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敷地の2重使用は、既にA建物の建築確認に当たって容積率、建蔽率等の算定の基礎とされた敷地の一部につき、後にB建物の敷地として確認申請がされるというものである。B建築物の敷地として確認申請がされた場合、A建築物は、B建築物の敷地部分を除外して算定した容積率、建ぺい率等の規制を満たしていない限り、違法状態となる。行政庁は違法になったA建築物について、建築基準法9条によって除去命令を出し、場合によっては代執行まですることができる。他方、B建築物の建築確認に当たり、敷地とされる土地が既存のA建築物の敷地の一部として既に建築確認されているかどうかは審査の対象とならないとされているが、最高裁(平成5年4月23日)は、このような場合において、行政指導等によって、建築確認されるのが相当程度遅延するであろうことは容易に推認しうると説示し、事実上建築確認を直ちには受けられない可能性があることを認めている。本件は建築会社Y1の担当者が顧客であるXに対し、融資を受けてx所有の土地に容積率上限に近い建物を建築した後、敷地として確認申請を受けた土地のうち、北側部分の土地を売却することにより、融資金の返済資金を調達する計画を提案し、これをY2銀行の担当者と共に説明し、Xは、本件計画に沿ってY2から融資を受けた本件建物を建築した。しかし、本件計画には、本件北側土地の売却により、その余の敷地部分のみでは本件建物が容積率の制限を超える違法な建築物となること、本件北側土地の買主がこれを敷地として新たに建物を建築する際には、敷地を2重使用することになって建築確認を直ちに受けられない可能性があった。このためXは、本件建物建築後、本件北側土地を予定どおり売却することができず、その返済資金を調達することができなくなった。Xは、本件計画は、敷地の2重使用の問題等により、実際には、返済のめどが立たないものであったのに、被告らが本件敷地問題について説明しなかったため、返済資金を捻出することができず、遅延損害金を始め8億7100万円余の損害を被ったなどと主張した。原審は、当時、本件北側土地が予定の価格で売れなかったとは認められないからYらには説明義務違反はないなどとしてXの請求を棄却した。最高裁平成18年6月12日判決は、説明義務違反があると判断し、原判決を破棄し、原審に差し戻した。 判例タイムズ1218号215頁 頭注
2006.12.28
Bは建売業者 Yに建築予定の本件建物につき建築確認申請に用いる設計図書の作成及び申請手続きの代行を委託大阪府では確認申請にあたり工事監理者を定め申請書に記載することを指導していたそこでBはYの代表者のAに、確認申請書にはAを工事監理者として記載するよう要請し、1級建築士であるAは、これを承諾して、記載した。建築確認がなされた後、YまたはAとBの間には工事監理契約は締結されず、Aは本件建物の建築工事につき工事監理に当たることもなく、Bに対して工事監理者の変更届出をさせる等の処置もとらず放置した。BはAが作成した設計図書を使用せず、かつ、実質上、工事監理者がいない状態で建築工事を実施した。そのため建築確認を受けた建築物の計画と異なる工事が施工され、本件建物は重大な瑕疵のある建物となった。本件建物と敷地を購入したXらはBに対し、本件建物に瑕疵があるとして売買契約を解除する意思表示をした。本件において、XらはYに対してAが建築士法18条1項に基づく義務を怠った等と主張して不法行為に基づく損害賠償を請求した。最高裁平成15年11月14日判決は、損害の1割の賠償を命じた原審に対する上告を棄却した。建築基準法上、一定の建築物の建築には、設計図どおりの建設がなされたか否かをチェックするため建築士による工事監理が必要とされているところ、建築士が工事管理契約をする意思も見込みもないのに、建築主からの求めにより、自己を工事監理者として建築確認申請を行うことを承諾するいわゆる「建築士の名義貸」は、従来より、欠陥住宅や違法建築を生み出す温床となっている指摘されていた。「名義貸」をしたが工事監理契約を締結しておらず、実際にも工事監理業務を行っていない建築士が、その後建物を購入した第三者に対し、私法上の注意義務を負うのかが問題となったのが本件である。 判例タイムズ1215号88頁 朝倉亮子判事補の解説
2006.12.27
原告はテレビ等にも出演したことのある有名なホストインターネットのホストクラブ等の情報交換を目的とする電子掲示板で「私、・・さんとやったでぇ~でも性病やった、そんなこと着にしてないけど」「・・さんは性病でした。・・うつされた~」との書き込みがなされた原告は掲示板を運営するAに対し、本件各書き込みにかかるIPアドレス及び発信日時についてAから情報開示を受けたところ、本件書き込みは携帯電話会社である被告のサーバコンピューターを通じて発信されていることが判明した。原告は被告に対し、発信者情報の開示を要求する通知書を送ったが、被告は約2か月後に原告に対し原告の要求がブロバイダ責任制限法4条1項の要件を充足していると判断することは困難であり、要求に応じられないと回答した。原告は被告に対し、訴訟によって発信者情報の開示を求めるとともに、被告が開示しなかったことにより精神的損害を被ったとして不法行為に基づき100万円の損害賠償を請求した。大阪地裁平成18年6月23日判決は、本件書き込みは原告の名誉を毀損するものであり権利侵害の明白性の要件を満たしているとして被告に対する情報開示請求を認めたが、損害賠償請求については、責任制限法4条4項の「故意がある場合」とは、ブロバイダが権利侵害の明白性などの要件を具備していることを認識しながら、開示請求者の請求に応じなかったため、開示請求者が精神的苦痛を被った場合をいい「重過失」とは、故意に近い注意欠如の状態をいうものと解すべきとした上で、本件における被告の対応から、被告の過失の有無はともかく、故意や重過失はないとして損害賠償の請求は認めなかった。名誉毀損の判断については最高裁昭和31年7月20日判決「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う」を引用している。 判例タイムズ 1222号207頁
