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ちぎれた夕陽 (3) あれは、今年の3月下旬の頃だったから、もう3ヶ月ほど前のことになる。佑は、待ち侘びた春を、芽吹いた花に感じとり、晴れやかな気分で歩いていたのだが、同じ方向へ歩いていた女性が、突然しゃがみこんだのを見て駆け寄り、声をかけた。「どうかしたの?」「え?」急に声をかけられた若い女性が振り返る。知らない男ではあったが、彼女自身、意外なほど警戒心を感じることは無く、答えた。「ちょっとね、足をひねちゃったみたいなんだ」 マキはその端整な顔を歪めたまま答えた。「なんか避けてたみたいだったけど・・・」「猫だよ、急に飛び出してきたから、避けそこなっちまったよー」そう言ってマキは立ち上がろうとしたが、再びよろけて転びそうになる。佑は、とっさにマキの身体を支えた。長い髪のいい香りが佑の鼻をくすぐる。「痛ッ! あんたさぁ、悪いけど、そこのベンチに座らせてくんない?」佑が顔を上げると、マキの顔がすぐ目の前にあった。「あたしの顔見ててどうすんのさ、あそこだよ」彼女の真直ぐに伸びた腕の先には、これもまた長くて細い指が続いていて、人差し指の向こうには、小さな公園が見えた。あのベンチのことか佑は肩を貸そうとしたが、ちぐはぐで思うように歩けやしない。彼女の方が、ずっと背が高い!!マキもその体勢に無理があると気づいた。「無理みたいだね、おんぶしてくれる?」それ、ちゃんと意味を理解して言ってる?マキは本気だった。「頼むよ、すぐそこじゃない」俺、男なんだけど、一応・・・佑の拒否発言より早く、マキが促す。「もう少ししゃがんでくれないと・・・」 仕方なく、腰を下ろした佑の背中に、彼女の体重がかかる。それだけならたいしたことは無いのだけれど・・・彼女は佑の首に腕を廻している。 拒否できずにいる佑は自問自答する。このままじゃ・・・でも、上半身起こされると・・・たぶんそっくり返ってしまう・・・ベンチに彼女を座らせて、一息付いた。「ありがとね・・・あと、ついでにって言っちゃあ悪いけど、タクシー拾ってきてくんない?」「え?」「いいだろ、乗りかかった船って、よく言うじゃない、病院いかなきゃだめみたいだから」「そんなに酷いのかい?」「あたし高校ん時、バスケやってて経験済みだから、足首ひねんの。だから分かるんだ」それじゃあ、しょうがないか・・・「じゃあ、そこいらで・・・・」 おんぶはきついなあ、上背あるから女の子にしちゃ重いし、なるべく近いところが・・・と、歩きだした佑のうしろで声がした。「ありがと・・・あたし朝川マキ、あんたは?」 振り返った佑も名乗る。「香川 佑」 すぐに前を向いて再び歩きはじめた佑の後ろから、マキと名乗った女性の声がもう一度聞こえた。「佑、ありがとね」いきなり呼び捨てかよ、ひとこと云ってやろうって、振り返った佑の目は釘付けになり、胸は高鳴った。マキの笑顔は、プロのカメラマンの連写を誘うほどだと、このとき佑はまだ知らなかった。これが、二人の出会いだった。 今日はマキちゃんのリクエストです。なのでストーリーとは無関係です。 ジェフベックのLed Boots。1976年発表!! 右下をポイントして、フルスクリーンで再生してください。 応援のクリックお願いします♪ 一日一回有効です
2013.01.26
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ちぎれた夕陽 (2) ヴ、ヴィ-ン! 原付独特のエンジン音を響かせて、少女たちが商店街の方向へ去ってゆく。 通常、商店街のゴミ置き場の清掃は、商店街の組合などで当番を決め、交代で行う。そういうものなのだが、マキは、後輩たちのバイト先を確保しようと考えていた。後輩たちの中には、父親が居なかったり、居ても生活に余裕が無く、荒れてた子もいた。二度目に商店街で会った時、「あの日のお礼だから」と、マキに誘われるまま入った喫茶店で 佑はマキと原付軍団の少女たちとの関係を、何故あんなに親切にしてあげるのか、そのわけを訊ねた。 「あの子たちに、せめて小遣い銭くらいあげたいと思ったのよ」しかし、ただ与えるのでは、後輩たちの為にならないし、彼女たちの自尊心を傷付けることは避けたかった。そこでマキは、たまたま面識のあった、商店街の世話役を務める会長に、事情を説明した。「報酬は少しでいいんです、なんでもやりますから、あの子たちを使ってくれませんか」マキの後輩を思う言葉に、心を動かされたのか、会長は意外にすんなり応じてくれた。「今のところ、商店街のゴミ置き場の掃除くらいしかないが、それでもやるかい?」マキは二つ返事で、掃除の仕事を感謝して引き受けた。 ここでマキの話しが終わり、二人の間に、温かな沈黙が、しばらく続いた。この店のBGMは、ほとんどカントリーだ。内装は、古民家の解体情報を入手して、オーナー自ら手に入れてきた。 古い木材で出来た、板壁や椅子、テーブル。薄い珈琲色の布張りの壁面に貼られた、 古いポスター。時折貼り替えられる度に店内の時は、行き来する。古いものばかりでなく、ライブのポスターが貼られてたりもするから・・・贅沢な時の流れに、声の葉を浮かべたのはマキだった。「なんで、あたし、あんたにこんなこと話しちゃったんだろう・・・?」「俺もだ・・・」「俺も何?」「なんでこの話し、聞いちゃったんだろうってことさ・・・」「だよね・・・」二人の・・・否、8割マキの笑い声が、小さな喫茶店に響いた。このとき佑はまだ、マキがモデルだとは知らなかった。こんなに若くてきれいな女の子が、後輩たちが、ひとり立ちできるまで、物心ともに、支えになろうとしてる。自分の今後を決めかねている、今の俺にはとても真似できないことだ・・・。 「ゴミ置き場の掃除だけじゃ、とても足りやしないなぁ・・・」マキは、注文したスパゲティが出来上がり、カウンターに置かれるのを見やりながら、つぶやいた。 初めて出会った時は、こいつ大丈夫かって思ったマキの印象は、この日から変わった。 ♪ マトリックスが選んだ昭和の名曲、今日はこの曲です ♪ 応援のポチをお願いします。 どちらも一日一回有効です。
