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婚姻外の男女関係を一方的に解消したことにつき不法行為責任が否定された例原告と被告は昭和60年11月に知り合って、1か月後に婚約したが翌年3月に婚約を解消した。原告と被告の関係は婚約解消後から平成13年までの16年間に及び、その間に2人の子供が生まれた。その間2人は仕事に協力したり、一緒に旅行をすることもあったが、生活を共にしたこともなく、生計も各自独立で維持・管理され共有の財産もなかった。原告は子の養育について一切の責任を免れることを希望し被告もそれを了承した。原被告は第2子出産直前には「被告は原告及びその家族が出産後の子供の養育についての労力的、経済的な負担一切を免れることを保障する」などの取り決めを公証人の確定日付ある文書にした。原告は各出産後、被告及び被告の父母から出産に要した費用一切及び相当額mp金員を受領した。原被告は子供が嫡出子でなければ不利益を受けると考え、出生届と同時に2人の婚姻届を行い、その後まもなく離婚の届出を行った。第1子は被告の実母が育て、第2子は出生後から平成14年3月まで施設で養育され原告は子供について一切のかかわりをもたなかった。原被告は、この間、一方的に関係を離脱しないなどの関係存続の合意をしたことはなく、双方共意図的に婚姻を回避する意思をもっていた。被告は職場で知り合った女性と親密な関係になり、平成13年4月30日被告とその女性は婚姻の意思を固めた。同年5月2日被告は原告に対し、これまでの関係は維持できないこと及び他の女性と婚姻することを告げた。被告と前記女性は7月18日婚姻届をした。原告は被告に対し被告が突然かつ一方的に両者間の「パートナーシップ関係」の解消を通告し、他の女性と婚姻したことが不法行為にあたると主張して提訴した。原審はこれを認めたが、最高裁平成16年11月18日は、本件の場合、男性が両者の関係を突然一方的に解消し、他の女性と婚姻したことをもって慰謝料請求の発生を肯定し得る不法行為と評価することはできない。と破棄自判した。婚姻外の男女関係解消に伴う存続保障については、古くは婚姻予約法理により、その後は準婚法理(内縁)により、その不当破棄に対し損害賠償を認めて来た。ところが男女関係の多様化に伴い、その法的性質及びその効果についてどのように考えるべきか理論的解決が求められている。本件事案は婚姻回避の意図が明確であり、共同生活実体の欠如した類型であり、いわゆる内縁関係とは認められない。このような関係の一方的解消について不法行為の成否をどのように線引きするかが問題である。つまり契約理論により「婚姻回避意思」内容に対応する効果として否定的に捉えるか、ライフスタイルの自由・幸福追求権を根拠に弱者保護を認めることができるか。学説・判例とも通説的な理論が形成されているとは言いがたい現状である。 判例タイムズ 1215号126頁 若林昌子氏の解説
2006.09.30

複数の扶養義務者のうちの一人だけが扶養権利者を扶養した場合、その負担を他の扶養義務者との間でどのように清算したらよいのか。実際に扶養に当たった扶養義務者が、ほかの扶養義務者が負担すべきだった扶養料を立て替えていたことになるので、立替扶養料返還請求の問題といえる。ほかの扶養義務者に過去の扶養料の求償を求める場合、その額について協議が整わなければ、家庭裁判所が審判で定めるとされている。(最高裁昭和42年2月17日判決)条文上、直系血族、兄弟姉妹は互いに扶養義務があり、これに基づく扶養の程度、方法は扶養義務者間で協議が整わない場合、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力を考慮して家庭裁判所が定めるとされている。この審判は扶養審判である。しかし扶養権利者が死亡した後、過去の扶養料を清算し、立替金の返還を求める場合、これが遺産分割の寄与分の主張という形となってあらわれることが多く、そうしてなされる寄与分審判の申立は実務上適法と取り扱われている。寄与分は労務の提供、財産上の給付、扶養看護その他の方法によって、被相続人の財産の維持又は増加について特別な寄与をした者に認められ、その協議が整わないなどの場合、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して家庭裁判所が寄与分を定める。ここでの寄与分審判では、寄与行為そのものの評価で結論が決まってくるので、寄与行為の内容から離れ、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力といった事情まで審判する必要がない。このように扶養審判と寄与分審判とでは判断資料が異なっている。この問題につき大阪高裁平成15年5月22日決定 は「事件本人を扶養した扶養義務者の一人が、他の扶養義務者らに対し、過去の扶養料の求償を求める場合、その権利は具体的な権利であって扶養審判を通じて行使が可能な権利であるから、その求償権をあえて具体的な財産上の権利ではない「寄与分」とみた上で、寄与分審判を通じて行使させる必要は原則として認められないこと、その求償の可否は、同順位の各扶養義務者の資力などの事情を調査し、それを考慮して結論を決める必要があり、そのような調査をしない寄与分審判を通じて過去の扶養料の求償を求めることは必ずしも適切でないことなどから、事件本人を被相続人とする遺産分割において、同人を扶養した扶養義務者である申立人の寄与分を否定した審判が確定し、その後同じ申立人が扶養料の求償を求めて扶養審判を申し立てたとしても、それが紛争の蒸し返しに当たるものとはいえなず、その扶養審判において上記事情を調査して判断することが必要である」とした。 判例タイムズ1184号 126頁 内山孝一判事補の解説↓ブログランキング参加してます。クリック、よろしく。
2006.09.29
著名なミュージシャン死亡 相続人は妻と実母 遺言あり 妻に全財産相続させる遺言実母 遺留分の減殺請求 妻死亡 妻の相続分 妻の姉が相続被相続人 貸金庫銀行に3口あり東京地裁平成15年5月22日判決 判例タイムズ1154号134頁「貸金庫の内容物内容物が具体的に明らかになっていなくても、銀行の支店名と貸金庫契約者名が特定されていることによって内容物は特定され、遺留分権利者は、遺留分減殺請求により貸金庫内の個々の内容物につき共有持分権を取得し、共有持分権を行使することが事実上不可能となる危険がある場合は、これを予防するためには遺留分権利者若しくはその代理人の立会いなく内容物を搬出しない義務を課すことが適切である」遺留分減殺請求訴訟を巡る諸問題 上 判例タイムス1250号 21頁
