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自分だけがさっさと浮上するのだと思ったカメぱっぱは、ザビエスを怒鳴り散らします。「・・ザビエス、このずるがしこいウドの大木め」「ウドってなんだ、お前が海面へ無事に上昇するまで一緒にいてやるよ、それでいいか」「うーん、ウッウッウドの大木は、栄養がある立派な木で、賢い人の例えなのパッパ、さあ、海中に出るからね」 深海探査艇の下側の床部分、マンホールのふたのようなものが、緊急脱出用の出口で、それを回し外すと外に出られるのです。探査艇の中は圧力が高いから海水が中に浸水することはありません。人類が航行させている大型タンカーなどが沈没したときに、船底に閉じ込められ、何日も生きていられるのは、船内の圧力が浸水を食い止めているのと、大量の酸素があるからです。ただしその酸素が無くなる前に救出しなければならないのです。 狭い探査艇から外に出たザビエスは、ゴツゴツした海底の岩場に腰を降ろします。地上で人工のエラを取り付ける手術を受けたから潜水器具は装着していません。周りにいる色鮮やかな小魚を見ていると、カメぱっぱもやって来ました。海中での会話は出来ないので簡単なジェスチャーで意志の疎通をはかります。先にカメぱっぱがドーム下側にある入口らしきものに入り込み、少し時間をおいてザビエスも続くのを確認しました。もしカメぱっぱが誰かに発見されたら、すぐに逃げ出すが、それでも捕まったときにはザビエスが強引に助け出さずに様子を見るようにします。4mもの巨人が大暴れすれば海底人に警戒感を与え、人類に報復される恐れがあるからです。極力、摩擦を避け、隠密行動に徹するのを指サインで示し合いました。 水中にある右側に曲がりくねった長い渡り廊下をゆっくりと、カメぱっぱは進みます。やや勾配のきついスロープを上がると、いつの間にか海水がなくなり地上と同じ空気を肺一杯に吸い込みました。後ろを振り返るとほふく前進でザビエスが着いてきます。もっと距離を開けるように手で示し進むと、急に視界が広がりました。地上でいう階段の踊り場のようなところに出ます。 強化プラスチック製の階段がドームの内側壁面に張りめぐらされ、蜘蛛の巣状態になっているのが見えました。今しがた歩いて来た半径1m幅の円形通路が同じ階の至る所にあるのも分かります。ドーム全体の大きさから判断すると、下から6段目程度でしょうか。上を見上げるとそれの30段以上、300階くらいの階段があります。透明板の広い通路が水平状に取り付けられ、その上下には数多くの階段が一定の幅を保って並んでいました。 カメぱっぱは、まだ気が付きませんが、もっと上、15段目の高さまで行くとドーム内部全体と、半透明の円柱形に収められた街の景観が見渡せるのです。 ドーム基地は海中に接した外側と、内側はカメぱっぱたちが昇って来たところで水圧に耐える設計になっています。無数の細い階段を四方八方に取り付けているのは、人間が高層ビルを建てるときに細い鉄筋を外と内側に張り巡らし耐震性能を上げるのと似ていました。ドームの外側部分は柔らかい素材で出来ていて、どう猛な深海ザメが鋭い歯で突いてもびくともしません。黒っぽい色の外側とグレー色の内側の間には、粘着質のゼリー状物質が注入されています。 万が一、外側の部分が破れて海水が侵入しても、瞬時にその穴をふさいで固まるのです。137年前、ドーム基地から南西12キロにある海底火山が中程度の爆発を起こしました。1000度近い高熱のマントルとかんらん岩が大量に噴き出し、その一部はドームにも激突しましたが、わずか7か所で小さな被害が出た程度で済みました。 人類の科学より数百年も進歩している総合技術は、まだまだあります。 つづく
2021/01/29
