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あいかわらず仕事場に籠って制作している。寒さが一段と増してきているが、仕事場は揮発性の油も使用しているので、火気厳禁である。あと1週間くらいで完成するだろう。それまでは暖房はなしだ。尤も、描いているときは寒さを忘れている。忘れるために描きつづければいいので、お誂え向きというところか。
Nov 30, 2012
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きょうは局地的に大雨の予報が出ていたが、東京も冷たい雨。夜になって一層冷え込んで来た。 あいかわらず一日中制作。冬は油絵の具の乾きが遅い。私のような細部の描写を積み重ねてゆくような制作は、仕事のスピードも遅くなる。乾くのを待つ間に、そこから離れたところを描く。が、終局にちかづくにしたがい、離れた場所というのがなくなってくる。 きょうの仕事は、いよいよ主題部の仕上げに向けた作業。しかし、最初の構想を大きく変えた。それを形が見えるまで一気に描いた。一旦筆を置き、夕食をはさんで、また仕事場に戻り、あらためて作品を眺めている。構想を変えたことは正解だったようだ。ただし、主題イメージをとりまく左右の空間を、もう3cmずつ広げたほうが良いかもしれない。たぶんそれで、主題がもっとはっきりメッセージを発するようになるだろう。・・・それは明日以降の作業だ。もしかすると現在まで描き上げた一部をヤスリで削らなければならないかもしれない。たぶん、そのほうが良いだろう。
Nov 26, 2012
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きょうは午前9時から町内一斉清掃。春秋2回の恒例行事。これまで3年半ほどの間は在世中の老母の看護がもっとも忙しい時間帯にあたっていたので、参加することができなかった。隣近所といってもしょっちゅう顔を合わせるわけではないにで、しばらくぶりにご一同の顔を見た。400世帯をグループ分けしての作業だが、みな普段からきれいに清掃しているので、ほとんどやることはない。2時間の予定を1時間そこそこで終了。 この一斉清掃が終わると、日常は次第に年末へ向けて速度が加速してゆく。 私は、2週間後にはアメリカでのアート・フェアが始まる。といっても画廊まかせだから、私がじたばたしても仕方がない。制作中の作品を完成させるだけだ。
Nov 25, 2012
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アメリカでは感謝祭翌日の金曜日をブラック・フライデーと称し、小売店が一斉に値下げをしてクリスマス商戦が始まる。「ブラック・フライデー」は、元来、金融恐慌に由来する言葉。しかし、このクリスマス商戦では、小売店の売り上げが黒字になることから、言葉のもともとの意味が変って用いられるようになった。売り場は値下げ商品に殺到する客達で、すさまじい光景となり、しばしばTVニュースで映像が流される。なにもアメリカに限ったことではない。日本でもバーゲン会場の修羅場はご存知のとおり。 さて、クリスマスをひかえて、日本でも各新聞には子供向けの絵本の広告がずらりと並ぶようになった。かつて私も、弟の子供に絵本を選んでプレゼントしたり、ついでに芸術的にすぐれたものを自分用に買い求めたこともあった。 日本では、クリスマスのプレゼント用に特別の装丁をした絵本というのは見たことがないが、イギリスやアメリカでは昔からクリスマス用の特別装丁の絵本がある。次に紹介する画像もそういう絵本で、『パレード』という1897年のクリスマス絵本である。大変こった装丁で、金色の金属板を彫刻して刳り貫き、下地に貼っている。彫刻された3人の騎馬の旗手のささげる旗に「’97」という年号が刻まれている。 こういう絵本をプレゼントされた子供達は、生涯の宝物として所蔵したことだろう。 ちなみに、かつて私が表紙を描いた早川書房の『イギリス・ミステリ傑作選』全15冊は、イギリスで毎年ミステリファンのためにクリスマスの贈り物として特別に書き下ろされた短編集である。
Nov 24, 2012
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昨夜からきょう午前中まで降っていた雨は、小庭の色づいた柿の葉やコウゾの葉をたくさん散らせた。夕暮れてから空を仰ぐと、薄い雲の陰に濡れて滲んだ月の光があった。 終日作品制作をしていて、たった今、22時20分、ひとくぎりをつけて筆を置いたところ。 昨日になるが、54年振りに連絡がついた小学校5年6年時の担任、星孝男先生からお手紙を頂戴した。電話のあとで、拙作の印刷物や手元にあった掲載誌などをかき集めてお送りした。その礼を兼ねたお手紙である。私の頬に笑みが浮かんだのは、私のことを「貴方様」とお書きになったり「タダミ君」とお書きになったり、ふたたび「貴方」と言い直したり、一通の手紙のなかで呼び方が変わっていること。先生は81歳、私は67歳、半世紀もの長い間音信不通だったこともあり、どう呼んだものかおそらく無意識のお迷いなのだろう。