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『異次元世界の出入口じゃ・・・違ったの?』 「あの梅の木は」 第17話 マスターが人差し指と中指をくっつけて、顎の先端をなぞる。考えをまとめながら、口を開く時のいつもの癖だ。 「うーん、違うとも言えないし、そうだとも言えない・・・」「どっちなんでしょう・・・」 やや不満そうに少し口を尖らせたのは、香織だった。 「あ、ごめん。否定したわけじゃないよ、ただパラレルワールドが仮にその場所で交わっていたとしても、常に同じ位置だとは考えにくいと思う。だから『出入口』と言えないかな・・・と」 「なるほど・・そういう事なんですね。分かりました」「そういうこと。それにマスターはまだ現場を見ても無いから」「・・・・・・・」 「そうだ!」「そうだ!」裕也と香織は顔を見合わせた。「なんだよ、俺が先だろ」「何言ってんの同時でしょ!」 マスターが咳払いを一つ・・・。 「仲がよろしいようで・・・」 「マスター、落語じゃないですから」 頭をかくマスター。 『自分のダジャレを笑わないと機嫌悪くするくせに、他人には厳しいんだから・・・』 香織の裕也を見る目が『よく言うよ』と言ってる、確実に。 マスターは待てなくなった。 「えーと、『そうだ!』のその先は何なのかな?」 「そうでした!マスターに『あの梅の木』を見てもらおうって!」 マスターは自分で手を叩いて、同意を表した。 「それは、いい!何時にしようか?」 「ちょっと待ってもらえますか?」 裕也と香織が日程を調整し始めた。 いつも有難うございます。(^^♪
2026.06.29
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「あの梅の木は」 第16話 「裕也、もうひとつ忘れてない?・・・」 香織にそう言われて、裕也はハッとして彼女を見た。「あ!・・・そうだった、もうひとつ・・・」 「おや、まだあった?」 「はい、これが最新ですが、先日問題の「梅の木」の根っこで、気の せいかもですが、人影を見たような・・・そしてその人影は、ぼくに 気が付いたらしく、梅の木の・・何て言えば・・・梅の木の方にスッ と消えて行ったような、まるで怪談話みたいなので、それが正しい 表現なのかは分かりませんが」 マスターが残っていた珈琲を飲み干して 「君たちほど奇怪な出来事に遭遇した人は、めったにいるもんじゃない そういう特異な経験をすると、それを抱え込んだままだとストレスが たまるから誰かに打ち明けて楽になりたい、そう思うこともあるだろう だが同時に、話しても信じてもらえるかどうか、そういった葛藤も あっただろう? 君たちは充分に慎重だった。7年間も君たちの心の中に仕舞っておいた。 そういう慎重な君たちの表現が的外れなことは無いと思うよ。だから その時感じたままを話してみたらいい」 「話しやすくなりました、有難うございます」 裕也の肩から力が抜けていった。 「まず、あの時ぼくが最初に感じたのは、『おびえ』でした。『幽霊か?』 と・・・」 マスターは口を挟まず、ただ頷いた。 「次の瞬間、違った意味で驚いたことに、その人影はぼくにそっくりで ・・」 マスターの目が大きく見開かれた。 (すれちがって行ったもう一人の裕也君か!?) 「すれちがって向こうに行ったもう一人の俺!?って・・・ そう感じたんです」 マスターが笑みを浮かべた。 裕也が小首をかしげた。 「え、何か・・・?」 「いや、ただ、君の話を聞いた瞬間、ぼくの頭に映像が浮かんだんだ。 その人影が君だと、そう直観した。その直後に・・・」 マスターはその続きは口にせず、裕也を指さした。 「マスターの直観したことをぼくが口にした・・・」 「そう、見事にシンクロしたわけだ・・・何だか嬉しくなってね」 「すごーい、こんな事ってあるんですね!」 香織の弾けるような感動が伝わり、ブルースの店内が笑い声に包まれた。 