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カメぱっぱが声をだしました。「ここはメイさんを裁くところではないパッパ、それよりもさっきから天窓をしつこく叩いている音がするよ」 デルフミュームが上を見上げます。「なにやら小鳥がくちばしで叩いているようです」 新之助が隣にいるモグンバに顔を向けます。「ビヨンヌは胸元の中で安らかに寝ておりますよな」「いや、かなり前に倉庫の中にいるのは飽きたから、外に出るといいはりオイラを脅かしたずら」「それであの重い扉を開けて逃がしたのですか」「自分の意思だから、逃げたのではないよ」 ザビエスが急いで入口まで走り観音開きの扉を開けました。バタバタとビヨンヌが倉庫の中に入り、中央にいるデルフミュームの左肩にとまります。「もーう、窓ガラスを叩いているのに誰も気が付かないって、どういうことピー、あんたたちの命は風前の灯なのよ。クリサーラさんがいるのに分からないなんてピーピーピー」 カメぱっぱが先をせかせました。「ビヨンヌ、クリサーラさんはレジスタンスの人と会うために外にでかけ、いましがた戻ったパッパ、それより、何をあわてているの」「この倉庫街めがげてロボット軍団が早足で東西から20体づつ向かっているピー、早くここを出たほうがいいピーピー」「それを先にいってくだされ、あと、どのくらいですか」 新之助がイライラして大声を上げます。「倉庫街のそばまで来ているから、あと1、2分ピー」 クリサーラが天井近くまで浮かび上がりました。「小動物たちと人間はババローナとバンバンジュウの背中に分乗しなさい。地下室から下に降りて下水道から脱出します。トムが先導してください。それにメイの手錠を外してくれますか、彼女はこれから絶対にあなたを裏切りません、約束します。それでは皆さん急いで」 まばゆい光がクリサーラの全身を包み、下にいる生き物の顔が輝きました。小動物たちは怪獣の背中や尾っぽに駆け寄り、よじ登り、しがみつきます。 ザビエスが北側隅にある地下室へ通じる床の切れ目へ指を差し込みます。力任せで開けた扉の下には、頑丈な鉄階段があり、まず怪獣二匹が飛び降りるようにして駆け出しました。続いてデルフミュームとザビエス、最後に人間5人が続きます。全員無言でクリサーラの指示に従うのは、彼女の持つ神々しい(こうごうしい)ほどの威厳と何人(なんびと)も頭(こうべ)を垂れずにはいられないほどの奥ゆかしさ、そのたまものかも知れません。 つづく
2019/04/29
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204号ロボットから連絡があって、2時間27分後にスマホの受信ランプが灯ります。探知ロボットU-61号から無機質な声が流れました。<匂い追った、マンハッタンの郊外に来た、大きな倉庫、番号YH93いる、赤膚族、人間族、他の生物匂いある、どうすればいい>「動くなや、じっとしていなはれ、30分以内に応援部隊をやるからな、隠れて見張っているのや、中から生き物が出てきたら急いで連絡してや」<隠れるのに、動いていいのか、連絡するとき、手を動かす、ダメだ>「・・じっとしていろというのは、言葉のアヤや」<アヤって、なんだ>「もういい、そのまま、そこにいてや」 グラシオラズは戦闘ロボット隊、隊長47号に連絡をいれ、40体を引き連れ倉庫街YH93番に向かうよう命令します。手元のキーボードを叩きPCの43インチ、モニターにマンハッタン全域の地図を表示させました。人間族が打ち上げ利用している視察衛星を動かして倉庫街に的を絞ります。何回かクリックを繰り返すとYH93の倉庫が上空から映しだされました。赤外線フィルターをかけているので真昼並みの明るさです。生物が発する微量の二酸化炭素を瞬時に計測して動物だけを捕捉するレーダーも衛星に組み込まれていますから、そのスイッチを押します。すると光点が数多くうごめいているのが分かります。 それだけ倉庫内に生物が大勢いるという証拠なので、思わずコブシを握りしめてガッツポーズをしました。(なお赤膚族のポーズは、両ひじを曲げたまま胸の中央でコブシを叩くのです) グラシオラズが大型モニターを凝視している約2時間前に時間を戻しましょうか。 