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「あの梅の木は」 第6話 「うん、あそこにしよう」 裕也が振り返りながら立ち止まり、続ける。 「駅ビルに新しい鰻屋が出来たの知ってる?」 「うん?知らないけど、これからそこに行くの?」 香織の声に混ざった疑問のトーンは裕也が鰻を好きじゃないのを 知っているからだ。 「うん、こないだ帰りの電車で小島と会ったんだけど。笹塚駅に 福岡の柳川名物『鰻のせいろ蒸し』の店がオープンしたって教えて くれて、その足であいつは千歳烏山だけど、俺に付き合ってくれて 一緒に食べに行ったんだ」 「そっか、そう言えば聞いたことあったっけ、裕也は鰻だめだけど 柳川の『せいろ蒸し』なら食べるって」 「そう、あの店のは小骨も無いし、蒸し具合も、三百年も注ぎ足し たというタレも絶妙でね・・やばい思い出しただけでヨダレが・・」 「じゃあ今日は『鰻のせいろ蒸し』にする?」 「ようし、今日は俺のおごりだ!」 「やったー!」 ちょうど横断歩道が青になり、ふたりは急ぎ足で中野通りを渡り、 京王線笹塚駅に向かった。 50分ほどしてバカ旨だった『鰻のせいろ蒸し』を堪能したふたりは 店を出て甲州街道を渡り、十号通り商店街を抜けて裕也のマンション に着いた。 裕也は靴を脱ぐとPCデスクの上にカバンを置き、着替えを始めた。 「香織、フロの仕度・・・」 「言われなくてもやってます」 見ると香織はすでにバスタブをさっと洗ってお湯をためるスイッチを 自動にしていた。裕也がスウェットの上下に着替えてベッドで横に なっていたので 「横になってると寝落ちしちゃうからー」 「大丈夫、今日は一人じゃ寝ないから」 「あら、そうなの?」 「鰻、食ったから大丈夫」 香織は裕也の目が光を増しているのに気付いた 「やばそうな目をしてる」 「えー、『期待してる』の間違いじゃないの?」 「ばか・・・」 「一緒に入る?フロ」 「もう、懲りないわねえ、忘れちゃったの?『バスタブ落水事件』」 以前、裕也の強くしつこい要望を仕方なく香織がOKしたのだが 裕也が焦って足を滑らせて頭からバスタブに落ちたのを香織が面白が って『バスタブ落水事件』と命名して以来、裕也をからかう為に 使っている。これを言われると流石に裕也も黙るしかない。 何事もなく、交代で入浴を済ませたあと、冷えたビールを飲んで 「プハーッ!」を合図に裕也は香織の手を引いて行く、鰻の効能が 関係したのであろう、有無を言わさない力と気迫に満ちていた。 裕也が譲らない20%の照明の下、久しぶりだったせいなのか、いや やはり鰻の効能が関係したのであろう、この夜の2人は情熱の嵐の 中にいた。 翌日は日曜日なので、ゆっくりしていても良かったのだが、10時頃 香織のスマホに着信があった。 「お母さんだ・・もしもし、うん起きてるよ・・・手巻き寿司? ちょっと待って」 裕也を見ると大きく頷いている。 「うん、裕也も食べたいって、・・・分かったじゃあお昼前には うん、じゃあ・・・」 「手巻き寿司か、久しぶりだ」 「裕也、好きだもんね手巻き寿司」 「うん、じゃあカフェでケーキでも買ってくか」 「お母さんはいちごのショートケーキね」 「覚えてるよ」 手土産を買って香織の家に着いた。玄関の手前で裕也は庭を見る 「・・・梅の木だな・・・」とつぶやき首を振った。更新しました。お読み頂けると嬉しいです。
2026.03.29
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※訂正箇所があります。第4話のすれ違いのことで 「俺、思うんだけど・・先週のあれ・・やっぱおかしいって」 後々、時間軸の狂いが生じてきますので、訂正します。 「俺、思うんだけど・・高二の秋のあれ・・やっぱおかしいって」 が正解で、その二行後の「先週」も「あの日」と書き変えます。 読み辛くてすみません。 「あの梅の木は」 第5話 「例えばだけど・・・その前にちょっと聞くけど」 「うん」 間が空いた。 「今、間が空いただろ・・・」 「うん、何だかわざとらしかった」 「うん、『間があく』っていう言葉、『あく』は漢字だと『空く』と 書くのが正しいらしい。ググってみたらそうあったんだ」 「何が言いたいのか分かんないんだけど?」 「そうだよな・・・『空く』っていう漢字は、これまで埋まっていた 時間や場所が、使われてない状態になることらしい。分かる?」 「うん・・・いや、未だピンと来ない」 裕也は僅かに残っていた珈琲を飲み干した。 「要するにだ・・・あの時に・・あの気味悪いすれ違いの時、な」 「確かに今思い出しても、ちょっとね・・・」 「あの時、すれ違った4人・・・全員がただすれ違っただけなのか? そんなふうに考えてみたら」 「・・・・裕也、あんた何が言いたいの?」 