2006.09.28
被相続人に多額の借金があった場合、死亡を知った日から3か月以内に相続放棄や、限定承認をすることとなりますが、相続財産を使ってしまった場合は、相続放棄や限定承認ができなくなります。これを法定単純承認といいます。単純承認とは、相続放棄や限定承認をしないで、単純に相続するということです。借金も相続します。78歳の被相続人が死亡し、妻と子供が法定相続人であるところ、妻と子供は葬儀を営み仏壇を購入し墓石の建立し、それらの費用493万円のうち302万円は被相続人の郵便貯金を解約して支払った。その後3年ほどして信用保証協会から被相続人宛に求償債権5900万円の請求がきた。そこで妻と子供は、相続放棄の伸述を家庭裁判所に対してなした。(3ヶ月経過しても、伸述できる場合については昭和年代に最高裁の判例がある)原審は、相続財産をもって墓石を購入し、その代金を払った行為が法定単純承認にあたるとして相続放棄の伸述を却下した。大阪高裁平成14年7月3日決定 判例タイムズ1154号126頁 は即時抗告を受けて原審判を取り消し、相続放棄の伸述を受理した。その理由は以下のとおり「預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からないまま、遺族がこれを利用して仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり、購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、それらの購入費用の不足分を遺族が自己の負担としていることなどからすると、被相続人名義の預金を解約し仏壇や墓石購入費用に充てた行為が、民法921条の「相続財産の処分」に当たるとは断定できない。抗告人らの相続放棄の伸述が明らかにその要件を欠く不適法のものと断定することはできないから、家庭裁判所としては、これを受理することが相当である」尚、相続放棄が受理されても保証協会は別途訴訟で相続放棄の無効を主張できる余地はある。
2006.09.27
平成16年11月に「民法の一部を改正する法律」が成立し、平成17年4月に施行された。新法は民法をひらがな現代語に改めることが改正の中心であるが、あわせて保証制度に関する改正も含んでいる。保証制度改正の概要は以下のようなものである。すなわち、(1)すべての保証契約について、その有効要件として書面化を要求し(446条2・3項)(2)貸金等根保証契約(融資・手形割引を含む根保証契約で、保証人が個人であるもの)に 関する規制を新設するものである。 貸金等根保証契約に関する規制は 1極度額(根抵当権と同じく債権極度額である)の定めのない根保証契約を無効とし (465条の2) 2元本確定期日を契約で定める場合は、5年超の定めを無効とするとともに、元本確定 期日を定めない契約については、元本確定期日を3年として、保証期間を限定すること を中心とする。ただし、期間の更新は可能である。(465条の3)そして 3元本の確定事由として (ア)債権者による債務者又は保証人の財産に対する、金銭の支払を目的とする債権 についての強制執行または担保権の実行申立、 (イ)債務者または保証人の破産手続開始 (ウ)債務者または保証人の死亡の3つを定め(465条の4) 4貸金等債務の根保証にあっては、根保証契約の保証人が法人であっても、求償権につき 個人が保証人になる特則として、極度額の定め及び上記2要件を充足する、元本確定 期日の定めがないときは、求償保証契約の効力を無効とする(465条の5)ことをその内容とする。 判例タイムズ1214号 70頁 吉田光硯教授の解説
2006.09.26
宅地の所有者は、他の土地を経由しなければ、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流、下水道などまで排出することができない場合において、他人の設置した給排水設備を当該宅地の給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、その使用により当該給排水設備に予定される効用を害するなどの特段の事情のない限り、当該給排水設備を使用することができる。最高裁平成14年10月5日判決 判例タイムズ1111号191頁現代の社会生活において、電気・ガス・上下水道の利用は不可欠なものとなっているが、これらのいわゆるライフラインと相隣関係との問題に関連する法的規定は、排水については民法220条、221条、下水道法11条が規定している程度であり、電気・ガス・上下水道について、相隣関係の観点から規定しているものは見当たらない。これまで裁判例などで問題とされてきたものとしては、導管袋地所有者が、本管などとの接続のために、隣接地に電線、ガス管、上下水道管を設置できるかどうかが問題とされていたが、本件では、さらに進めて、他人が設置し給排水設備を使用することの可否が問題とされた。最高裁平成5年9月24日判決が、導管袋地の所有者には、上下水道管などの本管などとの接続のために隣接地に上下水道管などを設置する権利があるとの下級審裁判例の立場を前提としながらも、これを明示しなかったのに対し、本判決は、既存の給排水設備の使用の可否について、導管袋地の所有者に一定の要件、すなわち、(1)宅地の所有者であること(2)他の土地を経由しなければ、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を受け、その下水を公流、下水道などまで排出することができない場合であること(3)他人の設置した給排水設備を当該宅地の給排水のため使用することが他の方法に比べて合理的であること(4)その使用により当該給排水設備に予定される効用を害するなどの特段の事情のないことの各要件を満たす場合に、既存給排水設備の使用を認めたものである。また既存給排水設備の所有者は、民法221条2項の類推適用により、使用者である導管袋地の所有者に対して、別途設備の設置及び保存の費用の分担を求めることができるとし、相隣関係における公平を図っている。本判決は、上下水道に関する相隣関係上の権利について、類推適用の根拠を民法220条221条に求め、かつその要件を明示した最初の最高裁判決であり、今後の実務に与える影響も大きいものがあると思われる。判例タイムズ1154号 36頁 桐ケ谷敬三 判事の解説