バンバンジュウの背中や肩にうつ伏せ状態に乗ったザビエスと新之助、桐山清十郎、クリサーラがあわただしく隠れ家の倉庫に戻ります。意外なのはレジスタンスのトム・ジェンダーとブッチャー側に寝返ったメイ・パッセンジャーまでもが一緒だったことです。複雑な帰路の案内をかってでたトムが結局、最後までついて来て、残っていた動物たちと挨拶を交わしあいました。 手首に前手錠をかけられたメイを見て、けげんな表情をする動物と人間たちにトムが説明をします。レジスタンス仲間を裏切った動機と、彼女のために大勢の仲間が収容所送りになったことを。 クリサーラが外に出る前、新たな人間憲章を考えるようにいわれ、カメぱっぱをはじめ残った動物たちは、けんけんごうごう、唾を飛び散らせて議論している真っ最中でした。おかしいのは、人間の澤登夫婦が鳥付く島がないほど、動物たちは真剣だったのです。この時の会話はいずれ機会があれば紹介しますが、今は全匹、全員集まった倉庫内に話を戻します。トムからメイのことを聞いて真っ先に怒り出したのは、恐竜のガメリッチババローナでした。「なんで仲間を裏切るなんて、ひどいことが出来るのだガメリッチ、例え娘が人質にされても、仲間の命をないがしろにするなんて、そんな権利があんたにはないババローナ、だから人間族はブッチャーなんかに負けるのだ」 スミソニアン博物館で恐竜の骨格見本を見ただけのメイは、動いているだけでも驚いているのに、その上、大声で怒鳴られたものですから反論する気力も失せ、床に座り込みます。 つづく
2019/04/27
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「ふざけるなや、地下に太陽光線なんていらん。我々は、マントルの熱量から原子力発電に匹敵するエネルギーを作り出したんよ。それに長時間紫外線を浴びると、体に悪影響を及ぼす研究はまだ進んでいないから、危険だと忠告しているのや」「そういえば皮膚についている岩石の間にある青いコケがなくなっているやん、なんかスースーして気持ちいいよ」「アホぬかせ、それも皮膚の一部で雑菌予防や体温調整に役だっているんだから付着しているコケは大切なんや」「分かったでありんすよ。体育館に戻って世界情勢の分析をしたら兄ちゃんに報告しますわ」「兄ちゃんはやめろって何回もいっているや、お前は人類統括官のトップなんだから、もっと威厳をもって話さないといかんよ」「グラシオラズ司令官、了解しました。それでは通信終了しまっす」 4m20cmの長身が200ヶ所の鉄バネを使用した特大ベッドに倒れこみます。天井を見上げるグラシオラズは、深いため息をもらしました。お調子者の弟がなぜかブッチャーに気に入れられ、有力な側近の一人にくわえられたのはうれしいが、兄貴としては弟の言動や考えの軽薄さが心配で、すぐ喧嘩になるのです。平均寿命が620歳以上の赤膚族で、112歳年下のクラリアテックス以外にも二人の弟がいましたが、いずれも200歳になる前、原因不明の病気で死んだのです。423歳になるグラシオラズは、小さい頃からブッチャーの近くで生活し、常に大口をたたく彼に奇妙な親近感を持つようになりました。 君主である彼の父親、アルメンデ・ブッチャーが314歳で早死にしたあと兄のデルフミュームが赤膚族の君主となったのです。弟のメルトン・ブッチャーと違い、穏健で誰とでもすぐに友達になれる兄は、赤膚族だけでなく他の生物からも慕われ、名実ともに地下王国での君主としての地位を固めていました。 反面、地下だけでなく地球制覇の野望を企む弟は、当然、兄が煙たくなり、自分の味方を増やし側近で固めてから、策略を巡らし兄を追い込み、幽閉に踏み切ります。第二地下層の最深部にある地下牢は、岩の裂け目からマントルが噴き出す高温状態で、地上生物よりも熱に強い赤膚族でも意識もうろうとなる酷いところでした。そこへヒスイ宮殿のヒミメールやデルフミュームを慕うザビエスが現れ救出してしまいます。やっかいなのは、わざわざ地上生物までもが登場し反ブッチャー派で一致団結していることでした。 