小学生のころは「タダミ君」だったので、私はそう呼んでくださることが一番良いのだが。 思い出したことがある。 中学生になって私は親元を離れた。教科に英語が入って、どういう経緯かは忘れたがイギリスのグラスゴーの少女と文通をするようになった。その少女の最初の自己紹介の手紙をもって長期の休みに親元へ帰った。私が帰ったというので、星孝男先生が我が家へ遊びに来てくださった。先生と母の前で、私はグラスゴーの少女の話をした。そして、こう言った。「セックスは女だって!」 性別のことをまったく無邪気に言ったのだ。セックスという言葉にそれ以外の意味があることなんて知らなかったから! 母と先生は顔を見合わせて、ここはそのまま聞き流しておこうというふうだった。 私は敏感な子供だったし、なにしろ写真を撮影するように一瞬の情景を記憶してしまう能力といえば能力がそなわっていたので、後になってこの場の意味を理解したのだった。 ハハハ、今、その情景がありありと浮かんでくる。 じつは先日の電話で、先生に初めてお話ししたことがある。 放課後、級友たちが先生と野球などをしているのを尻目に帰宅した私は、昆虫だ植物だと、一人で、あるいは弟をつれて山野を駆け回っていた。学校以外で級友と遊んだことがまったく無かったのだ。それは先生のご存知ない私の姿だった。 電話でお話しすると、案の定おどろいていらした。学校では様々に引き立てていただいた。学校全体の体育科の責任者であったという先生だから、体育はとんと苦手でひょろひょろ痩せていた私を、他の教科で盛りたててくださったのだろう。まさか、毎日のように山深くまでもぐりこんで、蝶や植物の採集に明け暮れているとは思わなかったのだ。そういう「たくましさ」があるなどとは・・・。夏休みや冬休みが終わると、自由研究としてそれらの標本を提出していたが、おそらくその時々の行為くらいに思われていらしたことだろう。 お送りした作品の印刷物を「宝物だ」と言ってくださるのは、やはり私の子供時代の先生だからである。ありがたいことだ。
Nov 23, 2012
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きょうは一日中制作。現在22時を2分過ぎたところ。これからまた2時間ばかり執筆する。
Nov 21, 2012
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ジョージ・ルーカス監督のスカイウォーカー・ランチの個人図書館Photo via NORTHWEST PRESS BOOKS
Nov 20, 2012
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きょうは寒さも昨日よりはゆるんで、作品制作に励めるなと思いきや、つぎつぎと雑用が出来(しゅったい)して、半日駆けずりまわっていた。長い間取り組んできた作品を今年中に仕上げたいのだが、この調子ではそれも心もとない。早く次の構想にとりかかりたいけれど、目下の作品も「急いては事を為損じる」である。
Nov 20, 2012
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寒いですねー。私としては今年一番の寒さ。これまで寒さには強かったのですが、1年4ヶ月かけて体脂肪を落としたせいでしょうかね、寒いのですよ。夏の間だったかな、この冬は暖冬だなんて報じた気象予報がありました。どうやら、はずれたのではないでしようか? 真冬でも、かつてズボン下などはいたことがない。身体を締め付けるのが嫌いだし、着物をブクブク着ていては動きづい。仕事がし難い。でも、今年はズボン下をはかなくては駄目? なんだか鬱陶しいなー。
Nov 19, 2012
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このところ連日のようにいろいろな方からお手紙や電話を頂戴する。中には30年ぶりくらいに御自分の写真を同封してくださり、その面変わりに年月の流れを感じた。まちがいなく私自身の容貌にも同じく歳月が刻まれているはずだ。 また、今日お電話を頂戴したS氏は、私の静物画『S氏の猟銃』のそのS氏である。ある会社の社長であったが、すでに引退して、会社はご子息が継いでおられる。これまで私の唯一の肖像画のモデルで、その作品はS氏が所蔵されている。「私がこの世に二人となって、いつでも安心して死ねる」とおっしゃるのだが、これには喜んでいいものやら当惑してしまう。もう20年も前に描いたものだ。が、いまだに律儀にご挨拶がある。このたびのお電話も、亡母への哀悼と肖像画についての度重なる礼だった。・・・これは、やはり絵描き冥利というべきだろう。そう思いつつ我が筆の未熟が、そぞろ恐ろしくなった。
Nov 18, 2012
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CNNが「デンバー上空にUFO? 謎の飛行物体出現」とタイトルして、おもしろい映像をアップしている。CNN デンバー上空にUFO? 謎の飛行物体出現 2012.11.16 Fri posted at 11:53 JST