2006.09.25
整理解雇において何を主張・立証すべきかについては東京高裁昭和54年10月29日判決 東洋酸素事件がリーディングケースとされている。東京地裁平成18年1月13日決定は、整理解雇の判断の枠組みとして「人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性の4要素を考慮するのが相当である。使用者は、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性の3要素についてその存在を主張立証する責任があり、これらの3要素を総合して整理解雇が正当であるとの結論に到達した場合には、次に、従業員が手続の不相当性等使用者の信義に反する対応等について主張立証責任があることになり、これが立証できた場合には先に判断した整理解雇に正当性があるとの判断が覆ることになると解するのが相当である」と判示している。判例時報 1935号 168頁
2006.09.24
賃借人の要望に沿って大型スーパーストアの店舗として使用するために建築され他の用途に転用することが困難である建物を目的とし3年毎に賃料を増額する旨の特約を付した賃貸借契約について賃借人のした賃料減額請求権の行使を否定した原審の判断に違法があるとされた事例 最高裁平成17年3月10日判決 判例時報1894号14頁判決要旨賃借人の要望に沿って大型スーパーストアの店舗として使用するために建築され、他の用途に転用することが困難である建物について、賃貸人が将来にわたり安定した賃料収入を得ること等を目的として、3年毎に賃料を増額する旨の特約を付した賃貸借契約が締結された場合において、賃料減額請求権の当否を判断するにあたり、当初の合意賃料を維持することが公平を失し信義に反するというような特段の事情の有無により賃料減額請求の当否を判断すべきものとして、専ら公租公課の上昇及び賃借人の経営状態のみを斟酌し土地建物の価格の変動近傍同種の建物の賃料相場等借地借家法32条1項所定の他の他の重要な事情を参酌しないまま、賃借人のした賃料減額請求権の行使を否定した原審の判断には違法がある。
2006.09.23
間接強制とは強制執行の一種相手方に作為を求める判決 作為とは行為のこと 例えば建物を収去(撤去)して土地を明け渡せ とか 謝罪広告をせよ とか作為が第3者が行っても目的を達成することができるときは、裁判所から代替執行の許可を得て、執行官にやってもらう。 例えば建物の撤去は第3者が行っても目的を達成できるから相手方が履行しないときは代替執行で行う。しかし、謝罪広告をせよ という判決に相手方が従わないときは第3者が相手方に変わって謝罪広告を出すことはできないので、間接強制決定を得る間接強制決定は、相手方に対し 履行しないときは1日○○円払えと命じ、間接的に強制するものである。東京高裁平成17年11月30日判決 は、謝罪広告を出さないときは1日1万円を払えという間接強制決定について、180日分を超える部分は権利の濫用であるとして180万円を超える部分の取立てを禁じた。間接強制の目的は、非代替債務の履行を心理的に強制することにあり長期にわたる不履行状態の下に金銭債務を累積させることを目的とするものではない。間接強制決定が確定していても、強制執行としての処分が実現されるべき権利の内容を超過し、あるいは執行処分の目的を超え、その結果、債務者に過酷な結果となる場合には、権利の濫用として請求異議の対象となる。(最高裁昭和37年5月24日判決 判例時報301号4頁) 以上 判例時報 1935号 61頁 頭注
2006.09.22
契約締結後、2年以内の被保険者の自殺いついては保険約款により支払免責事由となっている 被保険者は1年を経過しないうちに自殺したが、保険金受取人が 被保険者の自殺は精神疾患により自由な意思決定ができない状態でなされたものとして、右約款の対象となる「自殺」には含まれない として争ったここにいう「自殺」とは、被保険者が自分の生命を絶つことを意識し、これを目的とする行為に限るとされ、さらに、自由な意思決定に基づき意識的に行われた行為であることが必要であるから、意思無能力者や精神病者その他の精神障害や心神喪失中の状態での自殺は、免責の対象となる「自殺」には含まれない とするのが通説・判例である。問題は、精神障害がどの程度の状態であれば、被保険者が自由な意思決定をすることができない状態であったといえるかである。大分地裁平成17年9月8日判決は、うつ病に罹患している被保険者が自殺を図った場合、自殺が企図されるときの精神状態の多くがうつ状態などの精神異常状態であることに照らすと、精神障害に関係する自殺行為のすべてが前記保険約款にいう「自殺」に当たらないとすることは相当ではなく、精神障害の程度・影響などを個々的に斟酌し、検討することが必要であるとして本件の場合、約款にいう自殺には該当しないとしたものである。判例時報 1935号 158頁
2006.09.21
原告は視覚障害者 民事事件の口頭弁論への出廷のため単独で裁判所へ赴き帰りに本館北側玄関から屋外に出たところ、同所に設置された三段の階段にて足をすべらせ転倒骨折した視覚障害者の転倒事故による国家賠償の先例としては最高裁昭和61年3月25日判決判例時報1190号3頁があり、視覚障害者のための安全設備の設置の有無と国家賠償法上の瑕疵の判断基準について判示している。第1審は、その判断にあたっては、その安全設備が視覚障害者の事故防止に有効なものとして、その素材、形状及び敷設方法等において相当程度標準化されて全国的ないし当該地域に普及しているかどうか、これを設置すべき本件庁舎及び本件階段の設置目的ないし利用方法、本件階段の構造又は視覚障害者の利用度との関係から予測される視覚障害者の事故の発生の危険性の程度、右事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び安全設備の設置の困難性の有無等の諸般の事情を総合考慮することを要するとした上で、本件事故発生以前に施行されていた条例(大阪府福祉のまちづくり条例)や法律(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律いわゆる ハートビル法)の内容や、本件庁舎周辺の公共施設の安全設備の設置状況、本件階段の形状・材質等を詳細に検討し、本件事故後の平成16年2月ころ本件階段に点状ブロックと滑り止めシートを設置している事情からすると本件事故の時点までに、この二つの措置を取ることは困難でなかったと認定し、本件階段はこの措置を取っていなかった点で通常有すべき安全性を欠いていたとし、被告に設置管理上の瑕疵を認め、過失相殺3割の上105万円の賠償を命じた。大阪高裁平成17年6月14日判決 判例時報1935号65頁は、これを支持した。 判例時報 同 頭注
