Ｌａｓｔ　Ｅｓｐｅｒａｎｚａｒｓ

「ヘリポートには武装した警官が待機しています。発砲許可も出たし、行ったら射殺されるに決まってます。金は手に入らないと思いますが、余裕ですね。残り四時間。何か考えがあるんでしょうか」

「え？　人質連れてかないの？　それじゃ金なんて手に入らな……はあ！？　ドアに爆弾を仕掛けるだって！？　みんな吹き飛ばす気！？　こいつらどういうつもり！？」

「しかも、神戸に電話かけさせやがった。もう子供を連れてヘリポートに向かったって電話させ、救助に来させる気だ。それで駆けつけたらドカン……野郎、とんでもねえことを！　……うん、草壁なんか持ってる。無線？」

「あのメモに記されていたのは、平野の行動だった。夜間清掃の会社に問い合わせると……なに、昨日仕事を依頼していない？　どういうことだ？」

「あの日夜間清掃の仕事はなかった。だとすれば……え？　あいつ朝比奈警備保障会長の孫なのか！？　勘当されたってお前……ちょっと待て、平野の同日に速水が面接に来てただと！？　てことはまさか……」

「一方神戸たちは、万が一のことを考え地下に隠れることにしました。やらないよりはマシかもしれませんし。あとはあの鉄格子を外せれば……」

「ネットにアップされた動画には平野は写さなかった。わざと存在を隠ぺいしたとしたら、どうして……」

「誘拐の狙いは、最初から平野一人だけだったとしたらどうだ。奴らは平野を人質にするため清掃業者を装いあのバスにおびき寄せた。狙いは無論二十億だが、ヘリに積まれたのは恐らく囮の二十億だ。奴らは捜査員がヘリポートに集まっている隙を狙って、別の二十億を手に入れるつもりなんじゃないか？」

「別の二十億って、今は大みそかだぞ？　銀行も閉まっているし、造幣局だってやってはおるまい」

「いいえ、警備会社なら持っています。警備会社の仕事には百貨店の売上回収というものがあります。都心の大手デパートの売り上げは一日三億円から六億円にもなります。明日は元日で全店休業ですから、どのデパートも残さず回収させるでしょう。その総額は二十億は下らない……つまり、彼らの目的は現金回収車です。ですが、警備会社は警備のプロだからそう易々と金を奪われたりしないと思いますがね」

「だから草壁と平野が必要だったんだ。相手がテロリスト、しかも一人は外人部隊の出身ともなれば話は別さ。東京シティヘリポートは朝比奈警備保障の請負なんだから朝比奈会長は絶対動画を見る。その凶悪なテロリストの監禁されている部屋に孫も一緒だと、例えば動画とかで送られてきたらどうする？　そうだ、全て現金回収車を容易に奪い取るためのデモンストレーションだったんだ。しかし……これはまだ推測の域を出ないがね」

「神戸もそのことに気付いたよ。現金輸送車のナンバーもあいつらが口にしてた。急いで伝えないと。鉄格子は一本外れたけど、これから大人が出るの無理……え、カナちゃん行く？　ダメだよ危ないよ！」

「時間が無い、警察が来てドア開けたらドカンなんだ、やってもらうしかない。神戸がメモ書いて、警視庁の杉下さんに連絡させることにした。じゃあ頼むぞ、危なくなったらすぐ戻れよ、無理すんなよ！」

「朝比奈会長に画像が送られた。三分以内に回収車を止めてＧＰＳ運行管理システムを切って離れないと殺すだと？　くそっなんて奴らだ。止めるしかない！　回収車を奪われてしまったぞ」

「いいえ、カナちゃんが公衆電話を見つけてくれました。杉下さんの推理を裏付けられましたね。爆発物処理班も呼んだし一安心です。カナちゃんはすぐ警察の方が迎えに来ますのでそこで待っていてくださいね。……え、ちょっと、一組の警官が無線切っちゃってますよ。これちょっとまずいかも……」

続く