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ザビエスが聞き分けのない子供をあやすように応えます。「ドールはリンゾウが無事に煙をたくのと、外に逃げ出すのを確認し、我々が兄上も運び去ったあと扉の外側に巨石を置く一連の動きがスムーズに完了するのをしっかりと見届けてほしい。もし臭いゴケが効かずにブッチャーが暴れたらオレたちが抑え込まなければならないのだ。そして後から来るブッチャーの部下たちが一緒に地下牢まで来ると、やっかいなことになるので、そいつらの位置を教えて欲しいのだ」「そうか、アタイがこの作戦の総司令官ってわけだ。ま、もっとももっとも、ほんじゃ、そろそろデルフミュームがブッチャーを連れて来るからから、さっさと隠れてーー、リンゾウは牢の中で待機する。モグンバとザビエスたちもとっとと隠れて」 モグンバが何か言い返そうとするのを目で制したザビエスは、うなずきます。「オレたち赤膚族は向こうにある岩石の陰に移動する。リンゾウにモグンバ、それにドールも気を引き締めて今回の作戦を成功させような」 ザビエスが仲間たちを引き連れ駆け出すのを横目で見たドールやリンゾウ、モグンバも所定の位置に隠れました。 ここが地上であれば、殺気を含む風がどこからともなく吹きつけ待機しているものたちの頬をひんやりと撫でるのでしょうが、あいにく地下では風は吹きません。その代わり第三地下層の下側に流れているマントルの川から立ち込める熱風がたまに押し寄せるのです。マントルがゆっくり一定のリズムで動いている間は比較的静かですが、地殻変動や中心部のコアが僅かな重力線の移動で流れが活発になると、熱風が短時間吹き荒れるのです。デルフミュームとブッチャーが地下牢の前に到着した、まさにそのときでした。 前途を暗示するかのような熱風が2人の頬をなぶると、デルフミュームが先に牢の中に入ります。ついて来るものと思っていたブッチャーが扉を足で閉めてあざ笑います。「兄貴も変わらないな、愚直な点は。このまま俺が鍵を閉めて立ち去れば以前の状態に戻るわけだ。どうする、ここに一生居るのも悪くないぞ」 落ち着いた表情でデルフミュームは応えました。「君の考えぐらい読めなくて、どうしますか。私を閉じ込めるなんてことはしませんよ。なぜなら寝技でも兄より強いのを証明したいのと、仮にデタラメだったとしてもクリサーラさまの考えた化学式を知りたいという誘惑には勝てませんよね」 地下牢の扉を一杯に開いたブッチャーは、腰を屈めて中に入りました。 つづく
2020/01/31
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ブッチャーとデルフミュームが地下牢に向かおうと立ち上がったとき、ザビエスとその仲間、モグンバとドールにリンゾウはすでに岩牢の前にいました。ザビエスが2匹のリスに声をかけます。「牢の奥で煙をたかないと外に流れ効果が薄くなるから、小さい体のドールかリンゾウに頼むしかないな」 ドールが返事をする前にリンゾウが前に出ました。「その役目、オレがやるよ。燃やすものと火をつけるものをおくれ」 肩にかついだナップザックから包みをとりだしたザビエスが腰を屈め下にいるリンゾウに手渡しました。「包みの中にサユリが作った薬品がある。油がしみ込んでいるから、そのまま燃やしていいそうだ。こっちが小動物でも使える簡単火付け器具で、どこでもいいから軽くこすれば着火する。これを使ってくれ」 モグンバがザビエスを見上げます。「その仕事はたしかオラがクリサーラさまから、言いつかったはずだが」「モグンバは目立つから外に居てくれないか、ブッチャーが近づいたら中にいるリンゾウに石を落として合図をする。デルフミュームさんと2人が牢に入った瞬間、煙をたくのだ。その前にわずかでも臭いがすれば敏感なブッチャーは逃げ出すからな。煙を吸った2人が倒れたら、デルフミュームさんは演技で倒れるだろうからご自分の足で外に出てもらう。