そのデルフミュームとザビエス、ヒスイ宮殿女王クリサーラや地上動物たちが、まだ未確認ながら、ニューヨークに来ているらしいという情報をつかんだグラシオラズは、人間族のスパイを総動員して探っていました。枕もとの巨大なスマホが鳴り響きます。「どうしたん、204号」「他の探知ロボットから最新情報が入りました。先ほど取り逃がした奴らの全貌が分かりましたのでお知らせします。赤膚族1名に人間族3名、宙に浮かぶ妖精らしき者1名、四つ足動物2匹と恐竜1匹、人間族3名の中にはメイ・パッセンジャーも含まれていると思われます。ロボットの記憶データーから判断して間違いありません」「よしゃ、そいつらの後をつけて隠れ家に着いたら、応援部隊を送りますわ。大勢だと気付かれるから探知ロボットだけで後を追い、お前はすぐに出動する体制で待機しておくれ」「了解しました」 グラシオラズはとんだ幸運が転がり込んだきたのを実感します。赤膚族1名はブッチャーの兄、デルフミュームだと考えました。ニューヨークのレジスタンスと会い、これからの作戦を練るには、責任感の強い彼が出てくるのが当然ですから。 ここで兄を捕まえるか、最悪でも殺せばブッチャーの地球制覇が盤石になるとほくそ笑みます。 つづく
2019/04/24
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…各地の研究所から毎日送られてくるレポートでは、スケジュールの半分まで消化し、すでに試験管の中では500体ものベビーが育っているようだ。人間の科学よりも200年から300年進んでいる我々が、本気で種の保存を考えれば1年以内に、人類の5歳児程度の肉体と頭脳をもった新人種が誕生する。その3年後には生殖可能になり、飛躍的な増加を目指すならば精子と卵子を取り出して、母体と同じ環境の容器で育成すればよいのだ。肉体だけでなく知能も最強の赤膚族が、人間族に代わり地球生物を支配すれば究極的な平和が訪れるだろう。現在は治安を維持するために、拳銃などの通常武器だけを与えた警察機構がある。その他は各国の軍隊を解散させた上、核兵器やミサイルを破壊するのだ。一部の愚かな人間族が反対しているようだが、どんなたわごとも聞く耳を持たない。力ずくでも半年以内には完了させる。デルフミュームやザビエスが地下のロボット製造工場を爆破したのは打撃だったが、地上進出後すぐにアリゾナとネバダ、ラスベガスで建設中の大規模な工場でロボットを作って供給すれば問題はない。赤膚族の利益になるためなら人類の労働力をフル稼働させるのもやぶさかではないのだ。人間同士を競わせてその勝者と優れた者を抽出し、全体の3%を選び特権階級にしてやり、豪華な衣食住を保障すれば随喜の涙を流すだろう。人類って単純動物は、常に競争心をあおり鞭と飴を使い分ければどうにでもなる。これからもブッチャーを盛り立てながら赤膚族の繁栄を心から願おう> 大理石のテーブルに置いてある大型スマホが、けたたましく鳴り響きます。手元にある別なスイッチを押しスピーカーに切り替えました。「兄者、定期連絡どっせ~~、ヨーロッパの各国とも暴動はもちろんのことデモすら起こっていない平穏無事な2日間を過ごしましただ。我々が占拠する前よりも静かで平和になっているのと、違いまっか。過激派のテロもないから人間族はオラたちに感謝しているっぺよ。そっちは、どうや」 グラシオラズの弟、クラリアテックスが早口でまくしたてました。「通報があったレジスタンスのグループを取り逃がしただけで、こっちも静かなもんや。そっちはどこにいなはるの」「フランスのニースという、温暖な避暑地で太陽の光をいっぱい浴びていますのや。最高でっせ、これだけは地底ではありえへん、極楽やね~、兄者もこっちに来て休んだらよか」「お前だから許すが、他の者だったら、すぐに殺しているかも知れんな。それにその変てこりんな言葉もやめてくれへんか」「何をいってますの、ここにいるのは、地底に太陽光線をどうしたら通せるのか科学者と考えていますのや。そのあいまに人間族が抵抗しないようにあっちこっちに散らばっている赤膚族と連絡をとり、治安強化に努めていますやん。それを殺すなんてぶっそうなお言葉を抜かすなんて、せっしょうですわな、兄ちゃん、ストレスが溜まっているのと違うか」 つづく