「その後、その人影、おそらくはもう一人の君は振り返って向こうに 消えて行ったんだね」 「そうなんです、ぼくが話しかけたんですけど、無視されて・・・」 「これはぼくの想像なんだけど、おそらくは向こうでも異常なすれ違い が起きていることを認識しているんじゃないかな・・・」 「それで、異常事態の象徴であって、常にそこにある梅の木、いや向 こうは桜の木か・・そこから覗いていたらこっちに出てきちゃったと、 そういうことなんでしょうか?」 「おそらくね」 「やっぱり、あの梅の木が異次元世界の出入口になるんでしょうか?」 香織が唐突にそう言った。 マスターと裕也は驚いた。ふたり同時に香織を見る。 「香織が口火を切るとはなあ・・・」 マスターは裕也に同調して頷いた。 香織は『え!』と声を発し、口に手を当てると続けて言った。 「異次元世界の出入口じゃ・・・違ったの?」いつも有難うございます。
2026.06.16
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「あの梅の木は」 第15話 翌日、裕也たちが『ブルース』に着いたのは午後5:45。予定通り。 二人とも息を切らせていた。 「急がなくてもいいって言ったのに・・・まあ、とにかく座って」 マスターは店のドアをロックして、カウンターの中に入り自分の 目の前に座るように二人を促がした。 「咽が渇いたでしょ、そんなに急いで・・何か飲む?」 「え、そんな店休日なのに悪いです」 「いや、君たちがそうやって息を切らせたままだと、ぼくの方が 落ち着かないから」 「そうですか、じゃあぼくはコーラを」 「私も同じものお願いします」 「うん、わかった直ぐに用意するから待ってて」 「すいません」これは二人同時。 「ところでさあ・・・」 マスターがコーラを用意しながら、裕也に尋ねる。 「裕也君は昨日言ったよね、『あんな異常な経験は初めて』って」 「はい、そう言いました」 マスターは二人の前にコーラを置いた。 「すいません、いただきます・・いただきますって言っちゃいました けど・・・」 「いいよいいよ、今日はお客さんじゃないんだから」 「すいません、じゃあ頂きます」 「頂きます、すいません」 マスターはマイ焙煎の珈琲を一口すすると・・・ 「あれから気になってることがある。昨日の話は君たちが高校生の 頃のことだよね、なのにどうして今になって気になりだしたのか? 例の『あの梅の木は』の一件まで、間が空いちゃってるよね?」 「やっぱりそう思いますよね・・・『あんな異常な経験は初めて』 そう感じたのは確かなんですが、あとになってあんな突拍子もない こと・・・あれは自分の勘違い、もしかしたら白昼夢だったのかも 知れない、そう考えるようになって・・・ それにあの後ああいったことは起きなくて、あれから高3になり、 大学の4年間、就職して約2年、ですからあれから7年も過ぎて、 忘れかけてた頃に・・ 一つおかしな事があり、そして今度の梅の木の件があって、また あのすれ違い事件が、ぼくの中でフラッシュバックしたんです」 「フラッシュバック・・なるほど、そのくらい強い心的ストレスが くすぶっていてもおかしくない、強烈な出来事だったよね・・で、 その久しぶりのおかしな事というのは?」 コーラをほぼ飲み干してから、裕也は滝沢精肉店の『ハンバーグ』 の話を語り始めた。彼の記憶では、家族全員が大好きだった滝沢 精肉店の『ハンバーグ』のことを思い出した裕也が、 久しぶりに食べてみたいと言い出したところ、家族全員が『それ、 なに?知らない』という。 そんな馬鹿な、と裕也が滝沢精肉店に行って注文すると、店の誰 もが知らないと言う。 「『狐につままれたよう』って言うんでしょうね、あの時のぼく の精神状態は」 「なるほど、それはフラッシュバックするわけだ。それを聞いて『不気味な遭遇』と『あの梅の木は』の間が7年も開いた訳が分かったよ」 (ちゃんと聞いてもらえた!) マスターの言葉に安堵した裕也は、深く息を吐きながらカウンター に肘をついた。 「少しは落ちつけたみたいだね?」 「はい、話を聞いて頂けただけでなんかこう、すっきりしたような」 そこへ香織が 「裕也、もうひとつ忘れてない?・・・」と言い、裕也はハッとして香織を見た。いつも有難うございます。
2026.06.06
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