2006.12.26
清算の結了した株式会社の利害関係人は、商法429条の規定に基づき、同条後段の保存者に対し同条前段所定の帳簿及び重要な資料の閲覧又は謄写を請求することはできない。最高裁 平成16年10月4日判決 利害関係人が清算結了会社の帳簿及び重要資料の閲覧または謄写を請求できるか否かについて、かつては必ずしも詳細に議論されていなかったが、本判決はこれを肯定した原判決を破棄して、これを否定したものである。本判決以前においては、明示的に閲覧請求は認められないとする見解は学説上見当たらなかった。本判決は、はじめて商法429条の解釈論としては、謄写閲覧請求権の存在を認めることは困難である旨明示した。商法は、株主などの閲覧謄写請求権が認められる場合には、書類、資料毎に、その要件効果を明確に規定しており、商法に明確に定めのない閲覧謄写請求権の存在を認めることは、文理解釈上困難があると思われる。商法36条 商法282条(会社法442条)293条の6(会社法433条)であり」、このような規定のない限り会社の帳簿・資料の閲覧謄写請求権を認めることはできない。 判例タイムズ1215号176頁 弁護士 山口和男氏の解説
2006.12.25
保険契約は、偶然な保険事故に左右される射倖契約であるが、保険契約者側に重要な個人情報が偏在するため、商法は、保険契約の締結やその内容に影響を及ぼすべき「重要なる事項」を予め保険者側に告知すべきものとし、これに違反したときは保険者が保険契約を解除することができるとしている(678条)そして「重要なる事項」とは、被保険者の生命に関する危険測定のために必要なものをいうと解されているところ、生命保険では、被保険者の年齢、職業、病歴などが保険事故発生確率に影響を及ぼすおそれのある事実として重要なる事項に当たるとされている。神戸地裁平成17年11月28日判決は、肝機能障害について要継続治療の事実の不告知が告知義務に違反するとして保険契約の解除を認めた。 判例タイムズ1222号246頁
2006.12.23
東京高裁平成18年7月19日判決抵当証券購入者である原告らが抵当不動産が被担保債権額(抵当証券発行額)よりはるかに低い価額しか有していないため債務者の破綻により損害を受けたが、その原因は抵当証券交付申請書に添付された担保十分性証書(抵当証券法施行細則21条の2)としての不動産鑑定書の鑑定評価額192億円が著しく過大であったことによるとして、鑑定をした不動産鑑定士に対して損害賠償を請求した事案の控訴審である。一審では二人の不動産鑑定士が被告となり、一審判決は二人に対する請求をいずれも一部認容した。被告のうち一人については控訴審で和解が成立したようであり、残る一人についての判決が本判決である。本判決は原判決を取り消して請求を全部棄却した。一審判決も本判決も、不動産鑑定士は、通常は鑑定の委託者(本件では抵当証券の発行者がこれに当たる)に対してだけ注意義務を負うものであって、一般的に第三者に対して注意義務を負うものではないが、抵当不動産発行のための担保十分性証書としての不動産鑑定においては委託者以外の抵当証券購入者に対しても注意義務を負うと判断した。本件においては抵当不動産の鑑定評価が原価法だけに依拠するものであることが問題となった。一審判決は本件鑑定においては供給者側の都合により算出された原価法による試算価格が需要者側をも納得させることができることの論拠が示されておらず、鑑定評価額が市場では通用しない(競売でも買主が出現しない)価格であることも不動産鑑定士に容易に判明したとして、注意義務違反を認めた。これに対して本判決は、当時の不動産鑑定評価基準や社団法人日本不動産鑑定協会の「抵当証券交付申請書添付鑑定評価書に係る不動産鑑定士の留意点について」の記載を重視し、原価法のみに依拠することもこれらの基準等の文言から外れるものではないとして、不動産鑑定士に裁量権の逸脱はないと判断している。この判断の相違の背景には、収益還元法による場合の価格が1審では5億円ないし10億円と判断したが、控訴審では平成10年度の売り上げ7億6000万円を前提に収益還元法を適用した場合の評価額を94億円という試算も可能として、原価法の192億円との間に原告の主張するほどの乖離がないと判断している点が注目される。上告されている。 判例時報1945号22頁 頭注
2006.12.22
江戸時代の浮世絵の模写作品4点のうち、2点について著作物性を認め、同作品を無断で掲載して使用した書籍の販売差止め等及び損害賠償が認容された事例東京地裁平成18年3月23日判決は、模写作品に二次的著作物性を認めるヨウケンとしては「絵画における模写とは、一般に原画に依拠し、原画における創作的表現を再現する行為、又は、再現したものを意味するものというべきである。従って、模写作品が単に原画に付与された創作的表現を再現しただけのものであり、新たな創作的表現が付与されたものと認められない場合には、原画の複製物であると解すべきである。これに対し、模写作品に原画製作者によって付与された創作的表現とは異なる模写製作者による新たな創作的表現が付与されている場合、すなわち、既存の著作物である原画に依拠し、かつ、その表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ、その具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たな思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原画の表現上の本質的特徴を直接感得することができると同時に新たに別な創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には、これは上記の意味の「模写」を超えるものであり、その模写作品は原画の2次的著作物として著作物性を有するものと解すべきと判示した。 判例時報 1946号101頁 頭注
2006.12.21