2019/04/21
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「おやめなさい、彼女を殺しても過ぎ去った過去は変わりません。メイは自分がやったことを正しいなんて考えていないので、ブッチャーの側近から可能な限り赤膚族の弱点を見つけようと近づいたのも事実です。娘さんを人質にとられた後、協力する態度を示しながら彼女なりに努力していました。その情報が役に立つかどうかは不明ですが、殺せば何も残りません」 ザビエスが巨体を折り曲げます。「メイ・パッセンジャーの処遇はトムに任せるが、とりあえず銃は取り上げようか」 メイが黙ってトムに銃を差し出しました。ザビエスがバンバンジュウと新之助、桐山清十郎に声をかけます。「急いでここから脱出しよう。ここに来た通路は安全ですか、トム」「いや、太い下水道は敵も知っているから、別なところへ案内しよう」 トム・ジェンダーが先頭に立ち地下倉庫から直径2mの排水管を進み始めて、4分53秒後にロボット軍団が倉庫になだれこみました。軍団に一体だけいるAI搭載のランクA-204ロボットがグラシオラズに連絡します。「メイ・パッセンジャーが裏切ったかもしれません。レジスタンスと合流する生物を皆殺しにしようと、前もって報告のあった場所に来たのですが、誰もいないのです。これから探知ロボットと共に後を追います」 赤膚族の中でも冷静沈着を売りにしているグラシオラズがのんびりした声で応えました。「彼女が我々のスパイだとレジスタンス側にばれて、粛清されたかも知らんのやろ。しばらく様子を見てから判断しまひょ。メイは今まで反抗者を捕らえるのに役だったからな。仮にレジスタンスに捕まり拷問され、過去のいきさつを話しても、こっちには、なんら影響ないでっしゃろ。204号、後を追うのはよいが深追いはしないで、適当なところで切り上げておくれ。地下のロボット工場が爆破された影響で、当分ロボットの補充がきかないからな。お前の隊にいる数もこれ以上減らすなや」「了解しました」ニューヨーク・パーク・アベニュービル(96階)の94階上を自分専用の住居とし、量子コンピュータ2台をフルタイムで稼働させ、世界の人間界情報をリアルタイムで入手していたグラシオラズは、大きな地球儀を見つめています。<人間どもの抵抗を最小限に抑え、着々と地上制覇は進んでいる。君主というより友人と思っているブッチャーの並外れた能力を信頼して就いてきたのは、大正解だ。主要な国々へは赤膚族の中で気心が知れた者を、統率者として送り込んでいるが、重要な事案はブッチャーと自分が直接命令しているからなんら心配ない。地上侵略の最大目的、赤膚族の人口減少に歯止めをかけ、染色体が近い人類の一部と掛け合わせ、多数のニュー赤膚族、誕生を目論んでいるのだ。・・・・ つづく
2019/04/18
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「ニューヨークにいる、レジスタンスの人数はどのくらいですか」「そんなに多くはないのです。私たちのグループで24人、1ヶ月前までは61人いましたが逮捕されたり行方不明になって連絡もとれません。ほとんど収容所で殺されたのでしょう。我々の動きもスパイに監視されています。先ほどもいいましたが今日もあまり時間がないのです」「分かりました。ところでそちらにいるメイ・パッセンジャーさんは、まだ一言も話していませんね。先に謝りますが、あなたの脳にも侵入しました。話せない理由を私の方からいいましょうか」 ショートカットで細身ながら引き締まった筋肉を持つ、街中で会えば男が振り返るチャーミングな女性が口を開きます。「人の頭の中に侵入するなんて、失礼よ。だから人間以外の生物って嫌いなの。どう言い訳してもあなたには、通用しないから無駄な時間を省くわ。脳の中を覗いた結果を短く話してみたらどうなの」 クリサーラが20㎝ほど浮き上がりました。「まだお仲間が来るまで、かなりの時間がありますね。メイさん、あなたはブッチャーの側近、グラシオラズに雇われたレジスタンス壊滅チームの班長です。トムが属しているチームの大半は、彼女が通報し収容所に送られました。