それまでオレたちは岩陰に隠れている」 リンゾウが思い出したように口を開きます。「あいつの部下が2人いるな、当然、うしろからついて来る。そいつらはどうするよ」「任せろ、銃を奪って降伏を勧めるが、格闘になっても数でこっちが有利だ」「倒しても地下牢には、入れない」「あまり使いたくないが、赤膚族専用のドリル注射器とカプセル溶液をもっている。それを打つと10時間は逆らう気力を喪失させ、相手のいいなりになるのだ。ただしブッチャークラスには通用しない。強固な意志を持っている者には薬が効かないからやっかいなのよ。煙を吸ったブッチャーが眠ったら扉を閉め大きな石を4つほど運ぶ。24時間後に起きるブッチャーが扉に体当たりしてもビクともしない石を置くことにする」 ドールが不満げな表情をします。「ちょっとちょっと、アタイはなにをするのさっさ」 つづく
2020/01/28
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「兄貴の頭にその化学式が入っているなんて、信じられない」「私は君と違い創造力や総合的な能力は劣るが、記憶力は昔から自信があるのです。数万桁の数字500行は5分もあれば覚えられますから」「よし、兄貴が俺の部下になるのなら、これまでのことは水に流してやろう。その当てにならないデータを教えてくれるのが条件だがな」「メルトン・ブッチャー、昔と変わりませんね。自分の欲求を満たすためなら、兄弟、肉親にも嘘をつき思う通りにことを運ぶのは。私を生かそうなんて考えていませんよね。我が一族に君主はひとりで充分ですから。それよりもチャンスを一度だけくれませんか」「なんのチャンスだ」「ヒスイ宮殿の広間で君の配下である選り抜きの戦士と闘って、かろうじて1人目は倒しましたが、2人目は引き分けでした。君が兄の私を排除したい気持ちは理解できるので、直接私とサシで闘いませんか」「お前を殺したら、その頭にあるデータはどうなるのだ」「殺す前にやめて私がギブアップすれば、口頭で教えます」「それがインチキデータでも構わない。兄貴が負ければ完全に俺の配下になるという条件なら試合をしてやろう。どこでやる」「この近くで狭い檻といえば、1ヶ所しかないでしょう」「地下牢だな、俺が兄貴を閉じ込めた」「そうです、あそこなら邪魔は入りませんよ」「立って闘うスペースはないぞ」「寝技だけで勝負をつけませんか、それとも寝技は自信がないのかな」「ほざけ、わざわざ地下牢で闘うわけは他にもありそうだな、こざかしい真似をするなよ」「あなたなら、なにかやりそうですね。私と違うので」 しばらくにらみあう兄と弟、無言のまま同時に視線を避けました。クラリオタックスとサラリンパーラを呼び寄せたブッチャーは、小さい声で命令します。「これから地下牢に行くが、お前らはあとからついて来い。もし兄貴の仲間が現れたらすぐに殺せ。俺は必ず牢から出てきて、そのままヒスイ宮殿に戻るぞ」 つづく
2020/01/24
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興奮するブッチャーをなだめすかすように静かな声で話すデルフミュームは、突き出た岩に腰を掛けます。「なぜわが種族だけではなく、白肌族も人口が減っているのかを考えたことがありますか」「マントルから湧きだす硫化水素や亜硫酸など有害なガスを吸っているからな、それに太陽光線を浴びられないので、免疫力がいちじるしく低下しているせいだ」「もちろん、それも大きな要因ですが、出生率の大幅な低下は他になにが原因だと思いますか」「人工子宮の耐久性に問題があるのと、受胎率が年々落ちている。100歳以下の若者が少ないから300~400歳の精子では元気がない」「そうですね、それに人口が少ない弊害には、近親交配に近い劣性遺伝の確率が高まっているせいですよ」「だから俺は、遺伝子だけでなく染色体もできるだけ似ているタイプの人間族から選んだ者のデータで人工子宮を創り、赤膚族と知能指数の高い人間族7対3をブレンドした精子を製造したのだ。