2006.09.20
破産終結決定により法人格が消滅した会社を主債務者とする保証人が主債務の消滅時効を援用することはできない最高裁平成15年3月14日判決は、「会社が破産宣告を受けた後、破産終結決定がされて法人格が消滅した場合には、これにより会社の負担していた債務も消滅するものと解すべきであり、この場合、もはや存在しない債務について時効による消滅を観念する余地はない。この理は、同債務に保証人のある場合においても変わらない。したがって、破産終結決定がされて消滅した会社を主たる債務者とする保証人は、主債務についての消滅時効が会社の法人格の消滅後に完成たことを主張して時効の援用をすることはできないものと解するのが相当である」と判示して原判決中、原告である信用保証協会の被告に対する請求を棄却した部分を破棄して原審に差し戻した。本判決は法人の破産終結のケースにつき最高裁として初めて主債務消滅説に立つことを明らかにしたものである。学説としては主債務存続説、主債務消滅説、消滅時効不適用説があるが、主債務消滅説によれば、主債務消滅後に保証債務が独立して存続する根拠を破産法326条2項、366条ノ13(会社更生法240条2項 民事再生法177条 商法450条3項にも同旨の規定がある)の趣旨ないし保証及び担保制度の趣旨目的に求める。判例タイムズ1154号 28頁 山下満判事の解説
2006.09.19
東京高裁平成15年3月25日判決判例時報1829号79頁は「主たる建物に設定された根抵当権の効力は、付属建物の表示登記の有無にかかわらず付属建物に及び付属建物の第3取得者は所有権移転登記を経たとしても、それによって抵当権の効力を免れることはできない」と判示した。学説では社会通念上付属建物と認められても、それが独立の建物として登記されている場合は当該建物に抵当権抵当権設定登記がない以上、抵当権の効力が及ぶことを第3者に対抗できないとする説が有力であるが、これに対し、独立の登記がなされたとしても付加一体物である性質は失われず、抵当権の効力が及んでいるという実体法上の効果は左右されず第3者の保護は民法94条2項の類推適用によって図るべきであるとする説がある。本判決は、傍論として仮に建物の従物にも抵当権の効力が及ぶことを第3取得者に対抗するために登記が必要であるとしても 仮装譲渡である。そうでなくても背信的悪意者にあたる。としているので、この判決の評価については、色々意見がありうると思われる。 判例タイムズ 1154号42頁
2006.09.18
海外出張中に強盗に殺害された労働者に労災認定徳島地裁平成14年1月25日判決 確定 判例タイムズ1111号146頁判旨労働者が、海外出張中に宿泊先で強盗に殺害された場合において、出張地では他にも旅行者が強盗殺人の被害に遭うなどの事件が発生しており、当該宿泊先の安全対策も十分でなかった等の事情があるときは、当該宿泊先において日本人が強盗被害に遭う危険性はあったというべきであり、強盗に殺害されたのは、業務に内在する危険が現実化したものと解されるから業務上の死亡にあたる。参照条文 労働者災害補償保険法7条労災保険法7条1項1号は、保険給付の対象として「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」を掲げている。本件は労働者の死亡が同条項にいう「業務災害」に該当するか否かが争点になった事案である。
2006.09.17
最高裁平成15年4月11日判決 判例タイムズ1123号89頁「入会権者が入会権を放棄して入会地を売却した場合に、入会地が従前から入会権者らの総有に属し、その管理運営などのために管理会が結成され、規約において入会地の処分などを管理会の事業とし、本件売却が管理会の決議に基づいて行われ、売却後も入会権者らの有する他の入会地が残存し、管理会も存続しているなどの事実関係の下においては、入会地の売却代金債権は入会権者らに総有的に帰属する」本件は入会地の売却代金の分配に与らなかった入会権者が、売却代金につき共有持分に応じて取得した権利を侵害されたとして売却代金を分配した入会地管理者代表に対し不法行為に基づき損害賠償を請求した事案である。本件入会地は部落住民33名の共有の性質を有する入会地 老人ホームの敷地として町に売却 代金3200万円で売却 うち2700万を分配 残金は代表者が保管分配については22名が使用分割使用していたとして22名に対し使用面積に応じて分配原審は、売却代金の33分の1相当額を求める原告の請求を認容した。原審は、(売却にあたり)入会権が消滅した以上、地番所有権に対する共同体的統制(総有関係)も解かれたものと考え、入会地が共有地に転化し、代金債権は当然に分割債権になると判断したが、本判決は共同体(管理会)が換価処分を主導し、売却後の代金管理を予定し、現に管理しうる体制にあるといった前記事実関係から、代金について共同体的統制が失われたとはいえないとして代金債権の総有的帰属を認定した。判例タイムズ1154号40頁 島田佳子判事補の解説
2006.09.16
原告は平成10年10月にY銀行と貯蓄預金契約を締結、キャッシュカードの利用を申し込み、その暗証番号を車のナンバーと4桁と同じ数字として届け出た原告は、平成11年11月、通帳をダッシュボードに入れたまま、車ごと盗難された。窃盗犯は17回に亘って本件通帳を使用し、暗証番号を入力してATMから計801万円を引き出した。原告は警察へ車の盗難届けを出したが通帳が車に入っていることを翌日になって思い出し銀行に連絡したが、上記払い戻し後であった。Yのカード規定では真正なキャッシュカードが使われ、届けられた暗証番号が入力されて払い戻しがなされたときは責任を負わない旨の免責規定があるが、通帳機械払いの方法により預金の払い戻しが受けられる規定はなく、免責規定もない。原告はキャッシュカードを利用して預金の預けいれをしたことはあるが、通帳機械払いで払い戻しを受けたことはなく、通帳機会払いで払い戻しを受けられることを知らなかった。原審は、民法478条(債権の準占有者にたいする弁済・債権者の外観を有するものに対する弁済は過失がないことを条件に有効とする弁済者保護規定)により弁済の効力を認めて原告の請求を棄却した。(預金通帳は重要であり保管に忠義を払うべきものであること。通帳機械払いは日常的に広く行われていること 等を理由として)最高裁平成15年4月8日判決 判例タイムズ1121号96頁は「無権限者のした機械払いの方法による預金の払い戻しについても民法478条の適用が認められる。そして機械払いの方法による預金の払い戻しにつき銀行が無過失であるためには、預金者に暗証番号などの管理に遺漏がないようにさせるため、機械払いの方法により預金の払い戻しが受けられる旨を預金者に明示することなどを含め、機械払いシステムの設置管理の全体について可能な限度で無権限者による払い戻しを排除し得るよう注意義務を尽くしていたことを要する。本件において通帳機械払いの方法により払い戻しが受けられる旨を預金規定などに規定して預金者に明示していない以上、銀行に過失があり、債権の準占有者に対する弁済として本件払い戻しは有効とはならない。判例タイムズ1154号48頁