Nov 16, 2012
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きょうの東京はここ一番の冷え込み。最低気温が8℃とかで、初めて10℃を下回った。北国の人たちには何を言っているんだと言われそうだが、東京在住者にとっては寒い一日だった。 先日50数年ぶりに連絡がついた小学校時代の担任の先生に、手紙を書き、私の作品が掲載されている雑誌やその他の印刷物をまとめて添え、お送りした。以前、八総鉱山回想記を書き、小冊子をつくったのだが、連絡をくださった旧八総鉱山に住んでいた方々にさしあげ、いまでは原本一冊を残すのみで残部がない。先生の思い出も書いているので、いつか再びその冊子を復元してみようと思う。あらたに記憶がよみがえったこともある。先生にもその旨を伝えた。 この冊子は、八総鉱山小学校の同級生とやはり40年振りに連絡が付いたのをきっかけに、当時、病床にあったけれども存命だった父に鉱山学的なことも聞き書きし、加えて私の回想を書いた。まさかその後ほどなく父が亡くなるとは思わなかったので、亡くなってから、「ああ、聞いておいてよかった」と思ったのだった。坑道内部の様子をどのように書けば読者にイメージとしてとらえてもらえるか、幾度も父に聞き直したものだ。書き上がったものは、十分とはいえないものながら、父は病床で喜んで読んでいた。 先日電話で先生と話しながら、福島県人の先生が福島県人がひとりもいない八総鉱山という特殊な地域の小学校(鉱山が本格的に稼動しはじめて、日本各地から招集された社員の子弟のために会社が建設して町に寄贈し、町立八総鉱山小学校となった)に赴任されて、いわば異邦人のような目でご覧になっていたかもしれない、と私は感じたのだった。いま私は、先生がお感じになっていたことをお聞きしたいものだ、と思っている。校長先生はじめ先生たち全員が八総鉱山社員と同じ社宅に住み、たしか先生方の給料以外はすべて社員と同じ待遇だったはずだ。つまり住宅費および水道光熱費の無料、冬季燃料の支給等々である。福島県の他の教員とはまったく異なった生活だったはずだ。私たち子供ともその親達とも異なる視点で八総鉱山を見、経験されたはずだ。・・・それをお聞きしたいと思うのである。
Nov 15, 2012
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サッカー2014ブラジルW杯、アジア最終予選。第5戦目の対オマーン戦がオマーンの首都マスカット、スルタン・カブース・スタジアムで日本時間20時30分にキックオフ。 30℃を越す蒸し暑い気候に加え、FIFA規約により海外で活躍する選手が試合開始48時間前まで所属クラブに拘束されているため、招集した選手の半数が海外組であるザック・ジャパンは、試合前日ただ一度の合同練習できょうのオマーン戦にのぞむことになり、いつもは強気のザック監督もすこしばかり弱気な発言を報道されていた。しかも相手のオマーン・チームは、かつてホームで負けたことがない。日本チームをひねり潰してやろうぐらいの意気込みにちがいなかった。 はたして試合はすべからく日本チームのペースというわけにはゆかなかったものの、現在日本チームはB組のトップで勝ち点10を持っている。オマーンに勝てば、W杯出場に王手をかけることになる。 というわけで、以下、試合経過である。 日本の先発メンバーは; 川島、前田、本田、遠藤、長谷部、長友、今野、酒井(宏)、岡崎、吉田、清武。【前半】 8分 岡崎のシュートはゴール上へ。10分 オマーン、右サイドからスローイン、受けて左へクロスしたボールをドゥールビーンがシュート。バーの上へ。日本のっけから危うし。15分 本田からのボールを岡崎ミドルシュート。GKアル・ハブシ、キャッチ。16分 清武右からクロス。岡崎ヘッドシュート。ゴール前ではばまれる。17分 日本ファール。オマーンのフリーキックは直接狙うがバーの上へ。20分 今野ミドルで岡崎をおとりにオマーンのデフェンス・ラインを引きつけ、空いたスペースへボールを蹴り込む。長友が走り込んで右頬で受け、落とし、オマーンをかわしつつ左から抉るようにゴール前へ。右から清武突っ込んでシュート。ボールはゴールネットに突き刺さる。日本、先制の1点!26分 アジミ、オーバーヘッドシュート。ゴールマウスのアウトサイド左へ。29分 清武、右サイドからロングでゴール前へ。前田、ヘッドで落とそうとジャンプするが、合わず。30分 日本、右サイドCK。ボールはファーサイドへ。オマーンGKキャッチ。33分 オマーン、長友に対してファール。 日本FK。ゴール前に入った吉田の前でクリアされる。35分 アオマーンのクロスボールをアジミがシュート。ボールはゴールポストにぶつかり、はね返ったのを長友反応してピッチ外へ押し出す。 この直後に、アジミが怪我をし、退場。オマーン監督はメンバー交替を告げ、マクバリが入る。45分 オマーン、日本のデフェンスをかわしてコースを開き、シュート。