「だから、今言ったように・・こう、時間の流れが『空く』という 状態になった時に、たまたまその場所に居合わせたとしたら・・・ どうだ?」 「どうだって言われても、私にはさっぱり見当もつかない・・・」 「だからあ、その『空いた』時間のすき間にその場所を通りかかった 人がいたとしたら・・まあ、俺たちのことなんだけど、そしてその すき間から誰かが出てきて、反対にそのすき間にこちら側の誰かが 落ちるとか、入り込んじゃったりしたなら・・・おまけにそれが 起きて直ぐにすき間が塞がる。そういうことが起きたとしたら?」 「こちら側とどこかの世界で人が入れ替わっちゃう!?」 「なんだ、香織もSF的な発想できるんじゃないか」 「・・誰かさんの影響でしょ・・あんな映画ばかり付き合わされて きたから・・・」 裕也の耳に香織の皮肉は届かなかったようで 「『空いた』時間の仕業だとしたら、梅と桜のことも説明できるんじゃ ない?」 「・・・もう少し」 「だから、あのすれ違いの時、誰かがあちら側とこちら側に迷い込んで そのまま、『空いた』時間が塞がっていたとしたら、両方の香織んちの 庭に違う木が植えてあっても、不思議は無くないか?」 「あ!・・・え、でも今の今まで学校も会社もそれまでの人生も環境も その全てに違和感を感じる事って無かったでしょ?それなのに庭の木、 それだけが違うっておかしくない?」 「俺もそれには気付いていたさ、じゃあ聞くけど、香織はあのすれ違い のあと、何か不思議な経験してないか?」 「・・・思い当たらないわ・・まさか、裕也、あなたまだあるの? そうだとしても・・あたしお腹空いちゃった。先ずは腹ごしらえしない?」 「賛成だね・・・頭も疲れてるみたいだし」 カウンター横のレジにはすでにマスターがいた。 「今日はすみません、大きな声出しちゃって」 「うん、けど今日は2人の貸し切りみたいなものだったからね」 そう言った矢先にドアが開いた。 「いらっしゃい」 マスターが裕也の耳元でささやいた。 「これから仕事が始まりそうだよ」 さて今日は何を食べようか。遅くなりました。時間も…♪どうぞよろしくお願い致します。
2026.03.24
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あのアオサギ君の所にお嫁さんが来ました!あれからずっとアオサギ君のことが気になっているマトリックスAですが一昨日から、なんと!アオサギ君のところにお嫁さんが(アオサギ君よりやや小さめ?細い、が正解かもですが、優しい感じがしてあれは十中八九お嫁さんでしょう!)が来たのです!アオサギの巣作りは、例年2月下旬から5月上旬にかけてということですから、多分今は2人して巣作りの最中かと。今日はお嫁さんが一人で来ていたから、思うに交代で餌を捕りに来ているのではないでしょうか。夕方過ぎにはアオサギ君が来ていたので、声をかけてみました。「おーい、アオサギくーん!」「あ、おじさんお久しぶりです。お元気ですか?」「うん、元気だよありがとう。ところで、ひょっとして君お嫁さんをもらったのかい?」「あ、わかりましたか?つい最近なんです」「やっぱりね、おめでとう、良かったね。今度おじさんにも紹介してよ」「あ、ありがとうございます。はい、おじさんとの時間が合ったら、その時に紹介しますね」「うん、そうしてくれると嬉しいなあ、ところで、交代でここに来ているけど、もしかして巣作りでも始めたのかな」「おじさんは感がいいですねえ、そうなんです。僕たちの産卵期は4月から5月の初め頃なので今のうちに準備をしておくんですよ」「そうか、大変だね。忙しい時に邪魔をしちゃいけないから、今日はこれで失礼するよ奥さんによろしくね」奥さんという言葉を聞いたアオサギ君は普段血の気の少ない顔をほんのり赤らめて「はい、わかりました。おじさんすみませんが、餌を捕る仕事にもどりますね」「そうだね、しっかり頑張って!寒いから気を付けてね」「はーい、おじさんも」久しぶりにアオサギ君と話ができたマトリックスAおじさんは(帰ったら内の奥さんにこの話を聞かせてやろう)そう決めて鼻歌交じり、ご機嫌で車を走らせましたとさ。久々のメルヘン更新です。(^^)/
2026.03.09
