Laub🍃

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2018.01.13
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カテゴリ: 🌾7種2次表
→1
→2  『わけがわからない』
→3  『話せない』
→4  『置いておけない』
→5  『収拾がつかない』
→6  『違えない』
→7  『手段を選ばない』
→8  『知らない』
→9  『受け止めきれない』
→10
→11  『訊けない』
→12  『救われない』
→13  『そつがない』

あらすじ:
・外伝後安居・涼・まつりタイムスリップIF二次創作小説
・過去の涼を説得し、まつりとともに混合村で暮らす未来の安居
・過去の安居を説得した過去の涼、過去の要と再会



*********

カイコ     9

*********




 嘘を吐くなら、より大きな嘘で支えなければならない。




 その為に安居は狂った。

 死んでいった仲間の為に。
 生き残ってしまった自身と、仲間の為に。

 だからまずあの場所から離すべきだと思った。

 根源の一つ、貴士先生の娘からも。



 そうして俺なりの最善を尽くした結果が、安居を殺しかねない要さんとの再会だ。
 当の安居は楽し気に要さんとこの世界の食べ物について話している。

「この根は冬の新巻が食べられると言っていました。このままだと固いですが、煮物にすると結構おいしかったです」
「そうか、では今晩食べてみるか」

 ……安居よ。そいつは、俺達の地獄を造った張本人だぞ。

 ……安居よ。お前はそれに気付いているんだろう。見て見ない振りをしているだけで。

 ……安居よ。過去の俺じゃない俺が、お前にどうやって、茂の最期を伝えたらいい。

 茂に似た(と安居が思っている)ナツは、未だに遠巻きにこちらを見ている。
 蝉丸も、要さんが居る為か過度にナツを弄らない。

「何だ、飯の話か?それならコックの俺様に任しとけ」
「ではこれを」
「……なんだその根、マンドラゴラかよ!」
「……は?マンドラゴラってなんだ」
「ほらよくあるじゃん、ゲームとか映画に出てくる。ナツ、お前も知ってるだろ」
「え…は…はい……」
「俺達はそういう架空の娯楽は見たことがない」
「……そ、そうですか……」

 安居も、ナツが気になってはいるようだが、茂の代わりにするほど面倒を見てはいないし、深夜の徘徊も完全には収まっていない。
 そもそも俺達は、船を挟む岩礁の破壊とメンテナンスの為に来ている。…ということになっている。事実、かつて安居が率先してやりたがったことだ。だから、今回も安居が言い出すから仕方なくそうしている、と俺は言い張った。
 その仕事が終わったらここを一旦離れて、村に戻って水源の確保をした振りをしなければいけない。実際はあちらには未来の安居が居る、水源の場所も覚えているだろう。心配する必要も対処する必要もさほどない。だからあくまで様子見だけすればいい。
 その後で改めて、適当に理由を造って、俺達二人で夏のBに身を寄せる。
 要さんの監視を制限する為にも、安居と花の衝突を防ぐ為にもそれが最善だろう。

 ……しかし、これで、いいのか。

 安居は未だに花の苗字を知らないし、要さんが花を育てていた事も知らない。
 だからああして、かろうじて、正気で居られる。

 安居達から視線を外し、手元のナイフに目を向ける。
 タッチアップが必要だ。

「涼くん、今何してるの?」
「……まつりか。道具のメンテをしている」
「見ててもいい?」
「好きにしろ」


 まつりはこの世界でも馴れ馴れしい。

 ……とはいえ、適切な距離感を取ろうとしている事も分かる。

「涼くん、左利きなの?」
「ああ」
「左利きってかっこいいよね」

 …………いつかも、こんな会話をした気がする。

 混合村に残してきたまつりは元気だろうか。

 ……過去の俺と、うまくやっていけるのか。


 過去のまつりの笑顔を見て、少しだけ、そんな事を考えた。





【続】





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最終更新日  2018.11.24 21:26:59
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