他の2チームも短時間で消滅したのは、まさかレジスタンスの幹部がスパイとは誰も予想だにしなかったのですね。ここにも後、40分ほどで戦闘ロボット20体が押しかけ、我々を殺す予定です。なぜブッチャーに寝返ったのか、答えは・・11歳の一人娘ジェーンを人質として捕らわれているからです。娘さんは・・・近くの収容所にいて1日1回の通信が許されていますが、レジスタンス摘発の成績が落ちると、連絡が遮断されるのです。同情はしますが、あなたが収容所に送り込んだ人たちにも愛する家族がいますよ。自分さえ幸せになればいいという、自分勝手で人類特有な考えを私は卑怯だと考えますが」「えらそうなことをいわないで、誰だって家族の安全が第一優先なの。たしかに自分勝手かも知れないけれど、他人よりも娘の命を守るのが親の義務でしょう」「違います。あなたがブッチャーに反旗をひるがえし闘って、たとえ命を失ってもジェーンは、一生誇りに思うに違いありません。ジェーンが大きくなったとき、自分が生き延びるために多くの人が犠牲になったと分かったら、そのとき彼女は、絶対にあなたを許しません」「私がそれまで生きているなんて考えられない。こんな非常時に先のことなんかどうでもいいわ、ところで私をどうするの?トム、私が裏切り者なのは認めるから、ここで処刑してもいいわよ。早くしないと、この天使がいったように、もうすぐロボット部隊が来て皆殺しになるよ」 トムは、悲しい顔をしながら腰に下げている拳銃を引き出してメイの胸に向けました。クリサーラの体から薄いブルー色の光が発色し全身を包みます。 つづく
2019/04/15
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「ニューヨークの市内で四方がビル壁などで囲まれ逃げ場がないところはありますか。ただし簡単に見つかるのはダメで迷路のようになっているのが最適です」「ビルの建設現場では狭いでしょうね、すでにビルが建っている場所は、周囲のスペースが条例で決められているから、探すのは困難でしょう。地上よりも地下を探しましょうか、その方が手っ取り早いかも知れません」「お願いします。それに持ち運びに便利なプラスチック爆薬は手に入りますか」「爆発力の強いものは、工事用のダイナマイトを除いて没収、処分されていますよ」「乗り捨てている車のバッテリーから希硫酸だけを取り出して運んでください」「他に必要なものはありますか」「ガソリンと卵、それに食塩を少々」 ヨシコが素っ頓狂な声を上げます。「コラー、ザビエス、ふざけるニャー、ここで料理教室を開くのかニャン」「いや、真剣ですよ。手作りでプラスチック爆弾を作るので。簡単に説明すると今の3種類を手でこねくり回すと、ワセリンになって、これが焼夷剤になるのだ。トムに頼みたいのは、60%以上の純度がある塩素酸ナトリウムを入手して欲しいのです。これを乾燥させ粉末状にしたら、さきほどのワセリンを混ぜます。割合は9体1、長時間手で混ぜて均一のノリ状になればプラスチック爆薬の完成というわけさ。分かったかヨシコ」「分かるわけないニャン、そんなの知ろうとも思わないニャー」 明らかにザビエスの講釈で度肝を抜かれたトムが応えました。「約束します。2日以内に必ず届けます。ブッチャーを倒すことに繋がるなら、どんな厳しい要求にも協力を惜しみません」 クリサーラが静かに、しかしリンとした声を上げます。「トム、あなたがブッチャーを憎み全力で潰そうとする気持ちは理解します。長男のジョイ君は、赤膚族が地上に侵略したとき真っ先に駆けつけて、他の4名の兵士と共に突撃して亡くなりましたね」トム・ジェンダーの顔色が変わります。「なんで、初対面のあなたが、それを知っているのだ」「最初に断るべきでした。許してください。私は知的生物の考えを脳の中に侵入し読み取る能力があるのです。普段はしませんが地球表面に来て初めて話す人類なので、ついあなたの脳に入りました」「しかし、私はジョイのことなど今、考えていなかった。それをどうして」「潜在意識や強い思念、衝撃的な出来事などは記憶箱に貯蔵されているから、それを取り出します」「赤膚族にも通用しますか、もしそうならばブッチャーが次に何をするのか探ってください」「実はブッチャーとは、すでに会っていますよ。彼は脳の中に見えない遮断器があり、私が脳に侵入しようとすると、それを降ろすから探ることは出来ませんでした。ここにいるザビエスさんも同じです」「分かりました。私が奴を人一倍憎んでいるのは、間違いありませんから」 つづく