2013.01.21
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恋愛小説を始めます。 時は昭和、夢を諦めたアラサー男と、何故か彼に恋した勝気で 世話好きなモデルの物語です。 「Dear 昭 和」 ちぎれた夕陽 (1) 「憧れも・・・あったよ、正直に言えば」香川 佑(かがわ ゆう)は、窓枠に座り、決して大人ひとりの体重を支えてくれそうにない手摺りに片手を置いて、西の空に沈みかけた夕陽を眺めている。「で?・・・憧れの片割れは、どうすんのさ」夕陽に変わりは無いが、佑の故郷、九州で見る水平線に沈むそれとは違い、今、佑に見えるのは、不揃いに立ち並んだビルの合間に見える、ちぎれた夕陽だ。こんな景色眺めてたら帰りたくなってしまうな・・・佑は手摺りに置いていた片方の手をぶらぶらと振りながら、六畳の部屋に身体の向きを変えた。「手、痺れちゃった・・・」 「ふざけたこと言ってんじゃないよ、痺れ切らしてんのはこっちなんだから」なんで?なんか機嫌悪そうだけど・・・ ヴ、ヴィ-ン! 原付軍団か?「せんぱーい!」 やっぱりそうだ。開きかけた口を閉じ、朝川マキが立ち上がる。身長1m77cm。都内大手百貨店の専属モデルだ。つまり、背が高いだけでなく、日本人ばなれしたプロポーション、プラス美顔。どう見ても佑とは釣り合いがとれてない。長い歩幅で窓際に寄ると、手摺りを長い両手で掴み階下を見下ろす。メキッ!耐久年数を過ぎた手摺りは、限界を超え大きく傾いだ。「先輩!大丈夫っすか!」スクーターに跨った7~8人の少女たちの、悲鳴に近い声が上がったが、持ち前の運動神経を発揮したマキは、スッと上半身を反らし、窓枠に片方の脚を乗せた。そうしておいて、顔だけ窓から突き出すと、少女たちに笑顔を見せた。「どうってことねえよ・・・それより、今日の仕事だけど」「オス!」階下の道路から少女たちがマキを見上げている。 「三丁目の商店街、西側の端のゴミ置き場の掃除だョ。カラスが散らかしてるらしい、今朝早くに商店街の会長から依頼があったから、きれいにしといてくれ」 「オス!わかりました、オス!」 応援よろしくお願いします。
2013.01.15
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あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。では、新年の初更新です。 その5 佑一と唯香の、それぞれの左手薬指に、初めて指輪が光り輝いた、その夏のこと二人は、東京都とは思えないほど綺麗な南の島へ向かう船に乗った。このささやかな新婚旅行を、不服に思う人は少ない。少し前なら、旅行どころか衣食住を確保するので精一杯っだった。そんな時機が過ぎて間もない頃のことである。そんな暮らしの中、唯香とその母親にとって、佑一はかけがえの無い存在だった。彼は、時折、やや突飛な発想をまじめな顔して語り、唯香母子に笑顔をとりもどしてあげる良好な結果をもたらしてくれた。それは、唯香の亡き父に似ていたのだった。 新しい南の島のホテルには、ほとんどの場合、豪華ではないが昔にくらべて、かなり大きめなプールが海側に備えてある。これは、震災とは無関係で、温暖化によるサメの北上を完全に食い止めることが困難であり、観光客の安全確保のためだ。唯香と佑一は、昼食を挟んで、プールでの水浴を楽しんだ後、ビーチパラソルが作る日陰の下、伸ばしたデッキチェアに身体を預けてのどを潤し、エメラルドの海を眺めながら会話を楽しんだ。唯香は、佑一の話しが途切れがちになったのに気づいた。 (また、なにかに捉われているのね・・・ほっといてあげる・・・) 佑一の目に映る、はるか沖合いに、水平線が見える。佑一は、思考する。水平線のその向こうの景色を見てみたい。思考する。あの水平線まで行けば、向こうが見える・・・でも僕は、ここに居ながらにして、水平線の向こうが見たいんだ。思考する・・・仲間が要るな・・・あの水平線に一人。彼に見える水平線にもう一人。そうやって繋いで行けば、やがて知らせが届くはず。「君の背中が見えたよ!」その時僕は思考する。返事を選ばなければ!「知ってるよ、君の背中だって望遠鏡を通して、僕の目の前だから」もうひとつの返事は「本当だ、すごい!面白いね、ありがとう!」我慢できずに、君に話した!そしたら君はこう言ったんだ。「二番目の返事に決めてるはずよ」・・・君にはどうやったって敵わないね。降参した僕に君は「お好きなんですね」って・・・ずるいなぁ・・・認めるよ、君の勝ちだって。でも僕はちっとも悔しくなんかない。君を奥さんに選んだのは僕だからね・・・だから僕は、今、得意げに鼻唄を唄っている。 どちらも一日一回有効です。
2013.01.03
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