Laub🍃

カテゴリ

⛅👜

(139)

長押綴

カレンダー

2018.01.02

カイコ　３　　　『話せない』　　（７種２次SS／タイムスリップIF）

テーマ：二次創作小説(1165)

カテゴリ： 🌾7種2次表

→１
→２　『わけがわからない』
→３　『話せない』
→４　『置いておけない』
→５　『収拾がつかない』
→６　『違えない』
→７　『誘えない』
→８　『知らない』
→９　『受け止めきれない』
→１０
→１１　『訊けない』
→１２　『救われない』
→１３　『そつがない』
あらすじ：
・過去にやってきた外伝後の安居・涼・まつりIF二次創作小説
・過去の涼登場

＊＊＊

カイコ　３

＊＊＊

「お前らは、この世界に来てどの位経っている」
「一か月だ」

「……ああ。した」

　至極、苦虫を噛み潰したような顔で、綺麗な格好の涼は言う。
　荒唐無稽な話だ。

「そうか。俺達はそろそろ一年になる。そして……一か月目、恐らくお前達とまるっきり同じ状況に陥っている」
「同じ状況って何だ」

「……花と？…確かにあいつが一人侵入してきた時や、その後に剣呑な会話はしていたが……衝突と言うほどか？」

　不思議そうな声の涼に、泥のついている方の涼が言う。

「……花の、苗字を知っているか」
「知らん」
「……ああ、そういうことか……なら、……良かったな安居、取り返しのつく時で」
「……」
「取り返しって、なんだ」
「それは…」

　言い淀んだ俺に被せるように、涼が話し始める。

「あいつの苗字は末黒野。…末黒野花は、末黒野貴士の息子だ」
「……貴士先生の……？」
「ああ。コネで、あいつは、特別なテストを受けることもなく入れてもらった。ご丁寧に恋人まで一緒だとよ」
「……！……それを、俺達は知るのか」
「ああ。勿論、いい顔をする奴は少なかった。取り分け安居は花に幾度も憎悪をぶつけたし、俺は…状況の悪化を避ける為に、花を高い所から落とした。そして花は行方不明になった」
「お前…」
「耐えられるとか、時間が経てば感情も落ち着くと思ったんだが、甘かった。……結果的に花は水に落ちて生きていた。だが、俺達は罪人扱い。島に居ても碌に他の奴らと関われないし、外に出てシェルターに残った荷物や書物、後は外国の生き残った奴らを探しに船に乗ったが、嵐に巻き込まれて、気付いたらここに辿り着いてたってわけだ。……この説明でいいか、安居」

　怒涛の勢いで説明していた涼が、急に振り返る。
　どういいだしたものかと考えていたが、お陰で少し話しやすくなった。

「……ああ……ありがとう、涼。
　…なあ、……ここに来て一か月目の涼。……詳しいことはあとで話す。
　まず、ここに来て一か月目の俺を、ここまで連れてきてくれないか」

「……了解。…適当な事言って連れ出して来るから、事情は自分で話せよ」
「いや、待て。俺が行く」

　戻ろうとする過去の涼を、未来の涼が引き留める。

「どうした涼」

　問う俺に、過去の涼を見つめたままの未来の涼が耳元で囁いた。

「……この頃の俺は、もしかしたら戻って来ないかもしれない。安居となんの確執もないまま、花を消そうとするかもしれない」

　未だにテストに拘っているからな、と呟いて、未来の涼は歩き出した。

　後には、涼の言った意味を深く理解できない俺と、手持無沙汰の過去の涼と、未だに眠りこけているまつり。

「……こいつが、『まつり』か？未来で一緒に航海するのか。こいつも何か断罪されるようなことをしたのか」
「してない。…未来のお前とまつりは、恋人のような関係になってたんだ」
「あ？」

　疑わしそうな目で見られる。

　確かにまつりと、過去涼の恋人だった虹子はかなりタイプが違う。疑問に思うのも仕方がない。

「本当だ。花が行方不明になった後、原因である俺と、……涼は、責任を問われて」

　本当は俺が主に裁判を受けて追放されて、どちらかというと涼は俺に付いてくる為に自ら決裂を選んだような気がするが、それを、まだ身に覚えのない過去の涼に言うのは憚られた。

「別行動を取る事になったんだ。……その時にお前と虹子は別れた。その後俺達二人とまつり達夏のBチームは出会って、一緒に旅をした。その中で、お前とまつりはよく一緒に行動していて、気付けば付き合っていたんだ」
「……」
「だから本当だって」

「……むにゃ…りょうくん……」

　丁度いい時にというか流石というか、まつりが寝言で涼を呼んだ。
　未来の涼なら仕方がないと溜息をついて近付いている所だが、過去の涼は怪訝な顔を見せるばかりだ。

「……安居はまだか」
「もうそろそろ来るだろ」

　ふいとまつりから目線をそらし、過去の涼は村に目を向けた。

「ほら、来た…………いや……おい……どういうことだ…あれ」
「俺が聞きたい」

　未来の涼は確かに過去の俺を連れてきた。

　だが何故か過去の俺は、未来の涼に俵担ぎにされていた。

【続】

お気に入りの記事を「いいね！」で応援しよう