乙会社の情報処理システムの開発等の業務を受託していた甲会社の代表取締役が乙会社の取締役であったその地位を辞任する際に乙会社の代表取締役との間で作成した乙会社において甲会社の開発したシステムを言い値で買い取る旨の記載がある確約書に基づき、以後甲会社の所属する企業グループと乙会社との間で折衝が続けられたが、結局売買契約書が作成されるに至らなかった場合、売買契約の成立が認められなかった事例東京地裁平成17年2月23日判決 本判決は、本件確約書は、甲の代表取締役が乙の代表取締役の求めに応じてその所属する企業グループのシステムを甲が買い取る方向で処理し、その際、些細な値引き交渉を控えるとするとの個人的意思を表明した旨を記載した書面と認めるのが相当であり、本件確約書によって、法的拘束力のある合意が成立したと認めることはできないとした上、本件確約書が作成された後のシステム化会議において甲が本件システムを買い取る前提で協議が進行していった経緯は認められるが、同会議において売買代金について資料を示すなどして具体的に検討された形跡がなく、また、乙主張の本件売買契約は、一方当事者が東証1部上場会社である企業間の5億円の売買契約であって、このような売買契約が成立に至るぶが、当事者双方で契約内容の概要を確認した上、売買目的物及び売買代金額を確定するとともに、支払い期限、支払い方法、違約罰などの諸条件を交渉によって確定し、その上で会社の代表印を押捺した売買契約書を作成して成立させるのが通常であるところ、本件においては、双方の代表者の個人名義で署名され、サイン印があろ本件確約書があるもにであって、売買契約書は作成されていないうえ、乙の代表者がその後、甲に対し仮契約書を作成して持参するように申し入れるなどしているのも、甲がが本件売買契約の成立を一貫して容認していないことを示すとともに乙の代表者自身も売買契約書の作成をもって売買契約が締結されるとの認識であったことを窺わせるものであるとして、以上の事実を総合すれば、本件売買契約び成立を認めることはできないとした。売買契約がいわゆる「要式行為」でないことはいうまでもないが、多くの場合は、契約書が作成されるのが通常であるし、本判決が判示しているように乙主張の売買契約については仮にこれが成立しているとすれば、契約書が作成されているので当然といえるような事情が認められているのであって、前記した理由で本件売買契約の成立を否定した本判決の判断には特に異論はないのではないかと思われる。近時の裁判例で、契約書の作成に至らなかったことを理由として契約の成立が否定されている事案として、ビルの所謂「フロアー借り」の賃貸借契約につき東京地判平成18年7月7日判決金融商事1248・6がある。 判例時報1946号82頁 頭注
2006.12.20
スキー場の事故においては、定められたコースやゲレンデで多くのスキーヤー等が同時に滑走するため、スキーヤー同士の衝突事故が発生することが少なくないが、責任関係については、上方から滑走する裳のは、前方を注視し、下方を滑走している者の動向に注意して、その者との接触ないし衝突を回避できることができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものと解されている。(最高裁平成7年3月10日判決)神戸地裁平成17年8月16日判決 判例タイムズ1222号216頁は、鷲ヶ岳スキー場内において、パノラマコース第2ペアリフト付近をスキーで滑走中、その上方からスノーボードで滑走してきた被告に衝突され、頚髄損傷等の重症を負い、四肢麻痺、両上下肢機能障害等の重篤な障害が残った原告の損害に対し、5936万円余の賠償を命じた。
2006.12.19
本件は、避暑地として有名な「清里」があり多くの別荘がある山梨県の旧高根町(現北杜市)において、別荘の水道料金を別荘以外の水道料金に比して高額に定めた条例の効力が争われた事案旧高根町は昭和63年に高根町簡易水道事業給水条例を制定した当初から、同町の住民基本台帳に記録されていない別荘に係る給水契約者の基本料金を別荘以外の給水契約者の基本料金よりも高額に設定していたが平成10年4月1日本件条例の一部を改正する条例を施行して水道料金の増額改定を行い、その結果、水道メーターの口径が13ミリの場合を例にすると、別荘給水契約者については、1か月の基本料金が3000円から5000円に増額されたのに対し、別荘以外の給水契約者については基本料金が1300円から1400円の増額されたにとどまるなど、両者の基本料金に大きな核差を生じることとなった。別荘給水契約者である原告らは本件改正条例による改正後の本件条例の水道料金の定めは別荘給水契約者を不当に差別するものであると主張し、行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えとして上記水道料金の定めが無効であることの確認を求めるとともに、本件改正条例による改定後の基本料金と改正前の基本料金の差額分の水道料金の債務不存在確認等を求めて本訴を提起した。最高裁平成18年7月14日判決は1 上記水道料金の定めが無効であることの確認を求める原告らの訴えに対しては、改定条例は 水道料金を一般的に改定するものであって特定の者に対してのみ適用されるものではなく、 改正条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と同視することができないの で抗告訴訟の対象とならない2 普通地方公共団体の住民でないが、その区域内に事務所、家屋敷地等を有し、当該地方公共団 体に対し地方税を納付する義務を負う者など住民に準ずる地位にある者による公の施設の利 用について当該公の施設の性質やこれらの者と当該普通地方公共団体との結びつきの程度な どに照らし合理的な理由なく差別的取り扱いをすることは地方自治法244条3項に違反する。3 本件改正条例による水道料金の改定において、別荘給水契約者の基本料金は、当該給水に要 する個別原価に基づいて定められたものではなく、給水契約者の水道使用量に大きな格差が あるにもかかわらず別荘以外の給水契約者(ホテルなどの大規模施設に係る給水契約者を含 む)1件あたりの年間水道料金の平均額と別荘給水契約者の1件当たりの年間水道料金の負担 額がほぼ同一水準になるようにするとの考え方に基づいて定められたものであることなど判 示の事情の下では、本件改正条例のうち別荘給水契約者の基本料金を改定した部分は地方自 治法244条3項に違反するものとして無効である。 判例タイムズ1222号80頁 頭注