2006.09.15
戸籍上及び生物学上の性は男性であるものの、内心において女性であり、外形的にも女性の身体を有するにもかかわらず、警察署に留置されるにあたり、男性警察官らによって、傷病調査等のために着衣を脱がされたり、ほかの男性留置人が在房する留置室に留置されるなどし、身体的精神的損害を被ったと主張し、国家賠償法1条1項に基づき、東京都に対し損害賠償を請求した。これに対し被告は、警察官らは単に戸籍及び生物上の性が男性であり、内心における性が女性である性同一性障害者を自称するにすぎない原告を、戸籍上の性別に従い処遇したにすぎないから国賠上、違法とされることはないと争った。東京地裁平成18年3月29日判決 判例時報1935号84頁は戸籍上及び生物学上の性が男性であるが、内心における性が女性であるとの確信を有し、性適合手術及び豊胸手術を受けている性同一性障害者に対する身体検査においては、特段の事情のない限り、女子職員が身体検査を行うか、医師若しくは成年の女子を立ち会わせなければならないと解するのが相当である。留置場の管理者は右のような性同一性障害者を留置する場合には、その名誉、羞恥心及び貞操等を保護し、留置場内の規律を維持するために原則として男子と区分して留置すべきである。として、これら違法行為により原告に生じた損害を慰謝するには30万円が相当であるとした。控訴されている。性同一性障害者については社会の認識理解が進みつつあると言われており、性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律が平成16年7月16日から施行されるなどしている。 上記判例時報 頭注
2006.09.14
原告ら3名が飼っていた愛犬(ミニチュア・ダックス種牡10歳を被告所有の犬(日本犬の雑種)に噛み殺されたとして民法718条、709条に基づき求めた損害賠償日課の散歩に連れ出された原告所有犬と、鎖につなごうとした被告の手をかいくぐって外に出た被告所有の犬とが遭遇し、被告所有犬が原告所有犬に襲いかかり、噛み殺した。その際に止めに入った原告が転倒し加療2週間の傷害を負った。家族も含めて原告として慰謝料等を請求毎日飼育し溺愛しており本件を目前にしながら愛犬を救えず、自らも負傷した原告につき慰謝料80万円を請求 30万円認容他の家族2名 それぞれ慰謝料25万円請求 各自10万円認容愛犬の価額の賠償 流通価格の5万円本判決は愛犬の死亡による直接損害に比較して飼い主の慰謝料の認容額が極めて高額であることに注目されるが新聞紙上でも「愛犬殺害に多額の慰謝料」の見出しで報道された。これは従来はペットを物としてみていたが、近時、人間のペットに寄せる愛情が深くなり、少子高齢化時代でのペットが家族の一員としての地位を占めるに至った結果に沿うものとして本判決を評価する向きもある。名古屋地裁平成18年3月15日 判決 確定 以上 判例時報1935号109頁 頭注より
2006.09.13

入管法61条の2第2項は、難民認定申請は、当該外国人が本邦に上陸した日(本邦にある間に難民となった者は、その事実を知った日)から60日以内に行わなければならないが、ただし「やむをえない事情」があれば、この期間経過後でも申請ができることとされている。この申請期間の制限条項については、そもそも、同条項の規定が、難民に対して様々な便宜を供与するする義務を定めた難民の地位に関する条約及び難民の地位に関する議定書(難民条約等)に適合するか否かが問題とされている。また「やむを得ない事情」の要件をどのように解するのかが問題となる。ところで、難民認定がされるためには、申請期間が遵守されることと、難民に該当することの二つの要件が満たされることが必要であるが、申請期間制限違反を理由とする不認定処分を取り消すためには、申請人において、申請期間遵守の事実だけでなく、難民に該当する事実を主張立証する必要があるか否かが問題とされた。最高裁平成15年2月18日判決 判例時報1833号41頁は「やむを得ない事情」とは、本邦に上陸した日又は本邦にある間に難民となる事情が生じた場合にあってはその事実を知った日から60日以内に難民認定の申請をする意思を有していた者が病気、交通の途絶等の客観的な事情により物理的に入国管理署に出向くことができなかった場合に限らず本邦において難民認定の申請をするか否かの意思を決定することが、出国の経緯、わが国の難民認定申請制度に対する情報面や心理面における障害の内容と程度、証明書類等の所持の有無及び内容、外国人の解する言語、申請までの期間等を総合的に検討し、期間を経過したことに合理的理由があり、入国後速やかに難民としての庇護を求めなかったことが必ずしも難民でないことを事実上推認させるものではない場合をいうと解するのが相当である。原告はエチオピア国籍を有する外国人であるところ判示事実関係を総合すると、本件申請には・・・・・・「やむを得ない事情」があると認められる。本件のような申請期間制限違反を理由とする難民不認定処分の取消訴訟においては、難民認定申請者である原告としては、申請期間制限違反の判断の適否のみ、取消事由として主張立証すれば足り、自らが難民に該当することを主張立証しなければならないものではない。と判断した。 判例タイムス1154号266頁↓ブログランキング参加してます。クリック、よろしく。
2006.09.12
