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わかっているの。あの人に惹かれてはいけないってこと。
悪い人じゃない。それどころか、むしろいい人だ。
結婚するなら、あんなに好条件の人はいないだろう。
いい大学を卒業し、いい給料をもらい、人もいい。
あの優しい笑顔を見ていると、私はとても安心する。
そう、入社当時からずっと、私はあの人を見てた。
近づきたい、心が急かすそのままに、頑張って頑張って連絡を取った。
返信があるたび、心が飛び跳ねる。
でもその反面、いつも変な感覚がくっついてきた。
足がもつれそうになるような、不安定な何か。
それが何なのか、昨日やっとわかった。
やっと食事に誘えた時、彼は言っていた。
「奥さんにはずっと働いてほしいな。金銭面でも精神面でも自立しててほしい」
私にはない感覚だった。
私の母はずっと専業主婦で、すべてを父にゆだねて生きてきた。
そしてそれはとても穏やかな生活で、母はいつもやわらかな笑みを浮かべていた。
それを見て育ってきたから、私も当然それが幸せのかたちなんだと、そう思っていた。
一生働く。それは途方もないように思えた。
何十年後、若い社員に邪魔者扱いされながらも、職場のすみで細々と仕事をする自分の姿。
疲れきっている自分の姿。それしか想像できなかった。
仕事を持った方が女性は生き生きするとよく聞く。
家庭に入るよりももしかしたら若くいられるかもしれない。
でも私にはそんな風には到底思えない。
彼は愛しい。きっといい旦那になるだろう。
でもきっと彼のベクトルの向きは変わらない。
彼と一生を共にしようとするのなら、私が妥協しなければならない。
そう考えている間にも、何十年後の自分像がどんどん老けていく。
髪は艶がなくなり、腰がまがり、歯も抜け、皺だらけになっていく。
まるで山姥だ。オフィスという姨捨山に、魂の抜かれた老婆は置き去りにされる。
彼は好き。でも寂しげな山姥にはなりたくない。
どちらのベクトルの先に本当の幸せがあるのか、わからないまま、私は心地いいメロディをならす携帯をとった。
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いつも御覧くださっている方々、お久しぶりです。
部署異動があり、ありがたいことにわりと落ち着いた部署に来られました。
自分の時間がやっと、社会人3年目にしてもてそうです。
ということで、今本を久しぶりに読みあさって、また書きたい衝動が起きました。
今までのように想像力に任せて書くことができなくなって落ち込み、創作活動から離れていましたが、
今は私のOLとしての、等身大のものをかこうと、視点をかえて再出発です。
その1号がこの「女神たちの賭け事」です。
「女神たちの賭け事」とは恋愛のことです。
恋愛は女たちを大きく左右する。不幸にも幸福にもする。
いろんな恋愛をショートにかいていこうかなって思っています。
気長にお付き合いください。
連載小説『女神たちの賭け事』2 2009年06月19日 コメント(24)