2006.12.18
国が土地所有者から寄付を受け、地方公共団体(越谷市)に無償貸し付け道路敷としていた土地について、所有権移転登記手続をしていなかったため前所有者名義のままであったことを奇貨として所有権移転登記を受けた者が、本件道路に屋台用2トントラックを置いたり杭を打つなどの様々な交通妨害行為を断続的に繰り返して越谷市の本件道路敷に対する占有を妨害しており、今後も越谷市の占有を妨害するおそれがあると主張して、妨害者に対し民法199条により占有の妨害の予防を求めた事案である。道路管理者である地方公共団体は、その管理する道路の交通を妨害する行為があった場合、道路法43条違反行為として、同法71条に基づき監督処分を行い、なお原状を回復することができないときには行政代執行法による代執行を行うことができる。本件においても被告らの交通妨害が発生した都度、行政代執行によって妨害を排除してきたようである。しかし、本件道路のように、たとえ短時間であっても交通が妨害されると通行者、通行車両等に重大な支障を及ぼす重要な道路について交通妨害行為が繰り返される場合には、これを予防する必要性が高いと考えられるところ、現実に交通妨害行為が発しした後でないと対処することができない上記手段によっては、いつ交通妨害行為に及ぶか予測できない者に対応するには限界があり、あらかじめ交通妨害行為をしないように求めること(妨害予防請求)が必要となる場合がある。最高裁平成18年2月21日判決 判例タイムズ1222号147頁は「地方公共団体が、道路を一般交通の用に供するために管理しており、その管理の内容、態様によれば、社会通念上、当該道路が当該地方公共団体の事実的支配に属するというべき客観的関係にあると認められる場合には、当該地方公共団体は、道路法上の道路管理権を有するか否かにかかわらず、当該道路を構成する敷地について占有権を有する」と判旨した。
2006.12.17
期日間整理手続における刑事訴訟法316条の15 1項8号該当書面の証拠開示請求に関する検察官の特別抗告が棄却された事例弁護人は、有印私文書偽造、同行使罪、詐欺被告事件の期日間整理手続(刑訴法316条の28.同条2項により公判前整理手続に関する規定が準用される)において、8号書面として、検察官作成の被告人の取調べ状況等報告書42通の開示を請求したが、検察官が、同報告書中の「被疑者等がその存在及び内容の開示を希望しない旨の意思を表明した被疑者供述調書等の有無及び通数」欄(以下不開示希望調書欄という)について、相当性の要件がないとして開示を拒んだため弁護人が刑訴法316条の26による証拠開示に関する裁定請求を行ったところ、大阪地裁は、検察官に対し、不開示希望調書欄の開示を命じ、検察官が即時抗告したが大阪高裁はこれを棄却した。検察官が大阪高裁平成18年6月26日決定を引用し刑訴法405条3号の判例違反を主張して特別抗告を行ったところ最高裁平成18年11月14日決定は、事案を異にする判例を引用したものであって適切でないとしてこれを棄却した。公判前整理手続及び期日間整理手続においては、まず、検察官が公判期日において証拠により証明する予定の事実を書面で明らかにするとともに、その証明に用いる証拠の取調べを請求しなければならず(刑訴法316条の13)その証拠については刑訴法316条の14の方法により開示しなければならない。そして検察官の主張立証の全体像が明らかになったところで被告人側がどのような主張立証をするかを決めることができるようにし、ひいては、十分な争点等の整理及び被告人の防御の準備が行われるようにするため、刑訴法316条の15は検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠の開示について定めた。同条1項は1号から8号で類型証拠を掲げ、その開示要件として1類型該当性2重要性(特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であること3相当性(重要性の程度その他被告人の防御の準備のために当該証拠を開示することの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し開示が相当と認められること)4被告人側からの開示請求 を定めている。取調べの書面による記録制度は平成13年6月12日に提出された司法制度改革審議会意見書において提言され、平成14年3月19日閣議決定された司法制度改革推進計画により被疑者の取調べの適正を確保するため、その取調べ過程・状況につき、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入することとし、平成15年半ばころまでに、所要の措置を講ずるとされたことにより導入されることとなった。これを受けて警察においては犯罪捜査規範182条の2が新設され、検察においては「取調べ状況の記録等に関する訓令」が発出されて、記録制度の内容が定められ、いずれも平成16年4月1日から施行されている。記録制度の設計にあたっては組織的な背景のある犯罪において供述者が報復や信用失墜を恐れて供述をちゅうちょするような結果を招かないようにする必要があるとして、被疑者又は被告人が、特定の供述調書の存在及び内容を、捜査機関以外の第三者に明らかにしないことを希望する場合には、その旨の書面を提出させるとともに、取調状況報告書面に不開示希望調書の有無及び通数を記載することとされた。8号書面は、このような経緯で作成されることとなった取調状況記録書面が類型証拠化されたものである。(刑訴法316条の15第1項8号にいう取調状況の記録に関する準則とは、上記の規範及び訓令を指すものである。本件は、弁護人が検察官が取り調べを請求している被告人の供述調書の証明力を判断するために必要であるとして、8号書面中、検察官が開示しなかった不開示希望調書欄の開示を求めたものであり、原決定は、開示の必要性について、取調べ状況等報告書は、不開示希望調書欄を含めて開示されなければ、作成された調書の通数その他取調べの外形的全体像を確認点検できないのであって、弁護人が特定の供述調書の信用性判断のために必要であると主張していれば、必要性の主張としては十分であり、検察官は、不開示を相当とする具体的な弊害を主張しなければならないのに、これをしていないとして開示を命じるのが相当とした。 判例タイムズ1222号102頁頭注類型証拠開示において、事情聴取結果を記載した捜査報告書が六号類型に該当しないとされた事例 大阪高裁決定18.10.6 東京高裁18.10.16 判例時報1945号166頁
