Laub🍃

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2018.01.13
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カテゴリ: 🌾7種2次表
→1
→2  『わけがわからない』
→3  『話せない』
→4  『置いておけない』
→5  『収拾がつかない』
→6  『違えない』
→7  『手段を選ばない』
→8  『知らない』
→9  『受け止めきれない』
→10
→11  『訊けない』
→12  『救われない』
→13  『そつがない』

あらすじ:
・外伝後安居・涼・まつりタイムスリップIF二次創作小説
・安居(過去)を拉致し、夏B村(過去)で暮らす涼(未来)
・涼(過去)を説得し、混合村(過去)で暮らす安居(未来)とまつり(未来)



**********

カイコ     10

**********



 夜の哨戒。

 そして俺の方に近寄ってきては、一言二言話して戻っていく。
 その話しぶりは周辺の状況や明日の予定を確認する為というより、俺の安否を確認しているようだった。
 いくら相方同士とはいえ、ここまで保護者のように……まるで俺達が幼い頃の要さん達のように、放牧していた馬が一頭消えた時の源五郎のように気にされていると、若干居心地が悪い。

 今も、何を目的とするでもなく、特に必要と言うわけでもないのに、俺達は二人でゆっくりと村を見回っている。確認すべき事も話し終え、お互いに無言。
 満月が近い。最近夜はことに明るくなった。


 気まずさを紛らわす為、何も考えず口を開く。

「…まつりはまだ起きないな」

 起きたら、初対面の演技をするよう言わねばならない所だったが、未だその機会は訪れない。
 あれから3日になる。いくら疲れているとはいえ、ここまで起きないのはやはりおかしい。

「何故あいつをそんなに気に掛ける」
「未来でお前と仲が良かったからな。それに俺も世話になった、その分だ」
「世話ぁ?」

 過去の涼に返答すると、渋面を作られる。

「……この先ある人に俺は、殺されかける。その時まつり達が庇ってくれたんだ」
「何故だ。どいつに殺されかけたんだ。秋のチームにか?」

 よく衝突していたからそう思うのも当然だが、違う。

「いや、今は合流していない一人だ。危険分子をいざという時殺す役目で未来に送られたらしい」
「……そんな奴が居るのか。で、お前はそいつに危険分子として認定されたわけか」

 そう。要さんはきっと、俺のような奴を殺す為に未来に来ていた。

「ああ。十六夜や卯浪を殺し、花も殺しかけたから、他のチームの人間も殺す危険人物に違いないと、その人に決めつけられ、殺されかけたんだ。その時、こいつと、他の夏Bが俺を庇って、その人を説得してくれたんだ」
「何だ、その人っていうのは。相当短絡的だな、そいつの方が危険人物なんじゃないのか」

 嵐も蝉丸もまつりも、要さんに、『それはおかしい』と言っていた。
 鷭は、幻覚を見た後で体力も消耗しているから休んだ方がいい、と言っていた。

「俺のやった事は許されない事だったから、当然だろう。
 ……それに、その人は疲れていた。毒で幻覚にも追い詰められていたから、そういう結論に早急に行き着くのは仕方がない。……恨むつもりもない」
「人のいいことだ……なあ、そいつは……」
「そいつは?」
「『死神』と呼ばれていたか?もしくは、自称していたか?」
「……死神……?……そう名乗ってはいないが……どちらかというと審問官のようにふるまっていたな」

 天国と地獄の審判のように、大怪我を負って幻覚を見てすらどこか超然的に話していた、要さんの姿を思い出す。

「……もしかして、『先生』の生き残りか、それは」
「……」
「押し黙る所を見ると図星だな。貴士先生か?」
「……お前も読んだだろう、貴士先生は竜宮で粉々になって死んだ」
「…………」
「……………」

 沈黙が続く。

「も…」
「要さんか」
「……人の話を聞け。百舌という男だ」
「…百舌…?百舌は秋の季語じゃないのか。……そいつはどのチームなんだ。春か、夏Bか」
「夏Bだ。……安心しろ、涼。俺達が以前夏Bと合流した時は、百舌はそこに居なかった。それにまだ過去の俺は、百舌に目を付けられていない。殺される心配はない」
「……どうだか」

 涼は嘲るように笑って、「俺はお前達が俺達だってのも信用してないんだぜ」と呟く。

「それよりも、水資源が大分減っている事の方が問題だろう」
「……そうだな。未来でお前達はどうやって打開策を編み出したんだ」
「少し歩いた所に洞窟があって、その中に真水の川があった」
「じゃあ、まだ余裕がある今の内にそこに行っておくか」

 百舌が、要さんであること。
 要さんは、この後起こるだろう山火事で混合村の前に現れること。

 それを告げるべきだったのかもしれない。
 だが、俺の目には、目の前の涼と、俺に庇わせる為に花に刃を向けた涼が重なって見えてしまった。今ここで言うべきではないと思った。

 涼に以前、俺がちゃんとしていないと調子が狂うと言われた事がある。
 つまりあの涼は調子が狂った結果の涼だ。

 俺が暴走しなければいい。
 俺が我慢すればいい。
 俺がリーダーの使命を全うしていればいい。
 俺が嫌われなければいい。

 そうすれば、あんなことはもう起こらない筈だ。




 何でもないふりなんて、慣れている筈だ。
 15歳の時に、既に経験したことだ。


 それでも、花の親を知らず和気藹々と接しているあいつらに、どこからともなく苛立ちが湧いてきてしまう。
 花の親を知ってなお、それでも関係ないと言っていたあいつらの方がまだよかった。
 自分の親のことについて悪いことをしていたと知った花の方がまだましだった。


 俺は何も言っていない。言うべきじゃない。
 言ったらあの時みたいに決壊して、卯浪のように貴士先生のように汚い手を使ってしまいそうだ。

 しかも今回は、怒鳴り散らす事も、呻くことも出来ない。
 まともな振り、平気な振りをしないと、涼が代わって暴走しかねない。

 分かっている。
 分かっている。
 分かっている。

 けれど未来に昇華されるだろうこのしがらみと、今どう接したらいい。



【続】





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最終更新日  2018.11.24 21:27:18
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