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海底人のクジラ型潜水艦にフックを引っかけ、なんなくドーム基地までやって来た探査艇、中に居るカメぱっぱとザビエスは、どのタイミングでフックを外して離れるか相談しています。「このままだと見つかるから、そろそろ離れようパッパ」「潜水艦が接近している場所は、ドームの中から見えるよう透明になっているな。よし、今、切り離そう」 右下にあるレバーを引きフックを外してドームの下側に舵をとりました。「それにしてもデカイな、こんなものが海底にあるなんて、地上に連絡を入れこの位置を知らせてやろう」 カメぱっぱが大声を出します。「ダメ、水中電話はすぐにバレる」「もう一つのやり方がある。レーザーを使って水中でインターネットの無線接続を利用するシステムで<Aqua-Fi>だ。ただこの深度では無理だな。地上に知らせるのは、海面近くに浮上してからにしよう」「潜水艦が止まっているところ以外は、黒っぽい布みたいなものに覆われているからそばに行っても大丈夫パッパ」「周遊している魚たちを見ていると、なんか奇妙に感じる」「どんな風に」「うまい例えが浮かばないが、地上で借りて観たDVDで牛や馬を放し飼いにしている大きな牧場を思い出した。ここは水中牧場という感じだ。見ろよ、大きな魚や小さいのが自由に泳いでいるのは、多分、餌付けしているからだろう。それにしてもファンタスティックな光景だな」「ボクもこんなに魚がいるのを見るのは、初めてパッパ。そろそろ海底に着地するよ」 ドームの壁面がまじかに見えるフラットな海底に静かに着いた探査艇の窓から海中を見回す一人と一匹。ドームの上層部から下を照らすライトが揺れ動き、神秘で幻想的な景色に見とれていました。 ようやくカメぱっぱがザビエスに話しかけます。「さっきドームに接岸した潜水艦とは別に入口があるはずだから、この周りを一周して探してみようパッパ」 ほとんど音が出ない内蔵型スクリューを回し探査艇は動きだします。ただしこの動力は小型バッテリーを使用しているので、せいぜい3時間が限度です。動き出して4分16秒後、上からの照明が届かない闇が現れました。 うつ伏せ状態で寝転んでいるザビエスにカメぱっぱがつぶやきます。「あそこのドームの下側、へこんだ部分をよく見て、暗いけど他に比べ、やや色が違うパッパ。もっとそばに寄ってくれる」 ザビエスが手を伸ばし左に舵をとり、探査艇はドームに接近しました。カメぱっぱが指摘したとおり、直径2m程度の穴が開いていて中に入れるかもしれません。「どうする、この探査艇で入るのは無理だ。ここに繋いで俺たちはいったん海中に出て、あの中に入ろうか」「ザビエスは目立つから、行くのはボクだけにするよ」「いや、ここまで来てカメぱっぱだけを行かせる訳にはいかない。もし見つかれば闘って逃げるだけさ」「ここまで戻れないときもあるよ」「海中を泳いで逃げるよ」「急に上昇すると潜水病になるパッパ」「DCSだな。高圧状態にいると多くの窒素が体内に取り込まれる。急激な減圧で血液中に溶け込んだ窒素が気泡化して生じる症状をいう」「なんで地底人が知っているの、それも人間族の電子辞典で覚えたね。それを防止る方法はどうするの」「ゆっくり上昇するか、上昇する途中で何回もそこに留まり窒素の気泡化を防げばいい」「そんな事態になったらザビエスの真似をするパッパ」「・・俺は潜水病にはならない。なぜならもともと体内にある窒素の量が少ないからな。だから海面まで急上昇する。カメぱっぱは、ゆっくりと来ればいい」 つづく
2021/01/25
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深海探査艇に乗り込んだカメぱっぱとザビエスが、ボソボソ話をしています。「手術のあと、プールで潜水訓練をしたよね、ザビエスの潜っている時間はどのくらいパッパ」「潜るというよりもプールの底で寝そべっていただけさ。岩石人間は海の中では沈没船と同じで沈むだけよ。時間にして2時間だな。それ以上でも可能だが医者が止めたので上がった」「水の中で呼吸は辛くなかった」「多少、ハイになったが変化はなかったな。カメぱっぱはどうだった」「ボクは元々水の中でも泳げたからね、呼吸さえできれば外と変わらないパッパ。