新生児を誕生させるのには成功したが、1歳未満の生存率は異常に低い。それさえ解決すれば我が種族の滅亡は、免れるだろう」「白肌族はなぜ女系一族になり、私たちと同様に数が減っていると思いますか」「あっちも平均寿命は約500年だろう。たしか3000年前から保冷貯蔵した精子を毎年取り出し、100歳未満の女に受精させているが、受胎率はかなり低いみたいだな」「そうです、やっと本題に入ったようですね。女王クリサーラさまは、受胎率を上げる物質と免疫性を向上させるものを創り出しました」「嘘だ、はったりをいうな、クリサーラの能力は買うが、そこまでの力はない。ヒスイ宮殿を占領したとき、役に立つ資料でもあるのかと、片っ端から家探ししたがな、なにもでてこなかった」「白肌族はAIとか量子コンピュータに頼りません。彼女たちの頭脳がそれらを遥かにりょうがするのですからね。ただし脳の容量は限られているので、たまにはデータなどをはきだす必要があるのです。今回はそれらの膨大な化学式を私にゆだねてくれたのです」 つづく
2020/01/21
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デルフミュームが大げさに両手を広げます。「私の命は風前の灯というわけですね、それでは端的にいわないと。まず赤膚族の人口が急激に減っている現状を私も憂慮しています。その解決策として君は人間族の遺伝子データから我々に近いものを収集しました。研究室で12台もの量子コンピュータを駆使し人工精子と卵子を創り出し、数千人の母体を利用、赤膚族の新生児を誕生させたのです。しかし誕生から1歳までの間にその死亡率は約84%にも及び4か月以内に死亡していますね。その理由は成長促進剤の影響と骨格形成時のアンバランスなホルモンが要因だということも分かっています。それでも成長剤を投与しないと人間族の成育期間よりもかなり遅くなり、急速な人口減少を止められません。ここまでは君の考えと同じでしょうか」 不快感を隠そうともせずブッチャーは兄の顔を凝視しています。「続けろ」「人間族の平均的な妊娠期間は約40週で、もしそれ以前、たとえば22~23週で産まれると約450gしかなく生存の可能性は50%を下回る。助かったとしても肺疾患や脳性麻痺など多くの重い障害が残るのです。その解決策はただひとつ、早産児の遺伝子を調べ、それに適合した人工子宮の中で、へその緒に繋いだ機器が血液中に酸素を送り込み、二酸化炭素を取り除く機能をスピードアップする。それから濃縮した栄養素を与えれば成長剤投与の副作用も少なくて済むので未熟児出産のデミリットは解消できる・・・」「待て、その程度の話なら聞く必要はない。俺が必要としているのは、人工子宮と人工胎盤の拒否反応を抑え妊娠期間を短くすると同時に強制出産した後の成長時間も大幅に短縮する物質だ。これまでの促進剤は副作用が多すぎるからな。もし、その2点が解決すれば赤膚族の滅亡は免れるのだ」「ブッチャー、聞いてくれ、異物を排除する免疫力、すなわち疾病や感染症に対して抵抗力を獲得する現象、とくに微生物など異種の抗原が体内への侵入に対しリンパ球、マクロファージなどが働き特異的な抗体を形成し抗原の作用を排除、抑制する細胞性免疫と体液性免疫があるのは知っていますね」「馬鹿にするな、兄貴の何倍も俺は研究しAIや量子コンピュータを活用して、免疫物質をつくり人間族の体を実験台にし、ようやく量産化に成功した。確かに1歳未満の生存率は低いが、これからの研究でクリアするつもりだ。お前ごときに免疫学のレクチャーを受けるつもりはない」 つづく
2020/01/18