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「あの梅の木は」 第4話 「どうかした?」 普段はそっとしといてくれるマスターだが、 「すみません、ちょっと不思議なことがあって・・・」 香織が彼の右手をつかみ強めに引いた。裕也が振り返る。 「この話、マスター、いや、誰にしても信じないわよ。 私たちだって訳がわかんないことでしょ・・・」 裕也は、少しだけ引きつっているであろう顔に笑みを浮かべて マスターに言った。 「・・・あ、なんでもないんです。すいません」 「あ、そう?・・それじゃあ・・・」 マスターはそう言うと、親指と人差し指を大きく縦に広げておいて 両方の指の間隔を縮めてくっつけた。 (もう少し声を落として)というジェスチャーだろう。 裕也は頷いてからちょこんと頭を下げた。 コーヒーをもう一口すすって裕也が言う。 「俺、思うんだけど・・高二の秋のあれ・・・やっぱおかしいって」 裕也に言われて香織も思い出していた。 あの日、新宿で映画を観た帰り道、京王線笹塚駅で電車を降りて、 甲州街道をわたり十号通り商店街に入ったと同時に・・・ 2人と、顔も着てる物も、年恰好も瓜二つなカップルがやってきた。 後で聞いたら裕也もそうだったと知ったのは、香織の胸の鼓動が 高まり、周囲の音は聞こえず、目をそらそうとしても大きく見開いた目が、 勝手に相手を凝視することを、コントロール出来なかった。 向こうの2人も香織たちと同じ状態にある。 不思議だが、多分間違いないだろう それはお互いのカップルがすれ違うまで続いたのである。 時間にしてどのくらいだったのだろうか? すれ違った瞬間に、『やっと終わった・・・』と感じたのは一時的な 感覚?それとも願望だったのか? 香織は、裕也が制止する間もなくこれから甲州街道を渡って笹塚駅に 向かおうとする2人を振り返った。 驚いた!向こうも女性だけが振り返っていたのだ! 2人の女性は、はっとして踵を返し2度と振り返らずその場を 去ったのだ・・・もうひとつ不思議なのが、あの出来事が、特に 振り返ったあの瞬間が、今も・・・続いている、そんな感覚が残って いること・・・ 「あのことと、この梅の木が、何か関係あるっていうの?」 裕也は答えず、視線をコーヒーカップに移し、次いで窓の外「中野 通り」に移して珈琲を一口すすった。 「不思議なことが重なれば、関連付けても不思議はない、違うか?」 更新、早くて不思議、ですか?本人は不思議に思っています。(^^?今回もよろしくお願いします。
2026.03.08
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「あの梅の木は」 第3話「これ、梅じゃなくて・・・」 「どう見ても サ・ク・ラ だろ」 「・・・・・・・・・・」 香織 香織? 「香織!」 「あ、!呼んだ?」 「ああ、3回もな・・・どうだ?」 「さくら みたい・・・」 「みたいじゃなくて桜そのものだろ、幹の模様だけでも分かるだろ? 違いがさぁ・・・」 それには答えず香織も上着からスマホを取り出す。 「あたしは、合格祝いだからこそ梅の花を・・・と思って撮ってた はず・・・」 香織は視野に異常な接近を感じる 目の前、直近に裕也の顔が・・・ちょっと引きながら 「何?この近さ・・」 言い終わらないうちに、裕也の唇が香織のに重なる。 「う!・・・」 「何よ、急に・・・」 「香織のその真剣な眼差し、特に眉間にしわを寄せたとこ、そそる んだ・・我慢できなくて」 「何よ、人が探し物してるときに・・・勝手に・・あ、また!」 今度はちょっと長めのキス。裕也がメニューで2人を隠した。 唇が離れても香織の指はスマホの画面の上で動かない。 「ほら、何か探してたんだろ?」 裕也が顎をしゃくるように香織を促す。 香織がキリっと裕也をひと睨みして操作を続ける。 「あんなことしたって、ことはアルコール・・・」 「うん、昨夜はアルコール摂取量ゼロです」 「仕方ない、今夜は裕也んち行くわ」 「ホント!?やったー!!」 「ほんと、子供なんだから」 言いつつ、香織も俯きながら白い歯を見せた。 「あったわ、これ!・・・」 指で画像を拡大して覗き込む。 「ほら、やっぱり梅の花よ!」 彼女のスマホは、ひったくられるように裕也の手に移った。 「ほんとだ、確かにこれは梅の木・・・」 「でしょ、裕也のがおかしいのよ・・・」 「それは無いだろ、同じ日に同じ場所を撮ったんだぜ」 ふたりのスマホに保存されていた「梅の木」も「桜の木」も 同じ日付。 都内の高校だと合格発表は3月初旬なので、梅の花は咲いていて 不思議はないし、東京の桜の開花は例年だと3月中旬以降から だから、咲いてなくてもおかしくない。 「これ、一体どうなってる!?」 2人が同時に驚き、声が大きく響いた。 幸い店内に2人以外の客はいなかったが、オーナーの耳には 届いたようだ。 今、福岡は雨が降ってます。このブログの更新が珍しく順調だから?お立ち寄り頂けたら嬉しいです。(^^♪
2026.03.02
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