人間の潜水艦が動き出したけど、あれ、その下にいた大型クジラが急に潜り始めたよ」「なんか奇妙だ。クジラのスピードよりもかなり速いぞ、あれでは潜水艦はついていけない」「今のうちに物干しざおを出し、クジラの尾っぽにフックを引っかけようか」「よし、早くしよう。それでいい、もっと伸ばせ、上手く引っかけたがとんでもないスピードだ。こんなおもちゃのような乗り物はバラバラになるぞ」 深海探査艇を急きょ改造した人間スタッフへ、カメぱっぱが最後に注文をつけたのが役に立ちました。潜水艦と違って速度が出ない探査艇の先端部分に折り畳み式の長い棒を取り付けるように頼んだのです。16mの長さにもなりその先っぽに大型の釣り針をつけてもらったのです。それは相手に引っ掛かるとフックが外れこちら側のレバーで操作しないと外れません。棒の長さを調整すれば対象物にくっつくのも可能です。その釣り針がクジラの尾っぽの上にひっ掛かり、真っ黒な深海に向かってグイグイと、探査艇は引っ張られていました。「ザビエスが人間に借りた海洋生物のDVDを観たが、おかしいパッパ。後ろの尾ひれはたまに左右に動くが、胴体などは一切動かないよ。それに潜っている時間も長すぎる」「人間族の電子辞典によると・・」「そんなのまでザビエスは覚えているの」「私の脳は1回でも目に入れると、記憶として貯めこむのだ。それが辛いときもある」「どんなときに」「自分の創造力が薄汚れたように感じることがある。何かの拍子に素晴らしいアイデアを思いついても、私の脳が拒否するときがあるのだ。そのアイデアはすでにどこの誰それが発表しているから、お前は2番目だというふうに」「記憶を貯めこむって辛い部分もあるんだね、ところで目の前の生物らしきものは何者か教えてパッパ」「人間族と同じで哺乳類に見えるな。見かけはマッコウクジラで水深1000mぐらいは約10分で楽に潜れる。もうすでにけっこう時間は経っているが、あの種族は平均潜水時間、約1時間だ。別な種族だがアカボウクジラで3時間42分潜っていた記録があるけど・・あれはマッコウクジラに似せている。それに・・」「それに動きがおかしいパッパ」「そうだ、あれは生き物ではない。クジラに似せた潜水艦だ」「海軍司令部に伝えようか」「いや、あとにしよう。舵の操作を間違えると、とんでもない方に飛ばされるぞ」「もっとあいつにくっつけようか」「振動探知器でバレる恐れがあるから、多少は距離を保とう」 海底人のクジラ型潜水艦、尾ひれ上部に1mの至近距離でくっついた探査艇に乗るカメぱっぱと赤膚族のザビエスは、そのまま深海に向かいます。 人間の潜水艦が追跡をすぐに諦めたのを尻目に動力も使わず、ちゃっかりと潜行していました。海底人の高度な技術で開発した水中レーダーも、自艦の真後ろに密着している異物までは見つけられません。 つづく
2021/01/21
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ワシントン郊外にある海軍司令部にいたトマソン大統領とそのスタッフは、人工衛星から送られてきた鮮明な映像を見つめています。指定された時間に水面が持ち上がり、水の壁が出来上がるのは、昔観たモーゼの<十戒>という映画の中で海が(紅海)真っ二つに割れチャールトン・ヘストンが演ずるモーゼが脱出に成功する大スペクタルシーンを大統領は思い出しました。 カメラが引くと特定の水域だけが円柱形に持ち上がり、周囲の海域は波もたっていないのが映しだされました。人間の科学技術では、とうてい実現不可能なものを目の前で見せられた人たちは、改めて海底人の高度な科学力に恐れおののきます。 約8分間のデモは終了し太平洋の海域は、津波の被害も生じないで元の穏やかな海面に戻りました。海底人のクジラ型潜水艦は、デモが終了すると同時に重力を制御する光を放射するアンテナや装置一式をすぐに回収し、あわただしく去るとドーム基地に向かって潜行を開始します。近くにいた原子力潜水艦2艘が追尾しますが、その時の司令部との交信記録を巻き戻しましょう。