2006.12.15
被相続人所有の土地上に相続人の建物を建築して所有している場合、当該土地の使用貸借が特別受益となりうるかについては、遺産分割の審判を担当する実務家において問題とされてきた。すなわち、民法903条1項は、特別受益の対象となる財産の範囲を1遺贈2婚姻、養子縁組のための贈与3生計の資本としての贈与と規定しているところ本件のように土地の使用貸借権の設定行為がされていることも多く、このような場合、これが上記3の生計の資本としての贈与がされたとして特別受益によるといえるかが争われるからである。これについては、同条の趣旨は、共同相続人の中に、特別に利益を得ている者がいる場合には、その者の2重の利益を防止し、相続人間の公平を図るというものであるから実質的に被相続人から利益を与えられ、その他の相続人に比して過大であるような場合にはこれを贈与として持ち戻しの対象とするのが相当である。東京地裁平成15年11月17日判決は、相続人が被相続人から土地の使用貸借権の設定を受けることが特別受益となるとしたが、その前提として1原告は亡父の経営する個人商店に勤務していたが亡父は経営が思わしくないために原告の生活を援助する目的で、本件土地を原告のアパート経営のために使用させていたこと2相続開始時における本件土地の使用借権は2000万円の価値があること3相続開始時における本件土地の新規賃料は月額33万8000円と高額であること4原告は本件土地の固定資産税の支払いをしており、亡父及び実母に対して給与の支払もしていたが、扶養料の支払いをしていなかったと認定判断していることに留意すべきである。すなわち、土地の使用貸借権の設定が特別受益になる否かについては、当該相続人と被相続人との扶養関係がいかなるものであったのか、当該土地の管理費用等の負担はどのようにされていたのか、被相続人が他の相続人に対してどのような援助をしていたのかなどの具体的事情を検討しなければ、当該使用貸借権の設定行為が生計の資本としての贈与と言えるかどうか判断できないからである。本判決判旨遺留分減殺請求権者が遺産である土地上の建物を所有し、当該土地を無償で使用している事例において1当該土地の使用貸借権は特別受益となりうる2その場合の価格については、土地の更地価格の15パーセントとするのが相当である3しかし、使用期間中の賃料相当額については、使用貸借権の価格の中に織り込まれており、使用貸借権のほかに更に使用料相当額を特別受益とすることはできない。 判例タイムズ1215号140頁 秋武憲一判事の解説相続人の一部が共同相続財産を単独で占有使用する場合の法律関係について 判例タイムズ1236号 58頁
2006.12.14
札幌地裁平成17年3月7日 懲戒処分無効確認等請求事件本件はYの職員であるXらにおいて、Yのなした降任処分(課長から係長へ)および減給処分の無効確認を求めた事案であるX1に対する懲戒処分の対象となったのは1課員が就業時間内に私的なメール交信を行っていることを知りながら上司に報告せず課員に注意しなかったこと2自らも課員と私的なメール交信を行ったことであり、X2に対する懲戒処分の対象となった行為は1パソコンに許可なくヤフーのメッセンジャーをインストールし、他の職員にこれを利用した会話に参加するように勧誘したこと2チャットを利用して勤務時間中に外部の者と私的連絡や会話を行ったこと3パソコンを使用して就業期間中に職員間で私的なメール交信を行ったことである。就業規則にはYの備品の私的利用の禁止が規定されている判決は物品の私的使用に違反することは明らかであるとした上で懲戒権の濫用にあたるか否かについて検討し、私的メールの交信の頻度が多いといえないこと、Y事務局では業務用パソコンの取扱規則等の定めがない上、各職員のパソコンの私的利用に対して注意や警告がなかったこと、交信記録の調査方法の公平性に疑問があることなどに加え、減給処分が労働基準法91条の「減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」との規定に違反していることに鑑みてXらに対する減給処分は社会通念上重すぎて相当性を欠き、懲戒権の濫用として無効であると判示しXらの減給3か月賃金控除分の支払い請求及びX1の処分前の課長手当てと処分後の係長手当の差額分の支払請求は認容したが、各処分の無効確認、課長の地位にあることの確認請求は、いずれも訴の利益がないとして棄却し、慰謝料請求を棄却した。 判例タイムズ1221号271頁 頭注
2006.12.13
生命保険契約に関し、保険会社は、保険契約者が所定の書類を提出した日から5日以内に保険金を支払う、ただし、調査が必要なときは、5日を過ぎることがある旨の約款の条項は、5日の経過により保険金支払の履行期が到来することを定めたものと解すべきであり、保険会社は、この期間内に必要な調査を終えることができなかったとしても、この期間経過後は保険金の支払について遅滞の責めを免れない。 福岡高裁平成16年7月13日判決 確定 判例タイムズ1166号216頁保険会社としては生命保険金の支払いに先立ち免責ジユウの有無等の調査が必要であることを認め約款の本文において規定する猶予期間が5日と短いことに配慮しつつも、ただし書きの文言が抽象的で「必要な調査」の内容やそのために必要な期間が明らかとならず、その必要性ナドの判断権を専ら保険会社に与えることになれば、保険契約者等はいたずらに保険金支払が延伸する危険を負うことになりかねないとの利益衡量をした。その上で、規定の構造において類似する火災保険契約の約款の解釈に関する最高裁判決(平成9年3月25日判決)の趣旨は、生命保険契約の約款にも同様に妥当するとの判断を示したものである。 判例タイムス1215号160頁 斉藤聡判事の解説
2006.12.12