GK川島、キャッチ。【後半】 オマーンは前半とメンバーを入れ替える。ストライカーのアマドホスニをはずしてアブドル・ハジを入れる。0.42 清武にハンド。オマーンのFKに前田が反応。1分 オマーンCK。 5分 マハイジリのミドルシュート。川島はじく。 オマーンCK。岡崎対応。はじかれたボールをドゥールビーンがシュート。バーの上へ。11分 マハイジリ、本田を押し倒してイエローカード。16分 オマーンエンドで競り合い、清武一瞬のスキを抜けてシュート。オマーンGK倒れ込んでキャッチ。18分 前田アウト。酒井高徳イン。20分 長友から本田へ。本田、踵でバックキック。清武シュート。オマーンGKキャッチ。22分 本田から酒井(宏)へ。酒井クロス。清武間に合わず。26分 本田CK。高いボール。30分 吉田ファール。 オマーンFK。オマイジリが受けてシュート。ゴールを割る。1対1、日本に追いつく。 オマーンのサポーター、一気に盛り上がり。スタジアムは騒然となる。35分 日本のゴール前。こみあったところからオマーンがシュート。川島、倒れながら足で対応。37分 オマーンCK。川島、パンチングで対応。38分 再びオマーンCK。本田、ヘッドでクリア。39分 清武アウト。細貝イン。40分 オマーン、スルーパスからシュート。ゴールの上。44分 左から酒井(高)抉って遠藤へ。遠藤、受けて岡崎へ。岡崎、シュート。ゴールを割る。追加1点。均衡破る。2対1。 スタジアムは静まり返る。帰る観客もではじめる。明日はイスラムの正月、しかも王の誕生日とか。勝って正月と誕生日を祝いたかったのだろうが、オマーンサポーター、熱しやすく冷めやすいのか。 アデッショナル・タイムは4分。48分 遠藤アウト。高橋秀人イン。 試合終了。 苦戦をしいられたとはいへ、岡崎、長友、清武・・・みな、よく動いた。すばらしい! これで勝ち点13となり、あと3戦を残すが、ブラジルW杯出場に王手をかけたといってよかろう。 次は来年3月、対ヨルダン戦だ。長い間があく。まちどおしいなー。
Nov 14, 2012
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午前10時、執筆にとりかかろうとしたとき電話が鳴った。そのまま放っておこうかと思ったが、キャンヴァスに向かう前だったので受話器を取った。いとこだった。母の葬儀以来だから7ヶ月半ぶりになろうか。特別の用事ではないと断って、元気かどうかを尋ねたかっただけだと言った。しかし、それからお互いになにやかにやと由無しごとを長々としゃべり、ついに電池切れになって別れた。 執筆のための気勢が殺がれてしまい、作品制作はとりやめ。半日、資料調査と整理で過ごした。 町内自治会から来年度の役員をやってくれと言って来た。私は6年前にも務めていて、本来なら次に私がやるとしたらこの先10年後のはずである。「どうしました?」と訊くと、順番に当たっている人たちがみな年を取りすぎて務められないのだと言う。あるいは健康に問題がある人も多いのだとも。 67歳の私が若いと言われても当惑するが、どうやら他人目には67歳には見えないらしい。喜んで良いのか悪いのか、とにかく健康で元気なことだけは確かだ。グズグズ話しているのが面倒だから引き受けたが、町内と一口に言っても400戸あるのだから、何の役員になるかは分からないけれど、楽な仕事ではない。来年1年間かかわると思うと憂鬱になる。
Nov 13, 2012
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日曜日、午前中、私が住む市のスポーツ推進委員会が主催する「さわやかウォーキング」に参加した。多摩丘陵を3時間かけて9kmを歩くという企画。朝9時に集合。私は9時10分に出発し、ちょうど2時間で走破した。 武蔵野の面影が残る丘陵は、まだ全山紅葉にはほど遠いが、山道にはソメイヨシノやカエデの紅葉やイチョウの黄葉が散り敷き、コナラのドングリがたくさん落ちていた。スギ、ホオノキ、ミズキ、クロモジ、ヤマツツジのなかにマユミの淡いピンクの実が美しい。薮陰に葉の先端を赤くしたヤマゴボウの大型の葉がのぞき、その葉陰に黒い実が葡萄状に下がっている。おやッ、タチツボスミレガ咲いている。春4月頃に咲く野草だが、この季節はずれにどうしたことだろう。このスミレは日本古来の種だ。尾形光琳の屏風絵に描かれている。 谷戸に下りると、草に埋もれるような小さな流れの中に水浸かる石が朱錆色だ。水に強い鉄気を含んでいるのだ。一帯の山に鉄の鉱床が眠っているのだろうか。 しかしそこからほんの少し歩くと、また別のささ流れがあり、その水には鉄が含まれていないようだ。流れを引き込むように田んぼが数枚ひろがって、ハザ(稲掛け)にはもう稲は掛かっていない。が、一枚だけ刈り残された田がる。もちろん稲は黄色く枯れ色になって穂が垂れている。穂の稔はやや薄いか。しかしどういう理由かはわからないが、作物が収穫されずに放置されている光景は悲しい。 道ばたにスギゴケが群生している。モウセンゴケの群生もある。私はほんの少しだけでも我が家の小庭に移植したい誘惑にかられるが、いやいや止めよう、このままがいいんだと、誘惑を振り払って歩きつづけた。