建物の建築請負契約においては、建物の建築工事が「未完成」であれば、注文主は原則としてそのことを理由として請負人からの報酬支払請求を拒絶することができるが、建築された建物に「瑕疵」があるに過ぎない場合には、そのことのみを理由として請負人からの報酬支払請求を拒絶することができないと解されるので、建物の未完成と瑕疵の区別は重大であるが理論上、実際上、工事の未完成と瑕疵の区別は必ずしも明確でなく、その区別は相対的・流動的である。学説によれば一般に建物の建築において建物の建築に着手されたが契約で予定された最終の工程をまだ終えていない場合には、建築工事は未完成であるが、建築工事が予定された工程まで終えたものの、不完全な点があるために修補を加えなければ完全なものにならない場合には建物に瑕疵があることになると解されており建物の未完成には債務不履行責任が、建物の瑕疵の場合には瑕疵担保責任が適用されると解されている。それでは瑕疵とは何かが問題となるが、学説では一般に完成さえれた仕事が契約で定めた内容通りでなく、使用価値もしくは交換価値を減少させる欠点があるか、または当事者が予め性質を欠くなどなど不完全な点を有することをいうと解され、また仕事の結果が契約に定められたことと一致しないこと、あるいは仕事の結果が当該請負契約において取引通念上期待されるところの一定の性状を欠いていたり、仕事の結果が請負人の保証した性質を有しないこと、をいうと解されている。そして、この瑕疵の判定基準については、一般に建物の建築工事請負契約を締結するに際しては工事請負契約書が作成され、これに工事請負約款と設計図・仕様書が添付され、また契約締結後に請負代金内訳書と工程表が提出され、仕様書等には作業の順序や使用材料の品質、数量や施工方法が記載されているため、建築された建物に瑕疵があるかどうかは、まず仕様書等によって判断すべきであり、これによって判断し難いときは建物の種類、契約時の事情、請負代金、建物についての法令上の制限、当事者の意図など諸般の事情を考慮して判断するほかないとされている。他方下級審判例でも仕事の結果が請負人の保証した性質を有せず、通常もしくは当事者が契約によって約定し期待していた一定の性状を完全に備えていないことをいうものと解されている。このような状況において最高裁平成15年10月10日判決 判例時報1840号18頁は「耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、支柱について特に太い鉄骨を使用することが約定され、これが契約の重要な内容になっているにもかかわらず建物請負業者が注文主に無断で上記約旨に反し主柱工事について約定の鉄骨を使用しなかったという事情の下においては、使用された鉄骨が構造計算上居住用建物として安全性に問題がないものであったとしても、当該支柱工事に瑕疵がある。と判断した。原審は瑕疵がないとした。本件は事例判決であるが「注文者の意図」「契約の内容」を重視し、「契約の重要な内容」に違反する場合には瑕疵があると判断したものである と評されている。 判例タイムズ1184号 50頁 塩崎勤教授の解説
2006.09.11
証券取引法違反(相場操縦)の事案における証券取引法198条の2第2項による没収・追徴証券取引法198条の2は、所定の犯罪により得た財産又はその財産の対価として得た財産について、これを没収すると定めている。没収ができないときは、その価額を犯人から追徴すると定める。必要的没収・追徴を定めたこの規定は平成10年法律第107号による改正において新設され、その趣旨は健全な証券市場を確保するために、相場操縦などの犯罪行為により得た財産又はその対価として得た財産などを犯罪の再投資等を防止するためにも、当該犯罪に関与した犯人全員から例外なく残らず剥奪し、不公正な取引を厳に規制し、もって証券取引法秩序を確保しようとすることにあるとされている。この立法趣旨からして関税法やいわゆる麻薬等特例法等の必要的没収・追徴と同様に本条所定の犯人に共同正犯者を含むことは当然であり、原則として各自の責任で確実に国庫にその全額を納付せしめようとするものである。東京高裁平成17年9月7日判決 判例タイムズ1208号314頁は共犯者のうち、一人の被告人に全額の追徴をすることができるとした。共犯者間の利益の配分が明らかではないこと、訴追されていない共犯者がいることなどが理由。 判例タイムズ1208号314頁頭注
2006.09.10
本件は原告らの自宅建物に竹材の害虫が大量に発生し、同建物の土壁の下地とされた竹材のほか、同建物の壁、床、階段等に食害の被害が生じたことについて、その原因は、竹材販売業者である被告が原告らに販売した丸竹(コマイ竹の材料 丸竹を割ってコマイ竹とする)にあるとして製造物責任に基づく損害賠償を請求したものである。本件においては主として本件丸竹が製造物責任法2条1項の「加工された動産」に該当するかどうか及び本件丸竹は同条2項の「欠陥」があるかどうかが争点となったが、本判決では、まず、竹材が害虫の発生が一般的に予想されるのであるから伐採された丸竹に対し機械で農薬を吹き込む等の方法で相応に防虫処理を行う必要があり、実際にこのような防虫処理をした上で販売している業者も存在し、被告も害虫の被害が発生しないわけではないとの認識の下に一定の防虫処理を行っていたのであり、これによって一次産品とは異なる、害虫の発生という危険を回避する建築資材として販売が可能となるのであるから、竹材に対する防虫処理は害虫の発生が予想される竹材に対し、より高度な安全性を確保するものとして、人為的に相応な処理を加えるものと評価でき、加工された動産として製造物責任法2条1項に定める「製造物」に該当すると認められるとした。また、本件丸竹は建築資材としてのコマイ材を販売するにあたっての防虫処理は十分であったとは認めがたく、通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法2条2項に定める「欠陥」を有するとした。福岡高裁 平成17年1月14日判決 確定 判例時報1934号45頁 頭注自然産物に対する加工の概念について判断された前例としていわゆる「イシガキダイ食中毒訴訟」判例時報1805号14頁 がある。
2006.09.09