「こちら4号、大きなクジラが考えられないスピードで潜行しています。後を追うにも、あの速度では無理かもしれません」「それは本物のクジラですか」「かすかに生体反応はキャッチしますが、あれは生き物ではないと思います」「海底人がカモフラージュした潜水艦だとしたら、追い付くのは無理でも接近してください」「4号、了解です。パワーを最大にして追います」「2号、応答せよ。どの海域にいるのか報告してください」「こちら2号、デモが行われた場所から南西5キロにいるので、海底人の潜水艦を追尾するのは困難です」「至急、4号が潜行している海上まで行って待機するように」「2号、了解。指定場所に全速力で向かいます」 2分11秒後、4号からあわただしい声が司令部に届きます。「4号から司令部に報告します。目標物は音波探知機では捉えられず、南東方向に45度の角度で急速潜行中。深度800mを過ぎました」「貴艦の潜水耐久深度をオーバーしているので、速やかに浮上することを命令する。海上にいる2号と合流し次の命令があるまで待機せよ」「4号、了解しました」 海軍司令部と各潜水艦の艦長と交信している音声をダイレクトに聞いていた大統領、国防長官のロバート・マティオに尋ねます。「深く潜れる深海探査艇は、今、どのあたりにいますか」「大統領、赤膚族のザビエスさんを乗船させるので、多少改造するのに手間がかかりましたが、デモの海域に出動させるのに間に合いました。一緒に乗り込んだカメぱっぱさんと我が軍の潜水艦近くにいるはずです。・・何?・・そうか。大統領、今しがた潜水艦4号から連絡が入り、ザビエスさんたちを乗せた探査艇がクジラの後ろについて追いかけているそうです」「確か、あの連中だけが取り急ぎ、人工エラをつける手術を受けたはずですね」「そうです。ただひとつの探査艇が海底人の基地を探し出す、まさか切り札になるとは」「彼らが素潜りで海中に潜っていられる時間は、どの程度ですか」「多少の誤差はありますが、約120分と聞いています」「水圧に耐えられる深度は」「1500mが限度かと存じます。岩石人間のザビエスさんは、あまり気にしないでしょうが」「どの辺に海底人の基地があるのかだけでも見つければ、大金星ですね。彼らの活躍に期待しましょう」 大統領がモニターで海面上昇のデモを見て、国防長官と話をしていた時間の10分前にさかのぼります。原子力潜水艦の下にあった大きな岩陰に隠れていた深海探査艇の中を覗きましょうか。 つづく
2021/01/17
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桟橋といっても地上のものとは違います。巨大なドームの北東、下側に潜水艦4艘が海中に係留され、その1艘がドームに密着していました。ドームの材質は黒っぽい素材ですが、係留地全体は外が見渡せるように透明なもので覆われています。 クジラ型潜水艦の左舷中央が開かれ、海底人が数人出入りしています。 この場面を説明しますと、ふたをしたガラスの容器を水の中に沈めます。 左横に穴を開けたとして、その部分を小さなコップで強く押し当てれば水は入りません。開閉される潜水艦の扉はスライド式で急速で閉めれば、海水は浸水しないしドームも同じ理屈です。ドーム内と潜水艦内の空気圧は一定の基準値で統一していますから問題はないのです。 闇に包まれた深海を潜航するには、人間が使用している音波探知機よりも高度な技術を用いています。それは半径60キロ以内にある物体を瞬時に捕らえ、それが何であるのかを分析解明します。クジラの目に当たる左右2つの孔から前方を照らすサーチライトは、10cm幅の狭い光線にもなり、距離にして200m先まで届きますが、通常は10m幅の円形でせいぜい数メートル先を明るくする程度でした。 今回デモを行う海域までは、約6時間20分で到着する予定です。この潜水艦の水中速度は約40ノットという驚異的なスピードです。(1ノットは1時間に1852mの距離を走る単位、1海里ともいう。