Nov 11, 2012
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作品制作でほとんど仕事場に閉じこもっていたので、日記には書くことがないと、たったいまブログをアップしたところだ。それから新聞のデジタル版を見ると、目に飛び込んできたのが、橋下大阪市長の「核持ち込み容認を示唆」という記事。私の怒りは一気に爆発してしまった。この男、調子に乗りすぎてはいないか? 人気はどうか知らないが、この男の考えは本質的なところで極めて危うい。知事時代にしろ市長になってからにしろ、大阪の行政のなかでやってきたことは、私に言わせれば瑣末的なこと。しかも人が生きるための職をいとも簡単に「処罰」と称して失わせ、あるいは自分の意見に対する踏み絵のようにその「処罰」をふりかざしている。この男、世界の多くの文明史が何を克服しようとしてきたか、そのなかで日本がどのように世界の一員に組みしてきたかを知っているのだろうか? やっていること、言っていることが、幼稚きわまりない。大阪という大都市の政治というよりは、村八分が生きているような古くさい村落共同体のしょうもないお代官様みたいだ。そして挙げ句の果てが、「核持ち込み容認」だと? 「国民に信を問う」だと? 国民の一人として、私は怒っている。核をよそから(アメリカから)持ち込まなくとも、今、われわれは原発災害による核物質の放射能拡散で悲鳴をあげているんだ。その現場の悲鳴が、あなたは聞えないのか! なんとトロイ感覚なんだ! いい気になるんじゃない!【関連報道】朝日新聞 橋下氏、核持ち込み容認を示唆 「必要なら国民に問う」 2012年11月10日21時38分読売新聞 橋下氏、広島で「核廃絶無理、日本は平和ぼけ」 2012年11月10日21時02分毎日新聞 橋下代表:「核廃絶誰ができるか」現実的な戦略訴え 2012年11月10日23時48分【その後の関連報道】読売新聞 橋下氏の「核廃絶無理」発言、広島市長が批判 2012年11月14日12時22分
Nov 10, 2012
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終日、作品制作。実働9時間。ほかに書くことなし。
Nov 10, 2012
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昨夜、亡母の遺品のなかにあった小さなメモに私の小学生時代、5年6年生のときの担任だった先生のお名前と電話番号や住所が記されているのをみつけた。インターネットで住所を当たってみたが、おそらく母の記録間違いであろう、現実には存在しない住所だった。なにしろ随分昔のメモである。それでもあるいはと思いながら、記された番号に電話してみた。呼び出し音がして、使用されている電話であることは分かったが、不在らしくしばらく誰も出なかった。すでに持ち主が変わっているかもしれなかった。 それが午前中のことで、私はそのご仕事に取りかかったが、仕事をしながらも気にかかって、八総鉱山小学校のことや先生のことを思い出していた。 午後、再び電話してみた。しばらくすると相手が出て、「はい、星です」と応えた。それは先生の姓であったが、ご家族かもしれない。 「星孝男先生のお宅でしょうか?」 「はい、そうです」 「先生はご在宅でございますか?」 「わたしです」 「先生、わたくし山田維史でございます」 「えっ! タダミ君?」 「おぼえておいででしょうか?」 「おぼえていますよ、おぼえています。わたしが八総鉱山小学校に赴任して最初に担当したのがタダミ君たちだった・・・」 先生は昔を思い出されたらしく、一気に八総鉱山小学校へ赴任することになった経緯をお話しになった。 「その辞令が来た時に、わたしは若かったせいもあるけど、そんな山のなかの学校に行くのはいやだと言ったんですよ。しかし、行ってから、来てよかったと思いました。すばらしい学校だった。当時の校長もすばらしい人だったし・・・」 「岡部校長先生ですね?」 「そう、岡部校長。あの学校での経験が、わたしのその後の教師としての人生を決定づけました。八総でわたしは学校全体の体育科を担当していましたから、体育に必要な設備の設計図を書いて、八総鉱山の会社の施設建設の担当の田中さんに提出したら、たちどころに実現してくれましたねー。遊動円木や回旋塔やぶらんこや運梯など・・・」 「校舎の前の広場にできましたねー」 「タダミ君で、忘れられないことがありますよ」 「なんでしょう?」 「学校の掃除をしていたときに、わたしがタダミ君に『ゴミを投げて』と言ったんだ。タダミ君はきょとんとして、『投げるんですか?』と訊くんだ。『そうだ、投げるんだよ』『ゴミをですか?』・・・わたしはそのときハッと気がついたんだ。それで言い直したんだ。『ゴミを捨ててください』と。『ああ、捨てるんですか!』とタダミ君は納得したけど、わたしが『投げる』と言ったのを『放り投げる』という意味で受け取ったんだね。そのときわたしは思ったんだ、言葉はたいせつだって。