2019/04/12
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「皆さんを歓迎します。ただし人間の中にもブッチャー側にとりいって自分の利益や欲望を満足させるために、反抗するものを通報して殺すか収容所に送る奴らもいます。そういうスパイはいたるところにいますから、今日の会合も手短に行いましょう。まず、ブッチャーを倒す方法があれば教えてください」 ザビエスがクリサーラの顔を覗きながら応えます。「それは、まだ具体的にいえません。現在、研究開発中で成功するのかどうかも分からないからです。通常兵器とは異なりますが、私たちが地上に持ってきたものは、波動銃とカンタム銃の2種類です。どちらも火薬を爆発させ弾を発射する従来の銃とは違い、量子力学を応用したもので圧縮したエネルギーをターゲットに浴びせるものです。ロボット軍団が手にしている光線銃とは原理が異なりますが、似ています。しかし難点は発射するエネルギーの消耗が激しく、常に補充しなければなりません。あなた方が紹介してくれた倉庫で銃のメンテとエネルギーを製造しているところです。ブッチャーを倒すには周囲にいるロボットの護衛と、側近の赤膚族を排除しなければなりませんね」「ニューヨークにいるときには、重装備のAI搭載ロボット8体が見張っています。側近は3人だけで、常に世界中と交信できるスマホを3台持ち歩いています。これまで4回ほどブッチャー暗殺を試みましたが、いずれも失敗に終わっています。近くに接近しようにも半径50m内には強力なレーザー探知器が張り巡らされ、円の内部に侵入すると無条件でロボットに殺されます。探知器はブッチャーの体に他の装置と一緒に埋め込まれているのです。遠距離からの狙撃は2回実施して、1発が後頭部に命中したが、硬い岩石がわずかに飛び散っただけでした。奴は笑いながら狙撃手に光線銃を発射して殺しました。それから狙撃のチャンスはほとんどなくなりました。ブッチャーが移動するときには分厚い防弾車を手配し、遠くに出かける際に利用する飛行場では、二重三重の電気柵を設置しています。人間が使用するスマホなどは、全て盗聴し量子コンピューターで分析しているから抵抗派の情報は筒抜け状態です。だから暗殺計画を立案している段階でロボット軍団に急襲され壊滅に追い込まれるのです。ニューヨークで奴が立ち寄るところを調査し事前に爆弾を仕掛けようとしても、常時パトロールしている爆弾探知ロボットがいるので、困難ですよ」 ザビエスがトムの後頭部を見つめ、ため息をもらしました。 つづく
2019/04/09
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ニューヨークの地下通路は地下鉄や下水道が入り乱れ、太いパイプから細いものまで大中小の配管が蜘蛛の網状態になっています。4mもの巨人、ザビエスはバンバンジュウの首根っこに腹ばいになって、しがみついての移動方法しかできません。それでも前もって入手した地下通路と配管の図面をもとにして、直径1m40cm以上の大きさを持つ配管だけを選び進んだのです。一番楽なトンネルは地下鉄でしたが、ザビエスと衝突する恐れがあるので最初から外していました。地下の倉庫に着いた一行の姿を見た人間二人、トム・ジェンダーとメイ・パッセンジャーは、ザビエスが属する赤膚族を近くで見たことがあったから、それほど驚かなかったのです。 しかし爬虫類の顔を持つ恐竜と、体全体が白く発光している1m足らずの気品あふれる妖精、クリサーラ、首筋から頭の中央にかけて白い線があるアライグマに似たハクビシン、それに人間一人が同行するとは予想していなかったので驚がくの表情を浮かべていました。ザビエスが腰をかがめます。「まず地下社会からやって来たものを紹介します。こちらの女性は第一地下層で由緒あるヒスイ宮殿の女王、クリサーラさまです。