東京地裁平成16年3月24日判決ホームページ上に掲載されたニュース記事の見出しについて、その性質上、表現の選択の幅が広いとは言えず事実を短縮するか短い修飾語を加えたに過ぎないとして著作物性を否定した事例ホームペイジ上に掲載されたニュース記事の見出しがホームページ上において無償で公開されており、かつ、著作物に当たらない場合には、他人がこれを利用する行為は、不正な図利行為目的又は加害目的がある場合など特段の事情がない限り、違法性を欠き不法行為を構成しないとした事例著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)ニュースの見出しは客観的事実についての文章であることから思想または感情を表現したといえるかが問題となる。また、文章が短く、表現上の工夫の余地が少ないことから「創作的に表現したもの」といえるかが問題となる。本判決は短い文章の著作権性については「著者の事実に対する評価、意見等」を創作的に表現したものであれば足りると判示した。表現の創作性については「著者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって、厳密な意味で、独創性が発揮されたものであることまでは必要ない」としつつ「ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合」や「表現が平凡かつありふれたものである場合」には、筆者の個性が現れておらず創作的な表現であるとはいえないとの判断基準を示した。その上で本件見出しは思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」著作権法10条2項にあたるとした。(同条項は、同法2条1項1号の著作物から排除されるものを確認的に規定したものである) 判例タイムズ1215号194頁
2006.12.11
釈明権とは、当事者の申立、主張、立証に不明瞭、矛盾、不正確、不十分な点があるとき、訴訟関係を明瞭にするため、事実上、法律上の事項について質問等する裁判所の権能ないし義務である。(民事訴訟法149条)申立、主張及び証拠の申し出は当事者主義、処分権主義及び弁論主義の建前からすると、本来は当事者の判断と責任で行われるべきものであって、裁判所としては当事者のした申立、主張のみに基づいて請求の当否を判断すれば足り、その他を考慮する必要はないことになる。しかし、他方、裁判は、具体的正義の実現として、紛争解決のため適正、迅速な結論を与えることを目的とすることから、裁判所には、当事者の後見的作用を営むため、釈明権が与えられており、更には、一定の場合は釈明義務が課され、その行使を怠った場合は違法であるとの見解が一般的である。問題はどのような場合、裁判所に釈明義務が認められるかである。釈明については、種々の観点から分類がされているが、「消極的釈明」と「積極的釈明」に分類する見解が多い。「消極的釈明」とは当事者の申立、主張に不明瞭、矛盾、欠けつ、不用意がある場合における補充的釈明をいい、「積極的釈明」とは当事者のなした申立、主張などが事案について不当または不適当である場合、あるいは、当事者が適当な申立、主張をしない場合に、裁判所が積極的にそれを示唆、指摘してさせる、是正的釈明をいう。学説上、裁判所がどのような釈明を怠った場合に義務違反となり、原審の破棄事由となるかについては民事訴訟観とも関連して争いがあるが有力な見解は、消極的釈明を怠り判決がなされた場合には原判決破棄の事由となるが、積極的釈明の懈怠は一律に上告理由となるのではなく、慎重な考慮を必要とするとしたうえで、考慮されるべき要素としては1判決における勝敗転換の蓋然性2法は裁判所が知るところだから申立や主張等の法的構成の不備を全面的に当事者責任に服せ しめることは妥当でないとの考慮3釈明権の行使をまたずに適切な申立・主張等をすることを当事者に期待できる場合かどうか4その事項を釈明させることが当事者間の公平を著しく害するか否か5その他、例えば、積極的釈明によってより根本的な紛争解決を招来し、再訴を防止することが できるといった事情 釈明させることによって訴訟の完結を著しく遅滞せしめることになる場 合か否か を挙げる。最高裁平成17年7月14日判決は抗弁の補正とその立証について原審に釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例である。 判例タイムズ1215号 212頁 水野貞子判事の解説民事控訴事件の実務上の留意点 判例タイムズ1270号17頁
2006.12.09
訴外Aは自宅で一人暮らしをしており喫茶店を経営していたが、平成15年7月1日自宅の浴室で死亡しているところを発見された。監査医の死体検案では溺水による不慮の外来死とされたためAの遺族であるXらは団体保険契約を締結していたY保険会社に対しAの死亡は急激かつ偶然な外来の事故によるものであるとして1102万円の死亡保険金の支払いを求めた。これに対しYはAが71歳の高齢であることと、心不全、胸水、気管支喘息等の疾患を有していたことからするとAが浴槽内で心不全発作を起こして死亡したか、入浴中に心不全発作を起こして溺死したものであって、死亡の外来の要件を欠くなどとして争った。一審の神戸地裁、控訴審の本判決ともに外来の事故と認定してXらの請求を認容した。保険会社が医師2名の意見書を出して事故死を争ったが認められなかった。本判決は、外来の事故については1 事故の外来性を要求するのは疾病等を除外する趣旨であるから、保険金請求権者は、直接の 死因が被保険者の身体の外部にあるものであることを立証すれば、その間接的な原因につい ては、身体の内部に原因するものでないことまで明らかにする必要はなく、身体の内部に原 因するものであることが明らかであるとはいえないことを立証すれば足りる2 Aの溺死はその間接の原因がその身体の内部に原因する疾患等であることが明らかであるとは いえないから外来の事故による死亡に該当すると認められる。と判断した。 大阪高裁 平成17年12月1日判決 判例時報1944号154頁
2006.12.08