そのことでタダミ君を強く印象づけられた。いまでも忘れられないですよ』 星孝男先生と私は、時間もわすれて「懐かしい、懐かしい」と言いながら話に花を咲かせた。中学1年の夏休みに私が会津若松から帰省したときに、仲良しだった同級生5人と先生のお宅を訪ねてパーティーをやった。そのとき以来だから、ご無沙汰にもほどがあるが、数えれば54年ぶりである。先生は81歳におなりとか。「わたしも67歳になりました」と申上げると、「そんなになったかい」とおっしゃった。「声が低く太く、わたしより堂々としているから、画家として過ごして来たタダミ君の人生がわかるような気がしますよ」。 わたしは後日何か作品の印刷物など、活動の一端をわかっていただけるような物をお送りしますと申上げた。 「ありがとう。楽しみにしていますよ」と、先生はおっしゃった。
Nov 8, 2012
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アメリカ大統領選挙は、接戦と言われたが、日本時間の7日午後1時半過ぎにオバマ氏が過半数を越える選挙人を獲得し、次期大統領に再選が確実になった。午後2時の時点でオバマ氏281人、ロムニー氏203人。残りの選挙人54。
Nov 7, 2012
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アメリカ合衆国大統領選挙の投票が始まった。CNNは、民主党オバマ現大統領と共和党前マサチーセッツ州知事ロムニー氏が、共に支持率49%で互角であると予想している。まさに大接戦だ。この選挙に私が関心を抱くのは、その結果が12月に開催されるアート・フェアをはじめとする美術市場にどのように影響してくるかということを考えるからだ。 大型の温帯低気圧「サンディ」で大きな被害を受け、クリスマス商戦も控え、そうした中でコンテンポラリー・アートの市場での動きはどうなるのか。オバマ氏とロムニー氏、底冷えのするアメリカ経済に対して、まったく異なる政策論を展開している。美術品購入とその公益機関への寄贈が税金対策となるアメリカだが、・・・さてさて、大統領選以後の状況について私には皆目予測がつかない。日本時間の明日7日昼ごろには結果が出始めるであろう。それを眺めている。
Nov 6, 2012
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さてどのように書き出したらよいのだろう。たったいま、朝日新聞や読売新聞のデジタル版を見て、ひとりの女性の死亡記事に、「えッ!」と驚いたところだ。 私はその方と2度お目にかかっており、お名刺も頂戴していた。しかしそれが、あの有名な銀座のバー「おそめ」の上羽秀さん、そのご本人であるとは露程も思わなかった。 私が若輩のせいもある。名のある文士達が通い、文壇バーといわれた「おそめ」だが、私にはいかにも遠い存在だった。川端康成や大佛次郎が愛し、川口松太郎の小説『夜の蝶』の「おきく」さんのモデルになった上羽秀さんと、私の目の前にいる福福しく堂々とした年配の婦人上羽秀さんとが同一人として結びつく筈はなかったのだ。 最初にお目にかかったのは、能楽師の梅若猶彦氏と当時のレバノン大使と私との交遊の酒席を週刊朝日が取材し、その見届け役のように離れた席にいらしたのが上羽秀さんだった。そのとき私が持参した拙作の印刷物にギョッとされたような様子で、しばらく私の顔をまじまじと見ていらした。それから、たしか、京都のご自宅に能舞台を建設されたと話された。能を舞われるということは梅若氏から聞いてはいたが、個人住宅に能舞台を建設したという豪儀さに、こんどは私がまじまじと婦人のお顔をみつめたものだ。 それからしばらくたって、「あれっ、上羽さんではないかしら?」と思ったのは、小津安二郎監督のある作品をTVで観ていたときだ。「彼岸花」ではなかったかと思うのだが、いまは確信がない。バーのシーンでちらりと見えた顔が、上羽さんのように思えた。後日、梅若氏に尋ねたところ、「そんなことはないでしょう。映画にはお出になっていないと思いますよ」ということだった。私も人違いか・・・と思って、それきり詮索はしなかった。 二度目にお目にかかったのは、梅若氏が数年間ロンドンに滞在することになった送別会の席でのこと。私と席が隣り合わせだったので、ほんの少し胸にあるお気持ちを話されたことを思い出す。 そのただならぬ存在感、たたずまいの美しさを回想しながら、私はいまになってようやく上羽秀さんがどういう女性だったかを知ったのである。 ちなみに上に述べた川口松太郎の小説『夜の蝶』は、1957年に大映で映画化されている。監督・吉村公三郎、主演・京マチ子、山本富士子。 上羽さんをモデルにしたといわれる「おきく」を山本富士子が演じている。そういえば、ご本人とたたずまいのようなものが、どことなく似ている。【後記】上羽秀さんの映画出演について;川島雄三監督作品『風船』(1956年、日活)/原作・大佛次郎/出演・森雅之、三橋達也、新珠三千代、芦川いづみ、北原三枝、二本柳寛、他。この映画に「京都木屋町の〈おそめ〉バーのおそめさん」として、上羽秀さん御本人がワンカットだけ出演し、客としてやってきた顔なじみの村上圭吾(森雅之)と短い言葉を交わすシーンがある。タイトルに上羽秀とクレジットされている。(2020.8.8記)【関連記事】朝日新聞 「おそめ」マダムの上羽秀さん死去 「夜の蝶」モデル 2012年11月5日18時56分読売新聞 文壇バー「おそめ」のマダム、上羽秀さんが死去 2012年11月5日18時42分