隣にいるのがバンバンジュウです。地上では氷河期で恐竜が絶滅しましたが、地下では無数にある巨大洞窟の中で、その環境に適応し進化した恐竜たちが数多くいるのです。彼はその中でも小型化した恐竜ですが、二本足走行だけでなくトカゲのように素早く動けます。その隣にいるのが、地上動物のハクビシンで新之助といいます。彼は生田緑地というところから仲間たちと地下に来て、今回の騒動を解決しようと協力してもらっています。最後にあなたがた人間族と同じ生物で、日本武士を先祖に持つ桐山清十郎さんです。第二地下層にあったブッチャーのロボット生産工場を爆破するために、わざわざ地上からもう二人の仲間と来てくれました。我々3人と2匹は、いずれもブッチャーの野望を潰すために、はせ参じた貴重な仲間なのです」 まず身長1m90cmのトム・ジェンダーがそばに来てザビエスから順繰りに握手をします。バンバンジュウと新之助には、右前足付近を軽く叩いて親愛の情を表しました。 つづく
2019/04/06
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「いつレジスタンスの方々とはお会いしますか」「今晩3時にセントラルパークを見下ろすマンダリンオリエンタルの地下にある倉庫で会います」「私も同行します。今回はバンバンジュウと新之助さん、それに桐山さんも一緒に行ってください。その目的は、先方が間違いなく反ブッチャー派の人なのかを見極めるのと、ニューヨークの地理を知り尽くしている人からブッチャーをおびき寄せるに適した場所を教えてもらうことです。それにここではまだ、人間社会の現状を知るためのテレビ、スマホ、PCなどが電波の発生や受信で敵に居場所が分かるので使えません。ですからその人たちに現在の世界情勢を教えてもらえれば、助かります。なお大勢で外に出れば目立ちますから残りの方は次回まで我慢してください」「どうしてなの、ボクはまだ外の景色を一回も見ていないパッパ。新之助さんと一緒に行きたいな」 カメぱっぱが不満の声を上げました。「カメぱっぱさんには、ここで澤登さんたちと大事な仕事をしてもらいますよ」「なにパッパ」「近い将来、ブッチャーが地上からいなくなったときを想定して、地下だけでなく地上を含む地球全体で窮極の平和を築くには、どうしたら良いのかを考えてください。人間がこれまで犯した数多い過ちを繰り返さないために、具体的な手段を討議してくれませんか」「それは無理パッパ。ボクの頭では難しすぎるよ」「いえ、違います。あなたがたが生きていて他の生物と接触したときに、されて嫌なことや話してもらいたくないことなどを列挙してください。一番大切なのは、どんなに考えが違っても決して相手を非難し排除しないことが重要なのです。人間社会が失敗した大きな原因は、相手を尊重し敬う気持ちを忘れてしまったからです。民族、宗教、環境、文化、の違いで他をひぼう、中傷する単純な生物、それが人間ですよ。三人の前で申し訳ないが、地球上で愚かな生き物の代表です」 桐山清十郎が床を見つめます。「反論したいのは、やまやまでござるが、そのとおりなのでクリサーラさまのご意見を率直に認めまする。人間の深い業は簡単に代えられないので、情けないが、この先も愚かな行動を続けるのは間違いないと存じます。拙者たち動物連合がやってはいけないことを羅列するのは、そんなに困難ではありませぬ。カメぱっぱさんもぜひ頭をひねってくだされ」「それなら簡単パッパ。難しい言葉を並べずに誰もが理解できる言葉でね」 クリサーラが優しく微笑みます。「あなたがたは、これから人間の未来に繋がる大事な決まり事を集めた、憲章とやらを作るのです。本当の意味での人間憲章です。それを受け入れるか否かは人類が決めます。私たちは力で押し付ける手段をとりませんからね」 深夜3時になったころ、ザビエスの先導でマンダリンオリエンタルビルの地下に到着した桐山清十郎とバンバンジュウに新之助、それにクリサーラは、レジスタンスの2人と対面しました。 つづく
2019/04/03
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