40ノット=7408m=約74㎞)もし潜航中に人間が乗る潜水艦が遭遇しても、そのスピードに追い付けず見失うでしょう。海上にいる護衛艦や駆逐艦、警備艇からの水中探知器で捕らえるのは、かなり困難で、仮に補足したとしても微量な生体反応が返ってくるだけです。 なお人類が使用する原子力潜水艦は、水中速度で約20ノットがマキシムで潜水深度は普通約610m程度です。 太平洋の指定された海域に到着したクジラ型潜水艦は、長い2本のアームを伸ばし<重力制御装置>を海底に設置する準備に入りました。その様子をモニターで見つめていたボントスは、指示をだします。「海底地形がもっとフラットな場所を探せ。そこでは発射するパラボナ・アンテナの安定が悪いからな。もっと右側、そこでいいだろう。固定したら他の準備をしてくれ。近くの水域に人間の船や潜水艦が近づいたら、すぐに報告しろ」 潜水艦の艦長が返事をしました。「司令官、現在は近くにおりません。もし接近してきたらどうしますか」「相手の艦船速度、武器装備内容で判断し攻撃を命令する。<マザー>の分析した報告では3艘の原子力潜水艦が出航しているので、貴艦の2キロ以内にきたら撃沈するのを許可する。まだ我々の基地がどこにあるのか知られる訳にはいかないからな」「了解しました」 その交信から32分21秒後、人間に前もって伝えていた指定時間に海面上昇のデモは行われました。北緯11度10分42秒、西経15時58分54秒の太平洋海域で1キロ四方に渡り3m海面が持ち上がったのです。 つづく
2021/01/13
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海底王国は、カスマヨル公国とコルビース王国の連合で出来ていました。王国の人口はカスマヨル公国が4891人、コルビース王国が2480人、合計で7371人と数は少ないのです。しかし人類と違いドーム基地内での適正人口は<自我>を確立したスーパーコンピュータ「マザー」が常に計算して調整していました。生殖機能が無くなった海底人は先端化学で作られた卵子と精子を結合し工場で生産するシステムを約1200年前に構築していたのです。 大気汚染と海洋汚染を長年、放置していた人類に鉄槌を下す意味で実現不可能な要求を突きつけました。それは王国の指導者、ボントス・スミノエ・カナロア(191歳)が人類統治を正式に決断した最初のステップです。なお海底人の平均寿命は、約280歳です。カスマヨル公国の女王、バルバラ・チュズカミッテは、314歳の高齢なので皇女エリーゼ(143歳)が政務についていますが、ボントスとの考えの違いは、時間が経つにつれ溝が深くなりました。 人類を含む地球全体を統治すれば窮極的な平和が構築できる、と考えたボントスは海底王国の政治部中枢を掌握し着々、準備を整えています。 海底王国だけの平和を維持すれば、それで十分との気持ちを持つエリーゼは、反ボントス派の3名と意見調整をしながらも、表立ってはボントスに逆らわない行動をとるのです。ドーム基地の空気、温度、食料、エネルギーの供給と確保などをすべて管理しているスーパーコンピュータ<マザー>は自我を確立し海底人に説教するほど進化していました。正直に自分の考えをぶつけたエリーゼにマザーは、全面的な協力を申し入れ、人類の最新情報を欲しがるボントスに湾曲したものを提供します。 海底王国が人類に告知したデモンストレーションの当日を迎えました。指定した水域の海面を上昇させる技術は、人間の科学ではとうてい考えられません。それを人類よりも400年以上進んでいる科学で海底人はたやすく行うのです。その基本原理はいかなる固体、液体、気体の持つ重力を制御する画期的なもので<重力制御装置>と名付けられたシステムは、ターゲットに放たれた光線が目標物に当たると、設定した重量の数値に変化します。物体だけでなく液体も同じく変わりますが、照射してから制御できる時間は約40分で目標物までの有効距離は、約300mでした。ただし固体と違い海水のような液体は、照射時間を長くしないと効果が薄れるのです。 