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ザビエスの左肩に乗っていたドールが飛び降りると喜悦満面で迎えます。「やっぱ、あんたは凄いネズミやねんねん、どこもケガしてないよね」 イワチュウもドールの右手と軽いハイタッチで応えます。「もちろん大丈夫、デルフミュームさんに報告します。奴らはまだ地下牢のそばで休んでいるので行動を起こすなら今がチャンスかと存じます」 デルフミュームもイワチュウにねぎらいの言葉をかけました。「ごくろうさまでした。あなたの努力を無にしないために、これからは私たちが、がんばる番ですね。ここからは通路の天井が低いので腹ばいで進みましょう」 ザビエスが小さな声をだします。「ブッチャーたちに近づいた後の計画を教えてください」「とびっきり面白い計画を考えようとしたのですが・・ダメでした。ぶっつけ本番をお楽しみに、それでは行きましょうか」 約17分後、ブッチャーが寝ている高台に到着した一行は、デルフミュームを除き巨石の陰に隠れます。ゆっくり近づくデルフミュームを最初に気づいたクラリオタックスが光線銃を向けます。「それ以上近づくと撃つぞ、ブッチャーさまの兄だろうと容赦しない」デルフミュームは落ち着いた表情を浮かべます。「そう、緊張するな、ここに来た理由をいうから弟を起こしてくれないか、私は武器は持っていない」 ブッチャーのゴツゴツした背中をサラリンパーラが何回も叩き耳元で叫びます。「起きてくださいブッチャーさま、デルフミュームが来ています」 岩肌のまぶたが薄っすらと開き細い目が光を放ちました。そして不機嫌な声が圧縮された空気となってもれます。「ひとりか?」「後ろの方は暗くて見えませんが、目の前にはひとりだけです」 サラリンパーラの手を借りて身を起こしたブッチャーは、兄を見つめます。「どうした、俺の部下になるとでも言いに来たか、それとも・・殺しに来たのか」「どちらでもない、君が一番興味のある話とその証拠を持参した」「なんで、それが今なのだ?大地震で多くの生きものがおびえている最中を選ぶ理由はなんなのだ」「平常時だと発見次第、私を殺すだろうから、この混乱を利用したのだ。君を地上から地下へ戻すのもあきらめたし、しょせん私にそんな力はないでしょう」「よし、話してみろ、ただし話の途中でも俺の気が変わったら殺す。クラリオタックス、こいつの頭に銃を向けていろ、合図をしたらちゅうちょせず撃て。サラリンパーラは、もしそいつの仲間が現れたら、撃て、さあ、いつまでお前のくだらない話に付き合えるか楽しみだ」 つづく
2020/01/14
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イワチュウはきぜんたる態度をとります。「わからないか、側近の者が通路を開通する最後の手柄をブッチャーさまに見せたい心理を」「そういうことなら理解できます。感情のある生命体はほめられて、ほうびを貰えれば嬉しい気分になるのを学習したことがあるので了解しました。それではスイッチを切ります。他の3体にも命令するのでご安心を」 ゴツゴツした岩場から足場が平らな場所に移動したロボット4体は、首の後ろにあるスイッチを切りました。自分ではスイッチを入れられないので他の者が作動しない限り静止状態は続くのです。イワチュウの苦肉の策は上手くいったようですが、それでも長時間、戻らないとクラリオタックスに疑われるからその兼ね合いが難しいのです。その杞憂は40分後に判明しました。 クラリオタックスの部下、サラリンパーラがイワチュウのいるところまで、ほふく前進をして様子を見に来たのです。岩ネズミを発見すると怒鳴りました。「こら、なんでこんなところで休んでいるのだ、後わずかな距離なのに。ロボットのスイッチを入れて動かせ」 ここでもイワチュウは慌てません。「ロボット4体の充電量が少なくなったのでAI型が率先してスイッチを切りました。クラリオタックスさまの次の命令があれば速やかに行動できるようにと、判断したようです。