Nov 5, 2012
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午前中に、12月にアメリカで開催される画廊参加のアート・フェアに出品するための作品を発送した。 荷を託してホッとした途端に胸の鼓動が一度だけドキッと高鳴った。その理由は自分でもわからない。無意識の何事かが生理的に反応したのであろう。 その後、なんだか気が抜けたように疲れて、寝室に行きベッドによこたわって枕元の本を読んだ。一冊読みおえて、そのまま30分ばかり眠った。きょうは制作を休む。
Nov 4, 2012
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「文化の日」恒例となった東京薬科大学のセミナーに参加した。 講義は、第一部が生命科学部心血管医科学の渡辺琢也教授による「動脈硬化は生命を脅かす怖い病気・・・発症メカニズムを知れば予防・治療に役立つ」。 第二部は薬学部実務実習研修センターの松本有右教授による「薬局薬剤師の処方監査のあり方について・・・高齢者における腎排泄性薬剤の投与設計への関与」 私は第一部を聴講。 セミナーの前に、東薬祭のこれも恒例の古本コーナーに立ち寄って物色。以下の本を購入。全部で420円也。 井上光貞『日本古代の国家と仏教』岩波書店 今谷 明『室町の王権・・足利義満の王権簒奪計画』中公新書 五味文彦『中世のことばと絵』中公新書 秦 恒平『梁塵秘抄・・信仰と愛欲の歌謡』NHKブックス 白石悌三・上野洋三校注『芭蕉七部集』岩波書店 足田輝一『雑木林の博物誌』新潮選書 本田正次『植物学のおもしろさ』朝日新聞社 岩槻善之助・伊沢正名『しだ・こけ』山渓フィールドブックス 竹内淳子『藍・・風土が生んだ色』法政大学出版局 黒竹節人『よみがえる京町家・・・くろちく』光村推古書院 三菱商事株式会社『静嘉堂珠玉』 武満徹・川田順造『音・ことば・人間]岩波書店 広島テレビ放送編『いしぶみ・・・広島二中一年生全滅の記録』ポプラ社文庫 香坂順一編著『現代中国語辞典』光生館
Nov 3, 2012
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朝、主治医の病院に行き、先月初めに予約しておいたインフルエンザの予防注射をしてもらった。ついでに、絵画制作が進行するにつれて就寝前に血圧が平均値を上回るようになったことについて、いかがなものかと伺った。 「山田さんの絵は、たぶん言語活動と同時進行していて意識的なのだと思いますねー。潜在意識が抑え込まれているのでしょう。そうすると血圧が上昇するのです。芸術家でない一般サラリーマンでも、寝食を忘れて仕事に没頭すると、普段のバイオリズムが崩れて血圧が上昇します。芸術家はなお一層、労働時間や休息が不規則に仕事をしているでしょうから、どうしても血圧に影響してくるのです。それを止めろとは言えないのですが、一日を8時間毎にくぎるバイオリズムは、おそらく人間生活の長い歴史に培われて、生命維持にとって大きな意味をもつようになったのではないか、と私は考えるのです。ですから、いま山田さんが寝食を忘れるに等しい仕事をしているわけですが、せめて就寝直前まで仕事をするのではなく、たとえ1時間でも、ボーッと何もしないで心身を休めることを勧めます。しかし、いまの血圧上昇は何も問題はありません。走れば血圧が上がるのと同じです。ただ、その状態が長期間にわたってつづくのは、やはり良くありません。適当に休息して、無意識を解放してください。・・・4年間、お母さんの看護で創作活動を抑圧してきて、ようやくいま山田さん本来のリズムに戻り、抑えつけていたものが溢れ出しているのでしょう。看護をしていたときと今とでは、あきらかに顔や姿形が変って来ていますから。・・・」 なるほど、なるほど。寝る前に1時間ほどボーッとね。・・・いま、ベッドに入ってから、眠くなるまで読んでいる本があるのだがなー・・・
Nov 2, 2012