最高裁平成18年8月30日決定刑法244条1項は、刑の必要的免除を定めるものであって、免除を受ける者の範囲は明確に定める必要があることなどからして、内縁の配偶者に適用又は類推適用されることはないと解するのが相当である。刑を免除する根拠は人的処罰阻却事由であるとするのが通説であり、この説に立つと立法者が政策的考慮から免除対象者を抽出し限定したものということになるため立法当時の配偶者概念をその後に変えたり安易に法解釈でその趣旨を他の者に拡張することには慎重であるべきであるとの考えが導きだされる。 判例時報1944号169頁 頭注
2006.12.07
手摺上に取り外し自在に載置れた広告物または印刷物がカバーを通してみられるように実質的にそれを覆う透明なカバーを有する動く手摺と名称する特許権を有する香港法人の日本における総代理店が被告であり、原告は被告と競争関係にありハンドレール用広告フイルムを輸入販売し設置する業務を行っているものである。被告は原告製品の販売促進を担当するA社に対し原告製品及びその適用の仕方が本件特許権に包含されるさまざまな請求項と一致する可能性があり、その違反になる旨の文書を送付した。原告は香港法人に対し、原告製品は本件特許権を侵害するものではない旨を詳細に説明した上で、以後同様の書面を原告の顧客らに対して送付しないよう、また送付した場合は事前の通知なく法的措置を講ずる旨警告したがが、香港法人及び被告はA社に対し同様の文書を送付し再度の原告からの警告を無視して原告の顧客であるB社にも同様の文書を送付した。本件は原告が原告の行為は本件特許権を侵害しないと主張して被告に対し、被告が本件特許権の専用実施権又は通常実施権に基づく差止請求権、損害賠償請求権のいずれも有しないことの確認を求めるとともに、被告及び香港法人原告の得意先に対し右各文書を送付した行為が不正競争防止法2条1項14号所定の虚偽の事実の告知又は流布する行為であり両者の共同不法行為に当たると主張して同法3条に基づく告知又は流布の差止め、同法4条に基づく損害賠償及び同法7条に基づく謝罪広告を求めた事案である。東京地裁平成17年12月13日判決は、これを認めたものである。損害賠償は2億2000万の請求に対し3000万円を認め、朝日.読売.毎日.日経.産経の各新聞に謝罪広告の掲載を命じた控訴されている 判例時報1944号140頁 頭注 判例タイムズ1226号318頁
2006.12.06
錯誤によって意思表示が無効とされるためには、法律行為の要素に錯誤があることが必要である。判例は要素の錯誤とは表意者が意思表示の内容の主要な部分とし、この点について錯誤がなかったら、表意者は意思表示をしなかったであろうし、かつ、意思表示しないことが一般取引の通念に照らし至当と認められるものとされており、錯誤が一定程度重要であることを必要とすると解されているところ、売買の目的物の価値・価格についての錯誤は要素の錯誤といえるのか、要素の錯誤といえる場合などの様な場合かが問題となる。最高裁平成16年7月8日判決は、株式会社の代表取締役らが当該会社の全株式を売却したことにつき詐欺により取消し又は錯誤による無効が認められないとして原審の判断につき、売却相手に対する上記代表取締役らの支配関係又は上記株式の実質的価値に関し、錯誤に陥ったことは直ちに否定できないとして、審理不尽の違法があるとして破棄差し戻しした。本判決は売買の代金額の相当性の錯誤に関し、容易に現金化が可能な約10億円の純資産を有する会社であることを知りながら全株式を2億円で売却することにつき、それが不自然でないといえるような特段の事情が存在しないとして「本件各売買契約の要素たる売買対象物の価値について錯誤があったことを伺わせるものである」と判示しており、売買代金額の相当性の錯誤が要素の錯誤に該当し売買契約が無効になることがあり得るとして判例として重要な意義を有するといえよう。 判例タイムズ1215号18頁 蛭川明彦 判事の解説
2006.12.05
性同一性障害者の性別の取り扱いに関する法律東京高裁平成17年5月17日決定性同一性障害者の性別の取り扱いに関する法律3条1項1号から5号までに定められた各要件は、いずれも合理的根拠があるというべきであって憲法13条・14条に違反しない。1号 20歳以上であること2号 現に婚姻をしていないこと3号 現に子がいないこと4号 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること (後に、子が生まれると混乱が起きる)5号 その身体について他の性別にかかる身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること(公衆浴場などで混乱を招く)性別の取り扱いの変更を求める申立は徐々に増えつつあり、各事例の内容は様々で却下される事例もあるとのことである。本件は5要件を満たす性同一性障害者とこれを満たさない性同一性障害者との間に区別が生じることになるとして憲法違反を主張した。上記決定は、5要件はいずれも十分な合理的根拠があるというべきであって、5要件を満たさない性同一性障害者の利益が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白とはいえず憲法に違反しないとした。 判例タイムズ1215号 118頁 種村好子判示の解説
2006.12.04
最高裁平成16年10月14日判決民法904条4号ただし書前段は、憲法14条1項に違反しない。(非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする規定)1 最高裁平成7年7月5日決定 2 最高裁平成12年1月27日判決 3 最高裁平成15年 3月28日判決 4 最高裁平成15年3月31日判決といずれも最高裁判決は合憲の判断をしたが、3,4の判決に付された反対意見、補足意見はいずれも1の大法廷決定後の「社会情勢の変化を挙げている。4判決の島田裁判官の補足意見と深澤裁判官の反対意見においてこれが強調されている。島田裁判官は大法廷決定の多数意見が法定相続分の区別を正当化する根拠として我国の伝統、社会事情及び国民感情のうち、社会情勢及び国民感情は、大法廷決定後7年間で既に失われたという。深澤裁判官は、人口統計表に基づき、非嫡出子出生数の増加傾向を含む家族関係の変化を指摘している。その2は、法制度のあり方についての見方の変化である。法制審議会が平成8年2月26日に民法900条4項を改正する答申をしたこと(その後法案は国会に提出されることなく現在に至っている。同時に答申された夫婦別姓の問題は、その後も法改正に向けられて議論が継続されているが、嫡出子と非嫡出子の相続分差別の解消問題については、その後これを推進しようとする政治的動きは特に見られない)及び国際連合の人権委員会が平成10年11月に我国に対し、民法900条4号を含む法律の改正のために必要な措置をとるように勧告したことである。これらの点は、3判決の梶尾・滝井両裁判官の反対意見と4判決の島田裁判官の補足意見、深澤裁判官の反対意見で言及されている。学説においては、かつては合憲説が通説であったが、現在は違憲説が多数説である。立法の動向は前記法制審議会民法部会において決定された「民法の一部を改正する法律案要綱」を決定し、法務大臣に答申したが、法案の国会提出は見送られたままである。 判例タイムズ1215号134頁 村重慶一弁護士の解説