今、切ったばかりでこれから私が報告に走ろうとしたところです」「よし、お前の方が早いから先に行って伝えてくれ、俺も後を追いかけるぞ」 こうなるとイワチュウもごまかしがきかないので、ブッチャーたちがいる方向に走り出します。10分もかからず到着すると事のてんまつをクラリオタックスに報告します。その8分後に到着したサラリンパーラからも同じ報告を受けたクラリオタックスは、イビキをかいて寝ているブッチャーの姿を見つめました。 このお方が地球の実質的な君主で、過去の歴史ではあり得ない壮大な権力を握った人のそばにいられる幸せを感じるのです。心身ともお疲れのようだから、まだ起こすのはやめよう。あと1時間程度お休みになれば疲れもとれるから、このままにしておこうと判断しました。その判断がブッチャーのこれからの人生を大きく左右することになろうとは、まだわからなかったのです。 イワチュウの獅子奮迅の活躍でブッチャーたちを<地下牢近くに留める作戦>は見事に成功しました。クラリオタックスがなぜかブッチャーを起こさないのを見届けると、本隊に合流しようと静かに離れます。岩ネズミ特有の速さで、止まっている<オシノケ>が置いてある場所に着くと、ちょうどその時、ザビエスを先頭に本隊が到着しました。 つづく
2020/01/11
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ザビエスは喜色満面です。「長くて立派な体毛を400本も抜いて水に浸しマスクを作れば、煙を吸わなくてすむ、ここはモグンバに協力してもらおう」 全身を灰色のロン毛で覆っている猿人が困惑の表情を浮かべますが、あきらめたのか一歩前にでました。「オラの大事な毛が役にたつなら、いいぞ」 どういう訳かドールがしゃしゃり出て毛作りマスク制作の手順を説明します。「いいかなかな、デルフミュームの鼻は顔の造作に比べれば、かなり低いからから、鼻の穴だけを覆って他は紐代わりにすればいいけんねん、体毛は手で何回もこより状にするのよ~ん、それを何重にも交差してから、地下水につけるの」 デルフミュームも笑顔になります。「私の鼻が低いのは余計ですが、ドールちゃんのいう通りにしましょう」 ザビエスとその仲間がモグンバを囲み遠慮会釈もなく体毛をむしり採りはじめました。「もう少し、やさしく抜いてあげたらたらいいじゃーん」 ドールが珍しく気遣いをみせます。それに対しザビエスが応えます。「時間がない、我慢してくれ」 4分24秒後、平らな岩盤の上に、こんもりと500本以上の長い毛が乗っています。ドールとリンゾウ、モグンバ、それにデルフミュームが呼び寄せ、きゅうきょ駆けつけた赤膚族5人とザビエスをいれ7人が、せっせと灰色の長い毛をこよりにして、大きな手でくるくる回している姿はやや異様な光景ですが、本人たちはいたって真剣です。これからの一挙手一投足が地下だけでなく地球全体の未来に大きくかかわることを承知していたからです。第二地下層にいる本隊が第三地下層に向かって出発するのは、マスク作り作戦が 終了してからわずか2分後でした。 イワチュウがクラリオタックスの命で通路拡張機<オシノケ>をロボット4体に運転させて第三地下層にいるブッチャーたちのすぐ近くに来たのも、ちょうどその頃です。あまりにも早く到着し奴らが宮殿に戻れば、今回の計画は失敗なので時間をできるだけ稼ぎたいのですが、遅すぎると叱責を受けるのは間違いありません。悩みに悩んでだした結論は、運転するAIロボットのチーフに次のことをささやいたのです。「ブッチャーさまも君たちの仕事ぶりに大満足している。もう少しで赤膚族が立って走れる空間を確保できるが、ここで次の命令を伝える。ここからはブッチャーさまの部下たちが岩石をどかすから、君たちは次の指令にそなえて電気量を節約するために、ここで休めということだ」 AI内蔵のロボットがイワチュウを見つめました。「それはブッチャーさま直々の命令ですか」「いや、側近のクラリオタックスがボクに命令した」「あとわずかで大きな通路が開通するのに、その直前で中止して休めというのは不自然に思いますが・・・」 つづく