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今日11月1日は「古典の日」である。どこまで衆知されているか分からないが、法令に定められ、今年から、ということは今日から施行される。 読書離れを引き止めるという名目であろうか? それなら法定することもなかろうが、法令に定めたとなると、「和」の志向ムードを狙った愛国教育の意図が見えてくる。 記念日を定めたからといって、実効があるかどうかは、はなはだ疑問。この日、国民がこぞって古典に親しむなどとは到底想像すらできない。とはいへ罰則規定があるわけではないので、記念日として結構なことだ。 今朝の朝日新聞の天声人語が、この「古典の日」について書いている。藤原孝標女(ふじわらたかすえのむすめ)の「更級日記」に、彼女が上洛して源氏物語の全巻を贈られたことが書かれてい、彼女の無類の読書好きを証す、と。 私が日本古典文学に親しみはじめたのは、高校の古典の教科からで、更級日記も源氏物語もその教科書から入った。なぜか知らないが、それら古典の原文を、私はほとんど何の苦もなくすらすらと最初から読みこなせた。源氏物語における主語がないところでも、登場人物の身分関係を知っていれば敬語の有無で誰が誰だか判別できた。もちろん解釈に難渋した場合は辞典を引いたけれども。 しかし、源氏物語全巻を原文で読みきることは難しかった。ちょうどそのころ河出書房新社から「国民の文学」という全18巻の叢書が出た。そのなかに与謝野晶子訳の源氏物語上下巻が含まれていた。私はさっそく購入して、これによって源氏を読破した。(下に図像) 日本古典文学叢書というべきものは、ひところ出版界が盛況だったころ、各出版社がつぎつぎに企画して刊行した。収録される典籍はどこも似たりよったりだったが、しかしそのなかには独自な選択によって現在でもそれに頼るのがもっとも手軽というものもある。もちろん今や書店に並んではいないので、比較的大きな公立図書館(やはり国会図書館が確実だが)、あるいは見識高い司書によりきっちり管理が行われている大学図書館で読むしかない。 現在でも容易に入手でき、一般古典文学叢書として幅もひろく充実しているのは岩波書店の「日本文学大系」であろう。ただし、いささかの研究心から読むのなら、同一の典籍でも各社刊行物件を並べて見るべきだろう。原文以外の注釈に大きな差がある場合があり、注釈者の学識の深浅があらわれていることがある。間違いとまではいかないが、研究が今一歩のところで先に進んでいないことが分かったりするのだ。大学生はご注意を。 「古典」といっても分野は広い。岩波の文学体系から洩れ、もっと原典主義に深く読んでみようとするなら吉川弘文館の「国史大系」がよかろう。一般書店でも揃えて置いているところがある。たとえば東京なら、八重洲ブックセンター、池袋ジュンク堂など。池袋ジュンク堂は、大変良く書籍を収集していて10年前15年前の絶版本でも新刊として当時の値段で入手できることがある。店員の本に対する知識も頼れるものがある。もちろん神田の古書店に行けばよいが、物によっては値が張る。 そのほか私の書棚には仏教典籍叢書やその他所蔵しているが、あまり一般的でないだろうから紹介はここまでとしよう。 ちなみに河出書房新社の『国民の文学」の装丁は真鍋博氏である。函の絵は土田麥僊(つちだばくせん)。 上述のように私が与謝野源氏を買ったのは高校3年(1963年)のとき。まさか後年に真鍋博氏の知己を得るとは想いもしなかった。 私がまだ絵を勉強中の1970年ころだったが、真鍋氏が前任のアシスタントが退職して後任をさがしているので面接に行くように紹介してくれた人があった。私は自作を携え、真鍋氏のアトリエを訪ねた。そのとき真鍋氏は、「あなたはすでに独自の世界をもっているので、私のアシスタントにはならないほうが良いです」とおっしゃった。そして意外なことをおっしゃったのだが、それはここに書かない。 ・・・それから数年経って、私はイラストレーターとして仕事ができるようになった。あるとき、銀座の写真店で偶然に真鍋氏と再会した。その写真店はプロフェッショナル相手の店で、私は自作の撮影の相談に来てい、真鍋氏はたしか当時最先端のコピー機器を供えていたそこに、その機器の試行の相談ではなかっただろうか。 私は以前の面接の御礼を申上げた。すると真鍋氏は新人の私の仕事をご存知で、のみならず「のちほど電話するかもしれません」とおっしゃった。私は何の電話だろうと思いながらその場は別れた。 後日、お言葉どおりに真鍋氏が私の自宅に電話してきた。それは氏が担当されて世評も高い早川書房のアガサ・クリスティーのカバー装についてだった。少し新しい試みをやりたいのだが、ついては私(山田)がやっている手法について教えていただけないか、というのだった。「あなたの手法からヒントを得たいのです」と。私は大先輩がそうのように言うことに驚いた。・・・「あなたの手法を拝見すると、材料学の知識が必要なように思いました」と、話は材料学のことに向かったのだが、私は、なんと率直な方だろうと思いながら、まったくの新人の仕事を、たとえご自分の仕事の追求のためとはいへ、そこに目を向けてくださったことが嬉しかった。 真鍋氏からその後もお電話を頂戴したが、その時はご自分の作品の保存に関わることだった。真鍋氏のグラフィック作品は、いわゆる原画というものがない。製版フィルムが、いわば原画にあたるのだ。そのフィルムを如何に保存すべきかというご相談だった。 真鍋氏が亡くなって、いま、私の手元には毎年頂戴した年賀状がたくさん残っている。きっちりした楷書で宛名を書かれ、印刷した賀文には、真鍋氏好みのカラーインクで、自筆の短文が添えられている。励ましのお言葉である。
Nov 1, 2012
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