重力を変化させるシステム・セットは、小さなパラボナ・アンテナと精密部品が詰まっている70㎝四方の箱だけでいたって簡単なものでした。このセットをもっと簡素化して20㎝四方に収め、海底王国の中を走行する車両に取り付けると、空中浮遊ができるのです。 大型クジラに似せた潜水艦は、人間が近くで見てもクジラにしか見えないほど精巧なものでした。後ろにあるヒレは左右に動きますが、動力は下腹部下側にある2つの孔から強力な水流を発生させます。ボディは生体反応がでる特殊な材料で作られていますから、人間が使用する音波探知機などでは発見されないでしょう。 14人の海底人乗務員がドーム北側にある桟橋から乗り込むのを、ボントスは司令室の大型モニターで見つめていました。 つづく
2021/01/09
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ボントスはそのうち政治に興味を持つようになって、徐々にエリーゼから遠ざかるようになりました。エリーゼも海洋生物を専攻し食用魚の養殖やドーム周辺での地形探査を積極的に行い、政治の世界からは一歩引いたのです。 互いの価値観が違うと分かるようになったのは、ボントスが海底王国だけでなく地球全体を治める方向に舵をとったときでした。高度な科学と知識を持つ海底人は、海中だけでなく地表にも進出し人類を制圧する政策を発表したのです。それはエリーゼの考えと大きな齟齬(そご)をきたしました。 海中や海底だけの平和を維持するだけで十分なのに、それ以上の野心を満たせば反比例の作用が働くからです。例えば地上の治安を守ろうとすれば、地底人が生産したクローンロボットなどを大量に配置しなければなりません。 それを生産するだけの工場などは海底王国にはないのです。ボントスの周りに誰もいないときを見計らい、エリーゼは自分の考えを切々と訴えました。若い時の面影を残す引き締まった横顔をじっと見つめていたエリーゼは、そこに冷酷な表情が浮かび上がったのを見逃しません。ボントスは、エリーゼの正面に立ち話しかけます。「我々が地上に行かなくても、赤膚族のメルトン・ブッチャーを再び送り込み、完全に奴をコントロールすればよいのだ。人間に逆らわないように改造された数百万体のクローンロボットを元に戻し人間に対する監視体制を作れば、人類などいとも簡単に扱える生物だよ。それが長い目で見れば彼らの平和な社会に繋がる。そうすれば地球上から大きな戦争や殺し合いはなくなくるだろうからね。我々が人類に要求するのは、ただ一つ、大気汚染と海洋汚染をやめて、大昔のような空と海にすることだけだ。彼らはすぐに返答できないから、数年間待って欲しいとあいまいな解答を出すに決まっている。それは、人間同士なら通用するだろうが、我々には通用しない。人間を制圧するのは、地球全体の平和のためだ。エリーゼ、私と一緒に行動しないか、海底王国だけの平和などはあり得ないのだから」 ボントスがそこまでエリーゼに言い切ったのには、理由がありました。海底王国の2つある連合国の実権を握っている政治家12人、3名を除いて残りの9名はボントスの政策に賛同、人類統治に前向きで具体的な検討を始めていたのです。 ボントスと別れるときエリーゼは、ここで本心をぶつけても得策にならないのを知っていましたので、にこやかに応じます。「ボントス、私の考えは変わらないが、あなたの政策を妨害するようことはしません。海底王国の政治中枢部が正式に人類の統治を決めるなら、私も協力しますよ。いつでも呼び出して、かまいません」 部屋を出たエリーゼは、そのままボントスに反対する政治家3名がいる部屋に向かいました。 つづく☆☆☆~~~☆☆☆~~~☆☆☆~~~☆☆☆ 静かなお正月を迎えました。 本年はコロナ騒動が終わるのを、祈りましょう。 皆さんの健康と幸せを心より願います。 by PLUTO
2021/01/05
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