2020/01/08
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イワチュウが辿り着いたドーム群とテント村は、そのほとんどが落石で押しつぶされている荒涼たる風景になっています。その中でかろうじてN4号の倉庫は倒れずにあったので跳び込みました。4本足が3本になって壊れている巨大な椅子の陰で静止し考えます。クラリオタックスの命令を忠実に行い、予想よりも<オシノケ>の性能が優れていて、ブッチャーたちが駆け足で通れる道を造れば、その分、宮殿に戻る時間が短縮されるのです。 それだけは絶対に避けたいので運転するAI型ロボットにスローペースで作業を行うように指令すれば、上級命令者のクラリオタックスに告げ口されとんだやぶ蛇になるのです。ここはなるようになれとチーフロボットのところに行き首の後ろにあるスイッチを入れました。 それから43分後、早く作業が進むのを心配したイワチュウの考えは杞憂ですみます。通路拡張機<オシノケ>を運転する4体のロボットがいくら手際よく動かしても1トン以上の巨石をどかすのには、かなりの時間を費やしました。 進行方向、前面についている3本の大型回転式ドリルで巨石を粉砕して前進するからノロノロと動きは遅かったのです。それでも工場跡地から約5時間かかって第三地下層入口付近に到達しました。 第二地下層にいる<追撃隊>のデルフミューム、ザビエスと味方の赤膚族5人、総勢7人とドールとリンゾウ、モグンバが転がっている岩の間を歩いています。先頭を歩いているモグンバにデルフミュームがストップをかけました。「弟のそばに行って臭いゴケを燃やすのはいいが、その場所が問題です。煙を集中して吸わせるには狭い洞窟などが効果的ですが、モグンバにはあてがあるのですか」「いや、出たとこ勝負でやんす」「それでは危険です。やはり私が閉じ込められたいた岩牢が一番最適でしょう。それには、どうやって彼をそこまでおびき寄せるかです」 ザビエスが思案に暮れた顔をします。「ブッチャーが警戒せずに岩牢まで歩いて行く方法を考えねばなりませんね」「私がおとりになって誘いだすしかないようです。彼のことですから部下を偵察にだし、安全を確保してからでないと動かないでしょう。私が岩牢まで誘導するのがベストかも知れません」「クリサーラさまの指令をお忘れですか、昏睡状態のあなたを宮殿まで運ぶのは大変だから煙を吸うのは、ブッチャーとその配下の者だけにしろとね」「ザビエス、虎穴に入らずんば虎子を得ずで、私が倒れるのはやむを得ません。弟と一緒に地下牢で熟睡しています」「なにを呑気なことをいっているのですか、寝たあとは出られないように扉の外に巨石を置きますよ」 ドールが素っ頓狂な声を上げました。「2人とも頭がイイんだから~ん、からん、デルフミュームだけが煙を吸わない方法を考えなよなよ、なにか絶対にあるはずよ~ん」 ザビエスがモグンバの身体を舐めるように見つめて、笑いを浮かべます。「そうか、あったぞ・・・」 つづく 💛💛💛謹賀新年💛💛💛 世界情勢は一段ときな臭くなりました。自国だけの繁栄を声高に連呼する 政治家とそれを支持する国民、資源確保のための領土、領海紛争、 一握りの富裕層が世界の富を独占する構図と資本主義社会の矛盾、 思想や宗教も他を認めず、排除しようとする権力者。 メルトン・ブッチャーが地上を侵略し全世界に発した演説の中で 記憶に残る言葉があります。「人間族は科学を進歩させたが、争いを繰り 返しこれからも止むことはない。むしろ文明や政治は急速に退化している のだ」 人間族の良識を信じ2020年度が2019年よりも少しでも良い 年になるよう祈ります。 by PLUTO
2020/01/05
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