固定資産課税台帳に登録された土地の価格が高すぎる場合固定資産税の賦課の際に、市町村長によりなされた固定資産の価格決定が問題となるが、価格について不服を有する納税義務者は、固定資産評価審査委員会に審査の申し出をし、審査決定を待つこととなる。(採決主義)そして、審査決定の内容に不服がある場合、すなわち、審査委員会が納税義務者の主張する価格と異なる価格を認定して審査決定を行う場合には、納税義務者は当該審査決定の取消を求めて取消訴訟を提起する。審査決定の取消訴訟においては審査委員会の審査決定の認定価格が適正な時価を上回るか否か、そしてそれが肯定されるときには、それにより裁判所は審査委員会の価格と適正な時価との間の差額を特定できる場合がある。この点について最高裁平成15年6月26日判決 判例時報1830号29頁は「凡そ、固定資産評価基準をベースに市町村長により決定された価格が当該資産の客観的交換価値を超える場合、その超える部分は違法であると判示している。裁判所が価格を独自に認定できない場合は審査決定全部を取り消すこととなる。 判例時報 1934号 193頁 手塚貴大 助教授の判例評論から
2006.09.08
高校のクラブ活動 サッカーの試合 落雷 引率者兼監督の教諭に注意義務違反認定最高裁平成18年3月13日判決 判例タイムズ 1208号85頁判決要旨高等学校の生徒が課外のクラブ活動としてサッカーの試合中に落雷により負傷した場合において、その当時の文献には、運動場に居て雷鳴が聞こえるときには、遠くても直ちに屋内に避難すべきであるとの趣旨の記載が多く存在していること、黒く固まった暗雲が立ち込め雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたなど判示の事実関係の下では、引率者兼監督の教諭は落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったというべきである。原審では、注意義務違反を認めなかった。
2006.09.07
軽種馬農業を営む牧場主である原告所有の未出走の競争馬を鹿と間違え、ライフル銃により、うち2頭を射殺、うち1頭を走行できない状態にし、殺処分を余儀なくさせた。被告らの行為は鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律等に違反する行為であり、刑事事件については略式命令請求による罰金刑で終局している。被告らの上記不法行為自体については当事者間に争いがない。本件の争点は原告の損害すなわち喪失した馬の価値の算定の点のみにある。本件では喪失したのが、未出走の競走馬であるため、価値の算定で困難な点があった。原告は馬の価値は原告の代表者が長年の経験から個々の馬を実際に目で見て価格を決定することにより決まるものであり、価格決定の上では、血統よりも体格・性格が重視されると主張していた。これに対し被告らは馬の価格決定においては、まず血統とりわけ父馬の血統がなによりも重視されるとして、これに年齢・性別(牝馬の方が評価が高い)等の要素を加えて考慮すべきであるとし、インターネット上で公開されている競走馬の取引価格のうち、本件3頭の馬とそれぞれ父馬を同じくする同じ1歳の牝馬のせりにおける平均価格をもって損害額とすべきであると主張していた。本件判決は、本件の損害は馬の交換価格(処分価格)とすべきだとした上で1馬の体格・性格 といった個体差(個性)2血統性別年齢といった一般的要素の双方を考慮すべきであり、その二つのうちでは馬が生物であって個体差があることや、競走馬や繁殖馬として能力が期待されるという馬の商品の特製からすれば個体差が優先すべきであるとした。そして馬の能力や個性を測る客観的な指標はないのであるから、その馬をよく知る者の供述等に基づいてその馬の個性を認定するほかなく、その供述等の証拠については、その信用性を吟味してその評価の採否を決定し、さらに前記2の要素も取り込んで一切の事情を考慮し、経験則とその良識を十分に活用して、できうるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努め、その蓋然性に疑いがもたれるときは被害者側にとって控えめな算定方法を採用するのが相当であるとした。馬3頭につき 馬1につき1750万円 馬2につき1250万円 馬3につき500万円の損害を認めた。判例タイムズ1194号221頁 札幌地裁浦河支部 平成17年4月21日判決
2006.09.06
パチンコ遊技機のメーカーがお笑いタレントをモチーフにしたパチンコ機を製造盤面中央に配した液晶画面において数ある予告アクションが表示されるが、その中で、白い上着と赤いタオルを肩にかけ、右手で地面を指さし、傾けた白いスタンドマイクを左手にもって横を向いてポーズをとっている人物の絵が用いられた。そこで原告(有名なロック歌手)は本件人物絵は原告を想起させるものであって、その使用は原告のパブリシテイ権を侵害するものとして利用の差し止めと謝罪広告の掲載を求めて訴えを起こした。東京地裁平成17年6月14日判決(判例時報1917号135頁)は、上記人物絵は写実的には描かれておらず画像が小さいこともあって特定の人物を想起されるような特徴に乏しいこと、登場時間が極めて短時間で登場確立が極めて低いこと、原告の顧客吸引力を用いる目的で本件人物絵を使用したものとは認められず、現実にも原告の顧客吸引力の潜用又はその毀損が生じているとは認めがたいし、ことさら醜悪、滑稽に描かれてもいないなど、原告に対して法的な救済を必要とする人格的利益の侵害が生じているとは認められないとして本件人物絵の使用差し止めを認めるに足りる違法性はない旨判示した。上記判例時報の頭注
2006.09.05
被告は精神病に罹患した長女が家出したことを心配して本件事故の3日ないし4日前から食事もとらず不眠状態が続いて極度のノイローゼ状態に陥っており、本件事故前にはお経のようなものを唱えたり「宗教が守ってくれるから大丈夫」「信じる者は救われる」などといいながら被告車を運転していた。被告は本件事故後、本件事故当時の状況をまったく覚えていない。被告は長女を探しに車で走行、追突事故を起こした後、対向車線を走行して正面衝突。相手を死亡させた。検察庁2回に亘り鑑定。鑑定意見は本件事故は心身喪失を伴う精神病性の症状(短期精神病性障害の診断基準に該当)に基づいた行動によって引き起こされたものである前記症状は少なくとも当て逃げ事故のときには発症していたものと推測できるが自宅を出発するときから相当な程度の精神病性の症状が出現していた可能性も否定できない。検察庁は刑事事件につき不起訴処分。民事で損害賠償請求訴訟。 争点 自賠法3条の運行供用者責任について民法713条は適用されるか。大阪地裁平成17年2月14日判決 判例時報 1917号 108頁 適用されない。とした。自賠法3条は車に対し運行支配・運行利益を有する者を運行供用者として、運行供用者が人身被害について責任を負うこと。免責される場合は極めて例外的であることを規定している。そして4条において、運行共用者責任については、前条によるほか民法の規定によるとされており、この民法の規定として713条(責任無能力を理由とする免責)が適用されるかという問題である。先例がないところであり、適用を肯定する余地もあると評されているが、事件は控訴後和解で終了しており上級庁の判断は出ないこととなった。
