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「米沢さんがミステリーな事件ということで特命に話してきた。なんでも出版社の長谷川という男がマンションの自室で殺害されてるのが発見されたんだって。スタンガンで弱らせてから絞殺されたようだけど、他に数日前についたという殴られたような跡が。部屋がメチャクチャに荒らされてるから強盗殺人の可能性がって、それのどこがミステリー? ――ん? それよりも被害者の長谷川って――」
「実はこの男、三年前ある殺人事件の容疑者として逮捕されていた。事件は深夜の公園で山本さんという女性がハンドバッグなどを盗まれて殺された件で、現場近くでバイクで走り去る姿を目撃された長谷川が逮捕起訴された。しかし裁判の結果は無罪。人権派の凄腕女性弁護士として有名な永井という女の手腕によるものだな。その半年後、あるホームレスが病死したのだが、彼の持ち物から山本さんの腕時計が見つかりそのホームレスが犯人だということになった。そんでミステリーの件だけど、長谷川が帰宅してから死亡推定時刻までの数時間、監視カメラによるとマンションの住人が入った以外誰も出入りしていない。裏口はあるがスペアキーの作れない鍵で外部の人間は入れない。なるほど、ミステリーだな」
「監視カメラに死角なし、裏口は入る場合鍵が必要。誰かに便乗して入ろうなんてその人に気づかれちゃいますからね。何らかの方法で鍵を手に入れ裏口から入ったと考えるのが自然ですか。しかしオートロックのマンションの人間がいきなり部屋を訪ねられて警戒しないなんてあり得ない。だとすれば犯人は被害者の親しい人物でしょう。部屋を調べてみると……うっわ、すごい荒らされています。でも金目当てって感じじゃありませんね。あら、長谷川は無罪判決の後体験を本に出したそうで。その縁で今の出版社にいると。次は出版社に行きましょう」
「編集長曰く、あの本は永井が長谷川を紹介して書かせたものだそうだ。人権派らしく裁判後も色々世話しているらしい。永井の事務所に行ったが、長谷川は冤罪をかけられ職も失い、それでも保証は大したことはない、だから彼を救いたくて行動したそうだ。三年前の裁判も細かい矛盾などを指摘して見事なもの。有能と呼ばれるだけあるな。それで事件当夜のアリバイだが、秘書と事務所で仕事をしていたそうだ。果たして犯人は――」
「三年前無罪判決を受けた人間が殺されたとなると、三年前の件を洗ってみた方がいいかもな。ふうん、これがホームレスが持ってた時計か……あん? なんだこれ。時計は新聞にくるまれていたんだが、その新聞千葉版だ。都心で発見されたんだろこいつ? なんで千葉版なんだ?」
「殺人犯とされたホームレス、寒くなると千葉に引っこんで春になったら戻ってきたんだって。本人曰く時計は東京に帰った時拾ったそうだけど……え? 新聞の日付が事件の翌日だ。てことはホームレスは事件当夜まだ千葉にいて、東京に戻ってから時計拾って包んだってこと? それじゃ犯人じゃなかったかもしれないじゃん」
「ホームレスが無実だった可能性が出た以上、長谷川が真犯人でそのことが原因で殺された可能性もある。そのことを永井に行ったら協力してくれるそうだ。事件の際アリバイはなかったが、長谷川と山本さんの接点は結局見つからなかった。働いていたという花屋でも聞いてみるが結局何も……ん? これ、花のアレンジメントとやらに使うという花瓶みたいなの、長谷川の部屋にあったよな。接点が見つかったな」
「仮に長谷川が犯人だとして、動機が山本さんの復讐だとすれば一番に思いつくのは被害者遺族です。山本さんの父親ですが、それだとどうして長谷川が真犯人だと知ったのか。それにあの人は脳梗塞で半身が麻痺してますから殺人なんて無理。あ、長谷川の携帯の履歴が出ました。特におかしなのは…はて? 芸能誌が専門の出版社がありました。司法関係が専門の人なのに畑違いすぎますね。何の用件でしょう」
「長谷川の頬の傷は、編集長がぶん殴ったものだった。長谷川は絶対売れる企画があるからと編集長に勧めたが断られ、別の出版社に打診していた。その内容だが――裁判は一事不再理、それを利用して、自分が犯人だったという告白本だ。編集長は驚いたことだろう。あの本は彼にとって誇りだったはず、それが全部嘘だったと言われれば殴りもする。それで長谷川が殺した動機だが、花屋で働く彼女を気に入り迫ったが、呆気なく振られたというどうしようもないもの。怒りを覚えた編集長が殺した――ではない。その真実を、なんと山本さんの父親に匿名の手紙で教えていた。しかし彼は人を殺すなんて無理だ。そこで闇サイトの殺人請負業のところへ金を送り、殺害を依頼した。父親の気持ちを考えれば当然だろうがな。後は実行犯を探すだけ……なのか?」
「だとしてもどうやって侵入したかは謎のままだろうが。いったいどうやって入ったか――いや、入っていなかったとしたら? ちょっともう一度証拠品を洗ってみるか。……うん!? あれ、なんだこれ、長谷川の靴がマンション入る時の靴と変わってる!」
「長谷川の部屋に出ていた靴と帰ってきたときカメラに映っていた靴が別、ということは長谷川は一旦帰った後もう一度違う靴で出て行ったということになる。でもカメラに出ていく長谷川は映っていなかった。裏口から出て行ったからだよ。なぜそんなことをしたのかと言うと考えられるのは一つしかない。アリバイ作りだね」
「そもそも長谷川が告白本を出そうとしたのは海外の不動産を買うためだった。だったら金さえ稼げりゃなんでもいい。告白本を出すことを防ごうとした犯人が長谷川に犯罪を唆した。例えばどこかの金庫の大金を奪うとか。でも万一バレた時の際のアリバイとしてこっそり出ていくようにとでも言えば、長谷川は自分を殺す犯人のアリバイを作っているとも知らず裏口から出ていくだろう。そうして誘い出した犯人は長谷川を殺し自分のアリバイを作っておいて、深夜長谷川の鍵でマンションに入り殺害現場を偽装して殺したんだ」
「しかし犯罪を唆すなんて普通は無理です。それが出来るとしたら長谷川が全幅の信頼を寄せていてなお唆せる弁舌を持った相手――永井しかあり得ません。永井曰く、編集長に殴られた直後真相を聞かされた彼女は、人を殺しておきながら平然としている彼を許せず、放っておけばまた同じことをするだろう。だから自分が始末をつけなくては――」
「――などというのは、全部裁判で情状酌量させるための言い訳だ。長谷川の部屋はグチャグチャだった。強盗の仕業に見せかけるにはやり過ぎだ。どう見たって家探しとしか思えん。何故家探しなどしたのか? あの女の本当の動機は告白本を止めること、その内容を知られないため。長谷川は三年前の時点で自分がやったと自白していたんだ。だがこの女は自分の名を売るために自白を握りつぶし、殺人犯と知っておきながら無罪にしたんだ。……どっちもクズ過ぎて何も言う気にならん。胸糞悪いの一言だな」
現実VS虚構(ニッポンVSゴジラ) 2016.08.31
レビュー企画 相棒Legend12 2015.09.20
レビュー企画 相棒Legend11 2015.07.28
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