2006.12.03
周知のとおり、最高裁昭和59年4月27日判決は、被相続人に相続財産が全く存在しないと信ずるにつき相当な理由があると認められるときは民法915条の熟慮期間は相続財産の全部又は一部の存在の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から進行すると解したが、この法理によって例外的に熟慮期間の起算点を繰り下げることができるのは、相続人が被相続人に相続財産が全くないと信じた場合に限るのか(限定説)一部相続財産の存在は知っていたが、通常人がその存在を知っていれば当然相続放棄をしたであろうような債務が存在しないと信じた場合も含むのか(非限定説)判例学説は拮抗している。限定説の根拠の核心は、相続の確定が相続人の主観的事情によって左右されると法的安定性を害し、なるべく早期に相続による権利関係を確定させようとする法の趣旨に反すると主張する。これに対し非限定説の根拠の核心は、多額の保証債務など消極財産の存在は相続人には判明しにくいことに加え被相続人に対する債務の履行を相続人から得るという債権者の期待は保護する必要がない点を指摘する。限定説は相続債権者の利益等取引の安全と安定(動的安定)を重視するのに対し、非限定説は狡猾な金銭債権者にはめられかねない相続人の利益(静的安全)を重視する。ところで、相続放棄の伸述が却下されると、もはや相続人は相続債務の負担義務から解放される道は自己破産・個人再生以外にはありえないこととなるが、申述が受理されても、受理審判に既判力はなく後の訴訟で受理の効力を争うことは可能であり、債権者は後訴で受理審判の無効を主張して債権の回収をはかることが可能である。そこで、債務超過を理由とする相続放棄の申述の申立の場合には、他の要件に欠けるところがなければ、原則として却下の余地はないとする原則受理説が登場する。(仙台高裁平成8年12月4日決定)福岡高裁平成16年3月16日決定は、相続放棄申述を却下した原審判を非限定説に従って取り消し、相続放棄申述を認めたものである。 判例タイムズ1215号144頁 梶村太市教授の解説
2006.12.02
旭ダイヤ街宣活動差止等請求事件東京地裁平成16年11月29日判決解雇された元従業員及び労働組合による代表取締役の自宅近辺や会社の本社前等における街頭宣伝活動等について、代表取締役や会社の名誉・信用を毀損し、代表取締役の住居の平穏や会社の平穏に営業活動を営む権利を侵害するものであるとして、その差止請求が認容された。判例学説名誉信用を被保全権利とする差止請求名誉毀損の成立について最高裁昭和41年6月23日判決は、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたとき、又は、その事実が真実であることが証明されなくとも、その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由があるときには、名誉毀損は成立しないとしていた。そして最高裁昭和61年6月11日判決は、名誉侵害の被害者は人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差し止めを求めることができる旨判示し、最高裁平成14年9月24日判決 判例時報1802号60頁もこれを踏襲している。したがって、上記最高裁昭和41年判決の基準に照らし名誉毀損が成立する場合において、当該行為が今後も行われる蓋然性が認められるときは、被害者は、人格権としての名誉権に基づき、その行為の差し止めを請求することができ、この理は信用毀損についても同様に当てはまると解される。住居の平穏を被保全権利とする差止請求判例は騒音等による生活妨害の差止請求において、人格権がその法的根拠になりうることを認めていると解され(平成5年最高裁判例解説上307頁 同7年下737頁)ここにいう人格権の内容は「住居の平穏」と表現することが可能である。大阪地裁平成7年1月26日判決は労使関係の紛争は本来的に職場領域に属するものであるから、労働組合活動が法人経営者側の私生活の領域において行われる場合には、その活動は労働組合活動であることをもって正当化されるものではなく、それが表現の自由の行使として相当性の範囲内にある限りにおいて人格権(名誉・信用、平穏な生活、プライバシー)に基づき、企業経営者の自宅近辺における街宣活動等の差止請求を認容した。営業権を被保全権利とする差止請求営業権という概念は、実定法上明文の規定を有するものではないため、その意義・内容・根拠・性質・要件・効果が不明確であるという法理論上の問題はあるが、他方、街宣活動等からの会社の救済を事後の損害賠償請求のみに委ねるのでは不十分ではないかという疑問があり営業権に基づく妨害排除請求権等を認めるべき現実的必要性は否定しえない。そのためには、営業権の権利内容等がどの低と明確化される必要があるか等を検討する必要がある。営業権概念を認めた裁判例としては、東京地裁平成15年6月9日判決(営業権、名誉・信用)があり、同判決は、営業権を「事業の主体として、他人に業務を妨害されることなく事業を営む権利」と定義している。 判例タイムズ1215号 314頁 中園浩一郎判事の解説
2006.12.01
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