2006.09.04
東京地裁平成17年3月17日判決 判例時報 1917号76頁いわゆる「高次脳機能障害」については平成13年1月から損害保険料率算出機構に設置された「高次脳機能障害審査会」による認定が行われているが、裁判の場においても、事故後に生じた認知障害・人格変化と事故との因果関係、高次脳機能障害による労働能力喪失率、喪失期間や介護の要否等が争われるケースは少なくない。その認定は脳の画像所見、意識障害、精神症状のほか日常生活や社会生活上の制約・障害などを総合評価して行われるものと見られるが、その認定は困難かつ微妙である。本件は脳挫傷、遷延性意識障害等のある被害者について後遺障害等級1級3号が詳細な認定・判断のもとに認定された事例として参考となろう。上記判例時報頭注損害額については以下のとおり 被害者 28歳 自転車に乗って信号のない交差点で加害車両と衝突 午後7時 治療費、文書料、治療用装具代、移送費及び入院雑費 1468万5779円 付添費 294万2500円 入院期間中 近親者の付き添い 1日6500円 リハビリで自宅にいた期間 症状固定まで1日8000円の介護料 車椅子関係 167万3305円 家屋改造費 1344万0402円 入浴介護用品関係費 32万0501円 将来の介護費用 6702万0570円 父母が介護するとして父母が67歳になるまでは父母の介護料日額8000円を認め、以後は 被害者の平均余命の年齢まで職業付添い人の費用として日額1万2000円で計算 休業損害 477万7662円 後遺障害逸失利益 1億1376万8250円 労働能力喪失率100パーセント 被害者 大学工学部を卒業後大学院修士課程を出て会社員 事故時の年収423万2638円 男子大卒の平均賃金で計算 67歳まで 傷害慰謝料 325万円 後遺障害慰謝料 3000万円 以上合計2億5187万8969円に過失相殺5パーセントを控除し、既払い額を控除し弁護士費用を 加算して2億円の賠償を命じた
2006.09.03
水戸地裁平成17年7月19日判決 判例時報1912号83頁は、産業廃棄物最終処分場建設の差し止めを認めた。本判決の意義は第1に安定型産業廃棄物処分場の建設差し止めにおいて水道水利用者の差し止め請求を初めて認容したことである。第2に差止請求の根拠を人格権の一つとしての浄水享受権に求め同権利の性質内容につき詳細な検討を加えていることをあげることができる。第3に、安定型産業廃棄物処分場の建設等差し止め訴訟における立証責任のあり方につき、今後のモデルとなりうるような判断をしたことである。産業廃棄物の最終処分場は、搬入される廃棄物の種類に応じて、遮断型、管理型、安定型に分類されている。このうち、最も多い安定型処分場では、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令6条1項3号イ所定の安定型産業廃棄物(廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず及び陶器くず、がれき類(これらを安定5品目という)を処分するものとされ、遮断型、管理型と異なり、処分の方法に法律的制約は定められていない。多くは廃棄物と覆土をサンドイッチ状に埋め立てる方法が採られる。これまで、安定型産業廃棄物以外のもの廃棄物・有害物質が安定型処分場に搬入・投棄され汚水の漏出等が起こり、紛争を招いているわけである。本件処分場予定地が水戸市の水道取水口近くに流入する田野川の水源にあたり、本件処分場に廃棄される廃棄物から有害物質が水戸市の水道水に混入することなどから、生命や健康を損なうことのない水を確保する原告らの権利を侵害するおそれがあるとして差し止めを求めた事案である。公害などの差し止め請求の根拠に関する現在の一般的理解は次のようなものである。すなわち差し止め請求の法的根拠に関して民法に明文規定はなく、所有権などに基づく物権的請求権説、人格権説、環境権説及び不法行為に基づく請求権説などが考えられる。今日、最も有力なのが人格権説であり、多くの裁判例及び多数説は、この法的構成を取りながらも加害者被害者の種々の事情を考慮して加害行為の違法性の有無を判断する受忍限度論を採用する。差し止めは事業活動にとって大きな打撃となるのみでなく、社会的に有用な活動を停止させるおそれがあることから、差し止めの場合には損害賠償よりも高い違法性が要求されるとするものが少なくない。産廃処分場差し止めでは、人格権一般ではなく、いわばその支分権ともいえる権利が主張され、裁判所の認容するところとなっているのが注目される。平穏生活権がそのひとつであり、もうひとつは本件で展開された浄水享受権である。 以上 判例タイムズ1211号 27頁 飯塚和之教授の解説知事から許可された産業廃棄物処理施設の建設につき、有害物質の井戸水への混入により健康被害を被るおそれがあるとし、その建設の差止め請求が認容された事例鹿児島地裁 平成18年2月3日判決 判例時報1945号75頁千葉地裁 平成19年1月31日判決 判例時報1988号66頁
2006.09.02
福岡高裁平成17年6月14日判決競売に付された土地建物 競売開始後に占有を開始した者に対し根抵当権者が1200万円以上で売却できたのに最低売却価格が699万円になっても買い受け希望者が現れず、得べかりし配当金500万円を得られない損害が発生したとして500万円の賠償を求めて提訴第1審は 占有している者は正常なものと認められない権限により占有していると認定得べかりし配当金は配当段階で発生するとして、現段階では競売不動産が売却されていないので認められないただし 最低価格が999万円の段階で落札されたと認められるから、999万円に対する法定利率による損害金99万9000円が損害と認められるとした(落札されたと認められる時から口頭弁論終結の日までの2年分)本判決は、原告の損害については抵当権侵害による損害発生の事実を確定するためには競売の結果を待つ必要がないことを述べる大審院判例を引用し500万円の損害賠償を命じた判例タイムズ1213号 174頁
2006.09.01
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